(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
〔構成例〕
図1、2を参照して、本実施形態の医療機器であるカテーテル100の概要について説明する。
図1は、カテーテル100の長手方向に沿った断面図であり、
図2は、
図1のII−II方向の断面図である。
本実施形態のカテーテル100は、メインルーメン20と、メインルーメン20の周囲に配置され、前記メインルーメン20の長手方向に沿って延在するサブルーメン80(80a、80b)とが形成された管状本体10と、サブルーメン80(80a、80b)内に配置され、その遠位端が前記管状本体10の遠位端に固定された操作線70(70a、70b)とを備える。
操作線70(70a、70b)は、前記長手方向と直交する断面が円形であり、あるいは、操作線70(70a、70b)は、前記長手方向と直交する断面が円形である複数細線で構成された撚り線である。
図2に示すように、前記長手方向と直交するサブルーメン80(80a、80b)の断面形状は、前記メインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状である。
【0010】
次に、カテーテル100の構造について詳細に説明する。
カテーテル100は、前述した、管状本体10、操作線70に加えて、コート層50、操作部60を備える。
【0011】
管状本体10は、内部にメインルーメンを有する内層11およびこの内層11を被覆する外層(本体部)12を備えるシースと、補強層30と、中空管82と、マーカ40とを備える。
なお、以下、シース10とカテーテル100の先端は遠位端DEとよぶが、シース10の後端は近位端PEとよび、カテーテル100の後端は近位端CEとよぶ。
【0012】
内層11は、中空の管状の層であり、内部にカテーテル100の長手方向に沿って延在するメインルーメン20が形成されている。内層11には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。内層11にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル100のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
メインルーメン20は、カテーテル100の長手方向と直交する断面形状が円形形状となっている。
【0013】
外層12は、内層11を被覆する樹脂製の管状体である。外層12は、内層11よりも厚みがあつく、シースの主たる肉厚を構成するものである。
外層12には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0014】
補強層30は、内層11を取り囲むとともに、外層12に内包されている。この補強層30はコイル層である。補強層30を構成する線材料には、ステンレス鋼(SUS)やニッケルチタン合金などの金属細線のほか、PI、PAIまたはPETなどの高分子ファイバーの細線を用いることができる。また、線材料31の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
なお、本実施形態のカテーテル100においては、操作線70がそれぞれ挿通されたサブルーメン80は、外層12の内部であって、補強層30の外側に形成されている。
【0015】
中空管82(82a、82b)は、外層12内に埋め込まれており、その長手方向がメインルーメン20の長手方向に沿うように、メインルーメン20の周囲に配置されている。
中空管82は、サブルーメン80を区画するものである。サブルーメン80を区画する中空管82はカテーテル100の長手方向に沿って設けられ、図示はしないが、シース10の近位端PE側が開口している。また、中空管82のシース10の遠位端側は、マーカ40により閉鎖されている。
【0016】
中空管82は、補強層30の外側に配置されており、中空管82内部に配置される操作線70(70a、70b)に対して、補強層30の内側、すなわちメインルーメン20が保護されている。
本実施形態では、
図2に示すように、中空管82は、複数設けられている。具体的には、メインルーメン20を取り囲むように、同一の円周上に複数の中空管82が配置されている。本実施形態では、4つの中空管82が等間隔で配置されている。そして、メインルーメン20の中心を挟んで対向する一対の中空管82内部に操作線70が配置されている。また、メインルーメン20の中心を挟んで対向する他の一対の中空管82内部には、操作線70は配置されていない。
なお、中空管82やサブルーメン80の個数は、4つに限られるものではなく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0017】
