(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自律的に移動する自律移動モードと、使用者による引き回しに対して助勢するパワーアシストモードのいずれかにより前記移動機構を制御する制御部を備える請求項1または2に記載の回診支援ロボット。
前記医療データへのアクセスが許可されている期間に前記医療データを表示し、アクセスが禁止されている期間に擬人化された表情を表示する表示部を備える請求項1から7のいずれか1項に記載の回診支援ロボット。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本実施形態に係る回診支援ロボット100の外観斜視図である。回診支援ロボット100は、病院等の医療施設内を移動して、医師、看護師の回診を支援するロボットである。本実施形態においては、小学生の身長程度の高さを想定している。
【0010】
従来から知られた遠隔操作型の回診支援ロボットでは、医師に寄り添った物資搬送、診療現場での直感的な移動操作、ロボットと協調した医療データの記録を行うことは困難であった。また、医療施設にはロボットを利用する医師、看護師および診療行為の対象となる患者以外にも、患者家族、訪問者など不特定多数の人物が行き来するので、医療データの気密性確保が困難であった。また、人間が利用する空間をロボットが共用するので、人間に心理的な圧迫を与えない動作が要求されるが、このような動作が十分に考慮されたロボットはこれまで存在していなかった。本実施形態における回診支援ロボット100は、以上のような課題に応えるべく、さまざまな機能を備える。
【0011】
回診支援ロボット100は、技術要素として駆動搬送機能、表情生成機能、診療支援機能などを備えている。特に診療支援機能には、高度な医療データ管理システムが組み込まれているので、情報管理上の安全性が十分に確保されている。このような各機能の具体的な構成について順を追って説明する。
【0012】
まず、
図1を用いて外観に現われる特徴的な構成について説明する。回診支援ロボット100は、頭部110、胴部120および脚部130の3つの部位から構成される。
【0013】
頭部110は、回診に必要な患者の情報を表示したり、使用者の認証を行ったりするユーザインタフェースを提供する。具体的には、例えば液晶パネルによって構成されるディスプレイ111、ディスプレイ111に重畳して設けられ、使用者の入力を受け付けるタッチパネル112、使用者の指紋情報を取得する指紋センサ113を備える。
【0014】
後述するように、ディスプレイ111には、患者の情報の他にも、顔表情パターンなどが表示される。タッチパネル112は、使用者の接触を検知して、例えばメニュー画面がディスプレイ111に表示された場合に使用者の選択を受け付けたり、テキストの入力を受け付けたりする。指紋センサ113は、事前に登録した使用者に限って使用を許可するための認証デバイスである。回診支援ロボット100を使用したい使用者は、事前に登録を済ませてある指先を指紋センサ113に載せ、認証処理を実行させることにより使用許可を得る。なお、使用許可は、本実施形態のように指紋認証に限らず、さまざまな態様を採用し得る。生体情報を利用するのであれば、虹彩認証、静脈認証等を採用し得る。また、生体情報意外にも、カードキーによる認証、パスワード入力による認証等であっても良い。
【0015】
頭部110は、さらに、アーム116、撮像部117および照明部118を備える。アーム116は、先端に撮像部117と照明部118を支持している。アーム116は、図示されるような折りたたまれた状態から、頭部110から離れる方向に伸延する。特に撮像部117と照明部118を支持する先端近傍はフレキシブルアームで構成されており、例えば医師が患者の特定箇所を撮影したいときに、撮像部117を任意の姿勢に保つことができる。
【0016】
撮像部117は、静止画および動画の撮影が可能であり、例えば患部を定期的に撮影した画像データは、経過観察に利用される。画像データは、患者の医療データの一部として記憶される。照明部118は、患部など患者の観察箇所を照らすときに用いられる。なお、本実施形態においては、医師が手動でアーム116を伸延させることを想定しているが、アーム116をロボットアームで構成することにより、他のさまざまな機能と連携して、自動的に伸延させても良い。例えば、患者の傍らに到着したら、アーム116が自動的に伸延し、照明部118が照明を開始するように制御することができる。
