(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記界面活性剤(1a2)は、アルキルエトキシレート硫酸塩、アルキルエトキシレートスルホン酸塩、アルキルフェノールエトキシレート硫酸塩、アルキルフェノールエトキシレートスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、エチレンオキシドを50重量%未満含有する硫黄系界面活性剤、フリーラジカル重合反応に関与し得るエチレン不飽和結合を有する硫黄系界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載のプロセス。
前記第二の重合反応の開始に先立ち、前記pHは、前記第一の重合体が中和も溶解もされず前記粒子が測定可能な粒子径を維持する範囲内に限って調整される、請求項1から6のいずれか1項に記載のプロセス。
前記第一または第二段階の重合体中の架橋性単量体と、または前記第二段階の重合体中の先行架橋用単量体(2a2)由来の不飽和基と反応する別の架橋剤を加えることを含む工程(4)をさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のプロセス。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機物(VOC)の使用および排出に対する環境立法は、従来の溶剤を使用した塗料から水性塗料への移行をもたらしている。しかしながら、現在入手可能な水性塗料の品質は、溶剤を使用した塗料に近づきつつあるものの、依然として明らかな欠点が存在する。品質の差が最も深刻に現れるのは、多様な基板の透明塗装、ステイン、およびニス塗装に用いられる水性の無顔料塗料においてである。ほとんどの水性塗料には、分散した重合体粒子からなる水性結合剤が含まれているという事実のため、水性塗料による塗装は、濡れると不透明化または白濁してしまい、溶剤を使用した塗料が持つ缶内での透明性(in−can clarity、ICC)を欠いている。この性質は、可視光がどれだけ重合体分散液を通過できるかの度合いと説明するのが一番わかりやすい。ビニル重合体分散液による光の吸収および散乱が少ないほど、ICCは良好になる。ICCは、以下に記載するとおりの透明度測定により特質決定される。
【0003】
塗料を塗布すると、塗装は、濡れている間は白〜青みがかった外観を有し、乾燥するにつれて色が消えていく。多くの場合、水性塗料は乾燥しても溶剤を使用した塗料に比べて透明度のレベルが低い。透明木材塗装など多数の用途において、このような透明度が下がる影響は非常に望ましくなく、そのため塗装の透明性が濡れているときも乾いたときも改善されている水性塗料が必要とされている。乾燥膜の透明性が悪い理由の1つとして、不十分な膜形成、すなわち不十分な合体がある。合体を促進する目的で、重合体分散液の膜形成最低温度(MFT)を低下させるために、水性塗料には依然として顕著な量のVOCが含まれている。
【0004】
水性塗料に良好な硬度、耐ブロッキング性、および不粘着性が求められる場合、重合体分散液は周辺温度より十分高いガラス転移温度(Tg)を有する必要がある。そのような高いTgを有する重合体の場合は特に、適切な膜形成を周辺温度以下で確実に起こさせるために必要なVOCの濃度が高くなりすぎて、法律により現在許容されている最大濃度を超えてしまう。したがって、MFTを低下させるにはもうこれ以上有機溶剤の可塑化作用だけに頼ることはできない。
【0005】
ビニル重合体分散液中の重合体分散粒子の多形性を設計することでMFTを周辺温度以下に低下させる多数のアプローチが開発されてきた。そのようなアプローチの例が、Heutsらにより、“Influence of morphology on the film formation of acrylic dispersions” ACS Symposium Series(1996)、648(Film Formation in Waterborne Coatings), 271−285(非特許文献1)で検討されているが、そこでは硬質重合体画分および軟質重合体画分の組み合わせを、配合物として用いるか、または順次重合させて用いることが記載されている。しかしながら、重合体組成物中にTgが低い重合体が顕著な量で存在すると、塗装の物性(化学物質耐性、硬度、および耐ブロッキング性)に悪影響を及ぼすだろう。
【0006】
欧州特許第0758364号明細書(国際公開第95−29963号パンフレット、Overbeekら)(特許文献1)は、膜形成性にも、塗装の物性、特にKoenig硬度にも最適な折り合いをつけた水性組成物を記載している。この組成物は、低分子量で親水性の第一段階重合体(オリゴマー)を使用する。ここで用いられるプロセスの欠点は、第二段階重合体を重合させる前に塩基を加えてオリゴマーを溶解させなければいけないということである。オリゴマーのアルカリ溶液は、第二段階重合体を安定させる重合体分散剤の役割を果たす。得られる塗料における低分子量で親水性のオリゴマーが原因の感水性を低下させるために、オリゴマーには架橋性基が導入されている。さらに、最終重合体分散液のpHは否が応でもアルカリ性になってしまうが、このことは、例えば、アルカリに敏感な基板(オーク材など)用の塗装に用いられる場合など、望ましくないことが多い。そのうえさらに、アルカリ性溶液の粘度が高くなりすぎる、すなわち溶解した第一段階重合体の分散剤作用が失われて粒子径分布が広い生成物が形成されてしまい、透明度が失われて実質的に凝塊が形成されることを防ぐために、オリゴマーの分子量は比較的低くなければならない。低分子量で親水性の成分は、得られる塗装の物性にとって不利である。
【0007】
欧州特許第1008 635号明細書(Bardmanら)(特許文献2)は、コア・シェル型重合体を記載しており、第一の重合体には、その重量を基準として、0.5%〜7%。好ましくは1%〜5%のモノエチレン不飽和のイオン性単量体が共重合して含まれている。第二の重合体は、第一の重合体の存在下で重合させる。この第二の重合体には、第二段階において0.25%〜6%(第二の重合体の重量を基準として)の多エチレン不飽和単量体が共重合して存在していなければならない。この特許は、反応器にあらかじめ低濃度の無機塩を投入しているが、物性の組み合わせが望ましくなるようにするために必要な界面活性剤の種類については触れられていない。粒子径が30〜500nmであると記載されているものの、実施例は全て粒子径が90nmを超えており、したがって、分散液は必要とされる缶内での透明性を有さない。この特許は、鎖転移剤の使用は述べているものの、膜形成最低温度と硬度のバランスを上手く取るために必要な分子量範囲に関しては何も述べていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ビニル重合体の水性分散液の調製プロセスを提供すること、およびこのプロセスにより得ることができる水性分散液を提供することであり、得られる分散液は、一方では良好な膜形成性を有しながら、他方では良好な塗装の性質を有し、しかも上記の先行技術の短所が1つ以上解消されているものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従って、水可塑化性多相ビニル重合体粒子の水性分散液の調製プロセスを提供することにより、この課題は解決された。本プロセスは、以下を含むものである、
