特許第6138511号(P6138511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138511
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】フィラグリン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20170522BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 31/6615 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 31/592 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61K8/64
   A61K8/60
   A61K8/67
   A61K37/02
   A61K31/6615
   A61K31/592
   A61P17/00
   A61P43/00 111
   A61Q19/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-31040(P2013-31040)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2014-159389(P2014-159389A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】國富 芳博
(72)【発明者】
【氏名】坪田 往子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真宏
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−088075(JP,A)
【文献】 特開2012−188399(JP,A)
【文献】 特開昭62−169711(JP,A)
【文献】 特開2005−120032(JP,A)
【文献】 特開2007−277119(JP,A)
【文献】 特開2006−117607(JP,A)
【文献】 特開2002−284635(JP,A)
【文献】 特開2001−064148(JP,A)
【文献】 特開平10−140154(JP,A)
【文献】 特開平10−226653(JP,A)
【文献】 特開昭58−026809(JP,A)
【文献】 特開2006−272433(JP,A)
【文献】 特開2003−252744(JP,A)
【文献】 Kim, H., et al.,Dietary silk protein, sericin, improves epidermal hydration with increased levels of filaggrins and free amino acids in NC/Nga mice,British Journal of Nutrition,2012年,Vol.108,p.1726-1735,URL,https://www.cambridge.org/core/journals/british-journal-of-nutrition
【文献】 FRAGRANCE JOURNAL,2000年 4月10日,臨時増刊No.17,p.14-19
【文献】 新化粧品ハンドブック,2006年10月30日,p.729-731
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
A61K 38/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリシンと、フィチン酸と、ビタミンDとを有効成分とするフィラグリン産生促進剤。
【請求項2】
前記セリシンが、重量平均分子量5,000〜100,000である請求項1記載のフィラグリン産生促進剤。
【請求項3】
皮膚外用用としての、請求項1または2に記載のフィラグリン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラグリンの産生促進剤およびそれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮は、生体の水分保持や異物の進入を防ぐ機能を持つ厚さ0.2mm程度の層であり、表皮ケラチノサイトとその分化細胞、これら細胞が産生するケラチンや脂質などで構成されている。表皮は深部から基底層、有棘層、顆粒層、角層へと分類され、各層には異なる成熟段階のケラチノサイトが存在している。
【0003】
表皮の保湿に重要な役割を果たす天然保湿因子(以下、NMFと称す)は、アミノ酸やピロリドンカルボン酸、乳酸などの有機酸やNa、K、Caなどの無機塩類からなり、なかでもアミノ酸はNMF成分中の約4割を占めている。
【0004】
