(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光触媒が、結晶性ルチル型酸化チタンを50モル%以上含む酸化チタンと酸化銅(II)を含有する銅およびチタン含有組成物であり、かつ、酸化チタン100質量部に対して銅元素換算含有量が0.1〜20質量部である、請求項1に記載の抗ウイルス壁紙。
【背景技術】
【0002】
従来、壁紙の構造は、少なくとも基材、樹脂層、柄印刷層をこの順に有するものが主流であった。近年、壁紙に様々な付加価値を付与することが要求されており、例えば、樹脂層と柄印刷層との間に、所望の付加機能を有する層を設けた壁紙が知られている。
【0003】
このような付加機能を有する壁紙として、例えば、光触媒を含有する層を新たに設けた特開2005−35198および特開2006−233072に記載されている発明が知られている。
【0004】
このような発明においては、光触媒の有する作用により、有機系樹脂から成る層の分解を引き起こすおそれがあり、少なくとも光触媒を含有する層には無機バインダー、例えば、ケイ素含有化合物であるアルコキシシランなどを用いる必要があった。しかし、このような無機バインダーを用いると、塗膜が固いためエンボスの追従性が悪くなり型が入りにくくなったり、割れが生じたりするなどの不具合があった。
【0005】
また、光触媒を含有する層を、無機バインダーを主成分とする組成物から形成したとしても、有機材料(例えば、塩化ビニル)から成る樹脂層上に、光触媒を含有する層を直接配置すると、樹脂層、ひいては基材にまで光触媒が浸食してしまい、有機材料を含有する層においてチョーキングが生じるおそれがあった。
チョーキングは、有機材料を含有する層に含まれる有機成分、例えば可塑剤および樹脂成分などが光触媒により分解されると生じ得るものであり、チョーキングにより、壁紙の崩壊、変色、光触媒が壁紙表面に露出してしまうといった問題が起こり得る。
【0006】
このため、光触媒を用いるためには、例えば、樹脂層と、光触媒を含有する層との間にバリア層などを設けて、チョーキングを防ぐ必要があった。このような機能を有するバリア層は、一般に、無機系材料、例えばテトラエチルシリケート、水ガラスなどの材料から製造されており、基材、樹脂層などとは異なる材料を用いることが多い。
しかし、このバリア層を設けると、壁紙の厚さが増し、また、用いる樹脂層、バリア層および光触媒を含有する層の性質および化学構造に基づき、層同士の密着性の低下、および塗膜の割れなどが生じるおそれがあった。さらに、シリコン樹脂またはフッ素樹脂などの樹脂でバリア層を設けても、光触媒により分解してしまいチョーキングによる壁紙表面の劣化を防ぐことが難しい。このように、バリア層を設けると、生産性およびコストの観点からも好ましくなく、また、樹脂層、バリア層および光触媒を含有する層間において剥離が生じる可能性が高くなるなど好ましくない。
また、樹脂層にポリ塩化ビニル樹脂を使用する場合、可塑剤の添加が必要となる。そのため、光触媒を含有する層を設けていても可塑剤が表面に移行してしまい、光触媒との作用により変色が発生する。この対策として可塑剤移行防止層を樹脂層と光触媒を含有する層との間に設ける必要がある。
【0007】
一方、例えば、光触媒を用いてアルデヒド等の揮発性有機化合物を分解する壁紙(特開2010−084448)が知られている。ここに開示されている壁紙は、光触媒の機能を効果的に発揮するために、オレフィン系樹脂から成る樹脂層を有している。
オレフィン系樹脂を使用する壁紙は、一般にカレンダーまたはTダイにより塗膜を作成するので、ポリ塩化ビニル樹脂を使用するペースト加工による塗膜と比べて厚くなり、塗膜厚を薄く調整することが難しい。また、ポリ塩化ビニル樹脂は樹脂自体が難燃性を有する。一方、オレフィン系樹脂は樹脂自体難燃性がないため建築基準法での規制を有する分野での使用に対して難燃剤の併用などを考慮する必要ある。さらにオレフィン系樹脂は外観意匠性、隠蔽性、表面強度、生産性およびコストの面でもポリ塩化ビニル樹脂に比べ劣ってしまう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材と、樹脂層と、表面処理層とを有する抗ウイルス性壁紙であって、表面処理層は、表面処理層用樹脂と光触媒とを含有する表面処理層形成用組成物から形成され、光触媒は酸化チタンと銅化合物から成る組成物である、抗ウイルス性壁紙に関する。
好ましい実施態様において、基材と、樹脂層と、表面処理層とをこの順で有する抗ウイルス性壁紙であって、表面処理層は、表面処理層用樹脂と光触媒とを含有する表面処理層形成用組成物から形成され、光触媒は酸化チタンと銅化合物から成る組成物である、抗ウイルス性壁紙が提供される。
以下、本発明の壁紙について詳細に説明する。
【0013】
基材
