(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホウ素イオンおよび窒素イオンの少なくともいずれかを含む放電プラズマを発生させた空間にて、アルミニウム材の表面に、前記アルミニウム材を加熱した状態で、ホウ素イオンおよび窒素イオンの少なくともいずれかを注入することにより、ホウ素および窒素の少なくともいずれかとアルミニウムとを含む不動態層を前記アルミニウム材の表面から内部に向かって形成する不動態層形成工程と、
炭素イオンを含む放電プラズマを発生させた空間にて、前記不動態層が形成された前記アルミニウム材の表面に、前記アルミニウム材を加熱した状態で、導電性ダイヤモンドライクカーボン層を形成する導電性ダイヤモンドライクカーボン層形成工程と、
を備えた、導電部材の製造方法。
前記不動態層形成工程が、前記アルミニウム材を前記空間に配置し、ホウ素化合物ガスおよび窒素化合物ガスの少なくともいずれかを前記空間に導入した状態で、前記アルミニウム材の少なくとも一方の表面近傍に放電プラズマを発生させ、前記アルミニウム材に負のバイアス電圧を印加することにより、前記アルミニウム材の表面から内部に向かって前記不動態層を形成することを含む、請求項9に記載の導電部材の製造方法。
前記導電性ダイヤモンドライクカーボン層形成工程が、前記アルミニウム材を前記空間に配置し、炭素化合物ガスを前記空間に導入した状態で、前記アルミニウム材の少なくとも一方の表面近傍に放電プラズマを発生させ、前記アルミニウム材に負のバイアス電圧を印加することにより、前記不動態層が形成された前記アルミニウム材の表面に前記導電性ダイヤモンドライクカーボン層を形成することを含む、請求項9または請求項10のいずれかに記載の導電部材の製造方法。
請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の製造方法によって得られた導電部材における前記導電性ダイヤモンドライクカーボン層の表面に電極活物質層を形成する工程を備えた、電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の導電部材の実施形態について説明する。
【0032】
本発明の導電部材は、二次電池、キャパシタ等の電極を構成する集電体等に用いられる。上記の二次電池はリチウムイオン電池等の二次電池である。上記のキャパシタはリチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、機能性固体コンデンサ等である。機能性固体コンデンサにおいては、本発明の導電部材は集電体自体または電極自体に用いられる。
【0033】
図1に示すように、本発明の一つの実施の形態としての導電部材101は、アルミニウム材11と、アルミニウム材11の表面から内部に向かって形成され、ホウ素および窒素の少なくともいずれかとアルミニウムとを含む不動態層12と、不動態層12の表面に形成された導電性ダイヤモンドライクカーボン層13とを備える。本発明の一つの実施の形態としての電極100は、導電部材101と、導電部材101における導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の表面に形成された電極活物質層14とを備える。
【0034】
アルミニウム材11は、特に限定されるものではないが、一般的に集電体用途で使用されるアルミニウム箔を用いることができる。アルミニウム材11の純度が低いほど、特に銅、鉄、または、シリコンの含有量が多くなるほど、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの集電体としてアルミニウム箔を用いた場合、電解質による充放電時にアルミニウムの腐食量が多くなり、電極の寿命が低下し、また電池特性が大きく低下する恐れがある。したがって、アルミニウム箔の純度は限定されないが、上記の理由から、99.0質量%以上、より好ましくは99.9質量%以上であることが好ましい。
【0035】
アルミニウム材11の厚みは限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。アルミニウム材11の厚みが10μm未満の場合、アルミニウム箔の表面を粗面化する工程、または、他の製造工程中において、アルミニウム箔の破断または亀裂を生じる恐れがある。アルミニウム材11の厚みが100μmを超える場合には、特性上の不都合はないが、体積と重量の面、すなわち、電池に組み込まれた場合に電池自体のサイズが大きくなるとともに重くなるという不都合が顕著になるだけでなく、製造コストの点で不利、すなわち、使用するアルミニウム箔の量が増加するので材料費が高くなる、という点で好ましくない。
【0036】
本発明の導電部材101の一つの実施の形態では、アルミニウム材11の表面にホウ素イオンのみ、窒素イオンのみ、または、ホウ素イオンと窒素イオンを注入して、アルミニウムとホウ素、アルミニウムと窒素、または、アルミニウムとホウ素と窒素を含む不動態層12がアルミニウム材11の表面から内部に向かって形成される。
【0037】
アルミニウム材11の表面にホウ素イオンを注入する場合には、アルミニウム材11の表面に存在するすべてのアルミニウムがホウ素と結合するわけではないが、少なくとも一部のアルミニウムはホウ素と結合してホウ化アルミニウムとなっていると推察される。以下では、本明細書では、便宜上、アルミニウム材11の表面にホウ素イオンを注入することによって形成された不動態層12をホウ化アルミニウム層という。
【0038】
ホウ化アルミニウムの結晶はグラファイトのような層構造を成し、その層間にアルミニウム原子がインターカレートした構造で、ホウ化アルミニウムの結晶面である六角形平面と平行な軸に沿って金属のような導電性を示すことが知られている。また、製法にもよるが、ホウ化アルミニウム層は、濃硝酸、濃塩酸に侵されない優れた耐食性を有する不動態被膜である。アルミニウム材11の表面に不動態層12としてホウ化アルミニウム層を形成することによって、電解液中での腐食による集電体の劣化を抑制すると同時に、不動態層12の表面に積層される導電性ダイヤモンドライクカーボン層13との接触抵抗を著しく低減することができる。また、親水性の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成することによって、電極活物質層14との接着力を向上させることができ、電極活物質層14の剥離を抑制することがでる。
【0039】
不動態層12としてのホウ化アルミニウム層は、ホウ素イオンを含む放電プラズマ中でアルミニウム材11に負のバイアス電圧を印加してアルミニウム材11の表面にホウ素イオンを注入することによって形成することができる。
【0040】
たとえば、アルミニウム材11に20kVの負のパルス電圧を印加して注入されたホウ素原子のアルミニウム材11の表面からの濃度分布を二次イオン質量分析法(SIMS)にて測定した結果の概念図を
図2に示す。
