特許第6138522号(P6138522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138522
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】起伏ゲート式防波堤
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/40 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   E02B7/40
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-44389(P2013-44389)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-173248(P2014-173248A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】仲保 京一
(72)【発明者】
【氏名】森井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】吉識 竜太
(72)【発明者】
【氏名】内田 正道
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−085521(JP,U)
【文献】 特開2004−162393(JP,A)
【文献】 特開2009−191563(JP,A)
【文献】 特開2005−146703(JP,A)
【文献】 特開2010−133095(JP,A)
【文献】 特開2006−257829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/40
E02B 7/44
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納部に形成された扉体格納空間に格納されている倒伏状態の扉体を起立させて港口を塞ぐ起伏ゲート式防波堤であって、
一端が海域に開口し、他端が前記扉体格納空間の床面と前記倒伏状態にある扉体の反海域側の面との間の扉体格納空間内に開口した取水配管と、
一端が前記取水配管の他端側開口と対向するように前記扉体格納空間内に開口し、他端が海域に開口した排水配管と、
を備え、
前記取水配管には、海域側から扉体格納空間に海水が流入する方向のみ許容する逆止弁を、前記排水配管には、扉体格納空間から海域側に海水が流出する方向のみ許容する逆止弁を設けて海域と扉体格納空間を循環する経路を形成したことを特徴とする起伏ゲート式防波堤。
【請求項2】
前記取水配管の一端側開口を、格納部を設けた海底よりも高い位置に設けると共に、前記一端側開口を側方或いは海底方向に向けて設けたことを特徴とする請求項1に記載の起伏ゲート式防波堤。
【請求項3】
倒伏状態にある扉体の反海域側の面と、前記取水配管の他端側開口との間に、海域から前記扉体格納空間内に落下してくる底質は通過する一方、前記扉体格納空間の床面に堆積した底質が倒伏状態にある扉体側への移動は抑制する半透過部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の起伏ゲート式防波堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高潮や津波対策として港口に設置される起伏ゲート式防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
起伏ゲート式防波堤は、高潮や津波の発生が予測された際に、倒伏状態で格納されている扉体を起立させて港口を塞ぎ、高潮や津波が港内に浸入するのを防ぐものである(例えば特許文献1,2参照。)。
【0003】
このような起伏ゲート式防波堤の場合、扉体を格納する格納部の扉体格納空間は上面が開口しているので、扉体格納空間に底質が堆積することは避けられない。この堆積した底質が倒伏状態の扉体を覆うと、扉体の起立に支障が生じる場合が起こり得る。
【0004】
そこで、従来は、ダイバーが格納部の扉体格納空間に定期的に潜り、堆積した底質を、水中ポンプを用いて扉体格納空間から排出していた。
【0005】
しかしながら、ダイバーが定期的に潜って扉体格納空間に堆積した底質を排出する作業は、ダイバーに大きな負担を強いることになる。また、気象条件によっては予定していた時に排出作業ができなくなる場合もあるが、このような場合、次回の排出時には予定していた堆積量よりも多くの底質を排出することになって、ダイバーの負担がより大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211457号公報
【特許文献2】特開2010−133095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、ダイバーが定期的に潜って格納部の扉体格納空間に堆積した底質を排出する場合、ダイバーに大きな負担を強いるという点である。また、気象条件によって予定していた時に作業ができなくなった場合は、次回の排出時には予定していた堆積量よりも多くの底質を排出することになるので、ダイバーの負担がより大きくなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、格納部の扉体格納空間に堆積した底質をダイバーが潜って排出する必要がないようにすることを目的としてなされたものである。
【0009】
本発明は、
格納部に形成された扉体格納空間に格納されている倒伏状態の扉体を起立させて港口を塞ぐ起伏ゲート式防波堤であって、
一端が海域に開口し、他端が前記扉体格納空間の床面と前記倒伏状態にある扉体の反海域側の面との間の扉体格納空間内に開口した取水配管と、
一端が前記取水配管の他端側開口と対向するように前記扉体格納空間内に開口し、他端が海域に開口した排水配管と、
を備え、
前記取水配管には、海域側から扉体格納空間に海水が流入する方向のみ許容する逆止弁を、前記排水配管には、扉体格納空間から海域側に海水が流出する方向のみ許容する逆止弁を設けて海域と扉体格納空間を循環する経路を形成したことを最も主要な特徴としている。
【0010】
上記の本発明では、風波により水面が変動した場合に、取水配管の一端側開口位置の水圧が、排水配管の他端側開口位置の水圧よりも高いときは、取水配管から扉体格納空間を経て排水配管を通って海域に排出するように海水が流れ、扉体格納空間に堆積した底質を排出する。反対に、取水配管の一端側開口位置の水圧が、排水配管の他端側開口位置の水圧よりも低いときは、逆止弁の作用によって前記海水の流れは発生しない。
【0011】
