特許第6138528号(P6138528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138528堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造及び連接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138528
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造及び連接方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   E02B7/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-51508(P2013-51508)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-177792(P2014-177792A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鐵住金建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】大隅 久
(72)【発明者】
【氏名】千原 允
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 謙
(72)【発明者】
【氏名】筒井 智照
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−044119(JP,A)
【文献】 実開平06−024015(JP,U)
【文献】 特開平01−137009(JP,A)
【文献】 特開平10−008443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/00〜 8/08
E02D 5/00〜 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配が変化する勾配変化部を有する堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造であって、
前記勾配変化部と略同じ高さに上端が配置される複数の第1下段鋼矢板と、
前記第1下段鋼矢板の間に連接されると共に延長方向へ屈曲させた屈曲部を有する複数の屈曲鋼矢板と、
前記第1下段鋼矢板の間に連接されると共に前記屈曲鋼矢板の下端に連接された第2下段鋼矢板と、
前記屈曲鋼矢板の間に連接されると共に前記勾配変化部で前記第1下段鋼矢板の上端にその下端が連接された上段鋼矢板とを備え、
前記屈曲鋼矢板は、前記勾配変化部と前記第2下段鋼矢板の上端との差分長さに対して、前記屈曲部から下端までの長さが略同じ長さであること
を特徴とする堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造。
【請求項2】
前記第1下段鋼矢板の上端の端面と前記上段鋼矢板の下端の端面とが当接するように少なくとも何れか一方が傾斜されていること
を特徴とする請求項1記載の堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造。
【請求項3】
前記堤体の勾配が変化する角度と略同じ角度に屈曲されたはらみ防止プレートが、前記第1下段鋼矢板の上端近傍及び/又は前記上段鋼矢板の下端近傍に取り付けられていること
を特徴とする請求項1又は2記載の堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造。
【請求項4】
前記屈曲鋼矢板は、前記屈曲部から下側が、当該屈曲部から上側と前記屈曲部で屈曲された角度と略同じ角度に屈曲された接合部材を介して連接されていること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造。
【請求項5】
勾配が変化する勾配変化部を有する堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接方法であって、
上端が前記勾配変化部の下側近傍の高さになるように配置された複数の第2下段鋼矢板の間に、複数の第1下段鋼矢板を連接すると共にその上端が前記勾配変化部と略同じ高さになるように配置する第1下段鋼矢板取付工程と、
