特許第6138213号(P6138213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138213多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138213
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/053 20060101AFI20170522BHJP
   B23K 37/04 20060101ALI20170522BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20170522BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B23K37/053 D
   B23K37/04 Y
   B23K9/028 Q
   B23K9/00 501H
   B23K9/028 P
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-212707(P2015-212707)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-80784(P2017-80784A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2016年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】505262099
【氏名又は名称】IKOMAロボテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222336
【氏名又は名称】トーステ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇一郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】生駒 徹志
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−017943(JP,B1)
【文献】 特開昭60−184491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/00−37/08
B23K 9/00− 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の溶接する箇所を有する面を有する被溶接物において、各溶接する箇所を通り該面に対して直交する方向に延びる各軸線を中心とする一定半径の円に沿って該箇所への溶接を行う、溶接装置であって、
該被溶接物を、当該溶接装置内の所定位置で該面に直交するように延びる回転軸線の周りで回転可能に保持するとともに、該被溶接物を該溶接する箇所のうちの任意の箇所を通る該軸線が該回転軸線と一致するように該面に対して平行に変位可能とした被溶接物保持装置と、
該回転軸線に隣接した位置に設定可能なトーチを備える溶接部と
を有し、
該被溶接物保持装置が、
該回転軸線を中心に回転可能にされた回転支持体と、
該回転支持体に設けられ、該被溶接物を保持すると共に該回転軸線に直交する平面に平行に変位可能とされて、該溶接する箇所を通る該軸線を該回転軸線に整合することを可能とした被溶接物保持手段と、
当該溶接装置内の基準位置に設定されて、該回転支持体の回転軸線に直交する平面に平行に変位可能とされ、該基準位置から該溶接する箇所を通る該軸線の位置まで変位することにより該基準位置から該溶接する箇所の該軸線までの距離を決定するプローブと
を有し、
該被溶接物保持手段は、該決定された距離から求められる該溶接する箇所を通る該軸線の該回転支持体の回転軸線に対する位置に基づき、該溶接する箇所を通る該軸線を該回転軸線に整合させるように該被溶接物を動かすようにされており、
該任意の箇所を通る該軸線が該回転軸線と一致した状態で、該被溶接物を該回転軸線の周りで回転させることにより、該トーチによる該任意の箇所を通る該軸線の周りの一定半径の円に沿った溶接を行うようにされている、多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置。
【請求項2】
該被溶接物保持手段は、該回転支持体に取り付けられて該回転軸線に直交する平面内で該回転軸線に対して直交する1つの方向に変位可能とした第1直線変位部材と、該第1直線変位部材に取り付けられ該平面内で該第1直線変位部材の変位方向に対して直交する方向に変位可能とした第2直線変位部材と、該第2直線変位部材に取り付けられ該被溶接物を把持するするクランプ部材とを有する請求項に記載の多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置。