(1)以下を含む、第一の重合反応工程
(1a)第一の単量体混合物(1a1)、界面活性剤(1a2)、および水溶性無機塩(1a3)を水に加えて乳濁液(1A)を調製する工程、
工程中、第一の単量体混合物(1a1)は以下を含み
1)カルボン酸官能基を有する単量体、
2)単量体1以外の随意の架橋用単量体
3)単量体1)でも2)でもないビニル単量体、および
4)随意の鎖転移剤、
工程中、界面活性剤(1a2)は、エチレンオキシドを60重量%未満含有する硫黄系アニオン性界面活性剤であり、および
工程中、重合反応(1b)の開始時における水溶性無機塩(1a3)含有量は、0.01〜3g/kg水である、
(1b)得られる乳濁液1Aで乳化重合反応を行い、水可塑化性の第一段階の重合体粒子分散液(1B)を形成する工程、この第一段階の重合体はTgが10〜125℃である、
(2)以下を含む、第二の重合反応工程
(2a)分散液1Bに、以下を含む第二の単量体混合物(2a1)を加える工程
1)第一の単量体混合物(1a1)と同じ群から選択される単量体
2)先行架橋用に2つ以上のエチレン不飽和基を有する随意の単量体(2a2)、好ましくは2重量%の量、
工程中、カルボン酸官能基を有する単量体は、第二の単量体混合物中に、得られる第二の重合体の酸価が23KOH/g未満になるような量で存在し、および
工程中、単量体混合物(2a1)の量は、単量体混合物(1a1)+(2a1)の合計重量の10〜90重量%である、
(2b)第二の単量体混合物(2a1)を重合させて、第一の粒子分散液(1B)中に第二段階の重合体を形成させ、多相粒子分散液(2B)とする工程、
(3)随意に、多相粒子分散液(2B)に、塩基、好ましくは揮発性塩基を加えてpHを6.5〜10にすることにより、多相粒子分散液(2B)を水可塑化する工程
(4)随意に、単量体混合物(1a1)または(2a1)の架橋性単量体と、あるいは不飽和基(2a2)と反応する上記とは別の架橋剤を加える工程。
【0012】
本発明によるプロセスにおいて指定されるとおりの条件では、第一の重合体分散液中の粒子径も粒子径分布もよく整ったものとなり、典型的には80nm未満、さらには50nm未満である(光子相関法により測定されるとおりのZ−平均の平均値として表される)。ついで、これらの粒子を、第二の重合反応工程において所望の最終粒子径になるまで成長させることができる。得られる重合体分散液2Bは、固形分濃度が比較的高くなっても、良好な安定性、小さい粒子径、および非常に優れた缶内での透明性を有する。
【0013】
強調しておくが、第二の重合反応工程では、第二の単量体混合物を、水可塑化性の第一の重合体を含む分散液1Bに加えて重合させる。このことは、第二の重合反応工程において、第一の重合体はまだ水可塑化されていない、すなわち第二段階の重合反応の前には中和されていないことを意味する。したがって、第二段階の重合反応中のpHは低く、典型的には7未満、好ましくは6.5未満、より好ましくは6未満である。ビニル重合体分散液は、重合反応プロセスが終わったら塩基を加えることにより水可塑化することが可能であるが、必ずしもそうする必要はない。中和工程3の後、pHは、7〜10、好ましくは7〜9になっている。本発明の利点の1つは、水可塑化する前に、より低い粘度で、水性分散液を塗料添加剤と混合することにより、塗料組成物を配合することが可能であることである。塗料組成物が(完全には)中和されておらずpHが8未満、7.5未満、さらには7未満でさえあることのさらなる利点は、この塗料組成物を高pHに敏感な基板、例えば特定の木材基板に有利に使用可能であることである。
【0014】
典型的には、重合反応工程(2b)において、多相粒子分散液(2B)中の多相粒子は、80nm未満の平均粒子径を有し、好ましくは固形分含量が少なくとも35重量%において透明度価が少なくとも35である。透明度価は、LICO 200を用いて測定されるとおりに求められるもので、以下でより詳細に説明されるとおりの値である。本明細書中以下、固形分含量は(他に記載がない限り)ISO 3251により求められるとおりの、上記で指定される重合体成分の乾燥不揮発分/揮発分重量である。
【0015】
強調しておくが、欧州特許第338486号明細書および米国特許第4,894,397号明細書(Morganら)は、第一段階において親水性低分子重合体を形成させ、第二段階において第一段階の重合体中に疎水性の第二の重合体を形成させ、続いて塩基を加えることにより、逆転したコア・シェル乳濁液を製造する乳化重合反応プロセスを記載している。しかしながら、文献では、塗装の物性を良好に保ちながら良好な膜形成性を達成することに関しては何も述べられていない。さらに、どうやって粒子径を良好に制御するかについて記載されておらず、得られる重合体分散液は、固形分含量の低いものである、および/または透明度が欠けるものである。本発明の比較例は、Morganによるプロセスにより得られる重合体が、本発明の高分子分散液よりも顕著に大きい粒子径を有し、その結果缶内での透明性が低く、膜形成性も劣っていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第一の重合反応工程では、単量体混合物(1a1)、特定の硫黄系アニオン性界面活性剤(1a2)、および好ましくは開始剤も水に加えて混合し、水溶性無機塩(1a3)を特定のわずかな量(1a1)だけ含む乳濁液(1A)を調製する。原則として、乳濁液1Aに含まれる成分は、当該分野で既知のとおり、重合反応工程1bの前にどのような順序で混合してもよい。単量体混合物に含まれる単量体は、あらかじめ混合されて提供されても別々に提供されてもよく、連続で提供されても1回以上の固まりで提供されてもよく、水、界面活性剤、開始剤を投入する前、最中、または後に、反応温度に達する前、途中、または達した後に提供することができる。
【0017】
しかしながら、好適な実施形態において、乳化重合反応器には、水および硫黄系アニオン性界面活性剤を投入しておく。水および界面活性剤を先に投入して反応温度に加熱する。乳化重合反応は、広範囲にわたる温度(例えば、50〜120℃、好ましくは60〜100℃)で行うことができるが、単量体から重合体への変換を十分に速く行う目的で、反応を大気圧下で行う場合、好ましくは70〜95℃という温度が選択される。通常、フリーラジカル開始剤を反応器に加えることで重合を開始するが、加えるのは好ましくは反応器の内容物が所望の反応温度に達してからである。これらの一般重合反応条件は、第一の重合反応工程にも第二の重合反応工程にも当てはまる。
【0018】
