【実施例】
【0012】
以下、本発明を適用したブリーザ装置の実施例について説明する。
実施例のブリーザ装置は、例えば、発電機、ポンプ、建築機械、産業機械、農業機械その他の各種セット機器、あるいは車両等の駆動用動力源として用いられる4ストロークOHC単気筒のガソリンエンジンのシリンダヘッドに設けられるものである。
ブリーザ装置は、カムシャフトの回転による遠心力を利用してブローバイガスからオイルを分離する気液分離構造を有するものである。
図1は、実施例のブリーザ装置を有するシリンダヘッドを斜め上方側から見た外観斜視図である。
図2は、
図1のシリンダヘッドの分解斜視図である。
図3は、
図1のシリンダヘッドを
図2に対してさらに分解した状態を示す分解斜視図である。
図4は、実施例のブリーザ装置をカムシャフトの軸方向から見た図である。
シリンダヘッド1は、ヘッド本体部10、吸気バルブ20、排気バルブ30、カムシャフト40、点火栓50、インジェクタ60、ヘッドカバー70、仕切板80、スリットプレート90、ダクト100等を有して構成されている。
【0013】
ヘッド本体部10は、図示しないシリンダのクランクケース側とは反対側の端部に、図示しないヘッドガスケットを介して、ヘッドボルトBによって締結される部分である。
シリンダは、シリンダヘッド1側がクランクケース側に対して高くなるように、直立又は傾斜して配置されている。
ヘッド本体部10は、例えばアルミニウム系合金を鋳造した後に、所定の機械加工を施して形成されている。
ヘッド本体部10には、図示しない燃焼室、図示しない吸気ポート、排気ポート11等が形成されている。
【0014】
吸気バルブ20は、燃焼室に混合気を導入する吸気ポートを所定のバルブタイミングで開閉するものであって、円柱状のステムの燃焼室側の端部に傘状の弁体を形成したものである。
吸気バルブ20は、ロッカアーム21を介して、カムシャフト40のカム41により開閉駆動される。
ロッカアーム21は、カムシャフト40の回転中心軸と平行に配置されたロッカシャフト回りに揺動可能となっており、カム41によって駆動されるカムフォロワ部、及び、吸気バルブ20のステムエンドを押圧するバルブ駆動部を有する。
【0015】
排気バルブ30は、燃焼室から既燃ガス(排ガス)を排出する排気ポートを所定のバルブタイミングで開閉するものであって、円柱状のステムの燃焼室側の端部に傘状の弁体を形成したものである。
吸気バルブ20及び排気バルブ30は、カムシャフト40の回転中心軸方向から見たときに、弁体側(燃焼室側)に対してステムエンド側(ヘッドカバー70側)が広がるよう、所定のバルブ挟角だけ相対傾斜して配置されている。
排気バルブ30は、ロッカアーム31を介して、カムシャフト40のカム41により開閉駆動される。
ロッカアーム31は、吸気側のロッカアーム21と実質的に同様に構成されるが、ロッカシャフトに対してロッカアーム21とはカムフォロワ部、バルブ駆動部が逆向きとなるように取り付けられている。
吸気バルブ20及び排気バルブ30は、図示しないバルブスプリングによって、閉弁方向に付勢されている。
【0016】
カムシャフト40は、図示しないクランクシャフトに対して1/2の回転速度で同期して回転しつつ、吸気バルブ20、排気バルブ30を駆動するものである。
カムシャフト40は、カム41、プーリ42等を、例えばフェノール系樹脂などの樹脂系材料をインジェクション成形することによって一体に形成して構成されている。
カムシャフト40の中央部には、回転中心軸と同心の貫通穴40aが形成されている。
貫通穴40aには、シリンダヘッド1のヘッド本体部10に取り付けられる円柱状のシャフト(芯金)が挿入される。
カムシャフト40は、このシャフトによっていわゆる串刺し状態でヘッド本体部10に支持され、このシャフト回りに回動可能となっている。
【0017】
カム41は、所定の開弁時期に相当する箇所がベース円から張り出したプロファイルを有するカムローブ(カム山)を有し、カムシャフト40の回転時にロッカアーム21,31を押圧して、吸気バルブ20、排気バルブ30を開方向に駆動する部分である。