NMF中のアミノ酸は、大部分がフィラグリンに由来する。フィラグリンは前記顆粒層のケラトヒアリン顆粒で産生される塩基性のタンパク質で、多数のフィラグリンが連結したプロフィラグリンという状態で存在する。プロフィラグリンは角化が進むに従って酵素分解を受けてフィラグリンとなり、さらに様々な酵素によってペプチドやアミノ酸へと分解されていく。分解生成物の一部のアミノ酸はさらに代謝を受け別のアミノ酸へと転換され、最終的にNMFの構成要素となる。したがって、元となるフィラグリンの産生量低下は、最終産物であるNMF量の低下に繋がり得る。
【0005】
すなわちフィラグリンは、NMFを介した皮膚保湿のみならず、皮膚のバリア機能にも重要な働きをもっている。なお、近年、フィラグリン遺伝子の異常がアトピー性皮膚炎を引き起こすということが報告されている(Akiyama M. FLG mutations in ichthyosis vulgaris and atopic eczema; spectrum of mutations and population genetics.)。
【0006】
これまでに、フィラグリンまたはNMF産生量の改善を目的としていくつかのフィラグリン産生促進物質が報告されている(たとえば、特許文献1、2、3および4など)。ここで、前記保湿作用は、フィラグリンの産生が促進された結果現れる効果の一部である。
【0007】
一般に肌の保湿は、グリセリンやブチレングリコールなど親水性の基材やヒアルロン酸などの多糖類、セリンやプロリンなどの親水性のアミノ酸を用いて肌に直接水分を補給するか、または皮膚からの水分喪失を防ぐことで行われている。しかし、皮膚表面に塗布された保湿成分の効果は一時的であり、肌機能の本質的な改善には至らない。つまり、前記のようにフィラグリンの産生を促進しNMF量を増加させることと、外部からの水分補給により皮膚を保湿することは、本質的に異なる作用なのである。
【0008】
ところで、繭糸由来のタンパク質セリシンは、NMFとよく似たアミノ酸組成であることが知られている(たとえば、非特許文献1、2および3など)。とくに、親水性アミノ酸であるセリンの含有率が高く、水との親和性に優れることから、皮膚表面の保湿を目的として化粧品などに利用されている。また、セリシンは、シミの原因となるメラニンの合成酵素であるチロシナーゼの活性を阻害することや、優れた抗酸化能を示すことが明らかとなっており、保湿以外の機能に焦点を当てた商品へ応用され、市販されている。しかし、これまでセリシンがフィラグリンの産生やNMFの量に与える影響については、知られていなかった。
【0009】
近年、セリシンを飲用することにより、マウスのフィラグリンや遊離アミノ酸が増加することが報告されているが(Kim, H., et al. Dietary silk protein, sericin, improves epidermal hydration with increased levels of filaggrins and free amino acids in NC/Nga mice. Br J Nutr., 2012)、仮に消化器からセリシンの一部が吸収され表皮まで到達するとしても、その過程で消化・代謝を受けるため、セリシンを皮膚に直接塗布した場合のフィラグリンの産生効果とは作用が異なると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−261568号公報
【特許文献2】特開2005−15347号公報
【特許文献3】特開2010−90037号公報
【特許文献4】特開2002−363054号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kato et al, BIO INDUSTRY,4,15, (1998)
【非特許文献2】Kazuhisa Tsujimoto, BIO INDUSTRY, 3,21, (2004)
【非特許文献3】Kato et al, FRAGRANCE JOURNAL,4, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、セリシンの新たな機能を見出し、なされたものであり、直接皮膚に塗布した場合にNMFの元となるフィラグリンの産生を促進することができる産生促進剤およびそれを含有する皮膚外用剤を提供することを目的とする。さらに、セリシンと他の物質とを併用することにより、よりフィラグリンの産生を促進することのできる産生促進剤およびそれを含有する皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、セリシンを有効成分とするフィラグリン産生促進剤に関する。
【0014】
前記セリシンが、重量平均分子量5,000〜100,000であることが好ましい。
【0015】
さらに、フィチン酸および/またはビタミンDを含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記フィラグリン産生促進剤を含む皮膚外用剤に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、皮膚外用剤として直接皮膚に塗布した場合にも、NMFの元となるフィラグリンの産生を促進することができるので、結果的に表皮のNMF量を増加することができる。さらに、セリシンとフィチン酸および/またはビタミンDとを併用することにより、フィラグリンの産生をより促進することができ、表皮のNMF量をさらに増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】セリシンのフィラグリン産生促進効果を示すグラフである。
