特許第6138045号(P6138045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138045RTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138045
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】RTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/08 20060101AFI20170522BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20170522BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20170522BHJP
   D03D 9/00 20060101ALI20170522BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20170522BHJP
   D03D 15/12 20060101ALI20170522BHJP
   D04H 3/04 20120101ALI20170522BHJP
   D04H 3/002 20120101ALI20170522BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20170522BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   B32B5/08
   B32B3/24 Z
   D03D1/00 A
   D03D9/00
   D03D15/00 C
   D03D15/12 Z
   D04H3/04
   D04H3/002
   B29B11/16
   B29K105:10
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-528417(P2013-528417)
(86)(22)【出願日】2013年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2013056553
(87)【国際公開番号】WO2013133437
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2016年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49831(P2012-49831)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 巻治
(72)【発明者】
【氏名】小林 朗
(72)【発明者】
【氏名】荒添 正棋
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246827(JP,A)
【文献】 特開昭59−128166(JP,A)
【文献】 特許第4667069(JP,B2)
【文献】 特開2004−249507(JP,A)
【文献】 特開2004−197325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B32B1/00−43/00
C08J5/04−5/10
5/24
D03D1/00−27/18
D04H1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法であって、
50000〜60000本の炭素繊維モノフィラメントを収束した炭素繊維ストランドに1m当たり10回から50回の撚りをかけることにより幅が1.7〜2.0mm、厚さが1.7〜2.0mmの略円形或いは楕円形の断面形状とされた単撚繊維束を作製し、
前記単撚繊維束を、重ならないように前記単撚繊維束の間に0.2〜1mmの空隙を形成して一方向に配列し、
前記一方向に配列した各単撚繊維束は、前記各単撚繊維束の片側面、又は、両面に配置され、接着又は融着されたメッシュ状支持体シートにて互いに固定する
ことを特徴とする繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法
【請求項2】
繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法であって、
50000〜60000本の炭素繊維モノフィラメントを収束した炭素繊維ストランドを2〜5本合わせて1m当たり10回から50回の撚りをかけることにより幅が2.0〜2.3mmの略円形或いは楕円形の断面形状とされた合撚繊維束を作製し、
前記合撚繊維束を、重ならないように前記合撚繊維束の間に0.2〜1mmの空隙を形成して一方向に配列し、