適切な硫黄系界面活性剤(1a2)として、アルキルエトキシレート硫酸塩、アルキルエトキシレートスルホン酸塩、アルキルフェノールエトキシレート硫酸塩、アルキルフェノールエトキシレートスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、およびそれらの混合物が上げられるが、これらに限定されない。従来型の界面活性剤の他に、エチレンオキシドを60重量%未満、好ましくは50重量%未満、より好ましくは40重量%未満かつ5重量%超(重量%は界面活性剤合計重量に対する値)の量で含有し、好ましくはフリーラジカル重合反応に関与し得るエチレン不飽和結合を有する硫黄系界面活性剤(いわゆる反応性界面活性剤)。こうした界面活性剤は、単独乳化剤として、または従来の界面活性剤と組み合わせてのいずれかで用いることができる。界面活性剤の量は、第一段階の単量体(1a1)の合計量に対して、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、特に好ましくは2重量%未満である。
【0019】
第一の重合反応工程(1b)の開始時、水溶性無機塩の合計濃度は、反応器中の水1000g当たり3グラム未満、より好ましくは2.5g/kg水未満、より好ましくは2.0g/kg水未満、さらにより好ましくは1.5g/kg水未満でなければならない。第一の重合反応工程では、特定の硫黄系アニオン性界面活性剤の使用と合わせて水溶性無機塩の量を減らすことが小さい粒子径を達成するのに必要であることが見いだされた。水溶性無機塩として、使用する水に含まれる塩、使用する界面活性剤に不純物として含まれる塩(ただし有機界面活性剤塩そのものは含まれない)、フリーラジカル開始系の塩、または緩衝塩が挙げられる。関係するのは、重合反応の核生成の開始時に反応系中に存在する無機塩の合計含量である。したがって、単量体をあらかじめ乳化させて水溶性無機塩を含有する単量体乳濁液として加える場合には、含有される塩も関係してくるので考慮に入れなければならない。本文脈において、無機塩は、IUPAC Compendium of Chemical Terminology、第二版("Gold Book" compiled by A. D. McNaught and A. Wilkinson、 Blackwell Scientific Publications、Oxford (1997)、ISBN0−9678550−9−8. doi:10.1351/goldbook)に定義されるとおりの、コロイド電解質を除く、陽イオンと陰イオンの会合からなる化学物質として定義される。イオン性または陽イオン性界面活性剤などの有機塩(コロイド電解質)は、有機性の部分を含有し、ミセルを形成するので、除外する。
【0020】
したがって、本明細書の文脈における水溶性無機塩の例として以下が挙げられる:塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)(両方とも硫酸系界面活性剤に不純物として含まれる可能性がある)、過硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
8)、過硫酸カリウム(K
2S
2O
8)、過硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
8)、重亜硫酸ナトリウム(NaHSO
3)、および亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)(これらの塩はフリーラジカル反応系の一成分として存在する可能性がある)。水溶性無機塩の量の計算においては、界面活性剤由来の活性イオン物質は含めず、量に含めるのは、供給されるとおりの形の界面活性剤に含まれる無機塩、使用する水に含まれている無機塩、フリーラジカル開始剤、および最初の投入で加えられる任意の他の無機塩である。最大無機塩濃度は、使用する原材料について供給元から提供される成分明細から計算することができる。重合体水性分酸液を調製するのに用いる水は、水溶性無機塩含量が低いほうが好ましい。したがって、使用する水は、ISO 5687に従って伝導率が20μS/m未満である脱イオン水または脱塩水であることが好ましい。水溶液中の水溶性無機塩濃度を求めるのに通常用いられる方法として、伝導率測定、またはイオン選択性電極の使用が挙げられる。最大塩濃度の必要条件は、例えば、伝導率について混合物中のそれぞれの塩濃度を変えながら予め作製した較正曲線を用いることで電気伝導度から決定することができる。
【0021】
単量体混合物(1a1)は、好ましくは以下を含み、より好ましくは以下のみを含む:カルボン酸官能基を有する単量体を1〜45、好ましくは2.5〜40、より好ましくは5〜35、特に好ましくは7.5〜30重量%;i)に記載のもの以外の架橋単量体を0〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは3〜10、特に好ましくは5〜10重量%;i)にもii)にも記載されていないビニル単量体を98.5〜50、好ましくは90〜50、より好ましくは85〜60、特に好ましくは80〜70重量%;および随意に鎖転移剤。重量パーセントは、第一の単量体混合物中の単量体の合計重量に対するものである。第一の単量体混合物1a1に導入される単量体で酸官能基を有するものの量は、得られる第一の重合体の酸価が23mgKOH/g超、好ましくは35mgKOH/g超、より好ましくは45mgKOH/g超、特に好ましくは55mgKOH/g超となるような量である。好ましくは、酸価は、150mgKOH/g未満、より好ましくは125mgKOH/g未満であり、酸価が100mgKOH/g未満、または75mgKOH/g未満でも良好な結果を得ることができる。酸価は、固形重合体について与えられるものであり、単量体の組成から計算される。メタクリル酸メチル50部、アクリル酸ブチル40部、およびメタクリル酸10部からなる単量体混合物を重合して得られる共重合体は、固形重合体1グラムあたり、0.001161モルのカルボン酸を有することになる。この値に56,100を掛けると、mgKOH/固形重合体1グラムで表した酸価となる。つまりこの場合だったら、65.2mgKOH/gである。酸価は、DIN EN ISO 2114に従って実験から求めることもできる。
【0022】
単量体は、そのまま供給することも、追加の水および界面活性剤を用いて乳化してから供給することもできるが、第一段階の重合反応中、重合反応系のpHが酸性、好ましくは6未満であり続けるように注意しなければならない。第一段階の重合体は、エチレン不飽和結合を有する単量体、好ましくはアクリル酸およびメタクリル酸のエステル(例えば、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニルおよび(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなど)、またはエチレン不飽和結合を有する化合物(スチレン、例えば、ノルマルスチレンまたは置換スチレン、例えばα−メチルスチレンまたはt−ブチルスチレンなど);ビニルトルエン;ジエン類(1,3−ブタジエンまたはイソプレンなど)、またはそれらの混合物から構成される。ビニルエステル類、例えば酢酸ビニル、アルカン酸ビニル、またはそれらの誘導体もしくは混合物も、単量体組成物に加えることができる。ニトリル類、例えば(メタ)アクリロニトリルも用いることができる。
【0023】
