特許第6138570号(P6138570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138570
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】免疫調節作用を有するRNA
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/117 20100101AFI20170522BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C12N15/00 JZNA
   A61K31/7105
   A61K31/711
   A61P37/02
   A61P43/00 111
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-97037(P2013-97037)
(22)【出願日】2013年5月2日
(65)【公開番号】特開2014-217291(P2014-217291A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003912
【氏名又は名称】コンビ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】牧岡 祐子
(72)【発明者】
【氏名】牛田 一成
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/027829(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/069611(WO,A1)
【文献】 第65回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2011年 4月,p.107, 2D-07p
【文献】 J. Interferon Cytokine Res.,2010年,30 (1),p.23-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
A61K 31/7105
A61P 37/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、下記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNA
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
【請求項2】
ヒトIL−12の産生を促進する作用を有する、下記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNA
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の1本鎖RNAをコードするDNA。
【請求項4】
下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一の1本鎖RNA又は該1本鎖RNAをコードするDNAを有効成分とする、ヒトの免疫機能を調節するための組成物
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
【請求項5】
下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一に記載の1本鎖RNA又は該1本鎖RNAをコードするDNAを有効成分とし、IL−12の産生を促進するための組成物
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの免疫機能を調節する作用を有するRNAに関し、より詳しくは、IL−12等のサイトカイン等を介してヒトの免疫機能を調節する作用を有する、特定の塩基配列からなる1本鎖RNA及び当該1本鎖RNAをコードするDNAに関する。また、本発明は、前記1本鎖RNA又は前記DNAを有効成分とする、ヒトの免疫機能を調節するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫は、細菌、酵母、カビといった微生物やウィルス等による感染や腫瘍に対する防御に深く関与している。また、免疫は、加齢やストレス、疾病等により機能の低下やバランスが崩れ、アレルギー性疾患や自己免疫疾患、免疫不全状態が惹起されることも明らかとなっている。そのため、賦活化も含めた免疫機能の調節は重要である。
【0003】
インターロイキン12(IL−12)は主に単球やマクロファージ、B細胞、樹状細胞で産生され、ナチュラルキラー(NK)細胞やヘルパーT細胞の増殖を促進し、さらにこれらの細胞に作用してインターフェロンγやTNF−αの産生を促進することが知られている。また、IL−12は、細胞傷害性T細胞(CTL)及びリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞の細胞傷害活性を亢進することも明らかになっている。さらに、IL−12はナイーブT細胞を細胞性免疫を担うTh1細胞に分化させ、ひいてはアレルギーの要因であるTh2細胞の活性を抑制することも明らかになっている。このように、IL−12は賦活化も含めた免疫機能の調節において重要な役割を担っているため、感染症、がん、アレルギー性疾患、免疫不全状態、自己免疫疾患等の治療、予防又は改善への適用が期待されている。
【0004】
一方、IL−12等を産生するマクロファージや樹状細胞は、体内に侵入してきた病原微生物に存在する特有の分子パターン(Pathogen−associated molecular patterns:PAMPs)を認識する受容体(Pattern−recognition receptors:PRRs)を発現することが知られている。
【0005】
マクロファージや樹状細胞が外来微生物を認識するために、最も重要な役割を果たしているPRRsの1つに、Toll様受容体(Toll−like receptor:TLR)がある。現在、哺乳類で確認されているTLRは13種類であり、それらTLRの多くは主に細菌のPAMPsを認識することが知られており、TLRはPAMPsを認識した後、細胞質内のTIR(Toll/IL−1 receptor)からシグナルが伝達され、例えば前述の通りIL−12等のサイトカインを介して免疫系を調節することになる。
