特許第6137875号(P6137875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137875
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】遊星歯車減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20170522BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20170522BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20170522BHJP
   F16C 19/50 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16H1/32 A
   F16C35/067
   F16C19/16
   F16C19/50
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-41317(P2013-41317)
(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2014-169736(P2014-169736A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124730(JP,A)
【文献】 特開2011−236988(JP,A)
【文献】 特開2008−256219(JP,A)
【文献】 特開2001−187945(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0108381(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102840279(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102384221(CN,A)
【文献】 独国特許出願公開第102007023951(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/16,19/50,35/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に、外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、外歯歯車の軸方向両側に配置された一対のキャリヤ部材と、を有する遊星歯車減速装置であって、
前記ケーシングと前記内歯歯車を別体構造として、前記ケーシングの内周に前記内歯歯車を配置し、
前記内歯歯車の軸方向両側に前記一対のキャリヤ部材を支持する主軸受が配置され、
該主軸受は、前記内歯歯車を介さずに前記ケーシングに支持され、
前記内歯歯車の軸方向一端は、前記内歯歯車と前記主軸受のうちの一方との間に配置され前記ケーシングに固定された止め輪により軸方向に位置決めされ、
前記内歯歯車の軸方向他端は、他方の主軸受の外輪で軸方向に位置決めされる
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記内歯歯車は、内歯歯車本体と、該内歯歯車本体に設けられたピン溝に配置されるピン部材と、を備え、
前記ピン部材は、軸方向両端が前記主軸受の外輪で軸方向に位置決めされる
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ケーシングと前記内歯歯車は、隙間嵌めにて嵌合されると共に、回転方向において相対移動が規制される
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記内歯歯車は、内歯歯車本体と、該内歯歯車本体に設けられたピン溝に配置されるピン部材と、を備え、
前記ケーシングと前記内歯歯車とが、キーにより回転方向の相対移動が規制され、
該キーは、周方向に複数配置され、かつ前記ピン部材が配置されるピン溝とピン溝との間に配置される
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記ケーシングと前記内歯歯車の素材が異なる
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、遊星歯車減速装置が開示されている。
【0003】
この遊星歯車減速装置は、ケーシング内に、外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、外歯歯車の軸方向両側に配置された一対のキャリヤ部材と、を有している。
【0004】
ケーシングと内歯歯車は、別体構造とされている。内歯歯車は、ケーシングの内周に配置され、焼き嵌めによってケーシングと結合されている。
【0005】
