特許第6138327号(P6138327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138327健常細胞を生存させ微生物を選択的に死滅させる装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138327
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】健常細胞を生存させ微生物を選択的に死滅させる装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20170522BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20170522BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61N5/06 B
   C12M1/12
   C12M1/42
   C12N1/00 K
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-188428(P2016-188428)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2017-47219(P2017-47219A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2016年10月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516105084
【氏名又は名称】サンダーライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊東 丈夫
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−078750(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/111544(WO,A1)
【文献】 特開平02−013368(JP,A)
【文献】 特開2016−087075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12M 1/00 − 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を発するキセノンフラッシュランプを備え、
前記パルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が、5.00J/cm2以下である、
前記パルス光を照射された健常細胞を生存させ、かつ、増殖能を向上させ、前記パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる装置。
【請求項2】
前記パルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度が、0.30J/cm2以下である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記パルス光を前記キセノンフラッシュランプから被照射領域に伝送する光導波路をさらに備える、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含む、請求項1からのいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記微生物が枯草菌を含む、請求項1からのいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
生体外の細胞に、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を照射することを含み、
前記パルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が、5.00J/cm2以下である、
前記パルス光を照射された健常細胞を生存させ、かつ、増殖能を向上させ、前記パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる方法。
【請求項7】
前記パルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度が、0.30J/cm2以下である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記パルス光をキセノンフラッシュランプから被照射領域に光導波路で伝送する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含む、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物が枯草菌を含む、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
非ヒト動物の少なくとも一部に、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を照射することを含み、
前記パルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が、5.00J/cm2以下である、
前記パルス光を照射された健常細胞を生存させ、かつ、増殖能を向上させ、前記パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる、非ヒト動物の治療方法。
【請求項12】
前記パルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度が、0.30J/cm2以下である、請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記パルス光をキセノンフラッシュランプから被照射領域に光導波路で伝送する、請求項11又は12に記載の治療方法。
【請求項14】
前記微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含む、請求項11から13のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項15】
