【実施例1】
【0033】
先ず、本発明の実施例1に係る翼振動減衰構造について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0034】
軸流回転機械における動翼の周辺構造は、
図3に示すように、円筒状のケーシング1内において図示しない本体部に回転自在に保持されたロータ軸2に円盤状のロータディスク3が保持され、ロータディスク3の外周に複数の動翼10がロータ軸2の中心を中心にして周方向に一定間隔で設置されて成る。
【0035】
動翼10の翼頂部(
図3における外周側)には、ケーシング1と動翼10との間におけるシール性を向上させるためにシュラウド20を設けている。更に、
図1および
図2に示すように、シュラウド20にはケーシング1側(動翼10と反対の側)へ突出するシュラウドフィン21を設け、ケーシング1と動翼10との間におけるシール性を更に向上させている。
【0036】
本実施例では、動翼10の振動を減衰させるために、動翼10におけるシュラウド20の外周側(動翼10と反対の側)にダンパー部材として円環状のダンパーリング30を配している。なお、後述するダンパーリング30とシュラウド20との接触において、ダンパーリング30がシュラウド20と面で接触するように、ダンパーリング30を帯状に形成している。つまり、本実施例のダンパーリング30は帯板を円環にした形状を成している。
【0037】
ダンパーリング30は、シュラウド20の外周側においてシュラウドフィン21の間に係合され、シュラウド20およびシュラウドフィン21によって位置が制限された状態であり、シュラウド20等に固定される必要はない。
【0038】
もちろん、ダンパーリング30を配する位置は本実施例のシュラウド20の外周側におけるシュラウドフィン21の間に限定されず、シュラウド20の外周側であれば良い。また、本実施例ではダンパーリング30の位置を制限するダンパー部材抜け止め部材としてシュラウドフィン21を利用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、シュラウド20にシュラウドフィン21を設けていない場合においては、シュラウド20の外周側に円環状のダンパーリング30を係合し、シュラウド20の外周側にダンパー部材抜け止め部材として図示しない抜け止め部材等を設置することによって、ダンパーリング30の位置を制限しても良い。
【0039】
ダンパーリング30を配する方法としては、シュラウドフィン21を外した状態のシュラウド20の外周側へ円環状のダンパーリング30を係合させ、ダンパーリング30の両側を囲うようにシュラウドフィン21をシュラウド20に取付ける。
【0040】
もちろん、ダンパーリング30を配する方法はこれに限定されず、例えば、ダンパーリング30を分割構造としてシュラウド20の外周側におけるシュラウドフィン21の間に係合させ、分割されたダンパーリング30を一体化して円環状にすることにより、ダンパーリング30を配しても良い。
【0041】
なお、本実施例に係る翼振動減衰構造においては、ダンパーリング30とシュラウド20とを接触させ、ダンパーリング30とシュラウド20との接触部に生じる摩擦力によって、動翼10の振動を減衰させる。よって、従来技術であるシュラウドコンタクトを適用する必要はなく、本実施例ではロータ軸2の周方向に隣接するシュラウド20同士が接触しないように、隣接するシュラウド20の間に隙間Dを設けている。
【0042】
ダンパーリング30には、軸流回転機械の作動時における遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向における変形量が動翼10の変形量よりも少ない特性を持たせる。例えば、ダンパーリング30を、熱膨張率が低い材質、または剛性の高い材質、または比重の軽い材質で形成することにより、遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向におけるダンパーリング30の変形量を、遠心力や熱膨張によるロータ軸2の径方向における動翼10の変形量よりも少なくする。
【0043】
本実施例では、ダンパーリング30を、熱膨張率が低く、高強度かつ高剛性、軽量で耐熱性にも優れたC/Cコンポジットで形成した。もちろん、本発明はこれに限定されず、例えば、複合材料の繊維強化プラスチック(FRP)やセラミックなどの非金属でも良い。なお、繊維強化プラスチックは、高強度かつ高剛性であることから、ダンパーリング30を形成する材質として好ましい。特に、耐熱性にも優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ガスタービンの上段等の高温環境下においても使用することができる。
