【文献】
19-1.SEC-C 石英ガラス製光電気化学セル,ビー・エー・エス株式会社,2011年 3月17日,第2-4頁,URL,https://web.archive.org/web/20110317151707/http://www.basj.com/1459.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
分光測定と電気化学測定とを同時に行う光電気化学測定は、近年では、太陽電池、二次電池、LED等の開発において、物質表面における化学反応をより精細かつ詳細に調べる手法として利用されている。
【0003】
光電気化学測定を行う際には、速度論等の手法で材料の詳細な評価を行うために、温度制御を行うことが重要である。即ち、温度を規定して電極反応の反応速度を決めれば、デバイスを組み立てなくても材料と電気との相性の評価が可能となるので、温度制御下で光電気化学測定を行えるようにすることは、新材料の開発にとって極めて有用である。
【0004】
温度制御下で光電気化学測定を行う方法としては、例えば、特許文献1に記載のクライオスタット(温度制御装置)に光電気化学セルを装着して測定を行うことが考えられる。
【0005】
図10は特許文献1に記載のクライオスタット201の概略構成を示す縦断面図である。クライオスタット201は、光電気化学セルを挿脱可能なセル装着孔210と、セル装着孔210の底部の両側に配置されるとともにセル装着孔210の軸線に交差するように設けられた一対の導光管220と、加熱冷却ブロック230と、加熱冷却ブロック230の周囲に設けられた断熱材240とを備えている。
【0006】
また、
図11は従来の光電気化学セル301の概略構成を示す縦断面図である。光電気化学セル301は、セル本体310と、封蓋部材320と、作用電極330と、カウンター電極340と、参照電極350とを備えている。
【0007】
セル本体310は、石英ガラス等の透光性材料で形成された有底筒状であり、セル本体310の底部は厚肉状に形成されている。
【0008】
封蓋部材320はセル本体310の上端開口部を閉じる。封蓋部材320はセル本体310の上端開口部に着脱可能に取り付けられる。
【0009】
作用電極330は、導電性金属により形成された細長い線状である。作用電極330の上端部331は封蓋部材320を貫通して封蓋部材320の上方に突出し、作用電極330の下端部332はセル本体310内部の底部付近に位置する。
【0010】
作用電極330の下端部332には矩形板状の光透過部333が設けられており、光透過部333は作用電極330の軸線と直交する方向に突出する。光透過部333の主面は作用電極330の軸線と平行に形成されている。
【0011】
光透過部333は、光透過性を有する材料で形成されるか、又は光透過性を有する構造(例えば、メッシュ状)に形成され、光透過部333の主面に直交する方向に光を透過させる。
【0012】
カウンター電極340は、導電性金属により形成された細長い線状である。カウンター電極340の上端部341は封蓋部材320を貫通して封蓋部材320の上方に突出し、カウンター電極340の下端部342は作用電極330の光透過部333の自由端側の側面333aと間隙C
3を在して対向している。カウンター電極340の下端部342における光透過部333の自由端側の側面333aと対向する部位は反応部を構成する。反応部は光透過部330との間で電極反応を引き起こす。
【0013】
参照電極350の下端部351は封蓋部材320を貫通してセル本体310内に突出している。
【0014】
セル本体310内には電解液が注入されており、作用電極330の光透過部333、カウンター電極340の下端部342、及び参照電極350の下端部351が電解液に浸漬している。
【0015】
光電気化学セル301をクライオスタット201(
図10参照)と組み合わせて光電気化学測定を行う場合には、電解液を注入した光電気化学セル301をクライオスタット201のセル装着孔210に装着する。そして、クライオスタット201の加熱冷却ブロック230で光電気化学セル301を温度制御しつつ、参照電極330とカウンター電極340との間に電圧を印加する。さらに、一対の導光管220を介して光を矢印方向(
図10参照)に導入して光電気化学セル301の光透過部333に光を透過させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、光電気化学セル301を用いてサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定を行う際に、電気化学反応の効率が低いため、CVの波形が潰れて正常に測定できない場合があった。
