特許第6137763号(P6137763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6137763アルテメーテル含有医薬組成物、製剤およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137763
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】アルテメーテル含有医薬組成物、製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/357 20060101AFI20170522BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61K31/357
   A61K33/26
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61K9/19
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-544338(P2015-544338)
(86)(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公表番号】特表2016-500117(P2016-500117A)
(43)【公表日】2016年1月7日
(86)【国際出願番号】CN2013087890
(87)【国際公開番号】WO2014082570
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2015年7月13日
(31)【優先権主張番号】201210499289.7
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515142248
【氏名又は名称】昆薬集団股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】卿 晨
(72)【発明者】
【氏名】陳 云建
(72)【発明者】
【氏名】代 暁陽
(72)【発明者】
【氏名】張 雁麗
(72)【発明者】
【氏名】陳 亜娟
(72)【発明者】
【氏名】劉 一丹
(72)【発明者】
【氏名】楊 兆祥
(72)【発明者】
【氏名】楊 旭娟
(72)【発明者】
【氏名】朱 澤
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01658844(EP,A1)
【文献】 米国特許第05578637(US,A)
【文献】 特表2005−529938(JP,A)
【文献】 特表2007−511600(JP,A)
【文献】 Henry Lai, Narendra P. Singh,Selective cancer cell cytotoxicity from exposure to dihydroartemisinin and holotransferrin,Cancer Letters,1995年 1月20日,91,41-46
【文献】 Clin. Cancer Res.,2008年,vol.14, no.17,p.5519-5530
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルテメーテルを鉄剤と共に含む、肝癌処置用医薬組成物。
【請求項2】
アルテメーテル:鉄剤の重量比が1:0.05〜1:2であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
アルテメーテル:鉄剤の重量比が1:0.1〜1:1であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物および薬学的に許容される添加物からなる、医薬製剤。
【請求項5】
注射剤または注射用凍結乾燥粉末剤であることを特徴とする、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
癌の処置用医薬の製造における、アルテメーテルおよび鉄剤を含む組成物の使用。
【請求項7】
組成物中のアルテメーテル:鉄剤の重量比が1:0.05〜1:2であることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
組成物中のアルテメーテル:鉄剤の重量比が1:0.1〜1:1であることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は医薬分野、特にアルテメーテル含有医薬組成物、製剤および腫瘍の処置用医薬の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
(3R,5αS,6R,8αS,9R,10S,12R,12αR)−デカヒドロ−10−メトキシ−3,6,9−トリメチル−3,12−エポキシ−12H−ピラノ[4,3−j]−1,2−ベンゾジオキセピンの化学名を有し、C162625の分子式および次の構造式
【化1】
を有するアルテメーテルは、多くのタイプのマラリアに、主にはクロロキン耐性熱帯熱マラリアの処置および悪性熱帯熱マラリアの応急処置に使用されている。
【0003】
アルテミシニンおよびその誘導体が抗マラリア活性を有することが認められている。アルテミシニンおよびその誘導体の活性インビボ代謝物がジヒドロアルテミシニンであり、これが高い抗マラリア活性と低い毒性を有することが試験により判明している。多くの研究者が、アルテミシニンの構造におけるペルオキシド架橋について詳細な研究を行っており、その抗マラリア性機構が次の2工程に要約された。アルテミシニンは活性化されてフリーラジカルを生じ、そのフリーラジカルが次にマラリア原虫のタンパク質に結合する。ペルオキシド架橋が還元され、分解してフリーラジカルを形成するとき、遷移状態での低原子価金属イオンの存在が必要である。フリーラジカルの産生との関係で現在認められている金属イオンは、フェロヘムおよび遊離Fe2+を含む二価鉄イオン(Fe2+)である。ペルオキシド架橋がFe2+の触媒により壊された後、酸素フリーラジカルが先ず生じ、次いで分子内転位を経てより活性な炭素フリーラジカルに変換される。これら2種のフリーラジカルのいずれもマラリア原虫の細胞構造および機能を壊すが、炭素フリーラジカルは種々の生物の巨大分子を直接アルキル化することがでるため、現在ではアルテミシニンは炭素フリーラジカルによってその活性を発揮する可能性が高いと考えられている。
【0004】