【0017】
頭部110は、さらに、スピーカー119を備える。スピーカー119は、例えば顔表情パターンに連動して音声を出力する。これにより、音声的にも使用者に安心感、信頼感を与えることができる。
【0018】
胴部120は、回診時に使用される各種用具を収容する空間を提供する。具体的には、引出し式の収納ボックス121が設けられており、この中には、患者ごとに分類された薬剤、患者を処置する器具等が収納されている。図では一つの収納ボックス121として表しているが、複数設けて患者ごとに割り当てても良く、この他にも、医療廃棄物を一時的に収める廃棄ボックスなどを設けても良い。本実施形態においては、後述するように、収納ボックス121は、収納機構によって自動制御されることにより、胴部120から引き出された引出状態と、胴部120へ収められた収容状態とをとり得る。つまり、収納ボックス121は、制御部によって開閉が制御されており、使用が許可されていない者は開くことができない。このように構成することにより、薬剤等の安全管理を図ることができる。
【0019】
胴部120は、さらに、アシストハンドル122を備える。アシストハンドル122は、胴部120を環囲する円環の手すり形状を成し、胴部120から120度間隔で放射状に伸びるハンドル支持部123によって支持されている。使用者は、アシストハンドル122を押したり引いたりすることによって回診支援ロボット100を手動で移動させる、つまり引き回すことができる。このとき、回診支援ロボット100は、使用者が少ない力で引き回せるように、使用者が移動させようとしている方向を検出してその方向への移動に対して助勢する。具体的には後に詳述する。
【0020】
脚部130は、移動に関する機構を収容する空間を提供する。具体的には、主にキャスタ駆動輪131および距離センサ132を収容している。
【0021】
キャスタ駆動輪131は、椅子などに取り付けられているキャスタに類似し、モータの駆動力が差動歯車機構により伝達されて全方向移動を実現する駆動輪である。具体的には、差動駆動操舵機構(Differential Drive Steering System)を採用する。キャスタ駆動輪131は、脚部130に4つ設けられており、これらが協調制御されることにより、回診支援ロボット100は、いずれの方向へも移動することができる。キャスタ駆動輪131は、空気タイヤが採用されており、段差などがある環境においても高い搬送能力を発揮する。
【0022】
距離センサ132は、例えばレーザ測距センサであり、360度の全方向が検出できるように、脚部130の周囲に複数設置されている。距離センサ132は、傾斜して下方に向けられた床面観測用センサと、水平方向に向けられた前方観察用センサとが組み合わされている。床面観察用センサにより床面の段差、階段などの障害物を検出する。前方観察用センサにより、後述する追従者、壁面などの周辺環境を検出する。なお、障害物の検出、周辺環境の検出については、距離センサ132を利用するに限らず、他の外界検出センサ、例えば超音波センサ、撮像センサを利用しても良いし、これらを組み合わせても良い。
【0023】
なお、上述のように、回診支援ロボット100の高さは小学生の身長程度の高さを想定しているので、使用者にとって、タッチパネル112、アシストハンドル122等の操作が容易である。また、頭部110の角度を調整できるように構成しても良い。この場合、使用者は、ディスプレイ111の角度を自身の身長、使用状況等に合せて調整して回診データを操作することができる。
【0024】
また、胴部120に設けた上述の収納ボックス121の他にも、頭部110を開くことにより物品の出し入れを行える収納ボックスを設けても良い。このように、種類の異なる収納ボックスを設けることにより、例えば、医療器具を収納する空間と、医療廃棄物を収容する空間を分離することができる。また、頭部110の収容ボックスに、伸縮トレイを装備しても良い。頭部110を開くことにより伸縮トレイが展開されるように構成すれば、使用者は、物品取り出し時の一時的な物品置き場として利用することができる。
【0025】
次に、回診支援ロボット100の使用状況について説明する。回診支援ロボット100は、医師および看護師が医局、ナースステーション等の拠点から出発し、入院患者の居室を順次訪れて患者を診察、処置した後に、再び拠点に戻る回診を主に支援する。
図2は、医師810が、回診支援ロボット100を伴った回診の様子を示す図である。
【0026】
