(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
以下の実施形態では、気体燃料である燃料ガスを主に燃焼させるガス運転モードと、液体燃料である燃料油を燃焼させるディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行することができる、所謂デュアルフューエル型のエンジンについて説明する。また、1周期が2サイクル(2ストローク)であって、シリンダ内部をガスが一方向に流れるユニフロー掃気式である場合について説明する。しかし、本発明が適用されるエンジンの種類は、デュアルフューエル型、2サイクル型、ユニフロー掃気式に限られず、クロスヘッド型のエンジンであればよい。
【0018】
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100(クロスヘッド型エンジン)の全体構成を示す図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。具体的に、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、クロスヘッド114と、連結棒116と、クランクシャフト118と、排気ポート120と、排気弁122と、掃気ポート124と、掃気溜126と、冷却器128と、掃気室130と、燃焼室132とを含んで構成される。
【0019】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、ピストン112の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われて、ピストン112がシリンダ110内を往復移動する。ピストン112には、ピストンロッド112aの一端が固定されている。また、ピストンロッド112aの他端には、クロスヘッド114におけるクロスヘッドピン114aが連結されており、クロスヘッド114は、ピストン112とともに往復移動する。クロスヘッド114はクロスヘッドシュー114bによって、ピストン112のストローク方向に垂直な方向(
図1中、左右方向)の移動が規制されている。
【0020】
クロスヘッドピン114aは、連結棒116の一端に設けられた孔に挿通されており、連結棒116の一端を支持している。また、連結棒116の他端は、クランクシャフト118に連結され、連結棒116に対してクランクシャフト118が回転する構造となっている。その結果、ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド114が往復移動すると、その往復移動に連動して、クランクシャフト118が回転する。
【0021】
排気ポート120は、ピストン112の上死点より上方のシリンダヘッド110aに設けられた開口部であり、シリンダ110内で生じた燃焼後の排気ガスを排気するために開閉される。排気弁122は、不図示の排気弁駆動装置によって所定のタイミングで上下に摺動され、排気ポート120を開閉する。このようにして排気ポート120を介して排気された排気ガスは、排気管120aを介して過給機Cのタービン側に供給された後、外部に排気される。
【0022】
掃気ポート124は、シリンダ110の下端側の内周面(シリンダライナ110bの内周面)から外周面まで貫通する孔であり、シリンダ110の全周囲に亘って、複数設けられている。そして、掃気ポート124から、ピストン112の摺動動作に応じてシリンダ110内に活性ガスが吸入される。かかる活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。
【0023】
掃気溜126には、過給機Cのコンプレッサによって加圧された活性ガス(例えば空気)が封入されており、冷却器128によって活性ガスが冷却されている。冷却された活性ガスはシリンダジャケット110c内に形成された掃気室130に圧入される。そして、掃気室130とシリンダ110内の差圧によって掃気ポート124からシリンダ110内に活性ガスが吸入される。
【0024】
また、シリンダヘッド110aには、不図示のパイロット噴射弁が設けられる。ガス運転モードにおいては、エンジンサイクルにおける所望の時点で適量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。かかる燃料油は、シリンダヘッド110aと、シリンダライナ110bと、ピストン112とに囲まれた燃焼室132の熱で気化して燃料ガスとなるとともに自然着火し、僅かな時間で燃焼して、燃焼室132の温度を極めて高くする。その結果、シリンダ110に流入した燃料ガスを、所望のタイミングで確実に燃焼することができる。ピストン112は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0025】
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成される。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものを適用することもできる。
