【実施例】
【0055】
(装置の作製)
キセノンフラッシュランプ(L7685、浜松ホトニクス)、トリガーソケット(E6647、浜松ホトニクス)、電源(C6096、浜松ホトニクス)、冷却ジャケット(E661 1、浜松ホトニクス)、主放電コデンサ(E7289−02、浜松ホトニクス)、ライトガイド(A2873、浜松ホトニクス)、及びDC電源(S8EX−BP10024LC、OMRON)を用いて、実施例に係る装置を作製した。
【0056】
作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が1000Vである場合の、キセノンパルス光のエネルギーを理論計算したところ、
図6に示すとおりであった。
【0057】
また、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が700Vであり、発振時間が5秒、10秒、及び20秒である場合の、ランプの発光面から13mm離れた位置での紫外線の積算エネルギー密度を周波数ごとに計測したところ、
図7に示すとおりであった。なお、ランプの発光面と、計測位置と、の間には、長さが13mmの黒色アルミ製の円筒部材を配置した。
【0058】
さらに、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が300V、400V、500V、600V、及び700Vであり、発振時間が5秒である場合の、光導波路3として石英ファイバーを用いファイバー先端から30mm離れた位置での紫外線の積算エネルギー密度を周波数ごとに計測したところ、
図8に示すとおりであった。なお、ファイバー先端と、計測位置と、の間には、長さが50mmの円筒部材を配置した。
【0059】
図9及び
図10は、作製した装置を用いて、コンデンサ入力電圧が700V、発振周波数が60Hzである場合の、発振周波数と、全波長帯域及び紫外線C領域のエネルギー密度と、の関係を示すグラフである。なお、
図9は、ランプ先端と、計測位置と、の間には、長さが100mmのアルミニウム内貼り円筒部材を配置した場合のグラフである。
図10は、ランプ先端と、計測位置と、の間の間隔が100mmであり、何も配置しなかった場合のグラフである。
図11に示すように、円筒部材のような光導波路を用いることで、効率よく光エネルギーを伝達できることが示された。
【0060】
(実施例1:定性試験)
細菌として、マラセチア菌(Malassezia pachydermatis NBRC 10064)、枯草菌芽胞(Bacillus subtilis ATCC 6633)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、及び大腸菌(Escherichia coli)を用意した。
【0061】
本実施例では、以下の試薬を使用した。
・Tryptic Soy Agar(Difco、以下TSA 培地)
・ポテトデキストロース寒天培地(日水、以下PDA 培地)
・塩化ナトリウム(和光、特級、生理食塩液用)
・エーロゾルOT(和光、化学用、0.005%エーロゾル溶液用)
・SCDLP ブイヨン(栄研、以下SCDLP 培地)
【0062】
1)菌液の調製
黄色ブドウ球菌及び大腸菌については、凍結保存された菌株をTSA培地に塗布し、前培養した。発育した集落を再び36±2℃で18から24時間培養後、イオン交換水に懸濁して約10
6CFU/mLに調製した。マラセチアについては、凍結素存された菌株をPDA培地に塗布し、28±2℃で3日間培養後、0.005%エーロゾルOT溶液に懸濁して約10
6CFU/mLに調製した。枯草菌芽胞については、市販の芽胞懸濁液をイオン交換水で約10
6CFU/mLとなるように希釈した。
【0063】
2)菌液の塗布
菌液を塗布する培地として、細菌用にTSA培地を、真菌用にPDA培地を用いた。試験菌液0.1mLを寒天培地表面に滴下し、ガラスビーズで均一に塗布して試験に供した。
【0064】
3)試験品の照射
図12に示すように、菌液を塗布した寒天培地の表面から約10cm離れた位置に実施例に係る装置のランプモジュールを配置し、ランプモジュールと寒天培地の間に、ランプモジュールが発した光を伝達するための長さが100mmのアルミ内貼り円筒部材を配置した。
【0065】
その後、実施例に係る装置から、60Hzのパルス光を5秒、10秒、及び20秒発振させ、それぞれ寒天培地に照射した。その後、寒天培地の培養条件を、細菌用のTSA培地では36±2℃で40から48時間、真菌用のPDA培地では28±2℃で7日間の条件として、寒天培地を培養した。照射後の寒天培地を培養後、照射部位における試験菌の発育状況を目視で観察後に、写真を撮影した。また、コントロールとして、パルス光を照射していない細菌についても、コロニーの発育状況を観察した。
【0066】
5秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は3.13J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.17J/cm
2であった。10秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は7.71J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.41J/cm
2であった。20秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は24.21J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は1.28J/cm
2であった。
【0067】
マラセチア菌の観察結果を
図13に、枯草菌芽胞の観察結果を
図14に、黄色ブドウ球菌の観察結果を
図15に、大腸菌の観察結果を
