特許第6137534号(P6137534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137534
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20170522BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20170522BHJP
   B62D 115/00 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D115:00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-77767(P2013-77767)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-201157(P2014-201157A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】葉山 良平
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
【審査官】 柳楽 隆昌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−154956(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/089945(WO,A1)
【文献】 特開2002−347641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操向のために操作される操舵部材と転舵輪の転舵角を変化させるための舵取り機構とが機械的に結合されておらず、転舵用モータによって舵取り機構が駆動される車両用操舵装置であって、
前記転舵輪の転舵角を中立位置側に戻すためのスイッチと、
前記操舵部材の所定の基準位置からの回転量である操舵角を検出するための操舵角センサと、
前記操舵角センサによって検出される操舵角と前記スイッチの出力信号とに基づいて、前記転舵用モータを制御するモータ制御手段とを含み、
前記モータ制御手段は、
前記操舵角センサによって検出される操舵角を用いて、前記転舵輪の中立位置に対応する前記操舵部材の回転角度位置からの前記操舵部材の回転量を制御用操舵角として演算する演算手段と、
通常時においては、前記転舵輪の転舵角が前記演算手段によって演算される制御用操舵角に比例した角度となるように、前記転舵用モータを制御する通常制御処理を行う第1制御手段と、
前記演算手段によって演算される制御用操舵角が所定範囲内にある場合に、前記スイッチが操作されたときに、前記転舵輪の転舵角が前記転舵輪の中立位置側に向かって変化するように、前記転舵用モータを制御する中立戻し制御処理を行う第2制御手段と、
前記演算手段によって演算される制御用操舵角が前記所定範囲外にある場合に、前記スイッチが操作されたときには、前記中立戻し制御処理を行わずに前記通常制御処理を行う第3制御手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記転舵輪の転舵角を検出する転舵角検出手段をさらに含み、
前記第1制御手段および前記第3制御手段は、
前記演算手段によって演算される制御用操舵角に対して所定の演算を行うことにより第1目標転舵角を設定する手段と、
前記転舵角検出手段によって検出される転舵角が前記第1目標転舵角に等しくなるように前記転舵用モータを制御する手段とを含み、
前記第2制御手段は、
前記演算手段によって演算される制御用操舵角を、前記転舵輪の中立位置に対応する前記操舵部材の回転角度位置により近い角度となるように変更する手段と、
変更後の制御用操舵角に対して前記所定の演算を行うことにより第2目標転舵角を設定する手段と、
前記転舵角検出手段によって検出される転舵角が前記第2目標転舵角に等しくなるように、前記転舵用モータを制御する手段とを含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操向のために操作される操舵部材と舵取り機構とが機械的に結合されておらず、転舵用モータによって舵取り機構が駆動される車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材としてのステアリングホイールと舵取り機構との機械的な結合をなくし、ステアリングホイールの操作角を角度センサによって検出するとともに、そのセンサ出力に応じて制御される転舵用モータの駆動力を舵取り機構に伝達するようにしたステア・バイ・ワイヤシステムが提案されている。