前記一方向に配列した各合撚繊維束は、前記各合撚繊維束の片側面、又は、両面に配置され、接着又は融着されたメッシュ状支持体シートにて互いに固定する、
ことを特徴とする繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記メッシュ状支持体シートは、ガラス繊維から成る糸条を1軸、2軸或いは3軸に配向して形成し、前記糸条表面に被覆された樹脂により前記各単撚繊維束に接着又は融着されることを特徴とする請求項1のRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記メッシュ状支持体シートは、ガラス繊維から成る糸条を1軸、2軸或いは3軸に配向して形成し、前記糸条表面に被覆された樹脂により前記各合撚繊維束に接着又は融着されることを特徴とする請求項2のRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法。
【請求項5】
型枠に炭素繊維シートを入れ込み、樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック材を成型するRTM工法において、
前記炭素繊維シートは、請求項1〜のいずれかの項に記載のRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法により製造されたRTM工法用高目付炭素繊維シートであり、
前記樹脂は、樹脂注入時の粘度が30〜300mPa・sであることを特徴とするRTM工法。
【請求項6】
前記樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項に記載のRTM工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材(繊維強化プラスチック材)をRTM工法、或いは、真空引きを伴うVaRTM工法(以下、本明細書では、RTM工法及びVaRTM工法を含めて単に「RTM工法」という。)にて作製する際に使用する高目付の炭素繊維シートの製造方法に関するものであり、また、斯かる高目付の炭素繊維シートを使用したRTM工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RTM工法は、樹脂を含んでいないドライ(樹脂未含浸)の強化繊維シートを用いるのが特徴で、製品の形状に合わせて予め積層したり、縫製したり、融着などをして必要な方向に必要な強度が出るように形を作り(プリフォーム)、型枠に入れ込み、樹脂を注入して、(必要により加熱して)硬化し、製品とする工法である。樹脂注入に際して真空引きすることも行われており、特に、VaRTM工法と呼ばれている。
【0003】
現在、RTM工法により、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材(繊維強化プラスチック材)を作製することが行われている。しかし、このような大型の成型物は、強化繊維シートとしてはガラスマットや不織布を使用することが多い。
【0004】
つまり、RTM工法により大型のFRP材を作製する場合に、単に一方向に炭素繊維を引き揃えて作製される炭素繊維シートを使用した場合には、樹脂注入時に炭素繊維の配向が乱れ易いために、織り物か、編み物とされた炭素繊維シート、又は、一方向炭素繊維シートにステッチングを施したシート形状のものが使用されており、炭素繊維を一方向に並べただけの炭素繊維シートは全く使用されていない。即ち、現在、使用されている炭素繊維シートは、シートの目付量が200〜400g/mとされる織り物を所定繊維目付量となるように複数枚積層して使用されているに過ぎない。
【0005】
しかしながら、織り物、編み物の炭素繊維シート、或いは、ステッチング炭素繊維シート等を使用することは、一方向炭素繊維シートの製造速度が10m/分程度とされるのに対して、シート自体の製造速度が1m/分以下程度とされ、生産性が悪く、コストアップとなっている。
【0006】
特に、断面積の大きな成型品、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材(繊維強化プラスチック材)を作製する場合には、積層枚数が多くなり、作業効率が悪い。また、積層数が多い場合、織り糸や編み糸が多量に入ることになり、このために、強度低下を起こし、また、炭素繊維の含有量(Vf:単位断面積当たりの炭素繊維の断面積比率)を下げる要因となっている。
【0007】
