(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ロボット等の産業用機械装置において、アーム部分等にマニピュレータ(マニプレータ、或いは、マニピュレーター等と称されることもある)と呼ばれる装置が使用されていることは周知である。マニピュレータを使用すれば、人の手を直接使用することなく、物を動かしたり組み立てたりすることが可能であって、正確な作業が容易になる。
【0003】
特に、近年、省力化の観点から、種々の装置の自動化が推し進められており、コンピュータによる制御技術が進歩したこととあいまって、数多くのマニピュレータが、様々な分野で使用されるようになってきた。
例えば、射出成形やダイカスト成形等の成形分野においても、成形後の製品を金型から取り出す際に使用されて、成形の自動化を図るための重要なツールとなっている。
【0004】
マニピュレータの構造は、その用途により様々であり、マニュピレータに備えられたアームが360度回転して自在に旋回運動するタイプのものもあれば、人間の関節のように一定の角度範囲内でのみ回転する、所謂、回動するタイプのものもある。
用途によっては、旋回タイプのアームを備えたマニピュレータを求められることもあるが、構造が複雑でありコストがかかる等の理由から、一定角度内のみ回転する回動タイプのマニピュレータが求められるケースも多い。
なお、前述した回動タイプのマニピュレータに備えられたアームは、振り子のように限られた角度範囲を運動するので、搖動アームと称されることもある。
【0005】
ここで、搖動アームを備えたタイプのマニピュレータにおいては、マニピュレータ内に配したサーボモータの回転を、減速装置等を介してアーム部まで伝える構成となっているものが多い。というのは、サーボモータによる軸の回転速度と搖動アームの回転速度を比較してみた場合に、サーボモータの軸の回転速度が搖動アームの回転速度より圧倒的に早いことが一般的であり、サーボモータの軸の回転速度を減速装置で減速して、搖動アームに伝達する必要があることが多いという理由からによる。
【0006】
マニピュレータに使用される可能性のある減速装置として、例えば、特許文献1或いは特許文献2に示されるような歯車装置を利用した減速装置が先行技術として公知である。
特許文献1又特許文献2に開示される減速装置は、内公転歯車を使った歯車装置を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、マニピュレータに使用される減速装置は、ロボット装置等の動作部に埋め込まれることも多く、その小型化と軽量化が求められている。
マニピュレータの駆動源として、小さなサーボモータを使用すれば、マニピュレータの小型化と軽量化に有利である。
しかし、小さなサーボモータを使用すれば、サーボモータの回転トルクが小さくなるので、アームに大きな力を与えることが難しくなり、結果、高い可搬力を有するマニピュレータを設計することが難しくなる。
【0010】
マニピュレータのアームに大きな可搬力を与える手段として、減速装置を使用する方法がある。大きな減速比の歯車装置を使用し、サーボモータの回転数を減速してアームに伝達すれば、減速比に反比例する分だけ、アームを動かす力を増幅することができる。
しかし、サーボモータの回転運動をアームの搖動運動に変換させるマニピュレータ等に使用される減速装置は、装置の内部で運動の方向を転換して伝達する必要等もあって、小型化が容易ではない。
【0011】
例えば、前述した特許文献1等に開示される減速装置等は、大きな減速比を期待できるものの、その構造が複雑であり、メンテナンスが容易ではない。また、内公転型の減速装置は、偏心軸を回転させるために、高速回転にむかないので、質量をバランスさせるために大型化しやすく、小型化と軽量化の程度については、限界があった。
【0012】
なお、その他にも、不思議遊星型、差動クラウン型等、種々の減速装置が知られている。しかし、アームが回動して関節機構のように動くマニピュレータに使用できる減速装置は、部品数が多く、小型化と軽量化が難しかった。
【0013】
本発明は、以上、説明したような問題点に鑑みてなされたものであり、極めて単純な構造で大きな減速比を得ることのできる歯車装置と、その歯車装置を利用したマニピュレータに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明による歯車装置は、
