特許第6137825号(P6137825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6137825ドライラミネート方法および成形用包装材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137825
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ドライラミネート方法および成形用包装材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/48 20060101AFI20170522BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170522BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20170522BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B29C65/48
   B32B15/08 A
   H01M2/02 K
   B65D65/40 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-275433(P2012-275433)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-117901(P2014-117901A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】ゼン カイビン
(72)【発明者】
【氏名】高田 進
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−184508(JP,A)
【文献】 特開2004−195667(JP,A)
【文献】 特開昭63−309427(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133683(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
B65D 65/40
B32B 15/01−15/12
H01M 2/00− 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用包装材のドライラミネート方法であって、
耐熱性樹脂フィルムおよび金属箔のうちの少なくとも一方に、主剤としてのポリエステル樹脂と硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とによる二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂を含み、前記主剤と硬化剤とがポリオール水酸基(−OH)1モルに対してイソシアネート官能基(−NCO)2〜25モルの割合で配合された接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程で塗布した接着剤を乾燥させる乾燥工程と、
耐熱性樹脂フィルムと金属箔とを乾燥させた接着剤を介して貼り合わせるラミネート工程とを含み、
前記接着剤塗布工程を相対湿度60〜100、20℃以上の雰囲気中で行うことを特徴とするドライラミネート方法。
【請求項2】
前記接着剤塗布工程を行う雰囲気を加湿する請求項1に記載のドライラミネート方法。
【請求項3】
前記接着剤塗布工程を相対湿度90%以下の雰囲気中で行う請求項1または2に記載のドライラミネート方法。
【請求項4】
前記金属箔は耐熱性樹脂フィルムとの貼り合わせ面に化成皮膜を有する請求項1〜のいずれかに記載のドライラミネート方法。
【請求項5】
外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された金属箔層とを含む成形用包装材の製造方法であって、
前記耐熱性樹脂層を構成する耐熱性樹脂フィルムと金属箔層を構成する金属箔とを、請求項1〜のいずれかに記載のドライラミネート方法により貼り合わせることを特徴とする成形用包装材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型の二次電池(リチウムイオン二次電池)のケースとして好適に用いられ、また食品の包装材、医薬品の包装材の製造に用いられるドライラミネート方法、および成形用包装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池ケースの材料として、金属箔の両面に接着層を介して樹脂層を積層した多層構造の包装材が用いられている。
【0003】
前記包装材の製造において、金属箔と樹脂層との貼り合わせにはポリオールとイソシアネートによる二液反応型接着剤を用い、接着剤を塗布して溶媒を蒸発させた後にこれらを貼り合わせるドライラミネート法が採用されている。ドライラミネート法では、金属箔と樹脂層を貼り合わせた後、数10℃程度の温度で数日間のエージングを行い、接着剤の硬化を促して接着強度を高めている(特許文献1〜6参照)。
【0004】
また、上記のシート状包装材でケースを製造する場合、ケース内容積を確保するために、絞り成形や張り出し成形によって立体形状に加工することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3567229号公報
