(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の繊維強化複合材料用の2液型エポキシ樹脂組成物の望ましい実施の形態について、詳細に説明する。
【0031】
本発明1の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、次の成分[A]〜成分[C]を含み、かつ前記の成分[C]の含有量が前記の成分[A]100質量部に対し、6〜25質量部である。
成分[A]:エポキシ樹脂
成分[B]:酸無水物
成分[C]:
第四級ホスホニウムブロミドまたはテトラフェニルホスホニウムハライドまたはイミダゾリウムハライド
まず、本発
明の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物の各成分について説明する
。
【0032】
[成分[A]:エポキシ樹脂]
本発明で用いられる成分[A]は、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂とは、1分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を意味する。
【0033】
本発明における成分[A]の具体例としては、水酸基を複数有するフェノールから得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコールから得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミンから得られるグリシジルアミン、オキシラン環を有するエポキシ樹脂、およびカルボキシル基を複数有するカルボン酸から得られるグリシジルエステルなどが挙げられる。
【0034】
本発明における成分[A]として用いることができる芳香族グリシジルエーテルの例としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールADのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノールから得られるジグリシジルエーテル、フェノールやアルキルフェノール等から得られるノボラックのポリグリシジルエーテル、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、ヒドロキノンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、およびビスフェノールAのジグリシジルエーテルと2官能イソシアネートを反応させて得られるオキサゾリドン骨格を有するジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
本発明における成分[A]として用いることができる脂肪族グリシジルエーテルの例としては、例えば、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、グリセリンのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのジグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールのテトラグリシジルエーテル、ドデカヒドロビスフェノールAのジグリシジルエーテル、およびドデカヒドロビスフェノールFのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
本発明における成分[A]として用いることができるグリシジルアミンの例としては、例えば、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキル置換体、および水添品などが挙げられる。
【0037】
本発明における成分[A]として用いることができるオキシラン環を有するエポキシ樹脂の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジペンテンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシキクロヘキシルメチル、アジピン酸ビス(3,4−エポキシキクロヘキシルメチル)、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、および4−ビニルシクロヘキセンジオキシドのオリゴマーなどが挙げられる。
【0038】
本発明における成分[A]として用いることができるグリシジルエステルの例としては、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、およびダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0039】
中でも、ビスフェノール化合物のジグリシジルエーテル、すなわちビスフェノール型エポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物の粘度と、得られる硬化物の耐熱性や、弾性率等の力学物性とのバランスに優れることから、本発明における成分[A]として好ましく用いられる。
【0040】
前記のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、繰り返し単位数が0〜0.2の範囲内にあることが好ましく、0〜0.1の範囲内にあることがより好ましい態様である。
【0043】
で示されるビスフェノールA型エポキシ樹脂の化学構造式におけるnに対応する。繰り返し単位数が0.2を上回る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し強化繊維への含浸性が悪化するとともに、得られる繊維強化複合材料の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0044】
このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂は、そのエポキシ当量が170〜220の範囲内にあることが好ましく、170〜195の範囲内にあることがより好ましい態様である。エポキシ当量は、通常、上記の繰り返し単位数が大きいほど大きくなり、小さいほど小さくなるという関係にある。エポキシ当量が170を下回る場合、低分子量の不純物が含まれていることがあり、成形時の揮発による表面品位の悪化に繋がる場合がある。また、かかるエポキシ当量が220を上回る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し強化繊維への含浸性が悪化するとともに、得られる繊維強化複合材料の剛性が不十分となる場合がある。
【0045】
[成分[B]:酸無水物]
本発明で用いられる成分[B]は、酸無水物、具体的にはカルボン酸無水物であり、より具体的には、成分[A](エポキシ樹脂)のエポキシ基と反応可能な酸無水物基を一分子中に1個以上有する化合物を指し、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する。酸無水物基は、一分子中に4個以下であることが望ましい態様である。
【0046】
本発明で用いられる成分[B]は、フタル酸無水物のように、芳香環を有するが脂環式構造を持たない酸無水物であっても良く、無水コハク酸のように、芳香環、脂環式構造のいずれも持たない酸無水物であっても良いが、低粘度な液状で取り扱いやすく、また硬化物の耐熱性や機械的物性の観点から、脂環式構造を有する酸無水物が用いられることが好ましく、中でもシクロアルカン環またはシクロアルケン環を有する化合物がより好ましく用いられる。
【0047】
このような脂環式構造を有する酸無水物の具体例としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルジヒドロナジック酸無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、および4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−1,2,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。中でも、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物およびそれらのアルキル置換タイプから選ばれる酸無水物は、エポキシ樹脂組成物の粘度と、得られる硬化物の耐熱性や、弾性率等の力学物性とのバランスに優れることから、本発明における成分[B]として好ましく用いられる。成分[B]として、脂環式構造を有する酸無水物を用いる場合であっても、本発明に係る2液型エポキシ樹脂組成物には、脂環式構造を持たない酸無水物を含有させることができる。
【0048】