近年の研究で、抗マラリア剤であるアルテミシニンおよびその誘導体が顕著な抗腫瘍活性を有することが示されたため、その薬理学的効果に関する研究が広く注目されている。アルテメーテルはアルテミシニンの主要な誘導体の一つであり、アルテミシニンより良好な抗マラリア活性を示す。アルテミシニンに基づく(artemisinin-based)薬物は、種々の腫瘍細胞を選択的に阻害および/または死滅させるだけでなく、副作用が殆どなく、薬物耐性を生じることもない可能性がある。アルテミシニンに基づく薬物の抗腫瘍活性は多面的に確認されており、その主な作用機序は次のとおりである。
1. 鉄イオンが介在する細胞損傷:悪性腫瘍細胞のFe含量は正常細胞より高い。アルテミシニンに基づく薬物は、鉄イオンの介在によりエンドペルオキシド架橋を形成し、活性酸素種(ROS)および炭素中心フリーラジカルを形成でき、後者が大きな分子損傷および細胞死を起こすと想定される。
2. 細胞周期停止:アルテスネートはカポジ肉腫の細胞周期を顕著に抑制でき、ジヒドロアルテミシニンはヒト乳癌MCF−7細胞をG0+G1期で停止させる。
3. アポトーシス誘発:アルテスネートは用量依存的にカポジ肉腫のアポトーシスを誘発し得るが、正常細胞のアポトーシスは誘発できない。アルテミシニンはヒト赤白血病K562細胞のアポトーシスを膜貫通能を低下させることにより誘発し得る。
4. 抗血管形成効果:アルテミシニンに基づく薬物は、VEGFおよびKDR/flk−1の発現阻害により腫瘍の血管新生を阻止し得る。
5. アルテミシニンに基づく薬物は腫瘍関連遺伝子の発現を抑制し、それにより抗腫瘍活性を発揮する。
6. その他:例えば、アルテスネートは、多剤耐性に抵抗する能力を有する。アルテミシニンは星状細胞腫T67細胞における核因子NF−κBの合成を阻害し得る。さらに、アルテメーテルはミトコンドリアの損傷および膨潤、クリステの破壊、減少および消失の誘発ならびにミトコンドリア呼吸鎖の複合体IおよびIVの活性を阻害し、それにより細胞死もたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
本発明が解決しようとする課題は、アルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニンを鉄剤と共に含む、腫瘍の処置用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
好ましくは、アルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニン:鉄剤の重量比は1:0.05〜1:2である。
【0007】
より好ましくは、アルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニン:鉄剤の重量比は1:0.1〜1:1である。
【0008】
本発明の具体的態様において、腫瘍は肉腫、肝癌または胃癌である。
【0009】
本発明は、さらに医薬組成物および薬学的に許容される添加物からなる医薬製剤を提供する。好ましくは、医薬製剤は注射剤または注射用凍結乾燥粉末剤である。
【0010】
本発明は、さらに、腫瘍の処置用医薬の製造における、アルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニンを鉄剤と共に含む組成物の使用を提供する。
【0011】
好ましくは、組成物中のアルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニン:鉄剤の重量比は1:0.05〜1:2。
【0012】
より好ましくは、組成物中のアルテメーテルまたはジヒドロアルテミシニン:鉄剤の重量比は1:0.1〜1:1である。
【0013】
具体的に、腫瘍は肉腫、肝癌または胃癌である。
【0014】
本発明において、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のインビトロ抗腫瘍活性を、モデルとして7種のヒト腫瘍細胞株を用いる修飾MTT法で測定し、アルテミシニン、ジヒドロアルテミシニンおよびアルテスネートと比較した。結果は、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のいずれも、ヒト白血病細胞株(HL−60、K562)、ヒト肺癌細胞株(A549)、ヒト結腸癌細胞株(HT−29)およびヒト前立腺癌細胞株(PC−3)、ヒト胃癌細胞株(MKN−28)、ヒト喉頭癌細胞株(Hep2)の7種のヒト腫瘍細胞株に対する明白なインビトロ阻害効果を有しないことを示した。ジヒドロアルテミシニンは、HL−60、K562、MKN−28、HT−29およびHep2の5種の腫瘍細胞株に対して比較的明白な阻害効果を示し、特にMKN−28細胞は感受性であり、IC50は16.22μMであった。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤は、インビトロ試験に付した他の誘導体と異なって水可溶性製剤であるため、静脈内注射による抗腫瘍評価の実施が可能であった。そして、実験によりアルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のいずれも明白なインビトロ細胞毒性を有しないことが示されたが、アルテミシニンのファルマコフォアであるペルオキシド架橋を保持しており、生体内で代謝によりジヒドロアルテミシニンに変換されることが推測されるため、本発明では、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を使用してインビボ抗腫瘍試験を実施した。
【0015】
インビボ実験結果は、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg投与量を1日1回連続10日間の腹腔内注射によるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の投与後の、マウス肉腫S180の腫瘍阻害率がそれぞれ29.06%、44.96%および54.93%であり、顕著な腫瘍阻害効果および良好な用量依存性を有することを示し、各投与群は、陰性対照群と比較した統計解析で有意差を示した。各10mg/kgの腹腔内注射および静脈内注射による投与を比較したとき、静脈内投与の効果が腹腔内投与を上回り、腫瘍阻害率はそれぞれ44.96%(ip)および51.48%(iv)であることが判明した。
【0016】