【0026】
一方、ディーゼル運転モードにおいては、ガス運転モードにおける燃料油の噴射量よりも多量の燃料油がパイロット噴射弁から噴射される。ピストン112は、燃料ガスではなく、燃料油の燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0027】
このように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、ガス運転モードとディーゼル運転モードのいずれかの運転モードを選択的に実行する。そして、それぞれの選択モードに応じてピストン112の圧縮比を可変とするため、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100には、可変機構が設けられている。以下、可変機構について詳述する。
【0028】
図2AおよびBは、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aとの連結部分を説明するための図であり、
図2Aには、
図1の一点鎖線で囲まれた部分の拡大図を示し、
図2Bには、
図2AのII(b)―II(b)線に沿った断面を示す。
【0029】
図2AおよびBに示すように、クロスヘッドピン114aには、ピストンロッド112aの他端が挿入される。具体的に、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの軸方向(
図2B中、左右方向)に垂直に延びる連結穴160が形成されている。この連結穴160は油圧室となっており、この油圧室に、ピストンロッド112aの他端(端部)が挿入(進入)されている。このように、連結穴160にピストンロッド112aの他端が挿入されることで、クロスヘッドピン114aと、ピストンロッド112aが連結される。
【0030】
より詳細には、ピストンロッド112aには、ピストンロッド112aの外径が一端側よりも大きい大径部162aと、大径部162aよりも他端側に位置し、大径部162aよりも外径が小さい小径部162bが形成されている。
【0031】
そして、連結穴160は、ピストン112側に位置する大径穴部164aと、大径穴部164aに対して連結棒116側に、大径穴部164aと連続して形成され、大径穴部164aよりも内径が小さい小径穴部164bとを有している。
【0032】
ピストンロッド112aの小径部162bは、連結穴160の小径穴部164bに挿入可能であって、ピストンロッド112aの大径部162aは、連結穴160の大径穴部164aに挿入可能な寸法となっている。小径穴部164bの内周面には、Oリングで構成される第1シール部材O
1が配される。
【0033】
ピストンロッド112aの大径部162aよりピストンロッド112aの一端側には、連結穴160よりも外径が大きい固定蓋166が固定されている。固定蓋166は、環状部材であって、ピストンロッド112aがピストンロッド112aの一端側から挿通されている。ピストンロッド112aが挿通される固定蓋166の内周面には、Oリングで構成される第2シール部材O
2が配される。
【0034】
クロスヘッドピン114aの、ピストン112側を向く外周面には、クロスヘッドピン114aの径方向に窪んだ窪み114cが形成されており、この窪み114cに固定蓋166が当接する。
【0035】
また、クロスヘッドピン114aの内部のうち、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aとの連結部分には、第1油圧室168a(油圧室)および第2油圧室168bが形成されている。
【0036】
第1油圧室168aは、大径部162aと小径部162bの外径差による段差面と、大径穴部164aの内周面と、大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面によって囲まれた空間である。
【0037】
第2油圧室168bは、大径部162aのうち、ピストンロッド112aの一端側の端面と、大径穴部164aの内周面と、固定蓋166によって囲まれた空間である。つまり、ピストンロッド112aの大径部162aによって、大径穴部164aが、ピストンロッド112aの一端側と他端側とに区画される。そして、ピストンロッド112aの大径部162aよりも他端側に区画された大径穴部164aによって第1油圧室168aが形成され、ピストンロッド112aの大径部162aよりも一端側に区画された大径穴部164aによって第2油圧室168bが形成されている。
【0038】
第1油圧室168aには、供給油路170aおよび排油路170bが連通している。供給油路170aは、一端が大径穴部164aの内周面(大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面)に開口し、他端が後述するプランジャポンプに連通している。排油路170bは、一端が大径穴部164aと小径穴部164bの内径差による段差面に開口し、他端が後述するスピル弁に連通している。
【0039】
