(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137476
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20170522BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20170522BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20170522BHJP
B23K 9/29 20060101ALI20170522BHJP
B23K 9/24 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
B23K9/127 510A
B23K9/12 350F
B23K9/167 A
B23K9/29 B
B23K9/24
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-155536(P2013-155536)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-24425(P2015-24425A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小林 和行
(72)【発明者】
【氏名】柴本 健太
【審査官】
岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−035884(JP,A)
【文献】
特開昭59−159276(JP,A)
【文献】
特開平02−089575(JP,A)
【文献】
特開昭58−081592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/127
B23K 9/12
B23K 9/167
B23K 9/24
B23K 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状を成し且つ先端が軸心に対して角度をもって斜め切りされてアークを偏向可能とした電極を有する溶接トーチと、
前記溶接トーチを被溶接材間の開先に接近離間させると共に、該開先を横切る方向に往復移動させるオシレート機構と、
前記電極を軸心廻りに回転させる回転機構と、
前記オシレート機構の作動によってオシレート動作する前記溶接トーチが進む側に常に前記電極の斜め切りされたカット面の下端に位置する電極尖端を前記開先に沿う方向に対して角度をもって配置するべく前記回転機構を制御すると共に、オシレート動作する前記溶接トーチの前記電極の前記電極尖端から前記開先までの距離が短くなってあらかじめ設定した基準電圧値よりも低くなった時点で、前記基準電圧値となるように前記溶接トーチを前記開先から離間する方向に移動させるべくAVCを行う制御部を備え、
前記制御部は、前記AVCによる前記溶接トーチの該溶接トーチに沿うZ軸方向の移動量が設定した閾値に達した時点で前記回転機構を動作させて前記電極を軸心廻りに反転させて、前記溶接トーチにそれまでとは逆方向へのオシレート動作を行わせるべく制御する
ことを特徴とする開先倣い溶接装置。
【請求項2】
円柱形状を成し且つ先端が軸心に対して角度をもって斜め切りされてアークを偏向可能とした電極を有する溶接トーチを被溶接材間の開先に接近離間させると共に、該開先を横切る方向に往復移動させてオシレート動作させるに際して、
オシレート動作する前記溶接トーチが進む側に常に前記電極の斜め切りされたカット面の下端に位置する電極尖端を前記開先に沿う方向に対して角度をもって配置すると共に、オシレート動作する前記溶接トーチの前記電極の前記電極尖端から前記開先までの距離が短くなってあらかじめ設定した基準電圧値よりも低くなった時点で、前記基準電圧値となるように前記溶接トーチを前記開先から離間する方向に移動させるAVCを行い、
前記AVCによる前記溶接トーチの該溶接トーチに沿うZ軸方向の移動量が設定した閾値に達した時点で前記電極を軸心廻りに反転させて、前記溶接トーチにそれまでとは逆方向へのオシレート動作を行わせる
ことを特徴とする開先倣い溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開先、特に狭開先の自動TIG溶接に適した開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような狭開先の自動TIG溶接に適した開先倣い溶接装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1に記載された開先倣い溶接装置は、円錐形状を成す電極を有する溶接トーチと、この溶接トーチを被溶接材に対して接近離間させる上下スライドベースと、開先を横切る方向に溶接トーチをスライドさせる左右スライドベースと、制御部を備えており、この開先倣い溶接装置では、制御部により上下スライドベース及び左右スライドベースを制御して、溶接トーチにオシレート動作を行わせるようになっている。
【0004】
この際、制御部では、AVC(Arc Voltage Control)を採用することで、溶接トーチの電極の先端と開先底との距離(アーク長)を一定に制御している。このAVCは、アークの長さによってTIG溶接におけるアーク電圧が変化することを利用したものであり、電極の先端と開先底との距離が短くなって測定アーク電圧が基準電圧よりも低くなった時は、溶接トーチを上昇させてアーク電圧を大きくし、一方、電極の先端と開先底との距離が長くなって測定アーク電圧が基準電圧よりも高くなった時は、溶接トーチを下降させてアーク電圧を小さくすることで、溶接トーチの高さを一定に保つようにしている。