図2に示すように、注入されたホウ素原子の濃度はアルミニウム材11の表面から内部に向かって減少する。いわゆる、ホウ素原子の濃度分布については、傾斜分布が形成される。イオン注入時のアルミニウム材11の温度が高くなると、注入されたホウ素はアルミニウム材11の内部に深く拡散するため、常温で注入された場合に比較してホウ化アルミニウム層の厚みは増加する。アルミニウム材11の最表面では化学量論組成に近いホウ化アルミニウム(AlB
2)層が形成されるが、アルミニウム材11の内部では化学量論組成からずれたホウ化アルミニウムが生成されていると考えられる。したがって、ホウ素イオン注入によるホウ化アルミニウム層の厚みは、注入ホウ素原子の濃度がアルミニウム材11の最表面の濃度の1/2以上の領域と定義する。すなわち、
図2に示すように、不動態層12としてのホウ化アルミニウム層の厚みtは、アルミニウム材11の最表面におけるホウ素原子の濃度をC
0とすると、ホウ素原子の濃度がC
0/2=C
1であるときの深さD
1の位置とアルミニウム材11の最表面の位置との間の距離と定義される。
【0041】
ホウ化アルミニウム層の厚みは、注入されるイオンのエネルギー、すなわち、アルミニウム材11に印加される負のバイアス電圧とアルミニウム材11の温度とによって制御することができる。また、この厚みは上記電圧の印加時間によっても制御することが可能である。ホウ化アルミニウム層の厚みは5nm以上200nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。
【0042】
通常の窒化アルミニウム(AlN)は窒化物の中でも酸化に対して最も安定な材料であるが、絶縁性材料である。したがって、通常の製法、たとえば、スパッタリング法、CVD法では、耐食性を有する窒化アルミニウム層を形成することができるが、耐食性とともに導電性を有する窒化アルミニウム層を形成することは困難である。本発明の導電部材101において、不動態層12としての窒化アルミニウム層は、上記のホウ化アルミニウム層の形成と同様にして、窒素イオンを含む放電プラズマ中でアルミニウム材11に負のバイアス電圧を印加してアルミニウム材11の表面に窒素イオンを注入することによって形成することができる。注入された窒素原子のアルミニウム材11の表面からの濃度分布は、
図2に示すホウ素イオン注入の場合とほぼ同じ分布で、注入された窒素原子の濃度はアルミニウム材11の表面から内部に向かって減少する。
【0043】
窒素イオン注入による窒化アルミニウム層の形成では、窒素イオンの注入量を調整することによって窒素元素のアルミニウム元素に対する割合を化学量論組成よりも小さくすることができる。窒素元素の割合をアルミニウム元素の50〜70%にすることによって抵抗率が10Ω・cm〜1kΩ・cmの低抵抗の不動態層12としての窒化アルミニウム層を形成することができる。このようにして、アルミニウム材11の表面に不動態層12として窒化アルミニウム層を形成することによって、電解液中での腐食による集電体の劣化を抑制すると同時に、不動態層12の表面に積層される導電性ダイヤモンドライクカーボン層13との接触抵抗を著しく低減することができる。したがって、電極活物質層14の剥離を抑制することができ、かつ、電極100の抵抗を低下させることが可能になる。
【0044】
窒化アルミニウム層の厚みは5nm以上200nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。
【0045】
上述した方法によって、上記のホウ化アルミニウム層または窒化アルミニウム層からなる不動態層12を形成することによって、後工程である導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の形成工程において、アルミニウム材11の表面の酸化による酸化被膜の生成を抑制し、不動態層12の表面に積層される導電性ダイヤモンドライクカーボン層13との接触抵抗を低減することができる。
【0046】
さらに、ホウ素イオンと窒素イオンを含む放電プラズマ中でアルミニウム材11に負のバイアス電圧を印加してアルミニウム材11の表面にホウ素イオンと窒素イオンを注入することによって、アルミニウム材11の表面から内部に向かってホウ素と窒素を含む不動態層12を形成することができる。また、アルミニウム材11の表面に窒素イオンを注入した後にホウ素イオンを注入することによって、より低い抵抗率の不動態層12を形成することができ、不動態層12の表面に積層される導電性ダイヤモンドライクカーボン層13との接触抵抗を低減することができる。したがって、電極活物質層14の剥離を抑制することができ、かつ、電極100の抵抗をより低下させることが可能になる。
【0047】
なお、窒素イオンのみ、または、ホウ素イオンと窒素イオンを注入して、アルミニウムと窒素、または、アルミニウムとホウ素と窒素を含む不動態層12がアルミニウム材11の表面から内部に向かって形成される場合には、
図2に示すように、不動態層12の厚みtは、アルミニウム材11の最表面における窒素原子の濃度、または、ホウ素原子と窒素原子の濃度をC
0とすると、窒素原子の濃度、または、ホウ素原子と窒素原子の濃度がC
0/2=C
1であるときの深さD
1の位置とアルミニウム材11の最表面の位置との間の距離と定義される。また、不動態層12は、ホウ素、窒素以外の他の元素を含んでもよい。他の元素としては、酸素、フッ素が挙げられる。不動態層12に含まれる他の元素は、上述した作用効果に影響を与えるものではない。
【0048】
導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の形成は、不動態層12を形成した後のアルミニウム材11を200〜450℃の温度に加熱し、メタンガス、アセチレンガス等の炭化水素系ガスの放電プラズマ中に保持し、アルミニウム材11に500V〜20kV、好ましくは1kV〜15kVの負のパルス電圧を印加することによって、アルミニウム材11の表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成することができる。すなわち、放電プラズマ中で生成された炭素イオンとラジカルがアルミニウム材11の表面に堆積する。この堆積物を炭素イオンでボンバードすることによってダイヤモンドライクカーボン層が形成される。このとき、アルミニウム材11の温度を200℃未満に保って形成される通常のダイヤモンドライクカーボン層は非常に高い抵抗率を示すが、アルミニウム材11の温度を200℃以上にすることによって導電性の高いダイヤモンドライクカーボン層を形成することができる。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の抵抗率は、アルミニウム材11の温度に大きく依存し、抵抗率が1Ω・cm以下の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成するためには、アルミニウム材11の温度が300℃以上であることが望ましい。また、アルミニウム材11の温度を300℃以上にして形成された導電性ダイヤモンドライクカーボン層13は、sp
2結合およびsp
3結合のナノ結晶とアモルファス炭素の混合物であることが確認されている。これらの存在比率は照射イオンのエネルギーとアルミニウム材11の温度によって変化する。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13は、大きさが10〜50nmの柱状の炭素、ナノウオール(sp