単量体組成物には、カルボキシ官能基を有する不飽和単量体も含まれる。酸基は、例えば、マレイン酸無水物の場合のように潜在型であることも随意に可能であり、この場合酸基は、無水物基の形で存在する。(メタ)アクリル酸などの単量体を用いることが好ましい。カルボン酸官能基を有する他の可能な単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、およびそれらの無水物がある。カルボン酸官能基を有する単量体の他にも、カルボン酸以外の酸官能基をさらに有する単量体(エチルメタクリラート−2−スルホン酸または2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸など)が、単量体組成物に含まれていてもよい。
【0024】
酸官能基以外の官能基をさらに有する他の単量体も、単量体組成物に含まれていてもよい。そのような単量体の例として、ヒドロキシ官能基を有する単量体((メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなど)、(メタ)アクリルアミド誘導体(N−メチロール(メタ)アクリルアミドおよびジアセトンアクリルアミドなど)がある。ヒドロキシ官能基を有する単量体とエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドとの付加物も、単量体組成物に含まれていてもよい。アセトアセトキシ官能基を有するビニル単量体も、単量体組成物に含まれていてもよい。そのようなビニル単量体の例として、メタクリル酸アセトアセトキシエチル、アクリル酸アセトアセトキシエチル、アクリル酸アセトアセトキシ(メチル)エチル、アクリル酸アセトアセトキシプロピル、アセト酢酸アリル、(メタ)アクリル酸アセトアセトアミドエチル、およびアクリル酸アセトアセトキシブチルがある。好ましくは、第一段階の重合体は、(メタ)アクリル酸と他の(共)単量体の共重合体、例えば、(メタ)アクリル酸エステルおよび/または(メタ)アクリルアミド誘導体の共重合体である。好ましくは、第一段階の重合体は、カルボニル官能基を含有する。その結果、共有結合による架橋が、水不溶性重合体の場合と同じように、親水性の第一の重合体で生じる。好ましくは、カルボニル官能基は、ジアセトンアクリルアミドにより親水性の第一の重合体に導入されている。
【0025】
水溶性の第一段階の重合体を用いる本発明によるプロセスが従来技術の方法に明らかに勝っている点は、第一段階の重合体の数平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィー;GPCで測定して)を相対的に大きくすることができることである。従来技術のプロセスは、第一段階の重合体として上限10000までの分子量を有するものを用いることができるが、粘度の問題は、かなり低い分子量のときから、例えば、7000g/molを超えると顕著になる。第一段階の重合体1Bの数平均分子量は、一般に750〜100000、好ましくは2500〜75000、特に好ましくは5000〜75000g/molの範囲が可能である。本発明により、用途によっては有用なより高い分子量、具体的には7000、8000、9000、10000、さらには20000g/mol超の分子量さえも使用可能になる。注目すべき利点の1つは、高分子型の第一の重合体を含有する分酸液と会合性増粘剤との相互作用が改善されることである。乳液重合反応で分子量に影響を及ぼして所望の数平均分子量を達成する方法は、当業者に既知であり、例えば、“Emulsion Polymerization, A Mechanistic Approach” by Bob Gilbert, 245−291,Academic Press, 1995に記載されている。
【0026】
好適な実施形態では、鎖転移剤を用いて、重合反応での分子量を抑える。鎖転移剤の例として、ブチルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸n−ブチル、メルカプトエタノール、オクチルメルカプタン、イソデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸アリル、メルカプト酢酸アリル、メルカプトプロピオン酸クロチル、およびメルカプト酢酸クロチルがある。他にも、非硫黄系鎖転移剤として、ハロゲン化炭化水素、および触媒型鎖転移剤(N. S. Enikolopyan et al, J. Polym. Chem. Ed, Vol 19, 879(1981)で使用されているようなコバルトキレート剤など)が挙げられる。α−メチルスチレン二量体またはそのオリゴマーも、米国特許出願公開第2007/0043156号明細書および米国特許第6,872,789号明細書に説明されるとおりに用いることができる。よく整った分子量を有する重合体を合成するさらに別の方法は、ジアリールエテンを用いるものである。ジアリールエテンの使用は、W. Bremser et al, Prog. Org. Coatings, 45, (2002), 95ならびに日本国特許第3135151号明細書、ドイツ国特許第10029802号明細書、および米国特許出願公開第2002/0013414号明細書に詳細に記載されている。よく使われるジアリールエテンとして、ジフェニルエテンが挙げられる。
【0027】
第一段階の分散液にはガラス転移温度(Tg)が高い重合体が含有されているため、膜形成性を顕著に改善することができる。この重合体は、第二段階の重合体形成後に重合体分散液のpHを調整することにより、水による可塑性を持たせることができる。第一段階の重合体に含まれる酸基の中和により、重合体は水相に一部または全部溶解することが可能になり、その結果、最終的な重合体分散液の膜形成最低温度が大幅に低下する。塗装から水および中和用塩基が揮発すると、硬質重合体の水による可塑性が低下し、高いTgを有する重合体に相応する性質が現れる。第一段階の重合体のTgは、10〜125℃、より好ましくは20〜125℃、より好ましくは30〜125℃、さらにより好ましくは50〜125℃の範囲になければならず;用途によっては、さらに70〜125℃が好ましい。第二段階の重合体のTgは、第一段階の重合体のTgよりも、少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも40℃低くなければならない。一般的には、第二段階の重合体のTgは、−50℃〜50℃、より一般的には−25℃〜40℃の範囲内である。Tgは、以下の式で表されるFox方程式(T. G. Fox, Bull. Am. Phys. Soc. 1(1956), 123)から計算することができる:
1/Tg=W1/Tg(1)+W2/Tg(2)+W3/Tg(3)+・・・
式中、W1、W2、W3、・・・は、共単量体(1)、(2)、(3)、・・・の重量分率であり、Tg(1)、Tg(2)、Tg(3)は、各単量体の同種重合体のガラス転移温度を意味する。同種重合体のガラス転移温度の一覧を以下に示す。
【0028】
表1.特定単量体の同種重合体のガラス転移温度。
【0030】
上記の表に記載されていない単量体については、Encyclopedia Of Polymer Science and Technology 第四版(Wiley Online ISBN:9780471440260)に掲載されるとおりのTg値を用いることができる。本発明の組成物の膜形成最低温度MFTの範囲は、通常、約0〜55℃、より好ましくは0〜30℃になる。