上記実験に基づき、現在認められている酸素フリーラジカルの作用機序にしたがい、マウス肝癌H22を本発明におけるモデルとして使用し、投与量および試験プロトコルを調節した。抗腫瘍作用の機序を証明するために、種々の影響因子を設定し、投与量をインビボ実験で調整した。結果は、3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg投与量を1日1回連続10日間の静脈内注射によるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の投与が明白な腫瘍阻害効果および良好な用量依存性を示し、その腫瘍阻害率はそれぞれ38.98%、54.80%および73.07%であった。アルテメーテルの10mg/kg投与量凍結乾燥粉末剤に基づいて、鉄追加群、ビタミンC追加群およびデフェロキサミン(DFO)追加群、すなわち10mg/kg(iv)、10mg/kg+FeSO 3mg/kg(ig)、10mg/kg+ビタミンC 50mg/kg(im)および10mg/kg+DFO 30mg/kg(im)をそれぞれ設定した。アルテメーテルの抗腫瘍効果におけるFe2+の役割を探索することが目的である。硫酸第一鉄と葉酸の化合物は二価鉄イオンを提供し、デフェロキサミン(DFO)は、インビボで二価鉄イオンFe2+とキレートを形成し、インビボで二価鉄イオンを除去できる鉄キレーターであり、ビタミンC群はマウスのインビボ酸化反応に備えて使用する。これらの群の腫瘍阻害率はそれぞれ54.80%、61.15%、59.60%および39.92%であった。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤のみの投与と比較して、鉄追加群の腫瘍阻害率は増加したが、DFO群では減少し、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の抗腫瘍効果機序にFe2+が関係し、Fe2+含量と密接に関係することが示唆される。実験期間の短さを考慮すると、動物体内の内在性Fe2+はこの短時間で明白な変化はなく、腫瘍増殖に対する阻害効果を示すには十分ではなかった。ヒト癌を異種移植したヌードマウス腫瘍モデルがヒト腫瘍の生物学的特性をかなりの程度維持し、動物からの腫瘍異種移植片よりゆっくり増殖するため、動物由来腫瘍と生物学的特性が大きく異なり、ヒト腫瘍の生物学的特性を大部分保持する。それゆえに、我々はヒト癌を異種移植したヌードマウス腫瘍モデルを使用して実験を行い、さらに、有効性およびその作用機序を客観的に評価した。
【0017】
インビトロでの細胞スクリーニング結果は、ヒト胃癌株MKN−45がジヒドロアルテミシニンに最も感受性であることを示し、それゆえに、ヒト胃癌MKN−45腫瘍を皮下移植したヌードマウスモデルを選択して実験を行った。H22マウスモデルでの結果に従いビタミンC投与量を調節し、これは当初の150mg/kgから200mg/kgに増やした。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を、3mg/kg、10mg/kg、30mg/kgの投与量を、1日1回週に5日間、静脈内注射により投与した。投与19日目に、腫瘍組織のT/C(%)はそれぞれ50.68%、48.43%および47.32%であり、一定の投与量相関を有して、腫瘍増殖に対する阻害効果を示した。陰性対照と比較して、10mg/kgおよび30mg/kgの投与量は、統計解析で、P<0.05で有意差を示した。陽性対照5−Fu群は、10mg/kgの投与量で37.72%のT/C(%)を示し、統計解析でP<0.05で有意差を示した。本モデルはこの条件下で確立されたと考えることができ、実験結果が信頼できる。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+FeSO(3mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+ビタミンC(200mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+DFO(30mg/kg)の投与19日目に、腫瘍組織のT/C(%)はそれぞれ48.43%、48.38%、96.36%および91.95%であった。10mg/kgのアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の単独投与と比較して、FeSO群のT/C(%)に明白な変化はなく、この実験条件下、外因性鉄は腫瘍増殖に対するアルテメーテルの阻害効果に明白な影響を有しないことを示唆した。しかしながら、投与後時間が経つに連れて、FeSOは、腫瘍増殖に対するアルテメーテルの阻害効果に徐々に効果を発揮した。実験の初期段階で、内在性Fe2+は抗腫瘍効果を発揮するためのアルテメーテルの要求を満たすことができるが、時間が経つに連れて、内在性Fe2+が徐々に消費され、外因性鉄がアルテメーテルの抗腫瘍力の増強に徐々に役割を果たすと想定される。DFO群のT/C(%)は劇的に増加し、この実験条件下、動物体内の内在性Fe2+の枯渇がアルテメーテルの抗腫瘍効果を相殺し得ることが示唆される。ビタミンC群のT/C(%)は劇的に増加し、この実験条件下、動物体内ROSの消失がアルテメーテルがその抗腫瘍効果を発揮することを阻止し得ることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】マウス肉腫S180増殖に対するアルテメーテルの阻害効果を示し、図中、Hはアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を表す。
図2】マウス肉腫S180増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の腫瘍阻害効果を示す。
図3】マウス肝癌H22増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の阻害効果を示し、図中、Hはアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を表す。
図4】マウス肝癌H22増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の阻害効果を示し、図中、Hはアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を表す。
図5】マウスH22肝癌増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の阻害効果を示す。
図6】ヒト胃癌MKN−45を移植したヌードマウスの腫瘍の増殖に対するアルテメーテルの阻害効果を示し、図中、Hはアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を表す。
図7】ヒト胃癌MKN−45を移植したヌードマウスの腫瘍の増殖に対する阻害効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な記載
