(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態では、既設の鉄筋コンクリート構造物に対して適用されるせん断補強方法を例に説明を行う。
【0018】
すなわち本実施の形態では、既設の鉄筋コンクリート構造物としてRC壁1を例に説明するが、これに限定されるものではなく、床や天井や橋脚などせん断補強を必要とするあらゆる鉄筋コンクリート構造物に対して適用することができる。
【0019】
また、本実施の形態では、
図3に示すようにRC壁1の内面1aと隣接する障害物Sとの間隔が狭い場合について説明するが、適用箇所はこれに限定されるものではなく、広い作業空間が確保できる場合でも、当然に適用することができる。
【0020】
RC壁1は、
図1に示すように内面1aに沿って間隔を置いて主筋となる鉄筋11A,・・・が配置されるとともに、外面1bに沿っても間隔を置いて主筋となる鉄筋11B,・・・が配置される。
【0021】
そして、本実施の形態のせん断補強材3は、鉛直方向に延びる鉄筋11A,11B間に略直交する向きで架け渡されるように配置される。すなわち、
図3(c)に示すように、せん断補強材3はRC壁1の壁厚方向(内面1a直交方向)に向けて配置される。
【0022】
図2に、本実施の形態のせん断補強材3の構成を説明するための斜視図を示す。せん断補強材3は、可撓性が確保できる厚さの板状に形成される。本実施の形態では、板状材である単位シート31,31を2枚重ねた積層構造のせん断補強材3について説明するが、これに限定されるものではない。せん断補強材3は、1枚の板状材で形成されていてもよいし、3枚以上の板状材で形成されていてもよい。
【0023】
単位シート31には、炭素繊維やアラミド繊維などの繊維シート、薄い鋼板などが使用できる。繊維シートの繊維には、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維等が使用できる。また、織り方による分類では、単一配向シート、単一配向シートの向きを交互に変えて積層させたシート、クロス状に織ったシート等が使用できる。
【0024】
例えば炭素繊維シートは、繊維目付量が200〜300 g/m
2と軽量であり、錆びない特性を有する。また、繊維方向では鉄筋の3〜8倍の2000〜3500 N/mm
2という大きな引張強度を有している。
【0025】
そして、短冊状(長方形)に形成されたせん断補強材3の長手方向の両側の端部には、面外方向に突出する定着部3a,3aが形成される。この定着部3aは、円柱状の芯材32に単位シート31,31を覆い被せることによって形成することができる。
【0026】
芯材32は、例えば後述する充填材4と同じ材料や鋼材などによって製作することができる。また、芯材32の形状は、円柱状に限定されるものではなく、三角柱や四角柱などの多角柱状など、別の形状であってもよい。
【0027】
定着部3aでは、芯材32を挟んで単位シート31,31を折り返し、4層に重なった箇所を接着剤で固着させる。接着剤には、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、EVA系(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系)、アクリル樹脂系等の樹脂系接着剤や、クロロプレンゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系等のゴム系接着剤や、セメント系、石膏系等の水・気硬性接着剤などを用いることができる。
【0028】
このように定着部3a,3a周辺のみを接着剤で一体化させておくだけでも単位シート31,31がばらばらになることなく、一枚のせん断補強材3として扱うことができる。また、可撓性が保持できるのであれば、単位シート31,31の全長にわたって接着剤による一体化を行ってもよい。
【0029】
次に、本実施の形態の鉄筋コンクリート構造物を構築するためのせん断補強方法、及び鉄筋コンクリート構造物の作用について説明する。
【0030】
まず、
図3(a)に示すように、RC壁1の内面1a側から削孔を行う。このRC壁1は、内面1aと隣接する障害物Sとの間に、せん断補強材3の長さより短い離隔しか確保できない場所に設けられている。また、RC壁1の外面1bは地山Gに接しているので、外面1b側から削孔を行うことはできない。
【0031】
