特許第6138468号(P6138468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138468
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】翼振動減衰構造
(51)【国際特許分類】
   F01D 5/16 20060101AFI20170522BHJP
   F01D 25/06 20060101ALI20170522BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20170522BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170522BHJP
   F01D 5/22 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F01D5/16
   F01D25/06
   F01D5/28
   F01D25/00 L
   F01D5/22
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-267858(P2012-267858)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114716(P2014-114716A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】富井 正幸
(72)【発明者】
【氏名】森 一石
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05201850(US,A)
【文献】 米国特許第03377050(US,A)
【文献】 特開2001−082544(JP,A)
【文献】 特開2012−122485(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0086889(US,A1)
【文献】 特開平05−039701(JP,A)
【文献】 特開昭51−035807(JP,A)
【文献】 特開平09−324603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/00− 9/04
F01D 25/00、06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼頂部にシュラウドを有する複数の静翼がロータ軸の中心を中心にして周方向に一定間隔で設置された軸流回転機械における前記静翼の振動を減衰させる翼振動減衰構造であって、
前記シュラウドの内周側に、当該シュラウドと所定の距離を置いて円環状のダンパー部材を配し、
前記軸流回転機械を作動させた際に、前記ダンパー部材と前記静翼の前記ロータ軸の径方向における変形量に差異を設け、前記ダンパー部材と前記シュラウドとを接触させると共に互いに反力が作用するようにし、
前記ダンパー部材と前記シュラウドとの接触部に、前記静翼の振動を減衰させるのに十分な摩擦力が生じるようにした
ことを特徴とする翼振動減衰構造。
【請求項2】
前記ダンパー部材を帯状に形成し、前記シュラウドと面で接触するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の翼振動減衰構造。
【請求項3】
前記軸流回転機械を作動させた際において、前記ロータ軸の周方向に隣接する前記静翼の前記シュラウド同士が接触しないようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の翼振動減衰構造。
【請求項4】
前記シュラウドにダンパー部材抜け止め部材を設け、
前記シュラウドおよび前記ダンパー部材抜け止め部材によって前記ダンパー部材の位置を制限したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の翼振動減衰構造。
【請求項5】
前記ダンパー部材を、前記静翼を形成する材料よりも熱膨張率の低い材料で形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の翼振動減衰構造。
【請求項6】
前記ダンパー部材を、複合材料で形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の翼振動減衰構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流回転機械における翼振動減衰構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや蒸気タービンなどの軸流回転機械においては、ロータ軸を中心として周方向に複数の動翼を有する動翼列と複数の静翼を有する静翼列とが備えられ、ロータ軸の軸方向に動翼列と静翼列とが交互に複数列並べて設置されている。