【0044】
ダンパーリング30に前述したロータ軸2の径方向における変形量が少ないという特性を持たせることにより、軸流回転機械を作動させた際に、ダンパーリング30の遠心力や熱膨張による変形量が動翼10の変形量よりも少ないため、ダンパーリング30と動翼10に設けたシュラウド20とが接触し、摩擦力が生じる。ダンパーリング30とシュラウド20との接触部における摩擦力によって、動翼10の振動を減衰させることができる。
【0045】
なお、前述したロータ軸2の径方向における変形量の差異によって、ダンパーリング30とシュラウド20とが接触するだけでなく、ダンパーリング30とシュラウド20との接触部には反力が作用する。よって、動翼10の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0046】
本実施例では、軸流回転機械の停止時において、ダンパーリング30とシュラウド20との間に所定の隙間dを設けている。軸流回転機械の作動時にダンパーリング30とシュラウド20とを接触させるので、軸流回転機械の停止時にダンパーリング30とシュラウド20とを接触させる必要はない。
【0047】
所定の隙間dは、軸流回転機械の停止時におけるダンパーリング30等の配置の容易性やメンテ性、軸流回転機械の作動時における動翼10、シュラウド20およびダンパーリング30のロータ軸2の径方向における変形量、それらロータ軸2の径方向における変形量の差異によってシュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力などを考慮して決定される。
【0048】
シュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力は、動翼10の振動減衰率に影響する。つまり、所定の隙間dを過大または過小に設定すると、動翼10の振動減衰率が低くなるので、適切な設定が必要である。
【0049】
もちろん、軸流回転機械の停止時においてダンパーリング30等を配することが可能であり、軸流回転機械の作動時においてシュラウド20とダンパーリング30との接触部に生じる反力が過大とならずに動翼10の振動を減衰させることができれば、所定の隙間dをゼロとしても良い。
【0050】
次に、本発明の実施例1に係る翼振動減衰構造の動作原理について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0051】
軸流回転機械を作動させ、ロータ軸2を軸中心として動翼10、ロータディスク3およびロータ軸2が回転すると、動翼10には遠心力が作用する(
図3参照)。遠心力によって動翼10にねじり戻しが生じ、動翼10は外周側へ広がるように延びる。また、軸流回転機械の作動時における高温環境によって動翼10は熱膨張し、動翼10は更に外周側へ広がるように延びる。よって、動翼10の翼頂部に設けたシュラウド20は、動翼10の変形によって外周側へ押されるように移動する。
【0052】
一方、シュラウド20の外周側に設けたダンパーリング30は、軸流回転機械の作動時における高温環境においても、ダンパーリング30を熱膨張率の低い材料で形成しているので、熱膨張によって変形して外周側へ広がるように延びることはほとんどない。
【0053】
つまり、シュラウド20は動翼10の変形によって外周側へ移動するが、ダンパーリング30は変形しないので、シュラウド20の外周面とダンパーリング30の内周面とが接触する。
【0054】
なお、シュラウド20の外周側に設けたダンパーリング30がシュラウド20と接触し、動翼10およびシュラウド20と共に回転した場合においても、ダンパーリング30を剛性の高い材料で形成しているので、遠心力によって変形して外周側へ広がるように延びることはほとんどない。
【0055】
よって、シュラウド20とダンパーリング30との接触後も、ダンパーリング30はほとんど変形せず、シュラウド20は動翼10の遠心力および熱膨張による変形によって外周側のダンパーリング30へ押しつけられる。よって、シュラウド20とダンパーリング30とは、互いに反力が作用した状態で接触している。
【0056】
