(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的な上腕式の血圧計では、腕にカフ(腕帯)を巻き、カフ内に空気を送り込んでカフを加圧することにより、血圧値を測定する。こうした上腕式の血圧計では裸腕で測定することが前提であるが、冬場の低温環境下では、衣服を着たまま、袖まくりせずに測定したい事情がある。そこで、衣服の袖の上にカフを巻いて測定できるようにした血圧計が知られている。
【0003】
特許文献1には、着衣のまま血圧測定した場合の測定精度を向上させることのできる血圧測定装置が記載されている。この血圧計は、予め、測定部位から衣服を除いた状態での測定値と、着衣のままでの測定値とから、着衣のままでの測定値から血圧値を算出するためのパラメータを記憶する。血圧測定時にボタンで服有りモードが選択されると、測定値に対して記憶されている上記パラメータを用いて血圧値を算出する。
【0004】
特許文献2には、空気が供給されて膨張するカフを測定部位に巻付けてカフ内の圧力に基づく血圧を算出する血圧算出部と、カフの内面であって測定部位の表面側に接する第1の内面と、内面であって第1の内面と対向する第2の内面との距離を測定する厚み検出部と、巻付けに際してカフに一定量の空気を供給して閉じ込めた後に、厚み検出部から出力される測定距離の値と、カフが測定部位に最適に巻付けられた状態を示す値とを比較して、巻付け状態を検出する巻付け判定部とを備える電子血圧計が記載されている。
【0005】
特許文献3には、生体の測定部位に巻付けられて空気が供給されることにより膨張するカフと、カフの内圧を測定するセンサと、センサが測定した内圧に基づき血圧を算出する血圧/脈拍算出部位と、血圧測定に際して、カフが巻付けられた測定部位において検出されるカフ圧に基づき、生体とカフの間に衣服が介在するか否かを検出する測定条件検出部と、血圧/脈拍算出部により算出されたデータと測定条件検出部による検出結果とを報知する報知部とを備える電子血圧計が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば薄手のシャツであれば、衣服の上からカフを巻いて測定しても誤差は少ないと考えられる。しかし、どのような衣服であれば衣服の上からでも測定できるかということは、ユーザにとって主観的な判断となる。自分の着ている衣服が血圧を正確に測定可能な衣服なのかどうかを判断することは、ユーザにとって困難である。
【0008】
衣服の厚みを検出して衣服の有無を判定することも考えられるが、同じ厚みでも衣服の素材によって血圧測定に及ぼす影響が異なる。このため、実際には、厚みだけで測定可否を判定することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、血圧測定に影響を及ぼす衣服で測定部位が覆われていないかどうかを、本構成を有しない場合と比べてより正確に判定することができる血圧計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る血圧計は、カフを加圧する加圧部と、加圧部により加圧されるカフ内の圧力を検出するカフ圧検出部と、加圧部によりカフが加圧されるときに、被測定者の測定部位とカフの間の接触圧分布を検出する接触圧検出部と、接触圧検出部により検出された接触圧分布に応じて、被測定者の血圧測定が適切に行われるか否かを判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る血圧計では、判定部は、接触圧分布のばらつき量に応じて、被測定者の血圧測定が適切に行われるか否かを判定することが好ましい。
【0012】
本発明に係る血圧計では、判定部は、ばらつき量として、加圧部によりカフが加圧上限圧力まで加圧されたときに当該加圧に追従して接触面の各点での接触圧がそれぞれ最大になる時点の時間差を用いることが好ましい。
【0013】
本発明に係る血圧計では、判定部は、ばらつき量として、加圧部がカフを加圧する前の接触圧分布のばらつき量をさらに用いることが好ましい。
【0014】
本発明に係る血圧計では、判定部は、ばらつき量として、加圧部が加圧上限圧力までカフを加圧した後の接触圧分布のばらつき量をさらに用いることが好ましい。
【0015】
