(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
航空機のエンジンは、翼に対し、パイロン・ストラットと称される構造部材を介して取り付けられている(例えば、特許文献1)。
図7に示すように、パイロン・ストラット1は、翼2の下面に、飛行方向の前方xに向けて延びるように設けられている。エンジン4は、パイロン・ストラット1の下面に、前部のファン部4aが前部エンジンマウント5により取り付けられ、後部のコア部4bが後部エンジンマウント6により取り付けられている。
【0003】
エンジン4側とパイロン・ストラット1側との間には、様々な方向の力が作用する。例えば、エンジン4の推力と、逆噴射時における力とにより、前後方向の力が作用する。また、着陸時には、上下方向の力が作用する。この上下方向の力としては、例えばハードランディング(上下方向に衝撃を伴うような着陸)時や、胴体着陸時の衝撃等もあり得る。また、エンジン4の作動時には、ファンの回転による回転方向のトルクも作用する。このため、前部エンジンマウント5、後部エンジンマウント6は、これらの力に対して十分な強度を有している。
一方で、パイロン・ストラット1は、エンジン4と翼2を連結するものであり、パイロン・ストラット1に生じた上記の力を翼2に伝達して逃がすために、パイロン・ストラット1と翼2の間をリンク部材で繋いでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このリンク部材は、パイロン・ストラット側と翼側の各々に両端がボルト、ナットによって固定されている。ところが、リンク部材の周囲に十分な作業スペースを確保できない場合がある。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、周囲のスペースが狭くても、締め付け、取り外しが容易なパイロン・ストラットと翼を連結するリンク部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもとなされた本発明は、航空機のパイロンと翼を連結するリンク部材に関する。
本発明のリンク部材は、第1荷重伝達部材と第2荷重伝達部材を備える。第1荷重伝達部材と第2荷重伝達部材は、所定間隔をあけて対向配置される。
第1荷重伝達部材は、第1荷重伝達部と、第1荷重伝達部の両端に設けられる第1a連結部及び第1b連結部と、を備える。
第2荷重伝達部材は、第2荷重伝達部と、第2荷重伝達部の両端に設けられる第2a連結部及び第2b連結部と、を備える。
【0007】
本発明のリンク部材は、第1締結具と第2締結具を備える。
第1締結具は、第1a連結部、及び、第2a連結部を貫通して、パイロンと第1a連結部及び第2a連結部とを締結するボルト及びナットからなる。
第2締結具は、第1b連結部、及び、第2b連結部を貫通して、翼と第1b連結部及び第2b連結部とを締結するボルト及びナットからなる。
なお、ここではいう締結は、直接的な締結のみならず、間接的な締結を含む。直接的な締結とは、後述する実施形態のリンク・プレート51とパイロン・ストラット11(連結片12)の締結関係をいい、間接的な締結とは、後述する実施形態のリンク・プレート51と翼マウント13の締結関係をいう。
【0008】
本発明のリンク部材は、第1締結具及び第2締結具の各々のナットの回転を規制する回転規制部材を備える。この回転規制部材は、ナットが配置される第1荷重伝達部及び第2荷重伝達部のいずれか一方に固定される。
本発明のリンク部材は、回転規制部材を備えるので、第1締結具及び第2締結具の締め付け時及び取り外し時に、人手でナットを固定する作業を必要としない。
【0009】
本発明のリンク部材において、第1
b連結部及び第
2b連結部に、偏心ブッシュが配置さ
れ、第
2締結具のボルトは、偏心ブッシュを介して第1
b連結部及び第
2b連結部に支持され
る。そして、回転規制部材は、第1締結具に対応する第1部材と、第2締結具に対応する第2部材と、に分割して設けられ
る。加えて、回転規制部材の第2部材は、長孔に形成されたボルト孔を介して、第1荷重伝達部及び第2荷重伝達部のいずれか一方に取り付けられる。
偏心ブッシュを調整することで第1締結具のボルトと第2締結具のボルトの間隔が変動するが、第1部材と第2部材に分割し
、かつ、第2部材を長孔に形成されたボルト孔を介して、取り付けることにより、この変動に容易に対応することができる。
【0010】
本発明のリンク部材において、第1締結具及び第2締結具の各々のボルトが脱落するのを規制する脱落規制部材を備え、脱落規制部材は、ボルトの頭部が配置される第1荷重伝達部及び第2荷重伝達部のいずれか一方に固定されることが好ましい。リンク部材の安全性の向上に資するからである。
【0011】