2結合)、ナノダイヤモンド(sp
3結合)、および、アモルファス炭素の混合物であると推定される。
【0049】
本発明の導電部材101における導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の抵抗率は1mΩ・cm以上1000mΩ・cm以下であるのが好ましく、より好ましくは1mΩ・cm以上100mΩ・cm以下である。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の厚みは、特に限定されるものではないが、10nm以上300nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上100nm以下である。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の厚みは、注入されるイオンのエネルギー、すなわち、アルミニウム材11に印加される負のバイアス電圧とアルミニウム材11の温度とによって制御することができる。また、この厚みは上記電圧の印加時間によっても制御することが可能である。本発明によれば、アルミニウム材11の表面から内部に向かってイオン注入法によって形成された不動態層12としての導電性のホウ化アルミニウム層または窒化アルミニウム層の表面に、直接、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を接合させることによって、両者の接触抵抗を低減すると同時に、不動態でもある導電性ダイヤモンドライクカーボン層13で被覆された集電体等の導電部材101を製造することができる。したがって、本発明によれば、二次電池、キャパシタ等の電極を構成する集電体等の材料として用いられる導電部材101において、電極活物質層14の剥離を抑制することができ、かつ、電極100の抵抗を低下させることが可能になる。なお、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13は、炭素以外の他の元素を含んでもよい。他の元素としては、ホウ素、アルミニウム、窒素、フッ素、酸素が挙げられる。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13に含まれる他の元素は、上述した作用効果に影響を与えるものではない。
【0050】
次に、電極活物質層14は、電極活物質として、活性炭素粉末、または、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)、過マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、酸化ニッケルリチウム(LiNiO
2)、コバルト酸ニッケルリチウム(LiNi
xCo
(1-x)O
2)等のリチウム遷移金属酸化物をペーストにして導電部材101の表面、すなわち、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の表面に塗布することによって形成される。このペーストは、公知の技術を用いて調製することができる。たとえば、活性炭素粉末と、必要により導電助剤としての導電性カーボン粉末と、バインダーとしてのセルロース、フッ素系樹脂等とを、水と有機溶剤に混練して得られる。導電部材101の表面に塗工されたペースト膜は、適当に乾燥させて加熱することによってバインダーを硬化させ、定着されて電極活物質層14を形成する。
【0051】
上述の電極活物質層14を形成するために導電部材101の表面に塗布されるペーストの構成成分の詳細は以下のとおりである。
【0052】
電極活物質層14を構成する電極活物質としての活性炭素粉末の原料は、特に限定されないが、たとえば、植物系の木材、ヤシ殻、化石燃料系の石炭、石油重質油、あるいは、それらを熱分解した石炭、石油系ピッチ、石油コークス等を例示することができる。活性炭素粉末は、上記の原料を炭化した後、賦活処理して得られる。この賦活法は、ガス賦活法と薬品賦活法に大別される。ただし、本発明に使用される活性炭素粉末の製法は上記の方法に限定されない。
【0053】
活性炭素粉末の粒子径は、特に限定されないが、通常1μm以上10μm以下であればよく、特に2μm以上6μm以下であることが好ましい。また、活性炭素粉末の形状は、特に限定されないが、形状の種類としては、主に粒状活性炭と繊維状活性炭がある。粒状活性炭としては破砕炭、顆粒炭、成型炭等を挙げることができ、繊維状活性炭としてはフェルト状、繊維状、布状、ファイバー状等のものを挙げることができる。
【0054】
電極活物質層14を構成する電極活物質としてのリチウム遷移金属酸化物も、特に限定されないが、たとえば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)、過マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、酸化ニッケルリチウム(LiNiO
2)、コバルト酸ニッケルリチウム(LiNi
xCo
(1-x)O
2)等のリチウム遷移金属酸化物を例示することができる。
【0055】
上記の電極活物質の含有量は特に限定されないが、ペースト中に5質量%以上60質量%
以下であるのが好ましく、より好ましくは15質量%以上50質量%
以下であればよい。また、電極活物質は、活性炭素粉末またはリチウム遷移金属酸化物のいずれかのみを含んでいてもよく、両者を含んでいてもよい。また、本発明においては、電極活物質として、活性炭素粉末およびリチウム遷移金属酸化物以外の電極活物質を使用することを排除するものではない。
【0056】
導電助剤は、特に限定されないが、導電性を有する炭素材料としてカーボンブラック、グラファイトを用いることができる。カーボンブラックとしては、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等を挙げることができる。グラファイトとしては、たとえば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。導電助剤としては、上記のカーボンブラックおよびグラファイトの中から、1種類のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。この導電助剤は必要に応じて添加すればよい。導電助剤の含有量は、特に限定されないが、ペースト中に0.5質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは1.0質量%以上20質量%以下であればよい。
【0057】
バインダーは、特に限定されないが、たとえば、フッ素系ゴム、ジエン系ゴム、スチレン系ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、チオコール、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。バインダーの含有量は、特に限定されないが、ペースト中に0.5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは1.0質量%以上30質量%以下であればよい。