(1) 円環状に並べられて外周側と内周側で同心状に配置された2列の歯車部を有する第1の歯車盤と第2の歯車盤を備えて、第1の歯車盤と第2の歯車盤を同一の中心軸により回転自在に軸支し、2つの歯車盤に形成された歯車部が互いに対向するように配することにより、外周側に形成された歯車部を対向させて外周歯車部とし、内周側に形成された歯車部を対向させて内周歯車部とし、外周歯車部と内周歯車部のいずれか一方に駆動用歯車を噛合させて駆動歯車機構を形成し、他方の歯車部に出力用歯車を噛合させて出力歯車機構を形成するとともに、駆動用歯車を駆動軸に配し、駆動軸の一端を回転駆動装置に連結して駆動軸の周方向に回転自在とし、出力用歯車を出力軸に配し、出力軸の一端を歯車盤と同一の中心軸で回転自在に軸支して出力軸の他端を搖動自在とした、歯車装置であって、第1の歯車盤と第2の歯車盤において、外周歯車部で向かい合う歯車部の歯数を異ならせ内周歯車部で向かい合う歯車部の歯数を同一とする、又は、外周歯車部で向かい合う歯車部の歯数を同一とし内周歯車部で向かい合う歯車部の歯数を異ならせる、構成とした。
【0015】
(2)(1)に記載の歯車装置において、前記駆動用歯車を外周歯車部に噛合させた。
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明によるマニピュレータは、
(3)(1)に記載の歯車装置を備えて、回転駆動装置をサーボモータとし、出力軸の他端に搖動アームを配した。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、単純な構造で大減速比を得ることのできる歯車装置を構成することが可能であり、歯車装置の小型化及び軽量化が可能で、メンテナンスが簡単である。
また、本発明の歯車装置を使用すれば、高い可搬力を有するアームを備えたマニピュレータの小型化が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面等に基づき本発明の好ましい実施形態の1例を詳細に説明する。
図1から
図6は本発明の実施形態に係わり好ましい例を示したものであって、
図1はマニピュレータの構成を説明する要部断面図であり、
図2は歯車装置の構成を説明する要部断面図である。
図3及び
図4は歯車装置の構成を説明する概念図であり、
図5及び
図6は搖動アームの動作の挙動を説明する概念図である。
また、
図7は、本発明による他の実施形態に係わり歯車装置の構成を説明する要部断面図である。
【0020】
以下、本発明による第1の実施形態(第1実施形態)の構成について、主に
図1及び
図2に基づきながら説明する。
図1に第1実施形態によるマニピュレータの構成を示す。モータ側ケース22とアーム側ケース23の中に、サーボモータ2、並びに、後述する歯車装置15等を備えて、歯車装置15の出力軸8の先端に搖動アーム9を配している。
【0021】
前述した2つのケースの中に配した歯車装置15の構成を説明するため、マニピュレータ1の中から歯車装置15を抜き出した図を
図2に示す。
歯車装置15は、円盤状の第1歯車盤5及び第2歯車盤6を有しており、第1歯車盤5及び第2歯車盤6は、後述する2列の歯車部が外周側と内周側で互いに対向するように向かい合わされた状態で配されて、同一の中心軸20により回転自在に軸支されている。
【0022】
図3に第1歯車盤5と駆動用歯車4並びに出力用歯車7の関係を示す。
第1歯車盤5の外周側には、歯車部を形成するための歯列が、前述した中心軸20の位置を中心として、円環状に並べられて形成されており、第1外周側歯車部5Aを形成している。また、第1外周側歯車部5Aの内周側には、円環状に並べられて第1外周側歯車部5Aと同心状(同心円状と称することもある)に配置された第1内周側歯車部5Bが形成されている。
【0023】
同様に、
図4に第2歯車盤6と駆動用歯車4並びに出力用歯車7の関係を示す。
第2歯車盤6の外周側には、歯車部を形成するための歯列が、前述した中心軸20の位置を中心として、第1外周側歯車部5Aと対向する方向に円環状に並べられて形成されており、第2外周側歯車部6Aを形成している。
そして、第2外周側歯車部6Aの内周側には、第1内周側歯車部5Bと対向する方向に円環状に並べられて、第2外周側歯車部6Aと同心状に配置された、第2内周側歯車部6Bが形成されている。
【0024】
そして、第1歯車盤5及び第2歯車盤6が同一の中心軸20を回転軸として、歯先を向かい合うように配されることにより、第1歯車盤5及び第2歯車盤6の間において、第1外周側歯車部5Aと第2外周側歯車部6Aで外周歯車部を形成し、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bで内周歯車部を形成する。
【0025】
ここで、第1実施形態においては、第1外周側歯車部5Aと第2外周側歯車部6Aの間に、駆動用歯車4を配して、第1外周側歯車部5Aと第2外周側歯車部6Aの両方に歯を噛合させることにより、駆動歯車機構11を形成する。