【0003】
このような軸流回転機械は種々の振動問題を抱えており、例えば、動翼や静翼が振動する翼振動がある。翼(本明細書で翼といえば、静翼と動翼を含む概念である)の固有振動数と励振力の周波数とが一致する場合には、翼は共振状態となり、翼には共振による大きな振動応力が発生し、損傷に至る虞がある。
【0004】
翼振動は様々な事象によって起こる。例えば、翼列干渉力による振動や偏流によって生じる振動などに起因して、翼振動が起こる。よって、翼振動が起こる原因を全て排除することは難しく、翼振動を減衰させる構造や機構を採用することにより、翼振動による翼の損傷を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−324603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
翼振動を減衰させる技術として、例えば、シュラウドコンタクトがある。これは、流体のシール性向上のため翼頂部に設けたシュラウドを隣接するもの同士で接触させ、互いに隣接するシュラウドの接触部に摩擦を発生させることにより、翼振動を減衰させるものである。
【0007】
この技術は、遠心力によって三次元翼に生じるねじり戻しを利用し、互いに隣接するシュラウドを接触させている。軸流回転機械を作動させることによって、ねじり形状の三次元翼に遠心力が作用し、三次元翼にねじり戻しが生じる。三次元翼の翼頂部に設けたシュラウドは、三次元翼のねじり戻しに伴って回転し、隣接する三次元翼のシュラウド同士が接触する。
【0008】
よって、シュラウドコンタクトは、遠心力の作用する動翼のみに適用することができ、更に、ねじり戻しを生じるねじり形状の三次元翼のみに適用することができる。つまり、ねじりの少ない二次元翼や遠心力の作用しない静翼には適用することができない。
【0009】
また、隣接するシュラウド同士を接触させることによって、シュラウドに反力が作用し、翼に過大な応力が発生する。よって、翼が強度的に厳しい状態となるため、翼やシュラウドの設計に多大な時間を要し、製作費用の増大を招く。つまり、隣接するシュラウド同士を接触させることは、設計および製作上好ましくない。
【0010】
隣接するシュラウド同士を接触させずに翼振動を減衰させる技術としては、例えば、特許文献1がある。これは、タービン動翼の翼先端部に設けた溝にワイヤを装着することにより、タービン動翼とワイヤとの接触部に摩擦を発生させ、タービン動翼の振動を減衰させるものである。
【0011】
しかし、タービン動翼とワイヤとの接触部に発生する摩擦力は小さく、ダービン動翼の振動を減衰させる効果は非常に低い。
【0012】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、翼振動の減衰率を向上させ、種々の翼に適用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する第一の発明に係る翼振動減衰構造は、翼頂部にシュラウドを有する複数の静翼がロータ軸の中心を中心にして周方向に一定間隔で設置された軸流回転機械における前記静翼の振動を減衰させる翼振動減衰構造であって、前記シュラウドの内周側に、当該シュラウドと所定の距離を置いて円環状のダンパー部材を配し、前記軸流回転機械を作動させた際に、前記ダンパー部材と前記静翼の前記ロータ軸の径方向における変形量に差異を設け、前記ダンパー部材と前記シュラウドとを接触させると共に互いに反力が作用するようにし、前記ダンパー部材と前記シュラウドとの接触部に、前記静翼の振動を減衰させるのに十分な摩擦力が生じるようにしたことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第二の発明に係る翼振動減衰構造は、第一の発明に係る翼振動減衰構造において、前記ダンパー部材を帯状に形成し、前記シュラウドと面で接触するようにしたことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第三の発明に係る翼振動減衰構造は、第一または第二の発明に係る翼振動減衰構造において、前記軸流回転機械を作動させた際において、前記ロータ軸の周方向に隣接する前記静翼の前記シュラウド同士が接触しないようにしたことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第四の発明に係る翼振動減衰構造は、第一乃至第三のいずれかの発明に係る翼振動減衰構造において、前記シュラウドにダンパー部材抜け止め部材を設け、前記シュラウドおよび前記ダンパー部材抜け止め部材によって前記ダンパー部材の位置を制限したことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第五の発明に係る翼振動減衰構造は、第一乃至第四のいずれかの発明に係る翼振動減衰構造において、前記ダンパー部材を、前記静翼を形成する材料よりも熱膨張率の低い材料で形成したことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第六の発明に係る翼振動減衰構造は、第一乃至第五のいずれかの発明に係る翼振動減衰構造において、前記ダンパー部材を、複合材料で形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第一の発明に係る翼振動減衰構造によれば、シュラウドにおける静翼と反対の側に円環状のダンパー部材を配し、軸流回転機械を作動させた際にシュラウドとダンパー部材とが接触するようにしたことより、シュラウドとダンパー部材との接触部には摩擦が生じ、摩擦力によって静翼の振動を減衰させることができる。