前記微生物が枯草菌を含む、請求項11から14のいずれか1項に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物殺傷技術に関し、特に健常細胞を生存させ微生物を選択的に死滅させる装置、健常細胞を生存させ微生物を選択的に死滅させる方法、及び健常細胞を生存させ微生物を選択的に死滅させる、非ヒト動物の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光殺菌として紫外線(殺菌線)の殺菌効果がよく知られており、紫外線を利用した低圧水銀灯(UVランプ)が殺菌灯として使用されてきている。しかし、UVランプの殺菌力は微弱であり、十分な殺菌効果を得るためには、長時間の照射が必要である。また長時間照射であることから、殺菌対象生物以外の生物のタンパク質の変性や、素材変性等のダメージが生じる問題がある。
【0003】
これに対し、キセノンフラッシュランプは、殺菌効果が強いとされる波長200nmから300nmの紫外線を含む広波長帯域のキセノンパルス光をマイクロ秒オーダーの間隔で、1秒間に数回から数十回、瞬間的に発することが可能である。1回に照射されるキセノンパルス光のエネルギーは、65W相当のUVランプが発する紫外線の数万倍に達する(例えば、特許文献1参照。)。そのため、キセノンパルス光を用いれば、短時間の照射により、菌類等を含む微生物を殺傷することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4712905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来、キセノンパルス光は、非常にエネルギーが高いことから、微生物のみならず、健常細胞をも殺傷すると考えられてきた。そこで、本発明は、健常細胞を生存させ、微生物を選択的に死滅させる装置及び方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を発する光源を備え、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、65.00J/cm2以下である、パルス光を照射された健常細胞を生存させ、パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる装置が提供される。
【0007】
上記の装置において、光源が、キセノンフラッシュランプであってもよい。
【0008】
上記の装置において、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、3.50J/cm2以下であってもよい。
【0009】
上記の装置において、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、5.00J/cm2以下であってもよい。また、上記の装置において、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、0.30J/cm2以下であってもよい。
【0010】
上記の装置が、パルス光を光源から被照射領域に伝送する光導波路をさらに備えていてもよい。
【0011】
上記の装置でパルス光を照射される微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含んでいてもよい。また、微生物が枯草菌を含んでいてもよい。
【0012】
また、本発明の態様によれば、生体外の細胞に、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を照射することを含み、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、65.00J/cm2以下である、パルス光を照射された健常細胞を生存させ、パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる方法が提供される。
【0013】
上記の方法において、パルス光を発する光源が、キセノンフラッシュランプであってもよい。
【0014】
上記の方法において、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、3.50J/cm2以下であってもよい。
【0015】
上記の方法において、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、5.00J/cm2以下であってもよい。また、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、0.30J/cm2以下であってもよい。
【0016】
上記の方法において、パルス光を光源から被照射領域に光導波路で伝送してもよい。
【0017】
上記の方法においてパルス光を照射される微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含んでいてもよい。また、微生物が枯草菌を含んでいてもよい。
【0018】
また、本発明の態様によれば、非ヒト動物の少なくとも一部に、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を照射することを含み、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、65.00J/cm2以下である、パルス光を照射された健常細胞を生存させ、パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる、非ヒト動物の治療方法が提供される。
【0019】
上記の治療方法において、パルス光を発する光源が、キセノンフラッシュランプであってもよい。
【0020】
上記の治療方法において、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、3.50J/cm2以下であってもよい。
【0021】
上記の治療方法において、パルス光の被照射領域における全波長帯域のエネルギー密度が、5.00J/cm2以下であってもよい。また、上記の治療方法において、パルス光の被照射領域における紫外線C領域のエネルギー密度が、0.30J/cm2以下であってもよい。