また、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bの間に、出力用歯車7を配して、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bの両方に噛合させて、出力歯車機構12を形成する。
【0026】
なお、本発明による第1実施形態においては、第1外周側歯車部5A、第2外周側歯車部6A、第1内周側歯車部5B、及び、第2内周側歯車部6Bについて、歯車盤に対して垂直方向に歯を設けた冠歯車(クラウンギヤと称されることもある)とし、駆動用歯車4及び出力用歯車7は、それぞれの歯車部に噛合できる平歯車とした。
【0027】
しかし、本発明に適応できる歯車機構の種類はこれに限るものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内において限定されるものではなく、動力を直交する軸へ伝達することのできる歯車機構等であれば良く、例えば、かさ歯車等、他の種類の歯車機構を使用しても良い。
【0028】
また、本発明の第1実施形態においては、
図2に示すように、第1歯車盤5と第2歯車盤6について、それぞれ外周側歯車部5A及び6A、又内周側歯車部5B及び6Bの径を同一にして対向させたが、本発明に適応できる実施の形態はこれに限るものではなく、第1歯車盤5と第2歯車盤6について、それぞれ外周側歯車部5A及び6A又内周側歯車部5B及び6Bの径を若干異ならせた状態として対向させても良い。例えば、第1外周側歯車部と第2外周側歯車部の歯数の違いが小さくない場合等においては、
図7の歯車装置15´に示すように、駆動用歯車4と円滑に噛合させるために、第1外周側歯車部5A´と第2外周側歯車部6Aの径を、若干異ならせた状態としても良い。
【0029】
なお、本実施形態においては、減速比をより高めやすい好ましい構成として、駆動用歯車4を外周側歯車部に配して出力用歯車7を内周側歯車部に配したが、本発明に適応できる実施の形態はこれに限るものではなく、駆動用歯車4を内周側歯車部に配して出力用歯車を外周側歯車部に配しても良い。
【0030】
そして、本発明の第1実施形態は、
図1乃至
図3に示したように、駆動用歯車4が駆動軸3に取り付けられており、駆動軸3にサーボモータ2が接続されている。
第1実施形態においては、サーボモータ2を図示しない電源及び制御装置に接続することにより回転自在に制御し、サーボモータ2に接続された駆動軸3の回転を自在に制御することによって、駆動軸3に取り付けられた駆動用歯車4の回転を自在に制御する。
【0031】
また、出力用歯車7は、出力軸8に取り付けられており、第1内周側歯車部5B及び第2内周側歯車部6Bと噛合している。
ここで、出力軸8は出力用歯車7を貫通するよう伸びて、その一端が内周側に向かい中心軸20において回転リング21により回転自在に軸支されており、他端が外周側に向かいその先端に搖動アーム9が取り付けられている。
【0032】
前述したように、サーボモータ2が回転することにより、駆動用歯車4が回転すると、駆動用歯車4に噛合している第1歯車盤5と第2歯車盤6が回転する。
第1歯車盤5と第2歯車盤6が回転すると、第1内周側歯車部5B及び第2内周側歯車部6Bが回転するので、第1内周側歯車部5B及び第2内周側歯車部6Bに噛合している出力用歯車7が回転する。
【0033】
ここで、本発明の第1実施形態においては、第1外周側歯車部5Aの歯数を40山、第2外周側歯車部6Aの歯数を39山、として、歯数の異なる第1外周側歯車部5Aと第2外周側歯車部6Aで外周側歯車部を形成し、駆動用歯車4の歯数を10山として、噛合させて、駆動歯車機構11を形成した。
【0034】
また、本発明の第1実施形態においては、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bの歯数を共に30として形成し、出力用歯車7の歯数を10山として、噛合させて、出力歯車機構12を形成した。
【0035】
以下、第1実施形態による歯車装置15を動作させて、マニピュレータ1の揺動アーム9を作動させる工程について説明する。
図示しない制御盤からサーボモータ2に指令信号を送信して、サーボモータ2を回転させると駆動軸3が回転し、駆動軸3に取り付けられた駆動用歯車4が回転する。
駆動用歯車4が回転すると、駆動歯車機構11において駆動用歯車4に噛合する第1外周側歯車部5Aと第2外周側歯車部6Aが回転し、それぞれ第1歯車盤5と第2歯車盤6を回転させる。
【0036】
第1実施形態においては、前述したように、第1外周側歯車部5Aの歯数を40山とし、第2外周側歯車部6Aの歯数を39山としている。
この場合、駆動用歯車4の歯数が10山で、サーボモータ2が1分間に100回転したと仮定すると、第1の歯車盤5は、1分間に25回転(1000/40回転)し、第2歯車盤6は、第1歯車盤5と反対方向に、1分間に約25.64回転(1000/39回転)する。