そこで、本発明者らは、数万本の炭素繊維(フィラメント)を収束して構成される各炭素繊維束(炭素繊維ストランド)に撚りを入れ、この炭素繊維ストランドを一方向に並べて炭素繊維シートを作製することを考え、特許文献1に記載するように、炭素繊維束(炭素繊維ストランド)にかける撚りの回数を特定することにより、強度低下しないことを確認し、所定回数の撚りをかけた多数本の炭素繊維フィラメントから成る繊維束にて作製される炭素繊維シートを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4667069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載する炭素繊維シートは、樹脂含浸性にも優れたものであるが、炭素繊維シートの繊維目付量は、50〜800g/mとされている。また、特許文献1に記載するように、斯かる構成の炭素繊維シートを例えば、橋梁や高架道路のような構造物の補強のために接着剤を含浸させて貼着したり、或いは、ハンドレイアップ等により樹脂を塗布含浸させて繊維強化プラスチック製品を作製する場合には、繊維目付が800g/mを超えると、特に1000g/mを超えると樹脂含浸性が悪くなり、実用的でなくなる。
【0010】
本発明者は、上記特許文献1に記載される技術を基にして、更に研究実験を行い、撚りの入った樹脂未含浸の、例えば50K(炭素繊維フィラメントの数が50000本とされる繊維束)といった大径の炭素繊維ストランドを使用して、繊維目付が800g/mを超える高目付の炭素繊維シートを作製し、この炭素繊維シートを使用してRTM工法により、大きな成型品、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材(繊維強化プラスチック材)を作製することを試みた。その結果、このような大径の炭素繊維ストランドを使用した繊維目付が800g/mを超える高目付の炭素繊維シートが、例え1000g/mを超える高目付の炭素繊維シートであってもRTM工法にて大きな成型品を極めて効率よく製造し得ることを見出した。
【0011】
その理由は、
(1)RTM工法は、極めて低粘度の樹脂(RTM用樹脂)を用いることが可能である。
つまり、従来、一方向炭素繊維シートを使用した土木建築用施工樹脂の粘度は3000〜10000mPa・s/23℃程度とされる。従って、このような土木建築用施工樹脂を繊維目付800g/mを超える、特に1000g/mを超える高目付の炭素繊維シートに含浸させるのは極めて困難である。これに対して、RTM用樹脂の粘度は、樹脂注入時(一例として、温度25℃)の粘度が30〜300mPa・s程度とされ、大径の炭素繊維ストランドを使用した繊維目付が800g/mを超え、例え1000g/mを超える高目付の炭素繊維シートであっても極めて効率よく含浸される。一方、このような、低粘度のRTM用樹脂は、天井面や壁面への施工においては樹脂が流れたり、垂れたりするため土木建築用施工樹脂としては使用できない。
(2)繊維に撚り掛けしているため、RTM工法にて樹脂をインジェクションしたときに繊維が流され難い。
(3)RTM工法は、成型厚みの厚い成型が多いため、高目付炭素繊維シートは積層枚数を減らすことができる。
からである。
【0012】
本発明は、斯かる本発明者の新規な知見に基づくものである。
【0013】
本発明の目的は、太い炭素繊維ストランドを用いた炭素繊維シートを使用することで、細い炭素繊維ストランドのシートを複数枚重ねての成型に比べ炭素繊維のVf(単位断面積当たりの炭素繊維の断面積比率)を高くすることができ、FRP材の性能を上げることのできるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、繊維目付800g/mを超える、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材をRTM工法にて作製する際に使用することのできる、撚りの入った樹脂未含浸の、例えば50Kといった大径の炭素繊維ストランドを使用したRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は本発明に係るRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法にて達成される。要約すれば、第一の本発明は、繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法であって、
50000〜60000本の炭素繊維モノフィラメントを収束した炭素繊維ストランドに1m当たり10回から50回の撚りをかけることにより幅が1.7〜2.0mm、厚さが1.7〜2.0mmの略円形或いは楕円形の断面形状とされた単撚繊維束を作製し、
前記単撚繊維束を、重ならないように前記単撚繊維束の間に0.2〜1mmの空隙を形成して一方向に配列し、
前記一方向に配列した各単撚繊維束は、前記各単撚繊維束の片側面、又は、両面に配置され、接着又は融着されたメッシュ状支持体シートにて互いに固定する
ことを特徴とする繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法である
【0016】
第二の本発明は、繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法であって、
