(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の素子積層フィルムの製造方法、素子積層フィルムおよび表示装置について、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明の素子積層フィルムの製造方法の説明に先立って、素子積層フィルムを含む表示装置の一実施形態である有機エレクトロルミネッセンス表示装置(有機EL表示装置)について説明する。
【0024】
<有機EL表示装置>
図1は、本発明の表示装置の一実施形態である有機EL表示装置を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、
図1中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0025】
図1に示す有機EL表示装置1は、樹脂フィルムAと、画素毎に対応してそれぞれ設けられた複数の発光素子Cと、対応する発光素子Cを駆動する複数の薄膜トランジスターBと、を有している。
【0026】
なお、本実施形態において、有機EL表示装置1は、発光素子Cが発した光を樹脂フィルムA側から取り出す(透過させる)ボトムエミッション構造のディスプレイパネルである。
【0027】
樹脂フィルムA上には、複数の発光素子Cに対応して複数の薄膜トランジスターBが設けられ、これらの薄膜トランジスターBを覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層301が形成されている。
【0028】
各薄膜トランジスターBは、樹脂フィルムA上に形成されたゲート電極200と、ゲート電極200を覆うように設けられたゲート絶縁層201と、ゲート絶縁層201上にそれぞれ設けられたソース電極202およびドレイン電極204と、ソース電極202とドレイン電極204との間のチャネル領域に対応して形成され、半導体材料で構成された半導体層203と、を有している。
【0029】
なお、半導体材料としては、例えば、単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン系材料の他、酸化物半導体材料、有機半導体材料等を用いることができる。
【0030】
酸化物半導体材料としては、例えば、非金属元素である窒素(N)、酸素(O)のうち少なくとも酸素(O)を含み、半金属元素であるホウ素(B)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)およびポロニウム(Po)のうち少なくとも1種、または、金属元素であるアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、テルビウム(Pb)およびビスマス(Bi)のうち少なくとも1種を含む半導体材料が挙げられる。
【0031】
このうち、In−Ga−Zn−O(IGZO)系材料、Zr−In−Zn−O系材料、Hf−In−Zn−O系材料、In−Si−O系材料、In−Ga−O系材料、In−Sn−Zn−O系材料、In−Al−Sn−Zn−O系材料等が酸化物半導体材料として好ましく用いられる。
【0032】
また、有機半導体材料としては、例えば、アントラセン、テトラセンまたはこれらの誘導体のような低分子の有機半導体材料や、フルオレン−ビチオフェン共重合体、フルオレン−アリルアミン共重合体またはこれらの誘導体のような高分子の有機半導体材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0033】
また、平坦化層301上には、各薄膜トランジスターBに対応して、発光素子(有機EL素子)Cが設けられている。
【0034】
さらに、本実施形態では、これらの発光素子Cを覆うように封止層400が形成されている。これにより、発光素子Cの気密性が確保され、有機EL表示装置1の内部への酸素や水分の浸入を防止することができる。
【0035】
なお、本実施形態に係る発光素子Cは、それぞれ、陽極302および陰極306と、これらの間に陽極302側から順に積層された、正孔輸送層303と、発光層304と、電子輸送層305とを備える。
【0036】
また、各発光素子Cの陽極302は、各薄膜トランジスターBのドレイン電極204に導電部300を介して電気的に接続されている。
【0037】
かかる構成の有機EL表示装置1において、複数の発光素子Cが赤色用の発光素子と、緑色用の発光素子と、青色用の発光素子とを含み、各薄膜トランジスターBを用いて各発光素子Cへ印加する電圧を制御することにより、各発光素子Cから射出される光の量(発光輝度)を調整すれば、有機EL表示装置1は、フルカラー表示が可能となる。また、複数の発光素子Cを同時に発光させることにより、有機EL表示装置1は、単色での表示も可能である。
【0038】
したがって、それぞれ薄膜トランジスターBと発光素子Cとを有する複数の画素回路10を個別に駆動することで、有機EL表示装置1に所望の画像を表示することができる。
【0039】
ここで、本実施形態に係る薄膜トランジスターBは、それぞれ互いに直交する複数のデータラインと複数の選択ラインとの交点付近に設けられている。
【0040】
図2は、本発明の表示装置の一実施形態である有機EL表示装置が備えるアクティブマトリクス装置の構成を示すブロック図である。なお、
図1は、
図2に示す単一の画素回路10およびその近傍の縦断面図に相当する。
【0041】
図2に示すアクティブマトリクス装置50は、互いに直交する複数のデータライン51および複数の選択ライン52と、これらの交点付近にそれぞれ設けられた複数の画素回路10と、を備えている。そして、図示しないものの、各薄膜トランジスターBが備えるゲート電極200は、選択ライン52に接続され、ソース電極202は、データライン51に接続されている。
【0042】
一方、有機EL表示装置1は、
図2に示すように、信号処理回路55と、データ駆動回路53と、行選択回路54と、を備えている。
【0043】
有機EL表示装置1に画像を表示するときは、まず、表示する画像に基づく映像信号が図示しない映像信号生成回路において生成される。そして、生成された映像信号は、信号処理回路55に入力される。信号処理回路55では、映像信号に基づいてデータ信号と選択信号とをそれぞれ生成し、データ信号をデータ駆動回路53に入力するとともに、選択信号を行選択回路54に入力する。
【0044】
その後、データ駆動回路53からは、各データライン51にデータ信号が送出されるとともに、行選択回路54からは、各選択ライン52に選択信号が送出される。各画素回路10では、これらのデータ信号および選択信号に基づいて各薄膜トランジスターBの駆動が制御され、それに対応する発光素子Cの発光が制御される。これにより、有機EL表示装置1において所望の画像が表示されることとなる。
【0045】
なお、各画素回路10は、
図2に示すように、平面視で長方形をなす樹脂フィルムA上に載置されている。一方、信号処理回路55、データ駆動回路53および行選択回路54は、樹脂フィルムAの外部に配置されている。なお、これらの配置は、特に限定されず、各回路も樹脂フィルムA上に配置されていてもよい。
【0046】
樹脂フィルムAの構成材料としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の各種ポリマーが挙げられる。これらのポリマーの中でも、樹脂フィルムAの構成材料としては、特にポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。以下、ポリアミド系樹脂について詳述する。
【0047】
(ポリアミド系樹脂)
ポリアミド系樹脂を用いることにより、耐薬品性に優れた樹脂フィルムAを得ることができる。このような樹脂フィルムAは、その上に画素回路10を形成するとき、有機溶剤や処理ガスによる変質、劣化等を抑制し得る。
【0048】
また、ポリアミド系樹脂は、カルボキシル基を含有するジアミン由来の構造を含んでいることが好ましい。そして、このカルボキシル基を含有するジアミン由来の構造のポリアミド系樹脂中に含まれる量は、30mol%以下であることが好ましく、1〜20mol%であることがより好ましく、1〜10mol%であることがさらに好ましい。カルボキシル基を含有するジアミン由来の構造の量をこのように設定することで、ポリアミド系樹脂を含む樹脂フィルムAは、優れた耐薬品性と優れた光学特性とを両立することができる。
【0049】
また、ポリアミド系樹脂は、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミドおよび脂環式ポリアミドのうちの1種または2種以上を含む樹脂であるのが好ましく、芳香族ポリアミドを含む樹脂がより好ましい。このようなポリアミド系樹脂は、樹脂フィルムAに対し、有機EL表示装置1での使用に適した特性を付与することができる。すなわち、ポリアミド系樹脂は、樹脂フィルムAに対し、画素回路10の製造に耐え得る十分な耐薬品性を付与するとともに、有機EL表示装置1において優れた画質を実現可能な光学特性を付与することができる。
【0050】
また、芳香族ポリアミドは、エポキシ基と反応可能な1つ以上の官能基を含む芳香族ポリアミドであることが好ましい。さらに、エポキシ基と反応可能な1つ以上の官能基を含む芳香族ポリアミドは、カルボキシル基を含む芳香族ポリアミドであることがより好ましい。このような芳香族ポリアミドは、カルボキシル基を含んでいるので、形成される樹脂フィルムAの耐溶剤性を向上させることができる。樹脂フィルムAの耐溶剤性を向上させることにより、樹脂フィルムA上に、発光素子Cを形成する際に用いる液状材料の選択の幅を広げることができる。
【0051】
さらに、芳香族ポリアミドは、全芳香族ポリアミドであることが好ましい。これにより、形成される樹脂フィルムAの耐薬品性と光学特性とをより高めることができる。なお、全芳香族ポリアミドとは、その主骨格に含まれるアミド結合同士が直鎖状または環状をなす脂肪族化合物で連結されることなく、全て芳香族化合物(芳香族環)で連結されているポリアミドをいう。
【0052】
このような芳香族ポリアミドは、下記一般式(I)および(II)で表される繰り返し単位(モノマー成分)のうち少なくとも一方を有することが好ましいが、双方を有することがより好ましい。