図2】総アミノ酸量を示すグラフである。
図3】総アミノ酸に対するセリン含有量を示すグラフである。
図4】角化細胞の増殖促進作用を示すグラフである。
図5】角化細胞のフィラグリン発現促進作用を示すグラフである。
図6】表皮水分量の変化を示すグラフである。
図7】水分蒸散量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、セリシンを有効成分とするフィラグリン産生促進剤である。
【0020】
本発明で用いられるセリシンは、繭糸より抽出されるタンパク質であり、水との親和性に優れ、化粧品や繊維加工などに用いられている。非結晶性タンパク質であるセリシンは、親水性溶媒、好ましくは水を用いて繭糸から抽出することができる。たとえば、蚕繭や生糸など、繭糸を含んでなる原料を熱水に浸漬して処理することにより、原料中のセリシンを加水分解させて水中に溶出させることができる。このとき、必要に応じて、酸、アルカリまたは酵素を併用してもよい。ついで、抽出液を公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することにより、高純度のセリシン水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。このようなセリシンとしては、たとえば「ピュアセリシン」(セーレン株式会社製、和光純薬工業株式会社より入手可能)などの市販品を用いることができる。
【0021】
本発明において、セリシンの平均分子量(重量平均分子量)はとくに限定されないが、好ましくは5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜50,000である。平均分子量が5,000未満であると、所望の効果が得られないことがあり、平均分子量が100,000を超えると、それ自身の水溶性が低下して取り扱い性が低下することがあるとともに、水溶性低下に起因して、得られる効果も低下することがある。なお、平均分子量は、高速液体クロマトグラフCLASS−LC10(株式会社島津製作所製)を用いたGPC分析により測定し、求めることができる。
【0022】
繭糸に含まれる天然のセリシンには、分子量が異なるいくつかの成分があることが知られている。たとえば、特開2002−128691号公報によれば、分子量が約40万、約25万、約20万、約3万5千のセリシンが確認されている。前記した繭糸からの抽出液は、これらセリシンを混合した状態で含んでいる。また、セリシン分子が互いに水素結合し、見かけの分子量を増している場合もある。また、酸、アルカリまたは酵素を併用してセリシンを加水分解させて得た抽出液は、さらに多様な分子種を含む混合物である。本発明では、用いる剤や濃度、温度、時間などの条件を制御することにより、好ましくは、平均分子量が10,000〜50,000の範囲にあるセリシンを、選択的に調製したものを使用することができる。
【0023】
また、前記セリシンと、フィチン酸および/またはビタミンDとを併用することが好ましく、セリシン、フィチン酸およびビタミンDのすべてを併用することがより好ましい。セリシンと、フィチン酸および/またはビタミンDとを併用することにより、フィラグリン産生促進効果がより向上する。
【0024】
フィチン酸は、鉄などの金属イオンをキレートすることで抗酸化作用を示すことが知られている。その他にも保湿、皮脂分泌の正常化、pH調節などの効果を期待して化粧品に添加されている。しかし、これまでに、フィチン酸が角化細胞の増殖や分化に対して及ぼす影響は知られてはいない。
【0025】
また、ビタミンDは皮膚において角化細胞の増殖と分化を制御することが知られている。そのため、角化の異常亢進が原因で起こる乾癬という皮膚疾患に外用薬として用いられることがある。しかし、これまでビタミンDとフィチン酸やセリシンとの相乗的な作用については知られていない。なお、本発明においては、ビタミンD2またはビタミンD3のいずれを使用してもよい。
【0026】
セリシンの配合量は、0.001〜2重量%であることが好ましく、0.05〜1重量%であることがより好ましい。セリシンの濃度がこの範囲より低いと、本発明の効果が低下あるいは消失する可能性があり、これを超える濃度としても、効果にはあまり影響がない可能性がある。
【0027】
ビタミンDの配合量は、0.00001〜0.01重量%であることが好ましく、0.0001〜0.001重量%であることがより好ましい。ビタミンDの濃度がこの範囲より低いと、本発明の効果が低下する可能性があり、これを超える濃度としても、効果にはあまり影響がない可能性がある。
【0028】