【0006】
そこで、PAMPsに着目した免疫調節物質の開発が近年行われており、本発明者らもエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)等の乳酸菌由来の1本鎖RNAにIL−12の産生を促進する作用等を含む免疫調節作用があることを見出している(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、どの1本鎖RNAに免疫調節作用があるのかは不明である。更に、どのような塩基配列が免疫調節を担っているかについても、いまだ明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/027829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒトの免疫機能を調節する作用を有する1本鎖RNAを同定することにある。さらなる本発明の目的は、同定した1本鎖RNAにおいて、いかなる塩基配列が、ヒトの免疫機能を調節する作用を担っているかを解明することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
免疫調節作用を有する1本鎖RNAを同定し、さらに、かかる1本鎖RNAにおいて、免疫調節作用を有する塩基配列を同定できれば、例えば、特定のPAMPsを認識する受容体に対する特異的なシグナル伝達を活性化することができるようになり、ひいては特定の免疫系の調節が可能となる。また、同定された塩基配列を繰り返す態様で利用することにより、免疫調節作用の強い物質を作りだすこともできる。そこで、本発明者らは、免疫調節作用を有する1本鎖RNAを同定すべく、マウス由来のマクロファージ様細胞株を用いて鋭意研究を重ねた。その結果、乳酸菌 エンテロコッカス・フェカリス種のEC−12株のRNAのうち、1本鎖RNAの1種である23S rRNAが、免疫調節において重要な役割を担っているIL−12の産生を促進する作用(IL−12産生促進能)を有することを見出した。さらに、この23S rRNAにおいて、1974〜2152位の179塩基からなるRNAがこの促進能を保持することをも見出した。また、この促進能を発揮するために必要な最小配列は、23S rRNAの2055〜2074位の塩基配列であることも明らかにした。
【0011】
しかしながら、この2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAをヒト末梢血単核球に導入したところ、該細胞においてIL−12産生能の促進は認められなかった。すなわち、マウスにおいて免疫機能を調節する作用が認められた前記2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAは、ヒトにおいては免疫機能を調節できないことが明らかになった。
【0012】
そこで、EC−12由来の成分がヒトにおいてもIL−12の産生を促進できるかどうかを評価した。その結果、EC−12由来の1本鎖RNAは、ヒトのTLR7を活性化できることが明らかになった。さらに、該1本鎖RNAにおいて、その活性化能を有するのは23S rRNAであることを見出し、またヒトのTLR7のみならず、ヒトのTLR8を活性化できることも明らかにした。さらに、EC−12由来の23S rRNAにおいて、TLR7及びヒトTLR8を活性化させ、IL−12等の産生を促進し、ひいてはヒトの免疫機能を調節できるのは、どの領域であるのかを解析した。その結果、EC−12由来の23S rRNA(配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNA)において、ヒトの免疫機能を調節する作用を有するのは、1〜411位の塩基配列からなる1本鎖RNA、1836〜1994位の塩基配列からなる1本鎖RNA及び2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNAであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1) ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、下記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNA
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
(2) ヒトIL−12の産生を促進する作用を有する、下記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNA
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
(3) (1)又は(2)に記載の1本鎖RNAをコードするDNA。
(4) 下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一の1本鎖RNA又は該1本鎖RNAをコードするDNAを有効成分とする、ヒトの免疫機能を調節するための組成物
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
(5) 下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一に記載の1本鎖RNA又は該1本鎖RNAをコードするDNAを有効成分とし、IL−12の産生を促進するための組成物
