(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137866
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】とうもろこし焼酎、並びに、焼酎の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/12 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
C12G3/12
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-34643(P2013-34643)
(22)【出願日】2013年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-161272(P2014-161272A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】郷司 浩平
(72)【発明者】
【氏名】堀江 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】内木 正人
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−019952(JP,A)
【文献】
特開2011−205980(JP,A)
【文献】
とうもろこし焼酎 三年貯蔵 静寂の時, 2009/01/19,[検索日:2016年11月9日],URL,http://www.kyoedaya.com/shochu-pickup%20seijaku.htm
【文献】
焼きとうもろこし, 2012.04.12,[検索日:2016年11月9日],URL,http://shochu.ozio.in/archives/1770
【文献】
日本農芸化学会誌, 1974, vol.48, no.11, p.637-641
【文献】
日本醸造協会誌, 2008, vol.103, no.9, p.730-734
【文献】
日本醸造協会誌, 2005, vol.100, no.11, p.832-835
【文献】
日本醸造協会誌, 1977, vol.72, no.6, p.415-432
【文献】
山林舎webサイト、2007年1月31日(水),[検索日:2017年3月30日],URL,http://sanrinsya.way-nifty.com/tayori/2007/01/index.html
【文献】
三重の焼酎, 2007年5月17日,[検索日:2017年3月30日],URL,https://web.archive.org/web/20070517163031/http://www16.plala.or.jp/sakaya-oiwa/mie-shochu.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の少なくとも一部に加熱処理されたとうもろこしを用いる焼酎であって、
麹原料が大麦であり、
前記とうもろこしは、全粒とうもろこしであり、
焼酎中における2,5−ジメチルピラジン含量がアルコール濃度25v/v%換算で50μg/L以上、4−ビニルグアヤコール含量がアルコール濃度25v/v%換算で0超〜10mg/L、かつフルフラール含量がアルコール濃度25v/v%換算で5〜20mg/Lであることを特徴とするとうもろこし焼酎。
【請求項2】
焼酎中における2−ペンチルフラン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、ノナン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、かつ2−オクテン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/Lであることを特徴とする請求項1に記載のとうもろこし焼酎。
【請求項3】
原料の少なくとも一部に加熱処理されたとうもろこしを用いる焼酎の製造方法であって、
麹原料として大麦を用い、
前記とうもろこしは、全粒とうもろこしであり、
焼酎中における2,5−ジメチルピラジン含量がアルコール濃度25v/v%換算で50μg/L以上、4−ビニルグアヤコール含量がアルコール濃度25v/v%換算で0超〜10mg/L、かつフルフラール含量がアルコール濃度25v/v%換算で5〜20mg/Lであることを特徴とする焼酎の製造方法。
【請求項4】
焼酎中における2−ペンチルフラン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、ノナン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、かつ2−オクテン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/Lであることを特徴とする請求項3に記載の焼酎の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料の少なくとも一部に加熱処理されたとうもろこしを用いるとうもろこし焼酎、