第2油圧室168bには、固定蓋166の内壁面に開口する補助油路170cが連通している。補助油路170cは、固定蓋166とクロスヘッドピン114aとの当接部分を介してクロスヘッドピン114aの内部を通り、油圧ポンプに連通している。
【0040】
図3AおよびBは、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置の変化を説明するための図であり、
図3Aでは、ピストンロッド112aが連結穴160に浅く進入した状態を示し、
図3Bでは、ピストンロッド112aが連結穴160に深く進入した状態を示す。
【0041】
第1油圧室168aは、ピストン112のストローク方向の長さが可変となっており、第1油圧室168aに非圧縮性の作動油を供給した状態で第1油圧室168aを密閉すると、作動油が非圧縮性であることから、
図3Aの状態を維持可能となっている。
【0042】
そして、スピル弁が開口すると、ピストン112の往復移動によるピストンロッド112aおよびクロスヘッドピン114aからの圧縮荷重によって、作動油が第1油圧室168aから排油路170bを通ってスピル弁側に排出される。その結果、
図3Bに示すように、第1油圧室168aのピストン112のストローク方向の長さが短くなる。一方、第2油圧室168bは、ピストン112のストローク方向の長さが長くなる。
【0043】
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bのピストン112のストローク方向の長さが変更された分、ピストンロッド112aがクロスヘッドピン114aの連結穴160(油圧室)に進入する進入位置(進入深さ)が変化する。このように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を変化させることで、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変としている。
【0044】
ところで、
図3Bに示す状態でピストン112が上死点に到達したとき、クロスヘッドピン114aの、ピストン112のストローク方向の位置は、連結棒116によって固定されている。一方、ピストンロッド112aは、クロスヘッドピン114aに連結されているものの、第2油圧室168bの分だけ、そのストローク方向に遊びが生じている。
【0045】
そのため、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の回転数によってはピストンロッド112aの慣性力が大きくなり、ピストンロッド112aがピストン112側に移動しすぎてしまう可能性がある。このように上死点位置のずれが生じないように、第2油圧室168bには、補助油路170cを介して油圧ポンプからの油圧を作用させ、ストローク方向に沿ったピストンロッド112aの移動を抑えている。
【0046】
また、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、比較的低速の回転数で用いられるため、ピストンロッド112aの慣性力が小さい。したがって、第2油圧室168bに供給する油圧が低くても、上死点位置のずれを抑えることができる。
【0047】
また、ピストンロッド112aには、ピストンロッド112a(大径部162a)の外周面から径方向内側に向かう流路穴172が設けられている。また、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの外周面側から連結穴160(大径穴部164a)まで貫通する貫通孔174が設けられている。貫通孔174は、油圧ポンプと連通している。
【0048】
また、流路穴172と貫通孔174は、ピストンロッド112aの径方向にて対向しており、流路穴172と貫通孔174が連通している。流路穴172の外周面側の端部は、流路穴172の他の部位よりも、ピストン112のストローク方向(
図3AおよびB中、上下方向)の流路幅が広く形成されており、
図3AおよびBに示すように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が変わっても、流路穴172と貫通孔174の連通状態が維持される。
【0049】
ピストンロッド112a(大径部162a)の外周面には、流路穴172の外周面側の端部をピストンロッド112aの軸方向に挟むように、Oリングで構成される第3シール部材O
3、第4シール部材O
4が配される。
【0050】
大径部162aは、流路穴172の分だけ、大径穴部164aの内周面に対向する面積が小さくなり、大径穴部164aに対して傾き易くなる。これに対し、小径部162bが小径穴部164bにガイドされることで、ピストンロッド112aのストローク方向に対する傾きが抑えられている。
【0051】
そして、ピストンロッド112aの内部には、ピストン112のストローク方向に延び、ピストン112およびピストンロッド112aを冷却する冷却油が流通する冷却油路176が形成されている。冷却油路176は、その内部に配された、ピストン112のストローク方向に延びる冷却管178によってピストンロッド112aの径方向外側の往路176aと内側の復路176bに分けられている。流路穴172は、冷却油路176のうちの往路176aに開口している。
