特許第6138518号(P6138518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138518
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】自転車用フレームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62K 19/16 20060101AFI20170522BHJP
   B29C 45/77 20060101ALI20170522BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B62K19/16
   B29C45/77
   B29C45/27
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-37889(P2013-37889)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-162450(P2014-162450A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000112978
【氏名又は名称】ブリヂストンサイクル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】高 瞳
(72)【発明者】
【氏名】河野 光伸
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特公平06−074072(JP,B2)
【文献】 特開2010−024316(JP,A)
【文献】 実開昭52−132552(JP,U)
【文献】 特開平06−114876(JP,A)
【文献】 実開昭61−118725(JP,U)
【文献】 特開平06−170957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 19/16
B29C 45/27
B29C 45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルが装着されるヘッドパイプ、サドルを保持する立パイプ、該ヘッドパイプと立パイプとを連結する上パイプ及び下パイプを少なくとも備える自転車用フレームの製造方法であって、
合成樹脂と、5質量%〜60質量%の補強繊維と、を含有する樹脂組成物を加熱溶融し、射出成形する工程を経て形成された成型体における前記補強繊維の異方性度が下記(1)及び(2)の条件を満たすように、前記樹脂組成物を、少なくとも、前記上パイプと前記立パイプとの接合部近傍より、射出圧100MPa〜200MPa、射出速度30mm/s〜50mm/sの射出条件で射出成形する工程を含む自転車用フレームの製造方法。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
【請求項2】
前記成型体が単層である、請求項1に記載の自転車用フレームの製造方法。
【請求項3】
前記合成樹脂が、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンアクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、及び芳香族ポリエーテルケトンからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は請求項2に記載の自転車用フレームの製造方法。
【請求項4】
前記補強繊維が、炭素繊維、アラミド繊維及びガラス繊維から選ばれる1種以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自転車用フレームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を用いた自転車用フレームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車、特に軽快車と呼ばれる種類の自転車において、そのフレームは金属で構成されており、特にフレームとして高精度かつ高強度なものが必要とされている。しかし、金属で構成されたフレームは重量が大きく、また周囲の環境からの影響で腐食されるという可能性がある。このため、近年樹脂製のフレームを用いた自転車が提案されている。しかし、樹脂は金属が有している強度に比較すると幾分強度が不足しているものが多い。そこで、樹脂中にフィラーと呼ばれる補強材を配合し、より高強度を得るための方法が複数提案されている(特許文献1及び2、参照)。また、主材に熱可塑性樹脂を用い、フィラーを加えた自転車フレーム用樹脂ラグも提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−123662号公報