(ただし、xは、前記繰り返し構造(I)のモル%を示し、nは、1〜4の整数を表し、yは、前記繰り返し構造(II)のモル%を示し、Ar
1は、下記一般式(III)または(III’)で表され、
[p=4、R
1、R
4、R
5は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール又はハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
1は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。]、
Ar
2は、下記一般式(IV)または(V)で表され、
[p=4、R
1、R
4、R
5は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール又はハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
1は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。]、
Ar
3は、、下記一般式(VI)または(VII)で表され、
[t=1〜3、R
9、R
10、R
11は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール、ハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
3は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。])。
【0053】
また、上述の芳香族ポリアミドに関し、本発明の1つまたは複数の実施形態において、上記一般式(I)および(II)は、芳香族ポリアミドが極性溶剤または1つ以上の極性溶剤を含む混合溶剤に対して可溶性を有するよう選択される。本発明の1つまたは複数の実施形態において、一般式(I)のxは90.0〜99.99mol%の範囲で変化し、一般式(II)のyは10.0〜0.01mol%の範囲で変化する。本発明の1つまたは複数の実施形態において、一般式(I)のxは90.1〜99.9mol%の範囲で変化し、一般式(II)のyは9.9〜0.1mol%の範囲で変化する。本発明の1つまたは複数の実施形態において、一般式(I)のxは90.0〜99.0mol%の範囲で変化し、一般式(II)のyは10.0〜1.0モル%の範囲で変化する。本発明の1つまたは複数の実施形態において、一般式(I)のxは92.0〜98.0mol%の範囲で変化し、一般式(II)のyは8.0〜2.0mol%の範囲で変化する。本発明の1つまたは複数の実施形態において、一般式(I)および(II)で表される複数の繰り返し単位中のAr
1、Ar
2、Ar
3は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
また、芳香族ポリアミドは、剛直構造(剛直成分)を50mol%以上の量で含むことが好ましく、65mol%以上の量で含むことがより好ましく、80mol%以上の量で含むことがさらに好ましく、95mol%以上の量で含むことが特に好ましい。芳香族ポリアミドの剛直構造の量をかかる範囲に設定することにより、芳香族ポリアミドの結晶性がより向上する。このため、樹脂フィルムAの耐薬品性をより高めることができる。
【0055】
なお、本明細書中において、剛直構造とは、芳香族ポリアミドを構成するモノマー成分(繰り返し単位)であって、その主骨格に直線性を有するモノマー成分を言う。具体的には、剛直構造としては、例えば、上記一般式(I)で表される繰り返し単位および上記一般式(II)で表される繰り返し単位であって、Ar
1が、下記一般式(A)または(B)で表され、
[p=4、R
1、R
4、R
5は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール又はハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
1は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。]、
Ar
2が、下記一般式(C)または(D)で表され、
[p=4、R
6、R
7、R
8は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール、ハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
2は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。]、
Ar
3が、下記一般式(E)または(F)で表される繰り返し単位である。
[t=1〜3、R
9、R
10、R
11は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール、ハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
3は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。]。
【0056】
さらに、Ar
1の具体例としては、例えば、テレフタロイルジクロライド(TPC:Terephthaloyl dichloride)由来の構造が挙げられ、Ar
2の具体例としては、例えば、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビストリフルオロメチルベンジジン(PFMB:4, 4’-Diamino-2, 2’-bistrifluoromethylbenzidine)由来の構造が挙げられ、Ar
3の具体例としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェン酸(DADP:4, 4’-Diaminodiphenic acid)由来の構造、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS:4,4’-diaminodiphenyl sulfone)由来の構造、および3,5−ジアミノベンゾイン酸(DAB:3, 5-Diaminobenzoic acid)由来の構造が挙げられる。
【0057】
また、芳香族ポリアミドは、その数平均分子量(Mn)が、6.0×10
4以上であることが好ましく、6.5×10
4以上であることがより好ましく、7.0×10
4以上であることがより好ましく、7.5×10
4以上であることがより好ましく、8.0×10
4以上であることがさらに好ましい。また、数平均分子量が、1.0×10
6以下であることが好ましく、8.0×10
5以下であることがより好ましく、6.0×10
5以下であることがより好ましく、4.0×10
5以下であることがさらに好ましい。上述の条件を満足する芳香族ポリアミドを用いることにより、有機EL表示装置1における下地層としての機能を樹脂フィルムAに確実に発揮させることができる。
【0058】
なお、本明細書中において、ポリアミドの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)にて測定される。
【0059】
さらに、芳香族ポリアミドの分子量分布(=Mw/Mn)は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.6以下であることがより好ましく、2.4以下であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。上述の条件を満足する芳香族ポリアミドを用いることにより、有機EL表示装置1における下地層としての機能を樹脂フィルムAに確実に発揮させることができる。
【0060】
また、芳香族ポリアミドは、芳香族ポリアミドを合成した後に再沈殿の工程を経ることで得られることが好ましい。再沈殿の工程を経て得られた芳香族ポリアミドを用いることにより、有機EL表示装置1における下地層としての機能を樹脂フィルムAに確実に発揮させることができる。
【0061】
(ポリアミド系樹脂の製造方法)
次に、上述したポリアミド系樹脂の製造方法の一例について説明する。
【0062】
上述したポリアミド系樹脂は、例えば、下記の工程(a)〜(e)を含む製造方法を用いて製造することができる。
なお、以下では、ポリアミド系樹脂としてエポキシ基と反応可能な1つ以上の官能基を含む芳香族ポリアミドを用い、ポリアミド系樹脂中に無機フィラーが含まれる場合について説明する。
ただし、ポリアミド系樹脂は、下記の製造方法で製造されたポリマーに限定されるものではない。
【0063】
工程(a)は、少なくとも1つの芳香族ジアミンを溶剤に溶解させることにより、混合物を得るために実行される。工程(b)は、溶剤内において、少なくとも1つの芳香族ジアミンを少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸ジクロライドと反応させることにより、遊離塩酸とポリアミド溶液を得るために実行される。工程(c)は、捕獲試薬による反応によって、混合物中から、遊離塩酸を除去するために実行される。工程(d)は、無機フィラーを混合物中に添加するために実行される。工程(e)は任意の(選択的な)工程であって、多官能エポキシドを添加するために実行される。
【0064】
本製造方法において用いられる芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、例えば、下記一般式で表される化合物を含むものが挙げられる。
【0065】
p=4、R
1、R
4、R
5は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール又はハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
1は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。
【0066】
以上のような芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、具体的には、下記のものが挙げられる。
テレフタロイルジクロライド(Terephthaloyl dichloride)(TPC)