【0018】
また、光電気化学セル301とクライオスタット201とを組み合わせて光電気化学測定を行う場合、光電気化学セル301の作用電極330とカウンター電極340とが接触してショートする虞があった。
【0019】
即ち、クライオスタット201のセル装着孔210は深く、かつ一対の導光管220を通る光がセル装着孔210の底部を通過するため、光電気化学セル301をクライオスタット201と組み合わせる場合には、光電気化学セル301のセル本体310の高さHを大きくする必要がある。セル本体310の高さHを大きくすると、作用電極330とカウンター電極340とが長くなるため、作用電極330の光透過部333の側面333aとカウンター電極340の下端部342との間の間隙C
3を確保することが困難になり、光透過部333の側面333aとカウンター電極340の下端部342とが接触してショートを起こしやすくなる。
【0020】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、CV測定の精度を向上することができる光電気化学セル及び光電気化学測定装置を提供することにある。
【0021】
また、本発明の他の目的は、温度制御下で光電気化学測定を行うことができるとともに、作用電極とカウンター電極とのショートを生じにくくした光電気化学セル及び光電気化学測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、第1の発明は、有底筒状のセル本体と、光透過部を有する作用電極と、前記光透過部との間で電極反応を引き起こす反応部を有するカウンター電極とを備えた光電気化学セルであって、前記セル本体は、前記光透過部と前記反応部とを収容する収容凹部を有し、前記反応部は、前記収容凹部の内部側面と前記光透過部との間及び前記収容凹部の内部底面と前記光透過部との間に位置することを特徴とする。
【0023】
第1の発明の光電気化学セルによれば、カウンター電極の反応部がL字形であるため、カウンター電極の反応部が直線形である場合と比較して、反応部と作用電極の光透過部との対向長さが大きくなり、電気化学反応の効率が向上してCV測定の精度が向上する。
【0024】
また、第2の発明は、第1の発明の光電気化学セルにおいて、前記反応部は、その先端が前記収容凹部の内側面に当接することにより前記反応部の前記光透過部への接触を抑止することを特徴とする。
【0025】
第2の発明の光電気化学セルによれば、カウンター電極と作用電極とのショートが生じにくくなる。
【0026】
また、第3の発明は、第1の発明又は第2の発明の光電気化学セルにおいて、前記セル本体の上端開口部を封閉する封蓋部材と、前記セル本体の中間内部に固定されたガイド部材とを備え、前記作用電極と前記カウンター電極とは、前記封蓋部材と前記ガイド部材とを前記セル本体の軸方向に貫通し、前記作用電極の外周面と前記カウンター電極の外周面とは、前記封蓋部材と前記ガイド部材とに密着していることを特徴とする。
【0027】
第3の発明の光電気化学セルによれば、作用電極とカウンター電極とが封蓋部材及びガイド部材によって径方向に規制されるため、作用電極の光透過部とカウンター電極の反応部との接触が生じにくくなる。
【0028】
また、第4の発明は、第3の発明の光電気化学セルにおいて、前記封蓋部材と前記ガイド部材とは、湿気の通過を抑止する材料により形成されていることを特徴とする。
【0029】
第4の発明の光電気化学セルによれば、セル本体内の底部への湿気の侵入が抑止されるので、低温下での測定において、信頼性が向上する。
【0030】
また、第5の発明は、第4の発明の光電気化学セルにおいて、前記セル本体の上端部の内周面には微細な凹凸が形成されており、前記封蓋部材は、弾性材料で形成されており、前記セル本体の前記上端部の前記内周面に嵌合することを特徴とする。
【0031】
第5の発明の光電気化学セルによれば、封蓋部材の外周面がセル本体の上端部の内周面に形成された凹凸に沿って弾性変形して凹凸の表面に密着するため、湿気がセル本体内の底部へより侵入しにくくなるので、低温下での測定において、信頼性がさらに向上する。
【0032】
また、第6の発明は、第3の発明〜第5の発明のいずれかの光電気化学セルにおいて、前記セル本体の上端部がセル本体の上方に向けて拡開するテーパ状に形成されており、前記封蓋部材が逆円錐台状に形成されていることを特徴とする。
【0033】
第6の発明の光電気化学セルによれば、封蓋部材の外周面とセル本体の上端部の内周面との接触面はテーパ状であるため、封蓋部材とセル本体の上端部との間に隙間が生じにくく、湿気がセル本体内の底部へ侵入しにくくなるので、低温下での測定において、信頼性が向上する。
