特許第6138076号(P6138076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138076通信装置、通信システム、及び、通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138076
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】通信装置、通信システム、及び、通信方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/02 20060101AFI20170522BHJP
   H04B 5/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01P5/02 601Z
   H04B5/00
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-53567(P2014-53567)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-177419(P2015-177419A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094363
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 孝久
(74)【代理人】
【識別番号】100118290
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 正明
(72)【発明者】
【氏名】内田 薫規
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/155135(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0167180(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/000−11/00
H04B 5/00−5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で信号の伝送を行う、導波管から成る複数系統の伝送路を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信装置。
【請求項2】
複数系統の伝送路において、隣り合う伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
通信相手の通信装置との間で筐体の平面同士が接触又は近接した状態で通信を行う、
請求項1又は請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
通信装置の筐体は、誘電体から成る、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
通信装置の筐体は、プラスチックから成る、
請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
導波管は、矩形の断面形状を有する、
請求項に記載の通信装置。
【請求項7】
導波管は、円形の断面形状を有する、
請求項に記載の通信装置。
【請求項8】
送信側の伝送路と受信側の伝送路との少なくとも2系統の伝送路を有し、通信相手の通信装置との間で双方向通信が可能である、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項9】
送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きが直交している、
請求項に記載の通信装置。
【請求項10】
通信相手の通信装置との間で通信を行う信号は、高周波の信号である、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項11】
通信相手の通信装置との間で通信を行う信号は、ミリ波帯の信号である、
請求項10に記載の通信装置。
【請求項12】
通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で、導波管から成る複数系統の伝送路を通して通信を行う第1の通信装置及び第2の通信装置を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信システム。
【請求項13】
第1の通信装置と第2の通信装置との間で通信装置同士を接触又は近接させた状態で、導波管から成る複数系統の伝送路を通して通信を行うに当たって、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きを直交させる、