本発明は、アルテメーテルを含む医薬組成物、製剤および腫瘍の処置用医薬の製造におけるその使用を開示する。当業者は、本発明を実施するために、本開示に従い、当該方法におけるパラメータを適宜に修飾してよい。全ての類似の置き換えおよび修飾は当業者に明らかであり、それゆえに、本発明に含まれることが意図されていることに注意すべきである。本発明の使用を実施例により記載している。本発明の目的物およびその使用に関して、本発明の精神および範囲を逸脱しないそれらの変更、修飾または適切な組み合わせは当業者に明らかである。
【0020】
当業者が本発明をより良く理解するために、実施例と組み合わせて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1:ヒト腫瘍細胞の増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の影響(アルテミシニンの他の誘導体との比較)
(I)材料および方法
(1)試験サンプルおよびその調製
1. 試験サンプル
アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の製剤、アルテメーテル原体、アルテミシニン、ジヒドロアルテミシニン、アルテスネートはInstitute of Kunming Pharmaceutical Corp.から提供された。
【0022】
(2)サンプルおよびその調製
(1)試験サンプルの調製
5種のアルテミシニン誘導体について2μM、10μM、50μM、250μMおよび500μMの5試験濃度を設定した。アルテミシニン、アルテメーテル原体、アルテミシニン、ジヒドロアルテミシニン、アルテスネートをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を生理食塩水(N.S.)に溶解し、一定量のRPMI 1640完全培養溶液を添加して高濃度溶液を製剤し、各々の低濃度溶液を高濃度溶液の比例希釈により調製した。
【0023】
(2)溶媒対照の調製
溶媒対照として使用する、アルテメーテル原体、アルテミシニン、ジヒドロアルテミシニン、アルテスネートのための、溶液中2種の比較的高濃度の500μMおよび250μMでDMSOを含む濃縮物を、PRMI 1460培養溶液で製剤し、その時点でDMSOの試験濃度は1%および0.5%であった。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の製造のために、2種の比較的高濃度の500μMおよび250μMの溶液に含まれる添加物の濃度を溶媒対照に使用した。
【0024】
(3)陽性対照の調製
陽性対照は抗癌剤アドリアマイシン(ADM)であり、これは0.1μg/ml、1μg/mlおよび10μg/mlの3試験濃度(最終濃度)で設定した。ADM原液(1mg/ml)に、一定量のPRMI 1640完全培養溶液を添加して高濃度溶液を製剤し、各々の低濃度溶液を高濃度溶液の比例希釈により調製した。
【0025】
2. 細胞株
HL−60(ヒト前骨髄球性白血病細胞株)、K562(ヒト慢性骨髄球性白血病細胞株)、HT−29(ヒト結腸癌細胞株)、PC−3(ヒト前立腺癌細胞株)、A549(ヒト非小細胞性肺癌細胞株)、MKN−28(ヒト胃癌細胞株)およびHep2(ヒト喉頭癌細胞株)を、Shanghai Institutes for Biological Sciences, the Chinese Academy of Sciencesの細胞バンクから購入した。
【0026】
3. 検出方法(MTT法)
7種のヒト腫瘍細胞株の増殖に対する5種の試験サンプルの影響を修飾MTT法によって測定した。
対数増殖期の細胞を採り、一定濃度に調整し、96ウェル培養プレートに添加した。細胞が接着するまで一定期間接着細胞を培養し、試験サンプルを添加した。浮遊細胞については、接種後に試験サンプルを添加した。2μM、10μM、50μM、250μMおよび500μMの5試験濃度を各濃度あたり3個のウェルで、10μl/ウェルで設定し、溶媒対照は0.5%および1%の等容性DMSOであり、陽性対照は0.1μg/ml、1μg/mlおよび10μg/mlの3濃度のADMであった。サンプルを加え、37℃、5%COのインキュベーターで一定時間培養し、MTT(5mg/ml)を20μl/ウェルで添加し、培養を一定時間続け、3種混合溶液[10%SDS、5%イソブタノール、0.012mol/L HCl(W/V/V)]を添加した。均一に溶解させた後、37℃、5%COのインキュベーターで一定時間培養し、各ウェルのOD値を570nmの波長下にマクロプレートリーダーにより測定し、この結果に基づいて計算した。
【0027】
3. 結果計算および統計解析
細胞増殖阻害率を次の数式により計算した。
阻害率(%)=(OD値対照ウェル−OD値サンプルウェル)/OD値対照ウェル×100%
DMSOの細胞に対する阻害率が15%を超えるとき、計算を次の数式を使用して行った。
阻害率(%)=(OD値溶媒群−OD値適用したウェル)/OD値溶媒群×100%
阻害率をMicrosoft Excel 2003を使用して計算し、中央阻害濃度IC50をLOGIT法で計算し、これを阻害能の判断における指標として使用した。
【0028】
(II)結果および解析
1. 7種のヒト腫瘍細胞株の増殖に対する5試験サンプルの阻害効果を表1〜5に示す。
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
予備スクリーニングの結果に従い、より感受性の細胞株が選別されるように、さらに実験を調整した。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤が大量の添加物を含み、比較的高い膨潤係数を大きな誤差と共に有するため、アルテメーテル原体のみを二次スクリーニングに選択し、結果を表6〜8に示す。
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
【表8】
【0036】
上記結果から、アルテミシニン、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤がインビトロで7種のヒト腫瘍細胞株に明白な阻害効果を有さず、アルテスネートのみがHL−60、K562、MKN−28に対する阻害効果を発揮することが示される。他方で、ジヒドロアルテミシニンは、HL−60、K562、MKN−28、HT−29、Hep2の5種の腫瘍細胞株に比較的明白な阻害効果を示し、特にMKN−28細胞が16.22μMのIC50で感受性であることも示される。
【0037】
実施例2:マウスに移植した腫瘍の増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の影響
(I)マウスに移植した肉腫S180の増殖に対する影響
1. 材料および方法
(1)試験サンプル
アルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物はInstitute of Kunming Pharmaceutical Corp.により提供された。
【0038】
(2)アルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の調製(試験投与量は、その中に含まれるアルテメーテル原体の量である。)
一定量のアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を秤量し、生理食塩水(N.S.)に溶解し、0.2ml/10g体重の投与体積および20mg/kgとなるように高投与量溶液を調製し、中投与量および低投与量を、高投与量溶液のN.S.溶液による比例希釈により調製した。
【0039】
(3)実験方法
(1)マウスS180モデルの確立
文献方法を参照して、対数増殖期の腹水タイプS180細胞を採り、一定濃度に調整し、マウスの右側腋窩に皮下接種し、24時間後に投与のために無作為に群別けした。
【0040】
(2)実験スキーム
この実験は予備実験であり、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤がインビボ抗腫瘍効果を有するか否かを調べることを意図した。
健常雌ICRマウスを選択し、接種24時間後、次の群に無作為に別けた。陰性対照群(N.S);腹腔内注射(ip)により投与するアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の低投与量(5mg/kg)、中投与量(10mg/kg)および高投与量(20mg/kg)群;異なる投与経路の差異を比較するための静脈内投与(iv)を用いるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の中投与量(10mg/kg)群。投与を1日1回連続10日間行った。最後の投与24時間後にマウスを頸椎脱臼により屠殺し、その腫瘍組織を摘出し、秤量し、腫瘍阻害率を腫瘍重量によって計算した。
【0041】
(3)結果計算および解析
腫瘍増殖の阻害率(腫瘍阻害率)を次の数式に従い計算した。
腫瘍阻害率=(平均腫瘍重量対照群−平均腫瘍重量投与群)/平均腫瘍重量対照群×100%
胸腺(脾臓)指数=平均重量(mg)胸腺(脾臓)/腫瘍摘出後のマウスの平均体重(10g)
各群のマウスの平均腫瘍重量を
【数1】
として表し、一元配置分散分析をSPSS 16.0統計ソフトウェアを使用して行った。
【0042】
(4)品質管理および評価基準
陰性対照群のマウスの平均腫瘍重量が1g未満であるかまたは20%のマウス腫瘍重量が400mg未満であるのは腫瘍増殖が乏しいことを表した。実験中、投与群のマウスの20%を超える死亡または15%を超える平均体重(腫瘍摘出後)減少(自己対照)は医薬の毒性反応と解し、そのために投与量を減らして新規試験を実施しなければならなかった。腫瘍増殖の阻害率(%)<40%は無効を意味し、腫瘍増殖の阻害率(%)≧40%と統計処理後のP<0.05は有効を意味する。
【0043】
2. 結果
(1)マウス肉腫S180腫瘍の増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の阻害効果の結果を表9および図1〜2に示す。
【表9】
注:陰性対照群との比較:**P<0.01、P<0.05
ip:腹腔内注射による投与;iv:静脈内注射による投与
上記結果は、10日間の腹腔内注射を介するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の投与後、投与群のマウスの腫瘍は、陰性対照群と比較して腫瘍サイズおよび腫瘍重量が減少しており、10mg/kgおよび20mg/kg投与量でのS180増殖に対する阻害率はそれぞれ44.96%および54.93%であることを示した。投与量10mg/kgの阻害率は、腹腔内注射での44.96%から静脈内注射での51.48%に上昇し、静脈内注射による投与の効果が、同等の投与量で腹腔内注射による投与より優れていることを示す。各投与群は、統計解析により陰性対照群と比較して有意差を有した、P<0.01。
【0044】
(II)マウスに移植した肝癌H22の増殖に対する影響およびその作用機序の確認
1. 材料および方法
(1)試験サンプル
アルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物はInstitute of Kunming Pharmaceutical Corp.から提供された。
【0045】
(2)試験サンプルの調製
(1)アルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の製剤
一定量のアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤Hを秤量し、生理食塩水(N.S.)に溶解し、0.15ml/10g体重の投与体積に基づく高投与量30mg/kgに対応する濃度の溶液を調製し、中投与量および低投与量(3mg/kg、10mg/kg)を、高投与量溶液のN.S.溶液による比例希釈により調製した。
【0046】
(2)陽性対照の調製
投与量10mg/kgでの陽性対照シクロホスファミド(CTX)注射を、0.15ml/10gの投与体積で使用した。
N.Sで所望の濃度に希釈した。
【0047】
(3)実験方法
(1)マウスH22モデルの確立
文献方法を参照して、対数増殖期の腹水タイプH22細胞を採り、一定濃度に調整し、マウスの右側腋窩に皮下的に接種し、24時間後に投与のために無作為に群別けした。
【0048】
(2)実験スキーム
アルテアヌイノイド(arteannuinoid)化合物の抗マラリア機構は、二価鉄イオン(Fe2+)の介在によりアルテアヌイノイド化合物が活性酸素種(ROS)を生じ、これがタンパク質分子を酸化し、体内の生体膜構造を破壊し、該原虫を体内で殺すと現在考えられている。二価鉄イオン(Fe2+)および活性酸素種(ROS)はまた抗腫瘍効果にも役割を有する推測した。それゆえに、予備実験の結果と組み合わせて、次の実験要素をこの実験スキームで追加した。1. 鉄の追加(マウスが保有するFe2+を増やすため);2. デフェロキサミン(DFO)追加(マウス中のFe2+含量を減らすため);3. ビタミンCの追加(活性酸素種(ROS)を除去するため)。実験群を次のとおり別けた。
陰性対照群:生理食塩水(NS)、0.15ml/10g体重、iv;
陽性対照群:CTX 10mg/kg、0.15ml/10g、iv;
試験群(アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤)