ステア・バイ・ワイヤシステムにおいては、ステアリングホイールと舵取り機構との機械的な連結がないので、車両衝突時におけるステアリングホイールの突き上げを防止できるとともに、舵取り機構の構成を簡素化および軽量化することができる。また、ステアリングホイールの配置位置の自由度が増し、さらには、ステアリングホイール以外のレバーまたはペダル等の他の操作手段の採用も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−1092号公報
【特許文献2】特開2009−288872号公報
【特許文献3】特開2008−213769号公報
【特許文献4】特開平5−92769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステア・バイ・ワイヤシステムが採用されているフォークリフト等の荷役車両においては、ステアリングホイールの回転量範囲は、一般車両に比べて大きい。たとえば、荷役車両では、旋回時にステアリングホイールを一回転以上回転させることもある。このため、荷役車両においては、車両を旋回させた後に、転舵輪を中立位置に戻すための操作が運転者の大きな負担となる場合がある。なお、このような課題は、程度の差はあるが、荷役車両以外の一般車両にも共通するものである。
【0005】
この発明の目的は、転舵輪を中立位置に戻す場合の運転者の負担を軽減できる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、操向のために操作される操舵部材と転舵輪(5)の転舵角を変化させるための舵取り機構(10)とが機械的に結合されておらず、転舵用モータ(14)によって舵取り機構が駆動される車両用操舵装置(6)であって、前記転舵輪の転舵角を中立位置側に戻すためのスイッチ(13)と、前記操舵部材の所定の基準位置からの回転量である操舵角を検出するための操舵角センサ(34)と、前記操舵角センサによって検出される操舵角と前記スイッチの出力信号とに基づいて、前記転舵用モータを制御するモータ制御手段(42)とを含み、前記モータ制御手段は、前記操舵角センサによって検出される操舵角を用いて、前記転舵輪の中立位置に対応する前記操舵部材の回転角度位置からの前記操舵部材の回転量を制御用操舵角として演算する演算手段と、通常時においては、前記転舵輪の転舵角が前記演算手段によって演算される制御用操舵角に比例した角度となるように、前記転舵用モータを制御する通常制御処理を行う第1制御手段と、前記演算手段によって演算される制御用操舵角が所定範囲内にある場合に、前記スイッチが操作されたときに、前記転舵輪の転舵角が前記転舵輪の中立位置側に向かって変化するように、前記転舵用モータを制御する中立戻し制御処理を行う第2制御手段と、前記演算手段によって演算される制御用操舵角が前記所定範囲外にある場合に、前記スイッチが操作されたときには、前記中立戻し制御処理を行わずに前記通常制御処理を行う第3制御手段とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
この構成では、演算手段によって演算される制御用操舵角が所定範囲内にある場合に、運転者がスイッチを操作すると、転舵輪の転舵角が転舵輪の中立位置側に向かって変化するように、転舵用モータが制御される。このため、転舵輪を中立位置に戻すための操作が容易となる。これにより、転舵輪を中立位置に戻す場合の運転者の負担を軽減することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記転舵輪の転舵角を検出する転舵角検出手段(32)をさらに含み、前記第1制御手段および前記第3制御手段は、前記演算手段によって演算される制御用操舵角に対して所定の演算を行うことにより第1目標転舵角を設定する手段(61,S9)と、前記転舵角検出手段によって検出される転舵角が前記第1目標転舵角に等しくなるように前記転舵用モータを制御する手段(62,63)とを含み、前記第2制御手段は、前記演算手段によって演算される制御用操舵角を、前記転舵輪の中立位置に対応する前記操舵部材の回転角度位置により近い角度となるように変更する手段(61,S8)と、変更後の制御用操舵角に対して前記所定の演算を行うことにより第2目標転舵角を設定する手段(61,S9)と、前記転舵角検出手段によって検出される転舵角が前記第2目標転舵角に等しくなるように、前記転舵用モータを制御する手段(62,63)とを含む、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置が適用された荷役車両としてのフォークリフトの概略構成を模式的に示す側面図である。
図2図2は、車両用操舵装置の構成を説明するための図解図である。
図3図3は、転舵用ECUの電気的構成を示すブロック図である。
図4図4は、転舵用モータの構成を説明するための図解図である。
図5図5は、目標転舵角設定部の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置が適用された荷役車両としてのフォークリフトの概略構成を模式的に示す側面図である。