【0058】
溶剤としては、特に限定されないが、水、有機溶剤を使用することができる。有機溶剤の例としては、N‐メチルピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アルコール類等を挙げることができる。溶剤の含有量は、特に限定されないが、ペースト中に10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上80質量%以下であればよい。
【0059】
ペーストの作製方法に関して、具体的な混合方法は、特に限定されないが、たとえば、ブレードミキサー、ボールミル、ビーズミル、自転・公転式ミキサーによる混合等を挙げることができる。
【0060】
本発明の一つの実施の形態に従った導電部材101の製造方法は、以下の工程を備える。
【0061】
(A)ホウ素イオンおよび窒素イオンの少なくともいずれかを含む放電プラズマを発生させた空間にて、アルミニウム材11の表面に、アルミニウム材11を加熱した状態で、ホウ素イオンおよび窒素イオンの少なくともいずれかを注入することにより、ホウ素および窒素の少なくともいずれかとアルミニウムとを含む不動態層12をアルミニウム材11の表面から内部に向かって形成する不動態層形成工程
【0062】
(B)炭素イオンを含む放電プラズマを発生させた空間にて、不動態層12が形成されたアルミニウム材11の表面に、アルミニウム材11を加熱した状態で、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成する導電性ダイヤモンドライクカーボン層形成工程
【0063】
本発明の導電部材101の製造方法において、不動態層形成工程が、アルミニウム材11を上記の空間に配置し、ホウ素化合物ガスおよび窒素化合物ガスの少なくともいずれかを上記の空間に導入した状態で、アルミニウム材11の少なくとも一方の表面近傍に放電プラズマを発生させ、アルミニウム材11に負のバイアス電圧を印加することにより、アルミニウム材11の表面から内部に向かって不動態層12を形成することを含むことが好ましい。
【0064】
また、本発明の導電部材101の製造方法において、導電性ダイヤモンドライクカーボン層形成工程が、アルミニウム材11を上記の空間に配置し、炭素化合物ガスを上記の空間に導入した状態で、アルミニウム材11の少なくとも一方の表面近傍に放電プラズマを発生させ、アルミニウム材11に負のバイアス電圧を印加することにより、不動態層12が形成されたアルミニウム材11の表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成することを含むことが好ましい。
【0065】
本発明に従った電極100の製造方法は、上記の製造方法によって得られた導電部材101における導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の表面に電極活物質層14を形成する工程を備える。
【0066】
より具体的には、本発明の導電部材101の製造方法は、以下の工程を備える。
【0067】
(i)プラズマ処理を行う空間に、アルミニウム材11を搬送する工程
【0068】
(ii)アルミニウム材11を加熱する工程
【0069】
(iii)ホウ素イオンまたは/および窒素イオンを含む放電プラズマ中でアルミニウム材11の表面にホウ素イオンまたは/および窒素イオンを注入してアルミニウムとホウ素または/および窒素を含む不動態層12を形成する工程
【0070】
(iv)炭素イオンを含む放電プラズマ中でアルミニウム材11の表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成する工程
【0071】
以下、上記の(i)〜(iv)の工程を行うことが可能なプラズマ処理装置の例を用いて本発明の導電部材101の製造方法について説明する。
【0072】
図3に示すように、プラズマ処理装置200は、真空容器20と、真空排気手段22と、作業ガス導入手段23と、プラズマ発生手段(高周波電源26、整合器27および高周波アンテナ24を含む)と、バイアス電圧印加手段(以下、バイアス電源という)28を具備する。真空容器20はプラズマ処理室21を含み、プラズマ処理室21内には被加工材25としてアルミニウム材11が配置される。プラズマ処理装置200内には、被加工材25の少なくとも一方の面に対向して高周波アンテナ24が配置され、高周波アンテナ24は整合器27を介して高周波電源26に接続されている。また、被加工材25はフィードスルー29を介してバイアス電源28に接続されている。
図3に示すプラズマ処理装置は、一実施態様を示すもので、本発明の導電部材101を製造するための装置は、
図3に示されるプラズマ処理装置に限定されるものではない。
【0073】
処理される被加工材25の面積にもよるが、高周波アンテナ24としては、U字形の誘導結合型アンテナ、ラダー型アンテナ、または小型のU字形誘導結合型アンテナを複数個並列に、または直列に配置して使用することができる。容量結合型アンテナも用いることができるが、高密度プラズマの発生には誘導結合型の高周波アンテナが好適である。高周波アンテナ24を被加工材25の両面に対向するように配置することによって、被加工材25としてアルミニウム材11の両面に同時に、不動態層12としてのホウ化アルミニウム層および/または窒化アルミニウム層、あるいは導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成することができる。
【0074】
まず、不動態層12としての導電性ホウ化アルミニウム層の形成工程について
図3を用いて説明する。搬送システム、たとえば、ロールツウロール方式によって被加工材25としてのアルミニウム材11をプラズマ処理室21内に搬送する。プラズマ処理室21は、予め真空排気手段22によって10
-3Pa以下の圧力の高真空に排気されている。被加工材25に対向して設置されている被加工材加熱手段(図示せず)によって、被加工材25が予め所定温度、たとえば、200〜400℃に加熱されることにより、被加工材25からガスを充分に排出する。プラズマ処理中においては、被加工材25に負のパルス電圧を印加するので、イオン照射に伴う熱が被加工材25に加えられる。したがって、放射温度計等によって被加工材25の温度を測定し、その測定された温度に基づいて被加工材加熱手段を制御して、被加工材25の温度を所定温度に保持することが好ましい。
【0075】
次に、作業ガス導入手段23によって不活性ガス、たとえば、アルゴンガスをプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を所定の圧力に設定し、高周波アンテナ24に高周波電力を供給して放電プラズマを励起する。被加工材25としてのアルミニウム材11に最大20kVの負のパルス電圧を印加してアルミニウム材11の表面をクリーニングする。
【0076】
そして、不動態層12としてのホウ化アルミニウム層をアルミニウム材11の表面から内部に向かって形成するために、プラズマ処理室21内にBF
