特許第6137501号(P6137501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137501
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】水性液体飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20170522BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20170522BHJP
【FI】
   A23L2/00 E
   A23L33/10
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-509180(P2014-509180)
(86)(22)【出願日】2013年4月3日
(86)【国際出願番号】JP2013060169
(87)【国際公開番号】WO2013151081
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-85095(P2012-85095)
(32)【優先日】2012年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂本 隆史
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118810(WO,A1)
【文献】 特開2007−143545(JP,A)
【文献】 特表2009−524575(JP,A)
【文献】 特表2010−512750(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/103737(WO,A1)
【文献】 再公表特許第2004/010796(JP,A1)
【文献】 特開2011−147444(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/028279(WO,A1)
【文献】 宮崎正三,イオン応答性インテリジェント多糖の胃内ゲル化機能を付与した食品添加物の開発,日本食品化学研究振興財団 研究成果報告書,2004年,No.10,pp.104-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 − 2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェランガム、三価の鉄イオン及び水素添加デキストリンを配合した水性液体飲料であり、
ジェランガムの配合量が0.01〜0.5質量%であり、
三価の鉄イオンの配合量がジェランガム1質量部に対して0.01〜30質量部であり、
水素添加デキストリンの配合量がジェランガム1質量部に対して1〜100質量部であり、
pHが4.5〜7.0であり、かつ、
ジェランガムが脱アシル型ジェランガムである、
ことを特徴とする水性液体飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性の液体飲料に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用されうる。
【背景技術】
【0002】
肥満はメタボリックシンドロームに至る深刻な社会問題である。肥満を予防するための有効な手段としては、食事摂取量を制限してのダイエットが挙げられるが、これによって生じる空腹感のため、長続きしないというのが実状であった。そこで、空腹感を解消するために、香料又は香料化合物を主成分とする空腹感緩和剤(特許文献1参照)、シリアル食品(特許文献2参照)、可食性リンタンパクと金属の炭酸塩(特許文献3参照)などが提供されている。
【0003】
そうした空腹感を改善するための方法の1つとして、寒天を用い、胃液に一定時間浸された後の寒天のゲル強度を向上させる方法(特許文献4参照)が報告されている。しかしながら、固いゲルを咀嚼して飲みこむ必要があるため、実用性が高いとは言いがたい。また、ゲル化剤を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献5参照)も報告されているが、ゲルの強度が低く、空腹感を長時間抑制するには至っていない。更に、服用前は液状で服用後に胃内でゲル化させる液状経口製剤でゲル化剤としてジェランガムを用いる方法(特許文献6参照)が報告されているが、栄養素としてデキストリンとミネラル(特に鉄イオン)を配合すると経時的にゲル化してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7427号公報
【特許文献2】特開2007−53929号公報
【特許文献3】特開2010−94085号公報
【特許文献4】特開2008−110923号公報
【特許文献5】特表2009−530254号公報
【特許文献6】特開2004−2320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、飲む前は普通の水性液体飲料で、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化するが、経時的にはゲル化しない鉄イオン及びデキストリン配合水性液体飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ジェランガム、三価の鉄イオン、及び水素添加デキストリンを配合した水性液体飲料は、経時的にゲル化しないことを見いだした。
【0007】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)ジェランガム、三価の鉄イオン及び水素添加デキストリンを配合したことを特徴とする水性液体飲料。
(2)ジェランガムが脱アシル型ジェランガムである前記(1)の水性液体飲料。