本発明における成分[A]と成分[B]の配合量は、成分[B]中の酸無水物基数(H)と、成分[A]中のエポキシ基総数(E)の比、H/E比が0.8〜1.1の範囲を満たす配合量であることが好ましく、0.85〜1.05の範囲を満たす配合量であることがより好ましく、0.9〜1.0の範囲を満たす配合量であることがより好ましい態様である。H/E比が0.8を下回る場合、過剰に存在するエポキシ樹脂同士の重合が進み、硬化物の物性の低下を招く。また、H/E比が1.1を上回る場合、過剰に存在する硬化剤成分のために系の反応点の濃度が減少し、反応速度が低下し、十分な高速硬化性を発揮できなくなる場合がある。
【0049】
また、本発明2の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、前記の成分[A]、成分[B]を含み、全成分の混合から5分後の粘度が混合から1分後の粘度の1.5倍以上4.0倍以下であり、混合から20分後の粘度が混合から5分後の粘度の1.0倍以上2.0倍以下である温度T1を有し、その温度T1が30℃以上60℃以下である、繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物である。そして本発明2の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、全成分の混合から5分後の粘度が混合から1分後の粘度の1.7倍以上4.0倍以下がより好ましい態様である。さらに本発明2の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、混合から20分後の粘度が混合から5分後の粘度の1.0倍以上1.6倍以下であることがより好ましい態様である。
【0050】
なお、全成分の混合から5分後の粘度が混合から1分後の粘度の1.5倍以上4.0倍以下であり、混合から20分後の粘度が混合から5分後の粘度の1.0倍以上2.0倍以下である温度T1を有するか否かを判断するに際しては、30℃、40℃、60℃の3点において粘度測定を行い、いずれかの温度で上記の粘度条件を満たす場合に、前記温度T1があると判断し、いずれの温度においても上記の粘度条件を満たすことがない場合に、前記温度T1はないと判断する。つまり、温度T1は30℃、40℃、60℃のいずれかから選択される数値である。
【0051】
本発明2の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、前述の粘度挙動を示すことで、強化繊維への含浸後の樹脂フローを制御することができ、例えばRTM法では金型のパーツの僅かな隙間に樹脂が入り込みにくくなるため成形体のバリを少なくなり、例えばフィラメントワインディング法では強化繊維への樹脂含浸後の樹脂の垂れ落ちを抑制でき、樹脂材料のロスを少なくすることが可能になるとともに、成形体品位も向上する。
【0052】
繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物において、全成分の混合から5分後の粘度が混合から1分後の粘度の1.5倍以上4.0倍以下で、混合から20分後の粘度が混合から5分後の粘度の1.0倍以上2.0倍以下である温度T1を有し、その温度T1を30℃以上60℃以下とするための方法は特に限定されないが、例えば後述する成分[C]を繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物中に含める方法をあげることができる。つまり本発明2の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物は、成分[C]を含むことが好ましい。
【0053】
[成分[C]:
第四級ホスホニウムブロミドまたはテトラフェニルホスホニウムハライドまたはイミダゾリウムハライド]
本発
明の好ましい態様、において用いられる成分[C]は、
第四級ホスホニウムブロミドまたはテトラフェニルホスホニウムハライドまたはイミダゾリウムハライドである。これらは速硬化性発現のための硬化促進剤として作用する。
【0054】
第四級ホスホニウムブロミドまたはテトラフェニルホスホニウムハライドまたはイミダゾリウムハライドを本発明に適用すると、詳細な機構は定かではないが、後述する主剤液と硬化剤液を混合した後の粘度上昇が少なく安定であり繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材への含浸性に優れる一方で、硬化反応中後期での反応速度が十分に速く硬化時間を短縮でき、また無色透明の硬化物を得られること(※)を見いだした。
【0055】
以下では、成分[C]として
第四級ホスホニウムブロミドまたはテトラフェニルホスホニウムハライドまたはイミダゾリウムハライドについて述べるが、成分[C]として用いられる本発明ではない他の成分も含めて(i)第四級アンモニウム塩、(ii)第四級ホスホニウムハライド、(iii)イミダゾリウム塩のそれぞれについて、より詳細を述べる。
【0056】
(i)第四級アンモニウム塩
第四級アンモニウム塩は上記の特徴(※)に加え、特に主剤液と硬化剤液を混合した後の常温下での粘度上昇が少ないにもかかわらず、硬化時間が短い傾向があるため、繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材への含浸性に優れるとともに、高い生産性で繊維強化複合材料を成形することが可能となることから好ましい。
【0057】
本発明における成分[C]として用いられる第四級アンモニウム塩の具体例としては、例えば、第四級アンモニウムカチオンとオキソ酸アニオンからなる第四級アンモニウムオキソ酸塩、第四級アンモニウムカチオンと第17族元素のアニオンからなる第四級アンモニウムハライド、および第四級アンモニウムカチオンとホウ素を含むボレートアニオンからなる第四級アンモニウムボレート塩などが挙げられる。
【0058】
前記第四級アンモニウムオキソ酸塩の例としては、例えば、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムサルファート、酢酸テトラメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム硫酸水素塩、硝酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸セチルトリメチルアンモニウム、過塩素酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、トリ−n−オクチルメチルアンモニウム硫酸水素塩、酢酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラメチルアンモニウムp−トルエンスルホナート、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホナート、およびサリチル酸テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0059】
前記第四級アンモニウムハライドの例としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、メチルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリブチルメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチル−n−オクチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルドデシルアンモニウムクロリド、トリメチルミリスチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、テトラペンチルアンモニウムクロリド、テトラアミルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、1,1−ジメチルピペリジニウムクロリド、フェニルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、トリメチルプロピルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、トリメチル−n−オクチルアンモニウムブロミド、ノニルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジオクチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルジメチルオクチルアンモニウムブロミド、トリメチルヘプタデシルアンモニウムブロミド、トリメチルオクタデシルアンモニウムブロミド、トリメチルステアリルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジテトラドデシルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、セチルエチルジメチルアンモニウムブロミド、エチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジステアリルアンモニウムブロミド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムブロミド、テトラ(デシル)アンモニウムブロミド、テトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド、トリブチルベンジルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、エチルトリメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、エチルトリプロピルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ジメチルジステアリルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘプチルアンモニウムヨージド、テトラ−n−オクチルアンモニウムヨージド、トリメチルフェニルアンモニウムヨージド、トリエチルフェニルアンモニウムヨージド、およびベンジルトリエチルアンモニウムヨージドなどが挙げられる。