【0067】
イソフタロイルジクロライド(Isophthaloyl dichloride)(IPC)
【0068】
4,4−ビフェニルジカルボニルジクロライド(4, 4’-Biphenyldicarbonyl dichloride)(BPDC)
【0069】
ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、芳香族ジアミンは、例えば、下記一般式で表される化合物を含むものが挙げられる。
ここで、p=4、m=1または2、t=1〜3、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール又はハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、各R
6は同一であっても、異なっていてもよく、R
7はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、R
8はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、R
9はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、R
10はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、R
11はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、G
2およびG
3は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基である。
【0070】
以上のような芳香族ジアミンとしては、具体的には、下記のものが挙げられる。
4,4’−ジアミノ−2,2’−ビストリフルオロメチルベンジジン(4, 4’-Diamino-2, 2’-bistrifluoromethylbenzidine)(PFMB)
【0071】
9,9ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(9, 9-Bis4-aminophenyl)fluorine)(FDA)
【0072】
9,9ビス(3−フルオロ−4アミノフェニル)フルオレン(9,9-Bis(3-fluoro-4-aminophenyl)fluorine)(FFDA)
【0073】
4,4’−ジアミノジフェン酸(4, 4’-Diaminodiphenic acid)(DADP)
【0074】
3,5−ジアミノベンゾイン酸(3, 5-Diaminobenzoic acid)(DAB)
【0075】
4,4’−ジアミノ−2,2−ビストリフルオロメトキシベンジジン(4,4’-Diamino-2,2’-bistrifluoromethoxylbenzidine)(PFMOB)
【0076】
4,4’−ジアミノ−2,2’−ビストリフルオロメチルジフェニルエーテル(4,4’-Diamino-2,2’-bistrifluoromethyldiphenyl ether)(6FODA)
【0077】
ビス(4−アミノ−2−トリフルオメチルフェニルオキシル)ベンゼン(Bis(4-amino-2-trifluoromethylphenyloxyl) benzene)(6FOQDA)
【0078】
ビス(4−アミノ−2トリフルオロメチルフェニルオキシル)ビフェニル(Bis(4-amino-2-trifluoromethylphenyloxyl) biphenyl)(6FOBDA)
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(Diaminodiphenyl sulfone)(DDS)
なお、ジアミノジフェニルスルホンは、上記式のような4,4’− ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-Diaminodiphenyl sulfone)であってもよいし、3,3’− ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-Diaminodiphenyl sulfone)または2,2’− ジアミノジフェニルスルホン(2,2’-Diaminodiphenyl sulfone)であってもよい。
【0079】
ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、エポキシ基と反応可能な官能基を含む芳香族ジアミンの官能基は、ジアミン混合物の約1mol%より多く、約10mol%より少ない。ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、エポキシ基と反応可能な官能基を含む芳香族ジアミンの官能基は、カルボキシル基である。ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、ジアミンのいずれか1つは、4,4’−ジアミノジフェニン酸または3,5−ジアミノベンゾイン酸である。ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、エポキシ基と反応可能な官能基を含む芳香族ジアミンの官能基は、ヒドロキシル基である。
【0080】
ポリアミド溶液を製造する方法の1つまたは複数の実施形態において、芳香族ポリアミドは、溶剤中の縮合重合を介して精製される。ここで、反応中に発生した塩酸は、酸化プロピレン(PrO)のような捕獲試薬によって捕獲される。なお、塩酸と捕獲試薬との反応から揮発性生成物が産出される。
【0081】
本方法内でのポリアミド溶液使用の観点から、捕獲試薬は、酸化プロピレンである。捕獲試薬は、工程(c)の前またはその最中に添加される。工程(c)の前またはその最中に捕獲試薬を添加することにより、工程(c)後の混合物内での凝縮の発生や粘性度を低減させることができ、これにより、ポリアミド溶液の生産性を向上させることができる。捕獲試薬が酸化プロピレンのような有機試薬である場合、これら効果が特に顕著になる。
【0082】
樹脂フィルムAの耐熱性向上の観点から、本方法は、さらに、芳香族ポリアミドの末端−COOH基および末端−NH
2基の一方または双方を末端封止する工程を含む。芳香族ポリアミドの末端は、各末端が−NH
2である場合、ベンゾイルクロライドを用いた反応によって末端封止することができ、各末端が−COOHである場合、アニリンを用いた反応によって末端封止することができる。しかしながら、末端封止の方法はこれに限定されない。
【0083】
多官能エポキシドは、フェノールエポキシドおよび環状脂肪族エポキシドからなる群から選択される。具体的には、多官能エポキシドは、ジグリシジル1,2−シクロヘキサンカルボキシレート、トリグリシジルイソシアヌル、テトラグリシジル4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,2−ビス(4−グリシジルオキシルフェニル)プロパン、およびこれらの高分子量同族体、ノボラックエポキシド、7H−[1,2−b:5,6−b’]ビスオキシレンオクタハイドロ、およびエポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを含む群から選択される。多官能エポキシドの量は、芳香族ポリアミドの重量の約2〜10%である。
【0084】
本方法でのポリアミド溶液使用の観点から、芳香族ポリアミドは、最初に、無機フィラーおよび多官能エポキシドの少なくとも一方を添加する前の溶剤内での沈殿および再溶解によって、ポリアミド溶液から分離される。
【0085】
再沈殿は通常の方法で行うことができる。再沈殿は、例えば、芳香族ポリアミドをメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等への添加により沈殿させ、芳香族ポリアミドを洗浄し、溶剤に溶解することにより実行される。
この溶剤としては、後述のものが使用できる。
【0086】
本方法でのポリアミド溶液使用の観点から、無機塩を含まないようポリアミド溶液が製造される。
以上のような工程を経ることによりポリアミド系樹脂を製造することができる。
【0087】
なお、樹脂フィルムAのナトリウム線(D線)における全光線透過率は、好ましくは40%以上とされ、より好ましくは45%以上とされ、さらに好ましくは50%以上とされ、特に好ましくは60%以上とされる。樹脂フィルムAの全光線透過率を上述のような範囲内に設定することにより、樹脂フィルムAを、ディスプレイ用素子、光学用素子、照明用素子またはセンサー素子の製造に好適に用いることができる。
【0088】
また、樹脂フィルムAの厚み方向の波長400nmのリタデーション(Rth)は、200.0nm以下であることが好ましく、190.0nm以下であることがより好ましく、180.0nm以下であることがより好ましく、175.0nm以下であることがより好ましく、173.0nm以下であることがさらに好ましい。なお、樹脂フィルムAのRthは、位相差測定装置にて算出することができる。
【0089】
また、樹脂フィルムAは、その熱膨張係数(CTE)が100.0ppm/K以下であることが好ましく、80ppm/K以下であることがより好ましく、60ppm/K以下であることがより好ましく、40ppm/K以下であることがさらに好ましい。なお、樹脂フィルムAのCTEは、熱機械分析装置(TMA)にて測定することができる。
【0090】
RthおよびCTEをそれぞれ前記範囲内とすることにより、樹脂フィルムAを備える基板において、反りが生じるのを的確に抑制または防止することができる。そのため、かかる基板を用いて得られる、有機EL表示装置1の製造歩留まりを向上させることができる。
【0091】
なお、樹脂フィルムAの平均厚さは、特に限定されないが、1〜50μm程度であるのが好ましく、5〜30μm程度であるのがより好ましい。樹脂フィルムAの平均厚さを前記範囲内にすることで、画素回路10を支持するのに必要かつ十分な機械的強度を樹脂フィルムAに付与することができる。また、それとともに、良好な可撓性を樹脂フィルムAに付与することができる。
【0092】
(フィラー)