【請求項3】
該被溶接物が、該面に設けられた多数の管穴に挿入された伝熱管の端部を備える熱交換器の管板とされ、
被溶接物保持手段は該管板を端部に有する筒状胴体を保持するようにされており、
該プローブは該管板の該面に向けられて延びる先細りの先端部分を有し、該先端部分を溶接する該伝熱管の端部内に挿入することにより、該プローブの中心軸線が該溶接する伝熱管の中心軸線に一致するように変位し、一致するように変位することにより該基準位置から該溶接する伝熱管の中心軸線までの距離を決定するようにされている請求項1又は2に記載の多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置。
【請求項4】
該被溶接物保持手段は、該決定された距離に基づき算出される、該回転支持体の回転軸線に対する他の管の中心軸線の位置に基づき、該他の管の中心軸線を該回転支持体の回転軸線に順次整合させるようにされている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置。
【請求項5】
請求項に記載の多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置を使用する方法であって、
該基準位置におけるプローブの中心軸線を該回転支持体の回転軸線に一致させ、
溶接する伝熱管の端部を、管板の基準図面上における当該管板の中心軸線を通る垂直線上にある1つの管穴に挿入されたものとし、
被溶接物保持手段に保持された筒状胴体の中心軸線とプローブの中心軸線との間の該回転支持体の回転軸線に対して直交する面内での水平方向での距離だけ筒状胴体を同面に平行に水平方向に動かして筒状胴体の中心軸線を通る垂直線がプローブの中心軸線を通るようにし、
該基準図面上での溶接する伝熱管の端部の中心軸線とプローブの中心軸線と垂直方向での距離だけ筒状胴体を垂直方向で動かすことにより、該基準図面上での溶接する伝熱管の端部の中心軸線がプローブの中心軸線と一致するようにし、
このときの被溶接物保持手段によって保持された筒状胴体の端板における溶接する伝熱管の端部の実際の位置の基準図面上での位置からズレを特定し、このズレに基づき被溶接物保持手段により保持されていている筒状胴体の、当該筒状胴体の中心軸線に対する傾きを特定し、
これにより回転支持体の回転軸線に対する他の伝熱管の端部の位置を特定して該他の伝熱管の端部の溶接を順次行うようにした溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管円筒式熱交換器の管板と伝熱管端部との溶接など、多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接を行うための装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業空調設備、電子産業、製薬、食品工業のプラント等で使用される多管円筒式熱交換器では、筒状胴体内に多数の伝熱管を配置し、円筒胴体の両端に設けられた管板の管穴に伝熱管の端部を通して該端部の周囲を管板に溶接する。その溶接を手動で行うことは煩雑であり、自動化が図られている。
【0003】
溶接作業の自動化は様々な方法で実現されており、例えば、特許文献1に記載の装置では、あらかじめ準備された管板面の基準画像と、管板面を撮影可能な位置に固定されたCCDカメラと、トーチ回転機構、トーチ位置を補正するためのX,Y方向の移動機構を設けられている。この装置で溶接作業を行うためには、まず、溶接対象の熱交換器の胴体を当該装置に把持させ、CCDカメラを狭視野に設定して管板面の画像を撮影する。基準画像と比較し、管板の管穴とマスター画像の管穴との位置ずれ量を求め、トーチの移動機構によりトーチ位置を補正した上で管穴内に挿入されている伝熱管の端部の周囲を管板に溶接するものである。また、1箇所の管穴の溶接が完了すると、CCDカメラを広視野に切り換えて複数の管穴を撮影し、近接の管穴の位置を割り出し、所定の位置だけトーチを移動させて溶接を行う。この操作を繰り返して複数の管穴を順次溶接する。
【0004】
しかし、この方法では固定位置された管板に設けられた多数の管穴位置へトーチを移動し、各管穴の周りを周回して溶接を行うため、トーチケーブル、溶接ワイヤーが複雑に曲折し、安定した溶接ワイヤーの供給が行えない場合が生じ、溶接品質に影響することがある。熱交換器においては、熱膨張収縮を繰り返すため、溶接が不均一であった場合、部分的に応力集中が発生し、破損に至ることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−9427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような従来の伝熱管端部の管板に対する溶接のように多数の被溶接箇所を有する被溶接物に対して溶接を行う溶接装置における問題を解消することを可能とする溶接装置及びその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