【0060】
前記第四級アンモニウムボレート塩の例としては、例えば、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、セチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、およびテトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレートなどが挙げられる。
【0061】
以上の中でも、エポキシ樹脂と硬化剤への溶解性やコストの観点から、第四級アンモニウムハライドが好ましく用いられ、第四級アンモニウムブロミドがより好ましく用いられる。
【0062】
(ii)第四級ホスホニウムハライド
第四級ホスホニウムハライドは上記の特徴(※)に加え、含浸性を損なわないレベルで30℃以上60℃以下の温度において、全成分混合から5分後の粘度が混合から1分後の粘度の1.5倍以上4.0倍以下で、かつ、混合から20分後の粘度が混合から5分後の粘度の1.0倍以上2.0倍以下という粘度挙動を示し、樹脂のフローをコントロールできることが多いことから本発明における成分[C]として好ましく用いられる。昨今成形体の形状は複雑になっており、それに対応するため金型も複数のパーツに分割が可能になるなど複雑化している。そのため、繊維強化複合材料を成形する際の強化繊維基材への含浸後は金型のパーツ間の僅かな隙間に樹脂が入り込み、成形体のバリが多くなる可能性があるが、含浸後に樹脂粘度が適度に上昇することで樹脂フローを制御し、たとえばRTM法では金型のパーツの僅かな隙間に樹脂が入り込みにくくなり成形体のバリを少なくでき、フィラメントワインディング法では樹脂の垂れ落ちを低減できることから好ましい。
【0063】
本発明における成分[C]として用いられる第四級ホスホニウムハライドの具体例としては、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムヨージド、トリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロリド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、トリブチル−n−オクチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−オクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、イソプロピルトリフェニルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニルプロピルホスホニウムブロミド、アミルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、および(1−ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムクロリドなどが挙げられる。
【0064】
本発明における成分[C]として用いられる第四級ホスホニウムハライドとしては、成分[A]や成分[B]への溶解性やコスト、さらに前述の特異的な粘度挙動発現の観点から第四級ホスホニウムブロミドが好ましい態様であり、その具体例としては、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、トリブチル−n−オクチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−オクチルホスホニウムブロミド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニルプロピルホスホニウムブロミド、アミルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、およびトリフェニル(テトラデシル)ホスホニウムブロミドなどが挙げられる。
【0065】
本発明における成分[C]として用いられる第四級ホスホニウムハライドとしては、硬化物の物性の観点からテトラフェニルホスホニウムハライドが好ましい態様であり、その具体例としては、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、およびテトラフェニルホスホニウムヨージドが挙げられる。
【0066】
(iii)イミダゾリウム塩
イミダゾリウム塩は上記の特徴(※)に加え、特に主剤液と硬化剤液を混合した後の常温下での粘度上昇が少ないにもかかわらず、硬化時間が短い傾向があるため、繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材への含浸性に優れるとともに、高い生産性で繊維強化複合材料を成形することが可能となることから好ましい。
【0067】
本発明1および本発明2の好ましい態様で用いられる成分[C]の含有量は、成分[A]100質量部に対し6〜25質量部であることが好ましく、6〜20質量部であることがより好ましい態様である。成分[C]が6質量部よりも少ない場合、硬化に要する時間が長くなり十分な高速硬化性を発揮できない場合がある。一方、成分[C]が25質量部よりも多い場合、低粘度を維持する時間が短くなり、強化繊維への含浸が困難となる場合がある。成分[B]と成分[C]を適切な配合量で用いることにより、硬化速度向上と低温での粘度安定性の両立をより容易に実現できることから好ましい。
【0068】
本発明における成分[C]として用いられるイミダゾリウム塩の具体例としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(トリフルオロメチル)ボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1,3−ジメシチルイミダゾリウムクロリド、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリド、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,3−ジイソプロピルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,3−ジ−tert−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリウムクロリド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド、2,3−ジメチル−1−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート、1−エチル−2、3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(トリフルオロメチル)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム ヨージド、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムブロミド、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムクロリド、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−[6−(メチルスルフィニル)ヘキシル]イミダゾリウムp−トルエンスルホネート、1−メチル−3−[6−(メチルチオヘキシル]イミダゾリウムp−トルエンスルホネート、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。この中でも、エポキシ樹脂と硬化剤への溶解性やコストの観点から、イミダゾリウムハライドが好ましく用いられる。