また、樹脂フィルムAには、必要に応じて各種フィラーが添加されていてもよい。これにより、樹脂フィルムAの熱線膨張率を低減させることができる。
このフィラーの構成材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物、マイカ等の鉱物、ガラス、またはこれらの混合物が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ガラスの種類としては、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、低誘電率ガラス、高誘電率ガラス等が挙げられる。
また、フィラーとしては、特に無機フィラーが好ましく用いられる。無機フィラーの形状としては、例えば、粒子状、繊維状等が挙げられる。
【0093】
無機フィラーが繊維である場合、前記繊維の平均繊維径は1〜1000nmであることが好ましい。上述のような平均繊維径を有する無機フィラーを含む樹脂組成物(ポリマー溶液)を用いることによって、光学特性や可撓性を損なうことなく、樹脂フィルムAの熱線膨張率を低減させることができる。
【0094】
ここで、前記繊維は、複数の単繊維から構成されるものであってもよい。この複数の単繊維は、引き揃えられることなく、かつ相互間にマトリックス樹脂の液状前駆体が入り込むように十分に離隔している。この場合、平均繊維径は複数の単繊維の平均径となる。また、前記繊維は、複数本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよく、この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。また、フィルムの透明性向上の観点から、前記繊維の平均繊維径は小さいほど好ましく、また、樹脂フィルムAの製造に用いられる樹脂組成物に含まれるポリマー(ポリアミド等)の屈折率と繊維の屈折率とが近いほど好ましい。例えば、繊維に使用する材質とポリマーの589nmにおける屈折率の差が0.01以下の場合は、繊維径に関わらず透明性の高いフィルムを形成することが可能となる。また、平均繊維径の測定方法としては、例えば電子顕微鏡による観察等が挙げられる。
【0095】
また、無機フィラーが粒子である場合、前記粒子の平均粒子径は1〜1000nmであることが好ましい。上述のような平均粒子径を有する粒子の形態の無機フィラーを含む樹脂組成物を用いることによって、光学特性や可撓性を損なうことなく、樹脂フィルムAの熱線膨張率を低減させることができる。
ここで、前記粒子の平均粒子径は、平均投影円相当直径のことを言う。
【0096】
前記粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、球状もしくは真球状、ロッド状、平板状、またはこれらの結合形状が挙げられる。
【0097】
また、樹脂組成物における固形分中の無機フィラーの割合としては、特に限定されないが、1体積%〜50体積%であることが好ましく、2体積%〜40体積%であることがより好ましく、3体積%〜30体積%であることがさらに好ましい。さらに、樹脂組成物における固形分中のポリマーの割合は、特に限定されないが、50体積%〜99体積%であることが好ましく、60〜98体積%であることがより好ましく、70〜97体積%であることがさらに好ましい。
【0098】
なお、本明細書中において、「固形分」とは、樹脂組成物中の溶剤以外の成分をいう。固形分の体積換算、無機フィラーの体積換算、および/またはポリマーの体積換算は、ポリマー溶液を調製する際の成分の投入量から算出できる。または、ポリマー溶液から溶剤を除去することでも算出できる。
【0099】
(エポキシ試薬)
また、樹脂組成物は、必要に応じて、樹脂組成物の硬化温度を低下させ、かつ、この樹脂組成物から得られる樹脂フィルムAの有機溶媒への耐性を向上させる観点から、ポリアミド系樹脂に加えて、エポキシ試薬を含んでもよい。また、樹脂組成物中に含まれるエポキシ試薬は、多官能エポキシドであることが好ましい。
【0100】
本発明の1つまたは複数の実施形態において、多官能エポキシドは、2つ以上のグリシジルエポキシ基を含むエポキシド、または2つ以上の脂環式基を含むエポキシドである。
【0101】
樹脂組成物が多官能エポキシドを含有する場合、多官能エポキシドの含有量としては、本発明の1つまたは複数の実施形態において、ポリアミド系樹脂の重量に対して約0.1〜10重量%が好ましい。
【0102】
多官能エポキシドを含有する樹脂組成物は、本発明の1つまたは複数の実施形態において、樹脂フィルムAの硬化温度を低くすることができ、限定されない1つまたは複数の実施形態において、樹脂フィルムAの硬化温度を約200℃〜約300℃とすることができる。
また、多官能エポキシドを含有する樹脂組成物は、本発明の1つまたは複数の実施形態において、樹脂組成物から作製された樹脂フィルムAに、有機溶媒に対する耐性を付与できる。該有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセタミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)等の極性溶媒が含まれる。
【0103】
多官能エポキシドを含有する樹脂組成物における硬化温度の低下と有機溶媒に対する耐性向上の効果は、エポキシドによる架橋により得られると推測される。エポキシドによる架橋を促進する観点から、かかる樹脂組成物中に含まれるポリアミド系樹脂は、本発明の1つまたは複数の実施形態において、その主鎖にフリーのペンダンドカルボキシル基を有するか、あるいは、カルボキシル基を有するジアミンモノマーを用いて合成されることが好ましい。
【0104】
本発明の1つまたは複数の実施形態において、多官能エポキシドは、下記一般構造(α)および(β)を含む群から選択される。
(ただし、lは、グリシジル基の数を表し、Rは、
および
を含む群から選択される[m=1〜4、nおよびsは、それぞれ独立した単位の平均数であって、0〜30であり、各R
12は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン(フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物)、アルキル、ハロゲン化アルキル等の置換アルキル、ニトロ、シアノ、チオアルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ等の置換アルコキシ、アリール、ハロゲン化アリール等の置換アリール、アルキルエステル、および置換アルキルエステル、並びにその組み合せからなる群から選択され、G
4は、共有結合、CH
2基、C(CH
3)
2基、C(CF
3)
2基、C(CX
3)
2基(但しXはハロゲン)、CO基、O原子、S原子、SO
2基、Si(CH
3)
2基、9,9−フルオレン基、置換9,9−フルオレン、およびOZO基からなる群から選択され、Zは、フェニル基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、9,9−ビスフェニルフルオレン基、および置換9,9−ビスフェニルフルオレン等のアリール基又は置換アリール基であり、R
13は、水素原子またはメチル基であり、R
14は、二価有機基である。]。)
(ただし、環状構造(cyclic structure)は、
および
を含む群から選択される[R
15は、炭素数2〜18を有するアルキル鎖であり、該アルキル鎖は、直鎖、分枝鎖または環状骨格を有する鎖であり、mおよびnは、それぞれ独立して、1〜30の整数であり、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立した0〜30の整数である。]。)
【0105】
本発明の1つまたは複数の実施形態において、多官能エポキシドは、
を含む群から選択される(R
16は、炭素数2〜18を有するアルキル鎖であり、該アルキル鎖は、直鎖、分枝鎖または環状骨格を有する鎖であり、tおよびuは、それぞれ独立して、1〜30の整数である)。
【0106】
また、本発明の1つまたは複数の実施形態において、多官能エポキシドとしては、具体的には、
Diglycidyl 1,2-cyclohexanedicarboxylate (DG)
Triglycidyl isocyanurate (TG)
Tetraglycidyl 4, 4’-diaminophenyl methane (TTG)
(3,3’, 4,4’-diepoxy) bicyclohexyl
が挙げられ、その他にも、
等が挙げられる。
【0107】
(その他の成分)
さらに、樹脂フィルムAは、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料等が挙げられる。
なお、樹脂フィルムAは、以上のようなポリマー、フィラーおよびその他の成分等と前述した溶剤とを混合し、得られたポリマー溶液(樹脂組成物)を用いて製造される。
【0108】
ポリマー溶液の製造用の溶剤としては、例えば、クレゾール;N,N−ジメチルアセトミド(DMAc);N−メチル−2−ピロリジノン(NMP);ジメチルスルホキシド(DMSO);1,3−ジメチル−イミダゾリジノン(DMI);N,N−ジメチルホルムアミド(DMF);ブチルセロソルブ(BCS);γ−ブチロラクトン(GBL);もしくはクレゾール、N,N−ジメチルアセトミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO);1,3−ジメチル−イミダゾリジノン(DMI)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ブチルセロソルブ(BCS)、γ−ブチロラクトン(GBL)の少なくとも1つを含む混合溶剤;これらの組み合わせ;またはこれらの極性溶剤を少なくとも1つ含む混合溶剤であることが好ましい。
【0109】
以上、有機EL表示装置1について説明したが、本発明の表示装置は、有機EL表示装置への適用に限定されず、無機EL表示装置、液晶表示装置、電子ペーパーのような表示装置にも適用可能である。
【0110】
また、樹脂フィルムAとその上に設けられた複数の薄膜トランジスターBとを有する構造体を「素子積層フィルム(本発明の素子積層フィルムの実施形態)」としたとき、本発明の素子積層フィルムは、表示装置への適用に限定されず、例えば演算装置、駆動装置、制御装置、光電変換装置、照明装置、センサー装置等の表示装置以外の各種デバイスにも適用可能である。