【0031】
第一段階の重合反応工程で得られる重合体分散液1Bの粒子径(動的光散乱法を用いてz平均の平均値として測定)は、好ましくは80nm未満、より好ましくは70nm未満、さらにより好ましくは60nm未満であり、良好な条件下では典型的には50nm未満、好ましくは30〜45nmの範囲である。第一の単量体の供給が完了してから十分な時間をおいて単量体の変換率を十分に高めて(好ましくは少なくとも80または90%)から、第一の重合体分散液1Bに第二の単量体混合物(2a1)を加えることができる。この第二の単量体混合物用の単量体は、第一段階の重合体に用いる単量体混合物1a1用の群と同じ群から選択することができるが、ただし第二段階の単量体混合物に酸官能基を有する単量体を導入する場合は、得られる重合体の酸価が23mgKOH/g未満、好ましくは20mgKOH/g未満、より好ましくは17mgKOH/g未満、さらにより好ましくは15mgKOH/g未満、特に好ましくは高くても10mgKOH/gになるようにする。
【0032】
第二段階の単量体混合物は、多官能性エチレン不飽和単量体(2a2)も、単量体の合計含量に対して好ましくは上限約2重量%の量で含んでもよく、これにより先行架橋を起こす、すなわち第二段階の重合体の分子量を増やすことができる。有用な先行架橋剤として、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、メタクリル酸アリル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0033】
第二段階の単量体混合物(2a1)は、そのまま加えることもできるし、追加の水および界面活性剤を用いて予め乳化してから加えることもできる。第二の重合反応の開始に先立ち、pHは調整しないか、調整するとしても少しだけで、第一の重合体が中和も溶解もされず粒子が測定可能な粒子径を維持する範囲内に限り、第二の重合反応の開始時のpHは、好ましくは7未満、好ましくは6未満である。第二段階の重合反応の間も、重合反応系のpHが酸性(pH<7)、好ましくは6未満であり続けるように注意する必要がある。単量体混合物は、反応器に連続的に供給することもできるし、数回に小分けして加えることもできる。あるいは、第二段階の単量体混合物を、組成の異なる2つの画分に分割して、不均一または勾配のついた形態をもたらすような添加スキームを用いることもできる。第一段階の重合体対第二段階の重合体の量比は、原則として、広範囲に渡る様々な値が可能であるが、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%、さらにより好ましくは40〜60重量%(第一および第二の単量体混合物の合計量に対する第一の単量体混合物の量)から選択される。
【0034】
第二段階の単量体組成物は、第一段階の単量体組成物に過硫酸アルカリ(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、または過硫酸アンモニウムなど)などの熱開始反応系を用いるか、レドックス開始系を用いるかのいずれかにより重合させることができる。レドックス系での代表的な開始剤として、過酸化水素、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウリル、過酸化ジt−ブチル、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。
【0035】
適切な還元剤とは、開始剤からラジカルが形成されやすくなるものであり、例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、2−ヒドロキシ−2−スルフィン酸酢酸ジナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0036】
重合反応触媒とは、上記の還元剤と併用することで、反応条件下、重合開始剤の分解を促進し得る化合物である。適した触媒として、遷移金属化合物、例えば、硫酸第一鉄七水和物、塩化第一鉄、硫酸第二銅、塩化第二銅、酢酸コバルト、硫酸コバルト、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
本発明のプロセスで特に有利であるのは、ビニル重合体分散液の粒子径が非常に良く制御されることである。これにより、たとえ固形含量が高くなっても、非常に高い透明度(および缶内での透明性ICC)が得られる。良好なICCを得ることを考えると、分散液2Bの粒子径は、好ましくは100nm未満であるが、より好ましくは80nm未満、さらにより好ましくは75nm未満、特に好ましくは70nm未満である。これより大きな粒子はたとえ少量であってもICCに悪影響をおよぼすため、分散液中に存在し得るこのような大きな粒子の割合を最小限に抑えるように厳密な注意を払わなければならない。したがって、ビニル重合体分散液は、100nm超の粒子径を有する粒子、好ましくはさらに80nm超の粒子径を有する粒子までも含めて、好ましくは20重量%未満、より好ましくは15重量%未満、特に好ましくは10重量%未満しか含まない。
【0038】
いったん第二段階の単量体組成物が重合したら、ビニル重合体分散液2Bを冷却して仕上げることができる。得られる水性分散液は水可塑化が可能である。本発明によるプロセスの好適な実施形態において、本プロセスはさらに、多相粒子分散液(2B)に塩基、好ましくは揮発性塩基を加えてpHを6.5〜9、より好ましくは6.5〜8または6.5〜7.5にすることにより、多相粒子分散液(2B)を水可塑化することを含む工程(3)を含む。
【0039】
好ましくは、揮発性塩基はアンモニアである。可能な塩基として他には、例えば、揮発性アミン類(アミノメチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、および2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリエチルアミン、およびモノエタノールアミンなど)がある。多種の揮発性塩基の混合物を随意に用いることができる。
【0040】
中和用塩基を加えて水可塑化する工程は、重合体分散液から塗料組成物を配合するまで随意に延期することができる。したがって、本発明によるプロセスの別の実施形態において、塗料組成物を調製するプロセスでは、上記の水可塑化する工程(3)の前または最中に、水可塑化性分散液2Bに1種以上の塗料添加剤を加えることにより、塗料組成物を配合する。塗料組成物という用語は、本明細書では広い意味で用いられ、特定の用途の塗料組成物を配合するために当該分野で用いられるとおりの、共結合重合体、架橋剤、顔料、充填剤、レオロジー向上剤、および安定性向上剤を含む。このプロセスの利点は、水可塑化前の分散液の粘度はとても低く塗料添加剤をより簡単に均一混合できることである。
【0041】