フォークリフト1は、車体2と、車体2の前部に設けられた荷役装置3と、車体2を支持する駆動輪としての前輪4と、車体2を支持する転舵輪としての後輪5と、後輪5を転舵するための車両用操舵装置6とを含んでいる。
【0012】
図1には図示されていないが、フォークリフト1は、例えばエンジンを含む車両の駆動源と、油圧源としての油圧ポンプとをさらに含んでいる。駆動源の動力は、トルクコンバータを経て、前後進切替および変速動作を行なうトランスミッションに伝達され、さらにデファレンシャルを経て左右の前輪(駆動輪)4に伝達される。トランスミッションには、前進クラッチおよび後進クラッチが内蔵されている。
【0013】
荷役装置3は、よく知られているように、車体2に対して昇降可能にかつ傾動可能に支持されたフォーク(荷物載置部)7と、フォーク7を昇降させるための昇降シリンダ8と、フォーク7を傾動させるためのチルトシリンダ9とを含んでいる。
車両用操舵装置6は、操舵部材としてのステアリングホイール11と転舵輪としての後輪5の転舵角を変化させるための舵取り機構との間の機械的な連結が断たれた、いわゆるステア・バイ・ワイヤシステムである。ステアリングホイール11には、ステアリングホイール11を操作するためのノブ12が回転可能に取り付けられている。ノブ12には、後輪5(転舵輪)の転舵角を中立位置側に戻すためのスイッチ13が取り付けられている。この実施形態では、スイッチ13は、自動復帰型の押しボタンスイッチである。
【0014】
図2は、車両用操舵装置の構成を説明するための図解図である。
この車両用操舵装置6では、ステアリングホイール11の回転操作およびスイッチ13の操作に応じて駆動される転舵用モータ14のロータの回転運動を転舵軸16の直線運動(車両左右方向の直線運動)に変換し、この転舵軸16の直線運動を後輪5の転舵運動に変換することにより、転舵が達成される。
【0015】
転舵軸16は、車体に取り付けられたハウジング17に軸方向(車体の左右方向)に移動可能に取り付けられている。転舵用モータ14は、転舵軸16と同軸に配置されおり、ハウジング17内に内蔵されている。この実施形態では、転舵用モータ14は、ブラシレスモータによって構成されている。転舵用モータ14には、転舵用モータ14のロータの回転角を検出するためのレゾルバ等の回転角センサ31が設けられている。
【0016】
ハウジング17内には、転舵用モータ14の回転力を転舵軸16の軸方向の直線運動に変換するための運動変換機構15が設けられている。この運動変換機構15は、例えば、ボールネジ機構である。転舵軸16の動きがタイロッド18およびナックルアーム19を介して後輪5に伝達され、後輪5のトー角(転舵角)が変化する。つまり、転舵用モータ14、運動変換機構15、転舵軸16、タイロッド18およびナックルアーム19によって、舵取り機構10が構成されている。
【0017】
この実施形態では、転舵用モータ14が正転方向に回転されると、左方向に車両を換向させる方向(左転舵方向)に後輪5の転舵角が変化し、転舵用モータ14が逆転方向に回転されると、右方向に車両を換向させる方向(右転舵方向)に後輪5の転舵角が変化するものとする。なお、転舵用モータ14が駆動されていない状態では、後輪5がセルフアライメントトルクにより直進転舵位置に復帰できるようにホイールアライメントが設定されている。
【0018】
ハウジング17には、車両の舵角(後輪4の転舵角)θtを検出するための転舵角センサ32が取り付けられている。転舵角センサ32は、例えば、転舵角θtに対応する転舵軸16の作動量を検出するポテンショメータにより構成されている。この実施形態では、転舵角センサ32は、後輪5の中立位置(直進転舵位置)からの後輪5の転舵角変化量を転舵角θtとして検出する。この実施形態では、後輪5の中立位置から左転舵方向への転舵角変化量を例えば正の値として出力し、後輪5の中立位置から右転舵方向への転舵角変化量を例えば負の値として出力する。
【0019】
ステアリングホイール11は、車体側に回転可能に支持された回転シャフト21に連結されている。この回転シャフト21の近傍には、回転シャフト21に回転トルクを与えることによって、ステアリングホイール11に反力トルク(操作反力)を付与するための反力モータ22が設けられている。この反力モータ22は、回転シャフト21と同軸上に配置されている。この実施形態では、反力モータ22は、ブラシレスモータによって構成されている。反力モータ22には、反力モータ22のロータの回転角(ロータ角)を検出するためのレゾルバ等の回転角センサ33が設けられている。
【0020】