50000〜60000本の炭素繊維モノフィラメントを収束した炭素繊維ストランドを2〜5本合わせて1m当たり10回から50回の撚りをかけることにより幅が2.0〜2.3mmの略円形或いは楕円形の断面形状とされた合撚繊維束を作製し、
前記合撚繊維束を、重ならないように前記合撚繊維束の間に0.2〜1mmの空隙を形成して一方向に配列し、
前記一方向に配列した各合撚繊維束は、前記各合撚繊維束の片側面、又は、両面に配置され、接着又は融着されたメッシュ状支持体シートにて互いに固定する、
ことを特徴とする繊維目付が1000g/mを超え、6000g/m以下とされるRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法である。
【0017】
上記本発明の実施態様によれば、前記メッシュ状支持体シートは、ガラス繊維から成る糸条を1軸、2軸或いは3軸に配向して形成し、前記糸条表面に被覆された樹脂により前記各単撚繊維束又は前記各合撚繊維束に接着又は融着される。
【0018】
の本発明は、型枠に炭素繊維シートを入れ込み、樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック材を成型するRTM工法において、
前記炭素繊維シートは、上記構成とされるいずれかのRTM工法用高目付炭素繊維シートの製造方法により製造されたRTM工法用高目付炭素繊維シートであり、
前記樹脂は、樹脂注入時の粘度が30〜300mPa・sであることを特徴とするRTM工法である。
【0019】
の本発明にて、前記樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、太い炭素繊維ストランドを用いた炭素繊維シートを使用することで、細い炭素繊維ストランドのシートを複数枚重ねての成型に比べ炭素繊維のVf(単位断面積当たりの炭素繊維の断面積比率)を高くすることができ、FRP材の性能を上げることができる。従って、本発明によれば、繊維目付800g/mを超える、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材をRTM工法にて、樹脂含浸時間を短縮して、且つ、引張り、曲げ強度などの良好な製品を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明に従った炭素繊維シートの一実施例を示す斜視図である。
図2図2(a)は、本発明に従った炭素繊維シートの一部を拡大した斜視図であり、図2(b)は、合撚繊維束の一部を示す斜視図である。
図3図3は、本発明に従った炭素繊維シートの他の実施例を示す斜視図である。
図4図4は、RTM工法を実施するための実験装置の概略構成図である。
図5図5は、炭素繊維ストランドの撚り数と強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る炭素繊維シートの製造方法及びRTM工法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0023】
実施例1
先ず、図1を参照して、本発明の強化繊維として炭素繊維を使用した炭素繊維シート10について説明する。
【0024】
図1に、本発明の炭素繊維シート10の一実施例を示す。本実施例において、炭素繊維シート10は、撚りをかけた炭素繊維ストランド(本願明細書では、撚りをかけた炭素繊維ストランドを「単撚繊維束」という。)11を一方向に引き揃え、各単撚繊維束11を互いに固定用繊維材13にて固定して、シート状に形成される。炭素繊維ストランドFは、多数本の炭素繊維フィラメントfを収束して形成される。また、各単撚繊維束11の間には、空隙gが形成されている。
【0025】
更に説明すると、本実施例によれば、図1及び図2(a)に示すように、炭素繊維シート10の炭素繊維としては、撚りをかけた炭素繊維ストランドF、即ち、単撚繊維束11が使用される。又、炭素繊維ストランドFのサイズ剤は、本実施例では、0.2%とした。しかし、本発明にて、炭素繊維ストランドFのサイズ剤の量は、これに限定されるものではない。
【0026】
つまり、本実施例によれば、炭素繊維として平均径7μmの炭素繊維モノフィラメントfを50000〜60000本収束した炭素繊維ストランドFを使用し、更に、この炭素繊維ストランドFは、1m当たり5回から50回の撚りがかけられ、単撚繊維束11とされる。撚り回数が5回未満であれば、炭素繊維ストランドFを収束する力が弱く、ストランドFが細くなりにくい。また、50回を越えれば、炭素繊維ストランドFが巻き締めにより硬くなり、樹脂の含浸性が悪くなる。また、繊維の直線性が悪くなり、FRPの性能が低下する。
【0027】