多数の溶接する箇所を有する面を有する被溶接物において、各溶接する箇所を通り該面に対して直交する方向に延びる各軸線を中心とする一定半径の円に沿って該箇所への溶接を行う、溶接装置であって、
該被溶接物を、当該溶接装置内の所定位置で該面に直交するように延びる回転軸線の周りで回転可能に保持するとともに、該被溶接物を該溶接する箇所のうちの任意の箇所を通る該軸線が該回転軸線と一致するように該平面に対して平行に変位可能とした被溶接物保持装置と、
該回転軸線に隣接した位置に設定可能なトーチを備える溶接部と
を有し、
該任意の箇所を通る該軸線が該回転軸線と一致した状態で、該被溶接物を該回転軸線の周りで回転させることにより、該トーチによる該任意の箇所を通る該軸線の周りの一定半径の円に沿った溶接を行うようにした、多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置を提供する。
この溶接装置では、トーチは一定位置に保持した状態で、被溶接物を回転するようにしたので、前述のような従来の溶接装置が有していた問題を解消することを可能とする。
【0008】
具体的には、
該被溶接物保持装置は、
該回転軸線を中心に回転可能にされた回転支持体と、
該回転支持体に設けられ、該被溶接物を保持すると共に該回転軸線に直交する平面に平行に変位可能とされて、該溶接する箇所を通る該軸線を該回転軸線に整合することを可能とした被溶接物保持手段と、
を有するようにすることができる。
【0009】
より具体的には、
該被溶接物保持手段は、該回転支持体に取り付けられて該回転軸線に直交する平面内で該回転軸線に対して直交する1つの方向に変位可能とした第1直線変位部材と、該第1直線変位部材に取り付けられ該平面内で該第1直線変位部材の変位方向に対して直交する方向に変位可能とした第2直線変位部材と、該第2直線変位部材に取り付けられ該被溶接物を把持するするクランプ部材とを有するようにすることができる。
【0010】
上記の溶接装置は、更に、当該溶接装置内の基準位置に設定されて、該回転支持体の回転軸線に直交する平面に平行に変位可能とされ、該基準位置から該溶接する箇所を通る該軸線の位置まで変位することにより該基準位置から該溶接する箇所の該軸線までの距離を決定するプローブを有するようにし、
該被溶接物保持手段が、該決定された距離から求められる該溶接する箇所を通る該軸線の該回転支持体の回転軸線に対する位置に基づき、該溶接する箇所を通る該軸線を該回転軸線に整合させるように該被溶接物を動かすようにすることができる。
【0011】
具体的には、
該該被溶接物が、該面に設けられた多数の管穴に挿入された伝熱管の端部を備える熱交換器の管板とされ、
被溶接物保持手段は該管板を端部に有する筒状胴体を保持するようにされており、
該プローブは該管板の該面に向けられて延びる先細りの先端部分を有し、該先端部分を溶接する該伝熱管の端部内に挿入することにより、該プローブの中心軸線が該溶接する伝熱管の中心軸線に一致するように変位し、一致するように変位することにより該基準位置から該溶接する伝熱管の中心軸線までの距離を決定するようにした熱交換器の管板の溶接装置とすることが出来る。
【0012】
また、該被溶接物保持手段は、該決定された距離に基づき算出される、該回転支持体の回転軸線に対する他の管の中心軸線の位置に基づき、該他の管の中心軸線を該回転支持体の回転軸線に順次整合させるようにすることができる。
【0013】
本発明ではまた、上記熱交換器の管板の溶接装置として用いる場合、
該基準位置におけるプローブの中心軸線を該回転支持体の回転軸線に一致させ、
溶接する伝熱管の端部を、管板の基準図面(管板に設けられた多数の管穴の位置及び距離を示す図面)上における当該管板の中心軸線を通る垂直線上にある1つの管穴に挿入されたものとし、
被溶接物保持手段に保持された筒状胴体の中心軸線とプローブの中心軸線との間の該回転支持体の回転軸線に対して直交する面内での水平方向での距離だけ筒状胴体を同面に平行に水平方向に動かして筒状胴体の中心軸線を通る垂直線がプローブの中心軸線を通るようにし、
該基準図面上での溶接する伝熱管の端部の中心軸線とプローブの中心軸線と垂直方向での距離だけ筒状胴体を垂直方向で動かすことにより、該基準図面上での溶接する伝熱管の端部の中心軸線がプローブの中心軸線と一致するようにし、
このときの被溶接物保持手段によって保持された筒状胴体の端板における溶接する伝熱管の端部の実際の位置の基準図面上での位置からズレを特定し、このズレに基づき被溶接物保持手段により把持されていている筒状胴体の、当該筒状胴体の中心軸線に対する傾きを特定し、