各中空管82内のサブルーメン80は、カテーテル100の長手方向と直交する断面形状がメインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状となっている。
より詳細に説明すると、カテーテル100の長手方向と直交する断面において、サブルーメン80は、メインルーメン20の周方向の長さAが、メインルーメン20の径方向の長さBよりも長い。
これにより、シース10のねじり剛性が高くなる。シース10のねじりは、中空管82に対しては、曲げ方向の力として作用し、中空管82がこの曲げ方向に長い形状となるほうが、断面円形の中空管に場合に比べ、断面2次モーメントが大きくなり、シース10のねじり剛性が高くなる。ここで、
図12に、外径0.1mm、肉厚0.02mmの中空管をつぶして楕円にしたときの断面2次モーメント(l)と、中空管の断面が円形のときの断面2次モーメント(l
0)との比率の算出結果を示す。中空管の断面が円形のときの値を1として正規化している。
これらの結果から、A/Bが1.2〜4であれば、円形の場合に比べ、断面2次モーメントが約20%以上向上し、シース10のねじり剛性を高めることができる。なかでも、ねじり剛性を向上させる観点からは、A/Bが1.8〜2.5が特に好ましい。
【0018】
また、
図2に示すように、本実施形態では、カテーテル100の長手方向と直交する断面において、サブルーメン80は、メインルーメン20の外形にそって湾曲している。そして、サブルーメン80を区画する周縁のうち、メインルーメン20側に位置する内周縁と、シース10外周側に位置する外周縁とが、シース10の外周側に向かって凸状に円弧状に湾曲している。サブルーメン80の断面は、いわゆる勾玉形状である。このようなサブルーメン80内に操作線70は、遊挿されている。
【0019】
中空管82は、外層12とは異なる材料で構成されている。このようにすることで、中空管82を、外層12よりも曲げ剛性や、引張り弾性率が高い材料で構成することができる。たとえば、中空管82を構成する材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等の材料が挙げられる。これらの材料のいずれか1種以上を主成分とすることが好ましい。これらの材料は、操作線の摺動性をよくでき、耐熱性も高い。
このような中空管82を使用することで、カテーテル100のねじり剛性を高め、シースをその長手方向を回転軸として、回転させた際に、シースが局所的にねじれてしまうことを防止できる。
【0020】
なお、サブルーメン80の前記断面形状は、
図2に示した形状に限られず、メインルーメン20の周方向に長く扁平な扁平形状、すなわち、メインルーメン20の径方向に潰れた形状であればよい。たとえば、
図3(a)に示すように、長円形状であってもよく、また、
図3(b)に示すように、楕円形状であってもよい。
【0021】
操作線70は、サブルーメン80内に遊挿されており、サブルーメン80の長手方向に沿って延在している。
操作線70は、1本の線で構成されていてもよく、
図4に示すように、複数本の細線72を撚りあわせて構成された撚り線であってもよい。操作線70が、1本の線で構成される場合、その長手方向に直交する断面は円形形状である。一方で、操作線70が撚り線で構成される場合、操作線70を構成する細線72の長手方向に直交する断面は円形形状である。
ここで、断面が円形形状であるとは、真円に限られるものではない。
操作線70が撚り線で構成される場合、長手方向と直交する断面において、操作線70の外郭を構成する各細線72がひとつの円Rに内接するように、細線72が配置された構造であることが好ましい。
ここで、一本の撚り線を構成する細線の本数は特に限定されないが、3本以上であることが好ましい。細線の本数の好適な例は、3本又は7本である。細線の本数が3本の場合、横断面において3本の細線が点対称に配置される。細線の本数が7本の場合、横断面において7本の細線が点対称にハニカム状に配置される。
【0022】
また、
図1に示すように、シース10の遠位端DEにおいて、操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)は、マーカ40に固定されることで、操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)が遠位端DEに固定されている。操作線70は、サブルーメン80(80a、80b)にそれぞれ摺動可能に挿通されている。そして、各操作線70(70a、70b)の近位端を牽引することによりカテーテル100の遠位端部15が屈曲する(
図5参照)。また、本実施形態のカテーテル100は、牽引する操作線70(70a、70b)の選択により、屈曲する遠位端部15の曲率と方向とが複数通りに変化する。
【0023】