低投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤3mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
中投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
高投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤30mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
中投与量+鉄群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+FeSO 3mg/kg、0.2ml/10g、胃内投与(ig)、1日1回;
中投与量+デフェロキサミン群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+デフェロキサミン(DFO)30mg/kg、0.1ml/10g、筋肉内注射(im)により投与、1日1回;
中投与量+ビタミンC群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+ビタミンC 150mg/kg、0.1ml/10g(im)、1日1回。
健常雌ICRマウスを選択し、接種24時間後、上記実験スキームにより、連続10日間投与した。最後の投与24時間後にマウスを頸椎脱臼により屠殺し、その腫瘍組織をその腫瘍組織を摘出し、秤量し、腫瘍阻害率を腫瘍重量により計算した。
【0049】
(3)結果計算および解析
腫瘍増殖の阻害率(腫瘍阻害率)を次の数式により計算した。
腫瘍阻害率=(平均腫瘍重量対照群−平均腫瘍重量投与群)/平均腫瘍重量対照群×100%
各群のマウスの平均腫瘍重量を
【数2】
として表し、一元配置分散分析をSPSS 16.0統計ソフトウェアを使用して行った。
【0050】
(4)品質管理および評価基準
上記のとおりの評価を実施した。
【0051】
2. 結果
(1)マウス肝癌H22の増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の阻害効果を表10および図3〜4に示す。
【表10】
注:ip:腹腔内注射による投与;iv:静脈内注射による投与;ig:胃内投与;im:筋肉内注射による投与
上記結果から、10日間iv投与によるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の投与後、マウスの腫瘍は、陰性対照群と比較して腫瘍サイズおよび腫瘍重量が減少し、10mg/kgおよび30mg/kgのアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の静脈内注射による投与でのH22増殖阻害率はそれぞれ54.80%および73.07%であったことが示される。他方で、投与量10mg/kgで、H22増殖の阻害率は上記54.80%から61.15%(鉄との組み合わせで)に上昇し、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kgをデフェロキサミン(DFO)と組み合わせたとき、H22増殖の阻害率は上記54.80%から39.92%に低下したことも示される。
【0052】
実施例3:ヒト胃癌を移植したヌードマウスの腫瘍増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の影響
(I)材料および方法
(1)試験サンプルおよびその製剤
1. 試験サンプル
アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤は、Institute of Kunming Pharmaceutical Corp.から提供された。
【0053】
(2)試験サンプルの調製
一定量のアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を秤量し、生理食塩水(N.S.)に溶解し、0.15ml/10g体重の投与体積および高投与量30mg/kgの濃度に対応する溶液を調製し、中投与量および低投与量(3mg/kg、10mg/kg)を、高投与量溶液からN.S.溶液での比例希釈により調製した。
【0054】
(3)陽性対照の調製
5−フルオロウラシル(5−Fu)の原液を採り、投与量10mg/kgで0.15mg/20gの投与体積に対応してN.S.で所望の濃度に希釈した。
【0055】
2. 実験方法
(1)ヒト胃癌のヌードマウス腫瘍異種移植モデルの確立
インビトロ結果に基づき、アルテアヌイノイド誘導体に高感受性であったヒト胃癌細胞株を、インビボ抗腫瘍試験で使用する腫瘍タイプとして選択した。文献方法を参照して、ヌードマウス体内で十分に増殖させた腫瘍組織を摘出し、一定体積の組織片に切断し、ヌードマウスの右側腋窩に皮下接種した。腫瘍が増殖しないか、極めてゆっくり増殖したまたは急速に増殖したヌードマウスを接種数日後に除き、適当な腫瘍体積(TV)を形成したヌードマウスを選択して無作為に群別けし、各群の腫瘍体積の平均値が互いに近くなるようにした。
【0056】
(2)実験スキーム
陰性対照群:N.S.、0.15ml/10g体重、iv;
陽性対照群:5−Fu 10mg/kg、0.15ml/20g、iv;
試験群(アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤)
低投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤3mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
中投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
高投与量群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤30mg/kg、0.15ml/10g、1日1回、iv;
中投与量+鉄群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+FeSO 3mg/kg、0.2ml/10g(ig)、1日1回;
中投与量+デフェロキサミン群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+デフェロキサミン(DFO)30mg/kg、0.1ml/10g(im)、1日1回;
中投与量+ビタミンC群:アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤10mg/kg、0.15ml/10g(iv)、1日1回+ビタミンC 200mg/kg、0.1ml/10g(im)、1日1回。