【特許文献2】特開2000−123800号公報
【特許文献3】特開2011−096552号公報
【特許文献4】特許第4380728号公報
【特許文献5】特開2011−119269号公報
【特許文献6】特開2011−128793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ケースの側壁をより高くする成形、即ちより深い成形を行うと、金属箔層と外側の樹脂層との間で層間剥離をするおそれがあるため、成形深さが制限されている。また、成形直後に層間剥離が発生しない場合でも、ケースを過酷な環境下で使用すると層間剥離が発生することもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、外側の樹脂層である耐熱性樹脂層と金属箔層の層間剥離を抑制できるドライラミネート方法、ひいてはより深い成形が可能な成形用包装材を製造することを目的とする。
【0008】
即ち、本発明は、[1]〜[10]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]耐熱性樹脂フィルムおよび金属箔のうちの少なくとも一方に、ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程で塗布した接着剤を乾燥させる乾燥工程と、
耐熱性樹脂フィルムと金属箔とを乾燥させた接着剤を介して貼り合わせるラミネート工程とを含み、
前記接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程を相対湿度25%以上の雰囲気中で行うことを特徴とするドライラミネート方法。
【0010】
[2]前記接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程を行う雰囲気を加湿する前項1に記載のドライラミネート方法。
【0011】
[3]前記接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程を20℃以上の雰囲気中で行う前項1または2に記載のドライラミネート方法。
【0012】
[4]前記接着剤塗布工程およびラミネート工程を相対湿度90%以下の雰囲気中で行う前項1〜3のいずれかに記載のドライラミネート方法。
【0013】
[5]前記ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤が、主剤としてのポリエステル樹脂と硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とによる二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤で構成されている前項1〜4のいずれかに記載のドライラミネート方法。
【0014】
[6]前記金属箔は耐熱性樹脂フィルムとの貼り合わせ面に化成皮膜を有する前項1〜5のいずれかに記載のドライラミネート方法。
【0015】
[7]外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された金属箔層とを含む成形用包装材の製造方法であって、
前記耐熱性樹脂層を構成する耐熱性樹脂フィルムと金属箔層を構成する金属箔とを、前項1〜6のいずれかに記載のドライラミネート方法により貼り合わせることを特徴とする成形用包装材の製造方法。
【0016】
[8]前項7の方法によって製造されたことを特徴とする成形用包装材。
【0017】
[9]前項8に記載の成形用包装材を深絞り成形または張り出し成形してなることを特徴とする成形ケース。
【0018】
[10]電池ケースとして用いられる前項9に記載の成形ケース。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明では、耐熱性樹脂フィルムと金属箔の貼り合わせにおいて、接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程を相対湿度25%以上の湿度雰囲気中で行うことにより、塗布されたポリエステルウレタン樹脂の架橋反応における分岐が促進され、架橋密度の高い網状構造の樹脂が形成される。架橋密度の高い網状構造の樹脂は強度および耐熱性に優れているので、耐熱性樹脂フィルムと金属箔とは接着強度が高く、層間剥離が抑制される。
【0020】
[2]の発明では、加湿を行うことによって均一な湿度環境を自在に設定できるので、気候の変化に影響されることなく通年で安定した接着強度が得られる。
【0021】
[3]の発明では、接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程が20℃以上の雰囲気中で行われるので、塗布されたポリエステルウレタン樹脂の架橋反応における分岐が促進される。
【0022】
[4]の発明では、接着剤塗布工程およびラミネート工程を相対湿度90%以下の雰囲気中で行うから、装置に錆を生じさせるという不具合が回避される。
【0023】
[5]の発明では、接着剤として二液硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂を含む接着剤を用いているので接着強度が高く、かつ成形性も良い。
【0024】
