特許第6138280号(P6138280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138280人工股関節用ステムおよびそれを備える人工股関節
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138280
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】人工股関節用ステムおよびそれを備える人工股関節
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/32 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   A61F2/32
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-557751(P2015-557751)
(86)(22)【出願日】2014年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2014084021
(87)【国際公開番号】WO2015107841
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】14/154,842
(32)【優先日】2014年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504418084
【氏名又は名称】京セラメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】スレイター ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】宮下 高利
(72)【発明者】
【氏名】黒島 厚
(72)【発明者】
【氏名】藤村 紫音
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−155822(JP,A)
【文献】 特開平05−137739(JP,A)
【文献】 特開2007−202797(JP,A)
【文献】 特開2013−215401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム近位部と、ステム遠位部と、前記ステム近位部および前記ステム遠位部の間に位置しているステム中間部と、に区分されているステム本体を備え、
前記ステム本体は、
前記ステム近位部に位置しており表面粗度(Ra)が10〜80μmであるラフ面と、
前記ステム中間部に位置しており表面粗度(Ra)が0.1〜1.0μmであるスムース・サテン面と、
前記ステム遠位部に位置しており表面粗度(Ra)が0.1μm未満であるシャイニー面と、を有
前記ステム本体は、いずれも前記ステム遠位部に位置している前面、後面および側面をさらに有し、
前記側面は、互いに対向している内側面および外側面を有し、
前記シャイニー面は、前記内側面および前記外側面に位置しており、
前記スムース・サテン面は、前記ステム中間部から前記前面および前記後面のそれぞれの遠位端部に延びている、人工股関節用ステム。
【請求項2】
正面視において、前記ステム近位部の長さをL1、前記ステム中間部の長さをL2、前記ステム遠位部の長さをL3としたとき、前記L1〜前記L3は、L1:L2:L3=1:0.4〜1:0.3〜0.9の関係を有する、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項3】
面視において、前記外側面は、前記外側面の遠位端部側に位置しており前記外側面の前記遠位端部に向かうにつれて前記内側面に近づくように傾斜している傾斜面を有する、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項4】
正面視において、前記ステム遠位部の遠位端部が、曲線状である、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項5】
少なくとも前記ステム近位部および前記ステム中間部は、前記ステム本体の中心軸に垂直な断面形状が、矩形状である、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項6】
前記ステム本体は、前記断面形状の角部を面取りしてなる面取り部をさらに有する、請求項に記載の人工股関節用ステム。
【請求項7】
前記シャイニー面は、前記ステム本体の中心軸に平行な一対の長辺および前記中心軸に垂直な一対の短辺を有する矩形状である、請求項に記載の人工股関節用ステム。
【請求項8】
前記ステム遠位部は、前記ステム本体の中心軸に垂直な断面形状が、四角形であり、
前記ステム本体は、前記断面形状の角部を面取りしてなる面取り部をさらに有し、