前記一対のキャリヤ部材を支持する主軸受は、内歯歯車に組み付けられている。すなわち、一対のキャリヤ部材は、ケーシングの内側に配置された内歯歯車に組み付けられた主軸受によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−236988号公報(図1図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1においては、主軸受の径方向外側に2つの部材(内歯歯車およびケーシング)が重ねて配置されており、現実には、各部材とも、最小限必要な厚さを有することから、主軸受よりも径方向外側に相応の厚さを必要とし、ケーシングの外径が大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、よりコンパクトな遊星歯車減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーシング内に、外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、外歯歯車の軸方向両側に配置された一対のキャリヤ部材と、を有する遊星歯車減速装置であって、前記ケーシングと前記内歯歯車を別体構造として、前記ケーシングの内周に前記内歯歯車を配置し、前記内歯歯車の軸方向両側に前記一対のキャリヤ部材を支持する主軸受が配置され、該主軸受は、前記内歯歯車を介さずに前記ケーシングに支持され、前記内歯歯車の軸方向一端は、前記内歯歯車と前記主軸受のうちの一方との間に配置され前記ケーシングに固定された止め輪により軸方向に位置決めされ、前記内歯歯車の軸方向他端は、他方の主軸受の外輪で軸方向に位置決めされる構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明では、一対の主軸受は、止め輪によってケーシングに対する絶対位置が確定された状態で、内歯歯車の軸方向両側に配置される。すなわち、主軸受の径方向外側の部分には、内歯歯車を介することなくケーシングに支持される。したがって、ケーシングの外径をより小さく抑えたコンパクトな遊星歯車減速装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、よりコンパクトな遊星歯車減速装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の一例に係る遊星歯車減速装置の全体断面図
図2図1の内歯歯車本体の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る遊星歯車減速装置の全体断面図、図2はその内歯歯車本体の斜視図である。
【0015】
この遊星歯車減速装置10は、ロボットの関節駆動や工作機械の駆動系に広く用いられている偏心揺動型と称される遊星歯車減速装置である。遊星歯車減速装置10は、ケーシング12内に、外歯歯車14と、該外歯歯車14が内接噛合する内歯歯車16と、外歯歯車14の軸方向両側に配置された一対の第1、第2キャリヤ(キャリヤ部材)21、22と、を有している。
【0016】
遊星歯車減速装置10の動力伝達系の概略を説明すると、遊星歯車減速装置10の入力軸24は内歯歯車16の軸心O1の位置に配置され、第1キャリヤ21の側部に配置された図示せぬモータと連結されている。入力軸24には偏心体26が一体的に形成されている。偏心体26の外周にはころ28を介して3枚の外歯歯車14が並列に組み込まれている。外歯歯車14が3枚組み込まれているのは、回転バランスの向上および伝達容量の増大を意図したためである。
【0017】
外歯歯車14は、内歯歯車16に内接噛合している。外歯歯車14の歯数は、内歯歯車16の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)少ない。ケーシング12と内歯歯車16は、別体構造とされ、ケーシング12の内周に内歯歯車16が配置されている。ケーシング12および内歯歯車16の近傍の構成については、後に詳述する。
【0018】
ピン状部材32が各外歯歯車14を貫通している。ピン状部材32には、摺動促進部材33が外嵌されている。前述したように外歯歯車14の軸方向両側には一対の第1、第2キャリヤ21、22が配置されている。第1、第2キャリヤ21、22は、第2キャリヤ22と一体化されている前記ピン状部材32およびボルト43を介して連結されている。また、第2キャリヤ22には、図示せぬタップ穴を介して被動部材(図示略)が連結される。
【0019】
第1、第2キャリヤ21、22は、モータ側の第1主軸受(一方の主軸受)41および負荷側の第2主軸受(他方の主軸受)42によって支持されている。第1、第2主軸受41、42は、内歯歯車16の軸方向両側に配置され、背面合わせで組み込まれたアンギュラボール軸受で構成されている。第1、第2主軸受41、42は、双方とも、転動体であるボール41A、42Aと専用の外輪41B、42Bを有しているが、内輪は有していない(第1、第2キャリヤ21、22の外周の一部(内輪相当部)21C、22Cが内輪を兼用している)。