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1〜40個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1〜15個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNA。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、IL−12の産生を促進等することにより、ヒトの免疫機能を調節する、特定の塩基配列からなる1本鎖RNAを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】EC−12 23S rRNAの2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNA(23S(17))をヒト末梢血単核球(PBMC)に導入し、該細胞におけるIL−12p40タンパク質量をELISAによって測定した結果を示すグラフである。なお、23S(17)はマウス由来のマクロファージ様細胞株においてIL−12産生促進能が認められた1本鎖RNAである。また図中、「Control」はRNAを導入していないヒトPBMCの結果を示す。
図2】EC−12由来成分を添加したヒトPBMCにおけるIL−12p40タンパク質量をELISAによって測定した結果を示すグラフである。図中、「Control」はEC−12由来成分等を添加していない培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC−12」はEC−12を添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+TLR7inhibitor」はEC−12とTLR7アンタゴニストとを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+TLR9inhibitor」はEC−12とTLR9アンタゴニストとを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+TLR7,9inhibitor」はEC−12、TLR7アンタゴニスト及びTLR9アンタゴニストを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+DNase」はEC−12をDNaseにて処理したものを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+RNase」はEC−12をRNaseにて処理したものを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示し、「EC+DNase+RNase」はEC−12をDNase及びRNaseにて処理したものを添加した培地にて培養したヒトPBMCの結果を示す。また図中、「human1」及び「human2」は、上記培養に供したヒトPBMCを採取したヒトが異なることを示す。
図3】EC−12由来のRNAを添加したヒト胎児腎由来の細胞(HEK293細胞)におけるTLR7及びTLR8の活性化を、ルシフェラーゼレポーター系にて解析した結果を示すグラフである。図中、「Control」はEC−12由来のRNAを導入していないHEK293細胞の結果を示し、「P.Control」はEC−12由来の全RNAを導入したHEK293細胞の結果を示し、「23S rRNA」はEC−12由来の23S rRNAを導入したHEK293細胞の結果を示す。また、縦軸の数値は、「Control」においてルシフェラーゼレポーター系にて測定された発光値を1とした際の、各RNA導入細胞における相対値を示す。
図4】EC−12 23S rRNAの部分断片を導入したHEK293細胞におけるTLR7の活性化を、ルシフェラーゼレポーター系にて解析した結果を示すグラフである。図中、「Control」はRNAを導入していないHEK293細胞の結果を示し、「23S rRNA」は23S rRNA全長を導入したHEK293細胞の結果を示し、「1−411」等は23S rRNAの部分断片を導入したHEK293細胞の結果を示す。また「1−411」等の数値範囲は、HEK293細胞に導入した部分断片の23S rRNAにおける位置を示す(図中の表記については、図5及び6においても同じ)。
図5】EC−12 23S rRNAの部分断片を導入したHEK293細胞におけるTLR8の活性化を、ルシフェラーゼレポーター系にて解析した結果を示すグラフである。
図6】EC−12 23S rRNAの部分断片を導入したHEK293細胞におけるTLR7及びTLR8の活性化を、ルシフェラーゼレポーター系にて解析した結果を示すグラフである。
図7】EC−12 23S rRNAの部分断片をヒトPBMCに導入し、該細胞におけるIL−12p40タンパク質量をELISAによって測定した結果を示すグラフである。図中、「Control」はRNAを導入していないヒトPBMCの結果を示し、「23S(11)」等は23S rRNAの部分断片を導入したヒトPBMCの結果を示す。また、ヒトPBMCに導入した部分断片、23S(11)等については表2を参照のこと。さらに、縦軸の数値は、「Control」におけるIL−12p40タンパク質量を1とした際の、各RNA導入細胞における相対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
後述の実施例において示す通り、本発明者らによって、乳酸菌 エンテロコッカス・フェカリス種に属するEC−12株の23S rRNAが、ヒトTLR7及びヒトTLR8を活性化し、さらに転写因子であるNF−κB等を活性化することにより、IL−12等のサイトカインの産生を促進し、ひいては免疫機能を調節することが見出された。さらに、この2909塩基(配列番号:1に記載の塩基配列)からなる23S rRNAにおいて、このIL―12産生促進能等を有するのは、1〜411位の塩基配列(配列番号:2に記載の塩基配列)からなる1本鎖RNA、1836〜1994位の塩基配列(配列番号:3に記載の塩基配列)からなる1本鎖RNA及び2085〜2104位の塩基配列(配列番号:12に記載の塩基配列)からなる1本鎖RNAであることが明らかになった。
【0017】
従って、本発明は、ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、下記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNAを提供する。