【0034】
また、第7の発明は、第1の発明〜第6の発明のいずれかの光電気化学セルにおいて、前記収容凹部がスリット状であることを特徴とする。
【0035】
第7の発明の光電気化学セルによれば、反応物質の拡散が抑制されるので、電極反応の効率が向上する。
【0036】
また、第8の発明は、第1の発明〜第7の発明のいずれかの光電気化学セルと、前記光電気化学セルの温度を制御する温度制御装置とを備える光電気化学測定装置であって、前記温度制御装置は、前記光電気化学セルを前記光電気化学セルの軸方向に沿って挿脱可能なセル装着孔と、前記セル装着孔に装着された前記光電気化学セルの前記光透過部に光を透過させる導光手段とを備えることを特徴とする。
【0037】
また、第9の発明は、第8の発明の光電気化学測定装置において、前記セル装着孔の内底部に挿脱可能に配置され、前記導光手段に対する前記光透過部の高さ位置を調整するスペーサを備えることを特徴とする。
【0038】
第9の発明の光電気化学測定装置によれば、スペーサを交換することで、高さの異なる複数の光電気化学セルを温度制御装置に装着することができる。また、光電気化学セルの底部を薄くすることができるので、光電気化学セルの製造が容易となるとともに、スペーサはセルの材料と異なる安価な材料で製造できるので、光電気化学測定装置のコストダウンを図ることができる。
【0039】
また、第10の発明は、第8の発明又は第9の発明の光電気化学測定装置において、前記温度制御装置がクライオスタットであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、光電気化学測定において、CV測定の精度を向上することができる。
【0041】
また、本発明によれば、温度制御下で光電気化学測定を行うことができるとともに、作用電極とカウンター電極とのショートを生じにくくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0044】
図1は、本発明の実施形態に係る光電気化学セル1の正面断面図であり、
図2は光電気化学セル1の右側面断面図である。
【0045】
図1に示すように、光電気化学セル1は、セル本体10と、封蓋部材20と、作用電極30と、カウンター電極40と、参照電極50と、ガイド部材60とを備えている。
【0046】
セル本体10は、石英ガラス等の光透過性及び熱伝導性を有する材料により形成された有底筒状であり、円筒状部11と、角筒状部12と、円筒状部11と角筒状部12とを連結するテーパ状の連結部13とを有している。
【0047】
円筒状部11の上端部11aはセル本体10の上方に向けてテーパ状に拡開して開口しており、上端部11aの内周面には梨地状の微細な凹凸加工が施されている。
【0048】
図2に示すように、角筒状部12の底壁12aは厚肉となっており、底壁12aの上面から垂直下方に向けて形成されたスリット状の収容凹部14を有している。
【0049】
なお、収容凹部14の幅Wを0.05cm〜0.5cmに設定すると、電極反応を追跡する際の応答時間を一般的な分光測定に比べて短くすることができる。
【0050】
また、底壁12aの上面をその周縁から収容凹部14に向けて下方に傾斜した漏斗状に形成しておくと、作用電極30の光透過部34(後述)の収容凹部14への挿入ガイドとなるので、光電気化学セル1の組み立てが容易になる。また、電解液が底壁12aの上面に留まることなく、残らず収容凹部14内へ流入するようになるので、好ましい。
【0051】
封蓋部材20は、テフロン(登録商標)等の湿気の通過を抑止する弾性材料により逆円錐台状に形成されており、セル本体10の上端開口部11aの内周面に挿脱自在に嵌合してセル本体10を封閉する。
【0052】
封蓋部材20の外周面とセル本体10の上端部11aの内周面との接触面はテーパ状であるため、封蓋部材20とセル本体10の上端部11aとの間に隙間が生じにくい。
【0053】
また、封蓋部材20は湿気の通過を抑止する弾性材料で形成され、且つセル本体10の上端部11aの内周面に微細な凹凸が形成されているため、封蓋部材20の外周面が凹凸に沿って弾性変形して凹凸の表面に密着するため、セル本体10内へ湿気が侵入しにくい。
【0054】
図1に示すように、作用電極30は、導電性金属により形成された細長い線状であり、作用電極30の上端部31と作用電極30の下端部32とを除いて絶縁性材料から成るチューブ33で被覆されている。
【0055】
作用電極30の上端部31は封蓋部材20に形成された貫通孔21を貫通して封蓋部材20の上方に突出している。なお、貫通孔21は、作用電極30のチューブ33の外周面の全周に密接しており、作用電極30と封蓋部材20との間から湿気がセル本体10内部へ侵入することを抑止している。