本発明に用いる基材としては特に限定されず、従来から壁紙の基材として使用されている素材であればよい。例えば、紙、織物、編物、不織布、又はこれらの複合素材を使用してもよい。好ましくは、紙、オレフィンフィルム、不織布、フリースなどである。また、基材は、所望により難燃加工などが施されてもよい。
【0014】
基材の厚さは、特に限定されないが、0.09〜0.15mmであることが好ましい。また基材の質量としては50〜100g/m
2、好ましくは60〜80g/m
2であるが、これに限定されるものではない。
【0015】
樹脂層
樹脂層は、有機材料を主成分とする樹脂組成物から形成され、好ましくは、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂組成物から形成される。ポリ塩化ビニル樹脂を使用することにより、ペースト加工による塗膜のように塗膜厚を薄く調整することができる。また、ポリ塩化ビニル樹脂は樹脂自体が難燃性を有する。さらに、ポリ塩化ビニル樹脂を用いることで、外観意匠性、隠蔽性、表面強度、生産性およびコストなどの面で優れた壁紙を得ることができる。
樹脂層には、可塑剤、発泡剤、安定剤、充填剤、着色剤およびその他の添加剤が配合され得る。外観にボリューム感をもたせ、表面外観に変化をもたせ、および意匠性に優れた壁紙が得られるので、樹脂層形成用組成物に発泡剤を添加することが好ましい。
【0016】
ポリ塩化ビニル樹脂は、その平均重合度が700〜1200が好ましい。平均重合度が700未満の場合はポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂層の表面強度が低くなり、1200を越えると発泡性が劣り良好な外観意匠を得るための厚さが得られないおそれがある。
【0017】
樹脂層に用いる可塑剤は、一般に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、アジピン酸エステル、リン酸エステル等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記可塑剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、樹脂層を形成する樹脂層形成用組成物に含有されるポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30〜60質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いる発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)等のアゾ系、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系、例えばOBSH(4,4'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)などの熱分解型発泡剤が好ましく、単体若しくは併用して使用することができる。発泡剤の含有量は、例えば、樹脂層を形成する樹脂層形成用組成物に含有されるポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0〜6質量部が好ましい。6質量部を越えると発泡による気泡(セル)が大きくなり、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂層の表面強度が低下するおそれがある。
【0019】
樹脂層に用いる安定剤は、特に限定されず、例えばバリウム亜鉛系、カルシウム亜鉛系等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記安定剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、樹脂層を形成する樹脂層形成用組成物に含有されるポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、1〜4質量部であることが好ましい。
【0020】
樹脂層に用いる充填剤としては、特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。充填剤の含有量は発泡性を考慮し、例えば、樹脂層を形成する樹脂層形成用組成物に含有されるポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、100質量部以下とすることが好ましい。
【0021】
樹脂層は、所望により顔料を有してもよく、例えば、酸化チタンを含有できる。顔料の含有量は、例えば、樹脂層を形成する樹脂層形成用組成物に含有されるポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30質量部以下とすることが好ましい。
【0022】