シュラウド20とダンパーリング30とが接触している状態で、動翼10に振動が生じると、シュラウド20とダンパーリング30との接触面における相対的な変位によって摩擦力が生じ、動翼10の振動を減衰させることができる。なお、シュラウド20とダンパーリング30とには、互いに反力が作用した状態であるので、動翼10の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0057】
本実施例では遠心力による動翼10の変形を考慮したが、遠心力による変形がない二次元翼の動翼10であっても熱膨張によって変形するので、シュラウド20とダンパーリング30とを接触させ、シュラウド20とダンパーリング30との接触部における摩擦力によって動翼10の振動を減衰させることができる。
【実施例2】
【0058】
先ず、本発明の実施例2に係る翼振動減衰構造について、
図4乃至
図6を参照して説明する。
【0059】
本実施例に係る翼振動減衰構造は、ダンパーリングを配する箇所を除いて、実施例1と同様な構成を有するので、同様な構成についての重複説明は省略する。
【0060】
軸流回転機械における静翼の周辺構造は、
図6に示すように、円筒状のケーシング101の内周側に複数の静翼110が、ロータ軸102の中心を中心にして周方向に一定間隔で保持され、図示しない本体部に回転自在に保持されたロータ軸102と干渉しないように設置されて成る。
【0061】
静翼110の翼頂部(
図6における内周側)には、ロータ軸102と静翼110との間におけるシール性を向上させるためにシュラウド120を設けている。更に、
図4および
図5に示すように、シュラウド120にはロータ軸102側(静翼110と反対の側)へ突出するシュラウドフィン121を設け、ロータ軸102と静翼110との間におけるシール性を更に向上させている。
【0062】
本実施例では、静翼110の振動を減衰させるために、静翼110におけるシュラウド120の内周側(静翼110と反対の側)にダンパー部材として円環状のダンパーリング130を配している。なお、後述するダンパーリング130とシュラウド120との接触において、ダンパーリング130がシュラウド120と面で接触するように、ダンパーリング130を帯状に形成している。つまり、本実施例のダンパーリング130は帯板を円環にした形状を成している。
【0063】
ダンパーリング130は、シュラウド120の内周側においてシュラウドフィン121に隣接して係合され、シュラウド120とシュラウドフィン121および抜け止め部材140によって位置が制限された状態であり、シュラウド120等に固定される必要はない。
【0064】
もちろん、ダンパーリング130を配する位置は本実施例のシュラウド120の内周側におけるシュラウドフィン121と抜け止め部材140との間に限定されず、シュラウド120の内周側であれば良い。また、本実施例ではダンパーリング130の位置を制限するダンパー部材抜け止め部材としてシュラウドフィン121および抜け止め部材140を利用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、シュラウド120の内周側に円環状のダンパーリング130を係合し、ダンパーリング130を囲うように二つのシュラウドフィン121または二つの抜け止め部材140等を設置することによって、ダンパーリング30の位置を制限しても良い。
【0065】
ダンパーリング130を配する方法としては、シュラウド120の内周側においてシュラウドフィン121と隣接するように円環状のダンパーリング130を係合させ、ダンパーリング130のシュラウドフィン121が設置されていない側に抜け止め部材140を取付ける。
【0066】
もちろん、ダンパーリング130を配する方法はこれに限定されず、例えば、ダンパーリング130を分割構造としてシュラウド120の内周側におけるシュラウドフィン121と抜け止め部材140との間に係合させ、分割されたダンパーリング130を一体化して円環状にすることにより、ダンパーリング130を配しても良い。
【0067】
ダンパーリング130には、軸流回転機械の作動時における熱膨張によるロータ軸102の径方向における変形量が静翼110の変形量よりも少ない特性を持たせる。例えば、ダンパーリング130を、熱膨張率が低い材質、または剛性の高い材質、または比重の軽い材質で形成することにより、熱膨張によるロータ軸102の径方向におけるダンパーリング130の変形量を、ロータ軸102の径方向における静翼110の変形量よりも少なくする。
【0068】