(a)配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列、又は該配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(b)配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列、又は該配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA
(c)配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列、又は該配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA。
【0018】
また、本発明は、ヒトIL−12の産生を促進する作用を有する、前記(a)〜(c)のうちのいずれか一に記載の1本鎖RNAを提供する。
【0019】
本発明において、「IL−12」(インターロイキン−12、Interleukin−12)は、IL−12p40(IL−12B)、IL−12p35(IL−12A)、及びこれらからなるヘテロダイマー IL−12p70であってもよいが、これらの中ではIL−12p40が好ましい。また、ヒト由来の典型的なIL−12p40としては、RefSeq ID:NP_002178.2(NM_002187.2)で特定される蛋白質(遺伝子)が挙げられ、ヒト由来の典型的なIL−12p35としては、RefSeq ID:NP_000873.2(NM_000882.2)で特定される蛋白質(遺伝子)が挙げられる。しかしながら、蛋白質のアミノ酸配列は、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得る。従って、本発明において、前記タンパク質にはこのような天然の変異体も含まれる。
【0020】
本発明において、「ヒトIL−12の産生」とは、ヒトIL−12タンパク質自体の産生のみならず、当該タンパク質をコードする遺伝子の発現を含む概念である。「ヒトIL−12の産生の促進」とは、ヒトIL−12を産生していない状態にある対象を前記因子を産生している状態に変化させること、並びに既にヒトIL−12を産生している対象におけるヒトIL−12の産生量を亢進させることを含む概念である。
【0021】
本発明において、かかる「ヒトの免疫機能を調節する作用」、「ヒトIL−12の産生を促進する作用」等は、後述の実施例において示す通り、TLR7及び8の受容体の活性化に起因し、細胞内シグナル伝達経路を介して、転写因子であるNF−κB等を活性化することによって奏される作用である。
【0022】
TLR7及びTLR8は、マクロファージや樹状細胞が外来微生物を認識するための受容体、Toll様受容体(Toll−like receptor:TLR)の1種であり、細胞内エンドソームに発現し、ウィルス由来の1本鎖RNA等を認識する受容体である。
【0023】
本発明において、ヒトTLR7の典型例としては、RefSeq ID:NP_057646.1(NM_016562.3)で特定される蛋白質(遺伝子)が挙げられる。また、ヒトTLR8の典型例としては、RefSeq ID:NP_619542.1(NM_138636.3)で特定される蛋白質(遺伝子)が挙げられる。しかしながら、蛋白質のアミノ酸配列は、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得る。従って、本発明において、ヒトTLR7及びヒトTLR8にはこのような天然の変異体も含まれる。
【0024】
また、NF−κBは、かかるTLR7又はTLR8の活性化によりシグナル伝達を介し活性化される転写因子であり、IL−12等のサイトカインの産生を促進する。
【0025】
本発明において、ヒトNF−κBの典型例として、RefSeq ID:NP_003989.2(NM_003998.2)で特定される蛋白質(遺伝子)が挙げられる。しかしながら、蛋白質のアミノ酸配列は、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得る。従って、本発明において、ヒトNF−κBには、このような天然の変異体も含まれる。
【0026】
本発明において、「免疫機能を調節する作用」とは、本発明の1本鎖RNAを摂取したヒトの免疫機能を賦活化させて免疫機能の低下を抑制することのみならず、アレルギー反応のような過度に亢進した免疫機能を抑制し、ひいては免疫機能のバランスを調節する作用を意味する。
【0027】
本発明において、「RNA」は、天然又は非天然由来のものとすることができる。天然に存在する状態のRNAとは、特定のリボヌクレオチド単位のポリマーであって、各リボヌクレオチド単位がプリン又はピリミジン塩基、及びリボース糖で構成され、ヌクレオチド間がホスホジエステル結合によって連結されたもの(核酸)を意味する。また、本発明において、「1本鎖RNA」は、相補的RNAと塩基対(二重らせん構造)を形成していないRNAのことを言う。
【0028】
なお、生体内等における分解の抑制等の観点から、本発明のRNAは、IL−12の産生を促進できる限り、その一部又は全部が非天然型のリボヌクレオチド単位となっていてもよい。また、ヌクレオチド間の結合の一部又は全部が非天然型の結合によって連結されていてもよい。
【0029】
本発明にかかる「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列」における「複数」とは、IL−12の産生を促進できる範囲における置換等される塩基の個数であり、好ましくは置換等される塩基配列における30%以下の個数、より好ましくは該塩基配列における20%以下の個数、さらに好ましくは該塩基配列における10%以下の個数である。すなわち、配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列において置換等される塩基の好ましい個数は120塩基以下であり、より好ましい個数は80塩基以下であり、さらに好ましい個数は40塩基以下(例えば、20塩基以下、10塩基以下、7塩基以下、5塩基以下、2塩基)である。配列番号:1に記載の1836〜1994位の塩基配列において置換等される塩基の好ましい個数は45塩基以下であり、より好ましい個数は30塩基以下であり、さらに好ましい個数は15塩基以下(例えば、10塩基以下、7塩基以下、5塩基以下、2塩基)である。配列番号:1に記載の2085〜2104位の塩基配列において置換等される塩基の好ましい個数は6塩基以下であり、より好ましい個数は4塩基以下であり、さらに好ましい個数は2塩基である。
