(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138023
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】湯たんぽにおける圧力調節装置及び同装置に用いるキャップ
(51)【国際特許分類】
A61F 7/08 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
A61F7/08 311E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-228427(P2013-228427)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-85130(P2015-85130A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2015年7月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397038897
【氏名又は名称】タンゲ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(72)【発明者】
【氏名】丹下 忠行
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−083495(JP,U)
【文献】
特開2012−026515(JP,A)
【文献】
特開昭50−032516(JP,A)
【文献】
実開昭60−007814(JP,U)
【文献】
実開昭53−030458(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯たんぽ本体の注湯口に装着するキャップであって、
注湯口にネジ手段により装着する周壁部を具備するキャップ本体と、
キャップ本体に取り付ける栓を有し、前記栓は断面視凹状の形状を呈し、その断面視凹状の形状によって構成される空間と、その空間よりも口径が小である通気孔を具備するとともに、前記周壁部と密に嵌合し、
キャップ本体はその外部又は内部に前記周壁部を具備する栓取り付け部を有し、上記栓取り付け部に形成した通気孔を有し、
さらに、蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成る通気手段を、上記栓と栓取り付け部とを用いて取り付けるために、
上記栓は栓取り付け部と密に嵌合するとともに、栓を栓取り付け部に嵌合させることによって、それらの間に前記通気手段が挟み込まれるとともに、
上記断面視凹状の形状を呈し、その断面視凹状の形状によって構成される空間を具備する栓によって、その空間が構成され、
内部の通気孔は、湯たんぽ本体内部の空間に面する栓又は栓取り付け部にのみ形成されていることを特徴とする湯たんぽの圧力調節装置に用いるキャップ。
【請求項2】
キャップ本体は内部の天面にパッキン止めを有しており、上記パッキン止めの外側に、湯たんぽ本体の注湯口の上端と接触して密閉状態を保つパッキンを設けた構成を有する請求項1記載の湯たんぽの圧力調節装置に用いるキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯たんぽ本体とその注湯口に装着するキャップとから成る湯たんぽにおける圧力調節装置及び同装置に用いるキャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
湯たんぽは広く用いられている省エネルギーの暖房用品である。本件発明者はプラスチック製湯たんぽの開発、製造および販売に長年従事して来たが、湯たんぽの望ましくない使用方法による変形の問題が常に念頭にあった。湯たんぽは熱湯を注入して使用するものなので熱湯が冷めたときの影響が問題になる。湯を注入した湯たんぽ内の湯面の上に空間がほとんどない場合は熱湯が冷めても湯たんぽ本体に現われる影響は小さいが、空間が大きければ大きいほど収縮の影響が大きくなるからである。
【0003】
図7以下を参照して説明すると、aは湯たんぽ本体、bはその注湯口、cはキャップ、dは本体上面の凹凸、eは本体下面の凹凸を示している(凹凸d、eが強度向上のために金属製品の時代から設けられていることは周知のとおりである。)。同じくfは湯面、gは空間、hは熱湯を示しており、
図7は、熱湯hが八分目ほど注湯された直後のもので、湯たんぽ本体aに変形は実質上生じていない状態(原形)である。
【0004】
今、100℃の熱湯が、仮に一晩で50℃にまで低下したとすると、飽和水蒸気の圧力は1.0から0.12気圧まで低下し、同じく密度は0.598から0.080(g/1000cm