【0005】
この開先倣い溶接装置では、電極が円錐形状を成しているので、狭開先において開先壁に電極が接近した場合には、電極の胴部と開先壁との距離が電極の先端と開先壁との距離や電極の先端と開先底との距離よりも小さくなることで測定アーク電圧が基準電圧よりも低くなる。このように測定アーク電圧が基準電圧よりも低くなった場合には、通常、溶接トーチを上昇させれば測定アーク電圧が基準電圧に戻るが、上記した電極の胴部と開先壁との距離が極めて小さい状態で基準電圧になるように溶接トーチを上昇させたとしても、電極の胴部と開先壁との距離がほとんど変わらないことから、溶接トーチが上昇し続けてしまう。また、電極の胴部と開先壁との距離、及び、電極の先端と開先底との距離の大小関係が逆転するのが急であり、開先との境界部分(角部分)に未溶接部が生じてしまうことから、開先倣い溶接を行うことができない。
【0006】
従来において、このような開先壁を倣うことができない事態に対処するべく、特許文献2に記載された開先倣い溶接装置では、先端部を開先壁に向けて折り曲げた電極を用い、また、特許文献3に記載された開先倣い溶接装置では、磁気プローブを電極近傍に配置してアークを偏向させることで、電極の胴部と開先壁との距離が電極の先端と開先底との距離よりも大きくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−076071号公報
【特許文献2】特開昭60−027478号公報
【特許文献3】特開昭60−191664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記した特許文献2に記載された開先倣い溶接装置では、先端部を折り曲げた電極の加工費が高くつくうえ、加工精度を確保することが難しいという問題がある。また、電極の先端の消耗時には研磨を行うが、この研磨によって折り曲げた先の部分の長さが短くなることから、電極の胴部と開先壁とが干渉しない長さまでしかこの研磨を行うことができず、歩留まりが悪いものとなってしまうという問題がある。
一方、上記した特許文献3に記載された開先倣い溶接装置では、磁気プローブといった別の装置を付加する必要があるうえ、溶接状況の視認性の悪化及び装置構造の複雑化を招いてしまうという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっている。
【0009】
本発明は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、溶接コストの上昇や溶接状況の視認性の悪化及び装置構造の複雑化を招くような特別な工具や装置を用いることなく、開先、特に開先角度の小さい狭開先から幅広の開先までの開先の倣い自動TIG溶接を行うことが可能な開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために成された本発明の請求項1に係る発明は、円柱形状を成し且つ先端が軸心に対して角度をもって斜め切りされてアークを偏向可能とした電極を有する溶接トーチと、前記溶接トーチを被溶接材間の開先に接近離間させると共に、該開先を横切る方向に往復移動させるオシレート機構と、前記電極を軸心廻りに回転させる回転機構と、前記オシレート機構の作動によってオシレート動作する前記溶接トーチが進む側に常に前記電極の斜め切りされたカット面の下端に位置する電極尖端を前記開先に沿う方向に対して角度をもって配置するべく前記回転機構を制御すると共に、オシレート動作する前記溶接トーチの前記電極の前記電極尖端から前記開先までの距離が短くなってあらかじめ設定した基準電圧値よりも低くなった時点で、前記基準電圧値となるように前記溶接トーチを前記開先から離間する方向(下向姿勢の開先倣い溶接の場合には上下方向;溶接トーチに沿うZ軸方向)に移動させるべくAVC(Arc Voltage Control)を行う制御部を備え、前記制御部は、前記AVCによる前記溶接トーチの該溶接トーチに沿うZ軸方向の移動量が設定した閾値に達した時点で前記回転機構を動作させて前記電極を軸心廻りに反転させて、前記溶接トーチにそれまでとは逆方向へのオシレート動作を行わせるべく制御する構成としたことを特徴としており、この構成の開先倣い溶接装置を前述の課題を解決するための手段としている。
【0011】
一方、本発明の請求項2に係る発明は、円柱形状を成し且つ先端が軸心に対して角度をもって斜め切りされてアークを偏向可能とした電極を有する溶接トーチを被溶接材間の開先に接近離間させると共に、該開先を横切る方向に往復移動させてオシレート動作させるに際して、オシレート動作する前記溶接トーチが進む側に常に前記電極の斜め切りされたカット面の下端に位置する電極尖端を前記開先に沿う方向に対して角度をもって配置すると共に、オシレート動作する前記溶接トーチの前記電極の前記電極尖端から前記開先までの距離が短くなってあらかじめ設定した基準電圧値よりも低くなった時点で、前記基準電圧値となるように前記溶接トーチを前記開先から離間する方向(下向姿勢の開先倣い溶接の場合には上下方向;溶接トーチに沿うZ軸方向)に移動させるAVCを行い、前記AVCによる前記溶接トーチの該溶接トーチに沿うZ軸方向の移動量が設定した閾値に達した時点で前記電極を軸心廻りに反転させて、前記溶接トーチにそれまでとは逆方向へのオシレート動作を行わせる構成としたことを特徴としており、この構成の開先倣い溶接方法を前述の課題を解決するための手段としている。
