【0014】
ソマトスタチン受容体には、5つのサブタイプ(sst1〜5)があり、オクトレオチドはsst2、sst3、sst5のサブタイプのソマトスタチン受容体に対して高い親和性を有する(Patel, Y. C., Frontiers in Neuroendocrinology, 20:157-198 (1999))。胚発生中の神経管閉鎖に伴って遊走する神経堤細胞(neural crest cells)は、ソマトスタチンに対する免疫活性および副腎由来の特性(カテコールアミン陽性)を有する。これは神経堤細胞の発生初期にのみ出現する事象であり(Maxwell, G. D. et al., Developmental Biology, 108:203-209 (1985);Garcia-Arraras, J. E. et al., Cell and Tissue Research, 295:33-41 (1999))、その多くは生後に消失する。そのソマトスタチン受容体を消失した細胞は、癌の発生時に再びソマトスタチン受容体を発現する。以下の癌がそのサブタイプ(sst2、sst3、sst5)に対する選択性を有することが知られている:甲状腺髄様癌(C細胞);下垂体不活性型腺腫;下垂体成長ホルモン腺腫;腎細胞癌;胃腸膵管系腫瘍(クロム親和性細胞);褐色細胞腫;神経芽細胞腫/髄芽腫/髄膜腫;リンパ腫;傍神経節腫(Reubi, J. C. et al., European Journal of Nuclear Medicine, 28:836-846 (2001));乳癌(エストロジェン受容体を有する細胞)(Reubi, J. C. et al.(上記);Orlando, C. et al., Endocrine-Related Cancer, 11:323-332 (2004));小細胞肺癌(Reubi, J. C. et al.(上記);Papotti, M. et al., Virchows Archiv, 439:787-797 (2001));肝臓癌(Reubi, J. C. et al.(上記);Blaker, M. et al., Journal of Hepatology, 41:112-118 (2004));眼球内ブドウ膜メラノーマ(Filali, M. K. E. et al., Graefes Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology, 246:1585-1592 (2008));転移性肉腫(Friedberg, J. W. et al., Cancer, 86:1621-1627 (1999));メラノーマ(Lum, S. S. et al., World Journal of Surgery, 25:407-412 (2001));癌組織周囲の内皮細胞(Denzler, B. et al., Cancer, 85:188-198 (1999));急性骨髄性白血病(移動能を有する急性骨髄性白血病細胞)(Oomen, S. P. M. A. et al., Leukemia, 15:621-627 (2001))。従って、本発明は、このようなソマトスタチン受容体を発現する任意の癌に対して有効である。
【実施例】
【0032】
実施例1:Oct修飾リポソームの特徴付け
(1)リポソームの調製および修飾
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC、日油)およびコレステロール(Chol、和光純薬)(モル比55:45;質量比80mg:32mg)をエタノールに溶解し、70℃に設定したロータリーエバポレーターを使用してエタノールをわずかに残して除去した。これに、トリエタノールアミンでpH6.5に調整した80mMフィチン酸(IP−6)溶液(ナカライテスク)を加え、得られた混合物を70℃で温めながら5分間激しく振とうして、リポソームを得た。得られたリポソームを再度エバポレーターにかけ、残りのエタノールを除去した。超音波処理によりリポソームサイズを約150nmにした。Sephadex G50を使用したゲルろ過により外液をHBS緩衝液(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)に置換し、リポソーム画分を集めた。リン脂質テストワコー(和光純薬)を用いて、集めたリポソーム画分のDSPC濃度を測定した。求めたDSPC濃度およびDSPC:Cholのモル比(55:45)に基づいて総脂質量を算出した。