3、BCl
3、B
2H
6等のホウ素化合物ガスを導入し、そのガス圧を0.1〜100Pa、好ましくは0.3〜30Paに調整する。この際、水素ガス、アルゴンガス等を添加することができる。これらのガスを添加することによって表面のクリーニング効果が得られる。高周波電源26から整合器27を介して高周波アンテナ24に高周波電力を供給して放電プラズマを発生させる。同時に、バイアス電源28からフィードスルー29を介して被加工材25としてアルミニウム材11に負のパルス電圧を印加することにより、アルミニウム材11の表面にホウ素イオンを注入する。
【0077】
なお、高周波電源26としては、10〜60MHz、出力300W〜5kWの高周波電源を用いるのが好ましい。また、高周波電力としては、連続発振する高周波電力、または繰り返し周波数が0.5〜10kHzの間欠的に発振する高周波電力を用いることができる。バイアス電源は、イオン注入または被膜形成のための出力電圧が1〜20kV、パルス幅1〜30μs、繰り返し周波数0.5〜10kHzの負のパルス電圧を印加できるバイアス電源であることが好ましい。
【0078】
また、高周波電源の繰り返し周期と同期させて負のパルス電圧を印加することによって高濃度のホウ素イオンを注入することができる。たとえば、繰り返し周期が500μs(2kHz)、発振持続時間100μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を用いる場合、パルス発振直後から50μs以内にバイアス電圧として負のパルス電圧を印加することによって高密度のイオン電流でホウ素イオンを注入することができる。また、上記の条件を被膜としての導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の形成に適用すると、被膜形成速度が20nm/分の成膜が可能にある。
【0079】
不動態層12としての窒化アルミニウム層の形成は、原料ガスとして窒素ガス(N
2)、アンモニアガス(NH
3)等の窒素化合物ガスを導入することによって、上記のホウ化アルミニウム層の形成と同様のイオン注入条件で実施することができる。窒素原子の質量はホウ素原子と略同等であるので、窒素イオンの注入深さ、窒化アルミニウム層の厚みも略同等と考えてよい。上記のホウ化アルミニウム層および窒化アルミニウム層は耐薬品性に優れ、導電性を有する不動態被膜として作用する。
【0080】
次に、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の形成について説明する。上記のホウ化アルミニウム層と窒化アルミニウム層の形成とほぼ同様にして導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成することができる。ホウ化アルミニウム層または/および窒化アルミニウム層の形成後に、引き続いて被加工材25としてのアルミニウム材11の温度を予め200〜450℃に加熱し、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成するための原料ガスをプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を所定のガス圧に調整する。原料ガスとしては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエンおよびシクロヘキサノン、クロロベンゼン等からなる炭化水素系化合物の群より選択される少なくとも1種類を主成分としたガスを使用することができる。ガス圧は0.1〜100Pa、好ましくは0.3〜30Paである。また、必要に応じて水素ガス、アルゴンガス等を添加することができる。高周波電源26から整合器27を介して高周波アンテナ24に高周波電力を供給して放電プラズマを発生させ、同時に、被加工材25としてのアルミニウム材11に負のパルス高電圧を印加して導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成する。
【0081】
以上の製造工程によって、アルミニウム材11の表面に、イオン注入によってホウ化アルミニウム層または/および窒化アルミニウム層からなる導電性の不動態層12と導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を積層した導電部材101を製造することができる。また、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13にホウ素、窒素の不純物原子をドーピングすることによって抵抗率を約1桁低減することが可能である。導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の形成工程の最終段階で酸素と窒素を含むガスを添加することにより撥水角が30°以下の超親水性の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の表面を形成することができ、電極活物質層14との接着力を向上させることができる。
【0082】
上述の方法により得られた本発明の導電部材101としての集電体の表面に電極活物質層14を形成することによって、二次電池とキャパシタの電極を作製することができる。電極活物質層14を形成するためには、電極活物質を含むペーストを導電部材101としての集電体の表面に塗布する。ペーストの構成成分と作製方法は前述したとおりであるが、以下では、ペーストの塗布と乾燥の方法について説明する。
【0083】
ペーストの集電体への塗布方法は、特に制限されないが、たとえば、ブレード法、リバースロール法、ナイフ法、グラビアロール法等によってペーストを塗布することができる。さらに、塗布方法としては、スピンコーティング法、バーコーティング法、フローコーティング法、ディップコーティング法等も採用することができる。また、その他の付着方法としては、押し出し法等の方法を採用することができる。
【0084】
ペーストの集電体への塗布量も、特に制限されないが、ペーストに含まれる溶剤(または分散媒)を乾燥除去した後に形成される電極活物質層14の厚みが、通常5μm〜1mmになる程度の量であればよい。特に、本発明の導電部材101の低抵抗特性を活かすキャパシタを製造する場合には、電極活物質層14の厚みは5〜30μm程度であることが好ましい。
【0085】
ペーストを集電体へ塗布した後には、ペースト中に含まれる溶剤成分を乾燥除去することが好ましい。乾燥除去の方法は、特に限定されないが、自然乾燥、熱による乾燥等の方法がある。乾燥効率を考慮すると、真空乾燥炉を用いた方法が適当で、乾燥は60〜200℃の温度で1〜100kPaの低圧下で行うことが望ましい。
【0086】
以上のようにして、導電部材101としての集電体の表面に電極活物質層14を形成することによって、二次電池とキャパシタの電極100を製造することができる。
【0087】