【0052】
油圧ポンプから供給された冷却油は、貫通孔174、流路穴172を介して冷却油路176の往路176aに流入する。往路176aと復路176bは、ピストン112の内部で連通しており、往路176aを流れた冷却油は、ピストン112の内壁に到達すると復路176bを通って、小径部162b側に戻る。冷却油路176の内壁およびピストン112の内壁に冷却油が接触することで、ピストン112が冷却される。
【0053】
また、クロスヘッドピン114aには、クロスヘッドピン114aの軸方向に延びる出口孔180が形成されており、小径穴部164bは、出口孔180に連通している。ピストン112を冷却した後に、冷却油路176から小径穴部164bに流入した冷却油は、出口孔180を通って、クロスヘッドピン114a外に排出され、タンクに還流する。
【0054】
第1油圧室168aおよび第2油圧室168bに供給される作動油と、冷却油路176に供給される冷却油は、いずれも同じタンクに還流して同じ油圧ポンプで昇圧される。そのため、油圧を作用させる作動油の供給と、冷却用の冷却油の供給を、1つの油圧ポンプで遂行でき、コストを低減することが可能となる。
【0055】
ピストン112の圧縮比を可変とする可変機構には、上記の第1油圧室168aに加えて、第1油圧室168aの油圧を調整する油圧調整機構を含んで構成される。続いて、油圧調整機構について詳述する。
【0056】
図4は、プランジャポンプ182およびスピル弁184の配置を説明するための図であり、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100のうち、クロスヘッド114近傍の外観および部分断面を示す。プランジャポンプ182およびスピル弁184は、それぞれ、
図4にクロスハッチングで示すクロスヘッドピン114aに固定されている。
【0057】
プランジャポンプ182およびスピル弁184それぞれの下方には、クロスヘッド114の往復移動をガイドする2つのガイド板186aに両端が固定され、両ガイド板186aを支持する機関架橋186bが配されている。機関架橋186bには、第1カム板188および第2カム板190が載置されており、第1カム板188および第2カム板190は、それぞれ、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194によって、機関架橋186b上を
図4中、左右の向きに移動可能となっている。
【0058】
プランジャポンプ182およびスピル弁184は、ピストン112のストローク方向にクロスヘッドピン114aと一体に往復移動する。一方、第1カム板188および第2カム板190は、機関架橋186b上にあって、機関架橋186bに対してピストン112のストローク方向には移動しない。
【0059】
図5は、油圧調整機構196の構成を説明するための図である。
図5に示すように、油圧調整機構196は、プランジャポンプ182と、スピル弁184と、第1カム板188と、第2カム板190と、第1アクチュエータ192と、第2アクチュエータ194と、第1切換弁198と、第2切換弁200と、位置センサ202と、油圧制御部204とを含んで構成される。
【0060】
プランジャポンプ182は、ポンプシリンダ182aと、プランジャ182bとを含んで構成される。ポンプシリンダ182aの内部には、油圧ポンプPに連通する油路を介して、作動油が導かれる。プランジャ182bは、ポンプシリンダ182a内をストローク方向に移動するとともに、その一端がポンプシリンダ182aから突出する。
【0061】
第1カム板188は、ピストン112のストローク方向に対して傾斜する傾斜面188aを有し、プランジャポンプ182のストローク方向の下方に配置されている。そして、プランジャポンプ182がクロスヘッドピン114aとともにストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、ポンプシリンダ182aから突出したプランジャ182bの一端が、第1カム板188の傾斜面188aに接触する。
【0062】
そして、プランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、ポンプシリンダ182a内に押し込まれる。プランジャポンプ182は、プランジャ182bがポンプシリンダ182a内に押し込まれることで、ポンプシリンダ182a内の作動油を第1油圧室168aに供給(圧入)する。
【0063】
第1アクチュエータ192は、例えば、第1切換弁198を介して供給される作動油の油圧によって作動し、第1カム板188をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第1アクチュエータ192は、第1カム板188の移動により、第1カム板188のプランジャ182bに対する相対位置を変化させる。
【0064】
このように、第1カム板188がストローク方向に垂直な方向に移動すると、プランジャ182bと第1カム板188とのストローク方向における接触位置が相対変化する。例えば、