延長方向へ屈曲させた屈曲部を有すると共に前記勾配変化部と前記第2下段鋼矢板の上端の差分長さに対して前記屈曲部から下端までの長さが略同じ長さとなる屈曲鋼矢板を前記第1下段鋼矢板の間に連接する屈曲鋼矢板取付工程と、
上段鋼矢板を前記屈曲鋼矢板の間に連接すると共にその下端を前記勾配変化部で前記第1下段鋼矢板の上端に連接させる上段鋼矢板取付工程とを有すること
を特徴とする堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂防堰堤、落石防護壁、導流堤などの堤体の外壁に用いられ、堤体の勾配の変化に合わせて上下に連接される鋼矢板の連接角度の変化を可能にする、堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造及び連接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板の左右幅方向の両端に嵌合用の接合部が設けられて、左右幅方向に鋼矢板が複数連接されて延長された鋼矢板壁を構築する技術は、周知である。この鋼矢板を用いて、堤体の外壁を形成する構造として、従来において鋭意検討された結果、例えば、特許文献1の開示技術が提案されている。
【0003】
特許文献1の開示技術は、砂防堰堤などの堤体について、短尺の鋼矢板を複数組み合わせて、水平方向に隣接する鋼矢板をジョイント部で繋ぎ、かつ上下方向に突き合わせ接続されて、その水平縁が上下左右方向に段違いの千鳥状配置に接合されて外壁を構築してから、内部にコンクリートなどの硬化材を充填し、さらに、外壁を所定の高さまで延長して構築してから、内部にコンクリートなどの硬化材を充填することを繰り返すことにより堤体の天端高さまで構築する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−052309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される堤体は、地上から天端まで勾配に変化が無い構造に対して鋼矢板を連接させて所定高さの外壁が形成される。しかし、設置条件によっては、堤体の大きさをより小さく、また、総重量を減らす必要がある場合等、地上から天端までの勾配を途中から変化させることが望ましい場合もある。このような堤体について、特許文献1の開示技術では、堤体の勾配変化に合わせて鋼矢板の連接する角度を変化させて連接することができない。また、堤体以外の土木構造物においても、鋼矢板等を連接する際に勾配を変化させる鋼矢板の連接構造も見当たらない。
【0006】
鋼矢板は金属部材であるため、堤体の外壁に用いられる鋼矢板に溶接を行うことにより、鋼矢板の角度を変化させることもできる。しかし、堤体は、一般的に山中で施工されることもあるため、現場溶接は、溶接のための機材を運搬する等作業が煩雑となる。更に、溶接による鋼矢板の角度変化は、堤体のような大型構造物では溶接長が長くなり、施工性が悪く、施工費も莫大なものとなる。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、地上から天端までの途中に勾配の変化がある堤体に対して、鋼矢板を外壁に用いる際に、堤体の勾配変化に応じた鋼矢板の角度変化を可能とする堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造及び連接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造及び連接方法は、堤体の勾配変化部の角度と略同じ角度に屈曲させた屈曲部を有する屈曲鋼矢板を勾配変化部に備えるように構成する。
【0009】
本願第1の発明は、勾配が変化する勾配変化部を有する堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造であって、勾配変化部と略同じ高さに上端が配置される複数の第1下段鋼矢板と、第1下段鋼矢板の間に連接されると共に延長方向へ屈曲させた屈曲部を有する複数の屈曲鋼矢板と、第1下段鋼矢板の間に連接されると共に屈曲鋼矢板の下端に連接された第2下段鋼矢板と、屈曲鋼矢板の間に連接されると共に勾配変化部で第1下段鋼矢板の上端にその下端が連接された上段鋼矢板とを備え、屈曲鋼矢板は、勾配変化部と第2下段鋼矢板の上端との差分長さに対して、屈曲部から下端までの長さが略同じ長さであることを特徴とする。