二次電池としては、特に限定されないが、たとえば、リチウムイオン電池等が挙げられる。キャパシタとして、特に限定されないが、たとえば、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。本発明の電極100は、従来公知のいかなる電気二重層キャパシタにも適用することができ、たとえば、コイン型、捲回型、積層型等のいずれの形態の電気二重層キャパシタにも適用することができる。このような電気二重層キャパシタは、たとえば、電極シートを所望の大きさ、形状に切断し、セパレーターを両極の間に介在させた状態で積層または捲回し、容器に挿入した後、電解液を注入し、封口板、ガスケットを用いて封口をかしめることによって製造することができる。
【実施例】
【0088】
以下の実施例に従って、本発明の導電部材101としての集電体、本発明の電極100、さらに電極100を備えた電気二重層キャパシタを作製した。また、比較のため、以下の比較例にしたがってエッチドアルミニウム箔で集電体を準備し、電極を作製し、その電極を備えた電気二重層キャパシタを作製した。
【0089】
(実施例1)
実施例1では、アルミニウムの含有量が99.9質量%、厚みが20μmのアルミニウム材11(JIS 1085)を準備した。アルミニウム材11を、絶縁体の支持台(図示せず)に固定されたアルミニウム製の枠体(図示せず)に設けて、
図3に示す被加工材25として、一対の誘導結合型の高周波アンテナ24のほぼ中央部に対向するように取り付けた。次に、プラズマ処理室21内を排気することによって10
-3Pa以下の圧力の高真空にした。そして、被加工材25を240℃の温度に保持することにより、被加工材25からガスを充分に排出した。その後、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paの圧力に調整し、高周波アンテナ24に700Wの高周波電力を供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、被加工材25としてのアルミニウム材11に、波高値が12kV,繰り返し周波数が2kHz,パルス幅が5μsの負のパルス電圧を印加することにより、15分間のイオンボンバードによる表面クリーニングを行った。
【0090】
引き続いて、アルミニウム材11を260℃の温度に保持した状態で、原料ガスを3フッ化ホウ素と水素の混合ガス(流量比率1:1)に切り替えて、そのガス圧を0.3Paに調整し、繰り返し周波数が2kHz、発振持続時間が50μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ24に供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、アルミニウム材11に、波高値が12kV、パルス幅が5μsの負のパルス電圧を、上記の高周波電力のパルス発振に同期させて30分間印加することにより、不動態層12としてのホウ化アルミニウム層を形成した。
【0091】
図4は、不動態層12としてのホウ化アルミニウム層を形成した後に、後述するように導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した導電部材101について、二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定されたアルミニウム材11内の炭素(C)、ホウ素(B)およびアルミニウム(Al)の各元素の表面から深さ方向の濃度分布を示す図である。炭素濃度の略平坦な領域が導電性ダイヤモンドライクカーボン層、表面から約80nmの深さの位置にピークを有する濃度曲線がホウ素元素の濃度分布を示す。導電部材101の表面から、ホウ素元素濃度のピークの深さ位置までの距離が導電性ダイヤモンドライクカーボン層の厚みと考えられる。したがって、ホウ素元素濃度のピークの深さ位置がアルミニウム材11の最表面の位置に相当する。
図4から、
図2に示された不動態層の厚みの決定方法にしたがって不動態層12としてのホウ化アルミニウム層の厚みtを決定したところ、ホウ化アルミニウム層の厚みは約30nmであった。
【0092】
次に、以下のようにして、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を不動態層12の上に形成した。アルミニウム材11を280℃の温度に保持し、原料ガスとしてメタン、アセチレンおよび窒素の混合ガス(流量比率2:2:1.5)をプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paに調整し、繰り返し周波数が2kHz、発振持続時間が100μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ24に供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、アルミニウム材11に、波高値が12kV、パルス幅が5μsの負のパルス電圧を、高周波電力のパルス発振に同期させて30分間印加することにより、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した。このようにして本発明の導電部材101としての集電体材料を作製した。
【0093】
図5は、得られた導電部材101の断面を電解放出形走査型電子顕微鏡(FE‐SEM)で観察した写真である。
図5に示すように、不動態層12を含むアルミニウム材11(Al)の領域と導電性ダイヤモンドライクカーボン層13(DLC)の領域とを観察することができた。写真から測定された導電性ダイヤモンドライクカーボン層13(DLC)の厚みは、
図5の(A)に示す導電部材101の中央部では約60nm、
図5の(B)に示す導電部材101の端部では約100nmであった。
【0094】
また、得られた導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の抵抗率を測定するために、大きさ5cm×2cmのガラス基材上に上記の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13と同じ成膜条件で導電性ダイヤモンドライクカーボン層を形成した。得られた導電性ダイヤモンドライクカーボン層の抵抗率を4端子法(株式会社三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)によって測定した結果、抵抗率は約80mΩ
・cmであった。
【0095】
得られた導電部材101を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、15分経過しても、導電部材101の腐食によるガス発生は認められなかった。
【0096】
また、得られた導電部材101としての集電体の上に、以下のようにして、電極活物質層14を形成した。
【0097】
電極活物質としてのリン酸鉄リチウムを86質量部、導電助剤を7質量部、5質量%濃度のバインダーを含むN‐メチルピロリドン(NMP)溶液140質量部を加えて混合した。その後、さらに178質量部のNMPを添加して電極活物質を含むペーストを調製した。次に、このペーストを、上記で得られた導電部材101の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の片面に塗布し、乾燥させることにより、電極活物質層14を形成して、厚みが45μmの電極100を作製した。