図5中、左側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位し、
図5中、右側に第1カム板188が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。そして、この接触位置によってポンプシリンダ182aに対する最大押し込み量が設定される。
【0065】
スピル弁184は、本体184aと、弁体184bと、ロッド184cとを含んで構成される。スピル弁184の本体184aの内部には、第1油圧室168aから排出された作動油が流通する内部流路が形成されている。弁体184bは、本体184a内の内部流路に配される。ロッド184cの一端が本体184a内の弁体184bに対向するとともに、他端が本体184aから突出している。
【0066】
第2カム板190は、ストローク方向に対して傾斜する傾斜面190aを有し、ロッド184cのストローク方向の下方に配置されている。そして、スピル弁184がクロスヘッドピン114aとともにストローク方向に移動すると、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aから突出したロッド184cの一端が、第2カム板190の傾斜面190aに接触する。
【0067】
そして、ロッド184cは、第2カム板190の傾斜面190aから、クロスヘッド114の往復移動の力に対向する反力を受けて、本体184a内に押し込まれる。スピル弁184は、ロッド184cが本体184a内に所定量以上押し込まれることで弁体184bが移動し、スピル弁184の内部流路を作動油が流通可能となって、第1油圧室168aからタンクTに向かって作動油が排出される。
【0068】
第2アクチュエータ194は、例えば、第2切換弁200を介して供給される作動油の油圧によって作動し、第2カム板190をストローク方向と交差する方向(ここでは、ストローク方向に垂直な方向)に移動させる。すなわち、第2アクチュエータ194は、第2カム板190の移動により、第2カム板190のロッド184cに対する相対位置を変化させる。
【0069】
第2カム板190の相対位置に応じて、ロッド184cと第2カム板190とのストローク方向における接触位置が変化する。例えば、
図5中、左側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の上方に変位し、
図5中、右側に第2カム板190が移動すると、接触位置はストローク方向の下方に変位する。そして、この接触位置によってスピル弁184に対する最大押し込み量が設定される。
【0070】
位置センサ202は、ピストンロッド112aのストローク方向の位置を検知して、ストローク方向の位置を示す信号を出力する。
【0071】
油圧制御部204は、位置センサ202からの信号を取得し、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置を特定する。そして、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が、設定位置となるように、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194を駆動させて、第1油圧室168a内の油圧(作動油の油量)を調整する。
【0072】
このように、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに作動油を供給、もしくは、第1油圧室168aから作動油を排出する。続いて、プランジャポンプ182およびスピル弁184の具体的な構成について詳述する。
【0073】
図6AおよびBは、プランジャポンプ182の構成を説明するための図であり、プランジャ182bの中心軸を含む面による断面を示す。
図6Aに示すように、ポンプシリンダ182aには、油圧ポンプPから供給された作動油が流入する流入口182cと、ポンプシリンダ182aから第1油圧室168aに向かって作動油が排出される排出口182dが設けられている。
【0074】
流入口182cから流入した作動油は、ポンプシリンダ182a内の貯油室182eに貯留される。そして、
図6Bに示すように、プランジャ182bがポンプシリンダ182aに押し込まれると、貯油室182eの作動油は、プランジャ182bに押圧されて、排出口182dから第1油圧室168aに供給される。
【0075】
付勢部182fは、例えば、コイルバネで構成され、一端がポンプシリンダ182aに固定されるとともに、他端がプランジャ182bに固定されている。そして、プランジャ182bがポンプシリンダ182aに押し込まれると、プランジャ182bを押し戻す付勢力をプランジャ182bに作用させる。
【0076】
そのため、
図6Bに示す状態で、クロスヘッドピン114aの移動に伴って、プランジャ182bが第1カム板188から離れる向きに移動すると、プランジャ182bは、付勢部182fの付勢力に従って、