並びに、焼酎の製造方法に関する。本発明のとうもろこし焼酎は、とうもろこし由来の香味良好な風味に優れたものである。
【背景技術】
【0002】
とうもろこしは、イネ科の一年生植物で、小麦や米とともに世界の三大穀物の一つであり、トウモロコシ、玉蜀黍(学名:Zea mays)の総称である。これには、キビ、ナンバ、トウキビ(唐黍)、ナンバンキビ(南蛮黍)、トウムギ(唐麦)、コウライキビ(高麗黍)、メイズ(maize)、コーン等の様々な表現のものも含まれる。とうもろこしの用途としては、焼く、蒸す、茹でる、料理に入れて食するほか、食品分野では、パン、麺、コーンフレーク、菓子、スープ、茶、食用油、デンプンの原料等に使われ、また、酒類、アルコールの原料にもなる。
【0003】
とうもろこしを使用した酒類の製造技術としては、例えば、特許文献1〜4に開示されたものがある。特許文献1には、粉砕とうもろこしを使用した無蒸煮醗酵による蒸留酒の製造方法が開示されている。特許文献2は、四種類以上の雑穀を原料としてなることを特徴とする雑穀焼酎に関する発明が記載されており、乙類焼酎の製造工程において、裸麦から得られたもろみにとうもろこし等の雑穀を混合して発酵させ、蒸留することにより得られることを特徴とする雑穀焼酎の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、液化工程において、耐熱性α−アミラーゼと液体麹を使用し、液体麹が未精白から精白度95%以上のとうもろこしから選ばれる穀物を含む液体培地に、白麹菌、黒麹菌及び黄麹菌から選ばれる麹菌を接種し、培養して得られたものであることを特徴とする穀物の液化方法、及び該液化液を掛け原料として焼酎又は清酒を製造する方法が開示されている。特許文献4には、麦類やとうもろこしを原料としてサッカロミセス・セレビシエに属するC14株又はNo.15株を用いる4−ビニルグアヤコールを高含有する焼酎、及び該蒸留液中の銅イオン濃度を0.2mg/L以上として貯蔵を行うことによるバニリンを高含有する焼酎の製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平1−95765号公報
【特許文献2】特開2004−105053号公報
【特許文献3】国際公開第2007/007701号
【特許文献4】特開2007−267679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在市販されているとうもろこし焼酎の多くは減圧蒸留品であり、味が軽くクセがない。一方で、常圧蒸留により製造されたイモ焼酎のように、原料特性があり濃醇な香味の酒質を好む消費者も少なくない。そのような消費者の嗜好を反映し、とうもろこし焼酎においても、香ばしく甘いといった香味を有するとうもろこし焼酎とするための技術開発が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、前記した従来技術が抱える問題点を踏まえ、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有するとうもろこし焼酎を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来のとうもろこし焼酎と比べて、原料であるとうもろこしの特徴をより感じさせるとうもろこし焼酎を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、原料のとうもろこしを加熱処理することにより、ピラジン類を特定量以上含有し、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する新規のとうもろこし焼酎を得ることに成功した。
【0009】
上記した知見に基づいて提供される請求項1に記載の発明は、原料の少なくとも一部に加熱処理されたとうもろこしを用いる焼酎であって、
麹原料が大麦であり、前記とうもろこしは、全粒とうもろこしであり、焼酎中における2,5−ジメチルピラジン含量がアルコール濃度25v/v%換算で50μg/L以上、
4−ビニルグアヤコール含量がアルコール濃度25v/v%換算で0超〜10mg/L、かつフルフラール含量がアルコール濃度25v/v%換算で5〜20mg/Lであることを特徴とするとうもろこし焼酎である。
【0010】
本発明のとうもろこし焼酎では、原料の少なくとも一部に「加熱処理されたとうもろこし」を用いており、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する酒質となったものとなる。そして本発明のとうもろこし焼酎は、香ばしく甘い特徴を有する2,5−ジメチルピラジンの含量が特定量以上であることを特徴としている。
【0011】
本発明のとうもろこし焼酎では、麹原料が大麦である。