通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信装置、通信システム、及び、通信方法に関し、特に、通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で通信を行う通信装置、通信システム、及び、通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる通信装置(デバイス)間において、複数系統の伝送路を通して通信を行うためには、複数系統の伝送路間でアイソレーションを確保する必要がある。従来は、例えば、自通信装置に具備された送信端子と受信端子との間での信号の回り込みを防ぐために、送信端子と受信端子とを区切る壁の上面に抵抗体を設け、当該抵抗体の作用によって送信端子と受信端子との間のアイソレーションを確保するようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−16166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、アイソレーション確保のために抵抗体という特別な部材を設ける構成を採っている。そして、送信端子と受信端子とを区切る壁の上面に抵抗体を設けているため、通信装置の上面を平面にできない。従って、異なる通信装置間で筐体の平面同士を接触又は近接させた状態で通信を行う通信システムには不向きである。
【0005】
本開示は、アイソレーション確保のために特別な部材を設けなくても、複数系統の伝送路間でアイソレーションを確保することが可能な通信装置、通信システム、及び、通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の通信装置は、
通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で信号の伝送を行う複数系統の伝送路を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信装置である。
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の通信システムは、
通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で、複数系統の伝送路を通して通信を行う第1の通信装置及び第2の通信装置を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信システムである。
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の通信方法は、
第1の通信装置と第2の通信装置との間で通信装置同士を接触又は近接させた状態で、複数系統の伝送路を通して通信を行うに当たって、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きを直交させる、
通信方法である。
【0009】
上記の構成の通信装置、通信システム、あるいは、通信方法において、複数の伝送路内の伝搬モード(電磁界分布)に応じて電界が規定される。そして、複数系統の伝送路間で信号の電界の向きを直交させることで、一方の通信装置から直交する信号の電界の向きで他方の通信装置に伝搬するために、特別な部材を設けなくても、複数系統の伝送路間でアイソレーションを確保できる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、アイソレーション確保のために特別な部材を設けなくても、複数系統の伝送路間でアイソレーションを確保することができる。
尚、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって、これに限定されるものではなく、また付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の実施形態に係る通信システムの構成の一例を示す、一部断面を含む平面図である。
図2図2Aは、送信部の具体的な構成の一例を示すブロック図であり、図2Bは、受信部の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
図3図3Aは、送信側の導波管及び受信側の導波管の断面形状が矩形の場合の信号の電界の向きの関係を示す断面図であり、図3Bは、送信側の導波管及び受信側の導波管の断面形状が円形の場合の信号の電界の向きの関係を示す断面図である。
図4図4は、本開示の実施形態に係る通信システムの具体例を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の技術を実施するための形態(以下、「実施形態」と記述する)について図面を用いて詳細に説明する。本開示の技術は実施形態に限定されるものではなく、実施形態における種々の数値などは例示である。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。尚、説明は以下の順序で行う。
1.本開示の通信装置、通信システム、及び、通信方法、全般に関する説明
