【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度「JST−ERATO秋吉バイオナノトランスポータープロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、リポソームとエキソソームが複合化したリポソーム−エキソソームハイブリッドベシクルを提供するものである。
【0015】
本発明におけるエキソソームとは、細胞から放出される小胞を広く含む。エキソソームの直径は30〜200nm程度、好ましくは30〜100nm程度であり、リン脂質、コレステロ−ルなどの脂質、タンパク質等を含む。エキソソームはそれを産生する限り、いかなる動物種または植物種由来のものであってもよい。動物種は、例えば、脊椎動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ラット、マウス、ハムスタ−、ウサギ、ヤギ、ニワトリ、サケ、マグロ等)が挙げられるが、好ましくは、薬物、核酸などの生理活性物質を導入する標的細胞と同種の動物由来であり、標的細胞が生体内の細胞である場合には、標的細胞と同じ動物に由来する小胞が好ましい。また、エキソソームが由来する細胞種は特に限定されないが、例えば、腫瘍細胞、樹状細胞、マクロファ−ジ、T細胞、B細胞、血小板、網状赤血球、上皮細胞、線維芽細胞、幹細胞、iPS細胞等の様々な種類の細胞を挙げることができる。また、エキソソームは種々の体液、例えば、血液、尿、腹水などから調製することもできる。
【0016】
リポソームは、多重層リポソーム、一枚膜リポソームのいずれであってもよい。リポソームの大きさは40nm〜100μm程度、好ましくは50nm〜50μm程度、特に60nm〜10μm程度である。リポソームは、通常のナノメートルサイズのリポソームとジャイアントリポソームのいずれを使用してもよい。ジャイアントリポソームのサイズは通常1〜100マイクロメーター程度である。通常のナノメートルサイズのリポソームの大きさは、40nm〜300nm程度、好ましくは50nm〜200nm程度、特に60nm〜150nm程度である。リポソームのサイズ(粒子径)は、エクストルーダーを用いて、孔径の小さいフィルターを通過させることによって調節可能である。
【0017】
本明細書において、リポソームとエキソソームの「複合化」は、リポソームとエキソソームが融合する場合、リポソームとエキソソームが会合する場合の両方を含む。
【0018】
本明細書において、物質を「内包」するとは、リポソーム、エキソソームなどの各粒子の内部に物質が存在する場合と、リポソームとエキソソームが会合して1つの複合体を形成した場合にも、物質は、リポソーム、エキソソーム又はこれらの複合体に「内包」されている。
【0019】
本発明のハイブリッドベシクルは、リポソームとエキソソームが1:1で複合化(融合又は会合)したハイブリッドベシクルでもよく、1個のリポソームと複数のエキソソームが複合化(融合又は会合)したベシクルでもよく、複数のリポソームと1個のエキソソームが複合化(融合又は会合)したベシクルでもよく、複数のリポソームと複数のエキソソームが複合化(融合又は会合)したベシクルでもよい。
【0020】
エキソソーム1個あたりに複合化するリポソームは、0.2〜5個程度、好ましくは0.3〜3個程度、より好ましくは0.5〜2個程度である。
【0021】
リポソームは超音波処理法、逆相蒸発法、凍結融解法、脂質溶解法、噴霧乾燥法などの従来公知の任意の方法により製造することができる。
リポソームの構成成分としては、リン脂質、コレステロール類、PEGで修飾されたリン脂質、PEGで修飾されたコレステロール類などが挙げられる。
【0022】
リン脂質としては、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)などのホスファチジルエタノールアミン類;ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などのホスファチジルコリン類;ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)などのホスファチジルセリン類;ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などのホスファチジン酸類、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)などのホスファチジルイノシトール類などが挙げられ、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものを使用することができる。
【0023】
また、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾された(PEG鎖を有する)リン脂質として、DSPE-PEG, mPEG(メトキシPEG)-DSPE(PEGの分子量、750, 1000, 2000, 5000,10000,20000, 30000, 40000)を使用することができる。
【0024】
コレステロール類としては、コレステロール(Chol)、3β−[N−(ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、N−(トリメチルアンモニオエチル)カルバモイルコレステロール(TC−Chol)などが挙げられる。
また、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾された(PEG鎖を有する)コレステロール類として、Cholesterol-PEG, mPEG(メトキシPEG)- Cholesterol(PEGの分子量、1000, 2000, 5000,10000,20000, 30000, 40000)を使用することができる。
【0025】
リポソームの構成成分は、これらの脂質を単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0026】