【0056】
作用電極30は矩形板状の光透過部34を有している。光透過部34は、作用電極30の下端部32から作用電極30の軸線と直交する方向に突出している。光透過部34の主面は作用電極30の軸線と平行に形成されている。
【0057】
光透過部34は、光透過性を有する構造(メッシュ状)に形成されており、光透過部34の主面に直交する方向に光を透過させる。
【0058】
カウンター電極40は、導電性金属により形成された細長い線状であり、カウンター電極40の上端部41とカウンター電極40の下端部42とを除いて絶縁性材料から成るチューブ44で被覆されている。
【0059】
カウンター電極40の上端部41は封蓋部材20に形成された貫通孔22を貫通して封蓋部材20の上方に突出している。なお、貫通孔22は、カウンター電極40のチューブ44の外周面の全周に密接しており、カウンター電極40と封蓋部材20との間から湿気がセル本体10内部へ侵入することを抑止している。
【0060】
以下、
図3及び
図4を参照して光電気化学セル1の要部を説明する。
図3は
図1に示された光電気化学セル1の要部拡大図、
図4は
図2に示された光電気化学セル1におけるIV−IV線拡大断面図である。
【0061】
カウンター電極40の下端部42には、光透過部34との間で電極反応を引き起こす反応部43が設けられている。反応部43は、収容凹部14の内部側面と光透過部34との間及び収容凹部14の内部底面と光透過部34との間に位置する。
【0062】
図3(a)に示すように、反応部43は、光透過部34の自由端側の側面34aに対して間隙C
1を在して対向する垂直部43aと、光透過部34の底面34bに対して間隙C
2を在して対向する水平部43bとを有している。
【0063】
例えば、水平部43bの先端と収容凹部14の左内側面14aとの距離D
1と、光透過部34の自由端側の側面34aと垂直部43aとの距離D
2との関係はD
2>D
1である。
【0064】
図3(b)に示すように、垂直部43aが光透過部34の側面34aの方向に移動して水平部43bの先端が収容凹部14の左側の内部側面14aに当接すると、垂直部43aがそれ以上側面34aに接近できなくなるため、垂直部43aが側面34aに接触することを抑止し得る。したがって、作用電極30とカウンター電極40とのショートが生じにくい。
【0065】
また、水平部43bを設けたことで、
図11に示す従来の光電気化学セル301と比べて、光透過部34に対するカウンター電極40の対向長さが大きくなるので、電気化学反応の効率が向上する。
【0066】
図1を参照して、さらに光電気化学セル1の説明を続ける。参照電極50の下端部51は封蓋部材20に設けられた貫通孔23を貫通してセル本体10内に突出している。なお、封蓋部材20の上端面には環状の凹部24が貫通孔23と同軸状に形成され、凹部24には、参照電極50の上部に外嵌されたOリング71が嵌め込まれており、参照電極50と封蓋部材20との間から湿気がセル本体10内に侵入することを抑止している。
【0067】
ガイド部材60は、テフロン(登録商標)等の湿気の通過を抑止する弾性材料により短円柱状に形成され、セル本体10の円筒状部11の下端部の内周面に嵌合固定されている。
【0068】
ガイド部材60には、作用電極30を貫通させる貫通孔61が形成されている。貫通孔61は、作用電極30のチューブ33の外周面の全周に密接しており、作用電極30とガイド部材60との間から湿気がセル本体10内の底部へ侵入することを抑止している。
【0069】
また、ガイド部材60には、カウンター電極40を貫通させる貫通孔62が形成されている。貫通孔62は、カウンター電極40のチューブ44の外周面の全周に密接しており、カウンター電極40とガイド部材60との間から湿気がセル本体10内の底部へ侵入することを抑止している。
【0070】
作用電極30とカウンター電極40とは、ガイド部材60と封蓋部材23とによって径方向に規制されて鉛直な姿勢に保持されているので、作用電極30の光透過部34とカウンター電極40の反応部43とが接触しにくい。
【0071】
セル本体10内の底部には電解液が注入されており、作用電極30の光透過部34、カウンター電極40の対向部43、及び参照電極50の下端部51が電解液に浸漬している。
【0072】
図5は、本発明の実施形態に係る光電気化学測定装置151の断面図である。光電気化学測定装置151は、光電気化学セル1と、温度制御装置としてのクライオスタット101とにより構成されている。クライオスタット101は、液体ヘリウムを減圧することで沸点を下げ、液体ヘリウムを気化させることによって被冷却物を常圧での液体ヘリウムの温度以下に冷却する。