前記スムース・サテン面は、前記ステム中間部から前記面取り部の遠位端部に延びている、請求項に記載の人工股関節用ステム。
【請求項9】
前記前面および前記後面は、互いの前記遠位端部において連続しており、
前記内側面に位置している前記シャイニー面と、前記外側面に位置している前記シャイニー面とが、前記スムース・サテン面を介して互いに離れて位置している、請求項に記載の人工股関節用ステム。
【請求項10】
前記外側面に位置している前記シャイニー面の長さが、前記内側面に位置している前記シャイニー面の長さよりも大きい、請求項に記載の人工股関節用ステム。
【請求項11】
前記ステム近位部の近位端部から延びているネック部をさらに備える、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項12】
請求項11に記載の人工股関節用ステムと、
前記ネック部に嵌合する人工骨頭と、
前記人工骨頭を摺動可能に収容するソケットと、
を備える、人工股関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腿骨に固定される人工股関節用ステムおよびそれを備える人工股関節に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疾患または事故等で機能が低下した股関節の機能を回復させるために、股関節を人工のものに置換する人工股関節置換術が行われている。人工股関節を構成する部材のうち人工股関節用ステム(以下、「ステム」と言うことがある。)は、大腿骨の近位部に挿入および固定される湾曲した略棒状の部材である。
【0003】
ステムは、大腿骨への固定方法によって、セメントを用いるステムと、セメントを用いないステム(以下、「セメントレスステム」と言うことがある。)とに分類される。さらにセメントレスステムでは、大腿骨およびその周辺組織の損傷を少なくする骨温存型ステムが近時注目されている。骨温存型ステムには、挿入性を向上させることで大腿骨の近位部、筋肉および靭帯の切開を減らすタイプ、固定性を工夫することで海綿骨の除去量および骨組織の損傷を減らすタイプがある。
【0004】
ところで、ステムの表面粗度(Ra)を大きくし、ステムの表面を粗面にすることによってステムと骨との接合力を向上させる技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、ステムの表面粗度(Ra)を大きくすると、骨に対する摩擦が大きくなるため、ステムを挿入するときにステム遠位部が大腿骨の近位部における軟部組織および海綿骨に接触し易くなり、ステム挿入性に劣る。また、ステムの表面粗度(Ra)を大きくすると、ステム表面上で骨形成が起こるボーンオングロース(bone on-growth)し易いため、ステム遠位部が大腿骨に固定される傾向がある。ステム遠位部が大腿骨に固定されると、大腿部痛(Thigh Pain)および骨に伝わる荷重が少なくなることで骨密度が低下して骨萎縮するストレスシールディング(Stress Shielding)が発生し易くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.E.Devies, 「The Bone-Biomaterial Interface」, (米国), University of Toronto Press, 1991, p. 407-414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、優れたステム挿入性を備え、かつステム遠位部が大腿骨に固定されるのを抑制することができる人工股関節用ステムおよびそれを備える人工股関節を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の人工股関節用ステムは、ステム近位部と、ステム遠位部と、前記ステム近位部および前記ステム遠位部の間に位置しているステム中間部と、に区分されているステム本体を備え、前記ステム本体は、前記ステム近位部に位置しており表面粗度(Ra)が10〜80μmであるラフ面と、前記ステム中間部に位置しており表面粗度(Ra)が0.1〜1.0μmであるスムース・サテン面と、前記ステム遠位部に位置しており表面粗度(Ra)が0.1μm未満であるシャイニー面と、を有する。
【0009】
本発明の人工股関節は、ステム近位部の近位端部から延びているネック部をさらに備える本発明に係る人工股関節用ステムと、前記ネック部に嵌合する人工骨頭(金属またはセラミックスからなる人工骨頭)と、前記人工骨頭を摺動可能に収容するソケットと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたステム挿入性を発揮することができ、かつステム遠位部が大腿骨に固定されるのを抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る人工股関節を示す概略説明図である。