図2(a)は、回診支援ロボット100が医師810を認識して自律的に追従する追従モードによる移動の様子を示す。医師810は、例えば医局で回診支援ロボット100に自身を特定使用者として認識させる認識作業を行い、その後自身に追従させる。回診支援ロボット100は、撮像部117から取得される画像データ解析して医師810を捕捉する。同時に距離センサ132の出力を用いて障害物を検出しつつ医師810までの距離を取得する。回診支援ロボット100は、これらの情報を用いて、一定の距離を維持しながら医師810を追従する。
【0027】
もちろん、医師810の認識方法はさまざまな態様を採り得る。例えば、距離センサ132の情報のみで認識、追従を実行することもできる。この場合、医師810の足を認識する。具体的には、距離センサ132は、測距可能範囲内に存在する2本一組の円筒形状物体を人物の足と判断し、判断した足の中で一番近いものを医師810の足として認識する。回診支援ロボット100は、この認識した足を継続して観察することにより追従を実現する。つまり、認識した足は、距離センサ132の測距可能範囲内において障害物と分離して管理される。逆に、認識した足以外の検出物体は、障害物として回避動作等の対象となる。
【0028】
追従対象者である医師810が距離センサ132の測距可能範囲内に入った場合には、回診支援ロボット100は、回避行動をせず、その場で徐行、停止する。したがって、医師810は、回診支援ロボット100に近づいてタッチパネル112を操作したり、アシストハンドル122を把持したりすることができる。なお、停止動作は、予め設定された速度プロファイルに従って、徐行の後に停止するように実行される。これにより、急停止による不測の事故を防ぐことができる。
【0029】
回診支援ロボット100は、医師810を追従するにあたり、取得した情報を用いて進行する経路を決定し、その経路を進むようにキャスタ駆動輪131を回転させる。より具体的には、回診支援ロボット100は、医師810の現在の移動速度と移動方向から、次のデータ取得時における位置を予測して移動経路を決定する。このとき、回診支援ロボット100は、ディスプレイ111に顔表情パターンを表示させる。顔表情パターンは、詳しくは後述するが、回診支援ロボット100の状況に合わせて切り替えられる複数のパターンが用意されている。回診支援ロボット100が移動している状況においては、顔表情パターンを表示させることにより、医療データが表示されることを回避する。換言すると、回診支援ロボット100は、少なくともキャスタ駆動輪131が駆動されている期間において、医療データの表示およびアクセスを禁止する。したがって、回診支援ロボット100は、医師810から少し離れて移動している状況においても、第三者が不意に接近して医療データにアクセスすることを防ぐことができる。
【0030】
また、医師810が急遽他の現場へ駆けつけるような状況においては、回診支援ロボット100は、医師810を見失うこともあり得る。回診支援ロボット100は、追従対象者である医師810を見失った場合には、キャスタ駆動輪131の駆動を停止してその場に留まる。この場合、回診支援ロボット100は、キャスタ駆動輪131の駆動を停止しているものの、医療データの表示およびアクセスを継続して禁止する。これにより、医療施設内で回診支援ロボット100が単独で放置されたとしても、第三者が回診支援ロボット100に記憶された医療データにアクセスすることを防ぐことができる。
【0031】
図2(b)は、医師810が回診支援ロボット100を引き回す場合に、小さな力で移動を可能にするアシストモードによる移動の様子を示す。アシストモードも追従モードと共に移動モードの一つであり、キャスタ駆動輪131が駆動されるので、ディスプレイ111には顔表情パターンが表示される。そして、回診支援ロボット100は、医療データの表示およびアクセスを禁止する。
【0032】
図に示す状況は、医師810がアシストハンドル122を把持して、回診支援ロボット100を押す状況である。上述のように、アシストハンドル122は、ハンドル支持部123に支持されている。ハンドル支持部123には後述する力覚センサが装着されており、力覚センサは、アシストハンドル122に外力が与えられると、その方向を検出する。回診支援ロボット100は、医師810が押す方向、あるいは引く方向に進むように、キャスタ駆動輪131を向けて回転させる。すなわち、医師810の引き回しに対して助勢する、いわゆるパワーアシストを実行する。なお、アシストモード中であっても、距離センサ132を作動させ、進行方向に移動を妨げる障害物を発見した場合には、医師810の引き回しに反しても、停止あるいは回避を行うようにキャスタ駆動輪131を制御しても良い。