3理科年表より)まで低下する。その結果、湯たんぽ本体aは内圧の低下に耐えきれずにへこみ
図8に示すように変形i、jを起こす。なお、
図8は例示であり、例えば、五分目程しか入れないときには
図8に鎖線で示したように変形し、甚だしい場合は湯たんぽ本体aの上下変形i、jが着いてしまうほどにまで変形することがある。しかし、変形i、jは再度熱湯を注入すれば原形(
図7参照)に戻り、引き続き使用可能であるので直ちに問題は起こらず、注意すべきはむしろ変形と復元が際限なく繰り返される場合である。
【0005】
すなわち、熱湯の注入による湯たんぽ本体の膨張と冷却による収縮が繰り返されると、プラスチック材料から成る湯たんぽ本体が疲労し、最悪の場合には破損の可能性がある。このような事態に対処するため、出願人は湯量八分目で使用しても変形しない湯たんぽを開発した。特開2005−245773号がそれであり、湯たんぽ本体の外形をドーナツ状とし、かつ横断面形状を円形として最大限度の変形に耐えるようにしたもので、これを実施した商品は好評を博しており、八分目をはるかに下回る使用にも耐えるのは当然であるが、絶対に破損しないという保証はできない。なお、登録実用新案第3154067号のような湯量線を湯たんぽ本体に設けるという案もある。しかし、問題は正しい湯量を守って使われているかどうかが分からないということにある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−245773号
【特許文献2】登録実用新案第3154067号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の実情に鑑みなされたもので、その課題は、湯たんぽにおいて正しい湯量が守られないまま使用されたとしても、容易に変形せず、長期間安全に使用できるようにすることである。また、本発明の他の課題は、湯たんぽ本体とその注湯口に装着するキャップとから成る湯たんぽにおいて、キャップの交換により湯たんぽの圧力調節を可能にするキャップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本発明は、
湯たんぽ本体の注湯口に装着するキャップについて、注湯口にネジ手段により装着するキャップ本体と、キャップ本体に取り付ける栓を有し、キャップ本体はその外部又は内部に栓取り付け部を有し、上記栓と栓取り付け部はそれぞれに形成した通気孔を有し、さらに、蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成る通気手段を、上記栓と栓取り付け部とを用いて取り付けるために、上記栓は栓取り付け部と密に嵌合するとともに、栓を栓取り付け部に嵌合させることによって、それらの間に前記通気手段が挟み込まれるように構成され、内部の通気孔は、湯たんぽ本体内部の空間に面する栓又は栓取り付け部にのみ形成されているものとするという手段を講じたものである。
【0009】
本発明に係る圧力調節装置は、湯たんぽ内外の圧力差を随時解消するように作用するものである。そのために、通気孔を湯たんぽの適切な部位に少なくとも1箇所設け、この通気孔を通気手段により覆うという構成を取っている。通気孔は複数個設けることができ、また、キャップにも湯たんぽ本体にも設けることができる。
【0010】
本発明は湯たんぽの圧力調節装置に用いるキャップを含む。そのキャップは、注湯口に装着するキャップの装着部よりも外方の部分に通気孔を少なくとも1箇所設け、蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成る通気手段を用いて、上記通気孔を覆うという構成を取る。キャップに圧力調節装置を組み込んだものであり、これによって、圧力調節装置を組み込んだキャップを形状等の異なる湯たんぽ本体と組み合わせることが可能になる。
【0011】
キャップを注湯口に装着するキャップ本体と、装着部よりも外方に位置する部分に取り付けた栓とから構成し、キャップ本体には上記栓の取り付け部を設けるとともに、栓と栓取り付け部のそれぞれに通気孔を形成し、かつ、栓と栓取り付け部の間に通気手段を配置するという構成は、本発明にとって好ましいものである。なお、外方とは、湯たんぽ本体に装着した状態において、湯たんぽ本体を中心として外部の方向を指すものである。
【0012】