なお、静翼の熱膨張などによる変形によってシュラウドとダンパー部材とを接触させ、静翼の振動を減衰させることができるので、遠心力の作用しない静翼など種々の翼に適用することができる。
また、静翼の翼頂部に設けたシュラウドの内周側にダンパー部材を配したことにより、軸流回転機械の作動時には静翼の変形によって内周側へ広がるシュラウドとダンパー部材とを接触させることができる。よって、シュラウドとダンパー部材との接触部に摩擦力を生じさせ、静翼の振動を減衰させることができる。
また、軸流回転機械を作動させた際におけるダンパー部材と静翼とのロータ軸の径方向における変形量に差異を設けたことにより、ダンパー部材とシュラウドとの接触部に適度な反力を作用させることができる。よって、ダンパー部材とシュラウドとの接触部に適度な摩擦力を生じさせ、静翼の振動を十分に減衰させることができる。
また、例えば、ダンパー部材の径方向における変形量を静翼よりも十分に少なくなるように形成することにより、軸流回転機械の作動時に静翼の変形によって内周側に広がるシュラウドと変形量の少ないダンパー部材とが接触するので、シュラウドとダンパー部材との接触部に過大な反力が生じることがない。よって、静翼、シュラウドおよびダンパー部材の損傷を低減することができる。なお、静翼、シュラウドおよびダンパー部材が強度的に厳しい状態とならないので、静翼、シュラウドおよびダンパー部材の設計に多大な時間を要することはなく、製作費用の増大を防ぐことができる。
【0023】
第二の発明に係る翼振動減衰構造によれば、ダンパー部材を帯状に形成することにより、静翼の翼頂部に設けたシュラウドとダンパー部材とを面接触させることができる。よって、静翼とダンパー部材との接触部に生じる摩擦力を増大させ、静翼の振動を十分に減衰させることができる。
【0027】
第三の発明に係る翼振動減衰構造によれば、隣接する静翼のシュラウド同士が接触しないようにすることにより、隣接するシュラウド同士に反力が作用せず、静翼に過大な応力が発生することはない。よって、静翼が強度的に厳しい状態とならず、静翼やシュラウドの設計時間を短縮し、製作費用を削減することができる。
【0028】
第四の発明に係る翼振動減衰構造によれば、シュラウドとダンパー部材抜け止め部材によって、ダンパー部材の位置を制限したことにより、軸流回転機械の停止時等にダンパー部材が抜け出てしまう虞がない。なお、ダンパー部材がシュラウド等に固定されていないので、軸流回転機械の作動時にダンパー部材が静翼およびシュラウドと共に振動せず、ダンパー部材とシュラウドとの接触部において静翼の振動を減衰させる摩擦力を生じさせることができる。また、ダンパー部材抜け止め部材として、従来の軸流回転機械で使用されているシュラウドフィンを、ダンパー部材の抜け止め部材として利用することにより、新たな部材の追加を伴わないので、製作費用等の増大を防ぐことができる。
【0029】
第五の発明に係る翼振動減衰構造によれば、ダンパー部材を静翼よりも熱膨張率の低い材料で形成することにより、ダンパー部材の熱膨張による変形が少ないので、ダンバー部材とシュラウドとの接触部には、静翼の熱膨張による変形によってのみ反力が作用するので、過大な反力および摩擦力を生じることがなく、静翼等が損傷する虞がない。
【0030】
第六の発明に係る翼振動減衰構造によれば、ダンパー部材を複合材料で形成することにより、軽量かつ高剛性であるので、リング自体に作用する遠心力による変形が小さく、ダンパー部材と静翼との変形量の差異を生じさせ易い。また、熱膨張率が非常に小さいので、ダンパー部材と静翼との変形量の差異を生じさせ易い。よって、ダンパー部材とシュラウドとを接触させ、ダンパー部材とシュラウドとの接触部に反力を生じさせることが容易にできる。なお、耐熱性の高い複合材料であれば、ガスタービン等の高温環境下においても適用することができ、高強度の複合材料であれば、損傷の虞が低減することができ、小さくて軽いダンパー部材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1に係る翼振動減衰構造を示す説明図(図3におけるI−I矢視図)である。
図2】実施例1に係る翼振動減衰構造を示す説明図(図3におけるII−II矢視図)である。