本発明に係る血圧計では、接触圧検出部は、被測定者の測定部位と接触するカフの面に設けられた、複数の触覚センサ素子で構成される触覚アレイセンサであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る血圧計では、判定部による判定結果を報知する報知部をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、血圧測定に影響を及ぼす衣服で測定部位が覆われていないかどうかを、本構成を有しない場合と比べてより正確に判定することができる血圧計を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る血圧計について詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0020】
図1は、血圧計10の斜視図である。血圧計10は、本体20と、カフ50と、空気管60とを有する。カフ50は、図示しない空気袋を内蔵し、所定のベルトによって例えば被測定者の上腕部に固定される。カフ50は空気管60により本体20と接続され、カフ50には空気管60を通して本体20から空気が送り込まれる。血圧計10は、カフ50を加圧した後、カフ50を減圧する過程で、被測定者の血圧を測定する。
【0021】
本体20は、少なくとも表示部21および操作部22を有する。表示部21は、例えば液晶表示パネルで構成され、測定中の数値や最高血圧値および最低血圧値の測定結果などを表示する。操作部22は、測定の開始/停止を指示するためのスイッチや、被測定者を選択するためのスイッチなどを有する。
【0022】
例えばオシロメトリック方式の血圧計では、腕にカフを巻き、カフ内に空気を送り込んで腕の締め付け圧を上げ、動脈からの脈波が消失するところまで加圧させる。その後、一定流速で減圧した際の脈波の出現と消失の間の波高状態から、血圧値を測定している。オシロメトリック方式の血圧計では、加圧・減圧時の動脈からの脈波の状態を検出するため、裸腕で測定することが前提である。
【0023】
図2(A)および
図2(B)は、衣服が血圧測定に与える影響を説明するための図である。
図2(A)および
図2(B)は、それぞれ、腕81の皮膚82に直接カフ85を巻いた状態および衣服(袖)84の上から腕81にカフ85を巻いた状態を示した模式図である。86はカフ材、87はカフ内の空気である。衣服84の上からカフ85を巻くと、衣服84の素材によっては一種のダンパ作用となり、動脈83からカフ85への脈波の伝播や、カフ85内の圧力分布が不均一となる。このため、衣服の上から測定を行うと、脈波の検出の精度が悪くなって、裸腕で測定したときより血圧値が高めに測定される傾向となる。
【0024】
図3は、裸腕で測定したときに最高・最低血圧値がそれぞれ130mmHg,80mmHgである被験者について、様々な衣服の上から測定すると血圧値がどのように変化するかを示したグラフである。図示したように、Yシャツの上から測定したときは、薄手の衣服であることから裸腕のときと値はあまり変わらない。しかし、トレーナーやセーターの上から測定したときは、衣服の厚みや素材の弾性に起因して、裸腕で測定したときより高めの値となる。また、トレーナーをまくり上げた状態で皮膚にカフを巻き測定した場合は、測定部位自体は裸腕であるが、まくり上げることによって腕が阻血されるため、やはり数値が高めになる。
【0025】
このように、衣服のダンパ効果によって脈波の発生・消失が変化してしまうため、上腕式の血圧計では、基本的には衣服の袖をまくり上げてカフを巻き、測定する。しかし、冬場では衣服を着ている状態が普通であり、袖をまくり上げて測定すると、まくり上げたことによる圧迫で血圧値が高めとなってしまう。また、血圧値は低温環境下でも変化し、特に高齢者の場合、冬場にはヒートショックと呼ばれる急激な温度変化で脳卒中などを誘発する恐れがあるため、安易に衣服を脱ぐことは難しい。このため、衣服を着たまま、袖まくりせずに血圧を測定したい事情がある。
【0026】
市販の血圧計では、例えば薄手のシャツであれば、衣服の上からカフを巻いて測定しても誤差は少ないと言われている。しかし、どのような衣服であれば衣服の上からでも測定できるかということを判断するのは、ユーザにとって困難である。衣服の厚みを検出して衣服の有無を判定する血圧計も知られているが、同じ厚みでも衣服の素材によって弾性が異なり、血圧測定に及ぼす影響が異なる。このため、実際には、厚みだけで測定可否を判定することはできない。
【0027】