図6Aに示す位置に戻る。抜け止め部材182gは、プランジャ182bがポンプシリンダ182aから抜け落ちないように、プランジャ182bのポンプシリンダ182aから突出する方向への移動を規制する。このようなプランジャ182bの移動の過程において、流入口182cから貯油室182eに作動油が流入する。貯油室182eに流入した作動油は、次にプランジャ182bがポンプシリンダ182aに押し込まれるときに、排出口182dから第1油圧室168aに向かって供給される。
【0077】
流入口182cと貯油室182eを連通する油路には、逆止弁182hが設けられており、貯油室182eから流入口182cに向かって作動油が逆流しない構造となっている。
【0078】
また、貯油室182eと排出口182dを連通する油路には、逆止弁182iが設けられており、排出口182dから貯油室182eに向かって作動油が逆流しない構造となっている。
【0079】
2つの逆止弁182h、182iによって、作動油は、流入口182cから排出口182dに向かって一方向に流れる。
【0080】
図7AおよびBは、スピル弁184の構成を示す図であり、ロッド184cの中心軸を含む面による断面を示す。
図7Aに示すように、スピル弁184の本体184aには、第1油圧室168aから排出された作動油が流入する流入口184dと、スピル弁184の本体184a内からタンクTに向かって作動油が排出される排出口184eが設けられている。
【0081】
流入口184dから流入した作動油は、本体184a内の内部流路184fを流通する。弁体184bは、内部流路184fに配されており、内部流路184fをストローク方向に移動可能となっている。
【0082】
そして、弁体184bは、ストローク方向に移動することで、
図7Aに示すように内部流路184fを閉塞する閉位置と、
図7Bに示すように内部流路184fにおける作動油の流通を可能とする開位置とに変位する。
【0083】
ロッド184cの一端は弁体184bとストローク方向に対向しており、ロッド184cが本体184a内に押し込まれることで、弁体184bがロッド184cに押圧されて
図7Bに示す開位置に変位する。
【0084】
付勢部184gは、例えば、コイルバネで構成され、一端がスピル弁184の本体184aに固定されるとともに、他端が弁体184bに固定されている。付勢部184gは、常時、弁体184bが内部流路184fを閉塞する向きに付勢力を作用させている。そして、ロッド184cは、スピル弁184の本体184aに押し込まれると、付勢部184gの付勢力に抗して弁体184bを押圧する。このとき、付勢部184gは、弁体184bを押し戻す付勢力を弁体184bに作用させる。
【0085】
そのため、
図7Bに示すように弁体184bが開位置にあるとき、クロスヘッドピン114aの移動に伴って、ロッド184cが第2カム板190から離れると、弁体184bは、付勢部184gの付勢力に従って、
図7Aに示す閉位置に戻る。このとき、抜け止め部材184hは、ロッド184cがスピル弁184の本体184aから抜け落ちないように、本体184aから突出する方向へのロッド184cの移動を規制する。
【0086】
図8A〜Dは、可変機構の動作を説明するための図である。
図8Aでは、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が比較的高い位置となるように、第2カム板190の相対位置が調整されている。そのため、下死点に近いクランク角において、スピル弁184の本体184aにロッド184cが深くまで押し込まれ、スピル弁184が開いて、第1油圧室168aから作動油が排出される。このとき、第2油圧室168bには油圧ポンプPの油圧が作用していることから、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が安定して保持されている。
【0087】
この状態において、ピストン112の上死点は低くなっている(クロスヘッドピン114a側に近くなっている)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は小さくなっている。
【0088】
そして、油圧制御部204は、ECU(Engine Control Unit)などの上位の制御部からユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比を大きくする指示を受けると、
図8Bに示すように、第2カム板190を
図8B中、右側に移動させる。その結果、ロッド184cと第2カム板190の接触位置が低くなり、下死点に近いクランク角においても、ロッド184cが本体184a内に押し込まれなくなり、ピストン112のストローク位置に拘わらず、スピル弁184が閉じた状態に維持される。すなわち、第1油圧室168a内の作動油が排出されなくなる。
【0089】
そして、油圧制御部204は、
図8Cに示すように、第1カム板188を
図8C中、左側に移動させる。その結果、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置が高くなる。そして、下死点に近いクランク角において、プランジャ182bが第1カム板188からの反力によってポンプシリンダ182a内に押し込まれると、ポンプシリンダ182a内の作動油が第1油圧室168aに圧入される。