図16に示す。マラセチア菌、黄色ブドウ球菌、及び大腸菌については、パルス光を5秒以上照射された培地の中心付近上の菌は死滅し、コロニーが形成されないことが確認された。また、枯草菌芽胞については、パルス光を10秒以上照射された培地の中心付近上の菌は死滅し、コロニーが形成されないことが確認された。
【0068】
(実施例2:定量試験)
細菌として、マラセチア菌(Malassezia pachydermatis NBRC 10064)、及び枯草菌芽胞(Bacillus subtilis ATCC 6633)を用意した。マラセチアについては、凍結素存された菌株をPDA培地に塗布し、28±2℃で3日間培養後、0.005%エーロゾルOT溶液に懸濁して約10
5CFU/mLに調製した。枯草菌芽胞については、市販の芽胞懸濁液をイオン交換水で約10
5CFU/mLとなるように希釈した。各々試験菌液15μLをホールスライドガラスに滴下し、これを照射試料とした。ホールスライドガラスから約10.0cm離れた位置に実施例に係る装置のランプモジュールを配置した。その後、ランプモジュールとウェルの間に、管を配置しない場合、ランプモジュールとウェルの間に、ランプモジュールが発した光を伝達するための長さが100mmのアルミ内貼り円筒部材、及び黒色の円筒部材のいずれかを配置した場合について、実施例に係る装置から、60Hzのパルス光を5秒、10秒、15秒、及び20秒発振させ、それぞれ菌液に照射した。
【0069】
100mmのアルミ内貼り円筒部材を用いた場合、5秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は5.01J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.27J/cm
2であった。10秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は12.34J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.65J/cm
2であった。15秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は18.51J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は0.98J/cm
2であった。20秒発振したときの被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度は38.73J/cm
2であり、紫外線C領域の積算エネルギー密度は2.05J/cm
2であった。
【0070】
パルス光照射後の試験菌液を試料原液として菌数を測定した。枯草菌芽胞は生理理食塩液、マラセチアは、0.005%エーロゾル加生理食塩液で10倍段階希釈列を作成し、試料原液および希釈液の各1mLを所定培地との混釈平板とした。培養条件は、枯草菌についてはTSA培地(細菌用)を用い、36±2℃で40から48時間、またマラセチアでは、PDA培地(真菌用)を用い、28±2℃で7日間の条件とした。培養後、発育した集落を数え、生菌数を求めた。試験菌液の菌数は、枯草菌芽胞が1.9×10
6CFU/mL、マラセチアが2.4×10
5CFU/mLであった。なお、検出下限値は10CFU/mLであった。マラセチア菌の観察結果を
図17に、枯草菌芽胞の観察結果を
図18に示す。
【0071】
また、以下の式から殺菌率を求めた。
殺菌率(%)=(1−パルス光照射後の菌数/初期の菌数)x100(%)
1)枯草菌芽胞
パルス光未照射の初期菌数は、1,800,000CFUであった。パルス光照射後の試験菌数は、黒色直管を用いた場合が20秒で120,000CFU、アルミ内貼り円筒部材を用いた場合が5秒で<100CFU(定量下限値未満)、直管を用いなかった場合が20秒で160,000CFUであった。初期菌数からパルス光照射後の殺菌率を求めると順に93%、99.99%、91%であった。
【0072】
2)マラセチア
パルス光未照射の初期菌数は、460,000CFUであった。パルス光照射後の試験菌数は、黒色直管を用いた場合が20秒で200CFU、アルミ内貼り円筒部材を用いた場合が5秒で<100CFU(定量下限値未満)、直管を用いなかった場合が20秒で<100CFU(定量下限値未満)であった。初期菌数からパルス光照射後の殺菌率を求めると順に99.95%、99.97%、99.97%であった。
【0073】
アルミ内貼り円筒部材を用いた場合、パルス光を5秒以上発振して照射すると、菌数が検出限界以下になることが確認された。アルミ内貼り円筒部材を用いなかった場合は、発振時間が長くなるにつれて、菌数が減少することが確認された。
【0074】
(実施例3)
正常細胞として、アフリカミドリザル腎臓細胞株COS−7(RCB0539、理研細胞バンク)を用意し、ガラスベースディッシュ(Iwaki、3910−035)中の培養液中に保存した。培養液は、終濃度が10%(v/v)となるようFBS(invitrogen)を、終濃度が5%(v/v)となるようにペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬工業(株))を添加したダルベッコ改変イーグル培養液(invitrogen)を用いた。次に、培養液から50mm又は100mm離れたところに、実施例に係る装置のランプモジュールを配置し、ランプモジュールと培養液の間に、ファイバーを配置した。その後、実施例に係る装置から、60Hz、90W相当のパルス光を5秒及び10秒、それぞれ培養液に照射した。さらに培地中のCOS−7を5%CO
2、37℃のインキュベータで15時間から24時間培養し、COS−7を観察した。また、コントロールとして、パルス光を照射していないCOS−7についても、観察した。
【0075】