【0012】
本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法において、
図1に示すように、先端が斜め切りされた電極11のカット面11aの軸心に対する角度θは、このカット面11aの下端に位置する電極尖端11bから発生するアークArの指向性及び集中性を考慮して設定され、30°〜60°とすることが望ましい。
【0013】
また、本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法において、
図3に示すように、先端が斜め切りされた電極11は、アークArの開先壁Wbへの指向性及び溶接ワイヤ12の溶融性を確保するために、開先Waに沿う方向に対して角度αで回転させておく必要があり、この回転角度αは、15°〜45°とすることが望ましい。但し、溶接ワイヤ12の供給位置をアークArの位置に調整する機構を有している場合には、回転角度αを開先壁Wbの検出性が上がる45°〜90°にしてもよい。
【0014】
さらに、本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法において、制御に必要な設定項目には、上記電極11の回転角度αに加えて、オシレート速度,AVCによる溶接トーチの該溶接トーチに沿うZ軸移動量の閾値,AVCによる溶接トーチの移動速度(Δh/Δt)等があり、AVCによる溶接トーチの移動速度、すなわち、単時間当たりの移動量は、開先壁とオシレート移動時のビードの凸凹とを認識するのに必要な特徴量である。
【0015】
本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法は、狭開先の自動TIG溶接に適しており、突き合わせ溶接及び隅肉溶接のいずれにも用いることができる。溶接姿勢は、下向姿勢の開先倣い溶接だけでなく、立向姿勢及び上向姿勢の各開先倣い溶接にも適用可能であり、例えば、管の全周にわたって開先倣い溶接を行う全姿勢の開先倣い溶接にも適用可能である。
【0016】
本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法では、先端が軸心に対して角度をもって斜め切りされてアークを偏向可能とした電極を用いているので、狭開先や開先角度の小さい開先におけるオシレート動作中に開先壁に溶接トーチが接近すると、溶接トーチが進む側に常に位置する電極尖端と開先底との距離が電極尖端と開先壁との距離に転じて、すなわち、電極尖端から開先までの距離が短くなって、溶接トーチを開先から離間する方向に移動させるAVCが行われる。
【0017】
そして、このAVCによる溶接トーチの開先からの移動量が設定した閾値に達した時点で、電極が軸心廻りに反転して、溶接トーチがそれまでとは逆方向へのオシレート動作を続けるので、狭開先の自動TIG溶接中の電極が開先壁に干渉するような事態の発生は回避されることとなる。
【0018】
この際、加工費が高く且つ加工精度を確保することが難しい電極を用たり、別装置としての磁気プローブを用いたりしないので、溶接コストの上昇が少なく抑えられると共に、溶接状況の視認性の向上及び装置構造の簡略化が図られることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る開先倣い溶接装置によれば、溶接コストの上昇や溶接状況の視認性の悪化を招くような特別な工具や装置を用いることなく、開先、特に開先角度の小さい狭開先から幅広の開先までの開先の倣い自動TIG溶接を行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る開先倣い溶接装置の概略構成説明図である。
【
図2】
図1の開先倣い溶接装置による開先倣い溶接要領を示す開先の拡大断面説明図(a),(b)である。
【
図3】
図1の開先倣い溶接装置による開先倣い溶接要領を示す
図2(a),(b)にそれぞれ対応する開先の部分拡大平面説明図(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜
図3は、本発明の一実施形態に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法を示しており、この実施形態では、本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法を下向姿勢の開先倣い溶接に採用した場合を示している。
【0022】
図1に示すように、自動TIG溶接装置である開先倣い溶接装置1は、被溶接材W,W間の開先Waに沿って配置されたレール2上を移動する走行部3と、この走行部3に配置された上下方向の縦ガイド4に沿って上下動する昇降部5と、この昇降部5に開先Waを横切る方向に配置された横ガイド6に沿って移動するスライダ7と、このスライダ7に支持される溶接トーチ8と、この溶接トーチ8及び被溶接材Wに接続する溶接電源9と、制御部10を備えているほか、後述する制御部10のAVCに必要な溶接トーチ8の軸心方向の変化量を計測するための図示しないポテンショメータが備えられている。