基材上に樹脂層を形成する方法は特に限定されず、カレンダー加工やTダイ加工の他、例えば、ナイフコーター、コンマコーター、リバースコーター、ロータリースクリーン等を使用して、樹脂層形成用組成物を基材に塗工させることが含まれる。発泡剤を有する場合、例えば、発泡剤が分解発泡しない条件で乾燥ゲル化することにより塗膜とし、その後に発泡剤が分解発泡する条件で加熱することにより形成される。
【0023】
例えば、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂層の質量は150〜240g/m
2であることが好ましい。このような範囲に樹脂層の質量を規定することにより、例えば、優れた外観意匠性および隠蔽性を有することができる。また、樹脂層の厚みも制限されず、例えば、0.08〜0.15mmである。
【0024】
表面処理層
後述のように所定の光触媒を用いる表面処理層は、樹脂層の基材側とは反対側の面に直接形成され得る。すなわち、本発明は、樹脂層と表面処理層との間にバリア層を有さない壁紙を提供できるので、生産性およびコストの観点からも好ましく、さらに、バリア層に起因する剥離をも回避できる。
【0025】
表面処理層の塗膜は、乾燥質量で0.1〜1.5g/m
2、好ましくは0.5〜1.0g/m
2である。このような範囲内で塗布することにより、光触媒による効果的な抗ウイルス性を保持できる。さらに、光触媒が壁紙外部に露出することによる光触媒の欠落を防ぐことができるので、長期間にわたり抗ウイルス性を維持できる。
【0026】
本発明の壁紙においては、表面処理層は、表面処理層用樹脂と光触媒とを含有する表面処理層形成用組成物から形成される。
【0027】
表面処理層用樹脂には、好ましくは、有機系材料が用いられる。有機系材料を用いることで、樹脂層と均質に密着でき、剥離しにくい壁紙を提供できる。有機系材料としては特に限定はされず、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、およびポリエステル系樹脂などを任意に選択できる。また、これらの樹脂を組合せてもよい。例えば、アクリル系樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂を組合せてもよい。複数種の樹脂の配合比は、適宜選択できる。好ましくは、有機系材料は、アクリル系樹脂が用いられる。アクリル系樹脂としては特に限定されず、例えば、メチルメタアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート等である。
【0028】
例えば、アクリル系樹脂の例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、または(メタ)アクリロニトリルの少なくとも1つをモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマー、コポリマー)を例示できる。さらに、アクリル系樹脂は、官能基として水酸基を少なくとも1部有するものを使用できる。
【0029】
さらに壁紙表面の意匠性に変化を与えるため、必要に応じてシリカなどの添加剤を加えて艶消しの効果を得てもよい。添加剤の量は所望する外観に合わせて適宜選定する。
前記表面処理層用樹脂は、表面処理層を形成する樹脂と、所望による常套の添加剤に加えて所望による常套の溶媒とを含有する表面処理層用樹脂組成物から調製されてもよい。
【0030】
表面処理層は、光触媒として酸化チタンと銅化合物から成る組成物を含有する。このような光触媒を用いることで、抗ウイルス性、耐光性および耐チョーキング性に優れた壁紙が得られる。本発明に係る光触媒を用いると、光触媒が表面処理層形成用組成物用の樹脂成分および所望により添加される可塑剤等を分解することのない壁紙が提供される。その上、有機材料(例えば、塩化ビニル)から成る樹脂層および/または基材にも光触媒が浸食することがないかほとんど生じす、チョーキングが生じない壁紙を得ることができる。その結果、本発明の壁紙は、チョーキングによる問題、例えば壁紙を構成する有機材料の分解、ひいては壁紙の崩壊、変色、光触媒が壁紙表面に露出してしまうなどの問題を引き起こさないか、ほとんど生じない。また、紫外光のみならず可視光照射によって抗ウイルス性が良好に発現するが、光照射を行わなくても十分な効果を発現する。
【0031】
光触媒は、表面処理層用樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは4〜70質量部、より好ましくは4質量部〜45質量部、特に好ましくは8質量部〜30質量の量で含有される。このような範囲に光触媒を含有することにより、触媒作用が良好にもたらされ、極めて良好な抗ウイルス性が得られる。また、チョーキングの発生を防ぐことができ、意匠性にも優れた壁紙とすることができる。また、本発明に係る光触媒を複数種含む場合、その合計が上記範囲内となるように、光触媒の配合量は適宜調整される。