これにより回転支持体の回転軸線に対する他の伝熱管の端部の位置を特定して該他の伝熱管の端部の溶接を順次行うようにした溶接方法を提供する。
本発明のこの方法では、プローブによる、溶接をする1つの伝熱管端部の位置を特定することにより他の全ての伝熱管端部の位置を特定でき、それら端部の溶接を行うことが可能となる。従って、この方法によれば、上述した従来の溶接において必要とされていた、1箇所の管穴の溶接が完了するごとに、CCDカメラを広視野に切り換えて複数の管穴を撮影し、近接の管穴の位置を割り出し、所定の位置だけトーチを移動させて溶接を行うといった煩わしい作業を行う必要が無く、かつ、各溶接を正確に行うことが可能となる。
【0014】
以下、本発明に係る多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置を、その一実施形態としての熱交換器の管板における伝熱管端部の溶接を行う溶接装置として示した添付図面に基づき本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る溶接装置の一実施形態としての熱交換器の管板における伝熱管端部の溶接を行うための伝熱管端部溶接装置の平面図である。
図2図1に示す伝熱管端部溶接装置の左側面図である。
図3図1に示す伝熱管端部溶接装置の把持装置の正面図である。
図4図3に示す把持装置の背面図である。
図5図1に示す伝熱管端部溶接装置の溶接部の平面図である。
図6図5に示す溶接部の正面図である。
図7図6に示す溶接部におけるトーチユニットの拡大正面図である。
図8図7に示すトーチユニットの左側面図である。
図9図5に示す溶接部におけるトーチユニットの拡大平面図である。
図10図1に示す伝熱管端部溶接装置における溶接操作におけるトーチユニットと溶接がされる熱交換器との関係を示す図である。
図11図6に示す伝熱管端部溶接部におけるプローブユニットの拡大正面図である。
図12図11に示すプローブユニットの左側面図である。
図13図11に示すプローブユニットの平面図である。
図14図1に示す伝熱管端部溶接装置において溶接を行う伝熱管の芯だしを行う場合のプローブユニットと熱交換器との関係を示す図である。
図15】伝熱管の芯だしを行うための位置補正量検出を説明するための図である。
図16図1の伝熱管端部溶接装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図示のように、本発明の一実施形態に係る伝熱管端部溶接装置1は、熱交換器の筒状胴体2の両端を保持し、当該筒状胴体2を回転させる左右の保持装置100と、左側の保持装置100に隣接して設けられた溶接部200とを備えており、溶接部200が筒状胴体2の左側端部の管板3に設けられている管穴3a(図10)に通された伝熱管4の端部4aを管板3に溶接するようになっている。
[保持装置100]
【0017】
左右の保持装置100は基本的には同じ構造とされており、以下においては図1で見て左側の保持装置100を参照しながら説明する。図3及び図4に示すように、保持装置100は当該伝熱管端部溶接装置1の設置場所に設置されるベース110上に設定された図3及び図4で見て全体として矩形状とされた本体111と、本体111に大きく開口するように設けられた貫通開口111a内に回転可能に設けられたリング状で内周に沿って歯車歯112a(図4)が設けられた回転支持体112と、回転支持体112に固定された全体として矩形の支持基体113と、支持基体113にガイドレール114を介して図で見て鉛直方向に移動可能に設けられた第1直線変位部材115と、第1直線変位部材115にガイドレール118を介して図で見て水平方向に移動可能に設けられた第2直線変位部材119と、を有する。第1直線変位部材115は、矩形の支持基体113に固定されたサーボモータ117に連結されており、サーボモータ117を駆動させることにより、鉛直方向に移動可能とされており、第2直線変位部材119はサーボモータ122により水平方向に移動可能とされている。第2直線変位部材119は、クランプ部材121a、121bを備えており、ハンドル120を回転させることにより、熱交換器の筒状胴体2をクランプ部材121a、121bにより把持したり解放したりできるようになっている。従って、保持装置100は筒状胴体2の端部を保持した状態で、サーボモータ117およびサーボモータ122により、筒状胴体2をその中心軸線と直角に交差する平面内で変位することができるようになっている。
【0018】
図4に示すように、保持装置100の本体111の背面には、モーターベース123が固定され、モーターベース123にはサーボモータ124と、サーボモータ124の出力軸に連結されたベベルギヤボックス125とが設けられている。ベベルギヤボックス125の出力軸は水平に回転支持体112内に延び、その先端に回転支持体112の歯車歯112aに係合する図示しないピニオンを有しており、サーボモータ124を駆動することにより、回転支持体112を回転させるようになっている。