【0033】
調製したリポソーム溶液に、イリノテカン(「CPT−11」、ヤクルト本社)水溶液(10mg/ml)を、CPT−11:総脂質=0.6:1(質量比)になるように加え、60℃で60分インキュベートして、CPT−11を封入した。ドキソルビシン(「DXR」、和光純薬)封入リポソームの場合は、DXR:総脂質=0.2:1(質量比)になるようにDXRを加え、60℃で25分インキュベートして封入した。インキュベーション終了後、5分間氷冷し反応を停止した。未封入の薬物をSephadex G50を使用したゲルろ過により除去して、未修飾リポソーム(「CL」)を得た。
【0034】
オクトレオチド−ポリ(エチレングリコール)
3400−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(Oct−PEG−DSPE、神戸天然物化学)水溶液を、リポソーム総脂質量の0.25、0.8、1.0、1.2、1.4または1.6mol%となるように上記で得られたCLに加え、得られた混合物を60℃で20分間加温し(後付け修飾)、Oct修飾リポソーム(Oct−CL)として「0.25Oct−CL」、「0.8Oct−CL」、「1.0Oct−CL」、「1.2Oct−CL」、「1.4Oct−CL」、および「1.6Oct−CL」を得た。
(4.4Oct−CLの調製法です。)
4.4Oct−CLは、DSPC、CholおよびOct−PEG−DSPE(モル比55:45:8.8;質量比5.68mg:2.28mg:6mg)を用い、リポソームの調製およびDXRの封入はCLと同様の方法で行った (先付け修飾)。
【0035】
PEG化非Oct修飾リポソーム(「SL」)を、Oct−PEG−DSPEの代わりにメトキシ−ポリ(エチレングリコール)
2000−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、日油)を1.6mol%となるように加えて調製した。
【0036】
薬物未封入リポソームを、薬物(CPT−11、DXR)封入を行わなかった以外、上記の薬物封入リポソームと同じ手順で調製した。
【0037】
(2)Oct修飾リポソームの特徴付け
得られたOct修飾リポソーム(0.25Oct−CL、0.8Oct−CLおよび1.6Oct−CL)ならびに未修飾リポソーム(CL)およびPEG化非Oct修飾リポソーム(SL)について、サイズ(nm)およびゼータ電位(mV)(ELS−Z2(大塚電子)使用)ならびにCPT−11封入効率(%)を測定した。リポソーム中の薬物の濃度を、1%Tritonによるリポソームの破壊後、DXRについては480nmでUV−1700 PharmaSpec(島津製作所)を使用して、CPT−11については励起波長375nmおよび蛍光波長535nmでWallac ARVO SX1420マルチラベルカウンター(PerkinElmer)を使用して測定した。結果を平均±SD(n=3)で表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
オクトレオチド(Oct)濃度の増加にともなって(0〜1.6mol%)、リポソームのゼータ電位が低下した。このことは、リポソームがOctで修飾されたことを示唆する。リポソームの修飾後の最終Oct濃度を、1%Tritonにおける1:1,000希釈後にOct−EIAキット(Peninsula Laboratories)を使用して測定したところ、それぞれのOct修飾リポソームにおけるOctの量は理論値の70%より多かった。CPT−11封入効率はCL以外の全てのリポソームにおいて>82%であった。全てのタイプのリポソームの平均直径およびその中に封入されたCPT−11の量は、暗所4℃で少なくとも1ヶ月変化しなかった。
【0040】
実施例2:細胞内取り込みに対するOct濃度の効果
ソマトスタチン受容体(SSTR)を高発現するヒト甲状腺髄様癌細胞株であるTT細胞(European Collection of Cell Cultures(ECACC)から入手)を、6ウェルプレートに、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したHam’s F−12培地中、10