ここで、操作線70の具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。また、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
【0024】
また、
図5に示すように、カテーテル100は、操作部60を備える。操作部60は、カテーテル100の近位端部17に設けられている。また、遠位端部15と近位端部17との間を中間部16と呼ぶ。
【0025】
操作部60は、カテーテル100の長手方向に延びる軸部61と、軸部61に対してカテーテル100の長手方向にそれぞれ進退するスライダ64(64a、64b)と、軸部61を軸回転するハンドル部62と、シース10が回転可能に挿通された把持部63とを備えている。また、シース10の近位端部17は、軸部61に固定されている。また、ハンドル部62と軸部61とは一体に構成されている。そして、把持部63とハンドル部62とを相対的に軸回転させることで、操作線70を含むシース10全体が軸部61とともにトルク回転する。
【0026】
したがって、本実施形態の操作部60は、管状本体(シース10)の遠位端部15を回転操作する。なお、本実施形態においては、シース10をトルク回転させる回転操作部としてのハンドル部62と、シース10を屈曲させるための屈曲操作部としてのスライダ64とが一体に設けられている。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、ハンドル部62とスライダ64とが別個に設けられていてもよい。
【0027】
第一操作線70aの近位端は、シース10の近位端部17から基端側に突出し、操作部60のスライダ64aに接続されている。また、第二操作線70bの近位端も同様に、操作部60のスライダ64bに接続されている。そして、スライダ64aとスライダ64bを軸部61に対して個別に基端側にスライドさせることにより、これに接続された第一操作線70aまたは第二操作線70bが牽引され、シース10の遠位端部15に引張力が与えられる。これにより、牽引された当該操作線70の側に遠位端部15が屈曲する。
【0028】
図1に示すように、マーカ40が、シース10の遠位端DEに設けられている。このマーカ40は、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状の部材である。具体的には、マーカ40には白金などの金属材料を用いることができる。本実施形態のマーカ40は、メインルーメン20の周囲であって外層12の内部に設けられている。
【0029】
コート層50は、カテーテル100の最外層を構成するものであり、親水性の層である。コート層50には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0030】
ここで、本実施形態のカテーテル100の代表的な寸法について説明する。メインルーメン20の半径は200〜300μm程度、内層11の厚さは10〜30μm程度、外層12の厚さは100〜150μm程度、補強層30の厚さは20〜30μmとすることができる。そして、カテーテル100の軸心からサブルーメン80の中心までの半径は300〜350μm程度、サブルーメン80の内径は40〜100μm程度とし、操作線70の太さを30〜60μm程度とすることができる。そして、カテーテル100の最外径を350〜450μm程度とすることができる。
【0031】
すなわち、本実施形態のカテーテル100の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル100に関しては、操作線70(70a、70b)の牽引により進行方向が自在に操作されるため、たとえば分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル100を進入させることが可能である。
【0032】
〔動作例〕
次に、本実施形態のカテーテル100の動作例について、
図5を参照して、説明する。まず、本実施形態のカテーテル100において、操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)の近位端を牽引すると、カテーテル100の遠位端部15に引張力が与えられて、当該操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)が挿通されたサブルーメン80(サブルーメン80aまたはサブルーメン80b)の側に向かって遠位端部15の一部または全部が屈曲する。一方、操作線70の近位端をカテーテル100に対して押し込んだ場合には、当該操作線70からカテーテル100の遠位端部15に対して押込力が実質的に与えられることはない。
【0033】