動物を上記実験スキームに対応して群別けし、連続4週間、週に5日間投与した。腫瘍体積(TV)を各週に3回測定し、相対的腫瘍体積(RTV)および相対的腫瘍増殖率(T/C%)を計算した。最後の投与3時間後動物を頸椎脱臼により屠殺し、完全な腫瘍組織を摘出し、秤量し、腫瘍阻害率を計算した。
【0057】
(3)結果計算および解析
(1)TV、RTVおよびT/C(%)を次の数式により計算した。
TV=1/2×a×b(式中、aおよびbは各々腫瘍組織の長径および短径である);
RTV=V/V(式中、Vは投与前(d)に測定した腫瘍体積であり、Vは各時点で測定した腫瘍体積である);
T/C(%)=TRTV/CRTV×100%(式中、TRTVは処置群のRTVであり、CRTVは陰性対照群のRTVである)
得られた結果を
【数3】
として表し、一元配置分散分析をSPSS 16.0統計ソフトウェアを使用して行った。
【0058】
(2)効果評価
ヒト癌を移植したヌードマウスの腫瘍に対する試験サンプルの効果をT/C(%)で評価した。現在の国内判定基準は次のとおりである。T/C(%)>60%は無効を意味し、T/C(%)≦60%と統計処理後のP<0.05は有効を意味する。Fodstad基準を参照して評価してもよい。T/C(%)>50%は(−)活性無しを意味し、T/C(%)≦50%は(+/−)限界活性を意味し、T/C(%)≦40%は(+)中程度活性を意味し、T/C(%)≦25%は(++)高活性を意味し、T/C(%)≦10%は(+++)特に強い活性を意味する。本試験では、判定に際して国内基準を採用した。
【0059】
(II)結果
ヒト癌を移植したヌードマウスの腫瘍の増殖に対するアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の阻害効果を表11および図6〜7に示す。
【表11】
注:iv:静脈内注射による投与;ig:胃内投与;im:筋肉内注射;陰性群と比較、P<0.05
:各ケージでの投与時;d:実際の処置に対しての最適有効性
上記結果は、1〜5日間のアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤投与により、各群の腫瘍増殖率は、互いに有意差はがなく、15〜23日間投与により、陰性対照群の腫瘍増殖速度は、他群と比較して明らかに急速であることを示す。投与24目に、全ての動物を頸椎脱臼により屠殺し、腫瘍組織を摘出して体積を測定した。各パラメータを計算した。
陽性対照5−Fu注射による静脈内投与19日後、腫瘍の相対的増殖率(T/C%)は37.72%(60%未満)であり、陰性対照群と比較して統計処理により有意差があった、P<0.05。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の静脈内投与19日後、本低投与量群の腫瘍のT/C%は50.68%(60%未満)であり、陰性対照群と比較して統計処理により有意差がなかった、P>0.05。中投与量および高投与量群の腫瘍のT/C%はそれぞれ48.43%および47.32%(いずれも60%未満)であり、陰性対照群と比較して統計処理により有意差があった、P<0.05。凍結乾燥粉末剤Hの静脈内投与19日後、中投与量+鉄群の腫瘍のT/C%は48.38%であり、陰性対照群と比較してP=0.05であった。中投与量+ビタミンC群の腫瘍のT/C%は96.36%であり、陰性対照群と比較して統計処理により有意差がなかった、P>0.05。中投与量+DFO群の腫瘍のT/C%は91.95%であり、陰性対照群と比較して統計処理により有意差がなかった、P>0.05。
【0060】
IV. 結果
多数の文献に、アルテミシニンおよびその誘導体、特にジヒドロアルテミシニンおよびアルテスネートが顕著な抗腫瘍活性を有することが報告されている。アルテメーテルは、アルテミシニンの誘導体の一つであり、良好な抗マラリア効果および良好なインビボ経過を示す。アルテメーテルの凍結乾燥粉末調製物の製造に基づき、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末調製物のインビトロおよびインビボでの抗腫瘍活性を本試験で調べた。酸素フリーラジカルの現在認められている作用機序に対応して、インビボ実験において種々の因子を、その抗腫瘍効果の機構の確認のために取り入れた。
【0061】
本実験において、7種のヒト腫瘍細胞株をモデルとして使用し、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のインビトロ抗腫瘍活性を修飾MTT法を使用して測定し、アルテミシニン、ジヒドロアルテミシニンおよびアルテスネートと比較した。結果は、アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のいずれも、ヒト白血病細胞株(HL−60、K562)、ヒト肺癌細胞株(A549)、ヒト結腸癌細胞株(HT−29)およびヒト前立腺癌細胞株(PC−3)、ヒト胃癌細胞株(MKN−28)、ヒト喉頭癌細胞株(Hep2)の7種のヒト腫瘍細胞株にインビトロで顕著な阻害効果を有しないことを示した。ジヒドロアルテミシニンは、HL−60、K562、MKN−28、HT−29およびHep2の5種の腫瘍細胞株に対して比較的顕著な阻害効果を示し、特にMKN−28細胞は感受性であり、16.22μMのIC50であった。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤は、インビトロ試験での他の誘導体と異なり水可溶性製剤であり、ゆえに、静脈内注射による抗腫瘍評価の実施が可能であった。それゆえに、実験結果によりアルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末剤のいずれも明白なインビトロ細胞毒性を有しないことが示されたが、アルテミシニンのファルマコフォアであるペルオキシド架橋を保持していることから、生物中で代謝によりジヒドロアルテミシニンに変換され得る。従って、本発明では、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を使用してインビボ抗腫瘍試験を実施した。
【0062】
インビボ実験結果は、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg投与量を1日1回連続10日間の腹腔内注射によるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の投与後の、マウス肉腫S180の腫瘍阻害率がそれぞれ29.06%、44.96%および54.93%であり、顕著な腫瘍阻害効果および良好な用量依存性を有することを示し、各投与群は、陰性対照群と比較した統計解析で有意差を示した。各10mg/kgの腹腔内注射および静脈内注射による投与を比較したとき静脈内投与の効果が腹腔内投与を上回り、腫瘍阻害率はそれぞれ44.96%(ip)および51.48%(iv)であることが判明した。