本発明において、取水配管の一端側開口を、格納部を設けた海底よりも高い位置に設けた場合は、前記海水の流入時に取水配管の一端側開口から周囲の砂礫が流入し難くなる。また、取水配管の一端側開口を側方或いは海底方向に向けて設けた場合は、取水配管の一端側開口から海域中の底質が入り込み難くなる。
【0012】
また、本発明において、倒伏状態にある扉体の反海域側の面と、取水配管の他端側開口との間に、海域から格納部の上面開口を通って扉体格納空間内に落下してくる海域中の底質は通過する一方、扉体格納空間の床面に堆積した底質が倒伏状態の扉体側に移動することは抑制する半透過部材を設けた場合は、底質の前記排出がより良好に行える。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、海域と扉体格納空間を循環する経路を形成する取水配管及び排水配管に逆止弁を設けることによって、ダイバーが潜らなくても、風波による水面変動に伴って扉体格納空間に堆積した底質を排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の起伏ゲート式防波堤の第1の例を示した概略構成図である。
図2】(a)(b)は本発明の起伏ゲート式防波堤を構成する取水配管の一端側開口の態様を示した図である。
図3】(a)(b)は本発明の起伏ゲート式防波堤を構成する半透過部材の一例を示した図である。
図4】本発明の起伏ゲート式防波堤の第2の例を示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、格納部の扉体格納空間に堆積した底質をダイバーが潜って排出する必要がないようにするという目的を、海域と扉体格納空間を循環する経路を形成する取水配管及び排出配管に逆止弁を設けることで実現した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図4を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の起伏ゲート式防波堤の第1の例を示した概略構成図である。
【0017】
図1において、1は起伏ゲート式防波堤を構成する扉体であり、平時は格納部2の扉体格納空間2aに倒伏した状態で格納されている。そして、高潮や津波の発生が予測された際には、先端側の空気室に給気して基端側の回転軸1aを支点として先端側を起立させ、港口を塞ぐ。
【0018】
本発明は、上記起伏ゲート式防波堤において、格納部2を設置した海域5から格納部2の扉体格納空間2a内に海水を流入する取水配管3と、この取水配管3を介して流入した海水を扉体格納空間2aから排出する排水配管4を、扉体1の幅方向に所定の間隔を存して複数設置した構成である。
【0019】
前記取水配管3は、一端を海域5に開口させる一方、他端は、扉体格納空間2a内において、その床面2aaと倒伏状態の扉体1の反海域側の面1bとの間に開口させ、その途中に、一端側開口3aから他端側開口3bに向かう方向にのみ海水の移動を許容する逆止弁6を設けている。
【0020】
前記取水配管3の一端側開口3aは、海水の流入時に、この一端側開口3aから周囲の砂礫が一緒に流れ込むのを抑制するためには、図2に示すように、格納部2を設けた海底5aよりも高い位置に設けることが望ましい。
【0021】
また、取水配管3の一端側開口3aから海域中の底質が入り込むのを抑制するためには、前記一端側開口3aを、図2(a)に示すように側方に向けて設けるか、図2(b)に示すように海底5aに向けて設けることが望ましい。
【0022】
一方、前記排水配管4は、前記取水配管3の他端側開口3bと対向するように、一端を扉体格納空間2a内に開口する一方、他端は海域5に開口させ、その途中に、一端側開口4aから他端側開口4bに向かう方向にのみ海水の移動を許容する逆止弁7を設けている。
【0023】
8は、海域5から扉体格納空間2aの内部に落下してくる底質9を通過させるが、扉体格納空間2aの床面2aaに堆積した底質9が倒伏状態の扉体1側に移動することを抑制する半透過部材であり、倒伏状態の扉体1の反海域側の面1bと、前記取水配管3の他端側開口3b(前記排水配管4の一端側開口4a)との間に配置されている。
【0024】
この半透過部材8は、上記作用を奏することができるものであれば、その構成は問わない。例えば図3(a)では山形鋼8aを複数個、図3(b)では横断面が三角形状の各材8bを複数個、それぞれの山部を上方向に向け、それぞれの山裾間が適宜の間隔dとなるように配置したものを示している。
【0025】
上記本発明では、風波により水面が変動した場合に、海面から取水配管3の一端側開口3aまでの深さL1が、排水配管4の他端側開口4bまでの深さL2よりも大きいときは、両者の水圧差により、取水配管3から扉体格納空間2a内に海水が流れ込む。
【0026】
扉体格納空間2a内に流れ込んだ海水は、扉体格納空間2aの床面2aa上に堆積した底質9を押し流す。押し流された底質9は、半透過部材8の作用によって排水配管4の一端側開口4aに流れ込んで他端側開口4bから海域5に排出される。
【0027】
すなわち、本発明では、ダイバーが潜らなくても、風波による水面変動に伴って扉体格納空間2aに堆積した底質9を排出することができる。なお、海面から取水配管3の一端側開口3aまでの深さL1が、排水配管4の他端側開口4bまでの深さL2よりも小さいときは、逆止弁7の作用によって排水配管4を介して扉体格納空間2a内に海水が流れ込むことはない。
【0028】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0029】
例えば、取水配管3や排水配管4の途中に設ける逆止弁6,7の設置位置は特に限定されるものではないが、メンテナンスの容易性を考慮すれば、図4に示すように、扉体1の格納部2からダイバーがアクセスできる位置に設置することが望ましい。
【0030】
また、上記実施例では、取水配管3の一端側開口3aを、格納部2を設けた海底5aよりも高い位置に、かつ、側方或いは海底5aに向けて設けているが、このような配置形態とすることは必須の要件ではない。
【0031】
同様に、上記実施例では、倒伏状態の扉体1の反海域側の面1bと、前記取水配管3の他端側開口3b(排水配管4の一端側開口4a)との間に半透過部材8を配置しているが、この半透過部材8も必須の構成要素ではない。
【符号の説明】
【0032】
1 扉体
1a 回転軸
1b 反海域側の面
2 格納部
2a 扉体格納空間
2aa 床面
3 取水配管
3a 一端側開口
3b 他端側開口
4 排水配管
4a 一端側開口
4b 他端側開口
5 海域
5a 海底
6,7 逆止弁
8 半透過部材
9 底質
図1
図2
図3
図4