回転規制部材とは異なり、脱落規制部材は一体で形成しても不都合がないので、一体で形成して第1締結具及び第2締結具の各々のボルトが抜け出るのを規制することが好ましい。
さらに、第1締結具及び第2締結具のいずれか一方のボルトに係止されることで、脱落規制部材が変位するのを防止する係止片を備えることが好ましい。脱落規制部材によるボルトの抜け止め状態を維持するのに有効である。
【0012】
本発明のリンク部材は、以下の場合に特に効果的である。つまり、リンク部材をパイロン及び前記翼へ取り付ける際に作業を行う手前側と、リンク部材を境にして手前側と反対側の奥側と、が存在するものとする。この場合、第1締結具及び第2締結具の各々のボルトが手前側に配置され、第1締結具及び第2締結具の各々のナットが奥側に配置されることが好ましい。そうすれば、作業がし難い奥側へのアクセスを必要ないからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリンク部材によれば、第1締結具及び第2締結具の各々のナットの回転を規制する回転規制部材を備えるので、第1締結具及び第2締結具の締め付け時及び取り外し時に、人手でナットを固定する作業を必要としない。つまり本発明によると、周囲のスペースが狭くても、締め付け、取り外しが容易なパイロンと翼を連結するリンク部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態にかかるリンク部材を詳細に説明する。なお、以下の説明における前・後は、航空機の飛行方向を基準にして特定されるものとする。
本実施形態に係るリンク部材50は、航空機の翼とパイロンを構成するパイロン・ストラットを連結するために用いられる。そこで、はじめに
図6を参照して、パイロン・ストラット及びその周囲の概略構造を説明する。
図6に示すように、航空機の翼10には、ターボファン式のエンジン20が、パイロン80により支持されている。パイロン80は、パイロン・ストラット11、パイロン・ストラット11と翼10を連結するリンク部材15、16を含んで構成されている。なお、このリンク部材15、16は、本実施形態が対象とするリンク部材50とは異なる部位に設けられている。
パイロン・ストラット11は、翼10の下面に、飛行方向の前方xに向けて延びるように設けられている。パイロン・ストラット11は、前後方向に直交する断面における形状が台形で、後方から前方に行くに従いその断面積が漸次縮小している。
【0016】
エンジン20は、飛行方向の前方xに設けられるファン部20aと、ファン部20aの後方に設けられるエンジンコア部20bと、を備えている。ファン部20aは、断面円形のシュラウド21内にファンを内蔵している。また、エンジンコア部20bは、ファン部20aよりも小径な円筒状のハウジング22内に収容されているとともに、ファンを駆動するための機構を備えている。
【0017】
エンジン20は、パイロン・ストラット11の下面に、ファン部20aが前部エンジンマウント30により取り付けられ、エンジンコア部20bが後部エンジンマウント40により取り付けられている。
そして、エンジン20およびパイロン・ストラット11は、筒状のエンジンナセル23内に収容されている。
【0018】
前部エンジンマウント30は、ボルト等の結合手段により、上面30aがパイロン・ストラット11の下面に固定され、下面30bがエンジン20のファン部20aのシュラウド21に固定されている。
【0019】
後部エンジンマウント40は、エンジン20側に固定されたエンジン側マウント部材41と、パイロン・ストラット11側に固定されたストラット側マウント部材42とから形成されている。
ここで、エンジン側マウント部材41は、ボルト等の結合手段により、その下面41aがエンジン20のエンジンコア部20bのハウジング22の上面に固定されている。
また、エンジン側マウント部材41の上部には、補強ロッド45の一端45aが連結されている。この補強ロッド45は、他端45bが、エンジン20のエンジンコア部20bとファン部20aとの連結部近傍に連結されている。これにより、補強ロッド45は、エンジン20の前部の支持を補強する。
【0020】
リンク部材50は、パイロン・ストラット11と翼10を連結するための部材である。この連結のために、パイロン・ストラット11は、その後端に翼10に向けて突出する連結片12を備える。一方、翼10は、リンク部材50に直接連結される翼マウント13(
図1参照)を備えており、翼マウント13の上に支持された状態で固定される。
以下、リンク部材50の具体的な構成について
図1〜
図5を参照して説明する。
【0021】
リンク部材50は、一端(下端)がパイロン・ストラット11の連結片12に連結され、他端(上端)が翼マウント13に連結される。本実施形態は、二組のリンク部材50が、八の字状に配置されることで、翼マウント13(翼10)を支持するとともに、パイロン・ストラット11に生じた横荷重等を翼10に伝達して逃がす。したがって、リンク部材50は、機械的な支持に加えて、パイロン・ストラット11と翼10の間の荷重伝達部材として機能する。