【0111】
また、上述したアクティブマトリクス装置は、上記の構成に限定されず、他の構成であってもよい。
【0112】
<有機EL表示装置の製造方法>
≪第1実施形態≫
次に、本発明の素子積層フィルムの製造方法の第1実施形態を含む有機EL表示装置1の製造方法について説明する。
【0113】
図3〜5は、それぞれ
図1に示す有機EL表示装置を製造する方法(本発明の素子積層フィルムの製造方法の第1実施形態)を説明するための縦断面図である。また、
図6は、
図3(b)に示す有機EL表示装置の平面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、
図3〜5中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0114】
有機EL表示装置1を製造する方法は、[1]キャリア基板7を用意し、その上面71(主面)の縁部711(第1部分)に沿って無機コーティング72を形成する表面処理工程と、[2]上面71上に樹脂溶液A0(樹脂組成物)を塗布して樹脂フィルムAを形成し、これにより積層体8(フィルム付き基板)を得るフィルム形成工程と、[3]樹脂フィルムAに対して画素回路10(素子)を形成するとともに封止層400を形成する素子形成工程と、[4]積層体8の縁部711に対応する部分を除去するように積層体8を厚さ方向に切断する切断工程と、[5]キャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離(樹脂フィルムAとキャリア基板7とを分離)する剥離工程と、を有する。
【0115】
以下、各工程について順次説明する。
[1]表面処理工程
[1−1]まず、キャリア基板7を用意する(
図3(a)参照)。
【0116】
キャリア基板7は、樹脂フィルムAを支持する十分な剛性を有する限り、いかなる基板であってもよい。なお、有機EL表示装置1の製造プロセスにおいて、キャリア基板7が高温に曝される場合には、耐熱性を有する基板が好ましく用いられる。
【0117】
キャリア基板7の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では一例として長方形をなしている。
【0118】
キャリア基板7の構成材料としては、例えば、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラスのような各種ガラス材料、単結晶シリコン、多結晶シリコンのような各種シリコン材料、サファイア、アルミナのような各種セラミックス材料、ステンレス鋼、アルミニウムのような各種金属材料、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートのような各種樹脂材料等が挙げられる。キャリア基板7の構成材料としては、特に透光性を有する材料が好ましく用いられ、ガラス材料がより好ましく用いられる。ガラス材料は、透光性を有するため、樹脂溶液A0を硬化させる際、キャリア基板7側からの露光が可能になるという点で有用である。また、ガラス材料は、比較的安価であり、耐摩耗性も高いことから、製造プロセスの低コスト化という観点からも有用である。
【0119】
また、ガラス材料としては、特にソーダガラスまたは無アルカリガラスが好ましく用いられ、ソーダガラスがより好ましく用いられる。これらは、ガラス材料として広く流通しているため、入手が容易であるとともに、品質が比較的安定している。このため、面積が広い基板でも平坦度が高いので、かかる基板をキャリア基板7として用いることにより、最終的に平坦性に優れた有機EL表示装置1を製造することができる。また、かかるキャリア基板7は、表面粗さも小さいので、後述する剥離工程において樹脂フィルムAにかかる負担を抑えつつ、樹脂フィルムAをキャリア基板7から剥離し易くなる。
【0120】
さらに、ソーダガラスは、樹脂フィルムAとの密着性が比較的小さいという特徴を有する。このため、ソーダガラスで構成されたキャリア基板7を用いることにより、後述する剥離工程において樹脂フィルムAにかかる負担を特に抑えつつ、樹脂フィルムAをキャリア基板7から剥離することができる。
【0121】
なお、キャリア基板7は、単層(単板)で構成される必要はなく、複数層で構成されていてもよい。その場合、後述するフィルム形成工程において、樹脂フィルムAに最も近く位置する層の構成材料として、上述したガラス材料を用いるようにすればよい。
【0122】
また、キャリア基板7の上面71には、必要に応じて、各種研磨処理、各種粗面化処理等が施されていてもよい。
【0123】
[1−2]次に、
図3(b)に示すように、キャリア基板7の上面71(主面)の縁部711(第1部分)に沿って無機コーティング72を形成する。この無機コーティング72を設けることにより、上面71の縁部711の樹脂フィルムAに対する密着性を相対的に高めることができる。すなわち、上面71を縁部711(第1部分)と中央部712(第2部分)とに分けて規定したとき、縁部711に無機コーティング72を形成することによって、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力を、中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力よりも大きくすることができる。これにより、樹脂フィルムAがキャリア基板7から剥がれ難くなり、有機EL表示装置1の製造プロセスの間、キャリア基板7によって樹脂フィルムAをより確実に支持することができる。
【0124】
無機コーティング72の構成材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化亜鉛、インジウム酸化物(IO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)のような各種酸化物材料、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウムのような各種窒化物材料、炭化ケイ素、炭化チタンのような各種炭化物材料等が挙げられる。無機コーティング72の構成材料としては、特に酸化物材料が好ましく用いられる。酸化物材料によれば、無機コーティング72に対する樹脂フィルムAの密着力を特に高めることができるので、無機コーティング72の面積が小さくても樹脂フィルムAをより確実に支持することができる。このため、後述する切断工程において、積層体8の除去する部分の面積を十分に小さくすることができ、廃棄物の量、すなわち製造プロセス上の無駄を抑えることができる。それとともに、キャリア基板7の大きさを変えることなく、より大型の有機EL表示装置1を製造することができる。
【0125】
また、本実施形態では、キャリア基板7の上面71の縁部711に無機コーティング72を形成している。具体的には、本実施形態に係るキャリア基板7は、
図6に示すように、平面視形状が長方形をなしており、上面71の縁部711の平面視形状は、キャリア基板7の外縁に沿って、長方形の枠状をなしている。
【0126】
そして、このように上面71の外縁に沿って設定された縁部711に無機コーティング72を形成することにより、例えば製造プロセス中に積層体8に対して外力が加えられた場合でも、積層体8の外縁においてキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離が生じ難くなる。このため、積層体8の外縁を起点にした剥離が進展するのを防止し、製造プロセス中にキャリア基板7から樹脂フィルムAが脱落してしまうのを防止することができる。
【0127】
また、換言すれば、本実施形態では、中央部712を取り囲むように無機コーティング72が形成されている(第1部分が設けられている)。このため、製造プロセス中に積層体8に対して外力が加えられ、仮に中央部712において樹脂フィルムAがキャリア基板7から剥離したとしても、樹脂フィルムAがキャリア基板7から脱落したり、捲れたり、キャリア基板7に対して位置がずれたりするのを防止することができる。この結果、後述する素子形成工程において、高い位置精度で画素回路10(素子)を形成することができ、高精細の有機EL表示装置1を製造することが可能になる。
【0128】
なお、本製造方法では、最終的にキャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離することによって有機EL表示装置1を製造する。そのため、後述する切断工程において積層体8の無機コーティング72を形成した縁部711(第1部分)に対応する部分を除去することにより、その後の剥離工程における剥離作業を容易にしている。このため、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力は、剥離工程前においてキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離し難くする(樹脂フィルムAを脱落させ難くする)という観点からは、できるだけ大きい方が好ましい。
【0129】
一方、中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力は、剥離工程においてキャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離し易くするという観点からは、できるだけ小さい方が好ましい。しかしながら、密着量が小さ過ぎると、切断工程後において、何らのきっかけも与えることなく、キャリア基板7から樹脂フィルムAが脱落してしまうおそれがある。このため、切断工程後の製造プロセスにおける積層体8のハンドリング性の観点から、中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力は、何らのきっかけもなく剥離しない程度のであることが好ましい。
【0130】
なお、本明細書における「密着力」とは、単位面積当たりの密着強度をいい、その値は、単位として例えばMPa等を用いて表すことができる。
【0131】