[6]の発明では、金属箔が表面に化成皮膜を有しているから、金属箔の腐食を防止できる。
【0025】
[7]の発明では、耐熱性樹脂層と金属箔層とを上記[1]〜[6]のいずれかのドライラミネート方法によって貼り合わせるから、これらの層間の接合強度が高く、深い成形を行った時であっても耐熱性樹脂層が剥離しにくい成形用包装材を製造できる。
【0026】
[8]の発明は、耐熱性樹脂層と金属箔層とが上記[1]〜[6]のいずれかのドライラミネート方法によって貼り合わされているからこれらの層間の接合強度が高く、深い成形を行った時であっても耐熱性樹脂層が剥離しにくい成形用包装材である。
【0027】
[9]の発明では、深い成形を行った時であっても耐熱性樹脂層が剥離することのない成形ケースが提供される。
【0028】
[10]の発明では、深い成形を行った時であっても耐熱性樹脂層が剥離することのない電池ケースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のドライラミネート方法を用いて作製した成形用包装材の断面図である。
図2】本発明のドライラミネート方法を行うドライラミネート装置の構成図である。
図3】接着剤の架橋反応を示す説明図である。
図4】成形用包装材の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[成形用包装材の構造]
図1に、本発明のドライラミネート方法を用いて作製した成形用包装材1を示す。この成形用包装材1は、リチウムイオン2次電池ケース用包材として用いられるものである。即ち、前記成形用包装材1は、深絞り成形等の成形に供されて2次電池ケースとして用いられるものである。
【0031】
前記成形用包装材1は、金属箔層4の上面に第1接着剤層5を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されるとともに、前記金属箔層4の下面に第2接着剤層6を介して熱可塑性樹脂層(内側層)3が積層一体化された構成からなる。前記耐熱性樹脂層2と金属箔層4とが本発明のドライラミネート方法によって貼り合わされている。
【0032】
以下に成形用包装材1における各層について詳述する。
【0033】
(耐熱性樹脂層)
前記耐熱性樹脂層(外側層)2としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記耐熱性樹脂層2としては、成形性および強度の点で、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたは二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ポリアミドフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記耐熱性樹脂層2は、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばPETフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層で形成されていても良い。
【0034】
前記耐熱性樹脂層2の厚さは、9μm〜50μmであるのが好ましい。ポリエステルフィルムを用いる場合には厚さは9μm〜50μmであるのが好ましく、ポリアミドフィルムを用いる場合には厚さは10μm〜50μmであるのが好ましい。上記好適下限値以上に設定することで包装材として十分な強度を確保できるとともに、上記好適上限値以下に設定することで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。
【0035】
(熱可塑性樹脂層)
前記熱可塑性樹脂層(内側層)3は、リチウムイオン二次電池等で用いられる腐食性の強い電解液などに対しても優れた耐薬品性を具備させるとともに、包材にヒートシール性を付与する役割を担うものである。
【0036】
前記熱可塑性樹脂層3としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂未延伸フィルム層であるのが好ましい。前記熱可塑性樹脂未延伸フィルム層は、特に限定されるものではないが、耐薬品性およびヒートシール性の点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる未延伸フィルムにより構成されるのが好ましい。
【0037】
前記熱可塑性樹脂層3の厚さは、20μm〜80μmに設定されるのが好ましい。20μm以上とすることでピンホールの発生を十分に防止できるとともに、80μm以下に設定することで樹脂使用量を低減できてコスト低減を図り得る。中でも、前記熱可塑性樹脂層3の厚さは30μm〜50μmに設定されるのが特に好ましい。なお、前記熱可塑性樹脂層3は、単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0038】
(金属箔層)
前記金属箔層4は、成形用包装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記金属箔層4としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられ、アルミニウム箔が一般的に用いられる。前記金属箔層4の厚さは、20μm〜100μmであるのが好ましい。20μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できるとともに、100μm以下であることで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。