そこで、血圧計10では、被測定者の測定部位(皮膚または衣服)と接触する側のカフ50の面にシート状の触覚アレイセンサを配置する。そして、この触覚アレイセンサにより、カフ50が加圧されるときに、カフ50と測定部位との間の接触圧分布の変化を検出する。この接触圧分布のばらつきの程度は、カフ50が巻かれている衣服の厚みや弾性を反映している。このため、血圧計10は、そのばらつきの程度を定量化することにより、被測定者の血圧測定が適切に行われるか(すなわち、血圧測定に影響を及ぼす衣服で測定部位が覆われていないか)どうかを判定する。
【0028】
図4(A)および
図4(B)は、触覚アレイセンサ31の説明図である。触覚アレイセンサ31は、格子状に配置された複数の触覚センサ31Aにより構成され、被測定者の測定部位との接触面に配置される。
図4(A)は、広げられたカフ50に触覚アレイセンサ31が配置されている図と、触覚アレイセンサ31の上面を拡大した模式図を示す。一例として、血圧計10では、16mm×16mmの検出エリアを格子状に42分割し、各格子に触覚センサ31Aを配置した触覚アレイセンサ31を使用する。このように、触覚アレイセンサ31は、接触圧の分布を検出できる一定の大きさの面積をもっていればよく、必ずしもカフ50の全面を覆わなくてもよい。
【0029】
図4(B)は、個々の触覚センサ31Aが接触圧を検出する原理を説明する図である。各触覚センサ31Aでは、触覚アレイセンサ31の面に沿って配置された2枚の電極31Bによりコンデンサが形成されている。触覚アレイセンサ31の面が加圧されると、各触覚センサ31Aの電極31B間の距離dが小さくなって静電容量に変化が生じる。血圧計10では、触覚アレイセンサ31の静電容量の変化を検出して圧力に換算することにより、測定部位とカフ50の間の接触圧を検出する。
【0030】
図5は、血圧計10の概略ブロック図である。血圧計10の本体20は、表示部21と、操作部22と、加圧ポンプ23と、駆動回路24と、圧力センサ25と、発振回路26と、スローリークバルブ27と、駆動回路28と、制御部40とを有する。加圧ポンプ23、圧力センサ25およびスローリークバルブ27は、カフ50と空気管60で接続されている。
【0031】
表示部21と操作部22は、
図1に関して上記したものである。表示部21は、血圧値の測定結果と併せて、衣服による測定可否をユーザに報知するためのメッセージを表示する。表示部21は、報知部の一例である。
【0032】
加圧ポンプ23は、カフ50に空気を送り込むことによって、カフ50の内部を加圧する。加圧ポンプ23は、加圧部の一例である。駆動回路24は、制御部40から与えられる制御信号に基づいて、加圧ポンプ23を駆動する。
【0033】
圧力センサ25は、カフ50内の圧力を検出して電気信号に変換するセンサであり、圧力検出信号を発振回路26に出力する。カフ50内の圧力とは、カフ50に設けられた空気袋内の圧力である。圧力センサ25はカフ圧検出部の一例である。発振回路26は、圧力センサ25から取得した圧力検出信号を周波数信号に変換し、制御部40に出力する。カフ50内の圧力は、この周波数の変化から算出される。
【0034】
スローリークバルブ27は、カフ50に溜められた空気を徐々に排気する。駆動回路28は、制御部40から与えられる制御信号に基づいて、スローリークバルブ27を開閉させる。
【0035】
また、カフ50は触覚アレイセンサ31を有し、本体20は触覚検出回路32を有する。触覚検出回路32は、触覚アレイセンサ31の静電容量の変化を検出して圧力に換算することにより、被測定者の測定部位とカフ50の間の接触圧を検出する。触覚アレイセンサ31と触覚検出回路32は、接触圧検出部の一例である。
【0036】
制御部40は、CPUや、RAM、ROMなどを含んだ制御回路として構成される。制御部40は、機能ブロックとして、メモリ41と、加圧制御部42と、血圧値測定部43と、排気制御部44と、表示制御部45と、圧力分布取得部46と、圧力変化解析部47と、測定可否判定部48とを有する。
【0037】
メモリ41は、血圧値測定部43が測定した被測定者の測定値を記憶する。加圧制御部42は、圧力センサ25により検出される圧力が所定の加圧上限圧力になるまでカフ50を加圧するように、駆動回路24を制御する。
【0038】
血圧値測定部43は、発振回路26が生成した周波数信号の周波数の変化から検出される各脈波の開始圧力値やその測定時間などのデータに基づき、例えばオシロメトリック方式を利用して、被測定者の最高血圧値と最低血圧値を測定する。