さらに、キャップは注湯口を閉じる閉塞面を外方の部分に有し、キャップの閉塞面に通気孔を形成し、上記通気孔を覆う通気手段を閉塞面の内部ないし外部の少なくとも一方に設けるという構成も、また本発明にとって好ましいものである。このように構成することによって、最も少ない部品点数で湯たんぽの圧力調節装置に用いるキャップが提供されることになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成され、かつ湯たんぽ内外の圧力差が随時解消するように作用するものであるものであるから、湯たんぽにおいて正しい湯量が守られないまま使用されたとしても、容易には変形せず長期間安全に使用することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、湯たんぽ本体とその注湯口に装着するキャップとから成る湯たんぽにおいて、キャップの交換により湯たんぽの圧力調節を可能にするキャップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
図1は本発明に係る圧力調節装置を適用した湯たんぽの外観を示しており、湯たんぽは、湯たんぽ本体10とその注湯口11に装着するキャップ12とから成る。このような基本的構成を有する湯たんぽ本体10に用いる樹脂材料や本体構造、注入する湯の容量等の条件はこれまでのものと同等で良い。
【0015】
図示の湯たんぽは、パリソンを用いるブロー成形法によって型成形されるもので、小判型の平面形状と扁平な形態を有し、周縁に成形型の
型閉じ面に沿った突条13、上面及び下面の凹凸14、15
、そして、立てた状態で上端に位置する提げ手等を設けている。また、上記湯たんぽは自立させるために、特に平坦に形成した底面16を有する、いわゆる立つ湯たんぽ(登録商標)であり、湯たんぽ本体10の自立による湯の排出の助けになるようにその下端部近くに注湯口11が配置されている。
【0016】
実施形態においては、湯たんぽの使用により湯が冷めて内圧が低下し湯たんぽ本体10が変形するのを防止するために、湯たんぽの内外を通じる通気孔19を湯たんぽの適切な部位に少なくとも1箇所設け、通気手段21を用いて上記通気孔19を覆って成る圧力調節装置20の例を示している(
図2)。
【0017】
この実施形態において、圧力調節装置20はキャップ12に設けられており、キャップ12には、湯たんぽ本体10の注湯口11に設けられたオネジ部17と螺合するメネジ部18が装着手段として設けられている。上記キャップ12の装着部であるメネジ部18よりも外方の部分に、少なくとも1箇所の通気孔19を設け、通気孔19に向かう蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成る通気手段21を用いて、上記通気孔19を覆うことで圧力調節装置20が構成される。
【0018】
さらに、
図3ないし
図6を参照して本発明を説明する。
図3に示す例1の圧力調節装置20において、キャップ12は注湯口11に装着するキャップのメネジ部18を有するキャップ本体22と、装着部であるメネジ部18よりも外方に位置する部分に取り付けた栓23とから構成されており、キャップ本体22には上記栓23の取り付け部24が設けられるとともに、栓23と栓取り付け部24のそれぞれに通気孔19−1、19−2を少なくとも1箇所形成し、かつ、栓23と栓取り付け部24の間に通気手段21を配置した構成を有する。
【0019】
例1において、キャップ12のキャップ本体22には栓取り付け部24が中央部に凹状に設けられており、その底面の中央部に通気孔19−2が形成されている。また、栓23は栓取り付け部24と一種の栓のように密に嵌合するものであり、さらに栓23と栓取り付け部24の周壁部には、相互に嵌合する凸部と凹部とから成る嵌合手段25が抜け止めとして設けられ、これにより一体性が保たれる。通気手段21は栓取り付け部24の底面に配置され、底面への接着又は底面と栓下端部との間の挟み込み等の手段によって固定される。
【0020】
図中、26はパッキンを示しており、キャップ12の天面のパッキン止めの外側に配置され、注湯口11の上端と接触して密閉状態を保つものである。通気孔19−1、19−2は異なる口径に図示されているが、どちらをどのような口径とするかは選択的事項であり、限定的に解釈すべきではない。なお、通気孔の個数については図示のように中央に1箇所に限らず、2箇所又は3箇所以上設けることができる。
【0021】
次に、
図4を参照して例2の圧力調節装置30を説明する。例2の装置30の場合は、キャップ12が注湯口11に装着するキャップのメネジ部18を有するキャップ本体27と、メネジ部18よりも外方に位置する部分に取り付けた栓28とから構成される構造において例1のものと共通する。しかし、栓取り付け部29がキャップ本体27の内側の天面に配置されている点において例1と相違する。そして、キャップの本体27と栓28のそれぞれに通気孔19−1、19−2を少なくとも1箇所形成し、かつ、栓28と栓取り付け部29の間に通気手段21を配置した構成を有する。
【0022】