回転シャフト21の周辺には、ステアリングホイール11の操舵角(回転角)θhを検出するために、回転シャフト21の回転角を検出するための操舵角センサ34が設けられている。この実施形態では、操舵角センサ34は、回転シャフト21の所定の基準位置からの回転シャフト21の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、基準位置から左操舵方向への回転量を例えば正の値として出力し、基準位置から右操舵方向への回転量を例えば負の値として出力する。後述するように、この実施形態では、後輪5の中立位置(θt=0)に対応する回転シャフト21の回転角度位置が変化する場合があるため、回転シャフト21の前記所定の基準位置は後輪5の中立位置に対応しなくなる場合がある。
【0021】
回転角センサ33、操舵角センサ34およびスイッチ13は、反力用ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)41に接続されている。一方、回転角センサ31および転舵角センサ32は、転舵用ECU42に接続されている。反力用ECU41と転舵用ECU42とは、車内LAN43を介して接続されている。操舵角センサ34の出力信号およびスイッチ13の出力信号sは、反力ECU41および車内LAN43を介して、転舵用ECU42にも供給される。
【0022】
転舵用ECU42は、スイッチ13、操舵角センサ34、転舵角センサ32および回転角センサ31の出力信号に基づいて、転舵モータ14を駆動制御する。
図3は、転舵用ECU42の電気的構成を示すブロック図である。
転舵用ECU42は、マイクロコンピュータ51と、マイクロコンピュータ51によって制御され、転舵用モータ14に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)52と、転舵用モータ14に流れるモータ電流を検出する電流検出部53とを備えている。
【0023】
転舵用モータ14は、例えば三相ブラシレスモータであり、図4に図解的に示すように、界磁としてのロータ100と、U相、V相およびW相のステータ巻線101,102,103を含むステータ105とを備えている。転舵用モータ14は、ロータの外部にステータを対向配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを対向配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0024】
各相のステータ巻線101,102,103の方向にU軸、V軸およびW軸をとった三相固定座標(UVW座標系)が定義される。また、ロータ100の磁極方向にd軸(磁極軸)をとり、ロータ100の回転平面内においてd軸と直角な方向にq軸(トルク軸)をとった二相回転座標系(dq座標系。実回転座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ100とともに回転する回転座標系である。dq座標系では、q軸電流のみがロータ100のトルク発生に寄与するので、d軸電流を零とし、q軸電流を所望のトルクに応じて制御すればよい。ロータ100の回転角(ロータ角(電気角))θsは、U軸に対するd軸の回転角である。dq座標系は、ロータ角θsに従う実回転座標系である。このロータ角θsを用いることによって、UVW座標系とdq座標系との間での座標変換を行うことができる。
【0025】
マイクロコンピュータ51は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、目標転舵角演算部61と、角度偏差演算部62と、PI(比例積分)制御部63と、電流指令値生成部64と、電流偏差演算部65と、PI(比例積分)制御部66と、dq/UVW変換部67と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部68と、UVW/dq変換部69と、回転角演算部70とを含む。
【0026】
回転角演算部70は、回転角センサ31の出力信号に基づいて、転舵用モータ14のロータの回転角(電気角。以下、「ロータ角θs」という。)を演算する。
目標転舵角設定部61は、操舵角センサ34によって検出される操舵角θhとスイッチ13の出力信号Sとに基づいて、目標転舵角θtを設定する。目標転舵角設定部61の動作の詳細については、後述する。目標転舵角設定部61によって設定された目標転舵角θtは、角度偏差演算部62に与えられる。
【0027】
角度偏差演算部62は、目標転舵角設定部61によって設定された目標転舵角θtと、転舵角センサ32によって検出された転舵角θtとの偏差を演算する。PI制御部63は、角度偏差演算部62によって演算された角度偏差に対するPI演算を行なう。