なお、前述の前・後の規定にかかわらず、
図2において、リンク部材50を境にして右側を手前、左側を奥と言うことがある。
【0022】
リンク部材50は、
図2〜
図4に示すように、荷重の伝達要素となるリンク・プレート51と、リンク・プレート51の一端側に配置される同軸ブッシュ52及びリンク・プレート51の他端側に配置される偏心ブッシュ53と、偏心ブッシュ53を操作するハンドル55と、を備える。そして、2枚で一対のリンク・プレート51を所定の間隔をあけて対向配置させ、ボルトB1を各々同軸ブッシュ52及び偏心ブッシュ53を貫通させ、露出したねじ部分にナットN1を締め付けることで、連結片12と翼マウント13を連結する。
【0023】
リンク部材50は、ナット・リテーナ60及びボルト・リテーナ70をさらに備えている。
ナット・リテーナ60は、リンク部材50の奥側において、ナットN1の回転を規制する。また、ボルト・リテーナ70は、リンク部材50の手前側において、ボルトB1の脱落を規制する。
なお、以下、2枚で一対のリンク・プレート51において、互いに対向する側を内側、内側の裏側を外側と定義する。
【0024】
図3及び
図5に示すように、リンク・プレート51は、矩形状の荷重伝達部51aと、荷重伝達部51aの両端に設けられる円形状の連結部51b,51dと、を備えている。リンク・プレート51は、ステンレス鋼、その他の金属材料を用い、プレス加工、鋳造、削り出し等の工法により、荷重伝達部51aと連結部51b,51dが一体として作製される。また、炭素繊維複合材等、荷重に耐荷可能な金属以外の材料を使用することも可能である。
荷重伝達部51aは、パイロン・ストラット11から翼10に荷重を伝達する主体をなす。荷重伝達部51aの厚さを適宜設定することにより、伝達する荷重を調整することができる。
連結部51bは、荷重伝達部51aの長手方向の一方端に位置し、同軸ブッシュ52を嵌合、保持する貫通孔51cが形成されている。また、連結部51dは、荷重伝達部51aの長手方向の他方端に位置し、偏心ブッシュ53を嵌合、保持する貫通孔51eが形成されている。
【0025】
同軸ブッシュ52は、外周と内周が同軸をなす中空円筒状の部材であり、ボルトB1が貫通される。
偏心ブッシュ53は、外周の中心軸に対して内周の中心軸がずれている中空円筒状の部材である。偏心ブッシュ53はリンク・プレート51の外側に露出するフランジ53aを軸方向の一方端に備えている。このフランジ53aの周囲には、ノッチが連続して形成されている。このノッチに噛合うノッチを有するハンドル55の作用縁55aをフランジ53aの周囲に嵌め、必要なときにハンドル55を操作して、偏心ブッシュ53を回転させる。そうすると、内周が旋回運動するので、これに追従してボルトB1が軸心回りに旋回することで、軸心の位置を調整できる。
【0026】
一方に偏心ブッシュを用いることにより、同軸ブッシュ52を貫通するボルトB1と偏心ブッシュ53を貫通するボルトB1の軸芯間の距離を調整することができる。公差の関係で、個体間で、パイロン・ストラット11と翼マウント13の間の間隔が相違するのに対応するためである。
【0027】
ナット・リテーナ60は、奥側に配置されるリンク・プレート51の表面に固定され、ボルトB1に締結されたナットN1の回転を規制する。
ナット・リテーナ60は、リンク・プレート51の荷重伝達部51aにボルトB2とナットN2に締結して固定される取付け部60aと、ナットN1に嵌合される係止孔60cが形成された係止部60bと、を備える。係止孔60cは、ナットN1の外形が緩みなく嵌合できる寸法を有するように六角形に形成されている。
【0028】
ナット・リテーナ60は、偏平な金属板を折り曲げ加工することで、取付け部60aと係止部60bの間に段差を設ける。ナット・リテーナ60がリンク・プレート51に取り付けられると、取付け部60aはリンク・プレート51に密着されるが、係止部60bはリンク・プレート51から離れて配置される。また、取り付けられたナット・リテーナ60は、リンク・プレート51の投影面内に含まれるように平面形状が形成されているので、ナット・リテーナ60は格別なスペースを必要としない。
【0029】
ナット・リテーナ60は、連結部51b,51dの各々に一つずつ分割して設けられる。これは、連結部51dに偏心ブッシュ53を設けていることに基づく。つまり、本発明においては、連結部51b,51dの各々に設けられるナット・リテーナ60を一体に作製することも可能である。しかし、偏心ブッシュ53を調整するとボルトB1,B1の軸芯間の距離が変動するが、一体でナット・リテーナを作製すると係止孔(60c,60c)間の距離を調整することができない。係止孔を長孔にすれば軸芯間の距離の変動に対応できるが、ナットN1の回転を許容することになり、好ましくない。これに対して、本実施形態は、連結部51dに対応するナット・リテーナ60を取り付けるためにリンク・プレート51に形成するボルト孔を長孔にすることで、偏心ブッシュ53の調整に対応する。