【0069】
[2液型エポキシ樹脂組成物の粘度]
本発明の2液型エポキシ樹脂組成物は、前記した成分を適正に配合して、40℃における全成分混合から1分後の粘度が0.1〜2.0Pa・sであるようにすることが好ましく、0.1〜1.5Pa・sであるようにすることがより好ましい態様である。粘度を2.0Pa・s以下とすることにより、成形温度における粘度を低くでき、繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材への注入時間が短くなり、未含浸の原因を低減することができるからである。また、粘度を0.1Pa・s以上とすることにより、成形温度での粘度が低くなりすぎず、繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材への注入時に空気を巻き込んで生じるピットを防ぐことができ、含浸が不均一になって生じる未含浸領域の発生を防ぐことができるからである。
【0070】
本発明における粘度は、ISO 2884−1(1999)における円錐−平板型回転粘度計を使用した測定方法に基づき、2液型エポキシ樹脂組成物の混合調製直後の粘度を測定することで求められる。測定装置としては、例えば、東機産業(株)製のTVE−33H型などを挙げることができる。なお、混合調製直後の粘度とは、混合調製後1分後の粘度である。
【0071】
[2液型エポキシ樹脂組成物のキュアインデックス]
本発明に係る2液型エポキシ樹脂組成物は、定温保持下での誘電測定で求められるキュアインデックスが、10%および90%となる時間を、それぞれ、t10およびt90としたとき、t10とt90が、次の3つの関係式(式1)〜(式3)を満たす特定温度T2を有することが好ましい。
・0.5≦t10≦2・・・・・(式1)
・0.5≦t90≦5・・・・・(式2)
・1<t90/t10≦2.5・・・(式3)
(ここで、t10は、温度T2における測定開始からキュアインデックスが10%に到達するまでの時間(分)を表し、t90は、温度T2における測定開始からキュアインデックスが90%に到達する時間(分)を表す)。
【0072】
誘電測定は、粘度や弾性率との一義的な対応はとれないが、低粘度液体から高弾性率非晶質固体まで変化する熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを求める上で有益である。誘電測定では、熱硬化性樹脂に高周波電界を印加して測定される複素誘電率から計算されるイオン粘度(等価抵抗率)の時間変化から、硬化プロファイルを求める。
【0073】
誘電測定装置としては、例えば、Holometrix−Micromet社製のMDE−10キュアモニターを使用することができる。測定方法としては、まず、TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に、内径が32mmで、厚さが3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を所定の温度Tに設定する。次に、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じてエポキシ樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡する。誘電測定は、1、10、100、1000、および10000Hzの各周波数で行い、装置付属のソフトウェア(ユーメトリック)を用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(σ)を得る。
【0074】
硬化所要時間tにおけるキュアインデックスは、次(式4)で求められ、キュアインデックスが10%に達する時間をt10、90%に達する時間をt90とした。
・キュアインデックス={log(αt)−log(αmin)}/{log(αmax)−log(αmin)}×100・・・(式4)
・キュアインデックス:(単位:%)
・αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
・αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
・αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0075】
誘電測定によるイオン粘度の追跡は、硬化反応が速くても比較的容易である。さらに、イオン粘度は、ゲル化以降も測定が可能であり、硬化の進行とともに増加し、硬化完了に伴って飽和するという性質をもつ。そのため、初期の粘度変化だけではなく硬化反応の進行を追跡するためにも用いることができる。上記のようにイオン粘度の対数を、最小値が0%になり、飽和値(最大値)が100%になるように規格化した数値をキュアインデックスといい、熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを記述するために用いられる。初期の粘度上昇の速さに関わる指標としてキュアインデックスが10%に到達する時間を用い、硬化時間に関わる指標としてキュアインデックスが90%に到達する時間を用いることにより、初期の粘度上昇が小さく、短時間で硬化できるために好ましい条件を記述することができる。
【0076】
本発明における上記3つの関係式の意味を要約すると、特定温度T2において2液型エポキシ樹脂組成物の流動が可能となる時間(流動可能時間)に比例するt10が0.5分以上2分以下(式1)であり、2液型エポキシ樹脂組成物の硬化がほぼ完了し、脱型が可能となる時間(脱型可能時間)に比例するt90が0.5分以上5分以下(式2)であり、そして、エポキシ樹脂組成物の脱型可能時間と流動可能時間の比が1より大きく2.5以下(式3)、となる。すなわち、上記の範囲の中ではt10が大きい場合、2液型エポキシ樹脂組成物は繊維強化複合材料を成形する際に強化繊維基材に含浸しやすく、t90は小さい場合、2液型エポキシ樹脂組成物の硬化が速いことを意味するので、t90/t10は1より大きく2.5以下の範囲において小さい方がより好ましい。
【0077】
なお、後述する成形温度とのバランスを考慮すると、エポキシ樹脂組成物の成形温度(加熱硬化温度)、すなわち、前記特定温度T2は100〜140℃の範囲であることが好ましい。特定温度T2の範囲を100〜140℃とすることにより、硬化に要する時間を短縮するのと同時に、脱型後の熱収縮を緩和させることにより、表面品位の良好な繊維強化複合材料を得ることができる。
【0078】
[2液型エポキシ樹脂組成物の配合]
本発明の2液型エポキシ樹脂組成物は、まず、成分[A]を含む主剤液と、成分[B]を主成分(なお、ここでいう主成分とは、硬化剤液中において質量基準で最大量の成分であることを意味する。)として含む硬化剤液とを、それぞれ前記した配合量で配合しておき、使用直前に前記した配合量となるように、主剤液と硬化剤液を混合して得られる。前記した成分[C]は、主剤液、硬化剤液のどちらに配合することができるが、硬化剤液に含まれることがより好ましい態様である。
【0079】
他の配合成分は、主剤液と硬化剤液のどちらに配合しても良く、あらかじめどちらかあるいは両方に混合して使用することができる。主剤液と硬化剤液は、混合前に、別々に加温しておくことが好ましく、成形型への注入など、使用の直前にミキサーを用いて混合して2液型エポキシ樹脂組成物を得ることが、樹脂の可使時間の点から好ましい。
【0080】
[成分[D]:強化繊維]
本発明の2液型エポキシ樹脂組成物には、必要に応じ成分[D]として強化繊維を含んでいても良い。かかる場合の強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維およびボロン繊維等が好適に用いられる。中でも、軽量でありながら、強度や、弾性率等の力学物性が優れる繊維強化複合材料が得られるという理由から、炭素繊維が好適に用いられる。
【0081】
強化繊維は、短繊維および連続繊維いずれであってもよく、両者を併用することもできる。高Vfの繊維強化複合材料を得るためには、連続繊維が好ましく用いられる。
【0082】
強化繊維として連続繊維を用いる場合、強化繊維の形態はストランドで用いられることもあるが、強化繊維をマット、織物、ニット、ブレイド、および一方向シート等に加工した強化繊維基材として用いることが好ましい。中でも、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vf(詳細は後述する)を高くすることが比較的容易であり、かつ取扱い性に優れていることから織物が好適に用いられる。かかる場合、織物の充填率は、高い方が高い繊維体積含有率Vfの繊維強化複合材料を得やすいため、織物の充填率は、好ましくは0.10〜0.85であり、より好ましくは0.40〜0.85であり、更に好ましくは0.50〜0.85の範囲内であることが好ましい。