【0039】
排気制御部44は、スローリークバルブ27によるカフ50内の空気の排気を制御する。表示制御部45は、血圧値測定部43により測定された最高・最低血圧値や、測定可否判定部48により判定された測定可否をユーザに報知するためのメッセージを表示部21に表示させる。
【0040】
圧力分布取得部46は、触覚検出回路32が検出した、被測定者の測定部位とカフ50との接触面における接触圧の分布を取得する。カフ50を加圧したときに検出されるこの接触圧の分布は、カフ50が巻かれている素材により異なる。完全に均一なものに対して加圧するときは接触圧分布も一様になるが、衣服の袖の上にカフ50が巻かれて加圧された場合は、その衣服の素材により接触圧分布が異なる。
【0041】
圧力変化解析部47は、
図6を参照して次に説明する3つの量に着目して、圧力分布取得部46が取得した接触圧分布のばらつきの程度を定量化する。
【0042】
図6は、カフ50が加圧されるときに各触覚センサにより検出される接触圧の時間変化を模式的に示したグラフである。触覚アレイセンサ31を構成する触覚センサごとに静電容量変化の出力が異なることから、このグラフは、各触覚センサの位置により接触圧がある程度の幅をもって変化することを示している。
【0043】
圧力変化解析部47が着目する1つ目の量は、加圧を開始する前の、単に測定部位にカフ50を巻いた状態のときに生じる圧力差ΔP1である。ここでいう圧力差とは、42個の触覚センサが検出した接触圧の最大値と最小値の差である。例えばセーターなどの毛糸類の上からカフ50を巻いた場合は、無加圧時でも毛足により接触圧のばらつきが大きくなるため、圧力差ΔP1は大きくなる。
【0044】
圧力変化解析部47が着目する2つ目の量は、加圧時の圧力変化の時間差ΔTである。この時間差ΔTは、加圧制御部42が加圧上限圧力まで加圧して加圧を止めたときに、それに追従して42個の触覚センサでの接触圧がそれぞれ最大になる時点のうちで、最も早い時点と最も遅い時点との時間差である。弾性が大きい素材の上からカフ50を巻いた場合は、追従性が悪く位置によって加圧の影響の伝わりやすさが異なるため、この時間差ΔTは大きくなる。
【0045】
圧力変化解析部47が着目する3つ目の量は、カフ50が加圧上限圧力まで加圧された後に生じる圧力差ΔP2である。この圧力差も、ΔP1と同様に、42個の触覚センサが検出した接触圧の最大値と最小値の差である。特に厚みのある素材では、加圧完了時の圧力差ΔP2は大きくなる。
【0046】
測定可否判定部48は、圧力変化解析部47が定量化した接触圧分布のばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2に応じて、血圧測定に影響を及ぼす衣服で測定部位が覆われていないかどうかを判定する。測定可否判定部48は、この判定のためのばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2のしきい値を、一例として、それぞれ1000pF,5秒,3000pFとする。なお、触覚アレイセンサ31により検出される接触圧は触覚センサの静電容量とともに大きくなるため、便宜的に圧力を静電容量の単位pF(ピコファラド)で表す。
【0047】
測定可否判定部48は、ΔP1≧1000pF、ΔT≧5秒かつΔP2≧3000pFであるときに、血圧測定に影響を及ぼす衣服を被測定者が測定部位の上に着用しており、正確な血圧測定ができないと判定する。測定可否判定部48は、それ以外のとき、すなわち、ΔP1<1000pF、ΔT<5秒またはΔP2<3000pFであるときには、被測定者が測定部位の上に衣服を着用していたとしても、その衣服を着用したままで血圧測定が可能であると判定する。測定可否判定部48は、判定部の一例である。
【0048】
次に、血圧計10による血圧測定の動作について説明する。
図7は、血圧計10による血圧測定の動作例を示したフローチャートである。
図7に示す処理フローは、制御部40のROMに予め記録されているプログラムに従って、制御部40のCPUが実行する。
【0049】
血圧測定に際して、被測定者は、カフ50を手首に装着し、操作部22のスイッチを用いて、被測定者を選択した上で測定開始を指示する。そしてまず、排気制御部44が、スローリークバルブ27を閉じて、カフ50を加圧できる状態とする(S11)。