本発明者らは、炭素繊維モノフィラメントfを50000〜60000本収束した太い炭素繊維ストランドFに撚りを入れた場合でも撚り作業性、強度等の物性の点で問題ないこと、及び、斯かる炭素繊維ストランドにて作製した繊維シートは低粘度のRTM用樹脂を使用するRTM工法に好適に使用し得ること、を確認する実験を行った。つまり、
(1)大径の炭素繊維ストランドFに所定回数の撚りを入れても強度低下を来たすことはないこと。
(2)RTM工法に使用される極めて低粘度の、即ち、型枠への樹脂注入時(一例として温度25℃)の粘度が30〜300mPa・s程度とされるRTM樹脂に対する含浸性が優れていること。
従来、上述したように、一方向炭素繊維シートを使用した土木建築用施工樹脂の粘度は3000〜10000mPa・s/23℃程度とされる。
(3)繊維に撚り掛けしていることにより、RTM樹脂をインジェクションしたときに繊維が流され難いこと。
(3)RTM工法は、成型厚みの厚い成型が多いため、高目付炭素繊維シートでは積層枚数を減らすことができること。
などを確認する実験を行った。
【0028】
本実験では、炭素繊維として平均径7μmの高強度炭素繊維モノフィラメントfを50000本収束した炭素繊維ストランドF(サイズ剤0.2%)を使用し、撚りの回数を、撚りなし、5、10、20、30、40、45、50、55、60回/mで確認した。
【0029】
その結果、下記表1及び図5に示すように、炭素繊維ストランドFの引張強度は、撚りなし〜50回/mでは強度低下は見られず、55回/m以上で強度低下が見られた。
【0030】
【表1】
【0031】
一方、炭素繊維ストランドFの幅(w)(図2(a)参照)は、撚りなし、及び、5回/m未満では繊維収束力が弱く、期待されたほど細くすることはできなかったが、5回以上、特に15回/m以上では収束が十分できて炭素繊維ストランドが細くまとまった状態になった。
【0032】
以上より総合すると、炭素繊維ストランドは、繊維の撚り回数は、5〜50回/mの範囲が適しており、中でも、10〜20回/mが最も良好であった。
【0033】
これによって、単撚繊維束11が一方向に引き揃えられたときに、繊維束が広がらないか、或いは、広がる程度がきわめて少なく、単撚繊維束11は、幅(w)が1.7〜2.0mm、厚さ(t)が1.7〜2.0mmの略円形或いは楕円形の断面形状を維持することができる。これにより、各炭素繊維ストランドが重なり合うのを防ぐことができる。
【0034】
従って、本実施例によれば、一方向に配列された単撚繊維束11にて形成される炭素繊維シート10は、その繊維目付が、800g/mを超えた場合、例え1000g/mを超えた場合でも、各単撚繊維束11、11の間に、図1及び図2(a)に示すように、空隙(g)=0〜2mm、好ましくは0.2〜1mmを形成することができる。
【0035】
従って、特に、RTM工法に使用する低粘度(即ち、注入時の温度、一例として25℃にて粘度30〜300mPa・s)のRTM用樹脂の含浸時に、マトリクス樹脂が単撚繊維束11、11間を通過することを容易とする。また、強化繊維とマトリクス樹脂との接触面積を増加させることにより、更には、繊維を集束させることで、各繊維束11中の各炭素繊維フィラメントf間の毛細管現象により繊維束11の内部への樹脂含浸性を改善することができる。
【0036】
本発明によれば、炭素繊維シート10の繊維目付は、上述のように、少なくとも800g/mを超える値、特に1000g/mを超える値とされるが、繊維目付が6000g/mを越えるとシートの厚さ(t)(図2(a))が大となり過ぎ、RTM工法においても、即ち、低粘度のRTM用樹脂を使用しても樹脂含浸性が悪く、実用的でなくなる。好ましくは、繊維目付は、800g/mを超え、特に1000g/mを超え、6000g/m以下、好ましくは、2400g/m以下とされる。
【0037】
上述のように、単撚繊維束11が一方向に引き揃えられた炭素繊維シート10において、各単撚繊維束11は、互いに空隙(g)=0〜2mm、好ましくは0.2〜1mmだけ近接離間して、固定用繊維材13にて固定される。
【0038】
このようにして形成された炭素繊維シート10の長さ(L)及び幅(W)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取り扱い上の問題から、一般には、全幅(W)は、100〜500mmとされる。また、長さ(L)は、100m以上のものも製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0039】
又、各単撚繊維束11を固定用繊維材13にて固定する方法としては、図1に示すように、例えば、固定用繊維材13として横糸を使用し、一方向に配列された複数本の単撚繊維束11を、単撚繊維束11に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸13の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維強化シート10の取り扱い性を考慮して、通常1〜15mm間隔の範囲で選定される。