2.本開示の実施形態に係る通信システム
3.実施形態の変形例
4.実施形態に係る通信システムの具体例
【0013】
<本開示の通信装置、通信システム、及び、通信方法、全般に関する説明>
本開示の通信装置、通信システム、及び、通信方法にあっては、通信相手の通信装置との間で(異なる通信装置間で)通信を行う信号として、電磁波、特に、マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波などの高周波の信号を用いる構成とすることができる。高周波の信号を用いた通信装置、通信システム、及び、通信方法は、電子機器、情報処理装置、半導体装置などの各種の装置相互間の信号の伝送や、1つの装置(機器)における回路基板相互間の信号の伝送などに用いて好適なものである。
【0014】
上述した好ましい構成を含む通信装置、通信システム、及び、通信方法にあっては、通信相手の通信装置との間で(異なる通信装置間で)通信を行う信号として、好ましくは、高周波の信号のうち、ミリ波帯の信号を用いる。ミリ波帯の信号は、周波数が30[GHz]〜300[GHz](波長が1[mm]〜10[mm])の電波である。ミリ波帯で信号伝送(通信)を行うことで、Gbpsオーダー(例えば、5[Gbps]以上)の高速な信号伝送を実現することができるようになる。Gbpsオーダーの高速な信号伝送が求められる信号としては、例えば、映画映像やコンピュータ画像等のデータ信号を例示することができる。また、ミリ波帯での信号伝送は、耐干渉性に優れており、装置相互間のケーブル接続における他の電気配線に対して妨害を与えずに済むという利点もある。
【0015】
上述した好ましい構成を含む通信装置、通信システム、及び、通信方法にあっては、複数系統の伝送路において、隣り合う伝送路間で信号の電界の向きが直交している構成とすることができる。また、通信相手の通信装置との間で筐体の平面同士が接触又は近接した状態で通信を行う構成とすることができる。通信装置(デバイス)の筐体については、誘電体、例えば、プラスチックから成る構成とすることができる。
【0016】
上述した好ましい構成を含む通信装置、通信システム、及び、通信方法にあっては、複数系統の伝送路について、導波管から成る構成とすることができる。導波管の断面形状については、矩形、あるいは、円形の形態とすることができる。
【0017】
上述した好ましい構成を含む通信装置、通信システム、及び、通信方法にあっては、送信側の伝送路と受信側の伝送路との少なくとも2系統の伝送路を有し、通信相手の通信装置との間で双方向通信が可能な構成とすることができる。また、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きが直交している構成とすることができる。
【0018】
<本開示の実施形態に係る通信システム>
図1は、本開示の実施形態に係る通信システムの構成の一例を示す、一部断面を含む平面図である。本実施形態に係る通信システム10は、異なる通信装置(デバイス)間で、具体的には、第1の通信装置20と第2の通信装置30との間で、通信装置同士を接触又は近接させた状態で、複数系統の伝送路を通して通信を行う構成となっている。ここで、第1の通信装置20及び第2の通信装置30の各々が本開示の通信装置である。
【0019】
第1の通信装置20は、筐体21の内部に送信部22及び受信部23を収納した構成となっている。同様に、第2の通信装置30も、筐体31の内部に送信部32及び受信部33を収納した構成となっている。第1の通信装置20の筐体21及び第2の通信装置30の筐体31は、例えば矩形形状を有し、誘電体、例えば、2[mm]程度の厚みを有するプラスチックから成る。
【0020】
第1の通信装置20及び第2の通信装置30を含む通信システム10は、両通信装置20,30間において、好ましくは、筐体21及び筐体31の平面同士を接触又は近接させた状態で、高周波の信号、例えばミリ波帯の信号を用いて通信を行う。ここで、「近接」とは、高周波の信号がミリ波帯の信号であるから、ミリ波帯の信号の伝送範囲を制限できる限りにおいてであればよい。典型的には、放送や一般的な無線通信で使用される通信装置相互間の距離に比べて距離が短い状態が「近接」させた状態に該当する。より具体的には、「近接」とは、第1の通信装置20と第2の通信装置30との間の距離(間隔)が、10[cm]以下、好ましくは、1[cm]以下の状態を言うものとする。
【0021】
第1の通信装置20において、送信部22の出力端及び受信部23の入力端と、第2の通信装置30側のプラスチック板21Aの内面との間には、第1の通信装置20側の伝送路を形成する例えば導波管24,25が設けられている。第2の通信装置30においても同様に、送信部32の出力端及び受信部33の入力端と、第1の通信装置20側のプラスチック板31Aの内面との間には、第2の通信装置30側の伝送路を形成する例えば導波管34,35が設けられている。これにより、第1の通信装置20及び第2の通信装置30は、送信側の伝送路(導波管24,34)と受信側の伝送路(導波管25,35)との2系統の伝送路を有し、双方向通信が可能な構成となっている。
