【実施例】
【0016】
図1に本発明による計測手法の全体構成を示す。ここでは、異なる2種類の計測を実行する。その一つは、高エネルギーX線CT装置による被検体内部の密度測定Aである。他方は、同じ被検体を対象とした例えばGe半導体検出装置による放射線測定Bである。
【0017】
密度測定Aは、燃料デブリを収納した燃料デブリ収納容器3に対してX線発生装置1からX線を照射し、コリメータ12を介して放射線検出器2で燃料デブリ収納容器3を透過したX線を検知する。検知信号から燃料デブリ収納容器3内各部の燃料デブリDBの密度ρ(g/cm
3)の情報を得る。なお、燃料デブリ収納容器3に対してX線発生装置1は、横行(並進)、回転移動することにより、内部断層の情報を得ている。
【0018】
このように密度測定Aでは、高エネルギーX線CT装置を用いて燃料デブリ収納容器中の密度分布を測定する。本装置は、使用済FBR燃料集合体の測定実績を有し、密度を約1%の精度で測定可能である。密度ρが求まれば、構造材料のおおよその組成がわかり、質量吸収係数μが求まる。
【0019】
放射線測定Bは、燃料デブリ収納容器3を設置した台の周囲、あるいは高さ方向における燃料デブリの放射線(計数率)Iを測定する。この場合に本発明における放射線測定Bでは、本来測定すべき核物質(ウランUやプルトニウムPu)から放出される放射線が微弱なことから、核物質(ウランUやプルトニウムPu)と同様の挙動を示し強い放射性(γ線)を放出する核種、例えばEu−154やCe−144等の放射線を測定対象とする。このケースでは、放射線検出器として例えば、Ge半導体検出器を用いれば、核種弁別と放射線強度Iの測定が可能である。
【0020】
図2に本発明で使用する高エネルギーX線CT装置の概略構成を示している。
図1の実施例におけるX線CT装置は、ファン状ビームでX線を発生するX線発生装置1、放射線検出器2(多数の放射線センサの並んだものからなる)、被検体である燃料デブリ収納容器3に対してX線発生装置1と放射線検出器2を回転走査するターンテーブル4とその回転駆動機構6、燃料デブリ収納容器3に対してX線発生装置1と放射線検出器2を並進走査する並進スキャナー5とその並進駆動機構7、回転駆動機構6と並進駆動機構7を制御するスキャナーコントローラ8、放射線検出器2からの信号を処理する信号処理装置9、信号処理回路9からのデータをもとに画像を作成する画像処理装置10、画像を表示するCRT11を備えている。そしてX線発生装置1より出たX線は、放射線検出器2に入射し、入射強度に比例した信号が信号処理装置9に送られ、収集したデータに基づいて画像を作成してCRT11に表示する。
【0021】
X線発生装置1は、1MeV以上の高エネルギーX線を発生させるために、電子を例えば12MeVに加速する電子線加速器およびこの電子線が衝突する金属ターゲットから構成されている。金属ターゲットは、高密度な物であればなんでもよく、例えばタングステンが好ましい。金属ターゲットから放射された高エネルギーX線は、燃料デブリ収納容器3を透過した後、放射線検出器2に入射する。X線発生装置1と放射線検出器2を収納している並進スキャナー5はターンテーブル4上で並進用駆動機構7により並進運動可能であり、ターンテーブル4は燃料デブリ収納容器3に対してその周りに回転用駆動機構6により回転運動可能であり、これによって、X線発生装置1および放射線検出器2は燃料デブリ収納容器3に対して並進および回転せしめられ.X線発生装置1の金属ターゲットから放射された高エネルギーX線は、水平方向においてあらゆる角度で被検体である燃料デブリ収納容器3の内部を透過し、放射線検出器2からのそのデータが信号処理装置9に送られて画像処理装置10によってCRT11に表現される。
【0022】
図2に記載の上記装置によれば、信号処理装置9には燃料デブリ収納容器3内の燃料デブリについて、燃料デブリ各点における密度ρの情報(密度分布を含む)が得られている。また信号処理装置9では、密度ρが求まっており、これがわかれば、構造材料のおおよその組成がわかり、質量吸収係数μ(cm
2/g)が求まる。燃料デブリは、核物質と炉心などの構造材が破損、溶融した状態のものであり、質量吸収計数μ(cm
2/g)は、構造材であるジルコニウム合金(主成分Zr)、ジルコニウム合金の酸化物(主成分ZrO2)、ステンレス鋼SUSなどのおおよその組成がわかれば質量吸収係数μ(cm