【0073】
クライオスタット101による冷却温度が低くなると、結露が生じやすくなるため、光電気化学セル1に湿気が侵入しないように配慮する必要がある。上述したように、光電気化学セル1の封蓋部材20やガイド部材60は、湿気がセル本体10の内底部へ侵入することを抑止する構造となっている。
【0074】
クライオスタット101は、直方体状のハウジング102と、ハウジング102の内部の中央部に形成されたセル装着孔103と、セル装着孔103の周囲に充填された断熱材104とを備える。
【0075】
セル装着孔103は、加熱冷却ブロック105の内部に形成されており、光電気化学セル1をセル装着孔103の軸方向に沿って挿脱可能となっている。
【0076】
加熱冷却ブロック105には、熱交換用の流体が流通する管(図示せず)が内装されており、管に窒素(液体もしくはガス)や温水を流通させることにより、セル装着孔103に装着された光電気化学セル1を−100℃〜100℃の範囲で加熱冷却することができる。
【0077】
加熱冷却ブロック105は、セル装着孔103の底部の近傍に設けられた入光口105aと、セル装着孔103の底部の近傍に設けられた出光口105bとを有している。
【0078】
入光口105aと出光口105bの径は特に限定されないが、2mm〜20mmが好ましい。
【0079】
入光口105aのセル装着孔103側の端部には大径の空洞105cが形成されている。空洞105cによって光電気化学セル1の表面の光が照射される部分の結露を分散させることができる。
【0080】
また、出光口105bのセル装着孔103側の端部には大径の空洞105dが形成されている。空洞105dによって光電気化学セル1の表面の光が通過する部分の結露を分散させることができる。
【0081】
なお、空洞105c、105dの径は12mm以上が好ましく、14mm〜20mmがより好ましい。
【0082】
入光口105aと出光口105bとには、一対の導光管106の各々が同軸状に接続されている。入光口105a、出光口105b及び一対の導光管106により、本発明の導光手段が形成されている。
【0083】
導光管106の材質は特に限定されないが、導光管106がフッ化エチレン樹脂を含む場合には、湿気を好適に除去することができ、光電気化学セル1の表面の結露を抑止することができる。導光管106の材質としては、特に、3フッ化エチレン樹脂が好ましい。
【0084】
導光管106の一端に大径部106aが設けられており、大径部106aの内部には環状のシール部材108を介して透光性材料から成る窓109が取り付けられている。シール部材108によって導光管106が封止されている。
【0085】
窓109の材質としては、例えば、CaF
2、LiF、MgF
2、BaF
2、TlBrI、TlBrCl、NaCl、KBr、KCl、SiO
2、CsI、又はZnSeを用いることができる。
【0086】
窓109の形状は特に限定されないが、窓109が円形状の場合、光の入射性が良好になる。
【0087】
なお、窓109の直径が16mm以上であると、光の入射性が良好になるとともに、窓109が熱や圧力によって変形しにくくなる。窓109の直径は、より好ましくは20mm〜30mmである。また、窓109の厚みは0.2mm〜10mm程度あればよい。
【0088】
シール部材108の水蒸気透過率は30000cc・cm
2・mm・sec・cm Hg×10
10以下であることが好ましい。なお、本明細書における水蒸気体積ccは、STP(1気圧、0℃)における水蒸気体積を意味する。
【0089】
シール部材108の材質は、例えば、ポリクロロプレン、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム(ポリブタジエン・アクリロニトリル)、クロロスルフォン化ポリエチレン、ポリウレンタン、エピクロロヒドリンゴム、フッ素含有ポリマー、ブチルゴム等(以下、これらを「ガス遮断材料」とも言う。)を含むものが好ましい。
【0090】
特にフッ素含有ポリマーとブチルゴムの水蒸気透過率は2000cc・cm
2・mm・sec・cm Hg×10
10以下(好ましくは、2000〜3cc・cm
2・mm・sec・cm Hg×10
10)であり、シール部材108の材質として、フッ素含有ポリマーやブチルゴムを適用することによって、光電気化学装置151の外部から光電気化学装置151の内部への湿気の流入の抑止効果を高めることができる。
【0091】
シール部材108の材質として、フッ素含有ポリマー及び/又はブチルゴムを適用することによって、光電気化学装置151の外部から光電気化学装置151の内部への湿気の流入を効果的に抑止することができる。