削孔は、削孔機5にロッド52とビット51を装着して行う。ロッド52は、RC壁1の内面1aと障害物Sとの離隔よりも短い長さのものを使用し、削孔の進捗に合わせてロッド52を逐次、継ぎ足しながら所望する奥行きの挿入孔2を形成する。
【0032】
挿入孔2は、
図1及び
図3(b)に示すように板状(直方体状)に形成される。そして、その挿入孔2に、せん断補強材3を挿入する。せん断補強材3は、
図3(b)に示すように内面1aと障害物Sとの離隔より長いので、撓ませた状態で挿入作業を行う。
【0033】
ここで、
図3(c)に示すように、挿入孔2の奥行きはせん断補強材3の長さより少し長く形成されている。このため、せん断補強材3は、挿入孔2の中で真っ直ぐに伸びた状態になって配置される。
【0034】
続いて、
図1に示すような注入ホース41などを使って、挿入孔2に充填材4を充填する。充填材4には、モルタルや流動性の高い高強度コンクリートなどが使用できる。充填材4は、
図1に示すように挿入孔2の孔口まで充填する。
【0035】
なお、
図3(b),(c)のせん断補強材3を挿入する工程と、
図3(d)の充填材4を充填する工程とは、いずれの工程が先になってもよい。例えば、挿入孔2の削孔後にまず充填材4を充填しておき、充填された充填材4の中にせん断補強材3を押し込むこともできる。
【0036】
また、挿入孔2の中ほどまで充填材4を充填しておき、せん断補強材3を挿入した後に残りの空洞を埋めるために追加で充填材4を充填するという順序であってもよい。
【0037】
以上で説明したせん断補強方法によって補強された鉄筋コンクリート構造物としてのRC壁1は、可撓性かつ板状のせん断補強材3を挿入孔2に挿入することによってせん断耐力を増加させる。すなわち、可撓性のせん断補強材3を使用するため、RC壁1の内面1aと隣接する障害物Sとの間の作業空間が狭く、それよりも配置するせん断補強材3が長い場合であっても、せん断補強材3を撓ませることで挿入孔2に挿入することができる。
【0038】
また、せん断補強材3は板状になっているため、可撓性を保持させるという制約があっても、せん断補強材3としての必要断面積を棒状部材に比べて容易に確保することができる。すなわち、棒状部材の断面積を増加させると撓ませることが難しくなるが、板状であれば厚みを変えずに幅を広げることで断面積を増加させることができるので、可撓性を保持したまま断面積を増加させることが可能である。
【0039】
また、縦方向の鉄筋間隔が狭く、横方向の鉄筋間隔が広い場合は、縦方向の鉄筋間隔よりも直径の大きな棒状部材はせん断補強材として配置することはできないが、板状のせん断補強材3であれば、間隔に余裕のある横幅を広げることによって必要断面積を容易に確保することができる。
【0040】
さらに、複数の単位シート31,31を積層させる積層構造とすれば、単位シート31の数を増減させることによって断面積の調整を容易に行うことができる。
【0041】
また、せん断補強材3の端部に面外方向に突出する定着部3a,3aを設けることで、充填材4に対するせん断補強材3の定着力を増加させることができる。
【実施例1】
【0042】
次に、前記実施の形態とは別の形態の鉄筋コンクリート構造物について、
図4を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
【0043】
前記実施の形態では、一つの挿入孔2に対して一枚のせん断補強材3を配置することで構築される鉄筋コンクリート構造物について説明したが、実施例1では、一つの挿入孔2に対して複数のせん断補強材3A,3Bを配置することで構築される鉄筋コンクリート構造物について説明する。
【0044】
せん断補強材3A,3Bは、前記実施の形態で説明したせん断補強材3と同様に定着部3aを備えていてもよいし、積層構造であってもよい。ここでは図示したように、定着部3aのない一枚の板状材によって形成されたせん断補強材3A,3Bを使って説明する。
【0045】
このせん断補強材3A,3Bは、
図4に示すように1枚であれば撓ませることができるが、2枚を重ねた場合は、作業空間内(内面1aと障害物Sとの間)で挿入孔2に挿入可能となるほど撓ませることができないものとする。
【0046】
このような場合に、まず1枚目のせん断補強材3Aを撓ませて挿入孔2に挿入し、続いて2枚目のせん断補強材3Bを撓ませて、先に挿入したせん断補強材3Aの上に配置する。そして、充填材4を挿入孔2に充填して、RC壁1とせん断補強材3A,3Bとを一体化させる。
【0047】