【0010】
本願第2の発明は、第1の発明において、第1下段鋼矢板の上端の端面と上段鋼矢板の下端の端面とが当接するように少なくとも何れか一方が傾斜されていることを特徴とする。
【0011】
本願第3の発明は、第1又は第2の発明において、堤体の勾配が変化する角度と略同じ角度に屈曲されたはらみ防止プレートが、第1下段鋼矢板の上端近傍及び/又は前記上段鋼矢板の下端近傍に取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
本願第4の発明は、第1〜第3のうち何れか1の発明において、屈曲鋼矢板は、屈曲部から下側が、当該屈曲部から上側と屈曲部で屈曲された角度と略同じ角度に屈曲された接合部材を介して連接されていることを特徴とする。
【0013】
本願第5の発明は、勾配が変化する勾配変化部を有する堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接方法であって、上端が前記勾配変化部の下側近傍の高さになるように配置された複数の第2下段鋼矢板の間に、複数の第1下段鋼矢板を連接すると共にその上端が前記勾配変化部と略同じ高さになるように配置する第1下段鋼矢板取付工程と、延長方向へ屈曲させた屈曲部を有すると共に前記勾配変化部と前記第2下段鋼矢板の上端の差分長さに対して前記屈曲部から下端までの長さが略同じ長さとなる屈曲鋼矢板を前記第1下段鋼矢板の間に連接する屈曲鋼矢板取付工程と、上段鋼矢板を前記屈曲鋼矢板の間に連接すると共にその下端を前記勾配変化部で前記第1下段鋼矢板の上端に連接させる上段鋼矢板取付工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1又は第5の発明によると、複数の鋼矢板を上下左右に連接しながら、堤体の外壁を構築する際に、堤体の外壁の勾配を途中で変化させることができるため、堤体の大きさをより小さく、また、堤体の総重量を減らす必要がある場合にも対応が可能となり、簡易な構造により施工費を低下させることができ、より経済的となる。
【0015】
第2の発明によると、第1下段鋼矢板の上端の端面と上段鋼矢板の下端の端面とが当接するように少なくとも何れか一方が傾斜されているため、第1下段鋼矢板の上端の端面と上段鋼矢板の下端の端面に隙間が生じることなく上下に当接されることになる。
【0016】
第3の発明によると、堤体の勾配が変化する角度と略同じ角度に屈曲されたはらみ防止プレートが、第1下段鋼矢板の上端近傍及び/又は上段鋼矢板の下端近傍に取り付けられていることにより、堤体の外壁の内側にあるコンクリート等の充填材が膨張した場合に、第1下段鋼矢板の上端近傍及び上段鋼矢板の下端近傍との連接部分に隙間が生じることを防ぐことができる。
【0017】
第4の発明によると、屈曲鋼矢板の屈曲部から下側と上側とが屈曲部で屈曲された角度と略同じ角度の接合部材を介して連接されている。これにより、この接合部材が、屈曲部から下側近傍及び当該屈曲部から上側近傍に固定されて屈曲部を補強する役割を果たしている。この接合部材の補強により、第3の発明と同様に堤体の外壁の内側にあるコンクリート等の充填材が膨張した場合でも、屈曲部の変形をより防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用した堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造の縦断側面図である。
図2】本発明を適用した堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造の斜視図である。
図3】本発明を適用した堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造のP−P線断面背面斜視図である。
図4】本発明を適用した堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造の背面図である。
図5】(a)は、はらみ防止プレートを拡大した背面図であり、(b)は、その縦断側面図である。
図6】(a)は、屈曲鋼矢板に取り付けられた接合部材を拡大した背面図であり、(b)は、その縦断側面図である。