図3】実施例1に係る翼振動減衰構造を備えた動翼列を示す概略図である。
図4】実施例2に係る翼振動減衰構造を示す説明図(図6におけるIV−IV矢視図)である。
図5】実施例2に係る翼振動減衰構造を示す説明図(図6におけるV−V矢視図)である。
図6】実施例2に係る翼振動減衰構造を備えた静翼列を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る翼振動減衰構造の実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、実施例1では本発明に係る翼振動減衰構造を軸流回転機械における動翼に採用した例を示し、実施例2では本発明に係る翼振動減衰構造を軸流回転機械における静翼に採用した例を示す。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各種変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0033】
先ず、本発明の実施例1に係る翼振動減衰構造について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0034】
軸流回転機械における動翼の周辺構造は、図3に示すように、円筒状のケーシング1内において図示しない本体部に回転自在に保持されたロータ軸2に円盤状のロータディスク3が保持され、ロータディスク3の外周に複数の動翼10がロータ軸2の中心を中心にして周方向に一定間隔で設置されて成る。
【0035】
動翼10の翼頂部(図3における外周側)には、ケーシング1と動翼10との間におけるシール性を向上させるためにシュラウド20を設けている。更に、図1および図2に示すように、シュラウド20にはケーシング1側(動翼10と反対の側)へ突出するシュラウドフィン21を設け、ケーシング1と動翼10との間におけるシール性を更に向上させている。
【0036】
本実施例では、動翼10の振動を減衰させるために、動翼10におけるシュラウド20の外周側(動翼10と反対の側)にダンパー部材として円環状のダンパーリング30を配している。なお、後述するダンパーリング30とシュラウド20との接触において、ダンパーリング30がシュラウド20と面で接触するように、ダンパーリング30を帯状に形成している。つまり、本実施例のダンパーリング30は帯板を円環にした形状を成している。
【0037】
ダンパーリング30は、シュラウド20の外周側においてシュラウドフィン21の間に係合され、シュラウド20およびシュラウドフィン21によって位置が制限された状態であり、シュラウド20等に固定される必要はない。
【0038】
もちろん、ダンパーリング30を配する位置は本実施例のシュラウド20の外周側におけるシュラウドフィン21の間に限定されず、シュラウド20の外周側であれば良い。また、本実施例ではダンパーリング30の位置を制限するダンパー部材抜け止め部材としてシュラウドフィン21を利用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、シュラウド20にシュラウドフィン21を設けていない場合においては、シュラウド20の外周側に円環状のダンパーリング30を係合し、シュラウド20の外周側にダンパー部材抜け止め部材として図示しない抜け止め部材等を設置することによって、ダンパーリング30の位置を制限しても良い。
【0039】
ダンパーリング30を配する方法としては、シュラウドフィン21を外した状態のシュラウド20の外周側へ円環状のダンパーリング30を係合させ、ダンパーリング30の両側を囲うようにシュラウドフィン21をシュラウド20に取付ける。
【0040】
もちろん、ダンパーリング30を配する方法はこれに限定されず、例えば、ダンパーリング30を分割構造としてシュラウド20の外周側におけるシュラウドフィン21の間に係合させ、分割されたダンパーリング30を一体化して円環状にすることにより、ダンパーリング30を配しても良い。
【0041】
なお、本実施例に係る翼振動減衰構造においては、ダンパーリング30とシュラウド20とを接触させ、ダンパーリング30とシュラウド20との接触部に生じる摩擦力によって、動翼10の振動を減衰させる。よって、従来技術であるシュラウドコンタクトを適用する必要はなく、本実施例ではロータ軸2の周方向に隣接するシュラウド20同士が接触しないように、隣接するシュラウド20の間に隙間Dを設けている。
【0042】
ダンパーリング30には、軸流回転機械の作動時における遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向における変形量が動翼10の変形量よりも少ない特性を持たせる。例えば、ダンパーリング30を、熱膨張率が低い材質、または剛性の高い材質、または比重の軽い材質で形成することにより、遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向におけるダンパーリング30の変形量を、遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向における動翼10の変形量よりも少なくする。