【0039】
(第1接着剤層)
前記第1接着剤層5は、金属箔層4と外側層である耐熱性樹脂層2との接合を担う層であり、ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤が用いられている。
【0040】
前記ポリエステルウレタン樹脂は、主剤としてのポリエステル樹脂と硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とによる二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂であり、好ましくは以下の材料および組成により生成されたポリエステルウレタン樹脂である。
【0041】
前記ポリエステル樹脂はジカルボン酸およびジアルコールを原料とする共重合体であり、本発明においては、原料のジカルボン酸およびジアルコールの種類および組成を適宜選択することによって接着強度および成形性を高めて深い成形を行った時の層間剥離を抑制することができる。
【0042】
前記ジカルボン酸として脂肪族カルボン酸の芳香族カルボン酸の両方を用いることができる。脂肪族ジカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸を例示できる。また、芳香族カルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を例示できる。これらのカルボン酸を用いることにより、接着強度が高くかつ成形性の良い樹脂を生成し、成形性が良く側壁の高いケースへの成形が可能であり、かつ金属箔層4と耐熱性樹脂層2との層間剥離を抑制しうる成形用包装材となし得る。
【0043】
前記ジアルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを例示できる。
【0044】
前記ポリエステル樹脂の分子量は、多官能性であるイソシアネートで鎖伸長することで調整することができる。即ち、主剤中のポリエステル成分をNCOで連結すると末端が水酸基のポリマーが生成され、イソシアネート基とポリエステルの水酸基との当量比の調整によりポリエステル樹脂の分子量を調整することができる。本発明においては、これらの当量比(NCO/OH)が0.1〜10となるように連結したものを用いることが好ましい。また、他の分子量調整方法として、ジカルボン酸とジアルコールの共重合反応の反応条件(温度、時間、モノマー組成)の変更を挙げることができる。
【0045】
さらに、接着主剤の添加剤としてエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂を添加しても良い。
【0046】
前記硬化剤としての多官能イソシアネート化合物は、芳香族系、脂肪族系、脂環族系の各種イソシアネート化合物を使用できる。具体例としては、脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。
【0047】
前記二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂において、主剤と硬化剤との配合割合はポリオール水酸基(−OH)1モルに対してイソシアネート官能基(−NCO)2〜25モルの割合で配合されていることが好ましい。これらのモル比(−NCO)/(−OH)が2未満でイソシアネート官能基(−NCO)が少なくなると、十分な硬化反応が行われずに適性な塗膜強度および耐熱性が得られなくなるおそれがある。一方、(−NCO)/(−OH)が25を超えてイソシアネート官能基(−NCO)が多くなると、ポリオール以外の官能基との反応が進み過ぎて塗膜が硬くなりすぎて適性な伸びが得られなくなるおそれがある。特に好ましいポリオール水酸基とイソシアネート官能基のモル比(−NCO)/(−OH)は5〜20である。
【0048】
前記二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤は、ポリエステル樹脂の原料であるジカルボン酸およびジアルコール、要すればさらに鎖伸長剤、溶媒、各種添加剤を混合反応させてペースト状のポリエステル樹脂とし、これに硬化剤である多官能イソシアネート化合物あるいはさらに溶媒を配合してベースト状の接着剤組成物として調製する。この接着剤組成物を用いて、金属箔層4と耐熱性樹脂層2とを、後に詳述する本発明のドライラミネート方法によって貼り合わせる。
【0049】
前記第1接着剤層5の硬化後の厚みは0.1〜10μmの範囲が好ましい。0.1μm以上であることで接着強度を確保でき、10μm以下とすることで良好な成形性を保ち、かつ第1接着剤層5が部分的に割れてしまうことを十分に防止できる。
【0050】
(第2接着剤層)
前記第2接着剤層6としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、エラストマー系接着剤、フッ素系接着剤等により形成された接着剤層が挙げられる。中でも、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤を用いるのが好ましく、この場合には、包装材1の耐電解液性および水蒸気バリア性を向上させることができる。