このように挿入孔2に複数枚のせん断補強材3A,3Bを挿入する方法であれば、それぞれのせん断補強材3A,3Bにはより撓みやすいものを使用することができる。このため、非常に狭い作業空間であっても、一枚ずつせん断補強材3A,3Bを配置していくことができる。
【0048】
また、複数のせん断補強材3A,3Bを必要な枚数だけ積層させればよいので、容易に必要断面積を確保することができる。
【0049】
なお、この他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
【実施例2】
【0050】
次に、前記実施の形態又は実施例とは別の形態の鉄筋コンクリート構造物について、
図5を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
【0051】
前記実施例1では、複数のせん断補強材3A,3Bを一枚ずつ挿入孔2に挿入することで構築される鉄筋コンクリート構造物について説明したが、実施例2ではまとめて挿入することで構築される鉄筋コンクリート構造物について説明する。
【0052】
図5(a)には、3枚の板状材としての単位シート61,61,61を接着剤で全長にわたって一体化させたせん断補強材6Aを示している。ここで、単位シート61には前記実施の形態の単位シート31で説明した材料が適用でき、接着剤には前記実施の形態で説明した材料が適用できる。
【0053】
また、この実施例2では単位シート61と呼んでいるが、実施例1のようにそれぞれ別体にした場合は、せん断補強材と呼ぶことができる。そして、単位シート61,・・・を積層させたせん断補強材6Aは、接着剤で全長にわたって一体化されていても撓ませることができる。
【0054】
これに対して接着剤で全長にわたって一体化させると可撓性が低下する場合は、
図5(b)に示すように両側の端部62,62のみを接着剤で一体化させたせん断補強材6Bを使用することもできる。
【0055】
このように端部62,62間の単位シート61,61,61どうしが固着されていなければ、曲げたときにずれたり別々に変形したりすることができるので、全長にわたって一体化させた場合と比べて撓ませやすくすることができる。
【0056】
このように作業空間内で撓ませることが可能な範囲で予め板状材を積層させたせん断補強材6A,6Bを使用することで、作業効率を向上させることができる。
【0057】
また、複数の単位シート61,・・・が接着剤で全長にわたって一体化されているか否かにかかわらず、最終的にはせん断補強材6A,6Bの周囲に充填される充填材4によって一体化されるため、いずれの形態であってもせん断耐力を充分に増加させることができる。
【0058】
なお、この他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
【実施例3】
【0059】
次に、前記実施の形態又は実施例とは別の形態の鉄筋コンクリート構造物について、
図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
【0060】
この実施例3では、せん断補強材7Aの表面の付着力を増加させる構成について説明する。ここで、通常のせん断補強材として使用される異形鉄筋は、表面に凹凸が形成されているため、充填材4との付着抵抗を確保しやすい。
【0061】
一方、板状のせん断補強材7Aは表面が平面状になるため、必要に応じて表面に多数の粒状物を固着させることで付着抵抗を増加させることができる。この実施例3では、粒状物として硅砂71,・・・を使用する場合について説明する。
【0062】
例えば、長方形板状のせん断補強材7Aの長手方向の端部の表面に、接着剤を塗布又は含浸させ、その上から硅砂71,・・・を散布する。このようにせん断補強材7Aの表面に多数の硅砂71,・・・を固着させることで、充填材4との付着抵抗を増加させることができる。
【0063】
また、このような粒状物を端部だけでなくせん断補強材7Aの全長にわたって固着させることで、せん断補強材7Aの全体の付着抵抗を増加させることができる。
【0064】
ここで、粒状物は、せん断補強材7Aの上面のみ、下面のみ又は両方の面というように付着抵抗を増加させたい面及び範囲を任意に選択して固着させることができる。
【0065】
なお、この他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
【実施例4】
【0066】
次に、前記実施の形態又は実施例とは別の形態の鉄筋コンクリート構造物について、