即ち、第1実施形態においては、第1歯車盤5と第2歯車盤6が逆方向に回転する状態となっており、駆動用歯車4が1分間で100回転した際において、第1歯車盤5と第2歯車盤6に、約0.64回転の回転速度差が生じている状態となる。
【0037】
出力用歯車7の歯数を10山とすると、出力用歯車7は、第1内周側歯車部5Bから歯数750(30×25)に相当するだけの回転を受け、第2内周側歯車部6Bから歯数769.2(30×25.64)に相当する回転を受ける。
つまり、出力用歯車7は、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bで、歯数にして1分間で19.2山程度の回転速度差を受けることになる。
【0038】
ここで、仮に、第1歯車盤5と第2歯車盤6が逆方向に回転し、且つ、その回転速度が同じであれば、第1歯車盤5と第2歯車盤6の間にある出力用歯車7は、第1歯車盤5と第2歯車盤6から、出力用歯車7を同方向に回す回転を受け、出力軸8の周方向に回転(自転と称することもある)するのみであり、同位置に留まる。
しかし、第1歯車盤5と第2歯車盤6が逆方向に回転し、且つ、その回転速度に差があった場合には、
図5或いは
図6に示すように、中心軸20を中心とする回転運動することになり、歯車盤の周方向に回転(公転と称することもある)し、歯数の差の1/2に相当する分だけ、出力軸8が公転して回動し、揺動アーム9が移動する。
なお、出力軸8の公転範囲は、駆動用歯車4によって限定されるため、角度として300度程度までの範囲である。
【0039】
第1実施形態において、出力用歯車7は、第1内周側歯車部5Bと第2内周側歯車部6Bで、歯数にして19.2山程度の回転速度差を受けている。
そのため、中心軸20を中心とする回転運動することになり、歯数の差の1/2に相当する分だけ、出力軸8が公転して回動し、揺動アーム9が移動する。
第1実施形態の場合、出力歯車機構12を形成する内周側歯車部の歯数が30山であるので、公転方向に約0.32回転(19.2山/2×1/30山)したことになる。
これを角度にすると、1分間で約115.2度(19.2山/2×180度/15山)程度、出力軸8が回転し、搖動アーム9が回動することになる。
【0040】
即ち、第1実施形態における歯車装置15においては、サーボモータ2が1分間に100回転した際において、公転方向に約0.32回転することになるので、減速比が300程度となり、非常に簡便な構成で大きな減速比の歯車装置15として使用できる。
【0041】
なお、本発明の第1実施形態においては、減速比を高めるための好ましい構成として、第1歯車盤5と第2歯車盤6の歯数を1山だけ異ならせる構成とした。
しかし、本発明に適応できる歯数についてはこれに限るものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内において、歯数の変更は可能であることは言うまでもない。
【0042】
以上説明したように、本発明においては、円環状に並べられて外周側と内周側で同心状に配置された2列の歯車部を有する第1歯車盤5と第2歯車盤6について、向かい合う2列の歯車部の歯数について、どちらか一方の列の歯数を異ならせることにより、第1歯車盤5と第2歯車盤6が逆方向に1回転するごとに、出力軸8が、中心軸20を中心として、歯数の差の1/2に相当する分だけ、歯車盤の周方向に回転し、揺動アーム9が移動する。
【0043】
第1実施形態においては、第2歯車盤6の歯数を第1歯車盤の歯数より1山少なくすることにより、第1歯車盤2と第2歯車盤の回転速度を1山分相違させて、第1歯車盤2と第2歯車盤との間に挟まれて噛合する出力用歯車7に対して、所謂、出力軸8の軸方向に回転する自転運動と、中心軸20を中心として歯車盤の周方向に回転する公転運動を与え、第1歯車盤5と第2歯車盤6が逆方向に1回転するごとに、出力軸8が、中心軸20を中心として、歯数の差の1/2に相当する分だけ、歯車盤の周方向に回転して、公転し、揺動アーム9が移動する。
したがって、サーボモータ2の回転数を減速できるから、極めて簡単な構成で、大減速比の歯車装置を構成できるという優れた作用効果を奏する。
【0044】
従来は関節機構等に使用される100以上の減速比を得られる減速装置は、部品数が非常に多かった。本発明の第1実施形態では、少ない部品数で大きな減速比が得られるため装置の小型化と軽量化に有利であり、指関節等の関節機構などにも利用可能である。
また、本発明の第1実施形態では、中心軸20を中心とする公転の回転角度として300度程度に制限されるが、製品取り出し装置等、多くの装置に使用される一般的なマニピュレータの回転角度として十分なものである。