また本発明のとうもろこし焼酎では、原料の少なくとも一部に、加熱処理された全粒とうもろこしを使用している。全粒とうもろこしは、胚乳部分に加えて胚芽部分を含んでいる。そのため、全粒とうもろこしを加熱処理することによって、脂質が多く様々な香気成分ができ、蒸留液に豊富な香気成分を付与することができる。本発明では、多様な成分を含有する全粒とうもろこしを原料に用いるので、とうもろこし由来の香気をより際立たせることができる。本発明によれば、香ばしく甘いといった香味良好な風味により優れたとうもろこし焼酎を提供することができる。
【0012】
また本発明のとうもろこし焼酎においては、4−ビニルグアヤコール含量とフルフラール含量が特定量以上である。かかる構成により、より香ばしくかつ焼成感に優れたとうもろこし焼酎となる。
【0013】
請求項
2に記載の発明は、焼酎中における2−ペンチルフラン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、ノナン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、かつ2−オクテン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/Lであることを特徴とする請求項
1に記載のとうもろこし焼酎である。
【0014】
本発明のとうもろこし焼酎においては、2−ペンチルフラン含量、ノナン酸エチル含量、及び2−オクテン酸エチル含量が特定量以上である。かかる構成により、華やかさや香味の膨らみがさらに付与され、より香ばしく甘いといった香味良好な風味とすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、原料の少なくとも一部に加熱処理されたとうもろこしを用いる焼酎の製造方法であって、麹原料として大麦を用い、前記とうもろこしは、全粒とうもろこしであり、焼酎中における2,5−ジメチルピラジン含量がアルコール濃度25v/v%換算で50μg/L以上、4−ビニルグアヤコール含量がアルコール濃度25v/v%換算で0超〜10mg/L、かつフルフラール含量がアルコール濃度25v/v%換算で5〜20mg/Lであることを特徴とする焼酎の製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、焼酎中における2−ペンチルフラン含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、ノナン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/L、かつ2−オクテン酸エチル含量がアルコール濃度25v/v%換算で1〜200μg/Lであることを特徴とする請求項3に記載の焼酎の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のとうもろこし焼酎は、香ばしく甘い香気を有するピラジン類を含有しており、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する。例えば、本発明のとうもろこし焼酎を濃いめの水割りやお湯割りとすることによって、口の中に香ばしく甘い香りが広がり、濃醇な味わいを楽しむことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、2,5−ジメチルピラジン含量、4−ビニルグアヤコール含量、フルフラール含量、2−ペンチルフラン含量、ノナン酸エチル含量、及び2−オクテン酸エチル含量の値は全てアルコール濃度25v/v%換算での値である。
【0019】
本発明のとうもろこし焼酎で用いる麹原料
は、大麦である。なお、麹原料を大麦とすると、とうもろこし由来の香ばしく甘い香りが引き立ち、コクと深みのある濃醇な味わいのとうもろこし焼酎が得られ、特に好適である。
【0020】
本発明のとうもろこし焼酎では、掛原料としてとうもろこしを使用する。とうもろこしの形態としては、全粒とうもろこしや、全粒とうもろこしを粉砕し皮や胚芽を除去したコーングリッツ等が挙げられる。ここで、全粒とうもろこしとは、胚乳だけでなく皮や胚芽を含有したとうもろこしをいう。また、コーングリッツとは、胚乳部分のみからなるとうもろこしをいう。特に好ましい実施形態では、とうもろこしとして全粒とうもろこしを使用する。全粒とうもろこしを掛原料として使用することにより、より香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する酒質が得られる。
【0021】
本発明のとうもろこし焼酎は、ピラジン類の含量が高いものである。一般にピラジン類は、分子式C
4H
4N