【0030】
「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA」等のIL−12産生促進能は、置換等される前の「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列からなる1本鎖RNA」等のIL−12産生促進能と比較して、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、100%以上、200%以上、300%以上)である。
【0031】
1本鎖RNAのIL−12産生促進能は、例えば後述の実施例に示す通り、「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列からなる天然型の1本鎖RNA」等を特定の細胞(例えば、ヒト末梢血単核球)に導入し、導入してから一定時間(例えば、48時間)経過時までにおいて該細胞から該細胞の培養液中に放出、蓄積されたIL−12p40の量と、「配列番号:2に記載の1〜411位の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA」等によるそれとを比較することにより評価することができる。
【0032】
また、「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA」等のTLR7又はTLR8の活性化能は、置換等される前の「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列からなる1本鎖RNA」等のTLR7又はTLR8の活性化能と比較して、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上(例えば、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上)である。
【0033】
1本鎖RNAのTLR7又はTLR8の活性化能は、例えば後述の実施例に示すような以下の方法にて評価することができる。すなわち、先ず、特定の細胞(例えば、HEK293細胞)に、TLR7又はTLR8をコードするベクターと、レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)及びその上流にNF−κBの応答配列を有するベクターとを導入する。そして、かかるレポーター系が導入された細胞に「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列からなる天然型の1本鎖RNA」を導入し、導入してから一定時間(例えば、15時間)経過した後の細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する。かかる発現量はレポーター遺伝子がルシフェラーゼであれば、発光基質を添加することによて生じる発光値として測定することもできる。そして、このようにして測定された発現量と、「配列番号:2に記載の1〜411位の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA」等によるそれとを比較することにより評価することができる。
【0034】
本発明の1本鎖RNAの製造は、例えば後述の実施例において示すように、T7RNAポリメラーゼによるインビトロ転写を利用する方法によって調製することができる。かかる方法においては、例えば、T7プロモーターの下流にEC−12株の23S rRNAの1〜411位等をコードするDNAを挿入したベクターを用いることにより、本発明の「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列からなる1本鎖RNA」等を得ることができる。また、前記1〜411位等をコードするDNA部分に、部位特異的変異誘発(site−directed mutagenesis)法(Kramer,W.&Fritz,HJ.,Methods Enzymol,1987,154,350.)等によって塩基の変異が導入されたベクターを用いることにより、本発明の「配列番号:1に記載の1〜411位の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加した塩基配列からなる1本鎖RNA」等を得ることができる。
【0035】
本発明の1本鎖RNAの製造においては、当業者であれば、従来から用いられている化学合成法を適宜採用することもできる。かかる方法としては、例えば、2’−水酸基に保護基(例えば、2’−O−ブチルジメチルシリル(2’−tBDMS)、2’−O−トリイソプロピルシリルオキシメチル(2’−TOM)、2’−ACE(5’−シリル−2’−アセトキシエトキシ)を導入したリボヌクレオチドを用いた、ホスホロアミダイト法又はH−ホスホネート法が挙げられる。
【0036】
また、本発明の1本鎖RNAは、生体内で合成されてもよい。すなわち、本発明の1本鎖RNAをコードするDNAを、細胞等に導入して、細胞の内因性のRNAポリメラーゼにより細胞内で転写され、本発明の1本鎖RNAが合成されるようにすることもできる。さらに、前述の通り、インビトロにおいても、本発明の1本鎖RNAをコードするDNAから、T7RNAポリメラーゼ等によって転写されることにより、本発明の1本鎖RNAを合成することもできる。従って、本発明の1本鎖RNAをコードするDNAも本発明は提供することができる。
【0037】
本発明の1本鎖RNAをコードするDNAとしては、インビボ(in vivo)、エクスビボ(ex vivo)又はインビトロ(in vitro)において本発明の1本鎖RNAを転写させるため、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、ターミネーター、ポリAテール等の調節領域を含む発現カセットであることが好ましい。また、かかるプロモーター等としては、例えば、上流域制御要素(UCE)、コアプロモーターエレメント(CPE)、基本転写因子蛋白質(TFII)によって制御されるプロモーター等、T7プロモーターが挙げられる。さらに、本発明の1本鎖RNAをコードするDNAの態様としては、前記発現カセットを含むベクターが挙げられる。かかるベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクターが挙げられる。