図7−
図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
【0067】
この実施例4では、定着部の様々な形態について説明する。まず、
図7では、前記実施例3で説明した粒状物よりも大きく面外方向に突出する定着体72,73を設ける場合について説明する。
【0068】
例えば、
図7(a)に示すように、せん断補強材7Bの両方の端部の上面に、直方体状の定着体72を固着させて定着部とすることができる。
【0069】
また、
図7(b)には、せん断補強材7Cの上面だけでなく、下面にも定着体73を固着させた定着部の構成を示している。このような定着体72,73は、例えば充填材4と同様の材料や鋼材などで成形することができる。
【0070】
次に、
図8では、金具を使った定着部74について説明する。この図に示した定着部74は、せん断補強材7Dの長手方向の端部の上面と下面に配置される一対のL金具74a,74aと、それらを締結させるボルト74bとによって主に構成される。
【0071】
せん断補強材7Dが繊維シートで形成されている場合は、織り目にボルト74bを通した後に繊維シートに接着剤などを含浸させるようにすれば、特別に穴などを開けなくてもボルト74bを使ったL金具74a,74aの固定を行うことができる。
【0072】
L金具74aは、せん断補強材7Dの面直交方向に大きく突出されるので、定着部74として効果的である。なお、L金具74aを、上面又は下面のいずれか一方の面にのみ配置する構成であってもよい。
【0073】
図9には、フック状に加工された定着部75を備えたせん断補強材7Eを図示した。例えば繊維シートなどのように変形させた形状を保持させ難い弾性材料でせん断補強材7Eを形成する場合は、ブロックなどの型を使って端部を所望する形状に加工する。
【0074】
例えば断面半長円の柱状の曲面ブロック75aを使い、せん断補強材7Eの端部を曲面ブロック75aに沿って折り曲げて、接着剤によって貼り付けることで定着部75を形成することができる。
【0075】
このように加工することで、せん断補強材7Eの端部は、フック状に成形された定着部75となる。ここで、曲面ブロック75aは、例えば充填材4と同様の材料や鋼材などによって成形することができる。
【0076】
このようにせん断補強材7B−7Eの端部に面外方向に突出する様々な形態の定着部(72−75)を設けることで、せん断補強材7B−7Eの定着力を調整することができる。
【0077】
なお、この他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
【0078】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0079】
例えば、前記実施の形態では、既設のRC壁1を補強した構造を本実施の形態の鉄筋コンクリート構造物としたが、これに限定されるものではなく、新たに鉄筋コンクリート構造物を構築する際に、鉄筋11A,11Bの配筋に合わせて本実施の形態又は実施例で説明したせん断補強材3,3A,3B,6A,6B,7A−7Eを配置してもよい。例えば、新設する鉄筋コンクリート構造物の部材厚が厚くなるうえにその部材厚よりも狭い作業空間しか確保できない場合は、新たに配筋を行う際にも、曲げられない棒状のせん断補強材を使うと作業効率が低下したり、配筋できなかったりする場合がある。これに対して可撓性のあるせん断補強材3,3A,3B,6A,6B,7A−7Eを使用することで、作業空間が狭い場合でも効率よくせん断補強材を配置できるようになる。
【0080】
また、前記実施の形態では、可撓性を有するせん断補強材3,3A,3B,6A,6B,7A−7Eを使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、可撓性のない板状のせん断補強材が配置された鉄筋コンクリート構造物であってもよい。
【0081】
さらに、前記実施例3で説明した粒状物は、単独で使用することもできるが、前記実施の形態や他の実施例で説明した定着部3a,72−75と併せて使用することもできる。
【0082】
さらに、前記実施の形態又は実施例では、せん断補強材3,7B,7Cの両方の端部に定着部(3a,72,73)を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、いずれか一方の端部にのみ定着部(3a,72,73)を設けることもできる。