電流指令値生成部64は、PI制御部63の演算結果に基づいて、dq座標系の座標軸に流すべき電流値を電流指令値として生成する。具体的には、電流指令値生成部64は、d軸電流指令値Iおよびq軸電流指令値I(以下、これらを総称するときには「二相電流指令値Idq」という。)を生成する。さらに具体的には、電流指令値生成部64は、q軸電流指令値Iを有意値とする一方で、d軸電流指令値Iを零とする。より具体的には、電流指令値生成部64は、PI制御部63の演算結果に基づいて、q軸電流指令値Iを生成する。電流指令値生成部64によって生成された二相電流指令値Idqは、電流偏差演算部65に与えられる。
【0028】
電流検出部53は、転舵用モータ14のU相電流I、V相電流IおよびW相電流I(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。電流検出部53によって検出された三相検出電流IUVWは、UVW/dq変換部69に与えられる。
UVW/dq変換部69は、電流検出部53によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相電流I、V相電流IおよびW相電流I)を、dq座標系の二相検出電流IおよびI(以下総称するときには「二相検出電流Idq」という。)に変換する。これらが電流偏差演算部65に与えられるようになっている。UVW/dq変換部69における座標変換には、回転角演算部70によって演算されたロータ角θsが用いられる。
【0029】
電流偏差演算部65は、電流指令値生成部64によって生成される二相電流指令値Idqと、UVW/dq変換部69から与えられる二相検出電流Idqとの偏差を演算する。より具体的には、電流偏差演算部65は、d軸電流指令値Iに対するd軸検出電流Iの偏差およびq軸電流指令値Iに対するq軸検出電流Iの偏差を演算する。これらの偏差は、PI制御部66に与えられる。
【0030】
PI制御部66は、電流偏差演算部65によって演算された電流偏差に対するPI演算を行なうことにより、転舵用モータ14に印加すべき二相電圧指令値Vdq(d軸電圧指令値Vおよびq軸電圧指令値V)を生成する。この二相電圧指令値Vdqは、dq/UVW変換部67に与えられる。
dq/UVW変換部67は、二相電圧指令値Vdqを三相電圧指令値VUVWに変換する。この座標変換には、回転角演算部70によって演算されたロータ角θsが用いられる。三相電圧指令値VUVWは、U相電圧指令値V、V相電圧指令値VおよびW相電圧指令値Vからなる。この三相電圧指令値VUVWは、PWM制御部68に与えられる。
【0031】
PWM制御部68は、U相電圧指令値V、V相電圧指令値VおよびW相電圧指令値Vにそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路52に供給する。
駆動回路52は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部68から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値VUVWに相当する電圧が転舵用モータ14の各相のステータ巻線101,102、103に印加されることになる。
【0032】
角度偏差演算部62およびPI制御部63は、角度フィードバック制御手段を構成している。この角度フィードバック制御手段の働きによって、後輪5の転舵角θtが、目標転舵角θtに近づくように制御される。また、電流偏差演算部65およびPI制御部66は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、転舵用モータ14に流れるモータ電流が、電流指令値生成部64によって生成された二相電流指令値Idqに近づくように制御される。
【0033】
次に、目標転舵角設定部61の動作について説明する。この実施形態では、フォークリフト1の旋回時等にステアリングホイール11が所定回転以上回転された場合において、後輪5を中立位置に戻すための操作を容易にするためにスイッチ13が設けられている。目標転舵角設定部61は、後輪5の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置からのステアリングホイール11の回転量が所定範囲内にある場合に、スイッチ13がオンされたときには、目標転舵角θtを後輪5の中立位置により近い値に変更する。これにより、後輪5が中立位置側に向かって転舵されるので、後輪5を中立位置に戻すための操作が容易となる。
【0034】
図5は、目標転舵角設定部61の動作を説明するためのフローチャートである。図5の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し行われる。
目標転舵角設定部61は、まず、操舵角センサ34によって検出される検出操舵角θhを取得する(ステップS1)。
次に、目標転舵角設定部61は、次式(1)に基づいて、制御用操舵角θh’を演算する(ステップS2)。
【0035】
θh’=(θh−360×n)…(1)
前記式(1)において、nは、後述するステップS5またはS7で変更される整数からなる変数であり、初期値は零である。