【0090】
その結果、油圧によってピストンロッド112aが押し上げられ、
図8Cに示すように、ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が変位し、ピストン112の上死点が高くなる(クロスヘッドピン114a側から遠くなる)。すなわち、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比は大きくなる。
【0091】
プランジャポンプ182は、ピストン112の1ストローク毎に、プランジャポンプ182の貯油室182eに蓄えられた作動油を、第1油圧室168aに圧入する。この実施形態では、貯油室182eの最大容積に対して、第1油圧室168aの最大容積が複数倍ある。そのため、プランジャポンプ182がピストン112のストローク何回分、動作をするかによって、第1油圧室168aに圧入される作動油の量を調整し、ピストンロッド112aの押し上げ量を調整することが可能となっている。
【0092】
ピストンロッド112aとクロスヘッドピン114aの相対的な位置が所望の位置となると、油圧制御部204は、第1カム板188を
図8D中、右側に移動させ、プランジャ182bと第1カム板188の接触位置を低くする。こうして、下死点に近いクランク角においても、プランジャ182bがポンプシリンダ182a内に押し込まれることがなく、プランジャポンプ182が作動しなくなる。すなわち、第1油圧室168aへの作動油の圧入が停止する。
【0093】
こうして、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに対するストローク方向のピストンロッド112aの進入位置を調整する。可変機構は、油圧調整機構196によって第1油圧室168aの油圧を調整し、ピストンロッド112aとクロスヘッド114のストローク方向の相対的な位置を変更することで、ピストン112の上死点および下死点の位置を可変とする。
【0094】
図9は、クランク角とプランジャポンプ182およびスピル弁184の動作タイミングを説明するための図である。
図9においては、説明の便宜上、第1カム板188の傾斜面188aとの接触位置が異なる2つのプランジャポンプ182を並べて示すが、実際には、プランジャポンプ182は1つであって、第1カム板188が移動することで、プランジャポンプ182との接触位置が変位する。また、スピル弁184および第2カム板190は図示を省略する。
【0095】
図9に示すように、下死点手前から下死点までのクランク角の範囲を角aとし、下死点から角aと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角bとする。また、上死点手前から上死点までのクランク角の範囲を角cとし、上死点から角cと同じ大きさの位相角分のクランク角の範囲を角dとする。
【0096】
プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、
図9中、右側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャポンプ182のプランジャ182bは、第1カム板188の傾斜面188aと、クランク角が角aの開始位置で接触を開始し、下死点を超えて角bの終了位置で接触が解除される。
図9中、プランジャポンプ182のストローク幅を幅sで示す。
【0097】
また、プランジャポンプ182と第1カム板188の相対位置が、
図9中、左側に示すプランジャポンプ182で示される状態であるとき、プランジャポンプ182のプランジャ182bは、クランク角が下死点となる位置で傾斜面188aと接触するものの、プランジャ182bはポンプシリンダ182aに押し込まれることなく、すぐに接触が解除される。
【0098】
このように、プランジャポンプ182は、クランク角が角aの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角aの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。
【0099】
また、スピル弁184は、クランク角が角bの範囲にあるとき動作する。具体的には、クランク角が角bの範囲にあるとき、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
【0100】
ここでは、プランジャポンプ182は、クランク角が角aの範囲にあるとき動作し、スピル弁184は、クランク角が角bの範囲にあるとき動作する場合について説明した。しかし、プランジャポンプ182は、クランク角が角cの範囲にあるとき動作し、スピル弁184は、クランク角が角dの範囲にあるとき動作してもよい。この場合、クランク角が角cの範囲にあるとき、プランジャポンプ182は、作動油を第1油圧室168aに圧入する。また、クランク角が角dの範囲にあるとき、スピル弁184は、作動油を第1油圧室168aから排出する。
【0101】