2の六員環構造をもつ複素環式化合物の総称であり、多岐にわたる物質が存在する。ピラジン類には、ピラジン及びピラジン骨格の2、3、5、6位にメチル基やエチル基が付いたものであり、例えば、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2−エチル−6−メチルピラジン、2−エチル−5−メチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3,6−ジメチルピラジン等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、これらピラジン類の中でも「2,5−ジメチルピラジン」に着目している。すなわち本発明のとうもろこし焼酎においては、2,5−ジメチルピラジン含量が特定量以上であり、具体的には50μg/L(リットル)以上、好ましくは100μg/L以上、より好ましくは200μg/L以上である。2,5−ジメチルピラジン含量が特定量以上であることにより、香ばしく甘い香りといった香味良好な風味を有する酒質が得られる。なお、2,5−ジメチルピラジン含量の上限は1000μg/Lであることが好ましい。1000μg/Lを超えると、焦げ臭を感じる酒質となってしまうおそれがある。
【0023】
本発明のとうもろこし焼酎においては、上記2,5−ジメチルピラジン含量に加えて、4−ビニルグアヤコール含量、フルフラール含量が特定の範囲内であること、さらに、2−ペンチルフラン含量、ノナン酸エチル含量、及び2−オクテン酸エチル含量が特定の範囲内であることで、さらに香ばしく甘い香りといった香味良好な風味を有する酒質となる。
【0024】
4−ビニルグアヤコール(以下、4−VGと略記する)は、穀物原料の細胞壁を構成するアラビノキシランの側鎖に結合しているフェルラ酸が遊離し、続いて脱炭酸を受けて生成する物質である。4−VGは蒸留工程で醪から蒸留液に移行するため、蒸留液の酒質に影響を与える。本発明のとうもろこし焼酎においては、焼成感が付与されるような4−VG含量が好ましく、具体的には、4−VG含量が0超〜10mg/Lであることが好ましい。
【0025】
フルフラールは、酒質に焼成感が付与され、また、香味の膨らみに寄与する成分である。本発明のとうもろこし焼酎においては、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有するようなフルフラール含量が好ましく、具体的には、フルフラール含量が5〜20mg/Lであることが好ましい。
【0026】
2−ペンチルフランは、華やかさに寄与する成分である。本発明のとうもろこし焼酎においては、2−ペンチルフラン含量が1〜200μg/Lであることが好ましい。
【0027】
ノナン酸エチルと2−オクテン酸エチルは、香味の膨らみや複雑さに寄与する成分である。本発明のとうもろこし焼酎においては、ノナン酸エチル含量が1〜200μg/L、2−オクテン酸エチル含量が1〜200μg/Lであることが好ましい。これらの成分を特定の範囲内とすることによって、とうもろこし由来の香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する酒質を達成することができる。
【0028】
次に、本発明のとうもろこし焼酎を製造する方法について説明する。本発明のとうもろこし焼酎を製造する方法については特に限定はなく、通常の焼酎の製造方法をそのまま適用することができる。一般に、焼酎の製造工程は、原料処理、仕込、発酵(糖化・発酵)、蒸留工程及び精製工程よりなる。なお、原料処理には、製麹工程、原料液化、液化・糖化工程も含むものとする。通常、とうもろこし焼酎の製造において、一次醪は穀類麹を水と混合して仕込み、酵母を添加して増殖させて得ることができる。次に、得られた一次醪に、とうもろこしを、例えば蒸きょうし掛原料として添加して二次醪とする。
【0029】
本発明では、掛原料として、加熱処理されたとうもろこしを用いる。加熱処理には、焙炒法等の乾燥熱風による直接加熱法、熱源から隔壁を通して加熱する間接加熱法、加圧して加熱する加圧加熱法等がある。直接加熱法の例としては焙炒法以外に気流乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。間接加熱法の例としてはドラム乾燥が挙げられる。加圧加熱法の例としては圧力式焼成釜を用いる方法や押出成形に用いるエクストルーダー法が挙げられる。なお、本発明における加熱処理は乾熱的な処理(例えば、乾燥を伴う熱処理)を指しており、例えば、通常の蒸気による蒸きょう処理は含まれない。ただし、通常の蒸気による蒸きょう処理以外で、原料の水分が減少する処理は含まれる。たとえば、乾き飽和水蒸気を更に加熱して飽和蒸気温度を超える温度に上昇させた状態の水蒸気である過熱蒸気を用いる過熱蒸気処理も採用できる。加熱処理条件は、被処理物の種類、形態及び加熱処理方法により適宜選択されるが、例えば、温度は100〜350℃の範囲から、時間は0.1秒〜数時間の範囲から適宜選択すればよい。
【0030】
蒸留工程についても特に限定はなく、通常の焼酎の製造で採用されている方法をそのまま適用することができる。例えば、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)を得るための連続蒸留法、乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を得るための単式蒸留法のいずれもが採用可能である。また、醪を通常の大気圧下で蒸留する常圧蒸留法、真空ポンプで醪を大気圧より低くして蒸留する減圧蒸留法のいずれもが採用可能である。