リポソームには、少なくとも1種のカチオン性脂質を包含させることができる。
【0027】
カチオン性脂質としては、DC-6-14(O,O’-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DOTMA(N-(2,3-dioleyloxy)propyl-N,N,N-trimethylammonium)、DDAB(didodecylammonium bromide)、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC-Chol(3β-N-(N',N',-dimethyl-aminoethane)-carbamol cholesterol)、DMRIE(1,2-dimyristoyloxypropyl-3-dimethylhydroxyethyl ammonium)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetate)等が挙げられる。
【0028】
好ましい1つの実施形態において、本発明のリポソームは、カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール類を含む。これらの比率としては、リポソーム全体を100重量部として
リン脂質:10〜100重量部、好ましくは30〜100重量部、より好ましくは70〜100重量部、
コレステロール類:0〜50重量部、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは10〜20重量部。
カチオン性脂質:0〜80重量部、好ましくは10〜70重量部、より好ましくは30〜70重量部
である。
【0029】
上記の比率において、リン脂質、コレステロール類の一部または全部がPEGで修飾されていてもよい。
【0030】
リン脂質としては、DSPE-PG10G、DSPE-PEG350やPEG-コレステロールのようにPEGなどで修飾されたリン脂質やコレステロール類を使用することもできる。PEGで修飾されたリン脂質やコレステロール類は、脂質部分がエキソソームと相互作用し、PEG鎖がエキソソーム表面を覆うことで免疫系により攻撃されなくなり長期血中滞留性となる、いわゆるステルスーエキソソームを構築することができる。
【0031】
リポソームには、核酸、タンパク質、薬物などの生理活性物質を封入することで、エキソソームとの複合化時にこれらの生理活性物質をハイブリッドベシクルに導入することができる。
【0032】
薬物は任意の薬物が使用され特に限定されないが、例えば、抗腫瘍剤、抗高血圧剤、抗低血圧剤、抗精神病剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、抗癲癇剤、オピオイドアゴニスト、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、抗利尿剤、利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、鼻詰り用薬剤、ドパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、プロスタグランジン、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤又は抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤、抗炎症剤などとして作用し得るものが挙げられる。好ましい薬物は抗腫瘍剤である。抗腫瘍剤としては、ホルモン療法剤(例えば、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパルトリシン、ラロキシフェン、オルメロキフェン、レボルメロキシフェン、抗エストロゲン(例、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェンなど)、ピル製剤、メピチオスタン、テストロラクトン、アミノグルテチイミド、LH−RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど)、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、スルホン酸エチニルエストラジオール、アロマターゼ阻害薬(例、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタンなど)、抗アンドロゲン(例、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドなど)、5α−レダクターゼ阻害薬(例、フィナステリド、エプリステリドなど)、副腎皮質ホルモン系薬剤(例、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンなど)、アンドロゲン合成阻害薬(例、アビラテロンなど)、レチノイドおよびレチノイドの代謝を遅らせる薬剤(例、リアロゾールなど)などが挙げられ、なかでもLH−RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど))、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド、クロラムブチル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、カルボコン、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン)、代謝拮抗剤(例えば、メルカプトプリン、6−メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5−FU系薬剤(例、フルオロウラシル、テガフール、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフールなど)、アミノプテリン