【0038】
本発明の1本鎖RNA又は本発明の1本鎖RNAをコードするDNAは、その他の成分を含む組成物(例えば、試薬、医薬、飲食品等の組成物)として調製することができる。
【0039】
本発明の1本鎖RNAによって産生が促進されるIL−12は、ナチュラルキラー(NK)細胞やヘルパーT細胞の増殖を促進し、さらにこれらの細胞に作用してインターフェロンγ(IFN−γ)やTNF−αの産生を促進させることにより、細胞傷害活性を誘導することが知られている。従って、本発明の1本鎖RNAは、IL−12の産生の促進等を介して、免疫機能を調節することもできる。
【0040】
また、この免疫機能の調節作用に基づき、本発明の1本鎖RNAは、例えば、ウィルスや細菌等による感染症、がん、アレルギー性疾患(例えば、喘息、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症)、免疫不全状態(例えば、重症複合免疫不全症(SCID)、X連鎖無γグロブリン症、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染症、臓器移植等における免疫抑制剤の投与、放射線照射)、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、クローン病、膠原病、潰瘍性大腸炎、乾癬、多発性筋炎)、創傷・褥瘡等の治療又は予防に際して用いられる医薬組成物として、また、これら疾患の予防又は改善のための飲食品(動物用飼料を含む)に適用することができる。
【0041】
さらに、本発明の1本鎖RNA又は本発明の1本鎖RNAをコードするDNAを感作させることによって、活性化させた免疫担当細胞を含む、免疫細胞療法に用いられる医薬組成物としても利用することができる。
【0042】
また、本発明の1本鎖RNAは、その免疫賦活化作用に基づき、アジュバント(抗原性補強剤)として利用することもできる。例えば、病原体やがん等に由来するペプチド、タンパク質、核酸、糖(例えば、LPS)、又は弱毒化病原体等の各種抗原(細菌抗原、ウィルス抗原、がん抗原)と混合することにより、ワクチン組成物としての態様をとることもできる。さらに、上記作用や機能を有する研究用の試薬に適用することもできる。
【0043】
本発明の1本鎖RNA又は本発明の1本鎖RNAをコードするDNAを含む組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経口的または非経口的に使用することができる。
【0044】
これら製剤化においては、薬理学上若しくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0045】
製剤化等に際し、マクロファージや樹状細胞等への送達及び取り込みにより適するという観点から、カチオン性リポソーム等の正電荷を持つキャリアーとの複合体を形成させてもよい。
【0046】
さらに、マクロファージや樹状細胞等への送達及び取り込みにより適し、生体内等におけるヌクレアーゼによる分解を回避するという観点から、製剤化等に際し、本発明の1本鎖RNAに親油性の物質を付加してもよい。かかる親油性の物質としては、例えば、コレステロール及びその誘導体、脂質(糖脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質等)、ビタミンE(トコフェロール)等のビタミン類が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、食品添加物、あるいは動物用飼料であり得る。本発明の飲食品は、上記のような組成物として摂取することができる他、種々の飲食品として摂取することもできる。飲食品の具体例としては、食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン等の油分を含む製品;スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料等の液状食品;飯類、麺類、パン類等の炭水化物含有食品;ハム、ソーセージ等の畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛等の水産加工食品;漬物等の野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルト等の半固形状食品;みそ、発酵飲料等の発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓等の各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープ等のレトルト製品;インスタントスープ,インスタントみそ汁等のインスタント食品や電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。なお、本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。また、当該飲食品においては、他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0048】
本発明の組成物の対象はヒトであればよく、健常者であっても、前述の感染症、がん、アレルギー性疾患等を罹患しているヒトであってもよい。
【0049】
本発明にかかる組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(例えば、医薬品、飲食品)等に応じて、適宜選択されるが、本発明にかかる組成物の有効摂取量は、RNA換算で1μg/kg/日〜10mg/kg/日であることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