【0022】
導波管24,25は、第2の通信装置30との間でミリ波帯の信号の伝送を行う。導波管34,35は、第1の通信装置20との間でミリ波帯の信号の伝送を行う。ミリ波帯の信号の伝送を可能にするために、第1の通信装置20の送信側の導波管24と第2の通信装置30の受信側の導波管35とは各開口端面が対向するように配置され、第1の通信装置20の受信側の導波管25と第2の通信装置30の送信側の導波管34とは各開口端面が対向するように配置されている。
【0023】
導波管の種類として、中空導波管や誘電体導波管などを例示することができる。第1の通信装置20側の導波管24,25及び第2の通信装置30側の導波管34,35としては、中空導波管及び誘電体導波管のいずれを用いることも可能である。但し、誘電体導波管は、中空導波管よりも屈曲性に優れている。また、誘電体導波管は、ミリ波帯の信号を誘電体内に閉じ込めつつ伝送する導波構造となっており、ミリ波帯域の電磁波を効率よく伝送させる特性を有する。
【0024】
第1の通信装置20側の導波管24,25及び第2の通信装置30側の導波管34,35として誘電体導波管を用いるに当たっては、例えば、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体導波管にするとよい。ここで、「一定範囲」については、誘電体素材の比誘電率や誘電正接が、所望の効果が得られる程度の範囲であればよく、その限りにおいて予め定めた値のものとすればよい。
【0025】
但し、誘電体導波管の特性については、誘電体素材そのものだけで決められるものではなく、伝送路長やミリ波帯の周波数(波長)も特性を決めるのに関係してくる。従って、必ずしも、誘電体素材の比誘電率や誘電正接について明確に定められるものではないが、一例としては、次のように設定することができる。
【0026】
誘電体導波管内にミリ波帯の信号を高速に伝送させるためには、誘電体素材の比誘電率は、2〜10(好ましくは、3〜6)程度とし、その誘電正接は0.00001〜0.01(好ましくは、0.00001〜0.001)程度とするのが望ましい。このような条件を満たす誘電体素材としては、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系から成るものを例示することができる。
【0027】
送信部22,32は、伝送対象の信号をミリ波帯の信号に変換し、導波管24,34へ出力する処理を行う。受信部23,33は、導波管25,35を通して伝送されるミリ波帯の信号を受信し、元の伝送対象の信号に戻す(復元する)処理を行う。送信部22と送信部32、及び、受信部23と受信部33とは、基本的に同じ構成となっている。以下では、代表して、送信部22及び受信部23の具体的な構成について説明する。
【0028】
図2Aに、送信部22の具体的な構成の一例を示し、図2Bに、受信部23の具体的な構成の一例を示す。
【0029】
送信部22は、例えば、伝送対象の信号を処理してミリ波帯の信号を生成する信号生成部221を有している。信号生成部221は、伝送対象の信号をミリ波帯の信号に変換する信号変換部であり、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移)変調回路から成る構成となっている。具体的には、信号生成部221は、発振器222から与えられるミリ波帯の信号と伝送対象の信号とを乗算器223で乗算することによってミリ波帯のASK変調波を生成し、バッファ224を介して出力する構成となっている。
【0030】
送信部22と導波管24との間には、コネクタ装置26が介在している。コネクタ装置26は、例えば、容量結合、電磁誘導結合、電磁界結合、共振器結合などによって、送信部22と導波管24とを結合する。導波管24は、その開口端面が筐体21の第2の通信装置30側の壁を形成するプラスチック板21Aの内面に接するように、コネクタ装置26とプラスチック板21Aとの間に設けられている。
【0031】
受信部23は、例えば、導波管25を通して与えられるミリ波帯の信号を処理して元の伝送対象の信号を復元する信号復元部231を有している。信号復元部231は、受信したミリ波帯の信号を、元の伝送対象の信号に変換する信号変換部であり、例えば、自乗(二乗)検波回路から成る構成となっている。具体的には、信号復元部231は、バッファ232を通して与えられるミリ波帯の信号(ASK変調波)を乗算器233で自乗することによって元の伝送対象の信号に変換し、バッファ234を通して出力する構成となっている。
【0032】
導波管25と受信部23との間には、コネクタ装置27が介在している。コネクタ装置27は、例えば、容量結合、電磁誘導結合、電磁界結合、共振器結合などによって、導波管25と受信部23とを結合する。導波管25は、その開口端面が筐体21の第2の通信装置30側の壁を形成するプラスチック板21Aの内面に接するように、プラスチック板21Aとコネクタ装置27との間に設けられている。