【0020】
次に、図1図2を参照して、ケーシング12および内歯歯車16の近傍の構成について詳細に説明する。
【0021】
前述したように、本実施形態においては、ケーシング12と内歯歯車16は別体構造として構成され、内歯歯車16はケーシング12の内周に配置されている。ケーシング12は、全体がほぼ円筒形状に形成されている。内歯歯車16も全体がほぼ円筒形状に形成されている。但し、内歯歯車16の軸方向長さLiは、ケーシング12の軸方向長さLcより短い(Li<Lc)。
【0022】
ケーシング12は、軽量化と放熱性向上を意図してアルミニウム系の素材で構成されている。内歯歯車16は、強度を考慮して熱処理された鋼系の素材で構成されている。すなわち、ケーシング12と内歯歯車16は、素材が異なっており、ケーシング12は、内歯歯車16よりも放熱性が高く、比重の小さい素材とされ、内歯歯車16は、ケーシング12よりも硬い素材で形成されている。
【0023】
内歯歯車16は、本実施形態においては、内歯歯車本体16Aと、該内歯歯車16の内歯を構成する円柱状のピン部材16Bによって構成されている。内歯歯車本体16Aには、該ピン部材16Bを回転自在に支持するピン溝16Cが、内歯歯車本体16Aの軸方向全体に沿って形成されている。ピン溝16Cの断面形状は、ほぼ半円である。
【0024】
内歯歯車16(の内歯歯車本体16A)のモータ側端部(軸方向一端)16Dには、止め輪50が当接している。一方、ケーシング12のモータ側端部の内周には、止め輪50が係合する止め輪用溝部12Aが全周に亘ってリング状に形成されている。止め輪用溝部12Aは、この実施形態では、第1主軸受41の外輪41Bの軸方向長さL3の分だけ軸方向端部12Bから離れた位置に形成されている。止め輪50は、該ケーシング12の止め輪用溝部12Aに嵌め込まれることでケーシング12上の軸方向位置が確定されている。なお、止め輪50のケーシング12の内周からの突出長さは、比較的短いH1とされ、止め輪50の軸方向の位置決め剛性を確保している。
【0025】
第1主軸受41は、外輪41Bが止め輪50のモータ側端面50Aと当接するまでケーシング12に圧入されることによって、ケーシング12に対して軸方向に位置決めされる。また、内歯歯車16は、該内歯歯車16(の内歯歯車本体16A)の軸方向一端であるモータ側端部16Dが、止め輪50の負荷側端面50Bと当接することによって、ケーシング12に対して軸方向に位置決めされる。また、内歯歯車16(の内歯歯車本体16A)の軸方向他端である負荷側端部16Fは、(圧入された)第2主軸受42の外輪42Bと当接することで、ケーシング12に対して位置決めされる。
【0026】
すなわち、第1主軸受41、内歯歯車16、および第2主軸受42は、ケーシング12の内周において止め輪50によって軸方向の位置決めがなされた状態で並んで配置されている。換言するならば、第1、第2主軸受41、42は、内歯歯車16を介さずにケーシング12に直接支持されている。
【0027】
第1、第2主軸受41、42は、第1キャリヤ21の凹部21Aの底面21Bと、第2キャリヤ22のピン状部材32の先端面32Aとの間に介在されたシム54を介してボルト43にて連結されることによって、与圧調整がなされる。すなわち、第1主軸受41のボール41A、第1主軸受41の外輪41B、止め輪50、内歯歯車本体16A、第2主軸受42の外輪42B、および第2主軸受42のボール42Aは、シム54によって調整された締め付け力にて第1、第2キャリヤ21、22の内輪相当部21C、22Cに挟持され、その結果、止め輪50の軸方向位置を基準として隙間のない状態でケーシング12に対して軸方向に位置決めされる。
【0028】
なお、本実施形態では、内歯歯車16の内歯を構成するピン部材16Bも、その軸方向両端16B1、16B2が第1、第2主軸受41、42の外輪41B、42Bで軸方向に位置決めされている。なお、止め輪50のケーシング12の内周からの突出長さH1が比較的短い長さとされていたのは、該止め輪50が、内歯歯車16のピン部材16Bと干渉しないように、という配慮からでもある。さらには、3枚の外歯歯車14も、第1、第2主軸受41、42の外輪41B、42Bで軸方向に位置決めされている。
【0029】
本実施形態では、ケーシング12と内歯歯車16は、隙間嵌めにて嵌合されると共に、回転方向(周方向)において相対移動が規制されている。具体的には、内歯歯車16の内歯歯車本体16Aの負荷側端部16Fの近傍の外周には、回転方向の相対移動を規制するキー56が係合可能なキー溝16Gが形成されている。このキー溝16Gは、内歯歯車16の軸方向全体に亘って形成されているのではなく、該内歯歯車16の軸方向全体の3分の1程度(3枚の外歯歯車14の1枚とほぼ同等程度)の長さL5のみに形成されている。但し、キー溝16Gは、図2に示されるように、周方向に4ヶ所形成されている。一方、ケーシング12には、該内歯歯車16のキー溝16Gと対応した軸方向長さL5のキー溝12Dが周方向に4ヶ所形成されている。内歯歯車16のキー溝16Gは、図2からも明らかなように、周方向において、(ピン部材16Bが配置される)ピン溝16Cと16Cとの間に配置されている。なお、図1のケーシング12のリング溝12Fは、キー溝12Dを形成するときの工具の逃げ溝に相当している。