なお、カテーテル100の遠位端部15とは、カテーテル100の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。同様に、カテーテル100の近位端部17とは、カテーテル100の近位端CEを含む所定の長さ領域をいう。中間部16とは、遠位端部15と近位端部17との間の所定の長さ領域をいう。また、カテーテル100が屈曲するとは、カテーテル100の一部または全部が、湾曲または折れ曲がって曲がることをいう。
【0034】
本実施形態のカテーテル100では、牽引する操作線70を、第一操作線70aのみとするか、第二操作線70bのみとするか、または2本の操作線70a、70bを同時に牽引するかにより、屈曲する遠位端部15の曲率が複数通りに変化する。これにより、さまざまな角度に分岐する体腔に対してカテーテル100を自在に進入させることができる。
【0035】
本実施形態のカテーテル100は、複数本の操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)の近位端をそれぞれ個別に牽引することができる。そして、この牽引する操作線70によって、屈曲方向を変化させることができる。具体的には、
図5(b)、(c)のように第一操作線70aを牽引すると、第一操作線70aを設けた側に屈曲し、
図5(d)、(e)のように第二操作線70bを牽引すると、第二操作線70bを設けた側に屈曲する。また、各操作線70(70a、70b)の牽引量を調整することによって、屈曲の曲率(曲率半径)を変化させることができる。具体的には、
図5(b)、(d)に示すように、第一または第二操作線70a、70bを少し牽引した場合、遠位端部15は小さな曲率(曲率半径が大きい)で屈曲する。一方、
図5(c)、(e)に示すように、第一または第二操作線70a、70bをより長く牽引した場合、遠位端部15は大きな曲率(曲率半径が小さい)で屈曲する。
【0036】
ここで、カテーテル100は、上述したように、操作線70を操作することで、屈曲する。これに加え、カテーテル100を挿入する血管の形状により、操作線70を操作しない場合であっても、屈曲することがある。
このような場合、カテーテル100の屈曲部分の断面形状は、
図6に示したように変化する。
図6(a)は、カテーテル100が屈曲しておらず、直線状になっている状態の断面図を示し、
図6(b)は、
図6(c)のb-b方向の断面図であり、カテーテル100が屈曲した状態の断面図である。
カテーテル100が屈曲した場合、
図6(c)に示すように、屈曲部分の外側部分には、シース10の長手方向に沿って引っ張り応力がかかる。この力により、シース10の屈曲部分の外側部分では、シース10を構成する樹脂が、ポアソン比に従い、わずかながらではあるが収縮する。
【0037】
一方で、カテーテル100が屈曲した場合、
図6(c)に示すように、屈曲部分の内側部分には、シース10の長手方向に沿って圧縮応力がかかる。この力により、シース10の屈曲部分の内側部分では、シース10を構成する樹脂がポアソン比に従いわずかながらではあるが膨張する。
この膨張は、メインルーメン20の周方向(
図6(b)の矢印Y3、4方向)よりも、周方向と略直交する半径方向において顕著に生じる(
図6(b)の矢印Y1、2方向)。メインルーメン20の周方向は、シース10を構成する樹脂に拘束されているからである。特に、
図6(b)に示すように、屈曲部分の内側部分の半径方向の膨張のうち、メインルーメン20と反対方向に向かった膨張(
図6(b)の矢印Y1方向の膨張)は、メインルーメン20側に向かった膨張(
図6(b)の矢印Y2方向の膨張)よりも顕著となる。これは、メインルーメン20の周囲に補強層30が設けられているため、メインルーメン20側に膨張しにくいためである。
【0038】
このような、シース10の膨張に伴い、屈曲部分の内側の中空管82は、メインルーメン20の周方向と略直交するメインルーメン20の径方向に大きく膨張し、メインルーメン20の径方向のサブルーメン80の周壁と操作線70との距離が広がる。一方で、前述したように、シース10の膨張は、メインルーメン20の周方向(
図6(b)の矢印Y3、4方向)よりも、周方向と略直交する半径方向において顕著に生じる(
図6(b)の矢印Y1、2方向)ため、メインルーメン20周方向側のサブルーメン80の周壁は、操作線70にわずかながら近づく可能性がある。しかしながら、サブルーメン80は、メインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状であるため、操作線70とメインルーメン20周方向側のサブルーメン80の周壁との間に空間を確保できる。
これにより、カテーテル100を屈曲させた際に、たとえば、中空管82の断面形状が略円形状となる。
そのため、中空管82内の操作線70が中空管82と接触しにくくなり、操作線70の操作性が向上する。
【0039】