図2図1の人工股関節が備える本発明の第1実施形態に係る人工股関節用ステムを示す拡大正面図である。
図3図2の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図2のA1矢視側面図、(b)は図2のB1矢視側面図である。
図4図2の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図2のa1−a1線における拡大断面図、(b)は図2のb1−b1線における拡大断面図、(c)は図2のc1−c1線における拡大断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る人工股関節用ステムを示す拡大正面図である。
図6図5の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図5のA2矢視側面図、(b)は図5のB2矢視側面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る人工股関節用ステムを示す拡大正面図である。
図8図7の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図7のA3矢視側面図、(b)は図7のB3矢視側面図である。
図9図7の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図7のa2−a2線における拡大断面図、(b)は図7のb2−b2線における拡大断面図、(c)は図7のc2−c2線における拡大断面図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る人工股関節用ステムを示す拡大正面図である。
図11図10の人工股関節用ステムを示す図であり、(a)は図10のA4矢視側面図、(b)は図10のB4矢視側面図である。なお、図1図11のうち図1図2図5図7および図10では、ステムを左足に設置した状態を示しているが、ステムを右足に設置した場合には、左右が線対称となるのみである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<人工股関節用ステムおよび人工股関節>
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るステムおよび人工股関節について、図1図4を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、ステムを左足に設置する場合を例にとって説明するが、本発明のステムは右足に設置することもできる。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のステム1Aは、湾曲した略棒状の部材であり、人工股関節10を構成する部材である。本実施形態のステム1Aは、ステム本体2を備えている。本実施形態のステム本体2は、近位部に位置しているステム近位部3と、遠位部に位置しているステム遠位部5と、ステム近位部3およびステム遠位部5の間に位置しているステム中間部4と、に区分されている。
【0014】
近位部とは、人工股関節10を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の頭部に近い側に位置している部位のことを意味するものとする。また、遠位部とは、人工股関節10を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の頭部から遠い側に位置している部位のことを意味するものとする。言い換えれば、遠位部は、人体のつま先側に位置している部位である。
【0015】
ここで、本実施形態のステム本体2は、ステム近位部3に位置しており表面粗度(Ra)が10〜80μm、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μmであるラフ面31と、ステム中間部4に位置しており表面粗度(Ra)が0.1〜1.0μmであるスムース・サテン面41と、ステム遠位部5に位置しており表面粗度(Ra)が0.1μm未満、好ましくは0.0μm以上0.1μm未満であるシャイニー面51と、を有する。このような構成によれば、以下のような効果が得られる。
【0016】
すなわち、本実施形態のステム1Aは、ステム遠位部5側から大腿骨100の近位部101に挿入および固定される部材である。本実施形態のステム1Aは、ステム本体2がステム遠位部5に位置しているシャイニー面51を有することから、ステム遠位部5の骨に対する摩擦が小さい。それゆえ、ステム1Aを挿入するときにステム遠位部5が大腿骨100の近位部101における軟部組織および海綿骨に接触するのを抑制することができ、結果として優れたステム挿入性を発揮することが可能となる。
【0017】