【0033】
なお、アシストハンドル122の外力検知は、並進外力に限らず回転外力も検知できる。したがって、パワーアシストは、キャスタ駆動輪131の全方位移動性能と組み合わせることにより、並進移動だけではなく切り返しの必要ない旋回移動も実現できる。なお、アシストハンドル122に閾値以上の外力がかかった場合に、ディスプレイ111に痛みを示す顔表情パターンを示してパワーアシストを停止すれば、過負荷による力覚センサの破損を防ぐとともに、使用者に過負荷である状況を直感的に提示できる。
【0034】
図2(c)は、医師810が患者820を処置するにあたり、回診支援ロボット100が処置の支援を行う処置モードによる動作の様子を示す。医師810は、指紋センサ113に自らの指先を置いて認証を行わせ、処置モードに移行させる。回診支援ロボット100は、処置モードに移行すると、医師810からの入力を受け付け、ディスプレイ111に患者820の医療データを表示する。すなわち、回診支援ロボット100は、処置モードに移行してはじめて、記録された医療データへのアクセスおよび表示を許可する。
【0035】
回診支援ロボット100は、患者820に対応する選択された医療データの内容に即して、収納ボックス121の開閉を制御する。例えば、選択された医療データに、回診による処置時に投薬が必要であるとの情報が含まれていれば、投薬すべき薬剤が収納された収納ボックス121が引出状態となるように駆動される。
【0036】
また、図示するように、医師810によりアーム116が引き伸され、撮像部117および照明部118が患者820に近づけられた場合には、回診支援ロボット100は、撮影および照明の準備を実行する。例えば、撮影の準備として、スルー画像をディスプレイ111に表示させる。そして、医師810の入力に応じて、撮影、照明を実行する。
【0037】
次に、システム構成について説明する。
図3は、回診支援ロボット100を含むシステム構成を表すブロック図である。特に、回診支援ロボット100の全体を統括制御するCPU200が直接的に制御する機能要素を主に示す。なお、外観に現われて既に説明した幾つかの機能要素については、同一の符番を付している。
【0038】
ディスプレイ111は、CPU200によって生成される、あるいは記憶部210から読み出される表示画面を表示する。タッチパネル112は、ディスプレイ111に表示される表示画面に連動して、使用者の接触位置を検出してCPU200に出力する。指紋センサ113は、使用者の指紋を画像として読み取りCPU200へ出力する。CPU200は、取得した画像を処理して特徴点を抽出し、指紋データを生成する。使用者とのコミュニケーションに関するこれらの各機能要素は、CPU200がUI制御部221として制御および演算を実行することにより機能する。
【0039】
撮像部117は、外界のシーンを画像信号として取得し、CPU200へ出力する。CPU200は、移動モード時においては、駆動制御部222として機能し、画像を解析して障害物検知および追従者捕捉を行う。処置モード時においては、データ管理部223として機能し、生成した画像データを患者の医療データにリンクする。照明部118は、例えばタッチパネル112への入力を受けて、CPU200によりオン、オフが切り替えられる。
【0040】
収納機構206は、収納ボックス121を収容状態から引出状態へ、および引出状態から収容状態へ変位させる開閉アクチュエータ、および当該開閉アクチュエータを駆動する駆動回路を含む。物品管理部224として機能するCPU200は、いずれの収納ボックス121に如何なる物品が収納されているかを管理すると共に、収納機構206に対して引出信号、収容信号を与えることにより、収納ボックス121の自動開閉を実現する。物品管理部224は、上述のように処置モードにおいて、患者の医療データに連動して収納ボックス121を開くか否か、開くのであればいずれの収納ボックス121を開くのかを決定する。
【0041】
移動機構207は、上述のキャスタ駆動輪131、キャスタ駆動輪131を進行方向へ向けて回転させるモータ、および当該モータを駆動する駆動回路を含む。CPU200は、駆動制御部222として移動機構207を制御することにより、追従モードにおける追従、アシストモードにおける助勢等を実現する。なお、本実施形態においては、移動機構207としてキャスタ駆動輪131を用いた車輪走行を採用するが、これに限らず、クローラー、二足歩行等さまざまな移動機構を採用し得る。