【0022】
上記の治療方法において、パルス光を光源から被照射領域に光導波路で伝送してもよい。
【0023】
上記の治療方法においてパルス光を照射される微生物が、真菌、細菌、及びウイルスの少なくとも一つを含んでいてもよい。また、微生物が枯草菌を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、健常細胞を生存させ、微生物を選択的に死滅させる装置及び方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る装置の模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る発光パルス波形の一例である。
図3】キセノンパルス光を照射されて死滅した芽胞菌の電子顕微鏡写真である。
図4】キセノンパルス光を照射されて死滅した緑膿菌の電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施の形態に係るキセノンパルス光のスペクトルである。
図6】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギーを示す表である。
図7】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギー密度を示すグラフである。
図8】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギー密度を示すグラフである。
図9】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギー密度を示すグラフである。
図10】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギー密度を示すグラフである。
図11】本発明の実施例に係るキセノンパルス光のエネルギー密度を示すグラフである。
図12】本発明の実施例1に係る装置の一部を示す模式図である。
図13】本発明の実施例1に係るマラセチア菌の観察結果を示す写真である。
図14】本発明の実施例1に係る枯草菌芽胞の観察結果を示す写真である。
図15】本発明の実施例1に係る黄色ブドウ球菌の観察結果を示す写真である。
図16】本発明の実施例1に係る大腸菌の観察結果を示す写真である。
図17】本発明の実施例2に係るマラセチア菌の菌数の観察結果を示すグラフである。
図18】本発明の実施例2に係る枯草菌芽胞の菌数の観察結果を示すグラフである。
図19】本発明の実施例3に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図20】本発明の実施例4に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図21】本発明の実施例4に係るパルス光を照射された健常細胞の生存率を示すグラフである。
図22】本発明の実施例5に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図23】本発明の実施例6に係るウェルプレートの模式図である。
図24】本発明の実施例6に係るエネルギー密度の表である。
図25】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図26】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図27】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図28】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図29】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図30】本発明の実施例6に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図31】本発明の実施例7に係るパルス光を照射された健常細胞の顕微鏡写真である。
図32】本発明の実施例7に係るパルス光を照射された、生きている健常細胞の数の変化を示す表である。
図33】本発明の実施例7に係るパルス光を照射され、数が増加した、生きている健常細胞の照射エネルギー密度を示す表である。
図34】本発明の実施例7に係るパルス光を照射され、数が増加した、生きている健常細胞の照射エネルギー密度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0027】
本発明の実施の形態に係る、健常細胞を生存させ、微生物を選択的に死滅させる装置は、図1に示すように、少なくとも200nmから2000nmの波長帯域を有するパルス光を発する光源を備えるランプモジュール1を備え、パルス光を照射された健常細胞を生存させ、パルス光を照射された微生物を選択的に死滅させる。光源が発するパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、65.00J/cm2以下である。ランプモジュール1は、電源部2に接続されている。
【0028】
光源としては、キセノンパルス光を発するキセノンフラッシュランプが使用可能である。キセノンフラッシュランプは、バルブと、バルブ内に封入されたキセノンガスを備える。また、キセノンフラッシュランプは、バルブ内に、陰極、陽極、及びトリガプローブを備える。キセノンフラッシュランプは、コンデンサに接続される。コンデンサに蓄えられたエネルギーを用いて、陰極、陽極、及びトリガプローブに瞬間的に高電圧を印加してキセノンガス中で放電させることで、大エネルギーのキセノンパルス光が連続発振される。キセノンフラッシュランプは、発せられたキセノンパルス光が有効に利用できるよう、反射鏡を内蔵していてもよい。
【0029】
図2に示すように、キセノンフラッシュランプの閃光時間は、数マイクロ秒から数百マイクロ秒と極めて短い。そのため、キセノンパルス光の照射領域による発熱は極めて少ない。キセノンフラッシュランプは、キセノンパルス光を1秒間に数回から数十回の間隔で、連続的に閃光させる。
【0030】