また、ステム遠位部5にシャイニー面51を位置させると、ステム遠位部5の表面積が小さくなることから、ステム遠位部5においてボーンオングロースし難くなり、大腿骨100の髄腔に対するステム遠位部5の接触面積も小さくなる。さらに、ステム遠位部5にシャイニー面51を位置させると、ステム遠位部5の骨に対する摩擦が小さくなることから、骨の損傷を抑制することもできる。その結果、ステム遠位部5が大腿骨100に固定されるのを抑制することができ、大腿部痛およびストレスシールディングの発生を抑制することが可能となる。
【0018】
また、本実施形態のステム1Aは、ステム本体2がステム近位部3に位置しているラフ面31を有することから、ステム近位部3においてボーンオングロースを促進させることができ、ステム1Aの大腿骨100に対する固定性を高めることができる。さらに、本実施形態のステム1Aは、ステム本体2がステム中間部4に位置しているスムース・サテン面41を有することから、ステム1Aの回旋抵抗力を向上させることができる。その結果、ステム1Aに対して回旋方向に荷重が加わったとき、骨に対して摩擦を起こしてステム1Aが回旋移動するのを抑制することができる。このような効果を有する本実施形態のステム1Aは、上述した骨温存型ステムとして好適に使用することができる。
【0019】
上述したラフ面31は、例えばチタン溶射等によって形成することができる。また、スムース・サテン面41は、例えばブラスト処理等によって形成することができる。シャイニー面51は、例えば鏡面処理等によって形成することができる。表面粗度(Ra)は、JIS B 0633:2001(ISO 4288:1996)に準拠して測定される値である。
【0020】
本実施形態では、図2図3および図4(c)に示すように、ステム本体2が、いずれもステム遠位部5に位置している前面52、後面53および側面54をさらに有する。前面52は、ステム遠位部5の前側に位置しており、後面53は、ステム遠位部5の後側に位置している。前側とは、人工股関節10を取り付けたとき、人体の顔が向いている方向側のことを意味するものとする。後側とは、人工股関節10を取り付けたとき、人体の背部が向いている方向側のことを意味するものとする。なお、図2では、ステム1Aを左足に設置した状態を示しているが、ステム1Aを右足に設置した場合には、前面52が人体の後側、後面53が人体の前側となる。
【0021】
本実施形態の側面54は、互いに対向している内側面541および外側面542を有する。内側面541は、ステム遠位部5の内側に位置しており、外側面542は、ステム遠位部5の外側に位置している。内側とは、人工股関節10を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の中心線に近い側に位置している部位のことを意味するものとする。外側とは、人工股関節10を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の中心線から遠い側に位置している部位のことを意味するものとする。なお、図2では、ステム1Aを左足に設置した状態を示しているが、ステム1Aを右足に設置した場合においても、内側面541が人体の内側、外側面542が人体の外側となる。
【0022】
本実施形態では、シャイニー面51が前面52、後面53および側面54に位置している。言い換えれば、本実施形態では、シャイニー面51がステム遠位部5の全周にわたって位置している。このような構成によれば、シャイニー面51による上述した効果をバランスよく得ることができる。
【0023】
本実施形態では、ラフ面31およびスムース・サテン面41についても、上述したそれぞれの効果をバランスよく得る観点から、次のような構成を有する。すなわち、本実施形態では、ラフ面31がステム近位部3の全周にわたって位置している。また、本実施形態では、スムース・サテン面41がステム中間部4の全周にわたって位置している。
【0024】
本実施形態では、図2に示すように、正面視において、ラフ面31およびスムース・サテン面41の第1境界部21が、ステム本体2の中心軸Sに対して略垂直である。また、本実施形態では、正面視において、スムース・サテン面41およびシャイニー面51の第2境界部22が、ステム本体2の中心軸Sに対して略垂直である。これらの構成によっても、ラフ面31、スムース・サテン面41およびシャイニー面51による上述したそれぞれの効果をバランスよく得ることができる。
【0025】
正面視とは、人工股関節10を左足または右足に取り付けた人体を正面側から見たときのステム1Aの状態を意味するものとする。また、本実施形態の中心軸Sは、ステム遠位部5に位置しており互いに対向している内側面541および外側面542同士のなす角αの2等分線である。なお、本実施形態において、内側面541および外側面542は、ステム遠位部5の遠位端部5aに向かうにつれて互いの間の距離が小さくなっている。内側面541および外側面542が互いに平行な場合には、ステム遠位部5における幅方向Cの中点を、ステム本体2の長手方向Dに沿って連続して得られる構成を、中心軸Sとする。また、本実施形態では、後述するように、外側面542が傾斜面542Aを有する。本実施形態のように外側面542が傾斜面542Aを有する場合、中心軸Sを判断するときの外側面542は、傾斜面542Aがない構成を基準にするものとする。