例えば、表面処理層用樹脂を調製するために、表面処理層用樹脂組成物としてアクリル樹脂エマルション溶液を用いることができ、この場合において、エマルションに含まれる溶剤以外の成分の合計が、表面処理層用樹脂の固形分となる。
【0032】
上記光触媒の含有量は、光触媒と組合せて用いる表面処理層用樹脂との組合せにより、適宜選択できる。例えば、表面処理層用樹脂にアクリル系樹脂を用いる場合、光触媒の含有量は、表面処理層用樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは4〜70質量部、より好ましくは4質量部〜45質量部、特に好ましくは8質量部〜30質量の量で含有される。また、例えば、表面処理層用樹脂にポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合、光触媒の含有量は、表面処理層用樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは4〜70質量部、より好ましくは4質量部〜45質量部、特に好ましくは8質量部〜30質量の量で含有される。
【0033】
また、本発明の壁紙は、優れた外観も備える。例えば、変色性試験により、白ベースによる評価および濃色ベースによる評価を行った場合、本発明の壁紙は、良好な値をもたらす。このため、本発明の壁紙は、様々な色彩の壁紙に適用できる。また、光触媒の含有量は、上記範囲内である限り、任意に設定できるので、壁紙のグレード、色、用途などに応じて、光触媒の含有量を選択できる。
【0034】
例えば、JIS Z 8781に従い測定した反射の色差ΔE(白ベースによる評価)については、2.0〜4.0であり得、好ましくは2.4〜3.5であり得る。また、JIS Z 8781に従い測定した反射の色差L*(明度指数、濃色ベースによる評価)については、25〜40であり得、好ましくは27〜35であり得る。
【0035】
光触媒は、酸化チタンと銅化合物から成る組成物であり、例えば、Cu/TiO
2系触媒である。また、Cu/TiO
2系触媒の一例として、特許5343176号(昭和電工株式会社)に記載されている、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有する銅およびチタン含有組成物、および特許5331270号(昭和電工株式会社)に記載されている所定の構造を有するルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有する銅およびチタン含有組成物が挙げられる。
【0036】
<酸化チタン>
本発明で用いる酸化チタンは、結晶性ルチル型酸化チタンを含むものである。
本発明において、結晶性ルチル型酸化チタンとは、Cu−Kα線による回折角度2θに対する回折線強度をプロットしたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークの半値全幅が0.65度以下の酸化チタンのことを意味する。
半値全幅が0.65度よりも大きいと、結晶性が悪くなり、暗所における抗ウイルス性が十分に発現しなくなる。この観点から、半値全幅は、好ましくは0.6度以下であり、より好ましくは0.5度以下であり、更に好ましくは0.4度以下であり、より更に好ましくは0.35度である。
酸化チタン中における、結晶性ルチル型酸化チタンの含有量(以下、「ルチル化率」ということがある)は、好ましくは15モル%以上である。含有量が15モル%以上であると、得られる銅及びチタン含有組成物の、明所及び暗所における抗ウイルス性が十分なものとなり、また、明所における有機化合物分解性や、特に可視光応答性も十分なものとなる。この観点から、ルチル化率は、より好ましくは18モル%以上であり、更に好ましくは50モル%以上であり、より更に好ましくは90モル%以上である。このルチル化率は、後述するとおり、XRDによって測定した値である。
【0037】
酸化チタンの比表面積は、好ましくは1〜200m
2/gである。1m
2/g以上であると、比表面積が大きいためウイルス、菌及び有機化合物との接触頻度が大きくなり、得られる銅及びチタン含有組成物の、明所及び暗所における抗ウイルス性や、有機化合物分解性及び抗菌性が優れる。200m
2/g以下であると、取扱性に優れている。これらの観点から、酸化チタンの比表面積は、より好ましくは3〜100m
2/gであり、更に好ましくは4〜70m
2/gであり、特に好ましくは8〜50m
2/gである。ここで比表面積とは、窒素吸着によるBET法にて測定した値である。
【0038】
酸化チタンには、気相法で製造されたものと液相法で製造されたものがあり、そのいずれを用いることもできるが、気相法で製造された酸化チタンがより好適である。