キセノンフラッシュランプは、230nmから280nmの波長帯域を有する紫外線C(UVC)領域を含む、200nmから400nmの紫外線波長帯域の全域を面で出力する。紫外線C領域は、殺菌効果が最も強いとされる波長265nmを含む。キセノンフラッシュランプが発するキセノンパルス光は、微生物の内部まで進入し、微生物を秒単位以下の短時間で死滅させることが可能である。図3は、キセノンパルス光を照射されて死滅した芽胞菌の電子顕微鏡写真の例であり、図4は、キセノンパルス光を照射されて死滅した緑膿菌の電子顕微鏡写真の例である。いずれにおいても、キセノンパルス光の照射により、原型をとどめないほど菌が破壊されている。このように、キセノンパルス光は、微生物を完全に破壊するため、キセノンパルス光に対する耐性微生物が生じることがない。
【0031】
図5に示すように、キセノンパルス光は、そのスペクトルにおいて、紫外域のみならず、可視光域及び赤外域においても、大きなピークを示す。なお、キセノンパルス光は、200nm以下の波長帯域を含んでいてもよい。また、キセノンパルス光は、2000nm以上の波長帯域を含んでいてもよい。
【0032】
実施の形態に係る装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、例えば1.00J/cm2以上、2.00J/cm2以上、あるいは3.00J/cm2以上である。また、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度は、例えば0.10J/cm2以上、0.15J/cm2以上、あるいは0.20J/cm2以上である。これにより、被照射領域における微生物を死滅させることが可能である。なお、被照射領域とは、光源から発せられたキセノンパルス光が到達した領域である。また、積算エネルギー密度とは、光源の発振時間内において積算されたエネルギー密度である。
【0033】
一方、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、65.00J/cm2以下である。また、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度は、例えば3.50J/cm2以下である。これにより、被照射領域におけるヒト及び非ヒトを含む動物の健常細胞にほとんど損傷を与えず、生存させることが可能である。また、被照射領域における積算エネルギーが上記の範囲であれば、仮に健常細胞が損傷しても、損傷は軽微であり、健常細胞は自然修復して再生し、生存する。
【0034】
さらに、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、例えば5.00J/cm2以下であってもよい。また、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度は、例えば0.30J/cm2以下であってもよい。これにより、被照射領域におけるヒト及び非ヒトを含む動物の健常細胞を生存させることのみならず、健常細胞を活性化させ、健常細胞の増殖能を向上させることが可能である。また、被照射領域における積算エネルギーが上記の範囲であれば、仮に健常細胞が損傷しても、損傷は軽微であり、健常細胞は自然修復して再生し、生存する。
【0035】
したがって、実施の形態に係る装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、例えば、1.00J/cm2以上65.00J/cm2以下、2.00J/cm2以上65.00J/cm2以下、あるいは3.00J/cm2以上65.00J/cm2以下である。また、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度は、例えば0.10J/cm2以上3.50J/cm2以下、0.15J/cm2以上3.50J/cm2以下、あるいは0.20J/cm2以上3.50J/cm2以下である。これにより、被照射領域における微生物を選択的に死滅させつつ、被照射領域における健常細胞を生存させることが可能である。
【0036】
またあるいは、実施の形態に係る装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は、例えば、1.00J/cm2以上5.00J/cm2以下、2.00J/cm2以上5.00J/cm2以下、あるいは3.00J/cm2以上5.00J/cm2以下である。また、装置が発するキセノンパルス光の被照射領域における紫外線C領域の積算エネルギー密度は、例えば0.10J/cm2以上0.30J/cm2以下、0.15J/cm2以上0.30J/cm2以下、あるいは0.25J/cm2以上0.30J/cm2以下である。これにより、被照射領域における微生物を選択的に死滅させつつ、被照射領域における健常細胞を生存させ、かつ、健常細胞の増殖能を向上させることが可能である。
【0037】
キセノンフラッシュランプに印加される電圧は、例えば、300Vから1000V、具体的には、300V、400V、500V、600V、700V、800V、900V、あるいは1000Vであるが、これらに限定されない。印加電圧は、被照射領域における積算エネルギー密度が上記の範囲内になる限り、被照射領域における微生物の種類又は量等に応じて、任意に設定される。
【0038】
キセノンフラッシュランプの発光周波数は、例えば、30Hzから100Hz、具体的には、30Hz、40Hz、50Hz、60Hz、70Hz、80Hz、90Hz、あるいは100Hzであるが、これらに限定されない。発光周波数は、被照射領域における積算エネルギー密度が上記の範囲内になる限り、被照射領域における微生物の種類又は量等に応じて、任意に設定される。
【0039】
キセノンフラッシュランプの発振時間は、例えば、5秒から80秒、具体的には、5秒、10秒、20秒、40秒、あるいは80秒であるが、これらに限定されない。発振時間は、被照射領域における積算エネルギー密度が上記の範囲内になる限り、被照射領域における微生物の種類又は量等に応じて、任意に設定される。
【0040】
実施の形態に係る装置は、図1に示すように、パルス光を光源から被照射領域に伝送する光導波路3をさらに備えていてもよい。光導波路3としては、石英ファイバー及び液体ファイバーを含む、ファイバーモジュールを用いてもよい。あるいは、光導波路3としては、内部にアルミ箔等の反射膜を配置した管を用いてもよい。光導波路3を用いることにより、パルス光を、光源から被照射領域まで、効率的に伝送することが可能である。また、光導波路3の先端には、被照射領域に接触するためにアタッチメント4を接続してもよい。