実施例においては、一例として単一のカムローブによって吸気バルブ20、排気バルブ30の両方を駆動するようになっているが、吸気側、排気側でカムローブを別個に設けてもよい。
【0018】
プーリ42は、図示しないタイミングベルトが巻き掛けられ、クランクシャフトに設けられたクランクプーリからタイミングベルトを介して伝達される動力によって、カムシャフト40を回転駆動するものである。プーリ42は、カムシャフト40の回転中心軸方向においてカム41に隣接して配置され、実質的に同心に形成されている。
プーリ42は、
図3に示すように、その内部に、カム41側とは反対側の端面をカップ状に凹ませて形成した空間部43を有する。
プーリ42は、スリットプレート90、ダクト100等と協働して本発明のブリーザ装置を構成する。
【0019】
空間部43の内部には、筒状部44、リブ部45が形成されている。
筒状部44は、上述したシャフトが挿入される円筒状の部分であって、空間部43の底面部(カム41側の面部)から軸方向に突出して形成されている。
リブ部45は、空間部43の外周縁部における内面から内径側に突出して形成されている。
リブ部45は、プーリ42の周方向に分散し、放射状に複数配列されている。
リブ部45において、プーリ42の内径側でありかつカム41側とは軸方向反対側の角部には、スリットプレート90の外周縁部が嵌め込まれる段状の切欠部である段部45aが形成されている。
スリットプレート90は、外周縁部が段部45aに嵌め込まれることによって、その表面部がプーリ42の端面と実質的に同一平面上か、あるいはわずかにカム41側となるように配置されている。
リブ部45は、スリットプレート90の外径側に空間部43内と連通する隙間Sを形成した状態で、スリットプレート90を保持するよう構成されている。
この隙間Sは、空間部43内においてブローバイガスから遠心分離されたオイルを外部に排出するオイル排出流路として機能する。
【0020】
点火栓50は、図示しない電力供給手段から供給される電力によってスパークを発生させ、燃焼室内の混合気に点火し燃焼(爆発)させるものである。
点火栓50は、排気バルブ30のプーリ42側とは反対側の領域に、電極部分が燃焼室内に突出するように配置されている。
【0021】
インジェクタ60は、燃焼室内に燃料(ガソリン)を噴射するものである。
インジェクタ60には、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料が供給される。
インジェクタ60は、図示しない噴射制御手段から供給される噴射信号(開弁信号)に応じて開弁する弁機構を有し、所定の燃料噴射時期に所定の燃料噴射量を噴射するよう構成されている。
【0022】
ヘッドカバー70は、ヘッド本体部10におけるシリンダ側とは反対側に設けられ、動弁駆動系などを覆って設けられる部材である。
ヘッドカバー70は、ヘッド本体部10側が開口した容器状に形成されている。
ヘッドカバー70の内部には、ブリーザ室として利用される図示しない空間部が形成されている。
また、ヘッドカバー70には、空間部内に導入されたブローバイガスを外部に排出するブローバイガス排出管71が形成されている。
ブローバイガス排出管71には、ブローバイガスをエンジンの吸気管路内に導入するホースが接続される。
【0023】
仕切板80は、ヘッドカバー70内の空間部と、ヘッド本体部10の内部の空間部とを区画する隔壁である。
仕切板80は、ヘッド本体部10とヘッドカバー70との合わせ面と実質的に平行な矩形の平板状に形成されている。
仕切板80は、例えば、樹脂系材料をインジェクション成型して形成されている。
【0024】
仕切板80には、ダクト100からヘッドカバー70内の空間部にブローバイガスを導入する開口81が形成されている。
開口81は、例えば、矩形状に形成され、仕切板80のダクト100と接続される側の端部近傍に並列して一対が設けられている。