【0033】
上述したように、本実施形態に係る通信システム10は、第1の通信装置20と第2の通信装置30との間で、筐体21及び筐体31の平面同士を接触又は近接させた状態で、ミリ波帯の信号を用いて通信を行う構成となっている。より具体的には、本実施形態に係る通信システム10は、第1の通信装置20及び第2の通信装置30の双方が送受信部(送信部22及び受信部23/送信部32及び受信部33)を有し、2系統の伝送路(導波管24と導波管25/導波管34と導波管35)を通して双方向通信を行うようになっている。
【0034】
因みに、通信の形態が、高周波の信号としてミリ波帯の信号を用いた通信、所謂、ミリ波通信であることで、次のような利点がある。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じて決まる結合構造並びに導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
【0035】
特に、ミリ波通信において、第1の通信装置20及び第2の通信装置30の各々の伝送路を、導波管を用いた導波構造とし、第1の通信装置20と第2の通信装置30とを接触又は近接させた状態で通信を行う通信システムであるため、外部からの余分な信号の入力を抑制できる。これにより、外部から余分な信号が入力された際に当該信号を除去するための、演算回路等の複雑な回路が不要になるため、その分だけ第1の通信装置20や第2の通信装置30の小規模化を図ることができる。
【0036】
ところで、異なる通信装置間で全二重(Full Duplex)の通信方式にて双方向通信を行うためには、自通信装置(第1の通信装置20/第2の通信装置30)に具備された送信部22−受信部23間/送信部32−受信部33間での信号の回り込みを防ぐためにアイソレーションを確保する必要がある。その際、本実施形態に係る通信システム10のように、筐体21及び筐体31の平面同士を接触又は近接させた状態で通信を行う場合、筐体21及び筐体31の平面の平坦性を確保することが重要となる。
【0037】
双方向通信の通信システムにおいて、例えば、導波管(24,25,34,35)を用いた導波構造を採用した場合、導波管内の伝搬モード(電磁界分布)に応じて電界が規定される。そこで、上記の構成の本実施形態に係る通信システム10にあっては、第1の通信装置20及び第2の通信装置30の各々において、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きを直交させる構成を採っている。
【0038】
すなわち、第1の通信装置20において、送信側の導波管24と受信側の導波管25との間で、即ち、隣り合う伝送路間で信号の電界の向きを直交させ、第2の通信装置30において、送信側の導波管34と受信側の導波管35との間で信号の電界の向きを直交させる。より具体的には、第1の通信装置20において、送信側の導波管24と受信側の導波管25とを、電界が直交する向きでデバイス端面、即ち、筐体21の第2の通信装置30側のプラスチック板21Aの内面に接続する。同様に、第2の通信装置30において、送信側の導波管34と受信側の導波管35とを、電界が直交する向きで、筐体31の第1の通信装置20側のプラスチック板31Aの内面に接続する。
【0039】
このように、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きを直交させるように、導波管24と導波管25、及び、導波管34と導波管35を配置することで、特別な部材を設けなくても(特別な構造を採らなくても)、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間でアイソレーションを確保できる。そして、特別な部材を設けなくてもよいことから、筐体21及び筐体31の平面の平坦性を確保できるため、筐体21及び筐体31の平面同士を接触又は近接させた状態で通信を行う通信システムに有用なものとなる。また、本開示の技術は、例えば、USB3.0やmipi m−PHYなどの高速信号対の全二重の通信方式の実現に用いて好適である。
【0040】
図3Aに、第1の通信装置20における送信側の導波管24及び受信側の導波管25の断面形状が矩形の場合の信号の電界の向きの関係を示す。ここでは、第1の通信装置20側について図示したが、第2の通信装置30における送信側の導波管34及び受信側の導波管35についても同様である。断面形状が矩形の導波管では、図3Aに示すように、信号の電界の向きが一様なため、アイソレーションを確保しやすい。従って、送信側の導波管24及び受信側の導波管25として、断面形状が矩形の導波管を用いることで、他の形状の導波管を用いる場合に比べて、導波路(伝送路)間の距離が短く済み、第1の通信装置20の小型化に有利となる。
【0041】