【0051】
[成形用包装材の作製]
金属箔層4の上面に本発明のドライラミネート法により第1接着剤層5を介して耐熱性樹脂層2を貼り合わせ、下面に第2接着剤層6を介して熱可塑性樹脂層3を貼り合わせて積層物とする。この積層物を使用する接着剤の硬化条件に従って所定温度で保持することにより、金属箔層4の両面に、それぞれ第1接着剤層5および第接着剤層6を介して耐熱性樹脂層2および熱可塑性樹脂層3が接合されて成形用包装材1が作製される。
【0052】
[ドライラミネート法]
成形用包装材1の作製において、金属箔層4を構成する金属箔4と耐熱性樹脂層2を構成する耐熱性樹脂フィルム2との貼り合わせを本発明のドライラミネート法により行う。
【0053】
図2は、金属箔4に第1接着剤層5を構成する接着剤組成物を塗布して耐熱性樹脂フィルム2と貼り合わせる、ドライラミネート装置40の構成例を模式的に示している。
【0054】
(接着剤塗布工程)
図2において、51は調製したペースト状の接着剤組成物、即ち前記第1接着剤層5を構成するポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤組成物を入れた接着剤槽であり、接着剤塗布用のロール52aの下方部が接着剤組成物に浸かる高さに配置されている。52bは押さえロールである。前記接着剤槽51、塗布用ロール52aおよび押さえロール52bは塗布部チャンバー50内に配置されている。前記塗布部チャンバー50内には加湿器53が設置され、金属箔4に塗布した接着剤に向かって加湿空気を吹き付けるとともに、チャンバー50内の湿度が自在に調節しうるものとなされている。
【0055】
前記金属箔4は塗布部チャンバー50外に配置された巻出しロール41に準備され、巻出しロール41から解かれた金属箔4は塗布部チャンバー50の内部に進み、塗布用ロール52aと押さえロール52bとの間を通過する間に一方の面に接着剤組成物が塗布される。接着剤組成物の塗布量はロール52a,52b間のクリアランスを調節することによって調節される。
【0056】
(乾燥工程)
前記塗布部チャンバー50の後段には乾燥機42が配置され、接着剤組成物が塗布された金属箔4は乾燥機42内に入り、乾燥機42内を通過する間に溶媒が蒸発し、ポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤の乾燥皮膜(第1接着剤層5)が形成される。
【0057】
(ラミネート工程)
前記乾燥機42の後段には、耐熱性樹脂フィルム2を貼り合わせるための一対の圧着ロール61がラミネート部チャンバー60内に配置されている。前記ラミネート部チャンバー60内には加湿器63が設置され、金属箔4と耐熱性樹脂フィルム2の貼り合わせ部に向かって加湿空気を吹き付けるとともに、チャンバー60内の湿度が自在に調節しうるものとなされている。
【0058】
前記耐熱性樹脂フィルム2はラミネート部チャンバー60外に配置された巻出しロール43に準備され、巻出しロール43から解かれた耐熱性樹脂フィルム2はチャンバー60の内部に進み、乾燥機42を通過してチャンバー60内に進んできた金属箔4の接着剤乾燥皮膜(第1接着剤層5)側の面に重ねられ、圧着ロール61によって貼り合わされる。
【0059】
そして、上記の前記貼り合わせ物44はラミネート部チャンバー60を出て、巻き取りロール45に巻き取られる。
【0060】
以上の工程は金属箔4に接着剤組成物を塗布して耐熱性樹脂フィルム2を貼り合わせる工程であるが、耐熱性樹脂フィルム2に接着剤組成物を塗布して金属箔4と貼り合わせるようにしても良い。その場合は、図2において金属箔4の巻出しロール41と耐熱性樹脂フィルム2の巻出しロールの位置を入れ替える装置構成となる。また、金属箔と耐熱性樹脂フィルムの両方に接着剤を塗布して貼り合わせても良く、その場合は、図2において、耐熱性樹脂フィルムの巻出しロールとラミネート部チャンバーとの間に、接着剤槽、塗布用ロール、押さえロール、これらを包囲する加湿用のチャンバーおよび乾燥機を追加した装置構成となる。
【0061】
(接着剤の架橋反応)
図3はポリエステルウレタン樹脂の架橋反応を模式的に示している。
【0062】
(P)は長鎖ポリエステルがジイソシアネートで鎖伸長されたNCO末端のプレポリマーである。このプレポリマー(P)の架橋反応においては架橋すると同時に分岐が生じるが、水が鎖伸長剤として反応に参加すると考えられ、水の存在によって鎖の分岐が促進される。樹脂は鎖の架橋密度が増大するほど引き締まった網状構造となり、強度および耐熱性に優れた樹脂が形成される。本発明は、塗布された接着剤の架橋反応を水を多く含む環境下で行うことにより鎖の分岐を促進して架橋密度の高い樹脂を形成する。架橋密度の高い樹脂は強度および耐熱性が優れているので、かかる層で接合された耐熱性樹脂フィルムと金属箔とは接着強度が高く、層間剥離が抑制される。また、これらの層を有する成形用包装材は深い成形や過酷な環境での使用に対しても剥離しにくいものとなる。
【0063】