【0030】
次に、この遊星歯車減速装置10の作用を説明する。
【0031】
入力軸24が回転すると、該入力軸24と一体化されている偏心体26が回転し、ころ28を介して外歯歯車14が揺動する。この結果、内歯歯車16に対する外歯歯車14の噛合位置が順次ずれていく現象が発生する。外歯歯車14の歯数は、内歯歯車16の歯数よりも1だけ少ないため、外歯歯車14は入力軸24が1回回転する毎に、一歯分だけ内歯歯車16に対して位相がずれる(自転する)。この自転成分が、摺動促進部材33およびピン状部材32を介して第1、第2キャリヤ21、22に伝達され、該第2キャリヤ22と図示せぬタップ穴を介して連結されている被動部材が駆動される。
【0032】
冒頭で述べたように、例えば、特許文献1で開示されている例のように、主軸受(41、42)の径方向外側において、ケーシング(12)と内歯歯車(16)を径方向に重ねた状態で別体構造とした場合には、現実には、径方向のコンパクト化が難しいという問題があった。すなわち、ケーシング(12)には、相応の剛性および強度が求められることから最小限必要な厚さが存在し、一方、内歯歯車(16)についても、熱処理をして複数のピン溝を精度よく加工するには、やはり最小限必要な厚さが存在する。そのため、主軸受(41、42)の径方向外側のコンパクト化が現実には容易ではなく、結果として遊星歯車減速装置全体のコンパクト化が難しいという問題があった。また、ケーシング(12)を焼き嵌めするのは、コストと手間が掛かるという問題もあった。
【0033】
本実施形態によれば、一対の第1、第2主軸受41、42は、止め輪50によってケーシング12に対する絶対位置が確定された状態で、内歯歯車16の軸方向両側に配置されている。すなわち、第1、第2主軸受41、42は、内歯歯車16を介さずにケーシング12に支持されており、第1、第2主軸受41、42の径方向外側の部分には、(内歯歯車は存在せず)ケーシング12しか存在しない。また、この第1、第2主軸受41、42の径方向外側の部分は、内歯歯車16と外歯歯車14の噛合荷重は直接的には掛からないため、噛合部分ほどには厚い肉厚を必要としない。したがって、ケーシング12の外径d1をより小さく抑えたコンパクトな遊星歯車減速装置10を得ることができる。
【0034】
さらには、本実施形態によれば、内歯歯車16のピン部材16Bは、その軸方向両端16B1、16B2が第1、第2主軸受41、42の外輪41B、42Bで軸方向に位置決めされるように構成してあるため、ピン部材16Bを位置決めするために別途位置決め部材を必要としないことから、一層のコスト低減を図ることができる。
【0035】
尤も、本発明では、内歯歯車(16)がピン部材(16B)を備えている場合に、該ピン部材を必ず主軸受(41、42)の外輪(41B、42B)によって位置決めしなければならないものではない。例えば、特に、第1主軸受(41)側については、本発明においては、ケーシング(12)に止め輪(50)がもともと配置されているため、この止め輪(50)の径方向の突出長さ(H1)を若干長くすることによって(内歯歯車(16)のほか)当該ピン部材(16B)をも止め輪(50)自体で位置決めするように構成しても良い。
【0036】
本実施形態では、ピン部材16Bのモータ側端部16B1の位置決めを、敢えて止め輪50によってではなく、第1主軸受41の外輪41Bによって行っている。すなわち、止め輪50にピン部材16Bの位置決め機能を持たせていない。このため、ケーシング12の内周からの止め輪50の突出長さH1を短く抑えることができている。このため、止め輪50自体の軸方向の剛性が高く、該止め輪50の位置規制の強度を高く維持することができる。
【0037】
なお、本発明は、必ずしも内歯歯車の内歯がこのようなピン部材によって構成されていることを要求するものではなく、内歯歯車本体に内歯が直接歯切り形成されている内歯歯車であってもよい。この場合は、そもそも内歯を押さえる必要性自体がなくなる。
【0038】
本実施形態の作用の説明に戻って、本実施形態においては、ケーシング12と内歯歯車16は、隙間嵌めにて嵌合されると共に、回転方向において相対移動がキー56によって規制される構造とされている。このため、焼き嵌めによる結合手法に比べ、低コストで、組み付けも容易であり、熱による変形の虞もない。また、隙間嵌めには、内歯歯車16が外歯歯車14側から受けた荷重で変形することによる自動調心的な機能もあるため、内歯歯車16の歯切り誤差等の吸収効果も得られる。
【0039】