制御用操舵角θh’は、目標転舵角θtを演算するために使用される操舵角である。制御用操舵角θh’は、nが零である場合には操舵角センサ34によって検出される検出操舵角θhと一致するが、nが零以外の値である場合には検出操舵角θhとは異なる値となる。制御用操舵角θh’が検出操舵角θhとは異なる値である場合に、制御用操舵角θh’に基づいて目標転舵角θtが演算されたときには、後輪5の中立位置(θt=0)に対応する回転シャフト21(ステアリングホイール11)の回転角度位置は、回転シャフト21の基準位置とは異なる回転角度位置となる。
【0036】
この後、目標転舵角設定部61は、スイッチ13がオンされたか否かを判別する(ステップS3)。スイッチ13がオンされていないときには(ステップS3:N0)、目標転舵角設定部61は、ステップS9に移行する。ステップS9では、目標転舵角設定部61は、次式(2)に基づいて、目標転舵角θtを演算する。そして、今演算周期での処理を終了する。
【0037】
θt=(α/360)×θh’ …(2)
前記式(2)において、α(>0)は予め設定された値である。制御用操舵角θh’が正の値のときの目標転舵角θtは正の値に設定され、制御用操舵角θh’が負の値のときの目標転舵角θtは負の値に設定される。そして、制御用操舵角θh’の絶対値が大きくなるにしたがって、その絶対値が線形に大きくなるように目標転舵角θtが設定される。つまり、目標転舵角θtは、制御用操舵角θh’に応じた値となる。
【0038】
目標転舵角θtが前記式(2)に基づいて演算される結果、制御用操舵角θh’は、変数nの値にかかわらず、後輪5の中立位置(θt=0)に対応する回転シャフト21(ステアリングホイール11)の回転角度位置を基準とした、回転シャフト21(ステアリングホイール11)の回転量に対応した値となる。
前記ステップS3において、スイッチ13がオンされたと判別された場合には(ステップS3:YES)、目標転舵角設定部61は、制御用操舵角θh’が360<θh’<720の範囲内であるか否かを判別する(ステップS4)。制御用操舵角θh’が360<θh’<720の範囲外である場合には(ステップS4:NO)、目標転舵角設定部61は、制御用操舵角θh’が−720<θh’<−360の範囲内であるか否かを判別する(ステップS6)。制御用操舵角θh’が−720<θh’<−360の範囲外である場合には(ステップS6:NO)、目標転舵角設定部61は、前記式(2)に基づいて、目標転舵角θtを演算する(ステップS9)。そして、今演算周期での処理を終了する。
【0039】
前記ステップS4において、制御用操舵角θh’が360<θh’<720の範囲内であると判別された場合には(ステップS4:YES)、目標転舵角設定部61は、後輪5の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置から、ステアリングホイール11が正方向(左操舵方向)に1回転より大きく2回転より小さい回転量だけ操作されている状態において、スイッチ13がオンされたと判別し、ステップS5に移行する。
【0040】
ステップS5では、目標転舵角設定部61は、変数nを1だけインクリメント(+1)する。そして、ステップS8に移行する。ステップS8では、目標転舵角設定部61は、前記式(1)に基づいて、制御用操舵角θh’を演算する。これにより、制御用操舵角θh’がより小さな値に変更される。この後、目標転舵角設定部61は、前記式(2)に基づいて、目標転舵角θtを演算する(ステップS9)。これにより、目標転舵角θtは、零により近い値に変更される。このため、転舵角θtが零に近づく方向に、転舵用モータ14が制御される。そして、今演算周期での処理を終了する。
【0041】
前記ステップS6において、制御用操舵角θh’が−720<θh’<−360の範囲内であると判別された場合には(ステップS6:YES)、目標転舵角設定部61は、後輪6の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置から、ステアリングホイール11が逆方向(右操舵方向)に1回転より大きく2回転より小さい回転量だけ操作されている状態において、スイッチ13がオンされたと判別し、ステップS7に移行する。
【0042】
ステップS7では、目標転舵角設定部61は、変数nを1だけデクリメント(−1)する。そして、ステップS8に移行する。ステップS8では、目標転舵角設定部61は、前記式(1)に基づいて、制御用操舵角θh’を演算する。これにより、制御用操舵角θh’がより大きな値に変更される。この後、目標転舵角設定部61は、前記式(2)に基づいて、目標転舵角θtを演算する(ステップS9)。これにより、目標転舵角θtは、零により近い値に変更される。このため、転舵角θtが零に近づく方向に、転舵用モータ14が制御される。そして、今演算周期での処理を終了する。