【0042】
力覚センサ208は、例えば圧電素子により構成される。本実施形態においては、圧電素子は、それぞれのハンドル支持部123に貼着されている。アシストモードにおいて、駆動制御部222は、それぞれの圧電素子から出力を受けて、いずれの方向へ押されている、あるいは引かれているかを演算する。そして、演算結果に従ってパワーアシストを実行する。力覚センサ208としては、圧電素子の他にも、外力の作用方向を検出できる他のセンサであっても良い。例えば歪みゲージを採用し得る。また、方向のみならず、作用力の大きさを検出できるのであれば、駆動制御部222は、作用力の大きさに応じて助勢する力の大きさを変更しても良い。例えば、予め設定された閾値までは、キャスタ駆動輪131を駆動する駆動トルクを作用力に比例させ、閾値を超えた場合は、駆動トルクを一定にする、制限付き比例制御を行っても良い。
【0043】
距離センサ132は、駆動制御部222の制御により、上述のように障害物、追従者、周辺環境を検出する。駆動制御部222は、距離センサ132の出力を受けて、例えば段差の大きさを算出し、キャスタ駆動輪131が乗り越えられるか否かを判断する。
【0044】
記憶部210は、患者の医療データを記憶する、例えばHDDなどの比較的大容量のストレージを含む。また、CPU200が実行する各種制御プログラム、制御パラメータ、表示画面データ等を記憶する、例えばEEPROMなどの比較的高速の読み書きが可能な不揮発性メモリを含む。特に、患者の医療データについては、CPU200がデータ管理部223として厳重に管理を行う。
【0045】
通信部211は、無線LAN、有線LAN、Bluetooth(登録商標)などの通信デバイスにより構成され、サーバ300とデータの交信を行う。特に、患者の医療データについては、データ管理部223が、サーバ300に対する交信を厳しく制限する。
【0046】
ここで、データ管理部223による制御について説明する。データ管理部223は、駆動制御部222から移動機構207の駆動情報を受け取り、移動機構207が駆動していると判断し得る間は、使用者に対して記憶部210に記憶された医療データへのアクセスを禁止する。ここでいう「使用者」は、予め使用の許可を得ていない未認証の使用者に限らず、医師など認証済みの特定使用者も含む。つまり、移動モードにおいて移動している間は、医療データの保護を優先して、一律に医療データのアクセスを禁止する。このような制御により、追従モードのように医師などの特定使用者が回診支援ロボット100から離れている状況においても、医療データの第三者への漏洩を防ぐことができる。
【0047】
データ管理部223は、駆動制御部222が移動機構207の駆動を停止しており、かつ、UI制御部221が使用者の認証を終えたと判断した場合に、医療データへのアクセスを許可する。つまり、使用者は、移動モードから抜けて回診支援ロボット100を停止させ、使用者認証を受けてはじめて医療データへアクセスすることができる。データ管理部223は、認証済みである特定使用者からのアクセス要求に応じて、指定された医療データを記憶部210から読み出し、ディスプレイ111へ表示する。さらには、当該医療データの変更、削除、他のデータの付加などを受け付ける。
【0048】
駆動制御部222は、追従モードにおいて特定使用者を見失うなどして追従できなくなった場合には、移動機構207の駆動を停止する。このとき、データ管理部223は、移動機構207の駆動が停止していても、医療データへのアクセス禁止を継続する。
【0049】
データ管理部223は、使用者からの医療データへのアクセスを管理するに限らず、サーバ300との間における医療データの交信についても管理して良い。具体的には、データ管理部223は、駆動制御部222から移動機構207の駆動情報を受け取り、移動機構207が駆動していると判断し得る間は、記憶部210に記憶された医療データをサーバ300と交信することを禁止する。すなわち、通信部211の通信機能を制限することにより、医療データをサーバ300へ送信させない。また、データ管理部223は、通信部211を介して医療データを取得することも禁止して良い。このような制御を行う場合は、医療データの交信を、ナースステーション等の拠点において事前に完了させたり、処置モードにおいてオンデマンドにより実行させたりすると良い。このように、サーバ300に代表される外部装置との交信についても制限することにより、より強固に医療データの漏洩を防ぐことができる。