また、後述のEC−12とは、エンテロコッカス・フェカリス EC−12株(Enterococcus faecalis EC−12)のことであり、平成17年(2005年)2月25日(原寄託日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託されており、受託番号は「FERM BP−10284」である。さらに、EC−12由来の1本鎖RNAがマウスにおいてIL−12の産生を促進する作用等を有していることは、本発明者らにより既に明らかになっている(国際公開第2011/027829号)。
【0052】
(比較例1)
<哺乳動物の免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来RNAの特定>
前記の通り、EC−12由来の1本鎖RNAがマウスにおいてIL−12の産生を促進する作用等を有していることは明らかになっている。そこで、本発明者らは、どのような配列からなる1本鎖RNAがかかる免疫調節作用を有しているのかを、マウス由来のマクロファージ様細胞株を用い、該細胞におけるIL−12産生能を指標として解析した。
【0053】
その結果、EC−12のRNAのうち、1本鎖RNAの1種である23S rRNAがIL−12産生促進能を有することを見出し、さらに、この23S rRNAにおいて、1974〜2152位の179塩基からなるRNAがこの促進能を保持することをも見出した。そして、この促進能を発揮するために必要な最小配列は、23S rRNAの2055〜2074位の塩基配列(配列番号:10に記載の塩基配列)であることも明らかにした。
【0054】
次に、前記2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAによる、ヒト末梢血単核球における免疫調節作用を評価した。なお、評価は、後述の実施例3に記載の方法と同様の方法にて行った。得られた結果を図1に示す。
【0055】
図1に示した結果から明らかなように、コントロール(RNA非導入ヒト末梢血単核球)と比較して、前記2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNA(23S(17))を導入したヒト末梢血単核球において、IL−12産生能の有意な向上は認められなかった。
【0056】
従って、マウスにおいて免疫機能を調節する作用が認められた前記2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAは、ヒトにおいては免疫機能を調節できないことが明らかになった。
【0057】
(試験例1)
<ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来成分の特定>
前述の通り、マウスにおいてIL−12の産生を促進する作用を有する、EC−12の23S rRNAの2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAは、ヒトにおいてはその作用が認められなかった。
【0058】
そこで、EC−12においてヒトの免疫機能を調節する作用を有する成分は存在するのか、さらにはEC−12のどのような成分が該調節作用を担うのかを、以下に示す方法にて調べた。
【0059】
<ヒト末梢血単核球の調製>
先ず、ヒトの血液をPBSで2倍希釈し、パーコール(比重:1.077g/mL)に重層した。遠心分離した後、中間層を末梢血単核球(PBMC)として回収し、PBSにて洗浄した。次いで、ACK溶解緩衝液にて残りの赤血球を除去した後、再度PBSにて洗浄した。次に、このようにして調製したPBMCの生細胞数を計測し、96穴プレートに3x10細胞/穴になるよう、RPMI1640培地(L−グルタミン、10%ウシ胎児血清、50U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン含有)に播種し、COインキュベーター内で2〜3時間静置した。なお、このようにしてヒト2名の血液からヒトPBMCを各々調製した。
【0060】
<ヒトPBMCへの添加用EC−12の調製>
前記ヒトPBMCに添加するため、EC−12を次のように処理した。EC−12(コンビ株式会社製)を、RPMI1640培地(L−グルタミン、10%ウシ胎児血清、50U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン含有)に10mg/mLとなるように添加し、37℃、30分間処理し、前記ヒトPBMCに添加するための菌体懸濁液を調製した。また、EC−12を、20units/mLのRNase free DNase I(Roche社製)及び/又は0.1mg/mLのRNase A(Invitrogen社製)で37℃、30分間処理し、前記ヒトPBMCに添加するための、ヌクレアーゼ処理済み菌体懸濁液を調製した。そして、それら菌体懸濁液をRPMI1640培地(L−グルタミン、10%ウシ胎児血清、50U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン含有)で希釈し、200μg/mlとなるように調整した。
【0061】
<EC−12由来の成分存在下でのヒトPBMCの培養>
前記の通りに調製した添加用EC−12をEC−12の終濃度が100μg/mLになるよう、前記ヒトPBMCに添加し、COインキュベーター内で48時間培養した。
【0062】
また、前記EC−12由来成分の他、TLR7阻害剤(TLR7アンタゴニスト)及び/又はTLR9阻害剤(TLR9アンタゴニスト)の存在下においてもヒトPBMCの培養を行った。
【0063】
なお、TLR7及びTLR9のアンタゴニストとして、ホスホロチオエート化(S化)した合成オリゴヌクレオチド(ODN)を用いた(Barrat,F.J.et al.J.Exp.Med.2005,202(8):1131−9 参照)。すなわち、TLR7のアンタゴニストとしてIRS661、TLR9のアンタゴニストとしてIRS869を使用した。各合成ODNの配列を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