上死点や下死点以外のストローク範囲でプランジャポンプ182やスピル弁184を動作させる場合、第1カム板188、第2カム板190、第1アクチュエータ192、第2アクチュエータ194などを、プランジャポンプ182やスピル弁184の往復移動に同期させて移動させなければならない。しかし、本実施形態のように、上死点や下死点付近で、プランジャポンプ182やスピル弁184を動作させることで、このような同期機構を設けずともよく、コストを低減することが可能となる。
【0102】
ただし、クランク角が下死点を挟んだ角度範囲(角a、角b)においてプランジャポンプ182およびスピル弁184が動作する場合の方が、シリンダ110内の圧力は低いことから、プランジャポンプ182から第1油圧室168aに作動油を容易に圧入することが可能となる。また、スピル弁184から排出される作動油の油圧も低く、キャビテーションの発生を抑え、スピル弁184を作動させる荷重を低く抑えることが可能となる。さらに、作動油の圧力が高いことからピストン112の位置が不安定になるといった事態を回避することが可能となる。
【0103】
上述したように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、ピストンロッド112aおよびクロスヘッド114のピストン112のストローク方向の相対的な位置を変更する可変機構を備え、簡易な構造で、稼働させたまま圧縮比を変更することが可能となる。
【0104】
また、連結穴160に対するピストンロッド112aの進入位置を、油圧によって調整する構成を採用しているため、高温に対する耐久性に優れ、かつ、圧縮比の微調整も遂行可能となる。
【0105】
また、クロスヘッド114の往復移動の力を利用して、プランジャポンプ182が作動油を第1油圧室168aに圧入する構成であることから、高圧を発生させる油圧ポンプが不要となり、コストを低減することが可能となる。
【0106】
また、第1カム板188と第1アクチュエータ192によって、ポンプシリンダ182aに対するプランジャ182bの最大押し込み量が調整可能であることから、作動油の圧入量を調整して、圧縮比の微調整が容易に可能となる。例えば、1ストロークで貯油室182eの最大容積分の作動油を、第1油圧室168aに圧入してもよいし、第1カム板188の相対位置を調整して、1ストロークで貯油室182eの最大容積の半分の量の作動油を、第1油圧室168aに圧入してもよい。このように、1ストロークで第1油圧室168aに圧入する作動油の量を、貯油室182eの最大容積の範囲内で任意に設定することが可能となる。
【0107】
例えば、第1油圧室168aから作動油が漏れる場合、その漏れ量分を補充できるように、常に、プランジャポンプ182から作動油を第1油圧室168aに圧入するように、1ストロークで第1油圧室168aに圧入する作動油の量を設定してもよい。
【0108】
また、第1カム板188に傾斜面188aを設けていることから、第1アクチュエータ192は、第1カム板188を水平方向に移動させるだけで、1ストロークで第1油圧室168aに圧入する作動油の量を容易に設定することができる。
【0109】
また、クロスヘッド114の往復移動の力を利用して、スピル弁184を開閉する構成であることから、スピル弁184を開くために、高圧を発生させる油圧ポンプが不要となり、コストを低減することが可能となる。
【0110】
また、第2カム板190と第2アクチュエータ194によって、スピル弁184の本体184aに対するロッド184cの最大押し込み量が調整可能であることから、1ストローク当たりの作動油の排出量を調整して、圧縮比の微調整が容易に可能となっている。
【0111】
また、第2カム板190に傾斜面190aを設けていることから、第2アクチュエータ194は、第2カム板190を水平方向に移動させるだけで、1ストロークで第1油圧室168aから排出する作動油の量を容易に設定することができる。
【0112】
上述した実施形態では、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194は、第1カム板188および第2カム板190の、プランジャ182bおよびロッド184cに対する相対位置を変化させる場合について説明した。しかし、第1アクチュエータ192および第2アクチュエータ194は、第1カム板188および第2カム板190の姿勢を変えることで、第1カム板188および第2カム板190との接触位置を変えてもよい。
【0113】
また、上述した実施形態では、油圧調整機構196として、プランジャポンプ182およびスピル弁184の両方を備える場合について説明したが、プランジャポンプ182およびスピル弁184のいずれか一方のみを備えてもよいし、プランジャポンプ182およびスピル弁184をいずれも備えなくてもよい。いずれにせよ、油圧調整機構196は、第1油圧室168aに作動油を供給、もしくは、第1油圧室168aから作動油を排出し、ピストンロッド112aの端部の、第1油圧室168aに対するストローク方向の進入位置を調整することができれば、そのための具体的な構成に限定はない。
【0114】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。