気相法は、四塩化チタンを原料として、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。気相法で得られた酸化チタンは、粒子径が均一であると同時に、製造時に高温プロセスを経由しているため、結晶性が高いものとなる。その結果、得られる銅及びチタン含有組成物の、明所及び暗所における抗ウイルス性や、有機化合物分解性及び抗菌性が良好なものとなる。
【0039】
本発明の銅及びチタン含有組成物に含まれる銅化合物は、特に限定されない。例えば、1価銅化合物および2価銅化合物の少なくとも一方を含む。1価銅化合物および2価銅化合物を含む場合、その配合量は、要求される抗ウイルス性等の物性に応じて適宜設定できる。一実施態様において、本発明の銅及びチタン含有組成物に含まれる銅化合物は、2価銅化合物である。
【0040】
<2価銅化合物>
本発明の銅及びチタン含有組成物は、2価銅化合物を含んでいる。2価銅化合物には、特に限定はなく、2価銅無機化合物及び2価銅有機化合物の1種又は2種が挙げられる。2価銅無機化合物としては、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅及び塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅からなる2価銅の無機酸塩、塩化銅、フッ化銅及び臭化銅からなる2価銅のハロゲン化物、並びに酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト及びアジ化銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
2価銅有機化合物としては、2価銅のカルボン酸塩が挙げられる。この2価銅のカルボン酸塩としては、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β‐レゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅及びナフテン酸銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。その他の2価銅有機化合物としては、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、及びジメチルジチオカルバミン酸銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
上記2価銅化合物のうち、好ましくは酸化銅、2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上であり、例えば2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上である。
これらの2価銅化合物のうち、より不純物が少なく、経済的な観点から、2価銅無機化合物がより好ましく、酸化銅が更に好ましい。
2価銅化合物は、無水物であっても水和物であってもよい。
【0041】
2価銅化合物の銅換算含有量は、前記酸化チタン100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部である。0.01質量部以上であると、明所及び暗所における抗ウイルス性、有機化合物分解性及び抗菌性が良好なものとなる。また、20質量部以下であると、酸化チタン表面が被覆されてしまうことが防止されて光触媒としての機能(有機化合物分解性、抗菌性等)が良好に発現すると共に、少量で抗ウイルス性能を向上することができて経済的である。この観点から、2価銅化合物の銅換算含有量は、酸化チタン100質量部に対して、より好ましくは0.1〜20質量部であり、更に好ましくは0.1〜15質量部であり、より更に好ましくは0.3〜10質量部である。
ここで、この酸化チタン100質量部に対する2価銅化合物の銅換算含有量は、2価銅化合物の原料と酸化チタンの原料との仕込み量から算出することができる。また、この銅換算含有量は、後述するICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により銅及びチタン含有組成物を測定することで特定することもできる。
【0042】
[銅及びチタン含有組成物の製造方法]
前記の銅及びチタン含有組成物は、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと、2価銅化合物原料とを混合する混合工程を実施することにより、好適に製造することができる。また、この混合工程によって得られた混合物を熱処理する熱処理工程を更に実施して、銅及びチタン含有組成物を得てもよい。また、銅化合物の水溶液中に酸化チタンを懸濁させて、吸着させることによって、銅及びチタン含有組成物を得ることも出来る。
【0043】