図7】(a)は、堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造における第1下段鋼矢板を取り付ける状態を示す背面図であり、(b)は、その縦断側面図である。
図8】(a)は、堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造における第1下段鋼矢板を取り付ける状態を示す背面図であり、(b)は、その縦断側面図である。
図9】(a)は、本発明を適用した堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造における上段鋼矢板を取り付ける状態を示す背面図であり、(b)は、その縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る堤体の外壁に用いられる鋼矢板の連接構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように堤体1は、例えば、河川における基礎コンクリート9上に設置された砂防堰堤であり、この砂防堰堤の長手方向の両側面に対向させて設けられた外壁2、3と、外壁2、3の内側に充填された充填材4とから構成される。堤体1は、外壁2における勾配が変化する勾配変化部Pを有している。なお、堤体1は、砂防堰堤に限らず、落石防護壁、導流堤などであってもよい。
【0021】
外壁2は、例えば、河川の上流側に設けられ、上流から流れてきた土石流等の衝撃を抑えるために複数の鋼矢板21を上下左右に連接して形成され、堤体1の勾配変化部Pの近傍で鋼矢板の連接構造5を備えている。外壁3は、例えば、下流側にあり直接的には土石流等が衝突するおそれがないためコンクリートブロックにより形成されている。しかし、外壁3は、これに限定されることなく、外壁2と同様に鋼矢板21によって形成されていてもよい。なお、図1に示す外壁2、3は、鋼矢板21の堤体1の内側に図示しないアンカー材が締結されていてもよい。この外壁2、3は、このアンカー材があることにより、充填材4と一体化されて固定されて堤体1が形成される。
【0022】
図3に示すように、鋼矢板21aは、ウェブ部22aと、ウェブ部22aの両側縁からウェブ部22aに対して傾斜して延長されてなるフランジ部23aと、フランジ部23aの先端に設けられた継手部24aとから構成され、いわゆるU字形鋼矢板によって構成されている。なお、鋼矢板21aは、ウェブ部22aの略中央に突出されてなる凸部25aが、鋼矢板21aの長手方向に延長されて形成されている。また、鋼矢板21bも鋼矢板21aと同様な構成である。
【0023】
鋼矢板21aの幅方向の両側縁に設けられた継手部24aは、鋼矢板21の幅方向に対称な形状をしている。図3に示すように、ウェブ部22aの幅方向に向けて鋼矢板21aと鋼矢板21bとが交互に配置されて、ウェブ部22aの幅方向に隣接する二つの鋼矢板21の間で互いの鋼矢板21aの継手部24aと鋼矢板21bの継手部24bとを連結させることにより、外壁2が形成可能となる。
【0024】
鋼矢板の連接構造5は、勾配変化部Pと略同じ高さに上端が配置される複数の第1下段鋼矢板61と、第1下段鋼矢板61の間に連接されると共に上方に向かって堤体1が急勾配になるように延長方向へ屈曲させた屈曲部Uを有する複数の屈曲鋼矢板7と、第1下段鋼矢板61の間に連接されると共に屈曲鋼矢板7の下端に連接された第2下段鋼矢板62と、屈曲鋼矢板7の間に連接されると共に勾配変化部Pで第1下段鋼矢板61の上端にその下端が連接された第1上段鋼矢板81とを備える。ここで、堤体1においては、鋼矢板の連接構造5は、更に第1上段鋼矢板81の間に連接されると共に屈曲鋼矢板7の上端に連接された第2上段鋼矢板82を備えている。
【0025】
第1下段鋼矢板61、第2下段鋼矢板62、第1上段鋼矢板81、第2上段鋼矢板82は、形状、大きさ、素材は、鋼矢板21と同様であるため説明を省略する。
【0026】
ここで、図4における本発明を適用した堤体1の外壁2に用いられる鋼矢板の連接構造5の背面図は、隣接する鋼矢板21の接合部分の形状を省略している。また、勾配変化部Pより上側では、鋼矢板21は地上に対して略鉛直方向に連接されているが、勾配変化部Pより下側では、鋼矢板21は勾配を有している。このため、原則として、勾配変化部Pより下側にある鋼矢板21は、背面視では、勾配変化部Pより上側の鋼矢板21よりも短い長さとなる。しかし、この図4では、鋼矢板の連接構造5をわかりやすくするために、勾配変化部Pより上側と下側の長さを略同じ長さとして表現している。図7〜9においても、図4と同様にこの鋼矢板21における接合部の形状を省略し、背面視で勾配変化部Pを境界とした上側と下側における鋼矢板21の上下の長さを略同じ長さとしている。