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチン)、抗癌性抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシン、ネオカルチノスタチン、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシン)、植物由来抗癌剤(例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、ドセタクセル、ビノレルビン、カンプトテシン、塩酸イリノテカン)、免疫療法剤(BRM)(例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾール)、細胞増殖因子ならびにその受容体の作用を阻害する薬剤(例えば、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標);抗HER2抗体)、ZD1839(イレッサ)、グリーベック(GLEEVEC)などの抗体医薬)が挙げられる。抗腫瘍剤の対象となる癌の種類としては、結腸・直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、胆道癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられ、好ましくは結腸・直腸癌、胃癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胆道癌、肝臓癌が挙げられる。
【0033】
これらの薬剤、核酸、タンパク質などの生理活性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1〜3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチドなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレート化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。好ましい核酸としては、siRNAなどのRNAが挙げられる。
【0035】
siRNAとは、標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(好ましくはコード領域内)(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なヌクレオチド配列とその相補鎖からなる二本鎖オリゴRNAである。siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相同な部分の長さは、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21〜23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。また、siRNAの全長も、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21〜23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。
【0036】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相同な配列との関係については、100%一致していてもよいし、塩基の変異があってもよい(少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)。
【0037】
siRNAは、5’又は3’末端に5塩基以下、好ましくは2塩基からなる、塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’等の配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
siRNAは任意の標的遺伝子に対するものであってよいが、本発明の核酸導入剤を疾患の予防・治療剤として用いる場合には、エキソソーム中に封入されるsiRNAは、その発現亢進が対象疾患の発症および/または増悪に関与する遺伝子を標的とするものであることが好ましく、より具体的には、その遺伝子に対するアンチセンス核酸が、臨床もしくは前臨床段階に進んでいる遺伝子や新たに知られた遺伝子を標的とするもの等が挙げられる。
【0039】
siRNAは、1種のみで使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
タンパク質としては、酵素、受容体、抗体、抗原、インターフェロン、インターロイキンなどのサイトカインなどが挙げられる。
【0041】
本発明のハイブリッドベシクルの大きさは、100ナノメーター〜20マイクロメーター程度、好ましくは100〜200ナノメーター程度である。
【0042】
リポソームとエキソソームのハイブリッドベシクルの製造法の例を具体的に説明すると、該リポソームとエキソソームを水などの適当な溶媒中で混合し、凍結・融解を繰り返すことにより、リポソームとエキソソームを複合化させることができる。凍結融解は、1〜30回程度、好ましくは10〜30回程度、より好ましくは20〜30回程度が挙げられる。
【0043】
リポソームとしてカチオン性リポソームを使用した場合、カチオン性リポソームとエキソソームを混合することにより複合化することができる。複合化は、反応温度4〜50℃程度、反応時間1〜24時間程度で実施することができる。
【0044】
複合化反応は、エキソソーム 100重量部に対し、リポソームを20〜1000重量部程度、好ましくは100〜1000重量部程度使用する。
【0045】
複合化にPEGを使用する場合、生理活性物質を内包するリポソームとエキソソームをポリエチレングリコール(PEG)の存在下に混合し、複合化させてリポソーム−エキソソームハイブリッドベシクルを調製することができる。PEGは、0〜40重量%程度の濃度でリポソームとエキソソームを含む混合液中に加えることができる。