本実施例では、ダンパーリング130を、熱膨張率が低く、高強度かつ高剛性、軽量で耐熱性にも優れたC/Cコンポジットで形成した。もちろん、本発明はこれに限定されず、例えば、複合材料の繊維強化プラスチック(FRP)やセラミックなどの非金属でも良い。なお、繊維強化プラスチックは、高強度かつ高剛性であることから、ダンパーリング130を形成する材質として好ましい。特に、耐熱性にも優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ガスタービンの上段等の高温環境下においても使用することができる。
【0069】
ダンパーリング130に前述したロータ軸102の径方向における変形量が少ないという特性を持たせることにより、軸流回転機械を作動させた際に、ダンパーリング130の熱膨張による変形量が静翼110の変形量よりも少ないため、ダンパーリング130と静翼110に設けたシュラウド120とが接触し、摩擦力が生じる。ダンパーリング130とシュラウド120との接触部における摩擦力によって、静翼110の振動を減衰させることができる。
【0070】
なお、前述したロータ軸102の径方向における変形量の差異によって、ダンパーリング130とシュラウド120とが接触するだけでなく、ダンパーリング130とシュラウド120との接触部には反力が作用する。よって、静翼110の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。
【0071】
本実施例では、軸流回転機械の停止時において、ダンパーリング130とシュラウド120との間に所定の隙間dを設けている。軸流回転機械の作動時にダンパーリング130とシュラウド120とを接触させるので、軸流回転機械の停止時にダンパーリング130とシュラウド120とを接触させる必要はない。
【0072】
所定の隙間dは、軸流回転機械の停止時におけるダンパーリング130等の配置の容易性やメンテ性、軸流回転機械の作動時における静翼110、シュラウド120およびダンパーリング130のロータ軸102の径方向における変形量、それらロータ軸102の径方向における変形量の差異によってシュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力などを考慮して決定される。
【0073】
シュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力は、静翼110の振動減衰率に影響する。つまり、所定の隙間dを過大または過小に設定すると、静翼110の振動減衰率が低くなるので、適切な設定が必要である。
【0074】
もちろん、軸流回転機械の停止時においてダンパーリング130等を配することが可能であり、軸流回転機械の作動時においてシュラウド120とダンパーリング130との接触部に生じる反力が過大とならずに静翼110の振動を減衰させることができれば、所定の隙間dをゼロとしても良い。
【0075】
次に、本発明の実施例2に係る翼振動減衰構造の動作原理について、
図4乃至
図6を参照して説明する。
【0076】
軸流回転機械を作動させ、ロータ軸102を軸中心として図示しない動翼が回転し、軸流回転機械の作動時における高温環境によって静翼110は熱膨張し、静翼110は内周側へ広がるように延びる(
図6参照)。よって、静翼110の翼頂部に設けたシュラウド120は、静翼110の変形によって内周側へ押されるように移動する。
【0077】
一方、シュラウド120の内周側に設けたダンパーリング130は、ダンパーリング130を熱膨張率の低いC/Cコンポジットで形成しているので、軸流回転機械の作動時における高温環境においても、熱膨張して内周側へ広がるように延びることはない(
図4および
図5参照)。
【0078】
つまり、シュラウド120は静翼110の変形によって内周側へ移動するが、ダンパーリング130は変形しないので、シュラウド120の内周面とダンパーリング130の外周面とが接触する。
【0079】
なお、シュラウド20とダンパーリング30との接触後も、ダンパーリング130は変形せず、シュラウド120は静翼110の熱膨張による変形によって内周側のダンパーリング130へ押しつけられる。よって、シュラウド120とダンパーリング130とは、互いに反力が作用した状態で接触している。
【0080】
シュラウド120とダンパーリング130とが接触している状態で、静翼110に振動が生じると、シュラウド120とダンパーリング130との接触面における相対的な変位によって摩擦力が生じ、静翼110の振動を減衰させることができる。なお、シュラウド120とダンパーリング130とには、互いに反力が作用した状態であるので、静翼110の振動を減衰させるのに十分な摩擦力を得ることができる。