【特許文献2】特開2006−123699号公報
【特許文献3】特開2006−142623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自転車用フレームには、使用時に強い荷重がかかることによるねじれや変形に伴う破損を抑制するために、安全性の観点からは充分な強度が求められる。このため、上述のように樹脂に補強用のフィラーを添加してなる樹脂組成物が用いられる。しかしながら、前記先行技術文献に記載の樹脂組成物を用いた構造材では、フィラーの分布や配向が考慮されておらず、例えば、繊維状のフィラー、即ち、補強繊維を用いた場合、本発明者らの検討によれば、樹脂組成物中の補強繊維の配向によっては、成型体の強度が充分に得られない領域が形成されたり、外観が損なわれたりするなどの問題が生じることが明らかとなった。
【0005】
上記知見を考慮してなされた本発明の課題は、樹脂組成物により形成された、実用上充分な強度と優れた外観とを備えた自転車用フレームの簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、樹脂組成物により得られた成型体中の補強繊維の配向を制御することで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の自転車用フレームの製造方法により得られる自転車用フレームは、ハンドルが装着されるヘッドパイプ、サドルを保持する立パイプ、該ヘッドパイプと立パイプとを連結する上パイプ及び下パイプを少なくとも備え、合成樹脂と、5質量%〜60質量%の補強繊維と、を含有する樹脂組成物を成形して得られた成型体であり、得られた成型体における補強繊維の異方性度が下記(1)及び(2)の条件を満たす自転車用フレームである。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
以下、本明細書では、本発明の自転車用フレームの製造方法を、「本発明の製造方法」と称することがある。
【0007】
転車用フレームとして、乗車する人体の荷重が最も集中する立パイプにおいて、補強繊維の異方性度を0.6以上とすることで、応力の集中する方向における成型体の強度及び剛性がより向上すると共に、優れた外観が達成され、下パイプにおける配向を0.4以上に制御することで、立パイプの強度と相俟って、曲げやねじれを受けやすい領域においては、繊維の配向方向のみならず、その他の方向においても変形に強い実用上充分な強度と優れた外観とが得られる。
また、本発明の製造方法により得られる自転車用フレームは樹脂成型品であるため、金属を用いたフレームに比して軽量であるという利点をも有するものである。
【0008】
なお、前記フレームの成型に用いられる樹脂組成物に含まれる合成樹脂としては、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンアクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリアセタール(ポリオキシメチレン:POM)、ポリフェニレンエーテル、及び芳香族ポリエーテルケトンからなる群より選択される1種以上であることが、強度、耐久性の観点から好ましく、さらに、加工性及び補強繊維配向制御の容易性の観点からは、ポリアミド樹脂が好ましい。
前記補強繊維としては、炭素繊維、ケブラー繊維(商品名)などの高強度繊維に代表されるアラミド繊維、及びガラス繊維から選ばれる1種以上であることが好ましい態様であり、充分な強度を得られるという観点からは、補強繊維は、軽量且つ高強度の炭素繊維がより好ましい。また、樹脂組成物中の補強繊維の含有量は、5質量%〜60質量%であることを要し、10質量%〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは15質量%〜35質量%の範囲である。
【0009】
本発明の自転車用フレームの製造方法は、ハンドルが装着されるヘッドパイプ、サドルを保持する立パイプ、該ヘッドパイプと立パイプとを連結する上パイプ及び下パイプを少なくとも備える自転車用フレームの製造方法であって、合成樹脂と、5質量%〜60質量%の補強繊維と、を含有する樹脂組成物を加熱溶融し、射出成形により得られた成型体における前記補強繊維の異方性度が下記(1)及び(2)の条件を満たすように射出成形する工程を含む自転車用フレームの製造方法である。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
なお、前記射出成形は、前記樹脂組成物を、少なくとも、前記上パイプと前記立パイプとの接合部近傍及び前記上パイプと前記ヘッドパイプとの接合部近傍より、射出圧100MPa〜200MPa、射出速度30mm/s〜50mm/sの射出条件で射出されることにより行われる