【0050】
次に、ディスプレイ111における表示画面の遷移について説明する。
図4は、代表的な表示画面を示して表示画面の遷移を説明する図である。各表示画面は記憶部210に記憶されており、使用者の指示および状況の変化に応じて、UI制御部221が記憶部210から対応する表示画面を適宜読み出してディスプレイ111に表示する。
【0051】
回診支援ロボット100が起動されると、UI制御部221は、認証画面901を表示する。認証画面901は、使用を許可する特定使用者を定める認証処理の一環として表示される画面である。認証画面901は、指紋センサに指をのせることを使用者に要求する。
【0052】
認証処理が完了すると、UI制御部221は、メニュー画面902を表示する。メニュー画面902は、特定使用者に具体的な指示の入力を要求する画面である。ここでは、メニュー項目として、追従モード、アシストモードおよび処置モードが示されており、特定使用者は、タッチパネル112を介して一つを選択できる。
【0053】
追従モードおよびアシストモードのいずれかが選択された場合は、顔表情パターンの表示画面へ遷移する。追従モードおよびアシストモードはいずれも移動モードに含まれ、回診支援ロボット100が移動中には、UI制御部221は、駆動制御部222と連携して、さまざまな顔表情パターンをディスプレイ111に表示する。
【0054】
顔表情パターンは、ロボット頭部に立体的な印象を与える、使用者側の心理的な安心感を向上させるという心的効果以外にも、追従者を追いかける視線、見失ったときの表情などは、使用者が回診支援ロボット100の状態を把握する手段としての効果も発揮する。
【0055】
具体的には、第1表情画面905は、特定の方向を注視する様子を表し、例えば追従者を認識している方向、パワーアシストにより進む方向、接近してくる第三者を認識した方向などを示す場合に表示される。例えば、追従者は、自身が移動しながら、第1表情画面905の視線変化を観察することにより、自身が認識対象であり、かつ、連続的に認識されていることを直感的に知ることができる。
【0056】
また、追従中に第三者が接近してきた場合には、第1表情画面905は、追従対象者から接近者に視線を移動し、短時間で追従対象者に視線を戻すことにより、接近者自身が回診支援ロボット100に正しく認識されていることを知ることができる。これにより、第三者は、安心してロボットの周囲を移動することができる。また、アシストモードでは、特定使用者が、アシストハンドル122を押しながら第1表情画面905の視線変化を観察することにより、移動方向を視覚的に確認できる。これにより、回診支援ロボット100の移動が仮に微小であったとしても、移動指令が実行されていることを確認できる。
【0057】
第2表情画面906は、喜ぶ様子を表し、例えば障害物を回避できた場合、遠くにいた追従者が近づいた場合に表示される。これにより、使用者等は、回診支援ロボット100の移動、環境認識等が好ましい状況に変化したことを知ることができる。
【0058】
また、第3表情画面907は、困った様子を表し、例えば追従モードにおいて追従者を見失った場合、アシストモードにおいて閾値以上の外力が加えられた場合に表示される。
【0059】
もちろん上記以外のさまざまな顔表情パターンを用意しても良い。例えば、瞬きする顔表情パターンは、回診支援ロボット100が正常に動作していることを表現し得る。また、目を閉じる顔表情パターンは、回診支援ロボット100のシャットダウン時、充電時等の状態を表現し得る。
【0060】
なお、本実施形態においては、顔表情パターンは、眼の形状変化と運動により表情を表現している。具体的には、顔と眼の3次元モデルからシェーディング処理により生成されたパターンを平面上に投影して描かれている。また、その動的変化として、人間の瞬きの生理的な頻度モデルに基づいた眼球形状の変化、移動をモデルとしている。
【0061】
追従モードおよびアシストモードを終える場合には、認証画面901へ遷移する。
【0062】
メニュー画面902で処置モードが選択された場合は、患者の医療データを表示する表示画面へ遷移する。処置モードでは、UI制御部221は、まず患者検索画面903を表示する。患者検索画面903は、例えば図示するように入院中の患者のIDの中から、これから処置を行う患者のIDを選択させる画面である。
【0063】