【0083】
ここで、織物の充填率とは、織物の見かけ体積に対する、強化繊維の正味の体積の比をであり、W/(1000t・ρf)の式により求められる。
【0084】
・W:目付(単位:g/m
2)
・t:厚み(単位:mm)
・ρf:強化繊維の密度(単位:g/cm
3)
ここで用いる織物の目付と厚みは、JIS R 7602(1995)に準拠して求められる。
【0085】
[繊維強化複合材料]
本発明の2液型エポキシ樹脂組成物と成分[D]である強化繊維を組み合わせ、続いて2液型エポキシ樹脂組成物を硬化させることで、本発明の繊維強化複合材料が得られる。本発明の繊維強化複合材料の成形方法としては、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding:樹脂注入成形)法などの、2液型樹脂を用いる成形方法が好適に用いられる。これらのうち、生産性や成形体の形状自由度という観点から、特にRTM成形法が好適に用いられる。RTM成形法とは、成形型内に配置した強化繊維基材に樹脂を注入し硬化して強化繊維複合材料を得るものである。
【0086】
次に、RTM成形法を例に、本発明の繊維強化複合材料を製造する方法について説明する。まず、前記したようにして、本発明に係る2液型エポキシ樹脂組成物を得る。本発明の繊維強化複合材料は、加温した前記の2液型エポキシ樹脂組成物を、特定温度Tに加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入して含浸させ、その成形型内で硬化することにより製造されることが好ましい。
【0087】
2液型エポキシ樹脂組成物を加温する温度は、強化繊維基材への含浸性の点から、2液型エポキシ樹脂組成物の初期粘度と粘度上昇の関係から決められ、好ましくは30〜70℃であり、より好ましくは50〜60℃である。
【0088】
また、本発明の繊維強化複合材料の製造方法においては、成形型に複数の注入口を有するものを用い、2液型エポキシ樹脂組成物を複数の注入口から同時に、または時間差を設けて順次注入するなど、得ようとする繊維強化複合材料に応じて適切な条件を選ぶことが、様々な形状や大きさの成形体に対応できる自由度が得られるために好ましい態様である。前記の注入口の数や形状に制限はないが、短時間での注入を可能にするために注入口は多い程良く、また、その配置は、成形される繊維強化複合材料の形状に応じて樹脂の流動長を短くできる位置が好ましい。
【0089】
2液型エポキシ樹脂組成物の注入圧力は、通常0.1〜1.0MPaで、型内を真空吸引してエポキシ樹脂組成物を注入するVaRTM(Vacuum Assist Resin Transfer Molding)法も用いることができるが、注入時間と設備の経済性の点から0.1〜0.6MPaであることが好ましい。また、加圧注入を行う場合でも、2液型エポキシ樹脂組成物を注入する前に型内を減圧しておくと、ボイドの発生を抑えることができる。
【0090】
本発明の繊維強化複合材料において、用いられる強化繊維は、[成分[D]:強化繊維]に述べた通りである。
【0091】
[繊維強化複合材料の繊維体積含有率]
本発明の繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもつためには、その繊維体積含有率Vfが、好ましくは40〜85%であり、より好ましくは45〜85%の範囲内である。ここで言う、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfとは、ASTM D3171(1999)に準拠して、下記により定義され、測定される値であり、強化繊維基材に対してエポキシ樹脂組成物を注入され、硬化された後の状態でのものをいう。すなわち、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfの測定は、繊維強化複合材料の厚みhから、下記の(式5)を用いて表すことができる。
・繊維体積含有率Vf(%)=(Af×N)/(ρf×h)/10 ・・・(式5)
・Af:繊維基材1枚・1m
2当たりの質量(g/m
2)
・N:繊維基材の積層枚数(枚)
・ρf:強化繊維の密度(g/cm
3)
・h:繊維強化複合材料(試験片)の厚み(mm)。
【0092】
繊維基材1枚・1m
2当たりの質量Afや、繊維基材の積層枚数Nおよび強化繊維の密度ρfが明らかでない場合は、JIS K 7075(1991)に基づく燃焼法、硝酸分解法および硫酸分解法のいずれかにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を測定することができる。この場合に用いられる強化繊維の密度は、JIS R 7603(1999)に基づき測定した値を用いる。
【0093】
具体的な繊維強化複合材料の厚みhの測定方法としては、繊維強化複合材料の厚みを正しく測定できる方法であり、JIS K 7072(1991)に記載されているように、JIS B 7502(1994)に規定のマイクロメーターまたはこれと同等以上の精度をもつもので測定する。繊維強化複合材料が複雑な形状をしていて、測定ができない場合には、繊維強化複合材料からサンプル(測定用としてのある程度の形と大きさを有しているサンプル)を切り出して、測定することができる。
【0094】
本発明の繊維強化複合材料の好ましい形態の一つとして、単板が挙げられる。また、別の好ましい形態として、単板状の繊維強化複合材料がコア材の両面に配置されたサンドイッチ構造体、単板状の構造体に周囲を覆われた中空構造体、および単板状の繊維強化複合材料がコア材の片面に配置されたいわゆるカナッペ構造体などが挙げられる。
【0095】
サンドイッチ構造体やカナッペ構造体のコア材としては、アルミニウムやアラミドからなるハニカムコアや、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のフォームコア、およびバルサなどの木材等が挙げられる。中でも、コア材としては、軽量の繊維強化複合材料が得られるという理由から、フォームコアが好適に用いられる。
【0096】
本発明の繊維強化複合材料は、軽量でありながら強度や弾性率等の力学特性が優れている。そのため、航空機や宇宙衛星、産業機械、鉄道車両、船舶、および自動車などの構造部材や外板などに好ましく用いられる。また、色調、表面品位にも優れている。そのため、特に自動車外板用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0097】
次に、実施例により、本発明の繊維強化複合材料用2液型エポキシ樹脂組成物と繊維強化複合材料について、さらに詳細に説明する。
【0098】
<樹脂原料>
各実施例の2液型エポキシ樹脂組成物を得るために、次の樹脂原料を用いた。表1、2中のエポキシ樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
1.エポキシ樹脂
・“jER”(登録商標)1001(三菱化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量475
・“エポトート”(登録商標)YD−128(新日鉄住金化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量189
・“エポトート”(登録商標)YDF−170(新日鉄住金化学(株)製):ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170
・“セロキサイド”(登録商標)2021P((株)ダイセル製):脂環式エポキシ樹脂、エポキシ当量137
2.酸無水物
・HN−5500(日立化成(株)製):メチルヘキサヒドロフタル酸無水物
・“カヤハード”(登録商標)MCD(日本化薬(株)製):メチルナジック酸無水物
3.第四級アンモニウム塩
・テトラメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・テトラメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業(株)製)
・トリメチルフェニルアンモニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
4.第四級ホスホニウムハライド
・テトラフェニルホスホニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・エチルトリフェニルホスホニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・テトラフェニルホスホニウムクロリド(東京化成工業(株)製)
5.イミダゾリウム塩
・1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(東京化成工業(株)製)