【0010】
上記条件で射出成型することにより、射出口近傍の、前記下パイプと立パイプにおいては、流路の形状と射出条件との関連により繊維の異方性度が高くなる方向に制御され、結果、0.4以上、好ましくは0.6以上の異方性度が達成され、成型された自転車用フレームの当該領域において、強度、剛性及び外観が優れたものとなる。また、溶融樹脂が、射出口から立パイプ、及び、上パイプを経由する流れと、前記上パイプ、ヘッドパイプ及び下パイプを経由する流れが形成され、強度や外観の条件が比較的緩やかな上パイプのうち立パイプとの接合側近傍で両者の流れが合流することになるが、当該領域近傍は、応力集中や変形の少ない領域であるために、繊維の異方性度がやや低下するものの、自転車用フレームにおいて必要とされる強度、剛性及び外観のいずれにおいても実用上充分なものとなる。このため、本発明の自転車用フレームの製造方法によれば、強度、剛性、及び外観の何れにも優れる、合成樹脂製の自転車用フレームが容易に製造される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂組成物により形成された、実用上充分な強度と優れた外観とを備えた自転車用フレームの簡易な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法により得られた自転車用フレームの一態様の構成を示す側面図である。
図2】自転車用フレームにおける補強繊維の異方性度を規定した領域及び射出口を設けうる位置を明示したモデル図である。
図3】実施例1における自転車用フレーム作製における射出口(I)、(II)、及び(III)の位置及び当該射出口を用いて形成した自転車フレーム内の樹脂の流れを示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《自転車用フレーム》
まず、本発明の製造方法により得られた自転車用フレームについて説明する。なお、以下、本発明の製造方法により得られた自転車用フレームを、「本発明の自転車用フレーム」と称することがある。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を示すものである。
本発明の自転車用フレームは、ハンドルが装着されるヘッドパイプ、サドルを保持する立パイプ、該ヘッドパイプと立パイプとを連結する上パイプ及び下パイプを少なくとも備え、合成樹脂と、5質量%〜60質量%の補強繊維と、を含有する樹脂組成物を成形して得られた成型体であり、得られた成型体における補強繊維の異方性度が下記(1)及び(2)の条件を満たす自転車用フレームである。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
補強繊維を含む樹脂成型体において補強繊維異方性度が高い、即ち、補強繊維が一定方向に揃った状態では、配向方向における強度と剛性がより向上し、耐変形強度が向上すると共に、成型体の外観も優れたものとなる。本発明者らの検討によれば、自転車用フレームの構造と応力集中との関連を考慮した結果、自転車用フレームにおいて、乗車する人体の荷重が最も集中する立パイプにおいては、成型体中の補強繊維の異方性度は0.6以上とすることを要し、フレームそれぞれにおける他の部材との接合性、荷重や変形、及び外観上の露出度を総合的に考慮した結果、少なくとも上記(1)及び(2)の条件を満たす成型体とすることで、自転車用フレームが実用上充分な剛性と強度とを達成し、さらに外観上も優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
(樹脂組成物)
本発明の自転車用フレームの形成に用いられる樹脂組成物は、少なくとも、射出成型可能な合成樹脂と補強繊維とを含有し、補強繊維の含有量は、樹脂組成物の全固形分中、5質量%〜60質量%の範囲であることを要する。上記含有量において、成型体における充分な強度と剛性が得られ、加工性にも優れる。
合成樹脂は、流動状態として射出成型可能であれば特に制限はないが、自転車用フレームとしての強度、剛性を達成するという観点からは、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、POM、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンエーテル、及び芳香族ポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられ、なかでも、成型体の強度及び加工制御が容易な点から、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、より具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66などが好ましい。