本発明の壁紙は表面処理層の樹脂層側とは反対側の面に柄印刷層を設けてもよい。柄印刷層は壁紙に意匠性を付与し、形成方法としてはグラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられる。印刷インキとしては、着色剤、接着剤樹脂、溶媒を含む印刷インキが使用できる。
【0044】
本発明の壁紙は、柄印刷層の表面処理層側とは反対側の面に凹凸模様を有していてもよい。凹凸模様を設ける方法としては、エンボスロール等の公知の手段により実施することができる。
【0045】
本発明の壁紙の厚さ(基材を含む)は、0.3〜1.2mmが好ましい。このような範囲の厚さを有することにより、壁紙を施工した時に下地壁面の凹凸が壁紙上に現れるおそれがなく、また、施工が困難になるおそれもない。
【0046】
本発明に係る、光触媒を含む壁紙は、抗ウイルス性として明所ばかりでなく暗所においても効果を発揮する。本発明の壁紙であれば、明るい場所での使用ばかりでなく薄暗いもしくは暗所においても抗ウイルス性を有することから、家庭などでのインテリアとしての壁紙使用に加えて、ショールームの飾り付けや暗所で使用される劇場などへの壁装材や壁紙の利用なども可能である。このように、本発明の壁紙には、暗所での抗ウイルス性と優れた外観を示す高付加価値の発揮が期待される。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲で定義される発明の思想および範囲内に入る他の態様も本発明に含まれる。
【0048】
以下に記載した実施例および比較例により得られた壁紙に関する評価を、以下の方法により行った。
抗ウイルス性試験
(明所)
JIS R 1756に準じて試験を行った。より詳細には、5cm×5cmサイズの実施例または比較例で得られた壁紙のエンボス面側に、動物感染ウイルス代替モデルとして試験バクテリオファージ液を0.15ml/4cm×4cmの量で塗布し、光照射を行い、抗ウイルス活性値を求めた。光照射の条件は、蛍光ランプの照度1000lxにて2時間照射を行った。2時間後における抗ウイルス活性値が3以上を「○」と評価し、2.0以上3未満を「△」と評価し、2.0未満を「×」と評価した。照射に際しては、400nm未満の紫外線をカットするためシャープカットフィルターTypeAを使用した。
(暗所)
明所と同様に、JIS R 1756に準じたが、光照射は行わず、光を遮断した暗所に2時間放置後、明所と同様の抗ウイルス活性値による評価を行った。
【0049】
耐チョーキング試験
試験片でJIS A6921(2014)6.3.1による紫外線カーボンアークランプ(フェードメーター)による暴露を400時間行った(ブラックパネル温度63±3℃)のち、JIS A6921 6.3.2に準じ、黒に染色した生地を使用して、摩耗色落ち度試験を行い、グレースケールを用いて評価した結果、4級以上のものを「○」とし、3級以下のものを「×」とした。
【0050】
変色性評価
(白ベースによる評価)
表1の樹脂層の表面にバインダー樹脂に対して一定量の光触媒を添加した表面処理層を形成し、変色状態を色彩色差計CR−200b(コニカミノルタ社製)を使用して反射の色差ΔEで測定した。5点測定しその平均値を使用した。測定にあたってΔEはJIS Z 8781の記載に従った。
(濃色ベースによる評価)
表1の配合の顔料(酸化チタン)の代わりに顔料としてカーボンを10質量部添加して作成した樹脂層の表面にバインダー樹脂に対して一定量の光触媒を添加した表面処理層を形成し、変色状態を色彩色差計CR−200b(コニカミノルタ社製)を使用して反射の色差L*(明度指数)で測定した。5点測定しその平均値を使用した。測定にあたってL*はJIS Z 8781の記載に従った。
【0051】
<製造例1>基材/樹脂層の製造
壁紙用基材として質量65g/m
2、厚さ0.12mmの裏打ち紙中越パルプ工業社製:商品名:CP65を用いた。この基材の表面に、以下の表1に示す組成を有する樹脂層形成用組成物を、コンマコーターを用いて0.1mmの厚さで塗布し、180℃にて30秒間樹脂層形成用組成物を乾燥させ、厚さ0.1mm樹脂層を形成した。
【0052】
【表1】
【0053】
参考例1
製造例1で得られた、基材/樹脂層において、樹脂層の基材側とは反対側の面に直接、表面処理層用アクリル樹脂エマルション溶液100質量部(アクリル樹脂エマルション溶液:(日信化学工業社製、商品名ビニブラン
(登録商標)、固形分13%)を、7g/m
2塗布し、120℃にて20秒間乾燥させ、表面処理層を形成し、光触媒を含まない壁紙を得た。得られた表面処理層の乾燥状態における固形分付着量は0.9g/m
2であった。
【0054】
変色性試験における評価には、上記のようにして得られた壁紙を、220℃の発泡炉で40秒間加熱発泡させ、さらに表面温度が140℃になるように加熱し、エンボスロールを用いて、エンボス加工を施した壁紙を用いた。
【0055】