開口81には、ダクト100からヘッドカバー70内へのブローバイガスの流入を許容するとともに、ヘッドカバー70からダクト100への逆流を防止する逆止弁82が設けられている。
逆止弁82として、例えば、開口81を開閉するリードバルブを用いることができる。
【0025】
スリットプレート90は、カムシャフト40のプーリ42の空間部43における開口部の大部分を閉塞する円盤状の部材である。
スリットプレート90は、カムシャフト40の回転中心軸と実質的に同心でありかつこの回転中心軸と直交する平面に沿って形成されている。
スリットプレート90は、例えば、鋼板などの板金部材を所定の形状に打ち抜いて形成されている。
スリットプレート90は、開口91、スリット92等を有して構成されている。
【0026】
開口91は、スリットプレート90の中央部に形成された円形の貫通穴(センターボア)であって、カムシャフト40の回転中心軸と実質的に同心に形成されている。
開口91は、カムシャフト40の筒状部44が挿入され、圧入等によって固定される部分である。
【0027】
スリット92は、スリットプレート90の中央部において、開口91の外周縁部に隣接して配置された連通穴(貫通穴)である。
スリット92は、カムシャフト40の回転中心軸方向から見た平面形状が、カムシャフト40の回転中心軸と実質的に同心の扇型に形成されている。
スリット92は、スリットプレート90の周方向に多数(一例として18個)配列されている。
【0028】
ダクト100は、スリットプレート90の一部のスリット92から排出されたブローバイガスを、ヘッドカバー70内の空間部内に導入する部材である。
ダクト100は、本発明にいうブローバイガス排出流路を構成する部分である。
ダクト100は、ダクト本体部110、インテーク部120を有して構成されている。
【0029】
ダクト本体部110は、仕切板80のシリンダ側の面部(
図1乃至4における下面部)から、カムシャフト40の回転中心軸側に突出した部分である。
ダクト本体部110は、例えば樹脂系材料によって形成されている。
ダクト本体部110は、実質的にストレートに形成され、流路方向と直交する平面で切って見た横断面形状は矩形に形成されている。
ダクト本体部110の内部は、仕切板80近傍の領域においては、幅方向における中央部に設けられた図示しない隔壁によって二分され、これら二分された流路は一対の開口81にそれぞれ連通している。
【0030】
インテーク部120は、ダクト本体部110の入口側(仕切板80側とは反対側)の端部に接続され、スリットプレート90のスリット92から出たブローバイガスをダクト本体部110に導入するものである。
インテーク部120は、樹脂系材料によって形成されている。
図4等に示すように、インテーク部120は、カムシャフト40の中心部に設けられる筒状部44やその内径側に挿入されるシャフト等を避け、多数のスリット92のうち、ヘッドカバー70側の半部に位置するものと、カムシャフト40の回転中心軸方向に対向するように配置されている。
インテーク部120をカムシャフト40の回転中心軸方向から見た形状は、例えば、カムシャフト40と実質的に同心となりかつ中心角が約180°となる扇型に形成され、カムシャフト40の回転中心軸付近にはシャフト等の他部品との干渉を防止する逃げ部が形成されている。
インテーク部120のスリットプレート90側の端部は、例えば樹脂製のリップがスリットプレート90の表面と摺動可能に当接した状態とされ、実質的にスリットプレート90との間に隙間がないように構成されている。
インテーク部120は、その内部にスリット92を介してカムシャフト40の空間部43の内部と連通する空間部を有する。
【0031】
インテーク部120におけるダクト本体部110側の面部には、インテーク部120をダクト本体部110に接続する接続部121が形成されている。
接続部121は、ダクト本体部110の突端部が挿入され嵌合するとともに、インテーク部120の内部のブローバイガスをダクト本体部110に導入する流路となる。