・1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド(東京化成工業(株)製)
6.その他物質
・トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)
・メタキシレンジアミン(東京化成工業(株)製)
・テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリルボレート(北興化学工業(株)製)
・テトラブチルホスホニウムデカン酸塩(北興化学工業(株)製)
・トリ−p−トリルホスフィン(東京化成工業(株)製)
・1,2−ジメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製)
・2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製)。
【0099】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表1〜4に記載した配合比により、エポキシ樹脂を配合し主剤液とした。表1〜4に記載した配合比で、成分[B](各酸無水物)と成分[C](第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウムハライド、イミダゾリウム塩、その他の物質)を配合して硬化剤液とした。これらの主剤液と硬化剤液とを用い、これらを表1〜4に記載した配合比で混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0100】
<エポキシ樹脂組成物の粘度の測定>
ISO 2884−1(1999)における円錐平板型回転粘度計を使用した測定方法に準拠し、エポキシ樹脂組成物の混合調製後の粘度を測定し、粘度安定性の指標とした。装置には、東機産業(株)製のTVE−33H型を用いた。ここでローターは1゜34’×R24を用い、測定温度は40℃、サンプル量は1cm
3とした。
【0101】
<誘電測定>
エポキシ樹脂の硬化を追跡するために、誘電測定を行った。誘電測定装置として、Holometrix−Micromet社製のMDE−10キュアモニターを使用した。TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に、内径が32mmで、厚さが3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を120℃に設定し、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎプレスを閉じ、エポキシ樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡した。誘電測定は、1、10、100、1000および10000Hzの各周波数で行い、付属のソフトウェアを用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(α)を得た。
【0102】
次に、次の(式4)によりキュアインデックスを求め、キュアインデックスが10%と90%に到達する時間t10、t90を求めた。
・キュアインデックス={log(αt)−log(αmin)}/{log(αmax)−log(αmin)}×100 ・・・(式4)
・キュアインデックス:(単位:%)
・αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
・αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
・αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0103】
<樹脂硬化板の作成>
プレス装置下面に、一辺50mmの正方形をくり抜いた、厚さ2mmの銅製スペーサーを設置し、プレスの温度を120℃に設定し、エポキシ樹脂組成物をスペーサーの内側に注ぎ、プレスを閉じた。20分後にプレスを開け、樹脂硬化板を得た。
【0104】
<硬化物のガラス転移温度Tg測定>
樹脂硬化板から幅12.7mm、長さ40mmの試験片を切り出し、レオメーター(TAインスツルメンツ社製ARES)を用いて、ねじりDMA測定を行った。測定条件は、昇温速度5℃/分である。測定で得られた貯蔵弾性率G’の変曲点での温度を、Tgとした。
【0105】
<硬化物着色>
上記の樹脂硬化板について着色の有無を判断した。具体的には、樹脂硬化板から切り出した30mm角、厚さ2mmの試験片を使用し、分光測色計(CM−700d、コニカミノルタ(株)製)を用いて、硬化物の色調をL*a*b*表色系で表した。L*a*b*表色系は物質の色を表すのに用いられているものでL*で明度を表し、a*とb*で色度を表す。ここで、a*は赤方向、−a*は緑方向、b*は黄方向、−b*は青方向を示す。測定条件は波長380〜780nmの範囲において、D65光源、10°視野、正反射光を含まない条件での分光透過率を測定した。このとき、|a*|≦2であって、かつ|b*|≦5であるものは「着色無し」、それ以外を「着色あり」とした。
【0106】
<繊維強化複合材料の作製>
力学試験用の繊維強化複合材料としては、下記のRTM成形法によって作製した繊維強化複合材料を用いた。
【0107】
350mm×700mm×2mmの板状キャビティーを持つ金型に、強化繊維として炭素繊維織物CO6343(炭素繊維:T300−3K、組織:平織、目付:198g/m
2、東レ(株)製)をキャビティー内に9枚積層し、プレス装置で型締めを行った。次に、100℃の温度(成形温度)に保持した金型内を、真空ポンプにより、大気圧−0.1MPaに減圧し、あらかじめ50℃の温度に加温しておいたエポキシ樹脂組成物の主剤液と硬化剤液を、樹脂注入機を用いて混合し、0.2MPaの圧力で注入した。エポキシ樹脂組成物の注入開始後20分で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。
【0108】
<強化繊維への樹脂含浸性>
上記の繊維強化複合材料の作製の際の樹脂注入工程における含浸性について、繊維強化複合材料中のボイド量を基準に次の3段階で比較評価した。繊維強化複合材料中のボイド量が1%未満と、ボイドが実質的に存在しないものを「A」、繊維強化複合材料の外観に樹脂未含浸部分は認められないが、繊維強化複合材料中のボイド量が1%以上であるものを「B」、繊維強化複合材料の外観に樹脂未含浸部分が認められるものを「C」とした。
【0109】
繊維強化複合材料中のボイド量は、平滑に研磨した繊維強化複合材料断面を落斜型光学顕微鏡で観察し、繊維強化複合材料中のボイドの面積率から算出した。
【0110】
<繊維強化複合材料の脱型作業性>
上記の繊維強化複合材料の作製の際の脱型工程における作業性について、次の3段階で比較評価した。金型を開き、繊維強化複合材料をスパチュラで金型から引き剥がす際、抵抗なく簡単に脱型されるものを「A」、抵抗はあるものの繊維強化複合材料が塑性変形することなく脱型できるもの(脱型作業に時間を要するため実用上は「A」に劣る)を「B」、脱型困難もしくは脱型の際に繊維強化複合材料が塑性変形してしまうものを「C」とした。
【0111】
<繊維強化複合材料のバリ発生抑制について>
上記方法により作製された繊維強化複合材料のバリの発生について、次の3段階で目視により比較評価した。バリが発生しなかったものを「A」、僅かに発生したものを「B」、全周にわたり発生したものを「C」とした。
【0112】
表1〜4の配合比に従い、前記したようにしてエポキシ樹脂組成物を混合調製し、前記したように粘度測定、誘電測定を行った。また、このエポキシ樹脂組成物で前記した方法で樹脂硬化板を作製し、ガラス転移温度Tg測定、着色評価を行った。さらに、エポキシ樹脂組成物を用いて、前記した方法で繊維強化複合材料を作製した。
なお、以下の実施例1〜7は参考例である。
【0113】
(実施例1)
表1に示したように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」100質量部からなる主剤液と、酸無水物「HN−5500」89質量部にテトラメチルアンモニウムブロミド6質量部を80℃で加熱して相溶させた硬化剤液と、からエポキシ樹脂組成物を混合調製した。このエポキシ樹脂組成物は、40℃の温度で保持しても増粘倍率が低く抑えられ、低粘度状態が維持されていた。また、120℃の温度でのt90で表される脱型可能時間が短いため、繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、Tgが成形温度(120℃)を上回り、また着色も無かった。このため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2、3)