【0027】
図4、5に示す第1下段鋼矢板61の上端の端面と第1上段鋼矢板81の下端の端面とが当接するようにそれぞれが傾斜されている。これにより、第1下段鋼矢板61の上端の端面と第1上段鋼矢板81の下端の端面は、隙間が生まれることなく上下に当接されることになる。しかし、これに限定されることなく、第1下段鋼矢板61及び第1上段鋼矢板81は、互いの端面が当接するように少なくとも一方が傾斜されていればよい。更に、第1下段鋼矢板61の上端近傍及び/又は第1上段鋼矢板の下端近傍には、図4、5に示すように勾配変化部Pにおいて、外壁2の勾配が変化する角度と略同じ角度に屈曲されたはらみ防止プレート68が取り付けられている。
【0028】
図4、5に示すはらみ防止プレート68は、勾配変化部Pで外壁2の勾配が変化する角度と略同じ角度に屈曲されている。このはらみ防止プレート68は、勾配変化部Pを境界として第1下段鋼矢板61の上端と第1上段鋼矢板81の下端とを連接すると共に外壁2の内側にある充填材4が膨張した場合に、第1下段鋼矢板61の上端近傍と第1上段鋼矢板81の下端近傍との連接部分に隙間が生じることを防ぐことができる。図5に示すはらみ防止プレート68は、図示しないボルトや溶接等に取り付けられている。このはらみ防止プレート68は、第1下段鋼矢板61の上端近傍の外側面に取り付けられると共に第1上段鋼矢板81の下端近傍の外側面と当接されることになる。しかし、これに限定されることなく、はらみ防止プレート68は、第1上段鋼矢板の下端近傍の外側面と当接されていなくとも、外壁2の外側面に取り付けられていることから充填材4が膨張した場合には、結果として第1上段鋼矢板の下端近傍の外側面と当接され、上述の隙間の発生を防ぐことができる。なお、図5に示すはらみ防止プレート68は、第1下段鋼矢板61の上端近傍の外壁2の外側に取り付けられているが、これに限定されることなく第1下段鋼矢板61の上端近傍の外壁2の内側に取り付けられていてもよい。また、同様に、はらみ防止プレート68は、第1上段鋼矢板81の下端近傍における堤体1の外側又は内側に取り付けられていてもよい。
【0029】
屈曲鋼矢板7は、図4に示すように勾配変化部Pと第2下段鋼矢板62の上端との差分長さに対して、屈曲部Uから下端までの長さが略同じ長さになっている。また、同様に屈曲鋼矢板7は、勾配変化部Pと第2上段鋼矢板82の下端との差分長さに対して、屈曲部Uから上端までの長さが略同じ長さとなっている。
【0030】
図6に示すように、屈曲鋼矢板7は、屈曲部Uよりも上側に設けられた上側鋼矢板71と、屈曲部Uよりも下側に設けられた下側鋼矢板72と、屈曲部Uの屈曲された角度と略同じ角度になるように上側鋼矢板71の下端近傍及び下側鋼矢板72の上端近傍に取り付けられた接合部材73とを備える。
【0031】
上側鋼矢板71、下側鋼矢板72は、それぞれ鋼矢板21と同一の断面形状であり、鋼矢板21の上下方向の長さの半分の長さで形成されて、屈曲部Uで上側鋼矢板71の下端と下側鋼矢板72の上端が接続されている。この上側鋼矢板71及び下側鋼矢板72は、2枚の鋼矢板を溶接等で連接して形成してもよく、また、1枚の鋼矢板を屈曲させて形成してもよい。
【0032】
接合部材73は、図4に示すように下側鋼矢板72が上側鋼矢板71と屈曲部Uで屈曲された角度と略同じ角度に屈曲されている。この接合部材73が、上側鋼矢板71の下端近傍及び下側鋼矢板72の上端近傍に固定されて屈曲部Uを補強する役割を果たしている。この接合部材73の補強により、この屈曲部Uが堤体1の外壁2の内側にあるコンクリート等の充填材4が膨張した場合でも、屈曲部Uの変形をより防ぐことができる。この接合部材73は、図6に示すように、図示しない貫通孔が形成され、この貫通孔に8つのボルト74が挿通されている。このボルト74の先端は、上側鋼矢板71の下端近傍に設けられた図示しない貫通孔及び下側鋼矢板72の上端近傍に設けられた図示しない貫通孔を挿通させて、上側鋼矢板71及び下側鋼矢板72の反対側から8つのナット75により螺着固定されている。しかし、これに限定されることなく、接合部材73は、屈曲鋼矢板7に溶接等で固定されていてもよい。