【0026】
さらに、本実施形態の中心軸Sは、図3に示すように、ステム遠位部5における厚み方向Eの中点を、ステム本体2の長手方向Dに沿って連続して得られる構成でもある。そして、本実施形態では、正面視以外においても、第1境界部21および第2境界部22がいずれも、ステム本体2の中心軸Sに略垂直である。
【0027】
本実施形態では、図2に示すように、正面視において、ステム近位部3の長さをL1、ステム中間部4の長さをL2、ステム遠位部5の長さをL3としたとき、L1〜L3が、L1:L2:L3=1:0.4〜1:0.3〜0.9の関係を有する。
【0028】
なお、ステム近位部3の長さL1とは、正面視において、直線X1および直線X2の間の距離を意味するものとする。直線X1は、中心軸Sに直交し、かつステム近位部3の近位部側および外側に位置している近位外側端部3aを通る直線である。直線X2は、中心軸Sに直交し、かつステム近位部3およびステム中間部4の境界部における外側端部2aを通る直線である。なお、本実施形態の直線X2は、第1境界部21の仮想延長線に相当する。
【0029】
ステム中間部4の長さL2とは、正面視において、直線X2および直線X3の間の距離を意味するものとする。直線X3は、中心軸Sに直交し、かつステム中間部4およびステム遠位部5の境界部における外側端部2bを通る直線である。なお、本実施形態の直線X3は、第2境界部22の仮想延長線に相当する。
【0030】
ステム遠位部5の長さL3とは、正面視において、直線X3および直線X4の間の距離を意味するものとする。直線X4は、中心軸Sに直交し、かつステム遠位部5の遠位端部5aを通る直線である。
【0031】
本実施形態では、ステム挿入性を向上させる観点から、次のような構成を有する。すなわち、本実施形態では、外側面542が傾斜面542Aを有する。正面視において、本実施形態の傾斜面542Aは、外側面542の遠位端部542a側に位置しており、遠位端部542aに向かうにつれて内側面541に近づくように傾斜している。また、本実施形態では、正面視において、ステム遠位部5の遠位端部5aが、曲線状である。さらに、本実施形態では、少なくともステム遠位部5が、テーパ状である。テーパ状とは、部材の幅および厚みがいずれも、先細りになっていることを意味するものとする。本実施形態では、ステム遠位部5のみならずステム本体2の全体が、緩やかなテーパ状である。
【0032】
上述した本実施形態のステム1Aは、いわゆるヨーロピアンステムである。したがって、本実施形態では、図4(a)、(b)に示すように、少なくともステム近位部3およびステム中間部4は、中心軸Sに垂直な断面形状が略矩形状である。このような構成によれば、断面形状の四隅が大腿骨100の髄腔に接触し、4方向からステム1Aをバランスよく支持することができるため、大腿骨100の近位部101に対するステム1Aの固定をセメントレスで行うことができる。さらに、このような構成によれば、骨組織を温存することができる。すなわち、従来のセメントレスステムの1つである髄腔占拠型ステムでは、髄腔に近い太さのステムを設置することから、海綿骨を大量に除去する必要があった。これに対し、上述した構成によれば、ステム1Aの厚みを髄腔よりも細くすることができ、海綿骨の除去量を少なくして骨組織を温存することができる。
【0033】
本実施形態のステム本体2は、上述した断面形状の角部を面取りしてなる面取り部23をさらに有する。このような構成によれば、断面形状の四隅に位置している4つの面取り部23のそれぞれが大腿骨100の髄腔に接触し、4方向からステム本体2をバランスよく支持することができる。本実施形態では、図4(c)に示すように、ステム遠位部5のうち少なくともステム中間部4側に位置している部位においても、上述した断面形状が略矩形状であり、四隅に面取り部23が位置している。なお、本実施形態では、面取り加工をR面取りによって行っているが、これに限定されるものではなく、面取り加工をC面取りによって行うこともできる。
【0034】
一方、本実施形態のステム1Aは、図2および図3に示すように、ステム近位部3の近位端部32から延びているネック部6をさらに備えている。このようなステム1Aの構成材料としては、例えばチタン合金、コバルト−クロム合金等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のステム1Aは、上述のとおり、図1に示す人工股関節10を構成する部材である。本実施形態の人工股関節10は、上述したステム1Aの他に、ステム1Aのネック部6に嵌合している人工骨頭11と、人工骨頭11を摺動可能に収容しており寛骨110の臼蓋111に固定されているソケット12と、を備えている。