パルス光を照射した直後のCOS−7を共焦点レーザ走査型顕微鏡(LSM510−META、Carl Zeiss)で観察したところ、パルス光を照射されたCOS−7において、細胞死はほとんど観察されなかった。さらに、パルス光を照射した後、15時間経過後のCOS−7を共焦点レーザ走査型顕微鏡(LSM510−META、Carl Zeiss)で観察した結果を
図19に示す。パルス光を照射されたCOS−7において、15時間経過後も、細胞死はほとんど観察されなかった。
【0076】
(実施例4)
実施例3と同様にパルス光を照射して15時間経過後のCOS−7をホルマリン固定し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色した。染色されたCOS−7を光学顕微鏡(DP−71、オリンパス)で観察した結果を
図20に示す。ディッシュにより細胞数にばらつきがあるものの、
図21に示すように。パルス光照射に起因する細胞の形態の変化、及び細胞の生存率の変化は、非常に少なかった。
【0077】
(実施例5)
実施例3と同様にパルス光を照射して15時間経過後のCOS−7の上清を回収して2.5%グルタルアルデヒド(TAAB社)で固定後、サイトスピンにかけ(800rpm、10分)、スライドグラス上に回収した細胞を貼り付けて観察した結果を
図22に示す。
【0078】
(実施例6)
図23に示すように、各ウェルの直径が18mmである24ウェルプレート(TPP Techno Plastic Products AG Switzerland #92424)を用意し、各ウェルに0.25×10
5個の実施例3と同じCOS−7を播種した。播種後、24時間、COS−7を培養した。その後、実施例に係る装置で、印加電圧700V、発振周波数80Hz、及び
図24に記載の発振時間を用いて、各ウェルのCOS−7にパルス光を照射した。照射の際には、ウェルの30mm上に配置された直径5mmの光導波路を用いた。
【0079】
パルス光を照射した後、さらに24時間COS−7を培養し、その後、COS−7をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。ヨウ化プロピジウムは、生細胞の細胞膜を透過することはできないが、死細胞の細胞膜を透過し、核及びミトコンドリア内のDNAにインターカレートして赤色蛍光を発する。ヨウ化プロピジウムで染色されたCOS−7を、共焦点レーザ顕微鏡で観察して、COS−7の生死判定をした。
【0080】
発振時間が0秒、5秒、及び10秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図25に、発振時間が20秒、30秒、及び40秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図26に、発振時間が60秒、及び80秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図27に、発振時間が120秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図28に、発振時間が240秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図29に、発振時間が480秒の場合のCOS−7の顕微鏡写真を
図30に示す。
【0081】
図24に示すように、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が少なくとも61.08J/cm
2まで、紫外線C領域の積算エネルギー密度が少なくとも3.24J/cm
2までは、ウェル中のほぼ全てのCOS−7が生存していることが確認された。一方、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が122.16J/cm
2以上、紫外線C領域の積算エネルギー密度が6.47J/cm
2以上は、ウェル中のCOS−7が死滅していることが確認された。
【0082】
(実施例7)
実施例6と同様に、各ウェルの直径が18mmである24ウェルプレート(4TPP Techno Plastic Products AG Switzerland #9242)を用意し、各ウェルに0.25×10
5個の実施例3と同じCOS−7を播種した。播種後、24時間、COS−7を培養した。その後、実施例に係る装置によって、300V、400V、500V、600V、及び700Vの印加電圧、40Hz、60Hz、80Hz、及び100Hzの周波数、並びに0秒、5秒、10秒、20秒、40秒、及び80秒の発振時間の組み合わせを用いて、各ウェルのCOS−7にパルス光を照射した。照射の際には、ウェルの30mm上に配置された直径5mmの光導波路を用いた。
【0083】
COS−7にヨウ化プロピジウム(PI)添加後、共焦点レーザ顕微鏡観察下で、細胞状態を確認しつつパルス光照射をした後、さらに24時間培養し共焦点レーザ顕微鏡で観察して、生きているCOS−7の数を計測した。顕微鏡写真の一部を
図31に示す。
【0084】
図32に示す表は、パルス光照射前後における、生きているCOS−7の数の変化を示している。
図32に示す表において、+は、生きているCOS−7の数が増えたこと、換言すれば、細胞の増殖能が活性化されたことを示している。例えば、印加電圧300V、周波数40Hz、発振時間5秒の条件でパルス光を照射すると、生きているCOS−7の数が増加した。±は、生きているCOS−7の数に変化がなかったことを示している。−は、生きているCOS−7の数が減少したことを示している。
【0085】
図33及び
図34は、
図32において生きているCOS−7の数が増えたときの、被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度、及び紫外線C領域の積算エネルギー密度を示している。被照射領域における全波長帯域の積算エネルギー密度が少なくとも4.97J/cm
2まで、紫外線C領域の積算エネルギー密度が少なくとも0.26J/cm
2までは、COS−7の数が増加することが確認された。