【0041】
実施の形態に係る装置で殺傷される微生物は、真菌、細菌、及びウイルス等を含む。真菌は、カビ類、及びカビ類の胞子等を含む。真菌の例としては、マラセチア菌(Malassezia)、カンジダ菌(candida)、クリプトコッカス菌(Cryptococcus)、 アスペルギルス菌(Aspergillus)、及び水虫(白癬菌、Trichophyton ruburum)が挙げられる。細菌の例としては黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌芽胞(Bacillus subtilis spore)が挙げられる。ウイルスの例としては、インフルエンザウイルス(Influenza virus (H1N1) )、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus, FCV)、ノロウイルス(Norovirus)、及びイヌパルボウイルス(Canine Parvovirus)が挙げられる。
【0042】
健常細胞とは、微生物に感染していない細胞をいう。健常細胞は、インタクト(Intact)な細胞と呼ばれる場合もある。
【0043】
例えば、生体外において、健常細胞と、微生物に感染している細胞と、が混在している組織に、実施の形態に係る装置からキセノンパルス光を照射することにより、健常細胞を生存させ、微生物を選択的に死滅させることが可能である。
【0044】
また、生体の皮膚、あるいは体内組織に、実施の形態に係る装置からキセノンパルス光を照射することにより、照射部位において、健常細胞を生存させ、微生物を選択的に死滅させることが可能である。そのため、実施の形態に係る装置は、感染症の治療に有用である。
【0045】
ここで、感染症とは、寄生虫、細菌、真菌、ウイルス、及び異常プリオン等の病原体の感染により宿主に引き起こされる様々な症状の総称であり、部位ごとに例えば以下の感染症がある。脳など中枢神経においては、髄膜炎、及び脳炎などがある。顔においては、鼻炎、副鼻腔炎、咽頭炎、喉頭炎、及び眼窩蜂窩織炎などがある。首においては、喉頭蓋炎、咽頭後壁膿瘍、亜急性甲状腺炎、及びレミエール症候群などがある。肺、及び気管支においては、肺炎、気管支炎、及び結核などがある。心臓、及び血管においては、感染性心内膜炎、心外膜炎、心筋炎、感染性大動脈炎、及び敗血症などがある。
【0046】
腹部、及び消化器においては、胆嚢炎、胆管炎、肝炎、肝膿瘍、膵炎、脾膿瘍、胃炎及び胃潰瘍、腸炎、虫垂炎、腸腰筋膿瘍、並びにクラミジア肝周囲炎などがある。泌尿器においては、腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎、膣炎、及び骨盤内感染症などがある。皮膚においては、蜂窩織炎、脂肪織炎、ガス壊疽、せつ、よう、伝染性膿痂疹(とびひ)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、帯状疱疹、水痘、麻疹、風疹、皮膚白癬、及び疥癬などがある。関節、筋肉、及び骨においては、感染性関節炎、骨髄炎、筋膜炎、筋炎、及び脊椎カリエスなどがある。リンパ節においては、リンパ節炎などがある。口腔においては、歯周炎、齲蝕、根尖性歯周炎、及びインプラント周囲炎などがある。
【0047】
また、感染症は、原因となる病原体の種類により、真正細菌感染症、マイコプラズマ、リケッチア感染症、クラミジア感染症、真菌感染症、寄生性原虫感染症、寄生性蠕虫感染症、ウイルス感染症、及びプリオン病などに分類される。
【0048】
真正細菌感染症の例としては、レンサ球菌(A群β溶連菌、肺炎球菌など)、黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA)、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア、髄膜炎菌、淋菌、病原性大腸菌(O157:H7など)、クレブシエラ(肺炎桿菌)、プロテウス菌、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター、アシネトバクター、エンテロバクター、マイコプラズマ、及びクロストリジウムなどによる各種感染症、結核・非結核性抗酸菌、コレラ、ペスト、ジフテリア、赤痢、猩紅熱、炭疽、梅毒、破傷風、ハンセン病、レジオネラ肺炎(在郷軍人病)、レプトスピラ症、ライム病、野兎病、並びにQ熱などが挙げられる。
【0049】
マイコプラズマ感染症の例としては、マイコプラズマ肺炎などが挙げられる。リケッチア感染症の例としては、発疹チフス、ツツガムシ病、及び日本紅斑熱などが挙げられる。クラミジア感染症の例としては、クラミジア肺炎、トラコーマ、性器クラミジア感染症、及びオウム病などが挙げられる。真菌感染症の例としては、アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコッカス症、白癬菌症、ヒストプラズマ症、及びニューモシスチス肺炎(旧名:カリニ肺炎)などが挙げられる。
【0050】
寄生性原虫感染症の例としては、アメーバ赤痢、マラリア、トキソプラズマ症、リーシュマニア症、及びクリプトスポリジウムなどが挙げられる。寄生性蠕虫感染症の例としては、エキノコックス症、日本住血吸虫症、フィラリア症、回虫症、及び広節裂頭条虫症などが挙げられる。
【0051】
ウイルス感染症の例としては、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、後天性免疫不全症候群(AIDS)、成人T細胞性白血病、エボラ出血熱、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、進行性多巣性白質脳症、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、デング熱、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、ハンタウイルス腎出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、及びチクングニア熱などが挙げられる。