【0031】
掛原料として蒸きょうしたとうもろこしを使用する従来のとうもろこし焼酎では、単独で特徴づけられる香りはほとんどない。しかし、本発明のとうもろこし焼酎では、加熱処理されたとうもろこしを用いており、2,5−ジメチルピラジン等のピラジン類、あるいはピラジン類に加えて4−VG、フルフラールといった成分を特定量含有することによって、甘い香りがする、香ばしさが増すといった、とうもろこしを連想させる香りとすることができる。さらに、ピラジン類、4−VG、フルフラールにさらに2−ペンチルフラン、ノナン酸エチル、及び2−オクテン酸エチルといった成分を特定量含有することによって、香ばしく甘いといった香味良好な風味を有する、香味のバランスの良い所望の酒質を達成することができる。
【0032】
以下に、実施例をもって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
麹原料を大麦、掛原料をとうもろこしとして、とうもろこし焼酎の製造を行った。仕込配合を表1に示す。掛原料のとうもろこしには、焙炒機で250℃、150秒の条件で加熱処理したコーングリッツ、全粒とうもろこしを用いた。また、対照として、吸水して蒸きょうしたコーングリッツ、全粒とうもろこしを掛原料に用いた。
【0034】
【表1】
【0035】
一次仕込みは、1800kgの大麦を、常法により水浸漬吸水後、水切り、蒸きょう、放冷した後、得られた蒸麦に種麹菌として市販の焼酎用黒麹菌〔(株)河内源一郎商店製〕を接種し、麦麹を得た。この麹に汲水2160L及び酵母を加え、25℃で7日間発酵させ、一次醪とした。酵母は焼酎酵母協会2号を用いた。
【0036】
一次醪に、掛原料としてとうもろこしを加え二次仕込みを行い、25〜30℃で14日間発酵させた。全粒とうもろこしを加熱処理したとうもろこしを掛原料とした発酵醪の分析値を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
得られた発酵醪を蒸留した。蒸留は、常法により単式蒸留機を用いて常圧蒸留を行い、後留カット12%として、蒸留液を得た。蒸留液の香気成分解析をGC/MS分析により行い、クロマトグラムから香ばしく甘い香気であるピラジン類含量を分析した。ピラジン類の分析は、キャピラリーカラムDB−WAX(J&W社製)を接続したガスクロマトグラフG1530A(アジレント社製)に質量検出器5973(HEWLETT PACKARD社製)を連結したもので、常法通り行った。その結果、掛原料として蒸きょうされたコーングリッツを使用したとうもろこし焼酎には香気成分はあまり検出されなかった。蒸きょうした全粒とうもろこしを使用した場合も同様であった。これに対し、掛原料にコーングリッツの加熱処理物を使用したとうもろこし焼酎には香気成分が認められ、特に、2,5−ジメチルピラジン等のピラジン類のピークが認められた。また、掛原料に全粒とうもろこしの加熱処理物を使用したとうもろこし焼酎には香気成分が多く認められ、特に、2,5−ジメチルピラジン等のピラジン類のピークが顕著に認められた。このように、加熱処理されたコーングリッツや全粒とうもろこしを掛原料に用いたとうもろこし焼酎は、香ばしく甘い香気を有するピラジン類を多く含有していた。
【0039】
得られた蒸留液中の2,5−ジメチルピラジン、4−VG、及びフルフラールの各成分濃度を測定した。2,5−ジメチルピラジンの測定は、前記した方法により、常法通り行った。4−VGの測定は、特開2003−153681号公報に記載の方法に準じて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行った。また、フルフラールの測定は、特開2005−287357号公報に記載の方法に準じて、キャピラリーカラムDB−WAXを用いてGC/MSにより行った。全粒とうもろこしの加熱処理物を掛原料として得られた蒸留液中の2,5−ジメチルピラジン含量は354μg/L、4−VG含量は4.7mg/L、フルフラール含量は、17.0mg/Lであった。
【0040】
本実施例で得られたとうもろこし焼酎の官能評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
加熱処理されたとうもろこし(コーングリッツ、全粒とうもろこし)を掛原料に使用することにより、香ばしく甘い酒質が得られることがわかった。特に、加熱処理された全粒とうもろこしを用いることで、香ばしさがより強くなった。
【実施例2】
【0043】
とうもろこしの加熱処理方法として、焼成処理を採用し、掛原料に全粒とうもろこしの焼成処理物を用いてとうもろこし焼酎の製造を行った。焼成処理は、加熱調理用の金属板の上で行い、焼成温度を180℃、220℃とし、処理時間は5分とした。対照として、吸水して、蒸きょうされた全粒とうもろこしを掛原料とするとうもろこし焼酎を製造した。仕込配合や発酵条件などの他の試験方法は、実施例1と同様の方法で行った。