【0063】
上記実験に基づき、現在認められている酸素フリーラジカルの作用機序を考慮し、マウス肝癌H22を本発明におけるモデルとして使用し、投与量および試験プロトコルを調整した。異なる影響因子を設計し、投与量をインビボ実験で調整し、それによりその抗腫瘍作用の機序を確認した。結果は、3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg投与量を1日1回連続10日間の静脈内注射によるアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の投与が明白な腫瘍阻害効果および良好な用量依存性を示し、その腫瘍阻害率はそれぞれ38.98%、54.80%および73.07%であることを示した。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の10mg/kg投与量に基づき、鉄追加群、ビタミンC追加群およびデフェロキサミン(DFO)追加群、すなわち:10mg/kg(iv)、10mg/kg+FeSO 3mg/kg(ig)、10mg/kg+ビタミンC 50mg/kg(im)および10mg/kg+DFO 30mg/kg(im)をそれぞれ設定した。アルテメーテルの抗腫瘍効果におけるFe2+の役割を探索することが目的である。硫酸第一鉄と葉酸の化合物は二価鉄イオンを提供し、デフェロキサミン(DFO)は、インビボで二価鉄イオンFe2+とキレートを形成し、インビボで二価鉄イオンを除去できる鉄キレーターであり、ビタミンC群はマウスのインビボ酸化反応に備えて使用する。これらの群の腫瘍阻害率はそれぞれ54.80%、61.15%、59.60%および39.92%であった。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤のみの投与と比較して、鉄追加群の腫瘍阻害率は増加したが、DFO群では減少し、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の抗腫瘍効果機序にFe2+が関係し、Fe2+含量と密接に関係することが示唆される。実験期間の短さを考慮すると、動物体内の内在性Fe2+はこの短時間で明白な変化はなく、腫瘍増殖に対する阻害効果を示すには十分ではなかった。ヒト癌を異種移植したヌードマウス腫瘍モデルがヒト腫瘍の生物学的特性をかなりの程度維持し、動物からの腫瘍異種移植片よりゆっくり増殖するため、動物由来腫瘍と生物学的特性が大きく異なり、ヒト腫瘍の生物学的特性を大部分保持する。それゆえに、我々はヒト癌を異種移植したヌードマウス腫瘍モデルを使用して実験を行い、さらに、有効性およびその作用機序を客観的に評価した。
【0064】
インビトロでの細胞スクリーニング結果は、ヒト胃癌株MKN−45がジヒドロアルテミシニンに最も感受性であることを示し、それゆえに、ヒト胃癌MKN−45腫瘍を皮下移植したヌードマウスモデルを選択して実験を行った。H22マウスモデルでの結果に従いビタミンC投与量を調節し、これは元々の150mg/kgから200mg/kgに増やした。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤を、3mg/kg、10mg/kg、30mg/kgの投与量を、1日1回週に5日間、静脈内注射により投与した。投与19日目に、腫瘍組織のT/C(%)はそれぞれ50.68%、48.43%および47.32%であり、一定の投与量相関を有して、腫瘍増殖に対する阻害効果を示した。陰性対照と比較して、10mg/kgおよび30mg/kgの投与量は、統計解析で、P<0.05で有意差を示した。陽性対照5−Fu群は、10mg/kgの投与量で37.72%T/C(%)を示し、統計解析でP<0.05で有意差を示した。本モデルはこの条件下で確立されたと考えることができ、実験結果が信頼できる。アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+FeSO(3mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+ビタミンC(200mg/kg)、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤(10mg/kg)+DFO(30mg/kg)の投与19日目に、腫瘍組織のT/C(%)はそれぞれ48.43%、48.38%、96.36%および91.95%であった。10mg/kgのアルテメーテルの凍結乾燥粉末剤の単独投与と比較して、FeSO群のT/C(%)に明白な変化はなく、この実験条件下、外因性鉄は腫瘍増殖に対するアルテメーテルの阻害効果に明白な影響を有しないことを示唆した。しかしながら、投与後時間が経つに連れて、FeSOは、腫瘍増殖に対するアルテメーテルの阻害効果に徐々に効果を発揮した。実験の初期段階で、内在性Fe2+は抗腫瘍効果を発揮するためのアルテメーテルの要求を満たすことができるが、時間が経つに連れて、内在性Fe2+が徐々に消費され、外因性鉄がアルテメーテルの抗腫瘍力の増強に徐々に役割を果たすと想定される。DFO群のT/C(%)は劇的に増加し、この実験条件下、動物体内の内在性Fe2+の枯渇がアルテメーテルの抗腫瘍効果を相殺し得ることが示唆される。ビタミンC群のT/C(%)は劇的に増加し、この実験条件下、動物体内ROSの消失がアルテメーテルの抗腫瘍効果の発現を阻止し得ることが示唆される。
【0065】
V. 結論
アルテメーテルおよびその凍結乾燥粉末調製物は、インビトロでヒト腫瘍細胞の成長および増殖に顕著な阻害効果を有しないが、アルテメーテルの凍結乾燥粉末剤は、インビボでマウス肉腫S180およびマウス肝癌H22の増殖を有意に阻害することができ、ヒトMKN−45胃癌を移植されたヌードマウスの腫瘍の増殖を有意に阻害することができ、アルテメーテルはインビボ代謝活性化によってその抗腫瘍効果を発揮する可能性が示唆される。その抗腫瘍作用の機構は、インビボで二価鉄イオン(Fe2+)が活性酸素種(ROS)の産生を誘発し、これが続いて腫瘍細胞傷害を誘発するとの事実と関係する。
【0066】
上記実施例は単に本発明の好ましい態様である。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、一定の改良および修飾を当業者が実施することができることは注意すべきである。全てのこのような改良および修飾は、本発明の範囲内に入ると見なすべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7