【0032】
次に、実施例のブリーザ装置の動作について説明する。
エンジンの運転時には、カムシャフト40は、シリンダヘッド1のヘッド本体部10等に対して、クランクシャフトの1/2の回転数(回転速度)で回転する。
このとき、クランクケースの内部から、タイミングベルトが通されるベルト室などを通ってシリンダヘッド1のヘッド本体部10内に到達したブローバイガスは、ダクト100のインテーク部120によって覆われていない領域のスリット92から、スリットプレート90を抜けて空間部43の内部に流入する。
空間部43の内部においては、リブ45がブローバイガスを撹拌することによってカムシャフト40の回転中心軸回りに旋回する旋回流が形成される。
このとき、ブローバイガスに含まれるオイル飛沫(油滴)は、遠心力によって空間部43の外周側の壁面部に付着し、隙間Sからプーリ42の外部側へ流出し、自重によってクランクケース下部のオイル貯留部に流下する。
【0033】
一方、上述した遠心分離作用によってオイル飛沫が除去又は低減されたブローバイガスは、インテーク部120によって覆われている領域のスリット92から、スリットプレート90を再度抜けてインテーク部120内に入り、接続部121、ダクト本体部110、仕切板80の開口81、逆止弁82を順次経由してヘッドカバー70内の空間部に流入し、最終的にはブローバイガス排出管71及びこれに接続されるホースを経由してエンジンの吸気管路に導入され、燃焼室内で燃焼処理される。
【0034】
以上説明したように、実施例によれば、カムシャフト40のプーリ42の内部に形成された空間部43を、遠心分離式の気液分離器として用いるとともに、プーリ42とともに回転するスリットプレート90のスリット92を用いて、プーリ42の軸方向における一方側からブローバイガスの導入及び排出をともに行うことによって、ブリーザ装置の気液分離構造を小さいスペースで成立させることができる。
また、スリット92及びダクト100のインテーク部120を、カムシャフト40の軸心を避けて配置したことによって、カムシャフト40をシャフトが貫通し、軸心付近に気液分離構造の排気流路を形成することが困難な場合であっても、気液分離構造を成立させることができる。
さらに、プーリ42の内部に、気液分離に用いられる空間部43を一体に形成することによって、部品点数、重量、コスト等を抑制するとともに、シリンダヘッド1にブリーザ装置をよりコンパクトに搭載することができる。
【0035】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン及びブリーザ装置の構成は、上述した実施例に限定されず適宜変更することができる。
例えば、エンジン及びブリーザ装置を構成する各部品の形状、構造、材質、製法、配置、個数などは適宜変更することが可能である。
また、エンジンのシリンダレイアウト、動弁駆動形式や用途も特に限定されない。例えば、実施例のエンジンは吸排気バルブを単一のカムシャフトによって駆動するOHCエンジンであるが、例えば吸排気バルブを別個のカムシャフトによって駆動するDOHCエンジンの場合には、いずれか一方のカムシャフトに本発明の気液分離構造を適用した構成とすることができる。
(2)実施例においては、カムシャフトのプーリを気液分離を行う回転体(気液分離器)として利用しているが、本発明はこのような構成に限定されず、例えばカムスプロケットや、その他の回転部品を回転体として用いることもできる。
また、既存の部品の内部を利用する構成に限らず、気液分離用の部品を設ける構成としてもよい。この場合、例えばカムシャフトの端部に限らず、カムシャフトの中間部(例えば気筒間など)に気液分離構造を設けても良い。
(3)実施例においては、ダクト100のインテーク部120は、例えば、多数のスリット92のうち反シリンダ側の半部を覆って設けられる構成としているが、ブローバイガス排出流路の入口部がスリット部と対向する範囲の位置や広さはこれに限らず適宜変更することができる。