前記第1接着剤層5の架橋反応を水分を多く含む環境下で行うための手段として、前記塗布部チャンバー50およびラミネート部チャンバー60のうちの少なくとも一方のチャンバー内の相対湿度が25%以上、好ましくは35%以上となるように湿度管理を行い、相対湿度が25%を下回らないように加湿を行う。即ち、接着剤塗布工程およびラミネート工程のうちの少なくとも一方の工程を相対湿度25%以上の雰囲気(以下、「多湿雰囲気」と略する)中で行うことによって、架橋密度を増大させて引き締まった網状構造を有する層を形成する。架橋反応における分岐促進効果は、接着剤塗布工程、ラミネート工程のどちらの工程を多湿雰囲気中で行っても得ることができるので、少なくとも一方の工程を多湿雰囲気中で行えば良い。ただし、塗布した接着剤が乾燥する以前に多湿雰囲気中に置いた方が鎖の分岐が促進されるので、一方の工程のみを湿度管理するのであれば、接着剤塗布工程を多湿雰囲気中で行うことが好ましい。
【0064】
また、加湿を行うことによって均一な湿度の雰囲気を自在に設定できるので、気候の変化に影響されることなく通年で安定した接着強度が得られる。ひいては成形用包装材の品質を安定させることができる。従って、通年で一定湿度を維持するために、環境湿度が25%以上であっても加湿を行うことも好ましい。
【0065】
前記相対湿度の上限値は無く、相対湿度100%の雰囲気下で行ってもよい。ただし、相対湿度が90%を超えて高くなると、塗布装置やラミネート装置の金属部分に錆が生じやすくなるので、90%以下の雰囲気中で行うことが好ましい。装置に錆が生じる懸念のない場合については相対湿度が90%を超える多湿雰囲気を避ける必要はない。
【0066】
なお、前記接着剤塗布工程および/またはラミネート工程の湿度管理を行うには、ドライラミネート装置の設置空間、例えば装置を設置した室内全体の湿度管理を行っても良く、このような広範囲の湿度管理を行う場合も本発明に含まれる。しかし、ドライラミネート装置には乾燥機42や制御部等の、塗布した接着剤を多湿雰囲気に置くことに関与しない機器が含まれており、これらは多湿雰囲気中に設置する必要がない。従って、図示例のように接着剤塗布工程およびラミネート工程を行うための機器をチャンバー内に設置し、チャンバー内のみを湿度管理すれば良い。このような狭い空間の湿度管理であれば、装置を簡素化でき、かつ湿度を一定に保ち易い。
【0067】
また、チャンバー内を加湿する場合は、加湿空気を接着剤塗布面あるいは耐熱性樹脂フィルムと金属箔の貼り合わせ部に向かって吹き付けるようにすれば所要部分を確実に加湿することができる。
【0068】
さらに、前記接着剤塗布工程およびラミネート工程は、架橋反応における分岐を促進する上で、作業雰囲気の気温を20℃以上に保つことが好ましい。気温が20℃未満であれば前記チャンバー内を加熱する。
【0069】
なお、本発明は内側層である熱可塑性樹脂層3と金属箔層4との貼り合わせ形態を規定するものではなく、前記第2接着剤層6を介して行う貼り合わせは一例に過ぎない。
【0070】
[成形用包装材の他の形態]
本発明の成形用包装材は図1に示した積層構造に限定されるものではなく、層を追加して包装材として機能を向上させることができる。図4に示した成形用包装材10は、金属箔層4の両面に化成皮膜11a、11bを形成したものである。
【0071】
(金属箔層の化成皮膜)
成形用包装材の外側層および内側層は樹脂からなる層であり、これらの樹脂層には極微量ではあるが、ケースの外部からは光、酸素、液体が入り込むおそれがあり、内部からは内容物(電池の電解液、食品、医薬品等がしみ込むおそれがある。これらの侵入物が金属箔層に到達すると金属箔層の腐食原因となる。本発明の成形用包装材においては、金属箔層4の表面に耐食性の高い化成皮膜11a、11bを形成することにより、金属箔層4の耐食性向上を図ることができる。
【0072】
化成皮膜は金属箔表面に化成処理を施すことによって形成される皮膜であり、例えば、金属箔にクロメート処理、ジルコニウム化合物を用いたノンクロム型化成処理を施すことによって形成することができる。例えば、クロメート処理の場合は、脱脂処理を行った金属箔の表面に下記1)〜3)のいずれかの水溶液を塗工した後乾燥する。
1)リン酸、クロム酸およびフッ化物の金属塩の混合物からなる水溶液
2)リン酸、クロム酸、フッ化物金属塩および非金属塩の混合物からなる水溶液
3)アクリル系樹脂または/およびフェノール系樹脂と、リン酸と、クロム酸と、フッ化物金属塩との混合物からなる水溶液
前記化成皮膜11a、11bはクロム付着量として0.1〜50mg/mが好ましく、特に2〜20mg/mが好ましい。かかる厚さまたはクロム付着量の化成皮膜によって高耐食性の成形用包装材となし得る。
【0073】
なお、図4の成形用包装材10は金属箔層4の両面に化成皮膜11a、11bを形成した例であるが、どちらか一方の面に化成皮膜を有する包装材も本発明に含まれる。
【0074】
化成皮膜を形成した金属箔に本発明のドライラミネート方法を適用する場合は、図2のドライラミネート装置40の金属箔の巻出しロール41に化成皮膜を形成した金属箔をセットし、それ以外は同じ工程でドライラミネートを行う。
【0075】
[成形ケース]
本発明の成形用包装材1、10を成形(深絞り成形、張り出し成形等)することにより、成形ケース(電池ケース等)を得ることができる。
【実施例】
【0076】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0077】
以下の実施例3、4、参考例1、2、5、6、7および比較例1において、図4に示した積層構造の成形用包装材10を作製した。これらは第1接着剤層5の組成のみが異なり、その他の材料は共通である。共通材料は以下のとおりである。