【0030】
ボルト・リテーナ70は、手前側に配置されるリンク・プレート51の表面に固定され、ボルトB1の脱落を規制する。
ボルト・リテーナ70は、リンク・プレート51の荷重伝達部51aにボルトB2とナットN2に締結して固定される取付け部70aと、取付け部70aの両端に配置される抜け止め部70b,70dと、を備える。
【0031】
ボルト・リテーナ70は、偏平な金属板を折り曲げ加工する或いは複合材を該当形状に成型することで、取付け部70aと抜止め部70b,70dの間に段差を設ける。ボルト・リテーナ70がリンク・プレート51に取り付けられると、取付け部70aはリンク・プレート51に密着されるが、抜止め部70b,70dはボルトB1の頭部との間に間隔があくようにリンク・プレート51から離れて配置される。抜止め部70bは、幅方向の両端からリンク・プレート51に向けて延びる一対のフランジ70cが形成されている。一対のフランジ70cは、ボルトB1の頭部の周囲まで延びているので、ボルトB2が緩んでボルト・リテーナ70が回転しようとしてもフランジ70cにボルトB1が係止されるので、ボルト・リテーナ70が回転するのを規制する。ボルト・リテーナ70もまた、リンク・プレート51の投影面内に含まれるように平面形状が形成されているので、格別なスペースを必要としない。
【0032】
本実施形態のいくつかの構成要素と本発明の対応関係を念のために下記しておく。
本実施形態のリンク・プレート51が本発明の荷重伝達部材を構成する。
一対のリンク・プレート51の一方が第1荷重伝達部材、他方が第2荷重伝達部材を構成する。
リンク・プレート51の連結部51bが第1a連結部、第2a連結部を構成し、連結部51dが第1b連結部、第2b連結部を構成する。
連結部51bに配置されるボルトB1,ナットN1が第1締結具を構成し、連結部51dに配置されるボルトB1,ナットN1が第2締結具を構成する。
【0033】
次に、以上説明したリンク部材50による効果について説明する。
リンク部材50は、ナット・リテーナ60によりナットN1の回転が規制されている。したがって、リンク部材50は、ナットN1が設けられる奥側にスペースがなくて人手によりナットN1を固定できなくても、ボルトB1の側を回転させるだけで、ボルトB1を締め付け、または、取り外すことができる。よって、本発明によれば、周囲のスペースが狭くても、パイロン・ストラット11と翼マウント13(翼10)を容易に連結することかできる。
【0034】
ただし、本発明によるリンク部材50は、スペースのない奥側にナットN1が配置されることを必須とするものではなく、スペースのない奥側にボルトB1が配置されてもよい。この場合でも、ボルトB1を回転させれば、ボルトB1を締め付け、または、取り外すことができる。もっとも、ボルトB1を挿入するスペースが最低限確保される必要がある。
【0035】
また、本実施形態のナット・リテーナ60は、連結部51b及び連結部51dの各々に対応して一つずつ設けている。したがって、一方の連結部51dに偏心ブッシュ53を用いてボルトB1,B1間の間隔を変動させてもナット・リテーナ60によりナットN1の回転を支障なく規制できる。
【0036】
本実施形態のリンク部材50は、ボルト・リテーナ70を備えているので、不慮によりボルトB1がリンク・プレート51から脱落することを防止できる。
【0037】
ボルト・リテーナ70は、ボルトB1の頭部の周囲まで延びるフランジ70cを備えているので、ボルト・リテーナ70が回転することを規制する。したがって、本実施形態のリンク部材50によると、ボルトB1がリンク・プレート51から脱落することをより確実に防止できる。
【0038】
また、本実施形態は、一体のボルト・リテーナ70で2本のボルトB1を抜け止めするので、ボルト・リテーナ70の取り付け作業の負担を軽減できる。
【0039】
なお、上記実施形態では、二組のリンク部材50を用いる例を示しているが、本発明は、一組のリンク部材50だけを用いることを許容し、この場合でも上述した効果を享受できることは言うまでもない。
また、本実施形態は荷重伝達部材として板状の部材(リンク・プレート51)を用いているが、本発明は他の形態の荷重伝達部材を用いることができる。例えば、リンク・プレート51よりも肉厚な矩形断面を有する部材、楕円形断面を有する部材を、荷重伝達部材として用いることができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。