【0050】
加圧前に、圧力変化解析部47は、触覚アレイセンサ31からの出力に基づき、無加圧時の圧力差ΔP1を定量化する(S12)。次に、加圧制御部42によって駆動回路24を制御し、カフ50内に空気を送り込むことによって、カフ50内を加圧上限圧力まで加圧する(S13)。加圧が終了したときに、圧力変化解析部47は、圧力変化の時間差ΔTを定量化する(S14)。さらに圧力変化解析部47は、加圧完了時の圧力差ΔP2を定量化する(S15)。
【0051】
そして測定可否判定部48は、圧力変化解析部47により得られたばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2のそれぞれがしきい値未満かどうかを判定する(S16)。ΔP1,ΔT,ΔP2のいずれかがしきい値を超えている場合(S16でNo)は、表示制御部45が「衣服のため正確な測定ができません」というメッセージを表示部21に表示する(S17)。そして、排気制御部44によりスローリークバルブ27を開いてカフ50を減圧しながら、血圧値測定部43が血圧を測定し(S18)、S21に進む。
【0052】
一方、ばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2がすべてしきい値未満である場合(S16でYes)は、上記のメッセージを表示せずに、カフ50を減圧しながら、血圧値測定部43が血圧を測定する(S19)。この場合、制御部40は、測定値をメモリ41に記憶する(S20)。
【0053】
血圧測定が終了すると、表示制御部45が、表示部21を制御して測定結果を表示する(S21)。また、排気制御部44がスローリークバルブ27を開いて、カフ50内の空気を急速に排気する(S22)。以上で、血圧計10による血圧測定の動作は終了する。
【0054】
接触圧分布のばらつき量に関する上記のしきい値の根拠について、次に説明する。上記のしきい値は、被験者10人に対し裸腕でばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2を測定する実験を行った結果に基づいて定めたものである。この実験では、触覚アレイセンサとして、
図4(A)を用いて説明したものを使用している。被験者10人に対して、裸腕にカフを巻いて0〜200mmHgまで加圧したときの、42個の触覚センサからの出力のばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2は、
図8に示したようになる。
【0055】
図示したように、被験者10人についてのばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2の値は、それぞれ、300〜710pF、1.8〜3.8秒、1520〜2480pFの範囲にある。この結果から、血圧測定時に検出される各ばらつき量がこれらの範囲内であれば、衣服の影響があっても血圧測定ができるが、各ばらつき量がこれらの範囲を超えた場合には、衣服の影響により測定値の精度が担保できなくなると言える。したがって、ばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2が、上記の実験結果と大きく乖離しない、それぞれ1000pF未満、5秒未満、3000pF未満であれば、衣服の上にカフを巻いて測定したとしても、裸腕で測定したときと同等の精度が得られると言える。このような理由から、血圧計10では、各ばらつき量のしきい値を上記のように設定している。
【0056】
なお、測定可否判定部48は、時間差ΔTだけに基づいて測定可否を判定してもよいし、時間差ΔTと圧力差ΔP1の2つ、または時間差ΔTと圧力差ΔP2の2つに基づいて測定可否を判定してもよい。ただし、時間差ΔTは、しきい値内にないと血圧測定ができないため、必須の判定基準である。時間差ΔTが大きくなると、脈の振動が変形して血圧計10に伝搬されるため、血圧値を決定できなくなるおそれがある。一方、圧力差ΔP1,ΔP2については、しきい値内から外れても血圧測定はできるが、測定値の誤差が大きくなる。したがって、測定可否の判定は、必ずしもすべてのばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2について行わなくてもよいが、測定精度の観点から、3つのばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2のすべてについて行うことが好ましい。