【0052】
プリオン病の例としては、牛海綿状脳症(BSE)、クールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症(FFI)、及びゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)などが挙げられる。
【0053】
キセノンパルス光の照射による感染症の治療は、薬物を用いないため、治療後の生体内に残留薬物が生じない。
【0054】
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【実施例】
【0055】
(装置の作製)
キセノンフラッシュランプ(L7685、浜松ホトニクス)、トリガーソケット(E6647、浜松ホトニクス)、電源(C6096、浜松ホトニクス)、冷却ジャケット(E661 1、浜松ホトニクス)、主放電コデンサ(E7289−02、浜松ホトニクス)、ライトガイド(A2873、浜松ホトニクス)、及びDC電源(S8EX−BP10024LC、OMRON)を用いて、実施例に係る装置を作製した。
【0056】
作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が1000Vである場合の、キセノンパルス光のエネルギーを理論計算したところ、図6に示すとおりであった。
【0057】
また、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が700Vであり、発振時間が5秒、10秒、及び20秒である場合の、ランプの発光面から13mm離れた位置での紫外線の積算エネルギー密度を周波数ごとに計測したところ、図7に示すとおりであった。なお、ランプの発光面と、計測位置と、の間には、長さが13mmの黒色アルミ製の円筒部材を配置した。
【0058】
さらに、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が300V、400V、500V、600V、及び700Vであり、発振時間が5秒である場合の、光導波路3として石英ファイバーを用いファイバー先端から30mm離れた位置での紫外線の積算エネルギー密度を周波数ごとに計測したところ、図8に示すとおりであった。なお、ファイバー先端と、計測位置と、の間には、長さが50mmの円筒部材を配置した。
【0059】
図9及び図10は、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が700V、発振周波数が60Hzである場合の、発振周波数と、全波長帯域及び紫外線C領域のエネルギー密度と、の関係を示すグラフである。なお、図9は、ランプ先端と、計測位置と、の間には、長さが100mmのアルミニウム内貼り円筒部材を配置した場合のグラフである。図10は、ランプ先端と、計測位置と、の間の間隔が100mmであり、何も配置しなかった場合のグラフである。図11に示すように、円筒部材のような光導波路を用いることで、効率よく光エネルギーを伝達できることが示された。
【0060】
(実施例1:定性試験)
細菌として、マラセチア菌(Malassezia pachydermatis NBRC 10064)、枯草菌芽胞(Bacillus subtilis ATCC 6633)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、及び大腸菌(Escherichia coli)を用意した。
【0061】
本実施例では、以下の試薬を使用した。
・Tryptic Soy Agar(Difco、以下TSA 培地)
・ポテトデキストロース寒天培地(日水、以下PDA 培地)
・塩化ナトリウム(和光、特級、生理食塩液用)
・エーロゾルOT(和光、化学用、0.005%エーロゾル溶液用)
・SCDLP ブイヨン(栄研、以下SCDLP 培地)
【0062】
1)菌液の調製
黄色ブドウ球菌及び大腸菌については、凍結保存された菌株をTSA培地に塗布し、前培養した。発育した集落を再び36±2℃で18から24時間培養後、イオン交換水に懸濁して約106CFU/mLに調製した。マラセチアについては、凍結素存された菌株をPDA培地に塗布し、28±2℃で3日間培養後、0.005%エーロゾルOT溶液に懸濁して約106CFU/mLに調製した。枯草菌芽胞については、市販の芽胞懸濁液をイオン交換水で約106CFU/mLとなるように希釈した。
【0063】
2)菌液の塗布
菌液を塗布する培地として、細菌用にTSA培地を、真菌用にPDA培地を用いた。試験菌液0.1mLを寒天培地表面に滴下し、ガラスビーズで均一に塗布して試験に供した。
【0064】
3)試験品の照射
図12に示すように、菌液を塗布した寒天培地の表面から約10cm離れた位置に実施例に係る装置のランプモジュールを配置し、ランプモジュールと寒天培地の間に、ランプモジュールが発した光を伝達するための長さが100mmのアルミ内貼り円筒部材を配置した。
【0065】
その後、実施例に係る装置から、60Hzのパルス光を5秒、10秒、及び20秒発振させ、それぞれ寒天培地に照射した。その後、寒天培地の培養条件を、細菌用のTSA培地では36±2℃で40から48時間、真菌用のPDA培地では28±2℃で7日間の条件として、寒天培地を培養した。照射後の寒天培地を培養後、照射部位における試験菌の発育状況を目視で観察後に、写真を撮影した。また、コントロールとして、パルス光を照射していない細菌についても、コロニーの発育状況を観察した。
【0066】
5秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は3.13J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.17J/cm2であった。10秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は7.71J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.41J/cm2であった。20秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は24.21J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は1.28J/cm2であった。