フィチン酸の配合量は、0.001〜1重量%であることが好ましく、0.01〜0.1重量%であることがより好ましい。フィチン酸の濃度がこの範囲より低いと、本発明の効果が低下する可能性があり、この濃度を超えると、組成物のpHを低下させたり、組成物中の他の成分を凝集・沈殿させる可能性がある。
【0029】
これらの成分の配合比(濃度)は、セリシン:ビタミンDが1:10〜200000:1であることが好ましく、100:1〜10000:1であることがより好ましく、500:1〜5000:1であることがとくに好ましい。セリシンとフィチン酸が1:1000〜2000:1であることが好ましく、1:1〜200:1であることがより好ましく、1:1〜100:1であることがとくに好ましい。ビタミンDとフィチン酸が1:100000〜10:1であることが好ましく、1:500〜1:10であることがより好ましく、1:200〜1:10であることがとくに好ましい。配合比が、この範囲を外れると、本発明が目的とする相乗的な効果が得られにくくなる。
【0030】
本発明のフィラグリン産生促進剤により、肌のバリア機能を改善もしくは増強することができ、またNMF量を増加させることができるため、肌を保湿することができる。
【0031】
本発明のフィラグリン産生促進剤の有効成分は、いずれも化粧品原料としての使用実績があり、肌への安全性が確認されている。そのため、皮膚外用剤として用いることができ、皮膚に直接付与することにより、フィラグリン産生促進効果を得ることができる。
【0032】
本発明の皮膚外用剤としては、たとえば、ローション、乳液、軟膏、クリーム、パックなどの形態とすることができ、化粧料、医薬品、医薬部外品などとして適用することができる。
【0033】
本発明の皮膚外用剤には、前記有効成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる他の任意成分、たとえば、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、乳化剤、増粘剤、界面活性剤、キレート剤、油性成分、アルコール類、色材、粉末成分、ビタミン類、抗炎症剤、pH調整剤、防腐剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0034】
試験例1(セリシンによるフィラグリンmRNAの発現量の増強)
ヒト正常表皮角化細胞NHEK(DSファーマバイオメディカル KJB-101)について、正常ヒト表皮角化細胞用無血清培地(DSファーマバイオメディカル KJB-200)を用いて24wellプレートに5×104 cells/wellの濃度で播種し、37℃、5%CO−95%airの条件で培養した。播種から48時間後に試験培地に交換し、2日乃至3日に一度培地交換を行いながらさらに1週間培養した。培養終了後、リアルタイムPCRによってフィラグリンの遺伝子発現量を測定した。前記試験培地には、0.3重量%のセリシン、1.2mMの塩化カルシウムを添加し、それぞれのフィラグリン産生促進作用について調べた。
【0035】
結果を図1に示す。セリシンはNHEKのフィラグリン遺伝子発現を約3.5倍上昇させ、その効果は、角化細胞の分化促進作用があることが知られているカルシウムと同等であった。
【0036】
試験例2(皮膚(顔面)へのセリシン連用試験)
セリシンによるNMF増加効果を調べるために、皮膚(顔面)への連用試験を行った。顔面左側(セリシン区)にはセリシン0.5%水溶液を、顔面右側(対照区)にはRO水(逆浸透膜を通した水)を、1日2回、朝と夜に適量塗布し、連用4週間後に角質サンプルをテープストリップングにより採取して、NMFに特徴的なセリンの含有率を調べた。角質サンプルの採取に際しては塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に洗顔を行った。採取した角質サンプルは、50体積%メタノール/50体積%RO水にて12時間以上振とうして抽出し、アミノ酸分析を行った。
【0037】
結果を図2および図3に示す。対照区と比較して、セリシン区では総アミノ酸量が増加していた。また、セリシン区ではセリンの含有率が高くなっていた。セリンはNMF中のアミノ酸の約3割を占めていることから、角質におけるセリン含有率の増加は、NMF量の増加を反映していると考えられる。つまり、得られたデータは、セリシンが角化細胞のフィラグリンの発現量を増加させることで、NMFの産生を促進していることを示している。
【0038】
試験例3(角化細胞の増殖・分化を促進する成分の探索)
セリシンによるNMFの産生促進作用は、セリシンと異なるメカニズムで作用する成分を組合せることで相乗的に増強されることが期待される。そこで、NMF産生の場である角化細胞の増殖を促進する成分、および、NMF産生促進(フィラグリン遺伝子の発現を促進)する成分の探索を行った。
【0039】
不死化ヒト表皮角化細胞PHK 16-0b(JCRB)について、正常ヒト表皮角化細胞用無血清培地を用いて6 well plateに4×105 cells/wellの濃度で播種し、37℃、5%CO−95%airの条件で培養した。播種から96時間後に試験培地に交換し、2日乃至3日に一度培地交換を行い、さらに7日間培養した。培養終了後、細胞数をカウントし増殖率を調べた。また、リアルタイムPCRによってNMFの元となるフィラグリンの遺伝子発現量を測定した。