【0057】
図9(A)〜
図9(C)は、ある被験者について、それぞれ、シャツ、トレーナー、セーターの袖の上からカフ50を巻いて、接触圧分布の時間変化を測定した結果を示したグラフである。各グラフの横軸は時間(秒)、縦軸は圧力(pF)である。上記と同様に、圧力を触覚センサの静電容量として表示している。各グラフでは、触覚アレイセンサ31を構成する各触覚センサの出力の時間変化を、すべて重ねて表示している。図中、破線で囲んだ部分で生じている、触覚センサごとの出力が立ち上がる時間差が、ΔTに相当する。また、矢印で示した圧力差が、ΔP2に相当する。また、各触覚センサの出力が立ち上がる前(破線で囲んだ部分より左側)の圧力差が、ΔP1に相当する。
【0058】
図9(A)は、シャツの上からカフ50を巻いて測定した場合のグラフである。この場合、圧力変化解析部47により定量化されるばらつき量は、ΔP1=600pF、ΔT=3秒、ΔP2=2400pFである。このシャツの場合、接触圧分布が比較的均一であり、カフ50の圧力変化に対して比較的一様に追従していることから、血圧測定に影響しない衣服素材であると言える。ばらつき量はすべて上記のしきい値内であるため、この場合、測定可否判定部48は血圧測定が可能であると判定する。
【0059】
なお、裸腕(皮膚)の上に直接カフ50を巻いて測定した場合も、
図9(A)と同様の結果になる。実際には、皮膚の厚み(脂肪)が不均一であることに起因して、衣服を介さない場合であっても、接触圧分布には多少のばらつきが生じる。
【0060】
図9(B)は、トレーナーの上からカフ50を巻いて測定した場合のグラフである。この場合、圧力変化解析部47により定量化されるばらつき量は、ΔP1=600pF、ΔT=12秒、ΔP2=3400pFである。このトレーナーの場合、接触圧のばらつきが大きく、カフ50の加圧に伴い接触圧が変化する際にダンピングが生じ、触覚センサ間での立ち上がりのばらつきが大きくなる。これらのことから、このトレーナーは血圧測定に影響する衣服素材であると言える。時間差ΔTと圧力差ΔP2が上記のしきい値を超えているため、この場合、測定可否判定部48は正確な血圧測定ができないと判定する。
【0061】
図9(C)は、セーターの上からカフ50を巻いて測定した場合のグラフである。この場合、圧力変化解析部47により定量化されるばらつき量は、ΔP1=1800pF、ΔT=26秒、ΔP2=4000pFである。このセーターの場合、接触圧のばらつきが大きく、かつ、カフ50の加圧過程での遅延のばらつき(時間差ΔT)が大きくなることから、血圧測定に影響する衣服素材であると言える。すべてのばらつき量ΔP1,ΔT,ΔP2がしきい値を超えているため、この場合、測定可否判定部48は正確な血圧測定ができないと判定する。
【0062】
ところで、血圧測定に影響を及ぼす衣服で測定部位が覆われているときの不正確な測定値が記憶されると、メモリ41に記憶されている過去の測定値をユーザが確認するときに、血圧値の変動を正しくとらえられなくなるおそれがある。そこで、
図7のフローのように、血圧計10は、血圧測定が可能であると測定可否判定部48が判定したときだけ、測定値をメモリ41に記憶するとよい。外部のデータ収集端末に血圧計10の測定値を記憶する場合も同様に、血圧測定が可能であると測定可否判定部48が判定したときだけ、測定値を記憶するとよい。
【0063】
なお、
図7のフローでは、正確な血圧測定ができないと判定されたときでも血圧値測定部43が血圧を測定する(S18)が、測定不可と判定されたときは血圧測定を中止してもよい。また、正確な血圧測定ができないと判定されたときには、その旨のメッセージを表示部21に表示することに代えて、またはそれに加えて、その旨を音声ガイダンスにより被測定者に報知してもよい。
【0064】
また、上記では、触覚アレイセンサ31として、静電容量の変化に応じて接触圧を検出するものを用いた例を説明したが、触覚アレイセンサ31は他の種類のものでもよい。例えば、触覚アレイセンサ31として、接触抵抗の変化や、光の反射量の変化を利用して接触圧を検出する触覚センサが多数配列したものを使用してもよい。
【0065】
また、血圧計10での血圧測定方法は、被測定者の測定部位にカフを固定し、カフを加圧してから減圧する過程で血圧を測定するものであればよく、オシロメトリック方式には限定されない。