【0036】
本実施形態の人工骨頭11は、略球状であり、その底面中央部に位置している有底円筒状の凹部11aを有する。本実施形態の人工骨頭11は、凹部11aを介してステム1Aのネック部6に嵌合している。このような人工骨頭11の構成材料としては、例えばコバルト−クロム合金等の金属、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス等が挙げられる。
【0037】
本実施形態のソケット12は、略カップ状であり、その底面中央部に位置している略半球状の凹部12aを有する。本実施形態のソケット12は、凹部12a内に人工骨頭11を摺動可能に収容している。このようなソケット12の構成材料としては、例えばポリエチレン樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るステムおよび人工股関節について、図5および図6を参照して詳細に説明する。なお、図5および図6においては、上述した図1図4と同一の構成部分には同一の符号を付して説明は省略する場合がある。
【0039】
本実施形態では、ラフ面31およびスムース・サテン面41の第1境界部21、並びにスムース・サテン面41およびシャイニー面51の第2境界部22のそれぞれの構成が、上述した第1実施形態と異なる。具体的に説明すると、図5に示すように、本実施形態のステム1Bでは、正面視において、第1境界部21および第2境界部22がいずれも、中心軸S上に位置している点21c、22cを中心に、中心軸Sに略垂直な基準線、すなわち直線X2、X3に対して反時計回りに傾斜している。
【0040】
より具体的には、正面視において、第1境界部21の両端部のうち外側に位置している外側端部21aが、内側に位置している内側端部21bよりも近位側に位置するように、第1境界部21が点21cを中心に直線X2を基準にして傾斜している。同様に、正面視において、第2境界部22の両端部のうち外側に位置している外側端部22aが、内側に位置している内側端部22bよりも近位側に位置するように、第2境界部22が点22cを中心に直線X3を基準にして傾斜している。これらの構成によれば、図5および図6に示すように、破壊起点となり得る第1境界部21の外側端部21aおよび第2境界部22の外側端部22aがいずれも、より近位側に位置するようになり、結果としてステム1Bの強度を向上させることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、第1境界部21および第2境界部22が、互いに平行である。また、本実施形態では、点21cは中心軸Sおよび直線X2の交点に位置しており、点22cは中心軸Sおよび直線X3の交点に位置している。
【0042】
本実施形態において、ラフ面31は、その大部分がステム近位部3に位置していればよく、ラフ面31の一部がステム中間部4に至っていてもよい。同様に、スムース・サテン面41は、その大部分がステム中間部4に位置していればよく、スムース・サテン面41の一部がステム近位部3またはステム遠位部5に至っていてもよい。シャイニー面51は、その大部分がステム遠位部5に位置していればよく、シャイニー面51の一部がステム中間部4に至っていてもよい。
【0043】
本実施形態では、ラフ面31のうち遠位側かつ内側に位置している部位31aが、ステム近位部3からステム中間部4に至っている。スムース・サテン面41のうち近位側かつ外側に位置している部位41aが、ステム中間部4からステム近位部3に至っている。スムース・サテン面41のうち遠位側かつ内側に位置している部位41bが、ステム中間部4からステム遠位部5に至っている。シャイニー面51のうち近位側かつ外側に位置している部位51aが、ステム遠位部5からステム中間部4に至っている。
【0044】
また、図5では、ステム1Bを左足に設置した状態を示しているが、ステム1Bを右足に設置した場合には、第1境界部21および第2境界部22は、点21c、22cを中心に、直線X2、X3に対して時計回りに傾斜することになる。
その他の構成は、上述した第1実施形態に係るステム1Aおよび人工股関節10と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るステムおよび人工股関節について、図7図9を参照して詳細に説明する。なお、図7図9においては、上述した図1図6と同一の構成部分には同一の符号を付して説明は省略する場合がある。
【0046】
本実施形態では、シャイニー面51の位置が、上述した第1実施形態と異なる。具体的に説明すると、図7および図8に示すように、本実施形態のステム1Cでは、シャイニー面51が、ステム遠位部5の内側面541および外側面542に位置している。また、本実施形態のステム1Cでは、スムース・サテン面41が、ステム中間部4からステム遠位部5の前面52および後面53のそれぞれの遠位端部52a、53aに延びている。