また、本発明では、無機コーティング72を形成する領域が、上面71の縁部711に限定されることはない。例えば、後述する切断工程において積層体8の除去する部分を縁部711以外に対応するように設定する場合には、それに応じて無機コーティング72を形成する領域を設定するようにすればよい。また、キャリア基板7上に複数の有機EL表示装置1を製造し、その後、切断して個々の有機EL表示装置1に分割した後、最終的にキャリア基板7から有機EL表示装置1を剥離するような場合にも、無機コーティング72を形成する領域は、分割線のパターンに応じて縁部711以外の領域に適宜設定されていてもよい。
【0132】
また、中央部712を取り囲むように無機コーティング72が形成されている場合、無機コーティング72は連続しているのが好ましいが、一部が途切れて(断続的で)もよい。
【0133】
また、中央部712にも、所定の面積の無機コーティング72が形成されていてもよい。例えば、中央部712において、小面積の無機コーティング72をドット状に形成ことにより、中央部712におけるキャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力を高める(調整する)ようにしてもよい。
【0134】
なお、無機コーティング72の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜20μm程度であるのが好ましく、0.05〜10μm程度であるのがより好ましい。無機コーティング72の平均厚さを前記範囲内に設定することにより、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力を十分に高めることができるとともに、縁部711と中央部712とで大きな高さの段差が生じるのを防止することができる。これにより、樹脂フィルムAの形状が不良になるのを避けることができる。
【0135】
また、縁部711(第1部分)には、無機コーティング72を形成するのに代えて、カップリング剤処理が施されていてもよい。カップリング剤処理によっても、無機コーティング72と同様、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力を、中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力よりも大きくすることができる。このため、無機コーティング72と同様、製造プロセス中において、樹脂フィルムAがキャリア基板7から脱落したり、捲れたり、キャリア基板7に対して位置がずれたりするのを防止して、高精細の有機EL表示装置1の製造を可能にする。
【0136】
カップリング剤としては、キャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力を高め得るものであれば、特に限定されない。しかしながら、カップリング剤としては、水酸基と脱水縮合によって反応し得る加水分解性基および樹脂フィルムAと反応して結合し得る反応性官能基を有するシラン系カップリング剤やチタン系カップリング剤、変性シリコーンオイル等が一例として挙げられる。
【0137】
反応性官能基としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、アルキル基、フェニル基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、カルビノール基、酸塩化物等が挙げられる。反応性官能基は、これらの複数種を含んでいてもよい。また、特に、反応性官能基は、アミノ基であるのが好ましい。反応性官能基としてアミノ基を含むカップリング剤を用いることにより、小面積の領域にカップリング処理を施す場合であっても、十分な密着力を発揮することができる。
【0138】
反応性官能基としてアミノ基を有するカップリング剤としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、またはそれらの塩酸塩等が挙げられる。
【0139】
なお、キャリア基板7の上面71にカップリング剤処理を施す際には、カップリング剤を溶解する溶媒として、水の他、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールのような低級アルコール類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンのような環状エーテル類、フェノール、クレゾールのようなフェノール類、酢酸のようなカルボン酸等を用いるようにしてもよい。この場合、カップリング剤の濃度は、0.05〜10質量%程度であるのが好ましく、0.1〜5質量%程度であるのがより好ましい。
【0140】
また、縁部711(第1部分)には、無機コーティング72の形成やカップリング剤処理に代えて各種表面処理が施されていてもよい。
【0141】
このような表面処理としては、例えば、電子線照射処理、コロナ放電処理、アーク放電処理、エキシマー光の照射処理、プラズマ処理、エッチング処理等が挙げられる。
【0142】
なお、これらの表面処理により、縁部711には、所定の撥水性が付与されるのが好ましい。
【0143】
具体的には、表面処理後の縁部711に対する水の接触角は、8〜40°程度であるのが好ましく、10〜35°程度であるのがより好ましく、12〜30°程度であるのがさらに好ましい。接触角が前記範囲内に収まるように表面処理を適宜選択することにより、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力を特に高めることができる。
【0144】
また、水の接触角が前記下限値を下回ると、縁部711の親水性は高くなるものの、樹脂溶液の縁部711に対する親和性が低下し、樹脂フィルムAの密着力が低下するおそれがある。一方、水の接触角が前記上限値を上回ると、縁部711の親油性は高くなるものの、例えばカップリング剤の加水分解性基の縁部711に対する結合性が低下し、やはり樹脂フィルムAの密着力が低下するおそれがある。
【0145】
なお、縁部711の水の接触角は、JIS R 3257(1999)の静滴法に準拠し、25℃の温度に設定した方法で測定された値である。
【0146】
[2]フィルム形成工程
次に、
図3(c)に示すように、キャリア基板7の上面71(主面)に対して樹脂溶液A0を塗布する。これにより、塗布膜を形成する。なお、
図3(c)では、キャリア基板7の上面71全体を覆うように塗布膜を形成しているが、塗布膜の形成領域はこれに限定されず、縁部711の一部を含む上面71を部分的に覆うように形成してもよい。
【0147】
樹脂溶液A0を塗布する方法としては、例えば、ダイコート法、インクジェット法、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法等の各種液相成膜法が用いられる。
【0148】
また、樹脂溶液A0の調製に用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メチル−1,3−ブチレングリコールアセテート、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチル−3−メトキシプロピオネート等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この場合、樹脂成分の濃度は、0.5〜25質量%程度であるのが好ましく、1〜20質量%程度であるのがより好ましい。
【0149】
次に、塗布膜を乾燥、硬化させ、樹脂フィルムAを得る。これにより、積層体8を得る(
図4(d)参照)。
【0150】
塗布膜を硬化させる際の加熱温度は、樹脂溶液A0の組成に応じて適宜設定されるが、例えば220〜420℃程度であるのが好ましく、280〜400℃程度であるのがより好ましく、330〜370℃程度であるのがさらに好ましい。
【0151】
また、塗布膜を硬化させる際の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるが、例えば5〜300分程度であるのが好ましく、30〜240分程度であるのがより好ましい。
【0152】
なお、前述した表面処理工程やフィルム形成工程は、必要に応じて行うようにすればよい。例えば、積層体8が市販されているような場合には、その積層体8を後述する素子形成工程で使用するようにしてもよい。その場合には、表面処理工程やフィルム形成工程を省略することができる。
【0153】
また、縁部711の幅は、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力に応じて適宜設定される。例えば、有機EL表示装置1の製造プロセスにおいて積層体8に加えられる外力の大きさを考慮し、その外力が加わっても縁部711から樹脂フィルムAが剥離しない程度の密着力となるように、縁部711の幅が設定されていればよい。縁部711の幅は、キャリア基板7の大きさによっても異なるが、一例として2〜50mm程度に設定される。縁部711の幅が前記下限値を下回ると、単位面積当たりの密着強度の大きさによっては、縁部711であっても樹脂フィルムAが剥離し易くなるおそれがある。一方、縁部711の幅が前記上限値を上回ると、後述する切断工程において除去する積層体8の部分の割合が大きくなり、廃棄物の量が増えるおそれがある。
【0154】
なお、前述した無機コーティング72の形成等の表面処理が施された領域の密着力については、例えばASTM D3359−B等に規定されているテープ付着試験に準拠した方法で評価することができる。
【0155】
具体的には、まず、積層体8の上面(樹脂フィルムAの上面)の縁部711に対応する部分に切り込みを入れる。この切り込みは、樹脂フィルムAを貫通し、キャリア基板7に達するように形成する。また、この切り込みは、刃のピッチが1mmの多重刃を有するカット治具を用いて形成する。
【0156】
次に、積層体8の上面の切り込みを入れた部分に粘着テープ(例えば、ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を貼り付ける。その後、粘着テープを積層体8に十分に押さえ付ける。
【0157】
次に、粘着テープの一端を把持し、積層体8の上面(貼り付け面)に対して角度の45°で引っ張って、粘着テープを積層体8から引き剥がす。