本発明のプロセスはさらに、単量体混合物(1a1)または(2a1)中の架橋性単量体と、または不飽和基(2a2)と反応する別の架橋剤を加えることを含む工程(4)を含むことができる。この架橋剤は、化学的な影響を及ぼさなければ、原則として、プロセスのどの段階でも加えることができるが、好ましくはプロセスの工程2の後、より好ましくは工程3の後に加えられる。
【0042】
重合体分散液に加えることができ、第一段階および(随意に)第二段階の重合体両方における架橋性単量体由来の重合体の官能基と反応可能な架橋剤の選択は、この官能基の化学的性質に依存する。この化合物は、高分子化合物でも低分子量化合物でもよい。架橋を達成するため、架橋剤化合物は、少なくとも2つの反応基を有していなければならない。所定のペンダント型官能基に適した共反応性基の例は、当業者に既知である。例を表IIに示すが、これらに制限されない。
表II
【0044】
使用する架橋性単量体がケトンまたはアセトアセトキシ官能基を有する場合、好適な架橋剤は、酸ジヒドラジド(シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、およびテレフタル酸ジヒドラジドなど)である。あるいは、架橋剤は、水溶性脂肪族ジヒドラジン(エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、およびブチレン−1,4−ジヒドラジンなど)、またはポリアミン(イソホロンジアミン、および4,7−ジオキサデカン−1,10−ジアミンなど)が可能である。特に好適であるのは、アジピン酸ジヒドラジドまたはケトン保護したアジピン酸ジヒドラジドである。ケトンおよびアセトキシ以外の官能基を有する架橋用単量体が用いられる場合の他の適切な架橋剤として、アルキル化尿素およびメラミンホルムアルデヒド樹脂、(ブロック化)ポリイソシアナート、エポキシシラン、カルボジイミド、ポリアジリジンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
本発明の水可塑化性ビニル重合体分散液2Bは、単独でも、他の水性重合体と組み合わせてでも、塗料組成物に用いることができる。本発明のプロセスはさらに、水可塑化性ビニル重合体分散液2Bを水可塑化する前、最中、または後に、これに別の水性重合体を(好ましくは重合体水性分散液の状態で)加えることを含む工程(5)を含むことができる。そのような重合体として、水分散性重合体、例えば、ポリエステル、ポリエステルアミド、セルロースエステル、酸化乾燥型アルキド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリアミド、アクリル系重合体、ビニル重合体、ペンダント型アリル基を有する重合体、スチレンブタジエン重合体、酢酸ビニルエチレン共重合体などからなるものが挙げられるが、これらに限定されない。そのような重合体もまた、本発明に従って製造されてもよいし、不均一形態または勾配の付いた形態を有してもよい。他の重合体(共結合剤)を用いる場合、その量は、想定される用途に依存し、好ましくは1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜35重量%(第一段階および第二段階の重合体ならびに共結合剤の合計に対して)である。
【0046】
本発明はまた、本発明の方法により得ることができる多相ビニル重合体粒子分散液に関し、本分散液は、中和されて水可塑性になっている第一段階の重合体を含有しpHが7〜10、好ましくは7〜9である中和液状であるか、水可塑化性の第一段階の重合体を含有しpHが4〜7である非中和液状である。本発明はまた、本発明による多相ビニル重合体粒子分散液および1種以上のさらなる塗料添加剤を含有する塗料組成物にも関する。本発明のプロセスは、水可塑化する工程(3)の前または最中に水可塑化性分散液2Bに塗料添加剤を加えることで塗料組成物を配合するという異なるプロセスで塗料組成物を調製できるという利点を有する。別の利点は、多相ビニル重合体粒子分散液を、pHが4〜8である塗料組成物の製造に使用できるということである。このことは、高pHに敏感な基板、例えば、塩基にさらされると黒ずんでしまう木材に対して、特に有利である。
【0047】
本発明による水性塗料組成物は、本発明の水可塑化ビニル重合体分散液を単独でまたは別の水性重合体と併用して、および水を有機溶剤と併用して、顔料(有機または無機)、ならびに/または当該分野で既知の他の添加剤および充填剤を含有することができる。有機溶剤を用いる場合は、水混和性溶剤が好ましい。塗料を配合するのに用いられる添加剤または充填剤として、レベリング剤、レオロジー剤、ブロッキング防止剤、および流動制御剤(シリコーン、フルオロカーボン、ウレタン、およびセルロースなど);増量剤;艶消し剤;顔料、湿潤剤分散剤、および界面活性剤;紫外(UV)吸収剤;UV光安定剤;着色顔料;増量剤;消泡剤および泡止め剤;沈殿防止剤、たわみ防止剤、および増粘剤;皮張り防止剤;色分かれ防止剤および色浮き防止剤;殺菌剤および防カビ剤;腐食防止剤;増粘剤;可塑剤;反応性可塑剤;乾燥剤;触媒;ならびに合体剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の水可塑化重合体分散液を含有する塗料配合物は、配合したら、次いで、様々な表面、基板、または物品、例えば、紙、プラスチック、鋼、アルミニウム、木材、石膏ボード、コンクリート、レンガ、石レンガ、またはトタン板(下塗り有りまたは無しのいずれか)に塗布することができる。一般に、塗装しようとする表面、基板、または物品の種類によって用いる塗料配合物の型が決まる。塗料配合物は、当該分野で既知の手段を用いて、例えば、噴射、浸漬、ブラシ塗布、ロール塗布、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、任意の他のグラフィックアート印刷法などにより塗布することができる。
【0049】
一般に、塗装は加熱により乾燥させることができるが、好ましくは自然乾燥させる。本発明の重合体を用いた塗装の架橋は、加熱しても周辺温度でも可能である。さらなる態様として、本発明は、本発明の塗料配合物が塗布されている成形体または成型体に関する。
【0050】
以下の実施例は、本発明による水可塑化性および水可塑化ビニル重合体分散液の調製プロセス、得られる生成物、ならびにその応用を例示するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。
【実施例】
【0051】
試験法
重合体分散液の透明度価
重合体分散液の透明性は、LICO 200分光光度計(HACH LANGE)を用いて分散液の透明度を測定することにより求めた。LICO 200分光光度計は、標準光Cを用いて380〜720nmの範囲で試料の透過率を測定する(DIN standard 5033に規定のとおり)。透過率(T)は、入射光(Io)の強度に対する試料透過光の強度の比I/Ioである。透過率は、透明度価dL=T×100で表すことができる。dL=100ならば透明であり、dL=0ならば不透明である。この分光光度計は、11ミリメートル円形試料キュベットを用いる。
【0052】
分子量測定