ここでは、断面形状が矩形の導波管を例示したが、これに限られるものではなく、断面形状が円形の導波管、即ち、円偏波を伝送する円形導波管を用いることも可能である。円形導波管の場合にも、矩形導波管の場合と同様に、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きを直交させるように導波管を配置することになる。図3Bに、第1の通信装置20における送信側の導波管24及び受信側の導波管25の断面形状が円形の場合の信号の電界の向きの関係を示す。図3Bでは、送信側の導波管及び受信側の導波管を、矩形導波管24,25と区別して円形導波管24A,25Aとして図示している。
【0042】
本願発明者の実験により、円形導波管24A,25Aの場合のアイソレーションについて次のような実験結果が確認されている。一例として、筐体21,31のプラスチック板21A,31Aの厚みを2[mm]とし、円形導波管24A,25Aの直径を3.6[mm]とし、第1の通信装置20と第2の通信装置30との間で、通信装置同士を接触させた状態で通信を行うとしたとき、円形導波管24A,25A間の距離が5[cm]程度でアイソレーションの確保が可能であった。そして、本実施形態に係る通信システム10、即ち、ミリ波通信(伝送)の通信システム10に導波路(伝送路)として円形導波管24A,25Aを用いることで、導波管の内径をmmオーダーで実現できるため、小型の通信装置(デバイス)間での通信に適用しやすい。
【0043】
一方、矩形導波管24,25の場合には、信号の電界の向きが一様なことからアイソレーションを確保しやすいため、矩形導波管24,25間の距離が円形導波管24A,25Aの場合よりも短くて済む。従って、第1の通信装置20及び第2の通信装置30における送信側の導波管及び受信側の導波管として、矩形導波管24,25を用いることで、円形導波管24A,25Aを用いる場合に比べて、筐体21,31の小型化、ひいては、本実施形態に係る通信システム10のコンパクト化に寄与できる。
【0044】
<実施形態の変形例>
尚、上記の実施形態では、複数系統の伝送路として、第1の通信装置20及び第2の通信装置30の各々が送信側の伝送路と受信側の伝送路とを有する双方向通信を前提とし、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間でアイソレーションを確保する場合を例に挙げて説明したが、これは一例に過ぎない。第1の通信装置20から第2の通信装置30への片方向通信、あるいは、第2の通信装置30から第1の通信装置20への片方向通信であっても、伝送路が複数系統存在する場合に、これら複数系統の伝送路間、特に、隣り合う伝送路間でのアイソレーション確保に、本開示の技術を適用することができる。
【0045】
また、上記の実施形態では、第1の通信装置20及び第2の通信装置30のそれぞれの伝送路を、導波管を用いた導波構造とした場合を例に挙げて説明したが、導波管を用いた導波構造に限られるものではない。他の伝送路の例としては、例えば、導波管に代えてアンテナを用いて、第1の通信装置20及び第2の通信装置30のそれぞれの伝送路を構築することも可能である。
【0046】
<実施形態に係る通信システムの具体例>
ところで、第1の通信装置20と第2の通信装置30との組み合わせとしては、次のような組み合わせが考えられる。但し、以下に例示する組み合わせは一例に過ぎず、これらの組み合わせに限られるものではない。
【0047】
第2の通信装置30が携帯電話機、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ゲーム機、リモートコントローラなどのバッテリ駆動機器である場合には、第1の通信装置20は、そのバッテリ充電器や画像処理などを行う、所謂、ベースステーションと称される装置となる組み合わせが考えられる。また、第2の通信装置30が比較的薄いICカードのような外観を有する装置である場合には、第1の通信装置20は、そのカード読取/書込装置となる組み合わせが考えられる。カード読取/書込装置は更に、例えば、デジタル記録/再生装置、地上波テレビジョン受像機、携帯電話機、ゲーム機、コンピュータなどの電子機器本体と組み合わせて使用される。
【0048】
図4は、本開示の実施形態に係る通信システムの具体例を示すシステム構成図である。本具体例に係る通信システムは、スマートフォン(多機能型携帯電話)等の携帯端末装置40とパーソナルコンピュータ(PC)60との間で、プラスチックコネクタ等の中継装置50を経由して双方向通信(双方向伝送)を行うシステム構成となっている。本具体例に係る通信システムと、先述した実施形態に係る通信システムとの対応関係については、携帯端末装置40が第1の通信装置20に対応し、中継装置50が第2の通信装置30に対応することになる。そして、本具体例に係る通信システムでは、中継装置50の上面に対して、携帯端末装置40の例えば下面を接触又は近接させた状態で通信が行われる。
【0049】