その結果、焼成温度180℃の全粒とうもろこしの加熱処理物を掛原料として得られた蒸留液中の2,5−ジメチルピラジン含量は275μg/L、4−VG含量は7.3mg/L、フルフラール含量は、6.2mg/Lであった。
【0044】
本実施例で得られたとうもろこし焼酎の官能評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
すなわち、焼成処理された全粒とうもろこしを掛原料とするとうもろこし焼酎は、いずれも甘く香ばしく焼成感が強いといった評価であった。一方、蒸きょうされた全粒とうもろこしを掛原料とした場合には、香ばしさを感じないとの評価であった。
【実施例3】
【0047】
とうもろこしの加熱処理方法として、加圧加熱法を採用し、掛原料に全粒とうもろこしの加圧加熱処理物を用いてとうもろこし焼酎の製造を行った。加圧加熱処理は、エクストルーダー(処理能力:15kg/時間)を用いて、温度110℃、圧力2MPaの条件で行った。対照として、吸水して、蒸きょうされた全粒とうもろこしを掛原料とするとうもろこし焼酎を製造した。仕込配合は実施例1の1/100スケールとし、発酵条件などの他の試験方法は、実施例1と同様の方法で行った。
【0048】
官能評価試験の結果を表5に示す。すなわち、加圧加熱処理された全粒とうもろこしを掛原料とするとうもろこし焼酎は、甘く香ばしく焼成感が強いといった評価であった。一方、蒸きょうされた全粒とうもろこしを掛原料とした場合には、香ばしさを感じないとの評価であった。
【0049】
【表5】
【実施例4】
【0050】
麹原料及び掛原料にとうもろこし用いて、全量とうもろこし焼酎を製造した。仕込配合を表6に示す。掛原料のとうもろこしには、焙炒処理、焼成処理のそれぞれの条件で加熱処理された全粒とうもろこしを用いた。対照として、吸水して蒸きょうしたコーングリッツを掛原料とする全量とうもろこし焼酎を製造した。
【0051】
【表6】
【0052】
一次仕込みとして、1800kgのとうもろこしを、常法により水浸漬吸水後、水切り、蒸きょう、放冷した後、得られた蒸しとうもろこしに種麹菌として市販の焼酎用黒麹菌〔(株)河内源一郎商店製〕を接種し
、麹を得た。この麹に汲水2160L及び酵母を加え、25℃で7日間発酵させ、一次醪とした。酵母は焼酎酵母協会2号を用いた。
【0053】
一次醪に、掛原料として全粒とうもろこしを焙炒処理、焼成処理で加熱処理したとうもろこしを加え、二次仕込みを行い、25〜30℃で14日間発酵させた。焙炒処理、焼成処理は、実施例1、2と同様の条件で行い、それぞれの加熱条件で処理された全粒とうもろこしを掛原料とした。発酵醪の分析値を表7に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
得られた全量とうもろこし焼酎の官能評価試験を行った。その結果、全粒とうもろこしを焙炒処理、焼成処理により加熱処理したとうもろこしを掛原料とした全量とうもろこし焼酎は、いずれも香ばしく甘いといった評価であった。一方、蒸きょうしたコーングリッツを掛原料とした全量とうもろこし焼酎は、香ばしさを感じないといった評価であった。
【実施例5】
【0056】
表1の仕込配合で減圧蒸留、常圧蒸留の2通りのとうもろこし焼酎の製造し、官能評価試験を行った。とうもろこし焼酎を水割り、お湯割り(とうもろこし焼酎に等量の水又はお湯で薄めた)にして、10名の専門のパネラーにより官能評価試験を行った。その結果、10名とも、常圧蒸留したもの方がより原料特性があり、香ばしい、甘い香りがするといった評価であった。
【実施例6】
【0057】
実施例1に記載の方法で製造した全粒とうもろこしを掛原料とするとうもろこし焼酎の2,5−ジメチルピラジン含量、4−VG含量、フルフラール含量、2−ペンチルフラン含量、ノナン酸エチル含量、及び2−オクテン酸エチル含量を測定し、市販のとうもろこし焼酎(2点)と比較した。2,5−ジメチルピラジン、4−VG、フルフラールの測定は、実施例1に記載の方法に準じて行った。また、2−ペンチルフラン、ノナン酸エチル、及び2−オクテン酸エチルの測定は、キャピラリーカラムDB−5MS(J&W社製)を接続したガスクロマトグラフG1530A(アジレント社製)に質量検出器5973(HEWLETT PACKARD社製)を連結したGC/MSにより、常法通り行った。結果を表8に示す。
【0058】
【表8】
【0059】
市販品Aと市販品B(いずれも減圧蒸留品)は、味が軽くクセがなく、原料特性が感じられず香味に特徴のないという全員の評価であった。また、市販品Aと市販品Bは、2,5−ジメチルピラジン、4−VG、フルフラール等の含有量が低かった。これに対し、実施例のとうもろこし焼酎は、2,5−ジメチルピラジン、4−VG、フルフラールの含有量が高く、香ばしく甘いといった酒質の特徴を反映していた。