【0098】
得られた電極100を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、15分経過しても、導電部材101の腐食によるガス発生も、電極活物質層14の導電部材101からの剥離も認められなかった。
【0099】
(実施例2)
電極活物質としての活性炭素粉末を91.5質量部、導電助剤を4.5質量部、20質量%濃度のバインダーを含む水溶液23質量部を加え、その後、1.2質量%に調整した増粘剤カルボキシメチルセルロース水溶液を150質量部加えて混合し、さらに濃度調整のための蒸留水を210質量部添加して、電極活物質を含むペーストを調製した。次に、このペーストを、上記で得られた実施例1の導電部材101の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の片面に塗布し、乾燥させることにより、電極活物質層14を形成して、厚みが45μmの電極100を作製した。
【0100】
得られた電極100を、平面積が8cm×2cmの大きさの矩形状に切り抜き、一方端縁から長さ3cmまでの領域の電極活物質層14を除去し、平面積が10cm
2の電極活物質層14と平面積が6cm
2の端子部分とを有する短冊状の電極を作製した。
【0101】
得られた2枚の短冊状の電極を、厚みが30μm、平面積が6cm×3cmのセルロースで形成されたセパレーターを介して対向させ、ラミネートフィルム中に電極、セパレーター、電極の順序で積層した。その後、セパレーターに1.5MのTEMA BF
4/PCからなる電解液を1ml注入し、ヒートシールを行い、電気二重層キャパシタのフィルムセルを作製した。
【0102】
具体的には、
図6に示すように、電気二重層キャパシタが構成される。一対の電極の各々が、導電部材101としての集電体と、その上に形成された電極活物質層14とからなる。一対の電極の間にはセパレーター16が介在し、電解液15が存在する。電解液15中には陽イオン(+)と陰イオン(−)が存在する。
【0103】
(実施例3)
実施例3では、アルミニウムの含有量が99.9質量%、厚みが20μmのアルミニウム材11(JIS 1085)を準備した。アルミニウム材11を、絶縁体の支持台(図示せず)に固定されたアルミニウム製の枠体(図示せず)に設けて、
図3に示す被加工材25として、一対の誘導結合型の高周波アンテナ24のほぼ中央部に対向するように取り付けた。次に、プラズマ処理室21内を排気することによって10−3Pa以下の圧力の高真空にした。そして、被加工材25を330〜360℃の温度に保持することにより、被加工材25からガスを充分に排出した。その後、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paの圧力に調整し、高周波アンテナ24に700Wの高周波電力を供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、被加工材25としてのアルミニウム材11に、波高値が8kV,繰り返し周波数が2kHz,パルス幅が5μsの負のパルス電圧を印加することにより、30分間のイオンボンバードによる表面クリーニングを行った。
【0104】
引き続いて、アルミニウム材11を330〜360℃の温度に保持した状態で、原料ガスをアルゴンと水素と窒素の混合ガス(流量比率2:3:3)に切り替えて、そのガス圧を0.3Paに調整し、繰り返し周波数が2kHz、発振持続時間が50μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ24に供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、アルミニウム材11に、波高値が8kV、パルス幅が5μsの負のパルス電圧を、上記の高周波電力のパルス発振に同期させて30分間印加することにより、不動態層12としての窒化アルミニウム層を形成した。
【0105】
図7は、不動態層12としての窒化アルミニウム層を形成した後に、後述するように導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した導電部材101について、二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定されたアルミニウム材11内の炭素(C)、窒素(N)およびアルミニウム(Al)の各元素の表面から深さ方向の濃度分布を示す図である。炭素濃度の略平坦な領域が導電性ダイヤモンドライクカーボン層、表面から約20nmの深さの位置にピークを有する濃度曲線が窒素元素の濃度分布を示す。導電部材101の表面から、窒素元素濃度のピークの深さ位置までの距離が導電性ダイヤモンドライクカーボン層の厚みと考えられる。したがって、窒素元素濃度のピークの深さ位置がアルミニウム材11の最表面の位置に相当する。
図7から、
図2に示された不動態層の厚みの決定方法にしたがって不動態層12としての窒化アルミニウム層の厚みtを決定したところ、窒化アルミニウム層の厚みは約7nmであった。
【0106】
次に、以下のようにして、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を不動態層12の上に形成した。アルミニウム材11を330〜360℃の温度に保持し、原料ガスとしてメタン、アセチレンおよび窒素の混合ガス(流量比率2:2:1.5)をプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paに調整し、繰り返し周波数が2kHz、発振持続時間が100μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ24に供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、アルミニウム材11に、波高値が12kV、パルス幅が5μsの負のパルス電圧を、高周波電力のパルス発振に同期させて15分間印加することにより、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した。このようにして本発明の導電部材101としての集電体材料を作製した。
【0107】
また、実施例3で得られた導電性ダイヤモンドライクカーボン層13の抵抗率を測定するために、大きさ5cm×2cmのガラス基材上に上記の導電性ダイヤモンドライクカーボン層13と同じ成膜条件で導電性ダイヤモンドライクカーボン層を形成した。得られた導電性ダイヤモンドライクカーボン層の抵抗率を4端子法(株式会社三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)によって測定した結果、抵抗率は約40mΩ・cmであった。
【0108】
また、得られた導電部材101としての集電体の上に、実施例1と同様にして電極活物質層14を形成し、厚みが45μmの電極100を形成した。
【0109】