なお、本実施形態では、サブルーメン80は、メインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状であるため、カテーテル100が屈曲していない状態(直線状態)では、サブルーメン80のメインルーメン20径方向の周壁と、操作線70との距離が短くなっている。そのため、サブルーメン80のメインルーメン20径方向の周壁が操作線70に接触しやすくなる可能性がある。しかしながら、カテーテル100が屈曲していない状態においては、操作線70に大きな張力が付与されていないので、操作線70とサブルーメン80の周壁とが接触しても、大きな摩擦とはなりにくく、操作線70の操作性に大きな影響はないため、問題は生じない。
【0040】
〔製造方法〕
次に、
図7〜
図9を参照して、本実施形態のカテーテル100の製造方法について説明する。
はじめに、カテーテル100の製造方法の概要について説明する。
本実施形態のカテーテル100の製造方法は、長手方向と直交する断面が円形形状であるサブルーメン80が形成され、内部に芯線90が遊挿された中空管82を、外層12のメインルーメン20形成領域の周囲に配置する工程と、
外層12および中空管82を加熱するとともに、外層12の径方向に向かって、外層12および中空管82を外周側から加圧し、サブルーメン80の前記断面の形状を扁平形状とする工程とを含む。
【0041】
次に、カテーテル100の製造方法について詳細に説明する。
はじめに、外層12を押し出し成形しておく。外層12を構成する樹脂を含む材料を図示しないマンドレル(芯材)の周囲に押し出す。このとき、外層12において、後に中空管82が埋設されることによりサブルーメン80が形成される位置の各々に、長手方向に沿う長尺な中空部(孔)が形成されるように、ガス等の流体を吐出しながら押出成形する。
押出成形後、マンドレルを引き抜くことにより、中空形状の外層12を作成することができる。
【0042】
一方で、内層11も押し出し成形により、作製しておく。外層を形成する場合と同様、
図7に示すマンドレル(芯材)Mの周囲に、内層11を構成する樹脂を含む材料を押し出せばよい。
その後、芯材M付きの内層11の周囲にコイル31を被せる。従って、この段階では、未だ、内層11内にはマンドレルMが挿通されたままである。
【0043】
中空管82も中空管82を構成する樹脂を含む材料を押出成形することによって作成する。長手方向に沿う長尺な中空部が形成されるように、中空管82の材料に対してガス等の流体を吐出しながら押出成形する。このようにして製造された中空管82は、長手方向と直交する断面形状が円形のリング形状である。
次に、中空管82内に芯線90を挿入する。芯線90は、長手方向と直交する断面が円形である。
ただし、芯線90の径は、操作線70の径(撚り線である場合には円Rの径)よりも大きい。
後述するが、芯線90の周囲に中空管82を押し出し、芯線90と中空管82とを剥離し、中空管82内に芯線90を遊挿してもよいが、中空管82に中空部を形成した後、芯線90を挿入する方法を採用することで、中空管82の中空部を確実に所望の形状とすることができる。
【0044】
その後、内層11の周囲にコイル31を被せた状態で、このコイル31の周囲に外層12を被せる。
次に、外層12の中空部分に対し、芯線90入りの中空管82を挿入する。
その後、
図7に示すように、外層12の周囲に、熱収縮チューブ91を被せる。
図8に
図7のVIII-VIII方向の断面図を示す。
図8においては、コイル31を省略している。このとき、中空管82内のサブルーメンは、その長手方向と直交する断面が円形である。なお、断面が円形とは真円であることに限られるものではない。
次に、加熱により、熱収縮チューブ91を収縮させて、外層12、コイル31、内層11、中空管82を内層11の径方向に向かって外側から加圧する。また、前記加熱により、外層12を溶融させる。なお、加熱温度は、外層12の溶融温度よりも高く、内層11、中空管82の溶融温度よりも低い。この加熱により、外層12と内層11とが溶着により接合する。このとき、外層12を構成する材料が、コイル31を内包し、外層12にコイルが含浸されることとなる。また、外層12と中空管82とが溶着により接合する。
なお、この工程において、外層12の外周面が熱収縮チューブ91により締め付けられることにより、外層12の外周面はほぼ円形となる。
一方で、中空管82は、この工程において加圧されることで、外層12の径方向につぶされ、中空管82内部のサブルーメン80の長手方向と直交する断面は、外層12の周方向に扁平な扁平形状となる。
中空管82の断面が扁平形状となった状態においても、芯線90は、中空管82に遊挿された状態であることが好ましい。
【0045】
次に、熱収縮チューブ91に切り込みを入れ、該熱収縮チューブ91を引き裂くことによって、熱収縮チューブ91を外層12から取り除く。
【0046】
次に、