[溶接部200]
【0019】
図5及び図6に示すように、溶接部200は、架台201、トーチユニット210、プローブユニット250を備えており、トーチユニット210、プローブユニット250は、架台201上のガイドレール202に沿って可動とされた溶接部ベース204上に固定されている。トーチユニット210はTIG溶接を行い、プローブユニット250はTIG溶接を行う前に溶接しようとする伝熱管4の位置を特定するためのものである。溶接部ベース204はエアシリンダ203により、図示のようにトーチユニット210がストッパー205bによって係止されてトーチユニット210が管板3に対向する位置と、ストッパー205aによって係止されてプローブユニット250が管板3に対向する位置との間で変位されるようになっている。
[トーチユニット210]
【0020】
トーチユニット210は、溶接ベース204上に固定された溶接基部フレーム211と、溶接基部フレーム211に前後方向で摺動可能に取り付けられた前後基準位置設定摺動体214と、溶接基部フレーム211に前後方向で摺動可能に取り付けられた下部支持体218と、下部支持体218上に垂直方向で変位可能に取り付けられた中間支持体220と、該中間支持体220に前後方向で摺動可能に取り付けられた上部支持体222と、該上部支持体222に取り付けられトーチ230を支持するトーチ支持部210Aと、を有する。以下、詳細に説明する。
【0021】
図7及び図8に示すように、トーチ支持部210Aは、トーチ230を支持する略垂直に設定された板状の垂直支持部材229と、垂直支持部材229を支持する略水平に設定された水平支持部材228と、水平支持部材228にL形ブラケット227を介して連結された上下調整ユニット226とを有しており、上下調整ユニット226は前後調整ユニット225によって支持されている。トーチ230は、垂直支持部材229に設けられた円弧状の孔229aに沿って変位可能に接続され、垂直支持部材229は、水平支持部材228に設けられた円弧状の孔228aに沿って変位可能に接続されており、トーチ230の取り付け角度が調節可能にされている。上下調整ユニット226は調整ねじ226AによりL形ブラケット227を上下方向で変位させ、前後調整ユニット225は調整ねじ225Aにより上下調整ユニット226を前後方向で変位させるようになっており、トーチ230の取り替えなどのときに当該トーチを上下及び前後方向で変位させるのに使用される。上部支持体222は、中間支持体220に設けられた水平エアシリンダ224によりトーチ230を、フィラーを用いないTIG溶接のための前方トーチ位置と、フィラーを用いる場合の後方トーチ位置との間を変位可能とされている。中間支持体220は、垂直エアシリンダ221を介して下部支持体218に取り付けられており、溶接する伝熱管4の直径の大小により、垂直エアシリンダ221を駆動して上下方向で変位され、トーチ230の先端を適正な溶接高さに調整することができるようになっている。前後基準位置設定摺動体214は、垂直エアシリンダ216及びストッパー215を有し、溶接基部フレーム211に固定された水平エアシリンダ213により、前後方向で変位されるようになっている。また、下部支持体218は、溶接基部フレーム211に固定された水平エアシリンダ219により、前後方向で変位されるようになっている。下部支持体218の底面にはストッパー217が設けられており、垂直エアシリンダ216のロッドが上方に伸張された状態において当該下部支持体218が水平エアシリンダ219により前進されたときに該ロッドにストッパー217が係合し、その前進が止められるようになっている。
[プローブユニット250]
【0022】
プローブユニット250は溶接部ベース204上に固定されたプローブ基部251と、プローブ基部251に前後方向で延びるように設けられた水平ガイドレール252と、水平ガイドレール252によって案内される前後摺動体253と、前後摺動体253を水平ガイドレール252に沿って前後に動かす水平エアシリンダ254とを有する。
【0023】
前後摺動体253は、その前面(管板3に面する面)に固定された水平ガイドレール256と、水平ガイドレール256の両側に隣接して設けられたストッパー255a、255bと、水平ガイドレール256によって管板3に平行に水平に移動自在とされた水平摺動体257とを有している。水平摺動体257は、図示しないスプリングにより、外力が働かない場合、ストッパー255aと255bの中間点に位置するようになっている。
【0024】