【0043】
本実施例では、ダンパーリング30を、熱膨張率が低く、高強度かつ高剛性、軽量で耐熱性にも優れたC/Cコンポジットで形成した。もちろん、本発明はこれに限定されず、例えば、複合材料の繊維強化プラスチック(FRP)やセラミックなどの非金属でも良い。なお、繊維強化プラスチックは、高強度かつ高剛性であることから、ダンパーリング30を形成する材質として好ましい。特に、耐熱性にも優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ガスタービンの上段等の高温環境下においても使用することができる。
【0044】
ダンパーリング30に前述したロータ軸2の径方向における変形量が少ないという特性を持たせることにより、軸流回転機械を作動させた際に、ダンパーリング30の遠心力や熱膨張による変形量が動翼10の変形量よりも少ないため、ダンパーリング30と動翼10に設けたシュラウド20とが接触し、摩擦力が生じる。ダンパーリング30とシュラウド20との接触部における摩擦力によって、動翼10の振動を減衰させることができる。
【0045】
なお、前述したロータ軸2の径方向における変形量の差異によって、ダンパーリング30とシュラウド20とが接触するだけでなく、ダンパーリング30とシュラウド20との接触部には反力が作用する。よって、動翼10の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0046】
本実施例では、軸流回転機械の停止時において、ダンパーリング30とシュラウド20との間に所定の隙間dを設けている。軸流回転機械の作動時にダンパーリング30とシュラウド20とを接触させるので、軸流回転機械の停止時にダンパーリング30とシュラウド20とを接触させる必要はない。
【0047】
所定の隙間dは、軸流回転機械の停止時におけるダンパーリング30等の配置の容易性やメンテ性、軸流回転機械の作動時における動翼10、シュラウド20およびダンパーリング30のロータ軸2の径方向における変形量、それらロータ軸2の径方向における変形量の差異によってシュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力などを考慮して決定される。
【0048】
シュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力は、動翼10の振動減衰率に影響する。つまり、所定の隙間dを過大または過小に設定すると、動翼10の振動減衰率が低くなるので、適切な設定が必要である。
【0049】
もちろん、軸流回転機械の停止時においてダンパーリング30等を配することが可能であり、軸流回転機械の作動時においてシュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力が過大とならずに動翼10の振動を減衰させることができれば、所定の隙間dをゼロとしても良い。
【0050】
次に、本発明の実施例1に係る翼振動減衰構造の動作原理について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0051】
軸流回転機械を作動させ、ロータ軸2を軸中心として動翼10、ロータディスク3およびロータ軸2が回転すると、動翼10には遠心力が作用する(図3参照)。遠心力によって動翼10にねじり戻しが生じ、動翼10は外周側へ広がるように延びる。また、軸流回転機械の作動時における高温環境によって動翼10は熱膨張し、動翼10は更に外周側へ広がるように延びる。よって、動翼10の翼頂部に設けたシュラウド20は、動翼10の変形によって外周側へ押されるように移動する。
【0052】
一方、シュラウド20の外周側に設けたダンパーリング30は、軸流回転機械の作動時における高温環境においても、ダンパーリング30を熱膨張率の低い材料で形成しているので、熱膨張によって変形して外周側へ広がるように延びることはほとんどない。
【0053】
つまり、シュラウド20は動翼10の変形によって外周側へ移動するが、ダンパーリング30は変形しないので、シュラウド20の外周面とダンパーリング30の内周面とが接触する。
【0054】
なお、シュラウド20の外周側に設けたダンパーリング30がシュラウド20と接触し、動翼10およびシュラウド20と共に回転した場合においても、ダンパーリング30を剛性の高い材料で形成しているので、遠心力によって変形して外周側へ広がるように延びることはほとんどない。
【0055】
よって、シュラウド20とダンパーリング30との接触後も、ダンパーリング30はほとんど変形せず、シュラウド20は動翼10の遠心力および熱膨張による変形によって外周側のダンパーリング30へ押しつけられる。よって、シュラウド20とダンパーリング30とは、互いに反力が作用した状態で接触している。