4細胞/ウェルの密度で播種し、72時間培養した。細胞に、DXR量として50μg/mlの0.25Oct−CL、0.8Oct−CL、1.0Oct−CL、1.2Oct−CL、1.4Oct−CL、1.6Oct−CL、4.4Oct−CLまたはSLを含む培地(2ml/ウェル)を添加し、37℃で1または2時間インキュベートした。なお、CPT−11は下記の波長で励起されないので、本実施例ではCPT−11の代わりにDXRを封入したリポソームを使用した。培地を除去し、PBS(pH7.4)で3回洗浄し、次いで、リポソームの細胞内取り込みを、488nmアルゴンイオンレーザーを備えたFACS Caliburフローサイトメーター(Becton-Dickinson)およびCELL Questソフトウェア(Becton-Dickinson Immunocytometry System)を使用して分析した。2時間の培養後の相対平均蛍光強度を
図1に示す。
図1において、0.25、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、4.4およびSLはそれぞれ0.25Oct−CL、0.8Oct−CL、1.0Oct−CL、1.2Oct−CL、1.4Oct−CL、1.6Oct−CL、4.4Oct−CLおよびSLについての結果を示し、*は、SLとの統計的有意差を示す(p<0.05)。
【0041】
図1に示すように、Oct修飾されていないSLと比較して、0.25Oct−CLおよび0.8Oct−CLの細胞内取り込みはむしろ低かった。また、0.25Oct−CLと0.8Oct−CLとの間には有意な差はなかった。一方、1.4Oct−CL、1.6Oct−CLおよび4.4Oct−CLの細胞内取り込みは他と比較して有意に高かった。すなわち、従来技術において使用されていたような低いOct濃度(約0.5%)では、Oct修飾による細胞内取り込み増強効果は観察されず、細胞毒性の発揮において高いOct濃度(1.6mol%)でのOct修飾が有効であることが示された。
【0042】
2時間インキュベートした後の1.6Oct−CLの蛍光強度は1時間後の2倍に増加したが、SLではそのような増加は観察されなかった。すなわち、Oct−CLの細胞内取り込みはインキュベーション時間依存的に増加することが示された。
【0043】
実施例3:競合阻害試験
実施例2において観察された細胞内取り込みがソマトスタチン受容体(SSTR)を介しているかどうかを調べるために、競合阻害試験を行った。詳細には、20倍モル過剰量(84nmol/ml)の遊離Oct(Acris Antibodies GmbH)の存在下での、DXRを封入した1.6Oct−CL(Oct:4.2nmol/ml)の37℃で2時間のTT細胞内取り込みを、フローサイトメトリーにより調べた。その結果、過剰量の遊離Octは1.6Oct−CLの細胞内取り込みに影響を与えなかった。この理由は明らかではないが、上記の結果によって、Oct修飾リポソームのSSTRに対する親和性が遊離Octより高いことが示唆された。
【0044】
次に、2倍容量(258μL)の薬物を封入していない空の1.6Oct−CL(Empty 1.6Oct−CL)、またはコントロールとして空のSL(Empty SL)の存在下での、DXRを封入した1.6Oct−CLの37℃で2時間のTT細胞内取り込みを、フローサイトメトリーにより調べた。その結果、いずれの場合でも阻害が観察されたが、Empty Oct−CL存在下での細胞内取り込みは、Empty SL存在下での約半分であり、Empty Oct−CLによる細胞内取り込みの有意に高い競合的阻害が示された(
図2(B))。この競合的阻害を模式的に
図2(A)に示す。さらに、共焦点レーザー顕微鏡観察により、封入した薬物(DXR)は核内に取り込まれていることが示された(
図3)。このように、薬剤を封入した1.6Oct−CLの核内への取り込みが、Oct修飾依存性であることが示された。
【0045】
実施例3:細胞毒性試験
(1)CPT−11封入リポソームを用いた細胞毒性試験
TT細胞を96ウェルプレートに10