【0040】
このとき、横糸13は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
【0041】
各単撚繊維束11を一方向に引き揃えてシート状に固定する他の方法としては、図3に示すように、固定用繊維材13としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
【0042】
つまり、一方向に引き揃えたシート形態とされる複数本の単撚繊維束11の片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製したメッシュ状の支持体シート13により支持した構成とすることもできる。
【0043】
この場合には、例えば、2軸構成とされるメッシュ状支持体シート13を構成する縦糸14及び横糸15の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート13を各単撚繊維束11の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート13の縦糸14及び横糸15の部分をシート形態とされた複数本の単撚繊維束11に融着する。
【0044】
メッシュ状支持体シート13は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を単撚繊維束11に対して直交する横糸15のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた複数本の単撚繊維束11に接着することもできる。
【0045】
又、上記固定用繊維材13の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性樹脂をその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0046】
炭素繊維シート10は、撚りをかけた炭素繊維ストランドF、即ち、単撚繊維束11を一方向に引き揃えて作製するものとしたが、別法では、図2(b)に示すように、撚りをかけない状態の炭素繊維ストランド(単繊維束)Fを複数本、例えば、2〜5本を合わせて、図2(b)では3本合わせた全体の繊維束に撚りをかけたもの(本明細書では、「合撚繊維束」という。)12を、上記単撚繊維束11の代わりに使用することも可能である。
【0047】
つまり、この場合にも、上述のように、炭素繊維として平均径7μmの炭素繊維モノフィラメントを50000〜60000本収束した炭素繊維ストランド、即ち、単繊維束Fを使用し、この単繊維束Fを2〜5本合体し、1m当たり5回から50回の撚りをかける。撚り回数が5回未満であれば、炭素繊維ストランドFを収束する力が弱く、ストランドFが細くなりにくい。また、50回を越えれば、炭素繊維ストランドFが巻き締めにより硬くなり、樹脂の含浸性がやりにくくなる。また、繊維の直線性が悪くなり、FRP性能が低下する。好ましくは、撚り数は、10〜20回/mである。
【0048】
これによって、合撚繊維束12は、幅(w)が2.0〜2.3mmの略円形或いは楕円形の断面形状となる。
【0049】
この実施例においても、炭素繊維シート10は、図1に示す単撚繊維束11に代えて、上記合撚繊維束12を一方向に引き揃え、各合撚繊維束12を互いに固定用繊維材3にてシート状に固定される。また、この場合にも、上述のように、合撚撚繊維束12が一方向に引き揃えられた炭素繊維シート10において、各合撚繊維束12の間には、空隙(g)=0〜2mm、好ましくは0.2〜1mmが形成され、繊維の重なりはなくなった。
【0050】
従って、RTM用樹脂含浸時に、マトリクス樹脂が合撚繊維束12、12間を通過することを容易とし、強化繊維とマトリクス樹脂との接触面積を増加させることにより、強化繊維束の内部への樹脂含浸性を改善することができる。
【0051】
性能試験
具体例1
本発明に従って、図3に示す炭素繊維シート10を作製した。
【0052】
炭素繊維として平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを、収束本数50000本収束したPAN系炭素繊維ストランド(単繊維束)Fを用いた。このストランドFは、1m当たり15回撚りをかけて、単撚繊維束11とした。炭素繊維ストランドFのサイズ剤は、0.2%であった。
【0053】
炭素繊維シート10にて、単撚繊維束11を繊維目付が1200g/mとなるように引き揃えてシート状に配列した。このシート状とされる単繊維束11の片面に、メッシュ状支持体シート13を接着した。
【0054】
このようにして作製した炭素繊維シート10は、幅(W)が200mm、長さ(L)が100mであった。各単撚繊維束11間の間隙(g)は、0〜0.2mmであった。