【0015】
これらの合成樹脂は目的に応じて1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。合成樹脂の種類及び後述する補強繊維の種類と量については、自転車用フレームに成型した場合の強度、即ち、JIS D 9401強度試験に準拠して、評価した。即ち、図1のフレームの内側に7.5°±0.5°だけ傾けて、下方に850Nの力を100,000回加える疲労試験において、損傷、変形、ゆがみが生じないものを適宜選択すればよい。
そのような観点から、本発明においては、樹脂材料として既述の機械的強度や耐ひずみ性の良好な合成樹脂基材を選択し、且つ、後述するように補強繊維の含有量を5質量%〜60質量%に限定したものである。
【0016】
樹脂組成物に含まれる補強用のフィラーとしては、異方性を制御しうるものとしては、繊維状のみならず、針状のフィラーも考えられるものの、異方性度制御の容易性、外観を良好に維持し易い特性などの観点から、本発明においては繊維状の補強材、即ち、補強繊維を選択したものである。
本発明に使用される補強繊維としては、所謂、繊維補強プラスチック(FRP)に使用されるものであれば特に制限はなく用いることができる。
補強繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セラミック(SiC、Al等)繊維、金属(ボロン、ステンレス等)繊維、ポリパラフェニレンベンオキサゾール繊維などを用いることができ、なかでも、炭素繊維、ケブラー繊維(商品名)に代表されるアラミド繊維及びガラス繊維などが好ましく挙げられる。さらに、軽量で高強度であり、入手が容易であるという観点から、炭素繊維がより好ましい。
補強繊維のサイズは、繊維の平均径が0.5μm〜40μm、平均長さが0.1mm〜10mmのものが好ましく、より好ましくは、平均径が1μm〜30μm、平均長さが0.2mm〜6mmの範囲である。なお、補強繊維を樹脂に添加して混合し樹脂組成物を配合する際、或いは加圧して射出する際に、繊維の一部が応力により切断されることがあるが、フレームを構成する樹脂マトリックス中における補強繊維の平均長さが上記範囲であることにより、本発明の効果がより良好に発現される。
補強繊維の平均径、平均長さが上記好ましい範囲内であることで、樹脂組成物中への分散性、異方性度の制御が行いやすく、添加による剛性や強度向上効果が充分に得られる。
【0017】
ここで、本発明において補強繊維の「平均長さ」は、対象となる繊維(例えば、炭素繊維)を含有する樹脂組成物のペレットをるつぼに採取し、電気炉内で、700℃で30分間加熱して完全に灰化させた後、冷却し、超音波照射した純水中に分散させたものをガラス板に採取し、光学顕微鏡で50本の長さを計測し、算術平均によって求められた平均長さ意味する。
また、補強繊維の平均径は、異方性度を測定したX線走査装置により、1画像において観察される繊維の直径を少なくとも20箇所計測し、算術平均によって求められた平均長さを意味する。
本発明に係る樹脂組成物に含まれる補強繊維は、単独で用いてもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
補強繊維は、樹脂との密着性向上、均一分散性向上などの目的で、予め、シランカップリング剤、無水マレイン酸、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等により表面処理されたものを用いてもよい。
【0018】
合成樹脂基材中に補強繊維を添加する場合、当初は添加量の増加に応じて圧縮強度、曲げ強度などが向上し、熱膨張率が低下するが、含有量が多すぎるとマトリックスである合成樹脂中へ均一分散や異方性度の制御が困難となり、局所的に強度が異なる領域が形成される懸念があることから、本発明においては樹脂組成物中の補強繊維の量を5質量%〜60質量%とした。上記範囲において、自転車用フレームの各領域における補強繊維の異方性度制御が容易となり、得られた成型体は実用上充分な強度を有し、外観にも優れたものとなる。合成樹脂組成物中の補強繊維の含有量は、好ましくは10質量%〜40質量%の範囲であり、より好ましくは15質量%〜35質量%の範囲である。
【0019】
成型用の樹脂組成物を調整するには、合成樹脂を溶融して流動状態とし、攪拌しながら、補強繊維を徐々に添加して均一分散物を調製してもよく、所定の補強繊維を含む合成樹脂ペレットを使用してもよい。補強繊維を含む樹脂ペレットとしては、例えば、炭素繊維がポリアミド6やABSなどの樹脂基剤に含まれてなる、トレカ(登録商標)長繊維ペレット TLPシリーズ(東レ製)などがあり、本発明に好適に使用される。
【0020】