その他の試験における評価には、表面処理層の樹脂層側とは反対側の面に、模様(柄)をグラビア印刷し、柄印刷層を形成し、次いで、220℃の発泡炉で40秒間加熱発泡させ、発泡させたシートを、表面温度が140℃になるように加熱し、エンボスロールを用いて、エンボス加工を行い、壁紙を得た。各試験の評価結果を、表3に示す。
【0056】
参考例2
参考例1で製造した壁紙において、表2に示した組成を有する表面処理層形成用組成物塗料を7g/m
2塗布し、120℃にて20秒間乾燥させ、表面処理層を形成し、光触媒を含む壁紙を得た。得られた表面処理層の乾燥状態における固形分付着量は0.9g/m
2であった。また、光触媒量は0.01g/m
2であった。
これ以外は、参考例1に従い壁紙を作製した。また、変色性試験における試験片の作製、および他の試験における試験片の作製は、参考例1と同様にしておこなった。各試験の評価結果を、表3に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1−6
参考例2において、光触媒の配合比を変化させた以外は、参考例2と同様にして壁紙を作製した。実施例における光触媒の配合比および各試験の評価結果を、表3に示す。
【0059】
実施例7
実施例1に使用した表面処理層用バインダー樹脂に代えて、アクリル系樹脂(ハイドリック
(登録商標)WPエクステンダー、大日精化工業社製、固形分(20%)を用いたことおよび、光触媒の配合比を変化させた以外は、実施例1と同様にして壁紙を作製した。実施例7における光触媒の配合比および各試験の評価結果を、表3に示す。
【0060】
実施例8
実施例1において使用した表面処理層用バインダー樹脂に代えて、塩化ビニル系樹脂(日信化学工業社製、商品名ビニブラン
(登録商標)HD−057)を使用したこと、および、光触媒の配合比を変化させた以外は、以外は、実施例1と同様にして壁紙を作製した。実施例8における光触媒の配合比および各試験の評価結果を、表3に示す。
【0061】
比較例1および2
実施例1で用いた光触媒を、Pt系(石原産業社製、商品名:フォトペーク
(登録商標)MPT−427)とし、その配合比を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして壁紙を作製した。比較例における光触媒の配合比および各試験の評価結果を、表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
これらの結果から明らかなように、本発明に係る光触媒を所定量有することにより、本発明の壁紙は良好な抗ウイルス性を有し、かつ、耐チョーキング性を有することが分かる。製品の色調についても許容範囲である。
また、例えば、本実施例1によると、本発明の壁紙は、抗ウイルス性を有する光触媒を所定の条件で含有する表面処理層を備えることにより、樹脂層と表面処理層の間にバリア層を有していなくても、優れた耐チョーキング性を有していることが分かる。
【0064】
実施例1〜6にみられるように、本発明の光触媒の使用により、チョーキングもなく、明所暗所ともに優れた抗ウイルス性を有する壁紙が得られた。
本発明の壁紙であれば、使用する壁紙の表面処理層への抗ウイルス材の添加量や発泡工程における加熱などをおこなっても、壁紙として十分な外観および機能を有している。例えば、本発明の壁紙は、従来にはない優れた抗ウイルス性を備え、また、変色に対して優れ性能を有している。
【0065】
実施例7〜8の結果からも明らかなように、本発明において使用する表面処理層用樹脂(バインダー樹脂)は、様々なものを用いることができる。また、塩化ビニル樹脂など他の樹脂(表面処理層用樹脂)をバインダーとして用いても優れた効果を示すことが分かる。
【0066】
比較例1および2の結果からも明らかなように、本発明の構成を有さない壁紙は、チョーキングや抗ウイルス性に問題があり、本発明の壁紙に比べ不十分な物性等を示すことが分かる。
【0067】
本発明に係る、光触媒を含む壁紙は、抗ウイルス性として明所ばかりでなく暗所においても効果を発揮する。本発明の壁紙であれば、明るい場所での使用ばかりでなく薄暗いもしくは暗所においても抗ウイルス性を有することから、家庭などでのインテリアとしての壁紙使用に加えて、ショールームの飾り付けや暗所で使用される劇場などへの壁装材や壁紙の利用なども可能である。このように、本発明の壁紙には、暗所での抗ウイルス性と優れた外観を示す高付加価値の発揮が期待される。
【課題】抗ウイルス性を有する光触媒を含有する抗ウイルス性壁紙であって耐チョーキング性に優れ、かつ、生産性にも優れた抗ウイルス性壁紙あり、光触媒を用いながらも可塑剤移行防止層およびバリア層を設ける必要が無い優れた壁紙の提供。
【解決手段】基材と、樹脂層と、表面処理層とを有する抗ウイルス性壁紙であって、表面処理層は、表面処理層用樹脂と光触媒とを含有する表面処理層形成用組成物から形成され、光触媒は酸化チタンと銅化合物から成る組成物である、抗ウイルス性壁紙。