図9に示すように、中空管82内に、操作線70を挿通する。このためには、操作線70の一端を芯線90の一端に接続する。次に、芯線90の他端を中空管82から引き抜くことにより、芯線90と操作線70とが入れ替わり、操作線70が中空管82内に配置されることとなる。
【0047】
また、別途、環状の金属部材であるマーカ40を準備する。
次に、マーカ40に対する操作線70の先端部の固定と、外層12の先端部の周囲に対するマーカ40のかしめ固定と、を行う。
【0048】
次に、メインルーメン20の基端部に対し、薬液等の導入口となる部材(図示略)を接続する。
次に、内層11内のマンドレルMを引き抜く。マンドレルMの引き抜きは、マンドレルMの長手方向両端を引っ張ることによりマンドレルMを細径化した状態で行う。これにより、内層11の中心には、メインルーメン20となる中空が形成される。
【0049】
次に、別途作成した操作部に対し、操作線70の基端部を連結する。
次に、コート層50を形成する。
以上より、カテーテル100を得ることができる。
【0050】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
前述したように、カテーテル100が屈曲した場合、屈曲部分の内側部分では、シース10を構成する樹脂が膨張し、サブルーメン80の断面形状が変形することとなる。具体的には、
図6(b)に示すように、屈曲部分内側のサブルーメン80は、メインルーメン20の周方向と略直交するメインルーメン20の径方向に膨張する。本実施形態では、あらかじめ、サブルーメン80の長手方向に直交する断面形状が、メインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状となっており、メインルーメン20の周方向側のサブルーメン80の周壁と、操作線70との間には大きく空間が形成されている。そのため、サブルーメン80がメインルーメン20の径方向に膨張し、サブルーメン80のメインルーメン20周方向の周壁が操作線70に近づいても、サブルーメン80の内壁と、操作線70との接触を抑制できる。カテーテル100が屈曲した状態においては、屈曲部分内側のサブルーメン80内の操作線70(70b)には、張力がかかっているので、この操作線70とサブルーメン80の内壁との接触を抑制することは、特に重要である。
【0051】
また、前述したように、カテーテル100が屈曲した場合、メインルーメン20の径方向のサブルーメン80の周壁と操作線70との距離が広がる。一方で、メインルーメン20の周方向側のサブルーメン80の周壁は、操作線70にわずかながら近づく。これにより、サブルーメン80の中心からサブルーメン80の周壁までの距離が比較的均一となり、たとえば、サブルーメン80の断面形状は、略円形形状となる。そのため、中空管82内の操作線70をサブルーメン80内で自由に動かすことができ、操作線70の操作性が向上する。血管等の体腔は、3次元的に屈曲しているため、屈曲したカテーテル100をさらに様々な方向に屈曲させることがある。本実施形態では、カテーテル100が屈曲した状態でも、中空管82内の操作線70をサブルーメン80内で自由に動かすことができるので、非常に有用なものとなる。
【0052】
ここで、従来のカテーテルの操作性について、
図11を参照して説明する。
図11には、特許文献1に開示されたカテーテル900の長手方向と直交する断面図が開示されている。
図11(a)に示すように、カテーテル900は、ワイヤ内腔(サブルーメン)を区画するスパゲッティーチューブ901を有しており、このスパゲッティーチューブ901内に変向ワイヤ902が挿入されている。特許文献1では、製造時に、加圧流体をスパゲッティーチューブ901内に供給し、スパゲッティーチューブ901のつぶれを防止している。そのため、スパゲッティーチューブ901の長手方向に直交する断面形状は、円形となっている。
このようなカテーテル900を屈曲させた場合、屈曲部分の断面形状は、
図11(b)のようになる。屈曲部分の内側部分では、カテーテル900を構成する樹脂が膨張し、スパゲッティーチューブ901がメインルーメンの周方向と直交する径方向にのびて、メインルーメンの周方向の幅が狭くなる。そのため、変向ワイヤ902がスパゲッティーチューブ901と接触しやすくなる。そのため、変向ワイヤ902およびスパゲッティーチューブ901間で摩擦が生じ、カテーテルが曲がった状態での変向ワイヤの操作性が悪化する。また、かりに、カテーテル900を屈曲させた状態で、変向ワイヤ902がスパゲッティーチューブ901に接触しなかったとしても、変向ワイヤ902をスパゲッティーチューブ901の前記幅方向に動かしにくくなるので、変向ワイヤ902の操作性が悪化する。
これに対し、本実施形態のカテーテル100は、上述したように、カテーテル100が屈曲した状態でも、操作線70の操作性が良好となる。
【0053】