特定のIDが選択されると、UI制御部221は、その患者に関する情報を提供する画面を表示する。例えば、バイタル画面904は、これから処置を行う処置結果として体温、脈拍等の入力を受け付ける画面である。
【0064】
続けて他の患者の処置を行う指示を受けた場合には、UI制御部221は、患者検索画面903を再び表示する。追従モードおよびアシストモードのいずれかへ移行する指示を受けた場合は、顔表情パターンの表示画面へ遷移する。
【0065】
図5は、回診支援ロボット100の処理フローである。フローは、医局、ナースステーション等の拠点において回診支援ロボット100が起動された時点から開始する。
【0066】
データ管理部223は、ステップS101において、サーバ300とデータの授受を実行する。具体的には、通信部211を介して、これから行う回診の対象患者の医療データをサーバ300から取得して、記憶部210へ記憶する。また、制御プログラムのアップデート等も行う。このとき、データ管理部223は、取得した患者の医療データを参照して、回診時に必要な薬剤、器具等をディスプレイ111に示し、同時に、どの収納ボックス121へ収納すべきかを示す。看護師は、これらの表示に従って、回診の準備を行う。
【0067】
ステップS102へ進み、UI制御部221は、使用者認証を実行する。具体的には、認証画面901をディスプレイ111に表示し、指紋センサ113を用いて特定使用者を決定する。ステップS103では、取得した指紋情報が事前に登録されている指紋情報と一致するかを判断する。一致しない場合にはステップS102へ戻って使用者認証を再度行わせ、一致した場合には当該使用者を特定使用者と認定して、ステップS104へ進む。なお、回診支援ロボット100の使用予定者は、事前に登録作業を行う。この場合、他の装置で登録作業を行って登録情報を作成し、通信部211を介して当該登録情報を記憶部210へ記憶させるように構成しても良い。
【0068】
ステップS104では、UI制御部221は、メニュー画面を表示して特定使用者にモードを選択させる。そして、CPU200は、選択されたモードが処置モードであるか否かを判断する。処置モードであると判断したら、ステップS105へ進み、処置モードでないと判断したらステップS111へ進む。拠点における使用者認証直後であれば、通常は移動モードへ移行するが、ここではまず処置モードから説明する。
【0069】
ステップS105へ進むと、データ管理部223は、医療データへのアクセスを許可する。具体的には、データアクセス許可フラグを1にすることにより、この後の処理において記憶部210の医療データへのアクセスが要求された場合に、そのままアクセスを実行させる。そして、UI制御部221は、ステップS106で、
図4を用いて説明したように、対象患者の情報をディスプレイ111に表示する。
【0070】
ステップS107で、物品管理部224は、対象患者の情報に用具提供に関する情報が含まれているか否かを判断する。含まれていると判断したら、ステップS108へ進み、含まれていないと判断したらステップS109へ進む。
【0071】
ステップS108では、物品管理部224は、収納機構206を作動させて、例えばその患者が必要とする薬剤を取り出せるように収納ボックス121を引出状態に変位させる。物品管理部224は、薬剤が取り出されたことを検知したら、あるいは特定使用者の指示を受け付けて、収納ボックス121を収容状態に変位させる。収納機構206を作動させたらステップS109へ進む。
【0072】
ステップS109では、CPU200は、モードが変更されたか否かを確認する。具体的には、CPU200は、メニュー画面902が呼び出されて他のモードが選択された場合、力覚センサ208がアシストハンドル122への作用力を検出した場合などにモードが変更されたと判断する。モードが変更されたと判断した場合にはステップS111へ進み、変更されていないと判断した場合にはステップS110へ進む。ステップS110では、CPU200は、特定使用者から終了指示を受けたか否かを判断する。終了指示を受けていないと判断した場合には、ステップS106へ戻る。終了指示を受けたと判断した場合には、一連の処理を終了する。
【0073】
ステップS111では、これからいずれかの移動モードへ移行するものとして、データ管理部223は、医療データへのアクセスを禁止する。具体的には、データアクセス許可フラグを0にすることにより、この後の処理において記憶部210の医療データへのアクセスが要求されても、アクセスを拒否する。