【0023】
溶接トーチ8の先端部に位置する円柱状のタングステン製の電極11は、
図1の拡大円内に示すように、その先端が軸心に対してθの角度をもって斜め切りされており、カット面11aの下端を電極尖端11bとしていて、アークArが真下ではなくカット面11aに沿うようにして偏向するようになっている。
【0024】
ここで、先端が斜め切りされた電極11のカット面11aの軸心に対する角度θは、このカット面11aの下端に位置する電極尖端11bから発生するアークArの指向性及び集中性を考慮して設定され、30°〜60°とすることが望ましく、45°とすることがより望ましい。
なお、
図1における符号12は溶接ワイヤであり、符号13はワイヤホルダである。
【0025】
この実施形態において、上下方向の縦ガイド4に沿って上下動する昇降部5及び横ガイド6に沿って移動するスライダ7でオシレート機構が構成され、スライダ7には、溶接トーチ8とともに円柱状のタングステン製の電極11を軸心廻りに回転させる回転機構が内蔵されている。
【0026】
この際、
図3に示すように、先端が斜め切りされた電極11は、アークArの開先壁Wbへの指向性及び溶接ワイヤ12の溶融性を確保するために、開先Waに沿う方向に対して角度αで回転させておく必要があり、この回転角度αは、15°〜45°とすることが望ましく、30°とすることがより望ましい。
【0027】
制御部10は、走行部3に速度指令を与えて、被溶接材W,W間の開先Waに対する溶接トーチ8の溶接速度を制御すると共に、オシレート機構を構成する昇降部5及びスライダ7のそれぞれに指令を与えて、開先Waに沿って移動する溶接トーチ8に開先Waを横切る方向のオシレート動作を行わせるようになっている。
【0028】
また、制御部10は、オシレート機構の作動によってオシレート動作する溶接トーチ8が進む側に常に電極11の電極尖端11bを位置させるべく回転機構を制御するようになっている。
【0029】
さらに、制御部10において、開先倣いの制御には、アークArの長さ(溶接トーチ8の高さ)を一定にするAVC(Arc Voltage Control)が採用されており、具体的には、オシレート動作する溶接トーチ8の電極11の電極尖端11bから開先Waまでの距離が短くなった時点で、溶接トーチ8を開先Waから離間する方向(溶接トーチ8に沿うZ軸方向)に移動させるべくオシレート機構を制御するようになっている。
【0030】
そして、この制御部10では、AVCによる溶接トーチ8のZ軸方向の移動量が予め設定した閾値に達した時点で回転機構を動作させて電極11を軸心廻りに反転させて、溶接トーチ8にそれまでとは逆方向へのオシレート動作を行わせるべく制御するようになっている。
【0031】
このような構成を成す開先倣い溶接装置1において、先端が軸心に対して角度θをもって斜め切りされた電極11を有する溶接トーチ8にオシレート動作を行わせると、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、制御部10によりオシレート動作する溶接トーチ8が進む側(図示左側)に電極11の電極尖端11bが配置され、この状態で開先Waの開先壁Wbに溶接トーチ8が接近すると、
図2(a)及び
図3(a)に一点鎖線で示すように、電極尖端11bと開先底Wcとの距離hが電極尖端11bと開先壁Wbとの距離h1に転じて、すなわち、電極尖端11bから開先Waまでの距離が短くなって、溶接トーチ8を開先Waから離間する方向(この実施形態では上下方向;Z軸方向)に移動させるAVCが行われる。
【0032】
そして、このAVCにより溶接トーチ8が上昇して開先Waからの移動量が予め設定した閾値に達した時点で、軸心廻りに反転して、
図2(b)及び
図3(b)に二点鎖線で示すように、溶接トーチ8がそれまでとは逆方向へのオシレート動作を続けるので、開先Waの自動TIG溶接中の電極11が開先壁Wbに干渉するような事態の発生は回避されることとなる。
【0033】
この際、従来のように、歩留まりが悪いうえに加工費が高く且つ加工精度を確保することが難しい電極を用たり、別装置としての磁気プローブを用いたりしないので、すなわち、先端が斜め切りされた電極11及び物理量の変化のみで開先倣い溶接を行い得るので、溶接コストの上昇が少なく抑えられると共に、溶接状況の視認性の向上及び装置構造の簡略化が図られることとなる。
【0034】
この実施形態では、本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法を下向姿勢の開先倣い溶接に採用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、立向姿勢及び上向姿勢の各開先倣い溶接や、管の全周にわたって開先倣い溶接を行う全姿勢の開先倣い溶接にも適用可能である。
【0035】
本発明に係る開先倣い溶接装置及び開先倣い溶接方法の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 開先倣い溶接装置
5 昇降部(オシレート機構)
7 スライダ(オシレート機構)
8 溶接トーチ
10 制御部
11 電極
11a カット面
11b 電極尖端
Ar アーク
h 電極尖端と開先底との距離
h1 電極尖端と開先壁との距離
W 被溶接材
Wa 開先
Wb 開先壁(開先)
Wc 開先底(開先)
α 電極の回転角度
θ カット面の軸心に対する角度