また、本発明の自転車用フレームを形成するための樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、合成樹脂及び補強繊維に加えて、着色剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、発泡剤、難燃剤等の公知の添加剤を適宜用いてもよい。
【0021】
このようにして得られた樹脂組成物を、射出成型する際に、射出成型条件を制御することで、繊維の異方性度を以下の条件となるように制御し、強度と外観に優れた本発明の自転車用フレームが得られる。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
【0022】
本発明における補強繊維の「異方性度」とは、繊維の三次元(3D)対称性を示す基準であり、特定の方向軸に沿った構造の優先整列の有無を意味し、補強繊維が測定対象領域のパイプの中心軸に平行な状態で全て同方向に揃った場合の異方性度を1.0とし、補強繊維がランダムな状態で存在しており無配向の場合の異方性度を0として係数表示する。
補強繊維の異方性度は、X線走査装置(Bruker社製、SkyScan−1072)により3D画像を撮影し、測定領域の中心軸方向に平行な補強繊維の角度を0°とし、垂直な補強繊維の方向を90°として、平均切片長MILとEigen解析の方法で算出した値である。なお、本発明においては、異方性度は測定対象領域において3箇所を測定した平均値を表示している。
なお、本明細書におけるパイプの中心軸とは、パイプの断面の中央点をつないで形成される直線を指すものとする。即ち、パイプの断面が円形であれば、円の中心点を通りパイプの長手方向と平行な直線を中心軸とし、パイプの断面が楕円形であれば長軸と短軸との交点を通りパイプの長手方向と平行な直線を中心軸とし、パイプの断面や円形の直径が変化する場合においては、それぞれの断面の中心点をつないで形成される直線を指す。
【0023】
本発明の自転車用フレームの構造を、図を参照して説明する。図1は、本発明の自転車用フレームの一態様を表す側面図である。自転車用フレーム10は、図示しないハンドルを装着可能なヘッドパイプ12、図示しないサドルを保持する立パイプ18、及び前記ヘッドパイプ12と立パイプ18とを連結する一組の上パイプ14及び下パイプ16を少なくとも備える。本実施形態では、さらにチエンステー22、及びバックホーク24をさらに備え、且つ、下パイプ16、立パイプ18、及び、チエンステー22はハンガーパイプ20に接合されている。
これらの部材のうち、サドルを保持し、乗車する人の体重が直接掛かる立パイプ18、及び、自転車用フレームの全体の形態保持に重要な部材である下パイプ16の強度を最優先して設計することで、上記補強繊維の異方性度を決定したものである。
【0024】
図2は、図1で示す自転車用フレームにおける補強繊維の異方性度を測定した領域及び射出口を設けうる位置〔(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及び(VI)〕を示すモデル図であり、図2では、自転車用フレーム10におけるヘッドパイプ12、立パイプ18、上パイプ14、下パイプ16及びハンガーパイプ20の部分を模式的に表した図であり(A)〜(D)で示される領域の補強繊維の異方性度を測定したものである。
図2において、(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度の測定領域が、領域(A)、(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度の測定領域が、領域(B)で、それぞれ表されている。また、上パイプにおける補強繊維の異方性度の測定領域は、上パイプのヘッドパイプ側である領域(C)と、上パイプの立パイプ側である領域(D)である。
【0025】
高強度を必要とする立パイプ18における領域(B)では、異方性度は0.6以上であることを要する。全ての補強繊維が中心軸に添って配向する場合には異方性度は1.0となり、理想的な値である。領域(B)においては、より好ましくは異方性度は0.66〜1.0であり、さらに好ましくは0.7〜1.0とすることで、好ましい強度と外観が得られる。
また、下パイプ16における領域(A)では、フレーム全体の強度を維持する観点から、異方性度は0.4〜1.0の範囲であることを要し、好ましくは、0.5〜1.0の範囲である。
また、上パイプ14における異方性度には特に制限はないが、自転車用フレームの強度をより高めるという観点からは、異方性度は0.3〜1.0であることが好ましい。特に、上パイプ14におけるヘットパイプ側である領域(C)では、フレーム全体の強度をより高いレベルに維持する観点から、異方性度は0.3〜1.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.4〜1.0の範囲である。