テトラメチルアンモニウムブロミドをそれぞれ18質量部(実施例2)、25質量部と(実施例3)したこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例4、5)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YDF−170」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」74質量部と「“カヤハード”(登録商標)MCD」26質量部、テトラメチルアンモニウムクロリドを実施例4は7質量部、実施例5は23質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく脱型することができた。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例6、7)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER”(登録商標)1001」75質量部と脂環式エポキシ樹脂「“セロキサイド”(登録商標)2021P」25質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」100質量部、トリメチルフェニルアンモニウムブロミドを実施例6は6質量部、実施例7は22質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表1に示す。
【0117】
(比較例1、2)
テトラメチルアンモニウムブロミドをそれぞれ2質量部、4質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れるものの、成分[C]の量が不十分であり、実施例に比べて硬化時間が長くなるため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は脱型可能時間が長くなり、成形時の生産性が劣った。結果を表1に示す。
【0118】
(比較例3)
テトラメチルアンモニウムブロミドを40質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。成分[C]の量が多すぎ、40℃での増粘が著しくエポキシ樹脂組成物の40℃での粘度安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を作製しようとすると、強化繊維への樹脂の含浸性が劣った。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を下回るため、繊維強化複合材料を脱型する際に変形してしまった。結果を表1に示す。
【0119】
(比較例4)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YDF−170」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」99質量部とトリエチレンジアミン6質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。本比較例では、成分[C]を含まないため、実施例に比べ硬化時間が長くなっており、このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形では生産性が劣ると共に、硬化物が着色しており成形体の品位が低下した。結果を表1に示す。
【0120】
(比較例5)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液に成分[B]、成分[C]を含まずメタキシレンジアミン18質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。本比較例では、成分[B]および成分[C]を含まないためエポキシ樹脂組成物の粘度が高く、また増粘倍率が高く粘度の安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形では、強化繊維への含浸性が劣った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例6)
成分[C]の代わりにトリ−p−トリルホスフィンを10質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。本比較例は、硬化時間は短いものの、120℃の温度での硬化では着色していた。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例8)
表2に示したように、ビスフェノールF型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YDF−170」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」74質量部と「“カヤハード”(登録商標)MCD」26質量部に、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド6質量部を90℃で加熱して相溶させた硬化剤液と、からエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物は、40℃の温度での保持時に、混合調製後5分後までは急な粘度上昇を示し、そこから20分後までは増粘が抑えられ、低粘度状態が維持されていた。また、120℃の温度でのt90で表される脱型可能時間が短いため、繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、Tgが成形温度(120℃)を上回り、また着色も無く、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができ、また成形体のバリも少なかった。結果を表2に示す。
【0123】
(実施例9、10)
エチルトリフェニルホスホニウムブロミドをそれぞれ表2に示した量としたこと以外は、実施例8と同様に実施した。いずれも混合調製後の粘度上昇とその後の40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができ、またバリも少なかった。結果を表2に示す。
【0124】
(実施例11〜13)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」、テトラフェニルホスホニウムブロミドをそれぞれ表2に示した量としたこと以外は、実施例8と同様に実施した。いずれも混合調製後の粘度上昇と40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができ、またバリも少なかった。結果を表2に示す。
【0125】
(実施例14、15)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」と「“セロキサイド”(登録商標)2021P」を組み合わせ、室温下25℃で相溶させた主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」、テトラフェニルホスホニウムブロミドを表2に示した量としたこと以外は、実施例8と同様に実施した。いずれも混合調製後の粘度上昇と40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、Tgが成形温度(120℃)近傍であり、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができ、またバリも少なかった。結果を表2に示す。
【0126】
(実施例16〜18)
表2に示したように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER”(登録商標)1001」とビスフェノールF型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YDF−170」を組み合わせ、90℃で加熱して相溶させた主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」、テトラフェニルホスホニウムクロリドを表2に示した量としたこと以外は、実施例8と同様に実施した。いずれも混合調製後の粘度上昇と40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)近傍であり、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができ、またバリも少なかった。結果を表2に示す。
【0127】
(比較例7)
比較例7はエチルトリフェニルホスホニウムブロミドを5質量部としたこと以外は、実施例12と同様に実施した。混合調製後の粘度上昇と40℃での粘度安定性に優れるものの、成分[C]の量が不十分であり、実施例に比べて硬化時間が長くなるたり、また、混合調製後の粘度上昇が不十分であり、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形時に多数のバリが生じ成形体品位が低下した。結果を表2に示す。