【0046】
使用されるPEGとしては、PEG500〜PEG10000、好ましくはPEG1000〜PEG8000が挙げられる。
【0047】
また、DSPE-PG10G、DSPE-PEG350のようにPEGなどで修飾されたリン脂質、PEGで修飾されたコレステロール類などのPEG-脂質をエキソソームと複合化する場合には、PEG-脂質とエキソソーム中の脂質のモル比が0〜30モル%程度になるように加える。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0049】
実施例1
<実験方法>
1. 凍結融解法による膜融合
1.1実験手法
1.1.1. 試薬
DOPS [1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine]
Rhodamine-DHPE [Lissamine rhodamine B 1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt]
NBD-DHPE [N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)- 1,2-dihexadecanoyl-sn- glycero-3- phosphoethanolamine, triethylammonium salt]
GelStar(登録商標)
【0050】
1.1.2. SUV作製
クロロホルム:メタノール=2:1溶液に溶解したDOPSに、NBD-DHPEとRhodamine-DHPEが1%になるように添加し、アルゴンガス環流下で溶媒を蒸発させて脂質フィルムを作成した。作成した脂質フィルムにPBSバッファーを150μL加えて37℃で5分静置し、ボルテックスミキサーで撹拌した後エクストリューダーで100 nmのフィルターにかけてSUVを作成した。この時のDOPSの最終濃度が50 mMになるようにした。無色素のSUVも同様に作成し、コントロール実験に供した。
【0051】
1.1.3. 細胞培養上清からのエキソソーム精製
K562細胞(ヒト白血病細胞株)、1.0~2.0×10
6個/mLの濃度でエキソソーム不含有培地(FBS由来のエキソソームを取り除いた培地)に懸濁し、15時間培養した後、細胞懸濁液を回収し、1000 rpmで10分遠心後、上清を回収しさらに12000g, 4℃で30分間遠心した。この上清を回収し100000g, 4℃で2時間遠心した。上清を捨て、5 mLのPBSを入れ、100000g, 4℃で2時間遠心した。遠心後、上清を捨てPBSで沈殿を再懸濁しK562由来エキソソーム懸濁液を得た。
【0052】
RAW264.7細胞(マウスマクロファージ細胞株)を1×10
6個/mlの濃度でエキソソーム不含有培地2 Lに懸濁し、18〜24時間培養した後、細胞懸濁液を回収し、400 g, 4℃で10分遠心後、上清を回収しさらに10000 g、4℃で15分間遠心した。この上清を孔径0.45μm及び孔径0.22μmのフィルターで濾過後、限外濾過膜を用いて180 mlまで濃縮した。この濃縮上清を孔径0.8 μmのフィルターに通した後、100000 g、4℃で2時間遠心した。上清をアスピレーターで吸引除去後、エキソソームを含む沈査をPBSで洗浄し、100000 g、4℃で2時間遠心した。遠心後、上清をアスピレーターで吸引除去後、沈査を200 μlのPBSに再懸濁しRAW264.7由来エキソソーム懸濁液を得た。
【0053】
1.1.4. 核酸染色剤を用いた複合化モニター実験
膜を透過しない核酸染色剤を封入したSUVをエキソソームに複合化させることで、内部溶液混合によるRNA検出を行った。150 μLで30 mM DOPSになる脂質フィルムに、37℃に暖めておいたGelStar(登録商標)10 μLとPBS140 μLを加え、5分程度37℃で膨潤させ、ボルテックスミキサーで撹拌した後、エクストリューダーで100 nmフィルターに通してSUVを作成した。その後、SUVを精製し、余剰色素を除去した。K562 エキソソーム(Lot32) 1.3 μgと、最終濃度が42.3 μMのDOPSsuv (including 9000x GelStar(登録商標))を混合し、蛍光強度を測定した。混合後に液体窒素で完全に固化した後室温にて20分以上静置した凍結融解法で処理したものの蛍光強度も測定した。また、コントロールとして、GelStar(登録商標)10 μLとPBS140 μLをゲル濾過したものを同じ要領用いたもので同様の実験を行なった。
【0054】
1.2. 結果と考察
最終濃度4 μMのDOPSsuv (1% NBD-PE, Rhodamine-PE) と50 μL中でタンパク質量5. 3 μgになるようにK562エキソソームを混合し、液体窒素で完全に固化と室温で完全に融解させることを15回繰り返して蛍光強度を測定した。
【0055】
図1の緑色のラインが、エキソソームと混合直後のSUVの蛍光強度であり、薄紫色が、氷上で凍結融解にかかった時間と同等の時間を経過したサンプルの蛍光強度である。青色のラインが、凍結融解したものである。氷上静置したサンプルは、短波長側の蛍光強度が増加したが、長波長側の蛍光強度は下がらなかった。一方で、凍結融解したサンプルでは、長波長側の蛍光強度の減少がみられた。この結果をさらに詳しく知る為に、ナノサイトで凍結融解したものとしないものでのサイズを測定した。
【0056】
その結果、凍結融解したもの(凍結融解15回)ではサイズ分布が全体的に大きくなっており、FRET解消法と併せてエキソソームとリポソームが複合化していることが示唆された。
【0057】
Raw エキソソームの場合
DIOとR18で共染色したエキソソーム(150 μg/mL)10 μLに、100 μMのリポソーム溶液を90 μL加え、液体窒素中で完全に固化し、37 ℃のヒートブロックにて溶解を5回繰り返す毎にサンプルの蛍光強度と粒子径の測定を行なった。また、同様にして作成したサンプルにTRITONX-100を1%添加し、完全に脂質混合が起こった条件での緑色の蛍光強度を100%とした時の各回数での蛍光強度を%としてFRET解消効率2(