なお、樹脂組成物は、立パイプ18と上パイプ14との接合部の近傍に位置する射出口である(I)に示す位置の射出口及び上パイプ14とヘッドパイプ12との接合部近傍である(III)に示す位置の射出口とを、少なくとも用いて射出して成型することが好ましい。その場合、まず、最も異方性度が高いことを要する立パイプ18〔領域(B)〕と下パイプ16〔領域(A)〕に補強繊維を含む樹脂組成物が注入され、良好な配向が達成される。
図3は、後述する実施例1で自転車用フレームを作製する際における樹脂組成物の射出口(I)、(II)、及び(III)の位置及び当該射出口を用いて形成した自転車フレーム内の樹脂の流れを示したモデル図である。この図を参照して詳細に説明する。
図3に示すように、ここでは、(I)、(II)及び(III)に示す位置の射出口から樹脂組成物を射出する。このため、(II)の位置から射出された樹脂組成物は、(III)に示す位置から射出された樹脂組成物と合流して下パイプ16に流入し、領域(A)の異方性度がより良好となる。また、立パイプ18を形成する樹脂組成物は、(I)に示す位置から射出されるため、既述のように、領域(B)において、異方性度がより良好となるため、領域(A)及び領域(B)において、本発明に規定する異方性度の値が達成される。
【0026】
図2における(II)及び(III)に示す位置から成型金型に注入された樹脂組成物は、上パイプ14の領域へと進行し、領域(D)の近傍において立パイプ18における(I)に示す位置から注入された樹脂組成物と合流するようにして充填される。このため、上パイプ14の立パイプ18側の領域(D)では、繊維の異方性度が若干低くなり、異方性度は0.0〜0.35程度となるが、この領域では比較的荷重が分散されるため、異方性度は低くても実用上の強度に影響を及ぼさないレベルである。
なお、補強繊維の異方性度が0.35未満であると樹脂成型体の表面にウェルドラインと称する外観不良〔図3において、模式的に波線で表す〕が生じやすくなるが、当該領域(D)は、製品化の際にマークや着色を施される領域であるために特に問題はない。なお、異方性度が0.35以下であってもよい領域(D)としては、上パイプ14の全長を100としたときに、立パイプ18側の10〜50の範囲であることが好ましく、10〜30の範囲であることがより好ましい。
【0027】
(自転車用フレームの製造方法)
上記好ましい補強繊維の異方性度を達成するために、既述の自転車用フレームの製造方法について説明する。
本発明の自転車用フレームは、例えば、少なくとも基材となる合成樹脂と補強繊維と、を含む前記樹脂組成物を、タンブラーやミキサー等の混合機で混合した後、1軸又は2軸の押出機等、通常の溶融混練装置に供給し、200℃〜360℃程度で溶融混練して、補強繊維を含有する樹脂組成物のペレットを作製する。作製した樹脂組成物ペレットを、射出成型装置に供給して所望のフレーム形状に成型することで製造される。
なお、ペレットは、補強繊維が予め配合された市販品を用いてもよく、例えば、トレカ(登録商標)長繊維ペレット TLPシリーズ(東レ製)などが好ましく用いられる。
本発明の製造方法は、ハンドルを装着しうるヘッドパイプ12、サドルを保持する立パイプ18、該ヘッドパイプ12と立パイプ18とを連結する上パイプ14及び下パイプ16を少なくとも備える自転車用フレームを射出成形する際に、合成樹脂と、10質量%〜40質量%の補強繊維と、を含有する樹脂組成物を加熱溶融し、射出成形により形成された成型体における前記補強繊維の異方性度が下記(1)及び(2)の条件を満たすように、前記樹脂組成物を、少なくとも、前記上パイプと前記立パイプとの接合部近傍より、射出圧100MPa〜200MPa、射出速度30mm/s〜50mm/sの射出条件で射出成形する工程を含む。
(1)下パイプにおける補強繊維の異方性度が0.4〜1.0である。
(2)立パイプにおける補強繊維の異方性度が0.6〜1.0である。
【0028】
このような条件を達成させるため、即ち、繊維の異方性度を所定の範囲に制御するためには、射出口を、高異方性度を必要とする立パイプ18及び下パイプ16近傍に設け〔(I)及び(III)、所望により更に(II)〕、流路を細くして樹脂の流速を上げる方向に調整すればよく、そのような観点からは、前記射出成形は、前記樹脂組成物を、前記上パイプ14と前記立パイプ18との接合部近傍、即ち、図3における(I)近傍より射出することが好ましい。
既述のように、射出口より遠い部分では若干異方性度が低下するが、溶融樹脂が立パイプ18を経る流路と、下パイプ16を経る流路においては比較的樹脂の流速が早く、異方性度が高い水準で維持され、両者の流路が接合する上パイプ14と立パイプ18との接合部近傍である領域(D)では比較的異方性度は低くなる。