【0055】
比較例として以下の構成の炭素繊維シートを作製した。
【0056】
比較例1
比較例1として、炭素繊維に撚りをかけないストランド(単繊維束)Fを使用した点でのみ異なり、他は全く同じ材料、構成、寸法の、本発明に従った上記具体例1に示す炭素繊維シート10と同様の炭素繊維シートを作製した。
【0057】
比較例2
比較例2として、炭素繊維として平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを、収束本数24000本収束したPAN系炭素繊維ストランド(単繊維束)Fを用いた。このストランドFは、1m当たり15回撚りをかけて、単撚繊維束11とした。炭素繊維ストランドFのサイズ剤は、0.2%であった。
【0058】
炭素繊維シート10にて、単撚繊維束11を繊維目付が400g/mとなるように引き揃えてシート状に配列した。このシート状とされる単繊維束11の片面に、メッシュ状支持体シート13を接着した。
【0059】
このようにして作製した炭素繊維シート10は、幅(W)が200mm、長さ(L)が100mであった。各単撚繊維束11間の間隙(g)は、0〜0.2mmであった。
【0060】
次に、上記具体例1の炭素繊維シート10、及び、比較例1、2の炭素繊維シートを、具体例1及び比較例1では1枚、比較例2では3枚使用してRTM工法により、幅200mm×長さ2m×厚み1.3mmの平板を、図4に示す実験装置100を使用して作製した。
【0061】
図4を参照すると、本実験にて使用した成型装置100は、VaRTM工法を実施する装置とされ、型枠(成形型)101に炭素繊維シート10を入れ込み、その上に樹脂流通媒体102及びバキュームバッグ103がセットされる。成形型101に隣接して配置された樹脂注入装置104から、樹脂流通媒体102と成形型101との間に樹脂Rが注入される。また、バキュームバッグ103が真空引きされ、これにより、炭素繊維シート10に樹脂Rが含浸される。樹脂Rが含浸された炭素繊維シート10は、成形型101と共に加熱装置、例えば、加熱板或いはオーブンにて加熱され、樹脂Rが硬化される。その後、樹脂含浸硬化された炭素繊維シート10は、成形型101から脱型されて製品(炭素繊維強化プラスチック材)とされる。
【0062】
具体例1、比較例1、2で使用した樹脂Rは、低粘度のRTM用樹脂であり、ナガセケムテックス株式会社製の複合材料用エポキシ樹脂(汎用タイプ「XNR/H6809」(商品名))を使用した。該樹脂の粘度は、260mPa・s/25℃、80mPa・s/40℃、であった。また、型枠に注入時の粘度は、即ち、温度25℃における樹脂粘度は、260mPa・sであった。
【0063】
勿論、RTM用樹脂としては、エポキシ樹脂の他、樹脂注入時(一例として温度25℃)の粘度が30〜300mPa・sとされる、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0064】
本実験にて上記具体例1の炭素繊維シート10を使用した場合には、樹脂含浸作業が約0.5時間(総成型作業時間2.5時間)で終了し、炭素繊維シート1の配向乱れもなく、良好な製品を得ることができた。
【0065】
比較例1の炭素繊維シートを使用して、具体例1と同様の製品を作製したが、樹脂含性作業に1時間(総成型作業時間3.5時間)を要した。また、製品には炭素繊維配向乱れが見られた。
【0066】
比較例2の炭素繊維シートを3枚使用して、具体例1と同様の製品を作製したが、製品に炭素繊維配向乱れは見られなかったものの、樹脂含性作業に1.2時間(総成型作業時間4時間)を要した。
【0067】
このように、本発明の炭素繊維シートは、太い炭素繊維ストランドを用いた炭素繊維シートを使用することで、細い炭素繊維ストランドのシートを多数枚重ねての成型に比べ炭素繊維のVf(単位断面積当たりの炭素繊維の断面積比率)を高くすることができ、積層作業など準備を含めて成型時間を大幅に短縮でき、積層時の繊維の乱れなどをより少なくすることができる。それにより、FRP材の性能を上げることができ、且つ、コスト高となるのを回避できる。
【0068】
従って、本発明の炭素繊維シートによれば、繊維目付800g/mを超える、特に1000g/mを超える、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP材をRTM工法にて、樹脂含浸時間を短縮して、且つ、引張り、曲げ強度の良好な製品を作製することができる。
【0069】
尚、本実施例の繊維シートを使用して、土木建築用施工樹脂(樹脂注入時(23℃)の粘度8000mPa・s)を用いて樹脂含浸作業を試みたが、樹脂含浸作業等に多くの時間を必要とし、作業効率の点で大きな問題を有していた。
【符号の説明】
【0070】
10 炭素繊維シート
11 単撚繊維束
12 合撚繊維束
13 固定用繊維材
図1
図2
図3
図4
図5