図4)を求めた。蛍光強度の変化で見る限り、Raw-エキソソームとリポソームは、凍結融解を30回繰り返すことにより60%程度脂質混合し、複合化が起こっていることが示唆された。
【0058】
また、エキソソームとリポソームを混合して凍結融解を30回繰り返した場合のみ、赤色の蛍光が増大した。R18は自己消光性の色素であり、その蛍光強度が増大したということはエキソソーム上のR18分子間距離が顕著に広がったことを示しており、このことからも複合化が起こっていることが示された。
【0059】
これまでの実験においては、脂質膜成分が混合することによりリポソームとエキソソームの複合化をモニターしていたが、エキソソームとリポソームの内容物の混合が測定できないかどうかをリポソームにRNA検出試薬であるGelStar(登録商標)を封入し、エキソソームと混合して凍結融解を行なって調べた。
【0060】
その結果、混合しただけの系と比較して、凍結融解によって1.5倍蛍光強度が高くなった。このことより、凍結融解によって外部の脂質の交換だけでなく、内容物の移行混合もおこっていることが示された。
【0061】
2. カチオン性リポソーム混合法
2.1実験手法
2.1.1. 試薬
DOPC [1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine],
EPC [1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-ethylphosphocholine]
DIO[3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate],
R18 [Octadecyl Rhodamine B Chloride],
【0062】
2.1.2. GL作製
クロロホルム:メタノール=2:1溶液に溶解したDOPCとEPCを目的比で混合し、DIOが1%になるように添加し、アルゴンガス環流下で溶媒を蒸発させて脂質フィルムを作成した。作成した脂質フィルムに100 μLの294 mMグルコース及び10 mM KCl溶液を加え室温で一晩静置し、GLを作成した。この時のDOPCとEPCの最終濃度が1 mMになるようにした。
【0063】
2.1.3. 細胞培養上清からのエキソソーム精製とエキソソームの染色
1.1.3. と同様に抽出したK562エキソソームを使用した。R18をDMSOに溶解し、最終濃度がエキソソームのリン脂質濃度の1%程度になるように加えた。そのとき、系に加わるDMSOの量は5%以下になるようにした。色素とエキソソームを混合した後、氷上で1時間静置し、カラムを用いて余剰色素を除去した。
【0064】
2.2. 結果と考察
プレパラート上で緑色の蛍光色素であるDIOで染色したGL100 μM(lipid)溶液と赤色の色素であるR18で染色したエキソソーム溶液0.1 μg/μL(protein)を等量混合してレーザー共焦点顕微鏡[LSM]観察を行なった。その結果、時間とともに、リポソーム表面が厚くなることがわかり、カチオン性脂質であるEPC含有量が低い場合には、厚くなった部分が緑色で観察された(
図7)。リポソームの表面にエキソソームが吸着したハイブリット体が得られた。
【0065】
カチオン性脂質の含有量を70%まで増加した場合には、GLの表面が緑色の励起波長で赤色の蛍光が観察され、FRETが起こっていることがわかった。これは、GLとエキソソームの膜の複合化を示唆している。
【0066】
3. PEGによるリポソームの複合化とリポソームとエキソソームの相互作用
細胞やリポソームの複合化誘起剤として古典的に用いられているポリエチレングリコールを用いたリポソームとエキソソームの複合化を試みた。今回はPEG6000を用いて実験を行なった。
【0067】
3.1実験手法
3.1.1. 試薬
DOPC [1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine],
DOPS [1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine]
DIO[3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate],
R18 [Octadecyl Rhodamine B Chloride],
【0068】
3.1.2. SUV作製
クロロホルム:メタノール=2:1溶液に溶解したDOPSに、NBD-PEとRhodamine-PEが1%になるように添加し、アルゴンガス環流下で溶媒を蒸発させて脂質フィルムを作成した。作成した脂質フィルムにPBSバッファーを150 μL加えて37℃で5分静置し、ボルテックスミキサーで撹拌した後エクストリューダーで100 nmのフィルターにかけてSUVを作成した。この時のDOPSの最終濃度が50 mMになるようにした。無色素のSUVも同様に作成し、コントロール実験に供した。
【0069】
3.1.3. 細胞培養上清からのエキソソーム精製
1.1.3. と同様に抽出したRawエキソソームを使用した。
【0070】
3.1.4.エキソソームの染色と蛍光強度測定とナノサイト測定
2.1.3.と同様にDIOとR18で共染色したエキソソーム(150 μg/mL)10 μLに、PEGと脂質濃度にして90 μM分のDOPCsuvあるいはDOPSsuv溶液を加え、蛍光強度と粒子径の測定を行なった。
【0071】
3.2. 結果と考察
蛍光強度測定の結果、PEGの濃度が高くなるにしたがって緑色の蛍光強度が増加し、脂質成分の混合が起こっていることが分かった(
図9, 10)。
【0072】
また、ナノサイトによるサイズ測定の結果では、DOPCsuvよりも、DOPSsuvで、PEG
濃度が40%で顕著にサイズが大きくなり、複合化が生じていることが示唆された(
図11)。