分子量および分子量分布は、サイズ排除クロマトグラフィーを利用して求めた。用いたサイズ排除装置は、Alliance社のシステムで、ポンプ、自動試料採取器、およびHe脱ガス装置(Degasys DG−1210、Uniflows製)からなり、PLgel 5μm MIXED−C 600×7.5mmカラムおよびPlgel 5μmガードカラム(50×7.5mm、Polymer Laboratories)を装着する。カラムオーブン(Separations Analytical Instruments)は、30℃に設定した。テトラヒドロフラン(THF、Extra Dry、Biosolve 206347)+2%酢酸(Baker 6052)を、溶出液として、流速0.8ml/分で用いる。二硫化炭素(Backer)をマーカーとして用いる。Waters 410屈折計を検出器として用いる。注入体積は、濃度1.5mg/mlで100μlである。ポリスチレン標準分子(Polymer Laboratories、Easical PS−1、2010−0501(分子量範囲580g/mol〜8.500.000g/mol)およびEasical PS−2、2010−0601(分子量範囲580g/mol〜400.000g/mol))を用いて三次多項式で較正を行った。データ分析に用いたソフトウェアはEmpower(Waters)である。
【0053】
MFTの測定
MFTは、Rhopoint MFT−Bar 60を用いて求めた。Rhopoint MFT−Bar 60は、0℃〜60℃の温度範囲の測定ができる。フィルムは、湿潤時の膜厚25ミクロンで貼付けた。MFTは、フィルムがひび割れを起こさなかった最低温度である。
【0054】
粒子径の測定
粒子径は、Malvern Zetasizer Nano S90型を用いて動的光散乱法により求めた。Z平均値を粒子径として記録した。z−平均直径は、水力学的平均直径であり、国際標準動的光散乱法ISO13321に従って計算する。
【0055】
pHの測定
pHは、Proline QIS pH計を用いて測定した。
【0056】
Brookfield粘度の測定
Brookfield粘度は、ISO 2555−1974に従って、Brookfield RVT粘度計を用いて23±1℃で測定する。
【0057】
実施例での用語の定義:
第一段階の重合体固形分は、使用した単量体と鎖転移剤の合計である。合計重合体固形分は、第一段階の重合体固形分と第二段階の重合体固形分の合計である。第一段階での水溶性無機塩濃度は、第一段階の水相に対する水溶性無機塩の重量である。界面活性剤濃度は、合計重合体固形分に対する界面活性剤の重量である。水の添加量は、実験ごとに変更可能である。
【0058】
実施例で用いた原材料:
ラウリル硫酸ナトリウム:Texapon K 12 G、Cognis製、製造元の説明によれば硫酸ナトリウム2.5%以下および塩化ナトリウム1%を含有する。
脱塩水:イオン交換または逆浸透法により製造、ISO 5687に従って20μS/m未満の伝導率を有し、この値は最大塩濃度0.018%に相当する。
過硫酸アンモニウムは、Caldic製で、純度99%以上である。
【0059】
実施例1
3リットルの反応器に、脱イオン水968.3グラムおよびラウリル硫酸ナトリウム7.1グラムを投入した。反応器内部を窒素置換しながら、内容物を83℃に加熱した。重合反応プロセス全体を通じて、窒素雰囲気を維持した。反応器が83℃に達したら、過硫酸アンモニウム1.1グラムを脱イオン水15.0グラムに溶解した溶液を反応器に加えて第一の重合反応を開始した。原材料の明細書から計算される、予め投入された塩濃度は、1.6g/kg未満であった(ラウリル硫酸ナトリウム7.1+1.6グラム中の過硫酸アンモニウム1.1gr+0.25gr(最大3.5%の溶解性塩不純物)および水中の最大0.174gr)。それからすぐに、第一の単量体供給分を1時間かけて反応器に供給した。第一の単量体供給分は、脱イオン水194.6グラム、ラウリル硫酸ナトリウム1.6グラム、n−ドデシルメルカプタン5.7グラム、3−メルカプトプロピオン酸2.9グラム、ジアセトンアクリルアミド22.2グラム、メタクリル酸44.4グラム、メタクリル酸メチル288.5グラム、およびメタクリル酸n−ブチル88.8グラムを予め混合乳化しておいたものであった。第一の単量体供給分を供給し終わったら、供給槽を脱イオン水19.6グラムですすいだ。すすいだ水は反応バッチに加えた。すすぎ後、反応バッチをさらに15分間83℃に維持し、それから70℃に冷却した。この時点で、粒子径および分子量分析のために試料を採取した。試料の粒子径(PS1)は32nmであった。数平均分子量(Mn)は7700であった。
【0060】
反応バッチを70℃に冷却しながら、t−ブチルヒドロペルオキシド(70%)1.9グラムと脱イオン水4.6グラムを混合したもの、ならびに溶液100グラムあたり硫酸鉄(II)七水和物0.065グラムおよびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物0.079グラムを含有する溶液1.0グラムを反応バッチに加えた。反応バッチが70℃に達したら、還元剤の供給および第二の単量体の供給を開始した。還元剤供給分は、脱イオン水111.3グラム、イソアスコルビン酸1.1グラム、およびアンモニア1.1グラム(イソアスコルビン酸を中和する量の25%)を含有するものであった。第二の単量体供給分は、メタクリル酸メチル332.9グラムおよびアクリル酸n−ブチル111.0グラムからなるものであった。第二の単量体供給分は1時間半かけて反応器に供給し、還元剤供給分は2時間かけて反応器に供給した。第二の単量体供給分を供給し終わったら、供給槽を脱イオン水19.6グラムですすいだ。すすいだ水は反応バッチに加えた。第二の単量体供給分を供給し終わったら、還元剤の供給を続けながら、反応バッチの温度を徐々に60℃まで下げた。還元剤の供給が完了してから20分後に、粒子径分析用に試料を採取した。第二の重合反応工程(PS2)後の粒子径は45nmであった。次いで、反応バッチを室温に冷却した。冷却過程の間に、アンモニア20.93グラム(強度25%)を反応バッチに加えて重合体の酸基の中和および水可塑化を行った。室温で、アジピン酸ジヒドラジド架橋剤11.5グラム、続いて脱イオン水23.5グラムを反応バッチに加えた。水可塑化後の最終生成物は、pHが7.6、粒子径(PSF)が63nm、dL値が45.4、固形分含量(SC)が39.9重量%、およびBrookfield粘度(BV)が65mPa・sであった。測定した生成物物性を表1にまとめる。
表1:
【0061】
【表3】
−:未測定
*:粒子未形成;第二段階でゲルが形成
【0062】
比較例2
実施例1に記載のとおりのプロセスで水性組成物を調製したが、ただし過硫酸アンモニウム3.3グラム(1.1グラムの代わりに)を予め投入し、その結果塩濃度が3g/kgより高くなった。生成物の測定値を表1にまとめる。この比較例は、本発明によるプロセスが、先行技術のプロセス(Morgan)による分散液よりも大幅に粒子径が小さくなった分散液をもたらすことを示す。
【0063】
実施例3