【0067】
マラセチア菌の観察結果を図13に、枯草菌芽胞の観察結果を図14に、黄色ブドウ球菌の観察結果を図15に、大腸菌の観察結果を図16に示す。マラセチア菌、黄色ブドウ球菌、及び大腸菌については、パルス光を5秒以上照射された培地の中心付近上の菌は死滅し、コロニーが形成されないことが確認された。また、枯草菌芽胞については、パルス光を10秒以上照射された培地の中心付近上の菌は死滅し、コロニーが形成されないことが確認された。
【0068】
(実施例2:定量試験)
細菌として、マラセチア菌(Malassezia pachydermatis NBRC 10064)、及び枯草菌芽胞(Bacillus subtilis ATCC 6633)を用意した。マラセチアについては、凍結素存された菌株をPDA培地に塗布し、28±2℃で3日間培養後、0.005%エーロゾルOT溶液に懸濁して約105CFU/mLに調製した。枯草菌芽胞については、市販の芽胞懸濁液をイオン交換水で約105CFU/mLとなるように希釈した。各々試験菌液15μLをホールスライドガラスに滴下し、これを照射試料とした。ホールスライドガラスから約10.0cm離れた位置に実施例に係る装置のランプモジュールを配置した。その後、ランプモジュールとウェルの間に、管を配置しない場合、ランプモジュールとウェルの間に、ランプモジュールが発した光を伝達するための長さが100mmのアルミ内貼り円筒部材、及び黒色の円筒部材のいずれかを配置した場合について、実施例に係る装置から、60Hzのパルス光を5秒、10秒、15秒、及び20秒発振させ、それぞれ菌液に照射した。
【0069】
100mmのアルミ内貼り円筒部材を用いた場合、5秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は5.01J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.27J/cm2であった。10秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は12.34J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.65J/cm2であった。15秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は18.51J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.98J/cm2であった。20秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は38.73J/cm2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は2.05J/cm2であった。
【0070】
パルス光照射後の試験菌液を試料原液として菌数を測定した。枯草菌芽胞は生理理食塩液、マラセチアは、0.005%エーロゾル加生理食塩液で10倍段階希釈列を作成し、試料原液および希釈液の各1mLを所定培地との混釈平板とした。培養条件は、枯草菌についてはTSA培地(細菌用)を用い、36±2℃で40から48時間、またマラセチアでは、PDA培地(真菌用)を用い、28±2℃で7日間の条件とした。培養後、発育した集落を数え、生菌数を求めた。試験菌液の菌数は、枯草菌芽胞が1.9×106CFU/mL、マラセチアが2.4×105CFU/mLであった。なお、検出下限値は10CFU/mLであった。マラセチア菌の観察結果を図17に、枯草菌芽胞の観察結果を図18に示す。
【0071】
また、以下の式から殺菌率を求めた。
殺菌率(%)=(1−パルス光照射後の菌数/初期の菌数)x100(%)
1)枯草菌芽胞
パルス光未照射の初期菌数は、1,800,000CFUであった。パルス光照射後の試験菌数は、黒色直管を用いた場合が20秒で120,000CFU、アルミ内貼り円筒部材を用いた場合が5秒で<100CFU(定量下限値未満)、直管を用いなかった場合が20秒で160,000CFUであった。初期菌数からパルス光照射後の殺菌率を求めると順に93%、99.99%、91%であった。
【0072】
2)マラセチア
パルス光未照射の初期菌数は、460,000CFUであった。パルス光照射後の試験菌数は、黒色直管を用いた場合が20秒で200CFU、アルミ内貼り円筒部材を用いた場合が5秒で<100CFU(定量下限値未満)、直管を用いなかった場合が20秒で<100CFU(定量下限値未満)であった。初期菌数からパルス光照射後の殺菌率を求めると順に99.95%、99.97%、99.97%であった。
【0073】
アルミ内貼り円筒部材を用いた場合、パルス光を5秒以上発振して照射すると、菌数が検出限界以下になることが確認された。アルミ内貼り円筒部材を用いなかった場合は、発振時間が長くなるにつれて、菌数が減少することが確認された。
【0074】
(実施例3)
正常細胞として、アフリカミドリザル腎臓細胞株COS−7(RCB0539、理研細胞バンク)を用意し、ガラスベースディッシュ(Iwaki、3910−035)中の培養液中に保存した。培養液は、終濃度が10%(v/v)となるようFBS(invitrogen)を、終濃度が5%(v/v)となるようにペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬工業(株))を添加したダルベッコ改変イーグル培養液(invitrogen)を用いた。次に、培養液から50mm又は100mm離れたところに、実施例に係る装置のランプモジュールを配置し、ランプモジュールと培養液の間に、ファイバーを配置した。その後、実施例に係る装置から、60Hz、90W相当のパルス光を5秒及び10秒、それぞれ培養液に照射した。さらに培地中のCOS−7を5%CO2、37℃のインキュベータで15時間から24時間培養し、COS−7を観察した。また、コントロールとして、パルス光を照射していないCOS−7についても、観察した。
【0075】