得られた電極100を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、15分経過しても、導電部材101の腐食によるガス発生も、電極活物質層14の導電部材101からの剥離も認められなかった。
【0110】
(実施例4)
実施例3で得られた導電部材101を用いて、実施例2と同様にして電気二重層キャパシタのフィルムセルを作製した。
【0111】
(比較例1)
実施例1にて準備されたアルミニウムの含有量が99.9質量%、厚みが20μmのアルミニウム材11(JIS 1085)を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、2分経過するとアルミニウム材の腐食によるガスが発生した。
【0112】
また、実施例1にて準備されたアルミニウムの含有量が99.9質量%、厚みが20μmのアルミニウム材11(JIS 1085)の片面に、上記と同様にして電極活物質層を形成して、厚みが45μmの電極を作製した。
【0113】
得られた電極を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、2分経過すると、アルミニウム材の腐食によるガスが発生し、5分経過すると、電極活物質層のアルミニウム材からの剥離が認められた。
【0114】
(比較例2)
集電体として、日本蓄電器工業株式会社製のエッチドアルミニウム箔(型番50CK)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、厚みが45μmの電極を作製した。
【0115】
得られた電極を用いて、実施例2と同様にして電気二重層キャパシタのフィルムセルを作製した。
【0116】
(比較例3)
比較例3では、アルミニウムの含有量が99.9質量%、厚みが20μmのアルミニウム材11(JIS 1085)を準備した。アルミニウム材11を、絶縁体の支持台(図示せず)に固定されたアルミニウム製の枠体(図示せず)に設けて、
図3に示す被加工材25として、一対の誘導結合型の高周波アンテナ24のほぼ中央部に対向するように取り付けた。次に、プラズマ処理室21内を排気することによって10−3Pa以下の圧力の高真空にした。そして、被加工材25を330〜360℃の温度に保持することにより、被加工材25からガスを充分に排出した。その後、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paの圧力に調整し、高周波アンテナ24に700Wの高周波電力を供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、被加工材25としてのアルミニウム材11に、波高値が8kV,繰り返し周波数が2kHz,パルス幅が5μsの負のパルス電圧を印加することにより、30分間のイオンボンバードによる表面クリーニングを行った。
【0117】
引き続いて、以下のようにして、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13をアルミニウム材11の上に形成した。アルミニウム材11を330〜360℃の温度に保持し、原料ガスとしてメタン、アセチレンおよび窒素の混合ガス(流量比率2:2:1.5)をプラズマ処理室21内に導入して、そのガス圧を0.5Paに調整し、繰り返し周波数が2kHz、発振持続時間が100μsで間欠的にパルス発振する13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ24に供給して放電プラズマを励起させた。この放電プラズマが励起した状態で、アルミニウム材11に、波高値が12kV、パルス幅が5μsの負のパルス電圧を、高周波電力のパルス発振に同期させて10分間印加することにより、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した。このようにしてアルミニウム材11の表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を形成した導電部材としての集電体材料を作製した。これは、本発明の導電部材の構成から不動態層12が形成されていないものに相当する。また、得られた導電部材としての集電体の上に、実施例1と同様にして、電極活物質層14を形成し、厚みが45μmの電極を作成した。
【0118】
得られた電極を1%フッ酸溶液に浸漬した。その結果、5分経過すると、アルミニウム材の腐食によるガスが発生し、10分経過すると、電極活物質層のアルミニウム材からの剥離が認められた。
【0119】
(比較例4)
比較例3で得られた導電部材を用いて、実施例2と同様にして電気二重層キャパシタのフィルムセルを作製した。
【0120】
作製された実施例2、実施例4、比較例2および比較例4の電気二重層キャパシタのフィルムセルのそれぞれに、10mV
0-Pの印加電圧で120mHz〜20kHzの周波数領域のACインピーダンスを測定した。得られた結果を
図8に示す。
図8から、比較例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルでは電極抵抗成分の半円が生じているのに対して、実施例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルでは電極抵抗成分の半円が見られない。この結果から、実施例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルは比較例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルよりも低抵抗であるといえる。また、実施例4と比較例4を比較すると、いずれも導電性ダイヤモンドライクカーボンの層を含むので低抵抗であるが、実施例4では不動態層12としての導電性の窒化アルミニウム層の表面に、直接、導電性ダイヤモンドライクカーボン層13を接合させることによって両者の接触抵抗が低減されているので、より抵抗が低くなっている。
【0121】
また、作製された実施例2、実施例4、比較例2および比較例4の電気二重層キャパシタのフィルムセルのそれぞれに、充放電試験を1〜2.5Vの電圧範囲で行った。パワー用途を想定して、50mA/cm
2の電流密度で放電を行った。その結果を
図9に示す。
図9から、実施例2、実施例4および比較例4の電気二重層キャパシタのフィルムセルのIR‐dropが比較例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルに比べて非常に小さいことがわかる。この結果から、実施例2、実施例4および比較例4の電気二重層キャパシタのフィルムセルが低抵抗であることがわかる。また、
図9から、実施例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルの放電時間が比較例2の電気二重層キャパシタのフィルムセルに比べて長くなっていることがわかる。なお、
図9から、実施例2、実施例4、比較例2および比較例4の電気二重層キャパシタの各々において電気抵抗値を算出した結果を以下の表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものと意図される。