【0043】
変数nが初期値の零である場合において、スイッチ11が全くオンされていない場合には、制御用操舵角θh’は検出操舵角θhと一致するので、目標転舵角θtは、θt=(α/360)×θhに基づいて演算される。
変数nが初期値の零である場合において、運転手が、後輪5の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置(この場合には基準位置)から、ステアリングホイール11を正方向(左操舵方向)に例えば380度回転させた状態で、スイッチ13をオンさせたとする。この場合には、検出操舵角θhが380度となり、制御用操舵角θh’も380度となるため、前記ステップS3,S4でYESとなる。そして、ステップS5に進んで、変数nの値が零から1に更新される。この後、ステップS8に進み、制御用操舵角θh’が変更される。この場合には、変数nの値は1に更新されているため、制御用操舵角θh’は、θh’=θh−360=20となる。このため、ステップS9で演算される目標転舵角θtは、θt=(α/360)×20となる。つまり、この場合の目標転舵角θtは、スイッチ13がオンされていないときの目標転舵角θt=(α/360)×380よりも小さくなる。なお、変数nの値が1の場合には、操舵角θhの360度が、後輪5の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置に対応する。
【0044】
これにより、運転手はステアリングホイール11を操作しなくても、転舵角θtが零に近づく方向に、転舵用モータ14が制御される。このため、後輪5を中立位置に戻すための操作が容易となる。これにより、後輪5を中立位置に戻す場合の運転手の負担が軽減される。
次の演算周期においては、ステップS1で、検出操舵角θhが取得される。この間にステアリングホイール11が操作されていないとすると、検出操舵角θhは380度のままとなる。そして、ステップS2に進んで、制御用操舵角θh’が演算される。この場合、変数nは1となっているため、制御用操舵角θh’は20度となる。この後、ステップS3に進む。この時点でスイッチ13がオフになっている場合には、ステップS9に進む。一方、スイッチ13がオフになっていなくても、制御用操舵角θh’は20度となるため、ステップS4,S6でNOとなり、ステップS9に進む。ステップS9では、目標転舵角θtが演算される。この場合には、目標転舵角θtは、θt=(α/360)×20となる。この後、運転者は、後輪5を中立位置に戻すために、ステアリングホイール13を操作する。この際、運転者は、20度分だけステアリングホイール11を戻せば、後輪5が中立位置に戻る。このため、後輪5を中立位置に戻す場合の運転手の負担が軽減される。
【0045】
反力用ECU41には、目標転舵角設定部61によって演算された制御用操舵角θh’が車内LAN43を介して与えられる。具体的には、図5のステップS2で制御用操舵角θh’が演算される毎に、演算された制御用操舵角θh’が転舵用ECU42から車内LAN43を介して反力用ECU41に与えられる。反力用ECU41は、例えば、転舵用ECU42から与えられる制御用操舵角θh’に基づいて目標反力トルクを演算し、得られた目標反力トルクが反力モータ22から発生するように、反力モータ22を駆動制御する。
【0046】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、制御用操舵角θh’が360<θh’<720の範囲内または−720<θh’<−360の範囲内にある場合に、スイッチ13がオンされたときに、目標転舵角θtを変更している。つまり、後輪5の中立位置に対応するステアリングホイール11の回転角度位置からのステアリングホイール11の回転量が1回転より大きく2回転より小さい範囲内にある場合に、スイッチ13がオンされたときに、目標転舵角θtを変更している。しかし、前記範囲はこれに限らず、他の範囲に設定してもよい。
【0047】
また、前述の実施形態では、スイッチ13はノブ12に設けられているが、スイッチ13はフォークリフト1における運転者が操作可能な場所に設けられていればよい。
また、前述の実施形態では、スイッチ13としては、押しボタンスイッチが用いられているが、歪センサ、静電センサ等のセンサをスイッチ13として用いてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0048】
5…後輪(転舵輪)、6…車両用操舵装置、10…舵取り機構、11…ステアリングホイール、13…スイッチ、14…転舵用モータ、32…転舵角センサ、43…操舵角センサ、42…転舵用ECU、61…目標転舵角設定部、62…角度偏差演算部、63…PI制御部
図1
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図5