【0047】
これらの構成によっても、上述した第1実施形態に係るステム1Aと同様の効果を奏する。すなわち、内側面541にシャイニー面51を位置させることによって、ステム遠位部5においてボーンオングロースし難くなり、ステム遠位部5が大腿骨100に固定されるのを抑制することができ、大腿部痛およびストレスシールディングの発生を抑制することが可能となる。また、外側面542にシャイニー面51を位置させることによって、ステム1Cを挿入するときにステム遠位部5が大腿骨100の近位部101における軟部組織および海綿骨に接触するのを抑制することができ、優れたステム挿入性を発揮することが可能となる。
【0048】
本実施形態では、シャイニー面51による効果をバランスよく得る観点から、シャイニー面51の形状が、中心軸Sに略平行な一対の長辺511、511および中心軸Sに略垂直な一対の短辺512、512を有する略矩形状である。
【0049】
また、本実施形態では、上述のとおり、スムース・サテン面41が前面52および後面53のそれぞれの遠位端部52a、53aに延びていることから、スムース・サテン面41の存在領域が大きい。したがって、本実施形態によれば、ステム1Cの回旋抵抗力を大きく向上させることができる。
【0050】
本実施形態では、ステム1Cの回旋抵抗力を向上させる観点から、次のような構成を有する。すなわち、図9(c)に示すように、本実施形態のステム遠位部5は、中心軸Sに垂直な断面形状が、略四角形(略矩形状)である。また、本実施形態のステム本体2は、上述した断面形状の角部を面取りしてなる面取り部23をさらに有する。そして、図8に示すように、本実施形態のスムース・サテン面41は、ステム中間部4から面取り部23の遠位端部23aに延びている。
【0051】
また、本実施形態では、前面52および後面53が、互いの遠位端部52a、53aにおいて連続している。そして、本実施形態では、内側面541に位置しているシャイニー面51と、外側面542に位置しているシャイニー面51とが、スムース・サテン面41を介して互いに離れて位置している。
【0052】
なお、本実施形態のシャイニー面51は、少なくとも内側面541および外側面542のそれぞれの遠位端部541a、542aの周辺に位置していればよい。シャイニー面51が遠位端部541a、542aの周辺にのみ位置しているとき、内側面541および外側面542の残りの領域には、スムース・サテン面41を位置させればよい。
その他の構成は、上述した第1、第2実施形態に係るステム1A、1Bおよび人工股関節10と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るステムおよび人工股関節について、図10および図11を参照して詳細に説明する。なお、図10および図11においては、上述した図1図9と同一の構成部分には同一の符号を付して説明は省略する場合がある。
【0054】
本実施形態では、内側面541に位置しているシャイニー面51と、外側面542に位置しているシャイニー面51とが、異なる形状を有する点で、上述した第3実施形態と異なる。具体的に説明すると、図10および図11に示すように、本実施形態のステム1Dでは、外側面542に位置しているシャイニー面51の長さが、内側面541に位置しているシャイニー面51の長さよりも大きい。このような構成によれば、外側面542にシャイニー面51を位置させることにより得られる効果、すなわちステム挿入性を大きく向上させることができる。
その他の構成は、上述した第1〜第3実施形態に係るステム1A〜1Cおよび人工股関節10と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
以上、本発明に係るいくつかの実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【0056】
例えば、上述の第2実施形態では、第1境界部21および第2境界部22がいずれも傾斜しているが、これに代えて、第1境界部21および第2境界部22のうち一方が傾斜する構成にすることができる。すなわち、ステム1Bは、第1境界部21および第2境界部22のうち少なくとも一方が傾斜する構成にすることができる。
【0057】
また、上述の各実施形態に係るステム1A〜1Dは、それぞれの構成を互いに組み合わせることができる。例えば、第4実施形態に係るステム1Dの第1境界部21の構成を、第1、第3実施形態に係るステム1A、1Cの第1境界部21の構成に変更することができる。すなわち、正面視において、第4実施形態に係るステム1Dの第1境界部21を、ステム本体2の中心軸Sに対して略垂直にすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11