例2の装置30では、栓取り付け部29がキャップ本体内部の天面中央部に筒状に設けられ、その天面の中央部に、通気孔19−1が形成されている。また、栓28は栓取り付け部29と一種の栓のように密に嵌合するもので、通気孔19−2は栓28の底面の中央部に形成されている。なお、栓28と栓取り付け部29は、周壁部に設けられた凸部と凹部から成る嵌合手段31の相互嵌合により一体に結合する。通気手段21は栓取り付け部29の天面に配置され、天面への接着又は天面と栓上端部との間の挟み込み等の手段によって固定される。
【0023】
さらに、
図5により例3の圧力調節装置33について説明する。キャップ12は外方の閉塞面32が注湯口11を閉じる部分になっており、閉塞面32に通気孔19を少なくとも1箇所形成し、かつ、上記通気孔19を覆う通気手段21をキャップの天面すなわち閉塞面32の内部に設けた構成を有する。34は突条より成る枠部であり、その内側に通気手段21が接着等の手段により取り付けられる。他の構成は前記の例1と同様で良いので符号を援用し、詳細な説明は省略する。
【0024】
図6は例4の圧力調節装置35を示すもので、キャップ12は例3と同様に外方の閉塞面32が注湯口11を閉じる部分になっており、閉塞面32に通気孔19を少なくとも1箇所形成し、上記通気孔19を覆う通気手段21を閉塞面32の外部すなわちキャップの外面に設けた構成を有する。通気手段21は、キャップ外面の突条より成る枠部36の内側に取り付けられている。他の構成は前記の例1と同様で良いので符号を援用する。
【0025】
本発明はこのように構成されているので、仮に
図2に示すように熱湯Hが八分目程度しか注湯されておらず、その湯面Fの上方に空間Gが大きく空いている場合、空間Gの高い内圧は、蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成る通気手段21によって外部へ放出され、空間G内の圧力は大気圧に対してやや高い程度に調節される。その後の放熱により熱湯Hの温度が低下するにつれて空間Gの内圧も次第に低下するが、この場合には通気手段21を通して外気が空間G内に流入するので、内圧が過度に低下することはない。従って、熱湯による加熱とその冷却による圧力変化は最小限度に保たれ、湯たんぽ本体10が変形するほどの圧力低下は起こらない。
【0026】
上記通気手段21は、前述のように蒸気を通過させる一方、湯水は通過させない素材から成るものである。このような素材は防水透湿性素材として公知であるので、防水透湿性素材の中で100℃の温度に耐える適切なものを選択し、適用することが可能である。素材としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PU(ポリウレタン)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)等から構成されるものを挙げることができる。通気手段21の大きさは通気孔19、19−1、19−2に対して大きく図示されているが、上記各例ともこれは例示に過ぎず、具体的な寸法関係を示すものではない。従って、防水透湿性素材の提供形態や通気孔19、19−1、19−2の口径等の条件に応じて任意に選択することができる。
【0027】
本発明の圧力調節装置は、湯たんぽの使用により湯が冷めて内圧が低下し湯たんぽが変形するのを防止するために、湯たんぽの内外を通じる通気孔19、19−1、19−2を湯たんぽの適切な部位に少なくとも1箇所設けて構成される。実施形態の各例では、キャップ12に通気孔19、19−1、19−2を設けた例のみが示されている。しかしながら、例えばキャップ12に螺合する注湯口11の側面や湯たんぽ本体10の注湯口付け根部等に通気孔19を設けることも可能であり、キャップ12に限られないのは言うまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る湯たんぽにおける圧力調節装置の一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る湯たんぽにおける圧力調節装置に用いる例1のキャップの断面図である。
【
図7】従来の湯たんぽにおいて変形を生じていない状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 湯たんぽ本体
11 注湯口
12 キャップ
13 突条
14、15 凹凸
16 底面
17 オネジ部
18 メネジ部
19、19−1、19−2 通気孔
20、30、33、35 圧力調節装置
21 通気手段
22、27 キャップ本体
23、28 栓
24、29 栓取り付け部
25、31 嵌合手段
26 パッキン
32 閉塞面
34、36 枠部