パルス光を照射した直後のCOS−7を共焦点レーザ走査型顕微鏡(LSM510−META、Carl Zeiss)で観察したところ、パルス光を照射されたCOS−7において、細胞死はほとんど観察されなかった。さらに、パルス光を照射した後、15時間経過後のCOS−7を共焦点レーザ走査型顕微鏡(LSM510−META、Carl Zeiss)で観察した結果を図19に示す。パルス光を照射されたCOS−7において、15時間経過後も、細胞死はほとんど観察されなかった。
【0076】
(実施例4)
実施例3と同様にパルス光を照射して15時間経過後のCOS−7をホルマリン固定し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色した。染色されたCOS−7を光学顕微鏡(DP−71、オリンパス)で観察した結果を図20に示す。ディッシュにより細胞数にばらつきがあるものの、図21に示すように。パルス光照射に起因する細胞の形態の変化、及び細胞の生存率の変化は、非常に少なかった。
【0077】
(実施例5)
実施例3と同様にパルス光を照射して15時間経過後のCOS−7の上清を回収して2.5%グルタルアルデヒド(TAAB社)で固定後、サイトスピンにかけ(800rpm、10分)、スライドグラス上に回収した細胞を貼り付けて観察した結果を図22に示す。
【0078】
(実施例6)
図23に示すように、各ウェルの直径が18mmである24ウェルプレート(TPP Techno Plastic Products AG Switzerland #92424)を用意し、各ウェルに0.25×105個の実施例3と同じCOS−7を播種した。播種後、24時間、COS−7を培養した。その後、実施例に係る装置で、印加電圧700V、発振周波数80Hz、及び図24に記載の発振時間を用いて、各ウェルのCOS−7にパルス光を照射した。照射の際には、ウェルの30mm上に配置された直径5mmの光導波路を用いた。
【0079】
パルス光を照射した後、さらに24時間COS−7を培養し、その後、COS−7をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。ヨウ化プロピジウムは、生細胞の細胞膜を透過することはできないが、死細胞の細胞膜を透過し、核及びミトコンドリア内のDNAにインターカレートして赤色蛍光を発する。ヨウ化プロピジウムで染色されたCOS−7を、共焦点レーザ顕微鏡で観察して、COS−7の生死判定をした。
【0080】
発振時間が0秒、5秒、及び10秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図25に、発振時間が20秒、30秒、及び40秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図26に、発振時間が60秒、及び80秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図27に、発振時間が120秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図28に、発振時間が240秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図29に、発振時間が480秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を図30に示す。
【0081】
図24に示すように、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が少なくとも61.08J/cm2まで、紫外線C領域の積算エネルギー密度が少なくとも3.24J/cm2までは、ウェル中のほぼ全てのCOS−7が生存していることが確認された。一方、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が122.16J/cm2以上、紫外線C領域の積算エネルギー密度が6.47J/cm2以上は、ウェル中のCOS−7が死滅していることが確認された。
【0082】
(実施例7)
実施例6と同様に、各ウェルの直径が18mmである24ウェルプレート(4TPP Techno Plastic Products AG Switzerland #9242)を用意し、各ウェルに0.25×105個の実施例3と同じCOS−7を播種した。播種後、24時間、COS−7を培養した。その後、実施例に係る装置によって、300V、400V、500V、600V、及び700Vの印加電圧、40Hz、60Hz、80Hz、及び100Hzの周波数、並びに0秒、5秒、10秒、20秒、40秒、及び80秒の発振時間の組み合わせを用いて、各ウェルのCOS−7にパルス光を照射した。照射の際には、ウェルの30mm上に配置された直径5mmの光導波路を用いた。
【0083】
COS−7にヨウ化プロピジウム(PI)添加後、共焦点レーザ顕微鏡観察下で、細胞状態を確認しつつパルス光照射をした後、さらに24時間培養し共焦点レーザ顕微鏡で観察して、生きているCOS−7の数を計測した。顕微鏡写真の一部を図31に示す。
【0084】
図32に示す表は、パルス光照射前後における、生きているCOS−7の数の変化を示している。図32に示す表において、+は、生きているCOS−7の数が増えたこと、換言すれば、細胞の増殖能が活性化されたことを示している。例えば、印加電圧300V、周波数40Hz、発振時間5秒の条件でパルス光を照射すると、生きているCOS−7の数が増加した。±は、生きているCOS−7の数に変化がなかったことを示している。−は、生きているCOS−7の数が減少したことを示している。
【0085】
図33及び図34は、図32において生きているCOS−7の数が増えたときの、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度、及び紫外線C領域の積算エネルギー密度を示している。被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が少なくとも4.97J/cm2まで、紫外線C領域の積算エネルギー密度が少なくとも0.26J/cm2までは、COS−7の数が増加することが確認された。
【符号の説明】
【0086】
1 ランプモジュール
2 電源部
3 光導波路
4 アタッチメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34