さらには、キー56は、内歯歯車16の軸方向長さLi全体に渡されるのではなく、軸方向長さがL5に抑えられている。また、周方向に複数(4個)配置され、かつ内歯歯車16のピン部材16Bが配置されるピン溝16Cと16Cとの間に配置されるように構成してある。これらの構成により、「キーによる連結」を採用していながら、キー56と内歯歯車本体16Aとの係合部付近の応力集中を極力抑制し、内歯歯車本体16Aの強度を高く維持することができる。
【0040】
但し、本発明においては、ケーシング12と内歯歯車16とを、隙間嵌めにて結合することを必須とするものではなく、また、キー56によって結合することを必須とするものでもない。例えば、本発明においても、焼き嵌め等によって結合することを禁止するものではない。この場合には、特許文献1と同様に内歯歯車16に発生する内部応力を外歯歯車14との噛合荷重に対抗させることができ、一層のコンパクト化が実現できる。また、ケーシング12と内歯歯車16は、このほか、圧入やローレット等による結合を採用することも可能であり、設計の自由度は高い。なお、焼き嵌めや圧入等の締まり嵌めで結合する場合は、締まり嵌め代を管理して適正なトルクでケーシングと内歯歯車が滑るように設計することで、予期せぬ過大な負荷が掛かったとき等のトルクリミッタとして機能させるように構成することもできる。これにより、専用のトルクリミッタを組み込むことなく、動力伝達系の各部材を有効に保護することができる。
【0041】
また、本実施形態におけるケーシング12は、アルミニウム系の素材で構成され、内歯歯車16は、熱処理された鋼系の素材で構成されている。すなわち、ケーシング12と内歯歯車16は、素材が異なっている。そのため、噛合強度を強靱な鋼系の内歯歯車16で確保しつつ、軽量化と放熱性を向上させることができる。このように、本発明では、結合の自由度が高いことと相まって、「特定の目的」のためにケーシングの素材を大きな制限なく、自由に変更することが可能である。アルミニウム系以外でも、コストや目的を考慮してさまざまな素材を選択可能である。例えば、(鋼系の内歯歯車16を専用に有することができるため)ケーシング12については、鋳物系の素材で低コストに製造することも可能である。
【0042】
ここで、本実施形態では、特に、「ケーシング12と内歯歯車16を別体構造として、ケーシング12の内周に内歯歯車16を配置し、第1、第2主軸受41、42は、内歯歯車16を介さずにケーシング12によって支持される」という構成を採用していることから、ケーシング12と比較して、相対的に内歯歯車16の大きさが非常に小さく抑えられている。逆に言うならば、内歯歯車16に対してケーシング12が相対的にかなり大きい。そのため、このように、軽量化や放熱特性の向上などを意図した場合に、当該特定の目的を極めて効率的に、あるいは顕著に得ることができる。
【0043】
さらには、この「ケーシング12と比較して、相対的に内歯歯車16の大きさが非常に小さく抑えられている」という作用は、本実施形態の遊星歯車減速装置をシリーズ化したときに特に顕著な効果を奏する。
【0044】
より具体的に説明するならば、本実施形態に係る遊星歯車減速装置10は、伝達トルクの大小に応じて規定された複数の大小区分(許容トルク、定格トルク、ピークトルク等の伝達トルクの概念によって規定された大小区分)において、それぞれ複数の減速比が備えられることでシリーズ化されている。
【0045】
ここで、この遊星歯車減速装置10のシリーズは、(同一の大小区分において)ケーシング12は、減速比によらず共通で、減速比に応じて歯数(ピン溝16Cの数、あるいはピン部材16Bの数)の異なる内歯歯車16がケーシング12に選択的に内嵌されるように構成することができる。この構成により、ケーシング12と比較して相対的に質量の小さな内歯歯車16のみを複数製造、あるいは在庫するだけでよくなるため、ケーシング12の共用化の効果を極めく維持することができる。そのため、シリーズ全体としての製造コスト、在庫コストを大きく低減することができる。
【0046】
なお、上記実施形態では、偏心体26を備える入力軸24(偏心体軸)が、内歯歯車16の軸心O1(径方向中央)に1本のみ存在するいわゆる中央クランクタイプの偏心揺動型の遊星歯車減速装置10が示されていたが、この種の遊星歯車減速装置としては、内歯歯車の軸心からオフセットした位置に、複数の偏心体軸を有し、この複数の偏心体軸に備えられた偏心体を同期して回転させることによって外歯歯車を揺動させる、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型の遊星歯車減速装置も知られている。本発明は、当該振り分けタイプの偏心揺動型の遊星歯車減速装置にも、全く同様に適用することができる。さらには、単純遊星歯車減速機構等を有する遊星歯車減速装置においても、適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…遊星歯車減速装置
12…ケーシング
14…外歯歯車
16…内歯歯車
16A…内歯歯車本体
16B…ピン部材
16C…ピン溝
21、22…第1、第2キャリヤ
26…偏心体
41、42…第1、第2主軸受
50…止め輪
56…キー
図1
図2