水平摺動体257は、その前面に固定された垂直ガイドレール259と、垂直ガイドレール259の両端に隣接した位置で水平摺動体257の前面に固定された、ストッパー258a、ストッパー258bと、垂直ガイドレール259によって管板3に平行に垂直に移動自在とされた垂直摺動体260とを有しており、該垂直摺動体260の中心位置からプローブ261が前方に突出するように設けられている。プローブ260の先端部分260aは先細りとされており、その先端中心は当該プローブ260の中心軸線上にあるようにされている。垂直摺動体260は、図示しないスプリングにより、外力が働かない場合、ストッパー258aと258bの中間点に位置するようになっている。
【0025】
また、前後摺動体253は、センサー262を有し、垂直摺動体260の左側面との間の水平方向での距離を測定できるようになっている。また、水平摺動体257は、センサー263を有し、プレート260の上面との間の垂直方向での距離を測定できるようになっている。
[プローブ操作]
【0026】
プローブユニット250は以下のように操作される。
先ず、プローブユニット250が保持装置100により保持されている管板3に対向する位置となるように溶接部ベース204を位置決めする。このときプローブ261の中心軸線が、回転支持体112の回転中心軸線と一致するようにするのが好ましい。
溶接しようとする伝熱管4の端部4aの中心軸線がプローブ261の先端中心とほぼ同じ位置となるようにサーボモータ117及びサーボモータ122を駆動する。
その後、水平エアシリンダ254により前後摺動体253を前進させ、プローブ261の先細りとされた先端部分261aを当該伝熱管4に挿入する。挿入される前の伝熱管4の中心軸線とプローブ261の先端中心(中心軸線)とが一致していない場合、プローブ261は先細りの先端部分261aの作用によりその中心軸線が伝熱管4の中心軸線に一致するように変位し、それに従って水平摺動体257及び垂直摺動体260がそれぞれ水平及び垂直方向に動く。
水平摺動体257及び垂直摺動体260の移動距離は、センサー262及びセンサー263により測定され、それによりプローブ261の先端中心の水平方向変位x及び垂直方向変位yがわかる。このとき、伝熱管4の中に挿入する前のプローブ261の中心軸線の回転支持体112の回転軸線に対する位置を特定しておけば、そのプローブ261の中心軸線の位置と上記x及びyの変位とから伝熱管4の中心軸線と回転支持体112の回転軸線との位置関係が分かり、従った、保持装置100のサーボモータ117及びサーボモータ122を駆動することにより伝熱管4の中心軸線を回転支持体112の回転軸線と一致するようにすることができる。具体的な例としては、伝熱管4の中に挿入する前のプローブ261の中心軸線を回転支持体112の回転軸線を回転支持体112の回転軸線に一致させておけば、保持装置100のサーボモータ117及びサーボモータ122を駆動して上記変位x、y分がゼロとなるようにすることにより、上記中心軸線と回転軸線との一致を行うことが出来る。従って、そのようにした後にトーチ230を該伝熱管4の端部に隣接した位置として回転支持体112を回転すれば当該伝熱管4の端部は支持体112の回転軸線を中心に回転され、該端部周りを管板3に溶接することが可能となる。
【0027】
また、図15に示すような、保持装置100により保持された筒状胴体2の中心軸線cと、回転支持体112の回転軸上に設定されるプローブ261の位置と、保持装置100によって保持された筒状胴部2の管板3における溶接しようとする伝熱管4の端部4c’との関係を特定することにより、回転支持体112の回転軸線からの他の伝熱管の位置を特定することができ、従って、それら他の伝熱管を順次、この回転軸線に一致させて溶接を行うことが出来る。
上記位置の特定は以下のようにして行う。
先ず、伝熱管4の中に挿入する前のプローブ261の中心軸線を回転支持体112の回転軸線に一致させておき、溶接しようとする伝熱管4の端部4aを、管板3の基準図面(管板3に設けられた多数の管穴3aの位置及び距離を示す図面)上における当該管板3の中心軸線(従って筒状胴体2の中心軸線)を通る垂直線上にある管穴に挿入されたものであるとする。保持装置100に保持された筒状胴体2の中心軸線c(図15)とプローブ261の中心軸線との間の回転支持体112の回転軸線に対して直交する面内でのX方向(水平方向)での距離だけ筒状胴体2を同直交する面に平行にX方向に動かして筒状胴体2の中心軸線cを通る垂直線がプローブ261の中心軸線(従って、回転支持体112の回転軸線)を通るようにする。次に基準図面上での溶接しようとする伝熱管4の端部4cの中心軸線と筒状胴体2(管板3)の中心軸線との間の距離、及び、プローブ261の中心軸線と保持装置100により保持された筒状胴体2の中心軸線cとの間の距離分だけ筒状胴体をY方向(垂直方向)で動かすことにより、基準図面上での溶接しようとする伝熱管4の端部4cの中心軸線がプローブ261の中心軸線と一致するにする。