(3)pHが4.3〜7.0である前記(1)又は(2)の水性液体飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、飲む前は普通の液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化する水性液体飲料であって、デキストリンとして水素添加デキストリンを用いることで、ジェランガム及び鉄イオンを同時配合しても経時的にゲル化しない水性液体飲料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「ジェランガム」は微生物(Sphingomonas elodea)が菌体外に産出する多糖類であり,増粘安定剤として広く利用されている。ジェランガムは直鎖状のヘテロ多糖類で、グルコース、グルクロン酸、グルコース、ラムノースの4糖の繰返し単位から構成されており、グルクロン酸由来のカルボキシル基を有している。ジェランガムには、1−3結合したグルコースに存在するアセチル基とグリセリル基の有無によって脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムの2種類がある。本発明には両方のジェランガムを利用出来る。本発明では、何れのジェランガムを用いても良いが、ゲル強度の点で脱アシル型ジェランガムがより好ましい。
【0010】
ジェランガムの配合量は、水性液体飲料中0.001〜1質量%であり、服用性及び胃中でのゲルの強度という点から、0.01〜0.5質量%がより好ましい。
【0011】
「三価の鉄イオン」は、クエン酸第二鉄アンモニウム(単に「クエン酸鉄アンモニウム」とも呼ばれる。)、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等の三価の鉄化合物として配合することができる。これら鉄化合物は1種又は2種以上を配合することが可能である。
【0012】
三価の鉄イオンの配合量は、ジェランガム1質量部に対して0.001〜100質量部であり、
0.01〜30質量部が好ましい。
【0013】
なお、二価の鉄イオンを本発明の効果を損なわない範囲で配合することは差し支えない。
【0014】
「水素添加デキストリン」はラネーニッケル触媒や貴金属触媒などを用いることによってデキストリンの還元末端を非還元化することによって製造され、「還元型デキストリン」、「還元デキストリン」などとも呼ばれる。
【0015】
水素添加デキストリンの配合量は、ジェランガム1質量部に対して0.1〜300質量部であり、1〜100質量部が好ましい。
【0016】
これらの配合割合において、飲む前は普通の液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、ジェランガム、鉄イオン及びデキストリンを同時配合していても経時的にゲル化しない水性液体飲料を提供することができる。
【0017】
本発明の水性液体飲料のpHは、ジェランガムがpH4.3未満でゲル化することから、4.3〜7.0が好ましく、水性液体飲料の製造のし易さという点から、4.5〜7.0がより好ましい。
【0018】
本発明の水性液体飲料のpHを上記範囲に保つために、必要に応じて有機酸等のpH調整剤を配合することができる。
【0019】
また、その他の成分として、ビタミン類、他のミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。更に必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0020】
本発明の水性液体飲料は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。例えば、各成分を秤量し適量の精製水に溶解した後、pHを調整し、更に精製水を加えて容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理を施すことにより調製することができる。
【0021】
本発明の水性液体飲料は、清涼飲料水、機能性飲料の他、ドリンク剤、シロップ等の医薬品及び医薬部外品、茶飲料、スポーツドリンク等の食品領域における各種飲料として提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
[実施例及び比較例]
精製水にクエン酸水和物及び安息香酸ナトリウムを添加し、更に、クエン酸鉄アンモニウム(比較例3、実施例1,2)を添加し溶解させて、塩酸・水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整した。該溶液を80℃に加温し、脱アシル型ジェランガムを溶解させ、該溶液に更にデキストリン(比較例2,3)又は水素添加デキストリン(実施例1,2)、及び精製水を加えて全量100mLとし、水酸化ナトリウムでpHを4.5または7.0に調整した。各試験液をガラスビンに充填後殺菌し、表1に示す実施例1及び2並びに比較例1〜3の飲料を得た。
【0024】
【表1】
【0025】
[試験例1] 性状の評価
調製したサンプルについて各保存条件及び日局1液滴下時の状態を肉眼観察により評価した。
【0026】
日局1液滴下時の評価:50mLビーカーに12.5mLの実施例1及び2並びに比較例1〜3で調製した飲料のサンプルを入れ、12.5mLの日局1液(日本薬局方崩壊試験法第1液)を壁面に沿って静かに滴下後に評価した。なお、日局1液は、胃液に相当する酸性溶液(pHは1.2)である。
【0027】
結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、比較例3のように三価の鉄イオンとデキストリンを同時配合すると65℃保存下でゲル化するのに対し、実施例1及び2のように水素添加デキストリンを用いてpH4.5〜7.0とすることで65℃保存下でもゲル化せず液状の飲料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により提供されるジェランガム、鉄イオン及び水素添加デキストリンを同時配合した水性液体飲料は、飲む前は普通の水性液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、そのゲル強度が高いため、空腹感を解消した状態を長時間維持させることができる。加えて、水溶性液体飲料としての保存安定性に優れている。よって、本発明を肥満予防のためのダイエットを志向した医薬品、医薬部外品及び食品として提供することにより、これらの産業の発達が期待される。