【0092】
特に、フッ素含有ポリマーは、耐有機溶媒性(例えば、耐メタノール性)等の耐薬品性に優れている点で好ましい。フッ素含有ポリマーとしては、例えば、二元系フッ素ゴム、三元系フッ素ゴム等が挙げられる。
【0093】
二元系フッ素ゴムとしては、例えば、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフロオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等が挙げられる。
【0094】
三元系フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフロオロプロピレン−テトラフロオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン−テトラフロオロエチレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−エチレン−テトラフロオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0095】
二元系フッ素ゴムと三元系フッ素ゴムは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、二元系フッ素ゴムと三元系フッ素ゴムは、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。また、共重合体中の各モノマー成分の割合は、シール部材108による水蒸気流入抑制効果を十分に発揮できる範囲であればよく、特に限定されるものではない。
【0096】
特に、製品名「ダイニオン LTFE 6400X」(住友スリーエム株式会社製)は、耐薬品性、耐熱性等に優れている点で好ましい。
【0097】
シール部材108がフッ素含有ポリマー及び/又はブチルゴムを含有する場合には、シール部材108中のフッ素含有ポリマー及び/又はブチルゴムの含有量は、50重量%以上が好ましく、60重量%〜80重量%がより好ましい。シール部材108中にフッ素含有ポリマー及び/又はブチルゴムを含有する場合であって、フッ素含有ポリマー及び/又はブチルゴムの含有量が50重量%未満の場合には、クライオスタット101内部への水蒸気の流入の防止が困難となる虞がある。
【0098】
シール部材108は、必要に応じて、一般のシール部材に用いられる添加剤(有機過酸化物、架橋助剤、充填剤、加工助剤、受酸剤等)を含有する。添加剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
有機過酸化物としては、例えば、ジ第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(第3ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ジ(2−第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n−ブチル−4,4−ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられる。有機過酸化物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
シール部材108中の有機過酸化物の含有量は、特に限定されないが、ガス遮断材料100重量部に対して、0.5重量部〜10重量部が好ましく、1重量部〜5重量部がより好ましい。
【0101】
架橋助剤としては、例えば、多官能性不飽和化合物を使用できる。多官能性不飽和化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、トリメタアリルイソシアヌレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。多官能性不飽和化合物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0102】
シール部材108中における架橋助剤の含有量は、ガス遮断材料100重量部に対し、0.1重量部〜20重量部が好ましく、1重量部〜10重量部がより好ましい。
【0103】
充填剤としては、例えば、マイカ、タルク、クレー、グラファイト、ケイ酸等が挙げられる。充填剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シール部材108中における充填剤の含有量は、シール機能を損なわない範囲であればよく、特に限定されない。