このとき保持装置100によって保持された筒状胴体2の端板3における溶接しようとする伝熱管4の端部の実際の位置4c’が基準図面上での位置4cからずれていたとすると、筒状胴体2の中心軸線c、基準図面上の溶接しようとする伝熱管の端部4c、実際の溶接しようとする伝熱管4の端部4c’の位置関係は図15に示すようになる。この状態から上述のようにプローブ261を伝熱管4に差し込むことにより変位x、yが得られれば保持装置100により保持されていている筒状胴体の、該筒状胴体の中心軸線cに対する傾きθが分かり、これにより回転支持体112の回転軸線からの他の伝熱管の位置が分かり、従って、それら他の伝熱管を順次、プローブ261の中心軸線(回転支持体112の回転軸線)に一致させるようにして、順次溶接を行うことが出来る。
【0028】
回転支持体112の回転軸線からの他の伝熱管の位置の割り出しは次のようにしても行うことが出来る。
伝熱管4の中に挿入する前のプローブ261の中心軸線を回転支持体112の回転軸線に一致させておき、溶接しようとする伝熱管4の端部4aを、管板3の基準図面上における当該管板3の中心軸線(従って筒状胴体2の中心軸線)を通る垂直線上にある管穴に挿入されたものであるとする。
[トーチユニット210による溶接操作]
【0029】
トーチユニット210による溶接操作を行うには、先ず、トーチユニット210が管板3に対向する位置となるように溶接部ベース204を位置決めする。
次に、水平シリンダ213により前後基準位置設定摺動体214を前進させストッパー215が筒状胴体2の管板3に当接した位置で停止し、垂直エアシリンダ216を動作させ、ロッドを上方に突出させる。次に、水平エアシリンダ219により下部支持体218を前進させ、ストッパー217が垂直エアシリンダ216のロッドに当接した位置(基準位置)で停止し保持する。その後、垂直エアシリンダ216を動作させてロッドを収納し、水平エアシリンダ213により前後基準位置設定摺動体214を後退させる。
また、溶接しようとする筒状胴体2の直径に応じて、垂直エアシリンダ221によりトーチ230の高さを調整する。フィラーの使用、未使用により水平エアシリンダ224を動作させてトーチ230の前後位置を調整する。
また必要に応じ、トーチ230の溶接個所に対する角度、高さ、距離等は、前記のとおり、前後調整ユニット225、上下調整ユニット226、水平支持部材228、垂直支持部材229により微調整が行われる。
その後、保持装置100を上述のごとくして回転支持体112の回転軸線に一致させられた溶接しようとする伝熱管4の中心軸線を中心に回転させながらトーチ230によるアーク溶接を行う。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、熱交換器の伝熱管の溶接に限らず、例えば、車両のハブにボルトを溶接するなど、同形状の部材を複数溶接する装置などに適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
伝熱管端部溶接装置1(特許請求の範囲の記載における「多数の溶接箇所を有する被溶接物の溶接装置」);熱交換器の筒状胴体2;管板3(被溶接物);管穴3a;伝熱管4;端部4a;保持装置100(被溶接物保持装置);ベース110;本体111;貫通開口111a;歯車歯112a;回転支持体112;支持基体113;ガイドレール114;第1直線変位部材115(第2直線変位部材119,クランプ部材121a,121bとともに「被溶接物保持手段」を構成);サーボモータ117;ガイドレール118;第2直線変位部材119;ハンドル120;回転支持体112;クランプ部材121a、121b;サーボモータ122;モーターベース123;サーボモータ124;ベベルギヤボックス125;溶接部200;架台201;溶接部ベース204;トーチユニット210;トーチ支持部210A;溶接基部フレーム211;前後基準位置設定摺動体214;下部支持体218;中間支持体220;上部支持体222;前後調整ユニット225;L形ブラケット227;垂直支持部材229;水平支持部材228;円弧状の孔228a;上下調整ユニット226;円弧状の孔229a;トーチ230;垂直エアシリンダ221;垂直エアシリンダ216;ストッパー215;水平エアシリンダ213;水平エアシリンダ219;ストッパー217;プローブユニット250;プローブ基部251;水平ガイドレール252;水平ガイドレール252;前後摺動体253;水平エアシリンダ254;水平ガイドレール256;ストッパー255a、255b;水平摺動体257;ストッパー258a、ストッパー258b;垂直ガイドレール259;垂直摺動体260;先端部分260a;センサー262;センサー263
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