【0056】
シュラウド20とダンパーリング30とが接触している状態で、動翼10に振動が生じると、シュラウド20とダンパーリング30との接触面における相対的な変位によって摩擦力が生じ、動翼10の振動を減衰させることができる。なお、シュラウド20とダンパーリング30とには、互いに反力が作用した状態であるので、動翼10の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0057】
本実施例では遠心力による動翼10の変形を考慮したが、遠心力による変形がない二次元翼の動翼10であっても熱膨張によって変形するので、シュラウド20とダンパーリング30とを接触させ、シュラウド20とダンパーリング30との接触部における摩擦力によって動翼10の振動を減衰させることができる。
【実施例2】
【0058】
先ず、本発明の実施例2に係る翼振動減衰構造について、図4乃至図6を参照して説明する。
【0059】
本実施例に係る翼振動減衰構造は、ダンパーリングを配する箇所を除いて、実施例1と同様な構成を有するので、同様な構成についての重複説明は省略する。
【0060】
軸流回転機械における静翼の周辺構造は、図6に示すように、円筒状のケーシング101の内周側に複数の静翼110が、ロータ軸102の中心を中心にして周方向に一定間隔で保持され、図示しない本体部に回転自在に保持されたロータ軸102と干渉しないように設置されて成る。
【0061】
静翼110の翼頂部(図6における内周側)には、ロータ軸102と静翼110との間におけるシール性を向上させるためにシュラウド120を設けている。更に、図4および図5に示すように、シュラウド120にはロータ軸102側(静翼110と反対の側)へ突出するシュラウドフィン121を設け、ロータ軸102と静翼110との間におけるシール性を更に向上させている。
【0062】
本実施例では、静翼110の振動を減衰させるために、静翼110におけるシュラウド120の内周側(静翼110と反対の側)にダンパー部材として円環状のダンパーリング130を配している。なお、後述するダンパーリング130とシュラウド120との接触において、ダンパーリング130がシュラウド120と面で接触するように、ダンパーリング130を帯状に形成している。つまり、本実施例のダンパーリング130は帯板を円環にした形状を成している。
【0063】
ダンパーリング130は、シュラウド120の内周側においてシュラウドフィン121に隣接して係合され、シュラウド120とシュラウドフィン121および抜け止め部材140によって位置が制限された状態であり、シュラウド120等に固定される必要はない。
【0064】
もちろん、ダンパーリング130を配する位置は本実施例のシュラウド120の内周側におけるシュラウドフィン121と抜け止め部材140との間に限定されず、シュラウド120の内周側であれば良い。また、本実施例ではダンパーリング130の位置を制限するダンパー部材抜け止め部材としてシュラウドフィン121および抜け止め部材140を利用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、シュラウド120の内周側に円環状のダンパーリング130を係合し、ダンパーリング130を囲うように二つのシュラウドフィン121または二つの抜け止め部材140等を設置することによって、ダンパーリング30の位置を制限しても良い。
【0065】
ダンパーリング130を配する方法としては、シュラウド120の内周側においてシュラウドフィン121と隣接するように円環状のダンパーリング130を係合させ、ダンパーリング130のシュラウドフィン121が設置されていない側に抜け止め部材140を取付ける。
【0066】
もちろん、ダンパーリング130を配する方法はこれに限定されず、例えば、ダンパーリング130を分割構造としてシュラウド120の内周側におけるシュラウドフィン121と抜け止め部材140との間に係合させ、分割されたダンパーリング130を一体化して円環状にすることにより、ダンパーリング130を配しても良い。
【0067】
ダンパーリング130には、軸流回転機械の作動時における熱膨張によるロータ軸102の径方向における変形量が静翼110の変形量よりも少ない特性を持たせる。例えば、ダンパーリング130を、熱膨張率が低い材質、または剛性の高い材質、または比重の軽い材質で形成することにより、熱膨張によるロータ軸102の径方向におけるダンパーリング130の変形量を、ロータ軸102の径方向における静翼110の変形量よりも少なくする。
【0068】
本実施例では、ダンパーリング130を、熱膨張率が低く、高強度かつ高剛性、軽量で耐熱性にも優れたC/Cコンポジットで形成した。もちろん、本発明はこれに限定されず、例えば、複合材料の繊維強化プラスチック(FRP)やセラミックなどの非金属でも良い。なお、繊維強化プラスチックは、高強度かつ高剛性であることから、ダンパーリング130を形成する材質として好ましい。特に、耐熱性にも優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ガスタービンの上段等の高温環境下においても使用することができる。