さらに、本実施形態では、サブルーメン80を構成する中空管82は、外層12に比べて、引張り弾性率や曲げ剛性の高い材料で構成されている。これに加え、サブルーメン80の長手方向と直交する断面形状が、メインルーメン20の周方向に扁平な扁平形状となっている。換言すると、サブルーメン80の断面形状は、メインルーメン20の周方向と略直交するメインルーメン20の径方向の長さが短いものの、メインルーメン20の周方向の長さが長くなっている。
そのため、従来のような断面円形形状のサブルーメンを形成する場合に比べて、メインルーメン20の周方向に沿った力、具体的には、シース10をねじるような力に対して、剛性を高めることができる。これにより、シース10のねじり剛性が高まり、シース10が局所的にねじれてしまうことを防止できる。
なかでも、サブルーメン80は、メインルーメン20の周方向の長さをA、メインルーメン20の径方向の長さをBとした場合、A/Bを1.2〜4とすることで、ねじれを防止できるという上記効果を顕著に発揮することができる。
【0054】
また、本実施形態では、サブルーメン80の長手方向と直交する断面において、サブルーメン80を区画する周縁のうち、メインルーメン20側に位置する内周縁と、シース外周側に位置する外周縁とが、シース10の外周側に向かって凸状に円弧状に湾曲している。サブルーメン80の断面形状をこのような形状とすることで、
図10に示すように操作線70の位置にばらつきが生じても、メインルーメン20の中心Cから操作線70までの距離rがほぼ同じとなる。そのため、操作線70の位置によらず、操作線70を操作する際の力をほぼ同じ力とすることができ、操作性の高いカテーテル100とすることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、中空管82を使用して、サブルーメン80を区画している。サブルーメン80の断面形状を扁平形状とするには、円形の中空管82をメインルーメン20の径方向に向かってつぶせばよいので、扁平形状のサブルーメン80を容易に形成することができる。
特に、中空管82として、比較的やわらかい材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)のいずれかを主成分として含む材料を使用しているため、中空管82を容易につぶして、扁平形状のサブルーメン80を形成することができる。
【0056】
また、本実施形態では、カテーテル100を製造する際に、円形の中空管82内に芯線90を配置した後、中空管82をつぶして扁平形状としている。その後、芯線90よりも、径の小さい操作線70を中空管82内に挿入している。これにより、扁平形状となった中空管82の内壁と、操作線70との間に隙間を確実に形成することができ、操作線70の操作のしやすいカテーテル100とすることができる。
【0057】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば前記実施形態においては二本の操作線と二本のサブルーメン80(80a、8b)のうち、いずれか一本の操作線70(第一操作線70aまたは第二操作線70b)を選択して個別に牽引する態様を例示的に説明したが、本発明はこれに限られない。すなわち、前述したように、三本以上の操作線70をシース10に挿通した上でその一本もしくは二本以上を牽引してもよい。また、二本の操作線70(70a、70b)の先端部71(71a、71b)が、それぞれ別個にシース10の遠位端DEに固定されているが、一本の連続した操作線を用いて、両端部をダイヤル式の操作部に巻き付け、ダイヤルを操作することによって牽引方向や牽引量を調整してもよい。
【0058】
また、前記医療機器をカテーテルとしたが、これに限られるものではない。
さらに、前記実施形態では、カテーテル100の製造方法の際、中空管82を外層12に形成された中空部に挿入したが、これに限られるものではない。たとえば、外層12の外周面を切り欠いて、溝を形成し、この溝に中空管82を挿入してもよい。
また、前記実施形態では、カテーテル100の製造の際に、中空管82内の芯線90を、操作線70と置換したが、芯線90を操作線として使用してもよい。
【0059】
さらに、前記実施形態では、中空管82を製造した後、芯線90を挿入したが、芯線90の挿入方法はこれに限られるものではない。
たとえば、芯線90を被覆するように、中空管82を押し出し(コーティング押し出し)、その後、芯線90の両端部を引っ張って、芯線90を伸張し、縮径させ、中空管82から芯線90を完全に引き剥がす。これにより、中空管82内部に芯線90が遊挿された状態となる。
その後、中空管82を外層12に形成された中空部(あるいは、上述した溝)に挿入すればよい。
また、芯線90を被覆するように、中空管82を押し出し(コーティング押し出し)、その後、前記実施形態と同様に、中空管82を外層12に形成された中空部(あるいは、上述した溝)に挿入する。次に、芯線90の両端部を引っ張って、芯線90を伸張し、縮径させ、中空管から芯線90を完全に引き剥がす。そして、中空管82内部に芯線90が遊挿された状態としてもよい。