【0033】
充填材4は、例えば、コンクリートやモルタル等の経時性硬化材を想定している。しかし、これに限定されることなく、山中に堤体1を設置する場合には、コンクリートやモルタル等の運搬が困難となることがあるため、現場で掘削された土砂やその土砂に一部のコンクリートやモルタル等を混ぜて形成されていてもよい。
【0034】
次に、本発明を適用した堤体1の外壁2に用いられる鋼矢板の連接構造5の連接方法について図7図9を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
まず、図7に示すように、鋼矢板21を地盤に対して角度αの勾配を有しつつ上下方向に連接し、更に左右方向に隣接する鋼矢板21の間に連接して千鳥状配置に形成していく。ここで、角度αは、0°から90°の範囲内の角度である。これを繰り返すことにより、勾配変化部P近傍で第2下段鋼矢板62の上半分が隣接する鋼矢板21の上方に突出するように形成される。この勾配変化部P近傍で、複数の第1下段鋼矢板61を第2下段鋼矢板62の間に連接すると共にその上端が勾配変化部Pと略同じ高さになるように配置する。この第1下段鋼矢板61を連接した後、第2下段鋼矢板62の上端近傍まで外壁2、3に囲まれた堤体1の内部に充填材4を充填する。
【0036】
次に、図8に示すように、勾配変化部Pと第2下段鋼矢板62の上端の差分長さに対して屈曲部Uから下端までの長さが略同じ長さとなる屈曲鋼矢板7を第1下段鋼矢板61の間に連接する。この屈曲鋼矢板7を連接した後、第1下段鋼矢板61の上端近傍まで外壁2、3に囲まれた堤体1の内部に充填材4を充填する。
【0037】
次に、図9に示すように、第1上段鋼矢板81を屈曲鋼矢板7の間に連接すると共に勾配変化部Pで第1下段鋼矢板61の上端にその下端を連接させる。このとき、第1上段鋼矢板の下端の端面と第1下段鋼矢板の上端の端面とを当接させて、はらみ防止プレート68を、第1上段鋼矢板の下端近傍の外側面に当接させる。この第1上段鋼矢板を連接した後、屈曲鋼矢板7の上端近傍まで外壁2、3に囲まれた堤体1の内部に充填材4を充填する。更に、図4に示すように、第2上段鋼矢板82を第1上段鋼矢板81の間に連接すると共に屈曲鋼矢板7の上端にその下端を連接させて、鋼矢板の連接構造5が完成する。この第2上段鋼矢板の連接した後、第1上段鋼矢板の上端近傍まで外壁2、3に囲まれた堤体1の内部に充填材4を充填する。このように、鋼矢板21を上下左右に千鳥状配置に連接しながら、鋼矢板21が順次連接された高さまで充填材4を充填していく。
【0038】
図1に示す側面視においては、一般的な堤体は、例えば、略台形QRSTの形状をしているが、鋼矢板の連接構造5を有する堤体1は、複数の鋼矢板21を上下左右に連接しながら、略五角形QPRSTの形状となるため、略三角形PQRの領域分だけ、一般的な堤体よりも小規模に造ることができる。このため、鋼矢板の連接構造5を有する堤体1は、堤体1の外壁2の勾配を角度αから途中で変化させることができる。これにより、堤体1の大きさをより小さく、また、堤体1の総重量を減らす必要がある場合にも対応が可能となり、簡易な構造により施工費を低下させることができ、より経済的となる。
【0039】
なお、堤体1は、一般的な溝型鋼矢板による構造を示してきたが、これに限定されることなく、鋼管矢板で堤体の外壁を形成してもよい。
【0040】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたって具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0041】
1 堤体
2、3 外壁
4 充填材
5 鋼矢板の連接構造
7 屈曲鋼矢板
9 基礎コンクリート
21、21a、21b 鋼矢板
22、22a、22b ウェブ部
23、23a、23b フランジ部
24、24a、25b 継手部
25、25a、25b 凸部
61 第1下段鋼矢板
62 第2下段鋼矢板
68 はらみ防止プレート
71 上側鋼矢板
72 下側鋼矢板
73 接合部材
81 第1上段鋼矢板
82 第2上段鋼矢板
P 勾配変化部
Q 上流側の外壁の下周端
R 上流側の外壁の上周端
S 下流側の外壁の上周端
T 下流側の外壁の下周端
U 屈曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9