なお、上記各領域の補強繊維の好ましい異方性度を達成しようとする場合、さらに、射出口より遠い位置においても異方性度をより向上させたい場合には、金型全体を高温に維持したり、或いは、射出条件を以下に記載するように調整したりすることで、本発明の製造方法において目的とする補強繊維の異方性度が達成される。
【0029】
射出条件を具体的に示せば、例えば、スクリュー直径:90mm、最大型締力:650tonの射出成型機を用いて射出成形する場合の、サイクル時間は50秒〜80秒、射出時間は2秒〜10秒、射出圧100MPa〜200MPa、射出速度30mm/s〜50mm/sの射出条件で射出されることが好ましく、サイクル時間は65秒〜75秒、射出時間は2秒〜5秒、射出圧130MPa〜160MPa、射出速度40mm/s〜45mm/sの射出条件で射出されることがより好ましい。
【0030】
上記条件で補強繊維を含有する樹脂組成物を射出成型することで、成型品中の補強繊維の異方性度が上記好ましい範囲に制御され、得られた自転車用フレームは、樹脂組成物を用いて作製したために軽量であり、実用上充分な強度を備え、構造に係る領域では、ウェルドラインなどの外観不良の発生が抑制されるために、各種の自転車に好適な自転車用フレームを簡易に得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例において具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0032】
[実施例1]
補強繊維として平均繊維長5mm、繊維径約5μmの炭素繊維とポリアミド6(ナイロン6:登録商標)とを含有する炭素繊維含有樹脂ペレット(東レ製、トレカ長繊維ペレット TLP1060:商品名)を樹脂組成物として用いた。樹脂組成物中の炭素繊維含有量は30質量%である。
【0033】
準備された前記ペレットを用い、ファナック(株)製の15t射出成型機によって、図1に示す形状の自転車用フレーム10を成型した。
図3は、実施例1の自転車用フレーム作製における射出ゲート(射出口)の位置及び該射出ゲートから射出された樹脂の流れを示したモデル図である。
射出条件は、図3において(I)、(II)及び(III)で示される位置に設けられた射出ゲート3点を用い、サイクル時間71.93秒、射出時間2.11秒、射出圧146.1MPa、射出速度43.2mm/sで樹脂の射出を行った。
成型体をX線解析装置(Bruker社製、SkyScan−1072)により3D画像を撮影し、既述の方法により解析し、図2における領域(A)〜領域(D)の繊維の異方性度を測定した。測定されたそれぞれの繊維の異方性度を下記表2に示す。
【0034】
得られた成型体を観察したところ、外観上の重要な領域である領域(A)、領域(B)及び領域(C)の近傍ではウェルドラインの発生は認められず、優れた外観を示した。領域(D)においては、僅かなウェルドラインの発生が観察されたが、実用上問題のないレベルであった。
【0035】
(強度試験)
前記実施例1で得られた合成樹脂製自転車用フレームを、JIS D 9401強度試験に準拠して、評価した。即ち、図1のフレームの内側に7.5°±0.5°だけ傾けて、下方に850Nの力を100,000回加える疲労試験を行ったところ、損傷、変形、及びゆがみは観察されなかった。
【0036】
[比較例1〜3]
準備された前記ペレットを用い、ファナック(株)製の15t射出成型機によって、図1に示す形状の自転車用フレーム10を成型した。射出条件及び樹脂組成物を注入する射出口の位置を、表1に示す条件に変えることで、表2に示すそれぞれの領域における異方性度を変更させるように調整して射出成形を行い、実施例1と同様にして比較例1〜3の自転車用フレームを得た。
得られた比較例1〜3の自転車用フレームを、実施例1と同様にして、各領域の繊維の異方性度を測定した。また、実施例1と同様にして強度試験を行った。これらの結果を下記表2に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
実施例1と、比較例1〜3との対比より、ポリアミド6に炭素繊維を30質量%含有させた樹脂組成物を用い、補強繊維の配向を、本発明の規定した範囲に制御してなる本発明の製造方法により得られた自転車用フレームは、軽量であり、且つ、強度、剛性及び外観に優れるが、領域(A)及び領域(B)の少なくともいずれかにおいて補強繊維の異方性度が本発明の範囲外である比較例1〜3の自転車用フレームは、強度が実用上問題のあるレベルであることがわかる。
このように、本発明によれば、強度、剛性、及び外観に優れた樹脂製の自転車用フレームを提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 自転車用フレーム
12 ヘッドパイプ
14 上パイプ
16 下パイプ
18 立パイプ
図1
図2
図3