【0158】
次に、積層体8の上面(剥離面)を観察し、樹脂フィルムAが剥離した面積を以下の評価基準に当てはめることにより、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力を評価する。
【0159】
(密着力の評価基準)
5B:剥がれなし(剥離した面積が0%である)。
4B:剥離した面積が5%未満である。
3B:剥離した面積が5%以上15%未満である。
2B:剥離した面積が15%以上35%未満である。
1B:剥離した面積が35%以上65%未満である。
0B:剥離した面積が65%以上である。
【0160】
このような評価方法によれば、キャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力を定量的に評価することができる。
【0161】
例えば、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力は、上記の2B〜5Bの評価に相当しているのが好ましく、4Bまたは5Bの評価に相当しているのがより好ましい。密着力がこのような評価に相当する場合、縁部711の面積が小さい場合であっても、製造プロセス中にキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離してしまうのを防止することができる。
【0162】
一方、中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力は、縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力よりも小さければ特に限定されない。中央部712に対する樹脂フィルムAの密着力と縁部711に対する樹脂フィルムAの密着力との差は、上記評価試験で剥離した面積に基づいて、5%以上であるのが好ましく、10〜50%程度であるのがより好ましい。これにより、何らのきっかけもなくキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離してしまうのを防止しつつ、最終的にキャリア基板7から樹脂フィルムAを比較的容易に剥離することができる。
【0163】
[3]素子形成工程
[3−1]次に、
図4(e)に示すように、樹脂フィルムA上(樹脂フィルムAのキャリア基板7とは反対側)に画素回路10(素子)を形成する。
【0164】
具体的には、まず、樹脂フィルムA上に、導電膜を形成した後、この導電膜をパターニングすることで、ゲート電極200を形成する。
【0165】
樹脂フィルムA上への導電膜の形成は、例えば、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステン等の金属材料をスパッタ法等の各種気相成膜法によって供給することにより行うことができる。
【0166】
次いで、各ゲート電極200を覆うように、ゲート絶縁層201を形成する。
このゲート絶縁層201は、例えば、酸化シリコンまたは窒化シリコン等を主材料として構成される。かかるゲート絶縁層201は、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスおよび窒素ガス等を原料ガスとして用い、プラズマCVD法等を行うことで、形成することができる。
【0167】
次いで、各ゲート絶縁層201上に、導電膜を形成した後、この導電膜をパターニングすることで、ソース電極202およびドレイン電極204を形成する。
【0168】
ゲート絶縁層201上への導電膜の形成は、ゲート電極200を形成するのと同様の方法を用いて行うことができる。
【0169】
次いで、各ソース電極202と各ドレイン電極204との間のチャネル領域に対応して半導体層203を形成する。
【0170】
この半導体層203は、例えば、前述した半導体材料の構成元素の一部である半金属元素および/または金属元素を含有する金属ターゲットを用い、酸素および/または窒素含有雰囲気下においてスパッタ法を行う方法、もしくはその他の各種気相成膜法、または各種液相成膜法により形成することができる。
以上のようにして薄膜トランジスターBが形成される。
【0171】
次に、樹脂フィルムAおよびこの樹脂フィルムA上に形成された薄膜トランジスターBを覆うように、平坦化層301を形成する。
【0172】
次いで、平坦化層301を厚さ方向に貫通するようにコンタクトホールを形成し、その後、コンタクトホール内に導電部300を形成する。
【0173】
平坦化層301上に、各導電部300にそれぞれ対応するように、陽極(個別電極)302を形成する。
【0174】
次いで、各陽極302を覆うように、それぞれ正孔輸送層303を形成する。
次いで、各正孔輸送層303を覆うように、それぞれ発光層304を形成する。
【0175】
次いで、各発光層304を覆うように、それぞれ電子輸送層305を形成する。
次いで、各電子輸送層305を覆うように、それぞれ陰極306を形成する。
【0176】
なお、これらの各層は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等の気相成膜法や、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法等の液相成膜法を用いて形成することができる。
【0177】
以上のようにして発光素子Cが形成されるとともに、薄膜トランジスターBおよび発光素子Cで構成される画素回路10が形成される。
【0178】
[3−2]次に、
図4(f)に示すように、画素回路10を覆うように封止層400を形成する。
【0179】
[4]切断工程
次に、積層体8の縁部711に対応する部分を除去するように(切り落とすように)、積層体8を厚さ方向に切断する(
図5(g)参照)。すなわち、縁部711に対応するキャリア基板7、樹脂フィルムAおよび封止層400をそれぞれ除去するように、積層体8を厚さ方向に切断する。
【0180】
この切断は、例えば、ダイサー等による機械的な方法、レーザー加工法、電子線加工法、ウォータージェット加工法等により行うことができる。
図5(g)では、一例として、ダイヤモンドカッター9による切断方法を図示している。
【0181】
本実施形態に係る縁部711は、
図6に示すように、長方形の枠状をなしている。したがって、本工程では、積層体8の枠状をなす縁部711に対応する部分を除去する。
【0182】
このような切断により、積層体8から、平面視で長方形の枠状の部分(除去部分81)が除去される。その結果、その除去部分81の内側に位置し、平面視形状が長方形をなす中央部712に対応する積層体8の部分(残存部分82)が残ることとなる。
【0183】
この残存部分82では、除去部分81に比べて相対的に小さい密着力で、キャリア基板7に樹脂フィルムAが密着している。
【0184】
[5]剥離工程
最後に、残存部分82において、キャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離する。これにより、有機EL表示装置1が得られる。
【0185】
前述したように、残存部分82では、除去部分81に比べて、キャリア基板7に樹脂フィルムAが相対的に小さい密着力で密着している。このため、残存部分82でのキャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離する作業は、比較的容易に行うことができる。例えば、残存部分82に、人の手で軽く力を加えたり、ガスを吹き付けたり、振動を加えたり、残存部分82を湾曲させたりする作業が、剥離のきっかけが生じる。このきっかけが生じた後は、キャリア基板7から樹脂フィルムAを容易に剥離することができる。
【0186】
また、剥離が容易であれば、剥離する際に樹脂フィルムAに加わる負荷が軽減される。このため、本発明によれば、樹脂フィルムAに加わった負荷が、樹脂フィルムA上に形成される画素回路10にも悪影響を及ぼすことを抑制し、これにより、画素回路10の特性が劣化するのを低減することができる。
【0187】
さらに、樹脂フィルムAに加わる負荷を低減することによって、樹脂フィルムAの光学特性が低下することも抑制することができる。これにより、樹脂フィルムAの透光性の低下が抑制され、有機EL表示装置1の表示の明度やコントラストの低下を抑制することができる。
【0188】
なお、この剥離工程では、上述したようにキャリア基板7から樹脂フィルムAを比較的容易に剥離させることができる。このため、キャリア基板7から樹脂フィルムAの剥離に際して、レーザーの照射等を用いた剥離プロセスを省略したり、照射されるエネルギーの低減を図ったりすることができる。このため、レーザー照射による不具合、例えば樹脂フィルムAや画素回路10の発熱による変質、劣化等を防止することができる。その結果、より信頼性の高い有機EL表示装置1を製造することができる。
【0189】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の素子積層フィルムの製造方法の第2実施形態を含む有機EL表示装置1の製造方法について説明する。
【0190】
図7は、
図1に示す有機EL表示装置を製造する他の方法(本発明の素子積層フィルムの製造方法の第2実施形態)を説明するための縦断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、
図7中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0191】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0192】
第2実施形態に係る素子積層フィルムの製造方法を含む有機EL表示装置1の製造方法は、切断工程における切断位置が異なる以外、第1実施形態に係る素子積層フィルムの製造方法を含む有機EL表示装置1の製造方法と同様である。
【0193】
すなわち、本製造方法に係る切断工程では、キャリア基板7の上面71の縁部711(第1部分)に設けられた無機コーティング72に対応する積層体8の部分の全部を除去するように、積層体8を厚さ方向に切断するのではなく、