4細胞/ウェルの密度で播種し、そこに種々の濃度の遊離CPT−11、1.6Oct−CLまたはSLを添加し、48時間、72時間および96時間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄した後、発色試薬(Cell Counting kit−8、同仁化学研究所)を1ウェル(100μL)当たり10μL添加し、450nmで吸光度を測定し、IC50(μM)を算出した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、いずれの場合も細胞毒性は経時的に増加した。96時間でのSLについてのIC50値は、遊離CPT−11のものとほぼ同じであった。一方、1.6Oct−CLの細胞毒性は、48時間では遊離CPT−11より低かったが、96時間では遊離CPT−11の約1/2と遊離CPT−11を上回った。すなわち、いずれの薬物封入リポソームについても細胞毒性は見られたが、Oct修飾した薬物封入リポソームを使用した場合、長時間のインキュベーション後に細胞毒性が増強されることが示された。これは、受容体を介したエンドサイトーシス機構によって細胞内取り込みが促進され、活性型のSN−38への変換によって発揮されるCPT−11の細胞毒性が増強されるためであることが確認されている(データは示さず。)。
【0048】
(2)薬物未封入リポソームを用いた細胞毒性試験
上記結果から、CPT−11に加えて、標的化のためのリガンドとしてのOctで修飾したリポソーム自体が細胞毒性を有している可能性が示唆された。そこで次に、細胞毒性に対するリガンド(Oct)の効果を評価するために、CPT−11未封入のリポソームを用いて細胞毒性試験を行った。詳細には、96ウェルプレートに播種したTT細胞に、各種濃度(Oct量として0.042〜8.4μM)の薬物を封入していないPEG化非Oct修飾リポソーム(Empty SL)、薬物を封入していない1.6mol%Oct修飾リポソーム(Empty 1.6Oct−CL)、薬物を封入していない4.4mol%Oct修飾リポソーム(Empty 4.4Oct−CL)、コントロールとしての遊離Octを添加し、96時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄した後、発色試薬を添加し、450nmで吸光度を測定した。ここで、Empty 4.4Oct−CLを、最初からOct−PEG−DSPEをDSPE:Chol:Oct−PEG−DSPE=55:45:8.8(モル比)となるように加えた以外、実施例1と同様に調製した。これは、Oct−PEG−DSPEの低い水溶性の故に、1.6mol%より高い濃度での後付け修飾が困難であったからである。
【0049】
結果を
図4に示す。
図4において、各濃度について4つの棒は、それぞれ左から遊離Oct、Empty 1.6Oct−CL、Empty 4.4Oct−CL、Empty SLについての細胞生存率(%)を示す。いずれの濃度でも、遊離のOctに細胞毒性が観察された。リポソームの中では、より高濃度のOctで修飾されたEmpty 4.4Oct−CLが、いずれの濃度でも特に高い細胞毒性を示し、これは遊離Octのものより高かった。この結果は、リポソームにおける高濃度のOctが細胞毒性を示すことを示唆する。
【0050】
(3)Akt、TSC2およびp70S6Kのリン酸化に対するOct−CLの効果
Octは、PI3K/Akt/TSC2/mTOR/p70S6Kシグナルカスケード(
図5)のTSC2、mTORおよびp70S6Kタンパク質のリン酸化に関与することが知られている。上記のOctによる細胞毒性とPI3K/Akt/TSC2/mTOR/p70S6Kシグナルカスケードとの関係を調べるために、この経路のAkt、TSC2およびp70S6Kのリン酸化に対するEmpty 1.6Oct−CLの効果を調べた。詳細には、TT細胞をEmpty 1.6Oct−CL(Oct濃度として0.42μM)またはEmpty SL(Empty 1.6Oct−CLの脂質量に相当する量)で24時間処理した後、細胞抽出液(タンパク質量:40μg/レーン)中のAkt(分子量60 kDa)、TSC2(分子量200 kDa)およびp70S6Kタンパク質(分子量70 kDa、85 kDa)を電気泳動し、一次抗体としてのAkt−抗体、TSC2−抗体、p70S6K−抗体、phospho−Akt−抗体、phospho−TSC2−抗体およびphospho−p70S6K−抗体(Cell Signaling Technology、すべて1000倍希釈)および二次抗体としてのヤギ抗ウサギ−HRP(Santa Cruz Biotechnology、2500倍希釈)を使用して検出を行った。
【0051】