第1の通信装置20に対応する携帯端末装置40は、送信部22、受信部23、及び、導波管24,25に加えて、例えば、USB3.0のUSBメモリ28を内蔵している。ここでは、導波管24,25として、信号の電界の向きが直交するように配置された、例えば円形導波管(円偏波導波管)を用いている。そして、携帯端末装置40は中継装置50との間で、ミリ波帯の信号を用いた例えば5[Gbps]の双方向伝送を行う。具体的には、携帯端末装置40において、USBメモリ28のデータを送信部22から中継装置50へ伝送し、また、中継装置50から送信されてくるデータを受信部23で受信し、USBメモリ28に格納する。
【0050】
一方、第2の通信装置30に対応する中継装置50は、送信部32、受信部33、及び、導波管34,35に加えて、USBコネクタ36を備えている。携帯端末装置40と同様に、導波管34,35として、信号の電界の向きが直交するように配置された円形導波管を用いている。USBコネクタ36とパーソナルコンピュータ60との間にはUSBケーブル70が介在している。
【0051】
そして、中継装置50は、携帯端末装置40とパーソナルコンピュータ60との間でのデータの伝送を中継する。具体的には、中継装置50において、携帯端末装置40から送信されてくるデータを受信部33で受信し、この受信したデータをUSBコネクタ36及びUSBケーブル70を通してパーソナルコンピュータ60へ伝送する。また、パーソナルコンピュータ60からUSBケーブル70及びUSBコネクタ36を通して入力されるデータを、送信部32から携帯端末装置40へ送信する。
【0052】
上述したように、携帯端末装置40と中継装置50との間でミリ波帯の信号を用いて双方向通信を行う通信システムにおいて、送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きを直交させることで、特別な部材を設けなくても、伝送路間でアイソレーションを確保できる。これにより、携帯端末装置40及び中継装置50の各筐体の平面の平坦性を確保できるため、中継装置50の上面に対して、携帯端末装置40の例えば下面を接触又は近接させた状態での通信を実現できる。
【0053】
尚、本開示は以下のような構成をとることもできる。
[1]通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で信号の伝送を行う複数系統の伝送路を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信装置。
[2]複数系統の伝送路において、隣り合う伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
上記[1]に記載の通信装置
[3]通信相手の通信装置との間で筐体の平面同士が接触又は近接した状態で通信を行う、
上記[1]又は上記[2]に記載の通信装置。
[4]通信装置の筐体は、誘電体から成る、
上記[3]に記載の通信装置。
[5]通信装置の筐体は、プラスチックから成る、
上記[4]に記載の通信装置。
[6]複数系統の伝送路は、導波管から成る、
上記[1]から上記[5]のいずれかに記載の通信装置
[7]導波管は、矩形の断面形状を有する、
上記[6]に記載の通信装置。
[8]導波管は、円形の断面形状を有する、
上記[6]に記載の通信装置。
[9]送信側の伝送路と受信側の伝送路との少なくとも2系統の伝送路を有し、通信相手の通信装置との間で双方向通信が可能である、
上記[1]から上記[8]のいずれかに記載の通信装置。
[10]送信側の伝送路と受信側の伝送路との間で信号の電界の向きが直交している、
上記[9]に記載の通信装置。
[11]通信相手の通信装置との間で通信を行う信号は、高周波の信号である、
上記[1]から上記[10]のいずれかに記載の通信装置。
[12]通信相手の通信装置との間で通信を行う信号は、ミリ波帯の信号である、
上記[11]に記載の通信装置。
[13]通信相手の通信装置との間で接触又は近接した状態で、複数系統の伝送路を通して通信を行う第1の通信装置及び第2の通信装置を備え、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きが直交している、
通信システム。
[14]第1の通信装置と第2の通信装置との間で通信装置同士を接触又は近接させた状態で、複数系統の伝送路を通して通信を行うに当たって、
複数系統の伝送路間で信号の電界の向きを直交させる、
通信方法。
【符号の説明】
【0054】
10・・・実施形態に係る通信システム、20・・・第1の通信装置、30・・・第2の通信装置、21,31・・・筐体、21A,31A・・・プラスチック板、22,32・・・送信部、23,33・・・受信部、24,25,34,35・・・導波管(矩形導波管)、24A,25A・・・円形導波管、26,27・・・コネクタ装置、28・・・USBメモリ、36・・・USBコネクタ、40・・・携帯端末装置、50・・・中継装置、60・・・パーソナルコンピュータ(PC)、70・・・USBケーブル、221・・・信号生成部(信号変換部)、222・・・発振器、223,233・・・乗算器、224,232,234・・・バッファ、231・・・信号復元部(信号変換部)
図1
図2
図3
図4