【0040】
前記試験培地は、対照として正常ヒト表皮角化細胞用無血清培地(DSファーマバイオメディカルKJB-200)を用い、試験区0.6重量%のセリシン、175μMのフィチン酸、6.6μMのビタミンD3をそれぞれ添加した。陽性対照として1.2mMの塩化カルシウムを添加した。
【0041】
試験例3−1(角化細胞の増殖を促進する成分の探索)
培養後のPHK-16-0bを回収し、トリパンブルーの排除能を指標に生細胞の数をカウントした。その結果セリシン、フィチン酸、ビタミンD3はいずれもPHK 16-0bの増殖を促進し、ビタミンD3が最も強力な作用を示した。結果を図4に示す。
【0042】
試験例3−2(フィラグリン遺伝子の発現を促進する成分の探索)
培養後のPHK16-0bを回収し、フェノール・クロロホルムを使用してRNAを抽出、リアルタイムPCRによってフィラグリン遺伝子の発現量を調べた。その結果、セリシンとフィチン酸がPHK16-0bのフィラグリン遺伝子発現を促進することが示された。結果を図5に示す。
【0043】
ここで、試験例3の結果について、一般的にビタミンDは、角化細胞の増殖を抑制し、分化を促進する成分として知られているため、本試験においても分化促進効果が期待された。しかしながら、実際には細胞の増殖に寄与していることを示すデータが得られた(図4および図5)。この作用が、試験に用いた細胞(PHK16-0b)に特異的な作用である可能性もあるが、本発明の目的としては、ビタミンDが細胞の増殖または分化のいずれかに、セリシンと相乗的に作用していればよく、いずれにせよビタミンDを使用することは有用であると考えられる。これらの候補成分を組み合わせた時の作用については以下の試験例4に示す。
【0044】
試験例4(皮膚(上腕部)への連用試験)
セリシン、フィチン酸、ビタミンDおよびそれらの組み合わせについて、肌の水分状態の改善効果を調べるために、4週間の皮膚(上腕部)への連用試験を行った。
上腕内側の左右各3点(計6点)に対し、試験液を4週間、朝と夜の1日2回塗布し、定期的に水分量および水分蒸散量を測定した。試験液は、RO水、フィチン酸(175μM)、フィチン酸(175μM)+ビタミンD3(6.6μM)、セリシン(0.6重量%)、フィチン酸(175μM)+セリシン(0.6重量%)、フィチン酸(175μM)+ビタミンD3(6.6μM)+セリシン(0.6重量%)、をそれぞれ添加した。
【0045】
水分量の測定
塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に洗顔料にて前記上腕を洗浄した。ついで、塗布した部分の四隅および中央の計5か所を、各点について測定し、平均値を算出した。水分量の測定には、SKICON−200EX(IBS社)を使用した。
【0046】
水分蒸発量の測定
塗布物の直接的な影響を避けるため、測定の15分以上前に洗顔料にて前記上腕を洗浄した。ついで、塗布した部分の中央付近2か所を、各点について測定し、平均値を算出した。水分蒸発量の測定には、Cutometer MPA580(Tewameter TM300、日本代理店:株式会社インテグラル)を使用した。
【0047】
試験例4−1(表皮水分量の変化)
表皮水分量は、連用2週目以降に変化が現れた。セリシンやフィチン酸、フィチン酸+ビタミンDを連用し続けた場合には、水分量に大きな変化は見られなかった。しかし、フィチン酸やフィチン酸+ビタミンDにセリシンを組合せることで、水分量は大きく増加し、相乗的な作用を示した。とくに、セリシン+フィチン酸+ビタミンDを組合せた場合に、最も高い値を示した。結果を図6に示す。
【0048】
試験例4−2(水分蒸散量の変化)
また、水分蒸散量を連用前後で比較すると、セリシンやフィチン酸を塗布することで水分蒸散量の減少が認められた。とくに、セリシン+フィチン酸+ビタミンDを組合せた場合に、最も低い値を示した。結果を図7に示す。
【0049】
皮膚外用剤としての処方例を以下に示す。数値は重量%を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
pH:7.0
製法:油性成分および水性成分をそれぞれ混合均一化して75℃に加熱したのち、水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却した。
【0052】
【表2】
【0053】
pH:6.5
製法:油性成分および水性成分をそれぞれ混合均一化して75℃に加熱したのち、水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却した。
【0054】
【表3】
【0055】
pH:6.5
製法:油性成分および水性成分をそれぞれ混合均一化して75℃に加熱したのち、水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7