【0104】
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリルアミン、パラフィンワックス等が挙げられる。加工助剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シール部材108中における加工助剤の含有量は、特に限定されず、目的とするシール部材108の性能に応じて適宜調整すればよい。
【0105】
受酸剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。受酸剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シール部材108中における受酸剤の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。
【0106】
その他、サーマルカーボンブラック、架橋剤、滑材等をシール部材108に含有させてもよい。
【0107】
シール部材108は、例えば、ガス遮断材料の各成分を混練機(インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等)又はオープンロールなどを用いて混練することによって調製できる。
【0108】
シール部材108を調製する際、シール部材108中のガス遮断材料を必要に応じて架橋させてもよい。
【0109】
架橋方法としては、例えば、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス等を用いて加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、100℃〜250℃が好ましく、150℃〜200℃がより好ましい。加熱時間は、1分間〜60分間が好ましい。
【0110】
シール部材108の形態は特に限定されず、ペースト状であっても、固形状であってもよい。特に、本発明においては、Oリング状に加工されたシール部材108を用いることが好ましい。シール部材108としてOリング状に加工されたものを用いることにより、より一層湿気の流入を抑制することができる。
【0111】
入光口105a側の導光管106の大径部106aの先端面には、窓109への入射光を制限する絞り部材110が取り付けられている。窓109の直径が16mm以上の場合には、絞り部材110の開口部110aの直径を10mm以下、好ましくは2mm〜9mmとすることにより、光をクライオスタット101の内部へ好適に入射させることができる。
【0112】
温度制御装置101のセル装着孔103に光電気化学セル1を装着する。温度制御装置101の加熱冷却ブロック105によって光電気化学セル1を温度制御しつつ、作用電極30とカウンター電極40との間に電圧を印加し、さらに導光手段(一対の導光管106、入光口105a、出光口105b)を介して作用電極30の光透過部34(
図1参照)に光を透過させることによって、電気化学測定と分光測定とを同時に行う。
【0113】
なお、セル装着孔103の内底部に挿脱可能に配置されるスペーサ111を適宜選択することで、入光口105a及び出光口105bに対する光透過部34の高さ位置を調整する。また、スペーサ111を交換することで、高さの異なる複数の光電気化学セル1をクライオスタット101に装着することができる。また、スペーサ111を使用することで、光電気化学セル1の底部を薄くすることができるので、セル本体10の製造が容易となるとともに、スペーサ111をセル本体10の材料とは別の安価な材料(例えばテフロン(登録商標))で製造することにより、コストダウンを図ることができる。セル装着孔103の内底部に配置されるスペーサ111の数は、光透過部34の高さ位置を調整できる限りは、1個に限定されず、複数個をセル装着孔103の内底部に積み重ねて配置することが可能である。
【0114】
なお、光電気化学セル1をクライオスタット101に装着した後、測定に先立って、クライオスタット101内部に乾燥ガスを流入させると、クライオスタット101内部の湿気を有効に除去することができる。乾燥ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンが挙げられる。乾燥ガスは1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
光電気化学測定装置151を用いれば、温度制御下で光電気化学測定を行うことができる。例えば、ある材料の光電気化学測定を複数の設定温度で行うことで、材料の反応のエネルギーを調べるためのデータを得ることができる。このデータは、材料の電気との相性を測る指標となり、デバイスを組み立てることなく材料の評価を行うことができるため、新材料の開発にとって極めて有用である。