【0074】
ステップS112へ進み、UI制御部221は、選択されたモードが追従モードであるか否かを判断する。追従モードであればステップS113へ進み、アシストモードであればステップS119へ進む。
【0075】
ステップS113では、駆動制御部222は、例えば撮像部117を用いて、追従する特定使用者を認識する。例えば、体型、服の色などの情報を複合的に取得して、追従時の情報として活用する。そして、ステップS114で、駆動制御部222は、特定使用者を追従して移動する。追従移動中は、ステップS115で、追従が行えているか否かを確認し、例えば特定追従者を見失った場合には追従不可としてステップS118へ進む。順調に追従が行えている場合には、ステップS116へ進む。
【0076】
ステップS116では、CPU200は、モードが変更されたか否かを確認する。具体的には、CPU200は、メニュー画面902が呼び出されて他のモードが選択された場合、力覚センサ208がアシストハンドル122への作用力を検出した場合などにモードが変更されたと判断する。モードが変更されたと判断した場合にはステップS118へ進み、変更されていないと判断した場合にはステップS117へ進む。ステップS117では、CPU200は、特定使用者から終了指示を受けたか否かを判断する。終了指示を受けていないと判断した場合には、ステップS114へ戻る。終了指示を受けたと判断した場合には、一連の処理を終了する。
【0077】
ステップS118では、駆動制御部222は、移動機構207の駆動を停止し、すなわち回診支援ロボット100を停止させて、ステップS102へ処理を引き渡す。
【0078】
アシストモードとしてステップS112からステップS119へ進むと、駆動制御部222は、力覚センサ208の出力からアシストハンドル122に作用力が加えられたか否かを検出する。作用力が加えられた、すなわちアシストハンドル122が押されたり引かれたりしたと判断した場合には、ステップS120へ進み、駆動制御部222は、その作用力の方向を算出して、算出した方向へのパワーアシストを行う。そして、ステップS119へ戻り、作用力を検出している間はこの動作を繰り返す。
【0079】
ステップS119で、作用力が加えられていないと判断した場合には、ステップS121へ進む。ステップS121では、駆動制御部222は、予め定められた時間が経過したか否かを判断する。経過していないと判断した場合には、ステップS119へ戻る。経過したと判断した場合には、ステップS122へ進む。
【0080】
ステップS122では、CPU200は、モードが変更されたか否かを確認する。具体的には、CPU200は、メニュー画面902が呼び出されて他のモードが選択された場合などにモードが変更されたと判断する。モードが変更されたと判断した場合にはステップS102へ戻り、再び使用者認証から始める。このように、例えば回診支援ロボット100が放置されたような状況において第三者が操作を試みようとしても、認証が確認されない限り動作させないことにより、記憶されている医療データを強固に保護することができる。
【0081】
モードが変更されていないと判断した場合にはステップS123へ進む。ステップS23では、CPU200は、特定使用者から終了指示を受けたか否かを判断する。終了指示を受けていないと判断した場合には、ステップS119へ戻る。終了指示を受けたと判断した場合には、一連の処理を終了する。
【0082】
なお、回診支援ロボット100のさまざまな動作状況をそれぞれモードとして定義しても良い。停止している動作状況を「停止モード」、ステップS101によるデータの授受動作状況を「メンテナンスモード」などのように区別できる。
【0083】
以上説明した本実施形態において移動モードは、追従モードとアシストモードの2つの場合を説明したが、さらに、自律移動モードを含んでも良い。自律移動モードは、付近に特定使用者がいない場合でも、医療施設内の地図情報を参照する等により、医療施設内を自律的に移動するモードである。本実施形態においては、移動中における医療データの保護が高い水準で実現されているので、自律移動モードにおいても上述の処理を同様に実行することにより医療データの漏洩を防ぐことができる。
【0084】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0085】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。