【0128】
(比較例8)
テトラフェニルホスホニウムブロミドを30部としたこと以外は、実施例14と同様に実施した。成分[C]の量が多すぎ、40℃での増粘が著しく40℃での粘度安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、強化繊維への含浸性が劣り、金型から取り出す際に変形を伴い、生産性が劣った。結果を表2に示す。
【0129】
(比較例9)
成分[C]に代わりテトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリルボレート17質量部としたこと以外は、実施例12と同様に実施した。比較例9では、成分[C]を含まないため、実施例に比べ硬化時間が長くなっており、また、混合調製後の粘度上昇は、表3に示したように、40℃のほかに、30℃、60℃においても、混合調製後の粘度上昇は発現しなかった。このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形は、成形体に多数のバリが生じ成形体の品位が低下した。結果を表2に示す。
【0130】
(比較例10)
成分[C]に代わりテトラブチルホスホニウムデカン酸塩18質量部としたこと以外は、実施例12と同様に実施した。比較例10では、成分[C]を含まないため、実施例に比べ硬化時間が長くなっており、また、混合調製後の粘度上昇は、表3に示したように、40℃のほかに、30℃、60℃においても、混合調製後の粘度上昇は発現しなかった。このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形は、成形体に多数のバリが生じ成形体の品位が低下した。結果を表2に示す。
【0131】
(比較例11)
硬化剤液に酸無水物「HN−5500」と、成分[C]に代わりトリ−p−トリルホスフィンを10質量部としたこと以外は、実施例8と同様に実施した。本比較例は、硬化時間は短いものの、120℃の温度での硬化では着色していた。また、混合調製後の粘度上昇、表3に示したように、40℃のほかに、30℃、60℃においても、混合調製後の粘度上昇は発現しなかった。成形体に多数のバリが生じ成形体の品位が低下した。結果を表2に示す。
【0132】
(実施例19)
表4に示したように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」100質量部からなる主剤液と、酸無水物「HN−5500」89質量部に1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド6質量部を80℃で加熱して相溶させた硬化剤液と、からエポキシ樹脂組成物を混合調製した。このエポキシ樹脂組成物は、40℃の温度で保持しても増粘倍率が低く抑えられ、低粘度の状態が維持されていた。また、120℃の温度でのt90で表される脱型可能時間が短いため、繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、Tgが成形温度(120℃)を上回り、また着色も無かった。このため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表4に示す。
【0133】
(実施例20〜22)
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドをそれぞれ10質量部(実施例20)、18質量部(実施例21)、25質量部(実施例22)としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表4に示す。
【0134】
(実施例23、24)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YDF−170」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」74質量部と「“カヤハード”(登録商標)MCD」26質量部、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミドをそれぞれ7質量部(実施例23)、24質量部(実施例24)としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回るか近傍であり、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく脱型することができた。結果を表4に示す。
【0135】
(実施例25、26)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER”(登録商標)1001」75質量部と脂環式エポキシ樹脂「“セロキサイド”(登録商標)2021P」25質量部からなる主剤液と、硬化剤液には酸無水物「HN−5500」100質量部、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミドをそれぞれ6質量部(実施例25)、22質量部(実施例26)としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を上回り、着色も無かったため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は、成形品を金型から取り出す際に変形することなく容易に脱型することができた。結果を表4に示す。
【0136】
(比較例12)
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを4質量部としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。いずれも40℃での粘度安定性に優れるものの、成分[C]の量が不十分であり、実施例に比べて硬化時間が長くなるため、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製した繊維強化複合材料は脱型可能時間が長くなり、成形時の生産性が劣った。結果を表4に示す。
【0137】
(比較例13)
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを40質量部としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。成分[C]の量が多すぎ、40℃での増粘が著しくエポキシ樹脂組成物の40℃での粘度安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を作製しようとすると、強化繊維への樹脂の含浸性が劣った。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物はTgが成形温度(120℃)を下回るため、繊維強化複合材料を脱型する際に変形してしまった。結果を表4に示す。
【0138】
(比較例14)
成分[C]の代わりに1,2−ジメチルイミダゾール10質量部としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。比較例14では、成分[C]を含まないため、実施例に比べ40℃20分後の増粘倍率が高く粘度の安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形では、強化繊維への含浸性が劣り、硬化物が着色していた。結果を表4に示す。
【0139】
(比較例15)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD−128」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液に成分[B]、成分[C]を含まず2−エチル−4−メチルイミダゾール10質量部としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。本比較例では、成分[B]および成分[C]を含まないためエポキシ樹脂組成物の粘度が高く、また増粘倍率が高く粘度の安定性に劣るため、このエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料成形では、強化繊維への含浸性が劣り、また硬化物が着色していた。った。結果を表4に示す。
【0140】
以上のように、本発明のエポキシエポキシ樹脂組成物は繊維強化複合材料の成形に適しており、RTM法などにより、外観、表面品位にも優れた繊維強化複合材料を生産性良く短時間で得られる。また、本発明のエポキシエポキシ樹脂組成物は大きな形状の繊維強化複合材料の成形にも優れており、特に自動車部材への適用に好適である。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】