【0116】
また、光電気化学セル1では、カウンター電極40の反応部43に水平部43bを設けたことで、反応部43の反応領域が増加して測定精度が向上するという効果を奏する。
図6〜
図9は、反応部43に水平部43bを設けたことによる効果を確認するための実験結果を示している。
【0117】
図6は、反応部43の水平部43bを絶縁材で被覆した状態(反応部43が水平部43bを有していない状態と同じであって、以下、「直線型電極」と称する。)と、反応部43の水平部43bを絶縁材で被覆していない状態(以下、「L字形電極」と称する。)とにおけるサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示すグラフである。グラフの縦軸は電流を示し、横軸は電圧を示す。試料として0.1MのBu
4NPF
6と1.0mMのフェロセンとの混合物、溶媒としてアセトニトリルを使用し、掃引速度を5.0mV/secにしてCV測定を行った。
【0118】
図6(a)は20℃でL字形電極を使用した実験結果を示し、
図6(b)は20℃で直線形電極を使用した実験結果を示し、
図6(c)は−40℃でL字形電極を使用した実験結果を示し、
図6(d)は−40℃で直線形電極を使用した実験結果を示す。
【0119】
図6(b)及び
図6(d)より、カウンター電極40の反応部43が直線型である場合は、電極反応の効率が低く、CVの波形が潰れて正常に測定ができないが、
図6(a)及び
図6(c)より、反応部43がL字形である場合は、電極反応の効率が向上して正常に測定ができることが確認できる。
【0120】
図7、
図8は、L字形電極と直線型電極とを使用してフェロセンを0.15mVで定電位分解した測定結果を示すグラフである。試料として0.1MのBu
4NPF
6と10mMのフェロセンとの混合物、溶媒としてアセトニトリルを使用した。
【0121】
図7(1)は20℃でL字形電極を使用した実験結果を示し、
図7(2)は20℃で直線形電極を使用した実験結果を示し、
図8(3)は−40℃でL字形電極を使用した実験結果を示し、
図8(4)は−40℃で直線形電極を使用した実験結果を示す。
【0122】
図7(1)、
図7(2)、
図8(3)及び
図8(4)のそれぞれについて、(a)は定電位分解をUV−visスペクトルで15秒間隔の測定により追跡した結果を示すグラフであり、グラフの横軸は光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。(b)は620nmの吸光度を一次の速度式で解析した結果を示すグラフであり、グラフの横軸は時間を示し、縦軸はある時間における吸光度Abs
tと最初の吸光度Abs
0との差を示す。
【0123】
図9は、
図7(1)(b)、
図7(2)(b)、
図8(3)(b)及び
図8(4)(b)のグラフの反応速度係数を纏めた表である。
【0124】
図7〜
図9より、L字形電極を用いる場合は、直線型電極を用いる場合と比べて、反応効率が20℃では1.49倍、−40℃では1.44倍になっている。反応効率が向上することで、反応速度の追跡能力が大幅に向上するという効果がある。
【0125】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態に種々の改変を施すことができる。
【0126】
例えば、上記実施形態では、作用電極の光透過部がメッシュ状に形成されているが、光透過部を透光性材料で形成された無孔状のものとしてもよい。
【0127】
また、作用電極の光透過部の形状は矩形状に限定されるものではなく、その他の形状(例えば、矩形以外の多角形状、半月形状、多角形状と円弧形状とを組み合わせた形状)であってもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、カウンター電極の反応部が光透過部の底面の全長に亘って対向するように形成されているが、カウンター電極の反応部は光透過部の底面の一部に対向するように形成してもよい。
【0129】
また、上記実施形態では、温度制御装置が熱交換用の流体によって光電気化学セルを加熱冷却するようにしているが、これに代えて、ヒータ等の電気的な加熱冷却手段によって光電気化学セルを加熱冷却するようにしてもよい。
【0130】
また、上記実施形態では、温度制御装置がクライオスタットであるが、クライオスタット以外の温度制御装置を用いてもよい。
【0131】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。