【0069】
ダンパーリング130に前述したロータ軸102の径方向における変形量が少ないという特性を持たせることにより、軸流回転機械を作動させた際に、ダンパーリング130の熱膨張による変形量が静翼110の変形量よりも少ないため、ダンパーリング130と静翼110に設けたシュラウド120とが接触し、摩擦力が生じる。ダンパーリング130とシュラウド120との接触部における摩擦力によって、静翼110の振動を減衰させることができる。
【0070】
なお、前述したロータ軸102の径方向における変形量の差異によって、ダンパーリング130とシュラウド120とが接触するだけでなく、ダンパーリング130とシュラウド120との接触部には反力が作用する。よって、静翼110の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0071】
本実施例では、軸流回転機械の停止時において、ダンパーリング130とシュラウド120との間に所定の隙間dを設けている。軸流回転機械の作動時にダンパーリング130とシュラウド120とを接触させるので、軸流回転機械の停止時にダンパーリング130とシュラウド120とを接触させる必要はない。
【0072】
所定の隙間dは、軸流回転機械の停止時におけるダンパーリング130等の配置の容易性やメンテ性、軸流回転機械の作動時における静翼110、シュラウド120およびダンパーリング130のロータ軸102の径方向における変形量、それらロータ軸102の径方向における変形量の差異によってシュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力などを考慮して決定される。
【0073】
シュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力は、静翼110の振動減衰率に影響する。つまり、所定の隙間dを過大または過小に設定すると、静翼110の振動減衰率が低くなるので、適切な設定が必要である。
【0074】
もちろん、軸流回転機械の停止時においてダンパーリング130等を配することが可能であり、軸流回転機械の作動時においてシュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力が過大とならずに静翼110の振動を減衰させることができれば、所定の隙間dをゼロとしても良い。
【0075】
次に、本発明の実施例2に係る翼振動減衰構造の動作原理について、図4乃至図6を参照して説明する。
【0076】
軸流回転機械を作動させ、ロータ軸102を軸中心として図示しない動翼が回転し、軸流回転機械の作動時における高温環境によって静翼110は熱膨張し、静翼110は内周側へ広がるように延びる(図6参照)。よって、静翼110の翼頂部に設けたシュラウド120は、静翼110の変形によって内周側へ押されるように移動する。
【0077】
一方、シュラウド120の内周側に設けたダンパーリング130は、ダンパーリング130を熱膨張率の低いC/Cコンポジットで形成しているので、軸流回転機械の作動時における高温環境においても、熱膨張して内周側へ広がるように延びることはない(図4および図5参照)。
【0078】
つまり、シュラウド120は静翼110の変形によって内周側へ移動するが、ダンパーリング130は変形しないので、シュラウド120の内周面とダンパーリング130の外周面とが接触する。
【0079】
なお、シュラウド20とダンパーリング30との接触後も、ダンパーリング130は変形せず、シュラウド120は静翼110の熱膨張による変形によって内周側のダンパーリング130へ押しつけられる。よって、シュラウド120とダンパーリング130とは、互いに反力が作用した状態で接触している。
【0080】
シュラウド120とダンパーリング130とが接触している状態で、静翼110に振動が生じると、シュラウド120とダンパーリング130との接触面における相対的な変位によって摩擦力が生じ、静翼110の振動を減衰させることができる。なお、シュラウド120とダンパーリング130とには、互いに反力が作用した状態であるので、静翼110の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 ケーシング
2 ロータ軸
3 ロータディスク
10 動翼
20 シュラウド
21 シュラウドフィン
30 ダンパーリング
101 ケーシング
102 ロータ軸
110 静翼
120 シュラウド
121 シュラウドフィン
130 ダンパーリング
140 抜け止め部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6