実施例1に記載のとおりのプロセスで水性組成物を調製したが、ただしラウリル硫酸ナトリウム4.0グラム(7.1グラムの代わりに)および過硫酸アンモニウム1.8グラム(1.1グラムの代わりに)を予め投入し、その結果塩濃度が2.3g/kg未満になった。予め乳化した供給分については、ラウリル硫酸ナトリウム4.9グラム(1.6グラムの代わりに)およびn−ドデシルメルカプタン3.6グラム(5.7グラムの代わりに)を用いた。測定した生成物物性を表1にまとめる。
【0064】
実施例4
実施例1に記載のとおりのプロセスで水性組成物を調製したが、ただし過硫酸アンモニウム2.0グラム(1.1グラムの代わりに)およびラウリル硫酸ナトリウム6.2グラム(1.2グラムの代わりに)を予め投入し、その結果塩濃度が2.7g/kg未満になった。予め乳化した供給分には、n−ドデシルメルカプタン3.6グラム(5.7グラムの代わりに)を用い、3−メルカプトプロピオン酸は用いなかった。最終生成物400grに、アジピン酸ジヒドラジド2.0グラムを脱イオン水24.7グラムに加えたものを加えた。測定した生成物物性を表1にまとめる。
【0065】
比較例5
(EP0758364;Overbeekによるもの)。
実施例4に記載のとおりのプロセスで水性組成物を調製した。アンモニア(25%)34.3グラムを脱イオン水24.0グラムに加えた溶液を、重合体分散液に加えて、重合体の中和および可溶化を行った。アンモニアを加えてから約3分後、反応バッチは極度に粘稠になったので、反応バッチの撹拌を続けるために水328.0グラムを追加しなければならなかった。メタクリル酸メチル167.2グラムおよびアクリル酸ブチル55.7グラムからなる第二段階の単量体混合物を加える際には、反応器の内容物は固いゲルになっていた。この比較例は、本発明のプロセスでは、先行技術のプロセスと比較して、第一の重合反応工程において分子量を高めることが可能であり、そうしても第二の重合反応工程でゲル形成を起こさないことを示す。
【0066】
実施例6
表2に記載の成分を混合して塗料配合物を調製した。実施例6Aは、実施例1の分散液(低Mn1)を基剤とし、実施例6Bは実施例4の分散液(高Mn1)を基剤とする。
表2:
【0067】
【表4】
【0068】
配合物の粘度は経時的に記録した。表3に、実施例6Aおよび6Bの配合物の粘度を示す。
表3:
【0069】
【表5】
【0070】
表3の結果が示すとおり、実施例1の分散液(塗料6A)は、実施例4の分散液(塗料6B)と比較して、同量の会合性増粘剤(Tego Visco Plus 3060)の存在下で、経時的な粘度の増加が明らかに小さかった。このことは、配合物6Bでは、塗布に適した粘度を得るために必要な会合性増粘剤の量が少ないことを暗示している。このことは、経済性がより良いというだけでなく、得られる塗装の性質の点でも有利である。この実施例は、第一の重合反応工程でより分子量の大きい水可塑化性重合体を作製可能であることの有益性の1つを実証する。
【0071】
実施例7
実施例1に記載のとおりのプロセスで水性組成物を調製したが、ただし脱イオン水947.2グラム、ラウリル硫酸ナトリウム3.73グラム、および過硫酸アンモニウム1.87グラムを用い、その結果無機塩濃度が2.3g/kg未満になった。予め乳化した第一の単量体供給分については、表4に記載の組成(グラム単位)のものを1時間かけて反応器に供給した。
表4:
【0072】
【表6】
【0073】
反応バッチのpHを測定したところ、3.1であった。試料は、粒子径が21nm、および透明度価dLが71であった。第二の単量体供給分の組成を表5に示す。
表5:
【0074】
【表7】
【0075】
冷却している途中で、アンモニアを加えて中和した。室温で、アジピン酸ジヒドラジド11.71グラム、続いて脱イオン水23.46グラムを反応バッチに加えた。最終生成物の物性を表1にまとめる。
【0076】
実施例8
塗装評価。
表6に示す成分を高速溶解機で混合して、透明ワニスを配合した。
表6:
【0077】
【表8】
【0078】
配合したワニスは、透明性が42である。ワニスを、湿潤時の膜厚150ミクロンでガラス板に塗布し、周辺温度で乾燥させた。DIN 52157に従って、Konig硬度を測定した。硬度の発現を温度の関数として以下に示す:
【0079】
【表9】
【0080】
DIN 68861−1Bに従って薬品耐性を試験した。結果を以下に示す:
【0081】
【表10】
【0082】
評価は、5が優秀であり、0が不良である。配合したワニスは、Brookfield粘度が925mPa・sであった。21日後、粘度を再び測定したところ、値が863mPa・sであった。このことは、この生成物の粘度安定性が優れていることを示している。
【0083】
実施例9
3リットルの反応器に、脱イオン水900グラムおよびラウリル硫酸ナトリウム16グラムを投入した。反応器内部を窒素置換しながら、内容物を80℃に加熱した。重合反応プロセス全体を通じて、窒素雰囲気を維持した。反応器が80℃に達したら、過硫酸アンモニウム1グラムを脱イオン水50グラムに溶解した溶液を反応器に加えた。原材料の明細書から計算される、予め投入された塩濃度は、1.5g/kg未満であった。それからすぐに、第一の単量体供給分を1時間かけて反応器に供給した。第一の単量体供給分は、n−ドデシルメルカプタン16グラム、メタクリル酸50グラム、およびメタクリル酸メチル350グラムで構成される。反応バッチをさらに15分間80℃に維持した。メタクリル酸メチル200グラムおよびアクリル酸ブチル200グラムからなる第二の単量体供給分を、60分かけて反応器に供給した。同時に、過硫酸アンモニウム1グラムを脱イオン水50グラムに溶解した溶液を加え始めた。この溶液は70分かけて反応器に加えた。これらを加え終わった後、反応バッチをさらに60分間80℃に維持した。その後、反応バッチを周辺温度に冷却した。得られる重合体分散液は、固形分含量が43%、pHが2.7、Brookfield粘度が7850cPa・sであった。測定により、粒子径(PSF)は54nm、dL(透明性)値は30であることがわかった。
【0084】
比較例9
実施例9のとおりに重合体分散液を調製したが、ただし予め投入される水溶性無機塩濃度が3.0g/kg超(1.5g/kg未満の代わりに)になるように、過硫酸アンモニウム3.75グラム(1グラムの代わりに)の溶液を用いた。第二の重合反応工程では、過硫酸アンモニウム3.75(1グラムの代わりに)グラムを脱イオン水50グラムに溶解させた溶液を用いた。得られる重合体分散液は、固形分含量が42%、pHが2.3、Brookfield粘度が15cPa・sであった。測定により、粒子径(PSF)は107nm、dL値は6であることがわかった。
【0085】
こうして、上記の特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、これらの実施形態は、当業者に周知の様々な修飾および代替形態を容易に受けることが理解されるだろう。本明細書中記載される構造および技術に対して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、上記のもの以外の修飾を行うことが可能である。したがって、特定の実施形態が記載されているものの、それらは例示にすぎず、本発明の範囲を制限するものではない。