このようにすることで、中空管82内に芯線90を挿入する工程を省くことができ、カテーテルの生産性を高めることができる。
【0060】
さらに、前記実施形態では、4つのサブルーメン80の断面形状を扁平形状としたが、たとえば、操作線70が挿入されていないサブルーメン80の断面形状は扁平形状でなくてもよく、円形形状であっても良い。
以下、参考形態の例を付記する。
1.メインルーメンと、前記メインルーメンの周囲に配置され、前記メインルーメンの長手方向に沿って延在するサブルーメンとが形成された管状本体と、
前記サブルーメン内に配置され、その遠位端が前記管状本体の遠位端に固定された操作線とを備え、
前記操作線は、前記長手方向と直交する断面が円形であり、
あるいは、
前記操作線は、前記長手方向と直交する断面が円形である複数細線を撚りあわせた撚り線であり、
前記長手方向と直交する前記サブルーメンの断面形状は、前記メインルーメンの周方向に扁平な扁平形状である医療機器。
2.1.に記載の医療機器において、
前記操作線は、前記サブルーメン内に摺動可能に挿入され、
前記操作線の近位端を牽引することで、前記管状本体の遠位端が屈曲する医療機器。
3.1.または2.に記載の医療機器において、
前記長手方向と直交する前記サブルーメンの断面形状において、前記メインルーメンの周方向の長さをA、前記メインルーメンの周方向の長さAと直交するメインルーメン径方向の長さをBとした場合、
A/Bが1.2以上、4以下である医療機器。
4.1.乃至3.のいずれかに記載の医療機器において、
前記管状本体は、
内側に前記メインルーメンが形成された樹脂製の管状の本体部と、
前記本体部に設けられ、前記サブルーメンを区画し、前記長手方向と直交する断面形状が前記メインルーメンの周方向に扁平な扁平形状である中空管とを備える医療機器。
5.4.に記載の医療機器において、
前記中空管は、前記本体部よりも引っ張り弾性率が高い材料で構成されている医療機器。
6.4.または5.に記載の医療機器において、
前記中空管は、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体からなる群のうち、いずれかを1種以上を主成分として含む医療機器。
7.1.乃至6.のいずれかに記載の医療機器において、
前記長手方向と直交する断面において、前記サブルーメンを区画する周縁のうち、前記メインルーメン側に位置する内周縁と、前記管状本体外周側に位置する外周縁とが、前記管状本体外周側に向かって凸状に湾曲している医療機器。
8.1.乃至7.のいずれかに記載の医療機器において、
当該医療機器はカテーテルである医療機器。
9.樹脂製の管状の本体部のメインルーメン形成領域の周囲に、
長手方向と直交する断面が円形形状であるサブルーメンが形成され、内部に芯線が遊挿された中空管が配置された状態とする工程と、
前記本体部および前記中空管を加熱するとともに、前記本体部の径方向に向かって、前記本体部および中空管を外側から加圧し、前記サブルーメンの前記断面の形状を扁平形状とする工程とを含む医療機器の製造方法。
10.9.に記載の医療機器の製造方法において、
メインルーメン形成領域の周囲に、前記中空管が配置された状態とする前記工程では、
前記中空管を構成する材料を押し出しながら、前記材料に対して流体を吐出し、中空部を形成して中空管を形成し、
得られた中空管の前記中空部内に、前記芯線を挿入する医療機器の製造方法。
11.9.に記載の医療機器の製造方法において、
メインルーメン形成領域の周囲に、前記中空管が配置された状態とする前記工程では、
前記芯線を被覆するように前記中空管を構成する材料を押し出し、
その後、前記芯線を伸張して縮径させ、前記芯線を前記中空管から引き剥がして、中空管内部に前記芯線が遊挿された状態とする医療機器の製造方法。
12.11.に記載の医療機器の製造方法において、
メインルーメン形成領域の周囲に、前記中空管が配置された状態とする前記工程では、
前記芯線を被覆するように前記中空管を構成する材料を押し出し、
前記中空管を、前記本体部に形成された孔あるいは溝に、挿入し、
その後、前記芯線を伸張し、縮径させ、前記中空管から引き剥がして、中空管内部に芯線が遊挿された状態とする医療機器の製造方法。
13.9.乃至12.のいずれかに記載の医療機器の製造方法において、
前記サブルーメンの断面形状を扁平形状とする前記工程後、
前記芯線を前記サブルーメンから取り出すとともに、前記サブルーメン内に操作線を挿入する工程を実施し、
前記操作線は、前記長手方向と直交する断面が円形であり、
あるいは、
前記操作線は、前記長手方向と直交する断面が円形である複数細線を撚りあわせた撚り線であり、
前記芯線の径は、前記操作線の径よりも大きい医療機器の製造方法。