【0078】
金属箔層4は厚さ35μmのアルミニウム箔4であり、このアルミニウム箔の両面に、ポリアクリル酸、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、180℃で乾燥を行って化成皮膜11a、11bを形成した。この化成皮膜11a、11bによるクロム付着量は10mg/mである。
【0079】
外側層である耐熱樹脂層2は厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムであり、内側層である熱可塑性樹脂層3は厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムである。また、第2接着剤層6にはポリアクリル接着剤を使用した。
【0080】
〈実施例3、4、参考例1、2、5、比較例1の接着剤〉
二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂の主剤であるポリエステル樹脂(ポリエステルポリオール)100質量部に対し、硬化剤として芳香族系イソシアネート化合物であるトリレンジイソシアネート(TDI)20質量部を配合し、さらに酢酸エチル100質量部を配合して良く撹拌することによって、ポリエステルウレタン樹脂接着剤組成物を得た。
【0081】
前記ポリエステルウレタン樹脂接着剤における、イソシアネート官能基(−NCO)とポリエステルポリオール水酸基(−OH)のモル比(−NCO)/(−OH)は5である。
【0082】
参考例6の接着剤〉
ポリエステルウレタン樹脂接着剤の主剤と硬化剤の配合割合を、(−NCO)/(−OH)のモル比を2としたことを以外は、参考例1と同じ材料でポリエステルウレタン樹脂接着剤組成物を調製した。
【0083】
参考例7の接着剤〉
ポリエステルウレタン樹脂接着剤の主剤と硬化剤の配合割合を、(−NCO)/(−OH)のモル比を25としたことを以外は、参考例1と同じ材料でポリエステルウレタン樹脂接着剤組成物を調製した。
【0084】
〈ドライラミネート〉
図2のドライラミネート装置40を設置した室内は気温20℃、相対湿度15%である。
【0085】
実施例3、4、参考例1、2、5、6、7は、塗布部チャンバー50内およびラミネート部チャンバー60内をそれぞれ加湿し、表1に示した相対湿度に調節した。さらに、実施例3および実施例4はチャンバー50、60内をヒータ(図示省略)で加熱して表1の温度に調節した。比較例1は加湿および加熱を行わず、室内環境と同じ温度および湿度とした。
【0086】
前記ドライラミネート装置40を稼働し、それぞれの環境下で上記のポリエステルポリウレタン樹脂接着剤組成物を用いて金属箔4(化成皮膜を形成したアルミニウム箔)と耐熱性樹脂層2(二軸延伸ナイロンフィルム)をドライラミネートした。
【0087】
さらに、前記金属箔4の他方の面に、第2接着剤層6(ポリアクリル接着剤)を用いて熱可塑性樹脂層3(未延伸ポリプロピレンフィルム)を貼り合わせた。そして、この積層体を40℃環境下で5日間放置することよって、図4に示す成形用包装材10を得た。
【0088】
上記のようにして得られた各成形用包装材について下記評価法に基づいて評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0089】
〈層間剥離の有無の評価法〉
作製した成形用包装材を110mm×180mmに切断して成形用素材とした。
【0090】
ダイス肩R:1mmのダイスと、長辺60mm×短辺45mm、コーナーR:1〜2mm、肩R:1mmのポンチとからなる成形高さフリーのストレート金型を用い、内側の熱可塑性樹脂層3をパンチと接触させる態様で張り出し一段成形を行い、側壁高さ(成形深さ)が5mmの電池用ケースを作製した。
【0091】
作製した電池用ケースを90℃に設定した乾燥機中に入れ、3時間経過後に取り出し、目視観察により耐熱性樹脂層2のデラミネーション(剥離)の有無を調べ、下記の基準で評価した。
○:デラミネーション発生なし
×:デラミネーション発生あり
【0092】
【表1】
【0093】
表1から明らかなように、耐熱性樹脂層と金属箔層を多湿雰囲気中でドライラミネートした実施例3、4、参考例1、2、5、6、7の成形用包装材は、成形後高温環境においても耐熱可塑性樹脂層が剥離することがなかった。これに対し、低湿度雰囲気中でドライラミネートした比較例1は剥離が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のドライラミネート方法によって作製した成形用包装材は、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型のリチウムイオンポリマー二次電池等の電池のケースとして好適に用いられ、これ以外にも、食品の包装材、医薬品の包装材として好適であるが、特にこれらの用途に限定されるものではない。中でも、電池ケース用として特に好適である。
【符号の説明】
【0095】
1、10…成形用包装材
2…耐熱性樹脂層(外側層、耐熱性樹脂フィルム)
3…熱可塑性樹脂層(内側層)
4…金属箔層(金属箔、アルミニウム箔)
5…第1接着剤層
6…第2接着剤層
11a、11b…化成皮膜
40…ドライラミネート装置
42…乾燥機
50…塗布部チャンバー
53、63…加湿器
60…ラミネート部チャンバー
図1
図2
図3
図4