図6に示すように、Empty 1.6Oct−CLを添加した場合、p70S6Kのリン酸化が低下したが、AktおよびTSC2のリン酸化には影響がなかった。Empty SLは、今回検討したAkt、TSC2およびp70S6Kのリン酸化に影響を与えなかった。このことは、Empty Oct−CLによる細胞毒性はPI3K/Akt/TSC2/mTOR/p70S6Kシグナルカスケードにおけるリン酸化の低下に関連することを示唆する。また、このリン酸化の低下が、Empty SLではおきないことから、リポソームを構成する脂質による影響ではなく、リガンドであるOctに関連することを示唆する。
【0052】
実施例4:インビボにおけるCPT−11封入リポソームの効果
CPT−11を封入したOct修飾リポソームのインビボにおける効果を調べるために以下の実験を行った。TT細胞10
7個をマウス(ICR nu/nuマウス、6週齢、メス、オリエンタル酵母)に移植して、100〜250cm
3の腫瘍体積の腫瘍を形成させた。各群4匹のマウスに、CPT−11量として10mg/kg体重の未修飾リポソーム(CL)、1.6mol%Oct−PEG−DSPEで修飾したリポソーム(1.6Oct−CL)、1.6mol%Oct−PEG−DSPEおよび0.9%mol%PEG−DSPEで修飾したリポソーム(1.6Oct−SL)を投与した。投与は尾静脈より2回(1日目、4日目)行った。コントロールとして、生理食塩水、遊離CPT−11(30mg/kg)を3回(1日目、4日目、7日目)投与した。腫瘍サイズおよび体重を経時的に測定した。結果をそれぞれ
図7および8に示す。
図7、8において、白丸、三角、灰四角、黒丸、白四角はそれぞれCL、1.6Oct−CL、遊離CPT−11、生理食塩水、1.6Oct−SLについての結果を示す。
図7において、実線の矢印はCL、1.6Oct−CL、1.6Oct−SLの投与を、破線の矢印は遊離CPY−11、生理食塩水の投与を示し、*はCLに対する有意差(p<0.05)を示す。また、生存時間および累積生存率をそれぞれ表3および
図9に示す。
図9において、丸、四角、三角はそれぞれCL、1.6Oct−CL、1.6Oct−SLについての結果を示す。表3における%ILSを、生理食塩水をコントロールとして、[(処置群平均生存日数)−(コントロール投与群平均生存日数)/(コントロール投与群平均生存日数)]×100(%)の式に従って算出した。表3中のメジアンはN匹の動物からなるそれぞれの群についての生存時間(日)の中央値を表す。
【0053】
【表3】
【0054】
測定期間中、体重に有意な差は見られなかった。遊離CPT−11を投与した場合は、生理食塩水を投与した場合と同様に、腫瘍サイズが増加し、延命効果は見られなかった。CLの場合もほぼ同様の結果が得られた。一方、Oct修飾したリポソーム(1.6Oct−CL、1.6Oct−SL)を投与した場合は、いずれも腫瘍サイズの増加が有意に抑制され、生存時間および生存率が有意に増加した。特に1.6Oct−CL投与群では、半数の動物が、薬物投与終了後でも300日以上生存し、腫瘍が完全に治癒されたことが示唆された。
【0055】
遊離CPT−11はインビトロでは細胞毒性を示したが(実施例3、表2、
図4など)、インビボではコントロールとして使用した生理食塩水と同様な効果しか示さなかった。このように、インビトロでの結果からインビボにおける効果を予測することは困難であった。本発明者らは、これまでに有効な薬物療法が確立されていないMTCを、Oct修飾リポソームを使用してインビボで治療できることを初めて示した。また、Oct修飾リポソームを使用した場合のCPT−11の投与量は、遊離CPT−11の投与量よりかなり低かった(1/3)。すなわち、本発明によれば、CPT−11の投与量を低下させ、副作用を軽減できることが示された。
【0056】
同様に、CPT−11量として10mg/kg体重の1.6Oct−CLおよび2.5%mol%PEG−DSPEで修飾したリポソーム(2.5Oct−SL)ならびにコントロールとしての生理食塩水を、100cm
3の腫瘍体積の腫瘍を有する各群6匹のマウスに尾静脈より2回(1日目、4日目)投与して、腫瘍サイズ、体重および生存率を経時的に測定した。結果をそれぞれ
図10、11および12に示す。
図10、11および12において、白三角、丸、黒三角はそれぞれ1.6Oct−CL、SL、生理食塩水についての結果を示す。
図10において、*および#はそれぞれSLおよび1.6Oct−CLに対する有意差(p<0.05)を示す。この場合にも、1.6Oct−CL投与群で、薬物投与終了後でも、腫瘍サイズの増加がほぼ完全に抑制された。Oct修飾されていないSLについても腫瘍サイズの抑制は観察されたが、1.6Oct−CL投与群での抑制効果の方が有意に高かった。