図7(a)に示すように、無機コーティング72に対応する積層体8の一部のみを除去するように、積層体8を厚さ方向に切断する。これにより、積層体8の無機コーティング72に対応する部分の一部が除去されずに残存する。その結果、残存部分82のうち、無機コーティング72が設けられていない部分では、キャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力が相対的に小さくなっている。一方、残存部分82のうち、無機コーティング72が残存している部分には、無機コーティング72の作用により、キャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力が相対的に大きくなっている。
【0194】
よって、本実施形態では、切断工程において除去する無機コーティング72に対応する積層体8の部分の面積を適宜調整することにより、換言すれば、切断工程において残存させる無機コーティング72に対応する積層体8の部分の面積を適宜調整することにより、残存部分82におけるキャリア基板7に対する樹脂フィルムAの剥離容易性を自在に制御することができる。したがって、例えば、中央部712におけるキャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力が小さ過ぎる場合には、切断作業中にキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離してしまうおそれもある。このため、この剥離を防止し得る程度の密着力が確保されるように、所定の面積の無機コーティング72に対応する積層体8の部分を残存させればよい。
【0195】
なお、残存部分82側に残存させる無機コーティング72の面積は、残存部分82において必要なキャリア基板7に対する樹脂フィルムAの密着力や、無機コーティング72に対する樹脂フィルムAの単位面積当たりの密着強度に応じて適宜設定され、限定されるものではない。一例として、無機コーティング72の全面積の50%以下が残存部分82側に残るように積層体8を切断するのが好ましく、1〜40%程度が残るように積層体8を切断するのがより好ましく、3〜30%程度が残るように積層体8を切断するのがさらに好ましい。これにより、切断作業中に残存部分82においてキャリア基板7から樹脂フィルムAが剥離するのを抑制するとともに、切断作業の終了後には簡単なきっかけを与えることによって、キャリア基板7から樹脂フィルムAを容易に剥離することができる。
【0196】
その後、剥離工程において、キャリア基板7から樹脂フィルムAを剥離させることにより、
図7(c)に示す有機EL表示装置1が得られる。この際、残存させる無機コーティング72の面積を調整することにより、剥離作業に伴って樹脂フィルムAに加わる負荷を最小限に留め、樹脂フィルムAや画素回路10に加わる悪影響を最小限に留めることができる。
【0197】
なお、残存させる無機コーティング72の面積が小さい場合、無機コーティング72からの樹脂フィルムAの剥離作業に、レーザー照射を利用してもよい。残存させる無機コーティング72の面積を小さくすることで、レーザー照射による樹脂フィルムAや画素回路10に加わる悪影響を最小限に留めることができる。
【0198】
このレーザー照射に用いるレーザー光としては、パルス発振型または連続発光型のエキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザーおよびYVO
4レーザー等が挙げられる。
【0199】
また、
図7(c)では、無機コーティング72が樹脂フィルムAに付着した状態を図示しているが、無機コーティング72はキャリア基板7上に残存していてもよい。
また、無機コーティング72の成膜領域(第1部分)を適宜設定することにより、無機コーティング72が有機EL表示装置1の光学的特性に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【0200】
以上のような本発明の素子積層フィルムの製造方法の第2実施形態を含む有機EL表示装置1の製造方法においても、前述した第1実施形態を含む有機EL表示装置1の製造方法と同様の効果を奏する。
【0201】
以上、本発明の素子積層フィルムの製造方法、素子積層フィルムおよび表示装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、素子積層フィルムの製造方法には、任意の目的の工程が追加されていてもよい。
【実施例】
【0202】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.評価用テストピースの作製
(サンプルNo.1)
[樹脂組成物の調製]
<1>溶液を得るため、機械式攪拌機と、窒素注入口および排出口を備える250ml三首丸底フラスコに、PFMB(3.2024g、0.01mol)およびDMAc(30ml)を加えた。
【0203】
<2>PFMBが溶液中に完全に溶解した後、PrO(1.7g、0.03mol)を溶液に添加した。その後、溶液を0℃まで冷却した。
【0204】
<3>撹拌中に、TPC(0.203g、0.001mol)およびIPC(1.827g、0.0090mol)を溶液に添加し、その後、フラスコ壁をDMAc(1.5ml)で洗浄した。
【0205】
<4>2時間後、ベンゾイルクロライド(0.032g、0.23mmol)を溶液に添加し、さらに2時間撹拌した。
【0206】
[表面処理]
次に、ソーダガラス製のキャリア基板(直径125mm)を用意し、一方の面に対してカップリング剤処理を施した。なお、カップリング剤には、3−アミノプロピルトリメトキシシランのイソプロピルアルコール溶液(濃度1質量%)を用いた。
【0207】
[樹脂フィルムの作製]
調製した樹脂組成物を用いて、キャリア基板上に樹脂フィルムを形成した。
【0208】
すなわち、まず、樹脂組成物を平坦なキャリア基板上にスピンコート法により塗布した。
【0209】
次に、樹脂組成物を、100℃で1分間乾燥したのち、不活性雰囲気下において350℃で30分間維持することにより、フィルムを硬化処理した。これにより、キャリア基板上に樹脂フィルムを形成してなる評価用テストピースを得た。
なお、得られた樹脂フィルムの平均厚さは10μmであった。
【0210】
(サンプルNo.2)
[樹脂組成物の調製]
<1>溶液を得るため、機械式攪拌機と、窒素注入口および排出口を備える250ml三首丸底フラスコに、PFMB(3.041g、0.0095mol)、DAB(0.0761g、0.0005mol)およびDMAc(30ml)を加えた。
【0211】
<2>PFMBが溶液中に完全に溶解した後、PrO(1.7g、0.03mol)を溶液に添加した。その後、溶液を0℃まで冷却した。
【0212】
<3>撹拌中に、TPC(0.203g、0.001mol)およびIPC(1.827g、0.0090mol)を溶液に添加し、その後、フラスコ壁をDMAc(1.5ml)で洗浄した。
【0213】
<4>2時間後、ベンゾイルクロライド(0.032g、0.23mmol)を溶液に添加し、さらに2時間撹拌した。
【0214】
次に、サンプルNo.1と同様にして表面処理を施すとともに樹脂フィルムを形成し、評価用テストピースを得た。
【0215】
(サンプルNo.3)
カップリング剤を3−アミノプロピルトリエトキシシランに変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして評価用テストピースを得た。
【0216】
(サンプルNo.4)
カップリング剤をN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランに変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして評価用テストピースを得た。
【0217】
(サンプルNo.5)
カップリング剤処理に代えて、酸化ケイ素の蒸着による無機コーティング処理を行った以外は、サンプルNo.1と同様にして評価用テストピースを得た。
【0218】
(サンプルNo.6)
キャリア基板として無機アルカリガラス製の基板を用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして評価用テストピースを得た。
【0219】
(サンプルNo.7)
キャリア基板として無機アルカリガラス製の基板を用いるようにした以外は、サンプルNo.5と同様にして評価用テストピースを得た。
【0220】
(サンプルNo.8)
表面処理を省略した以外は、サンプルNo.1と同様にして評価用テストピースを得た。
【0221】
(サンプルNo.9)
表面処理を省略した以外は、サンプルNo.6と同様にして評価用テストピースを得た。
【0222】
2.評価用テストピースの評価
各サンプルNo.の評価用テストピースを、以下の方法で評価した。
【0223】
2.1 全光線透過率
ヘイズメーター(NDH−2000、日本電色社製)を用い、各評価用テストピースのD線(ナトリウム線)における全光線透過率を測定した。
【0224】
その結果、各サンプルNo.の評価用テストピースは、いずれも、全光線透過率が60%以上であり、良好であった。
【0225】
2.2 密着性
各評価用テストピースを、ASTM D3359−Bに規定されているテープ付着試験に準拠した方法での試験に供し、キャリア基板に対する樹脂フィルムの密着性を評価した。
【0226】
その結果、表面処理が施された評価用テストピースでは、密着力の評価が4Bまたは5Bであり、密着性が良好であった。
【0227】
一方、表面処理が省略された評価用テストピースでは、密着力の評価が0Bまたは1Bであり、密着性が低かった。
【0228】
以上の結果から、本発明によれば、キャリア基板の板面(主面)の少なくとも一部の密着力を部分的に大きくすることにより、例えば表示装置の製造プロセス中におけるキャリア基板からの樹脂フィルムの剥離を抑制することができる。また、その後、密着力が大きい部分を除去することによって、キャリア基板から樹脂フィルムを簡単に剥離することができるようになる。
【0229】
なお、ポリアミド系樹脂に代えて、ポリイミド系樹脂を用いて、前述した各サンプルNo.と同様にして評価用テストピースを作製した。
【0230】
このテストピースを評価したところ、ポリアミド系樹脂の場合と同様、表面処理によって密着力の増強が図られることが認められた。