2/g)が求まる。
【0023】
他方、放射線測定Bにより燃料デブリの放射線(計数率)Iが得られているが、これは本来計測すべき核物質の放射線(計数率)、つまり真の放射線(計数率)I
0を燃料デブリ中の燃料成分及び構造材、燃料デブリ収納容器3、半導体検出装置までの空間などを介して得られたものである。
【0024】
このため演算部13では、計測した放射線(計数率)Iを、構造材の質量吸収計数μ(cm
2/g)、密度ρ(g/cm
3)、放射線の物質中等科距離x(cm)の関数として補正して、真の放射線(計数率)I
0を得る。以上のI、ρ、μの情報より、関係式により正確な計数率I
0が求まり、測定対象核種の正確な量が求まる。
【0025】
放射線は燃料デブリの密度に比例して減衰するので、ここではX線CT装置により燃料デブリの密度を測定して放射線の減衰を補正したものである。また放射線の減衰率は放射線エネルギーにも依存するため、測定する放射線に対する減衰率の密度依存性を予め把握しておくのがよい。
【0026】
なお、上記の計測した放射線(計数率)Iは、核物質であるウランUやプルトニウムPuではなく、核物質(ウランUやプルトニウムPu)と同様の挙動を示し強い放射性(γ線)を放出する核種として、例えばEu−154やCe−144等の放射線を測定対象としていた。この場合に、測定対象核種量と核物質量の相関関係(比)は、ORIGEN等の燃焼解析コード(燃焼度計算)から計算できるので、最終的に正確な核物質量を求めることができる。
図1の補正部14では、測定対象核種量と核物質量の比を用いて、最終的に核物質量を求める。
【0027】
ここでは、核物質からの放射線の強度やエネルギーが低い場合を想定しているので、核物質からの放射線に十分な大きさの強度やエネルギーがあるのであれば測定対象核種を設定せずとも好い。不十分な場合に利用可能な測定対象核種量としては、核物質と同じ挙動を示す核分裂生成物FP、マイナーアクチニドMAの放射線を測定するのがよい。一般的には、核種がアクチノイド元素あるいはランタノイド元素あるいは希土類元素が測定対象核種量として好適であり、Eu−154やCe−144等であれば十分な大きさの強度やエネルギーがあるので計測に好適である。
【0028】
図3は、本発明による計測処理フローを示す図である。
図3の最初の処理ステップS1では燃料デブリを収納缶に入れ、処理ステップS2では収納缶ごと外部から放射線測定装置で対象核種のγ線強度Iを非破壊測定する。この際、γ線強度Iは全体的な平均値で良く、収納容器(線源)からの平均的なγ線の物質中透過距離xを記録する。
【0029】
次に、処理ステップS3では、高エネルギーX線CT装置で収納缶中の燃料デブリの平均的な密度ρを測定する。この際測定された密度ρ及び炉内構造から予想される燃料デブリ組成より質量吸収係数μを求める。
【0030】
処理ステップS4では、以上の測定で得られたγ線強度I、物質中透過距離x、密度ρ、質量吸収係数μより、式I
0=I×exp(μρx)を用いて対象核種から放出される真のγ線強度I
0を求める。これにより、対象核種のγ線放出率等の物性データより対象核種の存在量が分かる。
【0031】
処理ステップS5では、対象核種量と核物質量の関係による補正を行う。対象核種量と核物質量の関係は、燃焼度計算により分かるので、比例計算により正確な核物質量を求めることができる。
【0032】
なお上記の説明においては、核物質以外を対象核種としたが、直接核物質から放出される微弱γ線を測定しても、同様の手順で正確な核物質量を求めることができる。但しこの場合には、処理ステップS5の処理を要しない。
【0033】
また上記の説明においては、平均的なγ線強度I、距離x、密度ρで評価したが、収納容器中の燃料デブリの線源や組成のバラツキがある場合は、それらを考慮した距離ごとのγ線強度と密度を求めて加重平均を取ることにより、正確な核物質量を求めることができる。
【0034】
本発明によれば、核物質量を非破壊で簡便に比較的高精度で測定することができる。サンプリングや化学的、物理的、機械的な処理が不要であり、燃料デブリを収納し、容器内に封入した状態での測定が可能である。また非接触測定が可能であり、遠隔で核物質量を測定可能である。また多量の不純物が共存する場合の核物質の量を、簡便に比較的高精度で測定することができる。