ヒトPBMCを96穴プレートに播種する際に、IRS661を5.6μM、IRS869を0.7μMになるよう各々ヒトPBMCに添加し、COインキュベータ内で培養した。その後、前記同様にEC−12由来成分を更に添加し、COインキュベーター内で48時間培養を行った。
【0066】
また、コントロール(陰性対照)として、EC−12由来成分等、何も添加しないで培養したヒトPBMCも調製した。
【0067】
<ELISA>
前記48時間培養後の細胞培養上清中のIL−12p40タンパク質の濃度を、IL−12p40 ELISAキット(Biolegend社製)を用いて測定した。なお、測定の手順はキット添付のプロトコールに準拠した。得られた結果を図2に示す。
【0068】
図2に示す通り、ヒトPBMCにおいても、EC−12由来の成分はIL−12の産生を促進できることが明らかになった。また、その産生促進作用は、DNaseにて処理しても又TLR9アンタゴニスト存在下にて培養しても、有意に抑制されなかった。一方、RNaseにて処理することによって又はTLR7アンタゴニスト存在下にて培養することによって、EC−12由来成分のヒトIL−12の産生能は有意に抑制されることが明らかになった。
【0069】
以上の結果から、TLR7のリガンドは一本鎖RNAであることも併せ鑑みるに、EC−12由来成分において、ヒトIL−12の産生を促進することができるのは、1本鎖RNAであることが明らかになった。
【0070】
(試験例2)
<ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来RNAの特定>
ヒトの免疫機能を調節する作用を有するEC−12の1本鎖RNAの配列を特定するために、EC−12から全RNA、23S rRNAを抽出、精製し、ヒト胎児腎由来の細胞(HEK293細胞)に対するTLR7又はTLR8に対する活性化能を、以下に示す方法にて評価した。
【0071】
なお、TLR8もTLR7同様に1本鎖RNAをリガンドとすることが明らかになっている。さらに、TLR7及びTLR8に関しては、リガンドが結合することによって活性化され、活性化されたTLR7及びTLR8は、細胞内シグナル伝達経路を介して、転写因子であるNF−κB等を活性化することにより、IL−12等のサイトカインの産生を促進し、ひいては免疫機能を調節することが明らかになっている。
【0072】
<EC−12からの全RNA抽出>
EC−12からの全RNA(totalRNA)抽出にはクイックジーンRNA組織キットSII(QuickGene RNA tissue kit SII、KURABO社製)を用いた。抽出処理はクイックジーン−ミニ80(QuickGene−Mini80、KURABO社製)を用い、キット添付のプロトコールに準拠して行った。
【0073】
<23S rRNAの抽出>
前記方法にて抽出した全RNAを1.5%アガロースゲル(TBEバッファー)にて電気泳動を行い、目的のバンド(23S rRNA:2909塩基)を切り出し、QIAクイックゲル抽出キット(QIAquick Gel Extraction Kit、QIAGEN社製)を用いて精製した。なお、精製の手順はキット添付のプロトコールに準拠した。
【0074】
<ルシフェラーゼアッセイ>
先ず、HEK293細胞を白色96穴プレートに2x10細胞/穴になるよう播種し、COインキュベーター内で一晩静置した。また、ルシフェラーゼアッセイ用ベクター、pGL4.32[luc2P/NF−κB−RE/Hygro](プロメガ社製)180ngと、pUNO1−hTLR07(Invivogen社製)420ng又はpUNO1−hTLR08(Invivogen社製)420ngと、94μLのOPTI−MEM(Invitrogen)とを混合し、更にトランスフェクション試薬(Roche社製、製品名:FuGENE HD)6μLを添加して混合した後、10分間室温にて静置した。
【0075】
次に、このようにして調製したルシフェラーゼアッセイ用ベクターとトランスフェクション試薬との混合液を、前記HEK293細胞に、各穴5μLずつ添加し、COインキュベーター内で一晩静置した。
【0076】
また、前記全RNA又は23S rRNA5μgをOPTI−MEM100μLに添加し、更にFuGENE HD6μLを添加して、混合した後、10分間室温にて静置した。そして、このようにして調製したRNAとトランスフェクション試薬との混合液を、前記ルシフェラーゼアッセイ用ベクターが導入されたHEK293細胞に、各穴10μLずつ添加し、COインキュベーター内で15時間静置した。さらに、コントロール(陰性対照)として、前記ルシフェラーゼアッセイ用ベクターは導入されているが、EC−12由来のRNAは導入されていないHEK293細胞も調製した。
【0077】
その後、96穴プレートを1時間室温にて静置し、細胞を室温に戻した。次いで、ルシフェラーゼ発光基質(プロメガ社製、Bright−Glo Luciferase Assay System)を添加した後、プレートリーダー(パーキンエルマー社製、製品名:AROVO X3)にて各ウェルの発光値を測定した。得られた結果を図3に示す。
【0078】
図3に示した結果から明らかなように、試験例1に記載の結果同様に、全RNAを導入することによってHEK293細胞においてNF−κBによる転写の活性化、すなわちTLR7又はTLR8の活性化が認められた(図3の「P.Control」参照)。さらに、図3の「23S rRNA」に示す通り、これらの活性化は23S rRNAによって誘導されていることが明らかになった。
【0079】
(実施例1)
<ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来23S rRNAの特定1>
EC−12の23S rRNAにおいて、ヒトの免疫機能を調節する作用を有するのはどの部位であるのかを特定するために、該23S rRNAを400塩基毎に分割し、これら1本鎖RNAについてヒトTLR7及びヒトTLR8の活性化能を評価した。
【0080】
<EC−12からのDNA抽出>
EC−12からのDNA抽出にはクイックジーンDNA組織キットS(QuickGene DNA tissue kit S、KURABO社製)を用いた。抽出処理にはQuickGene−Mini80を用い、キット添付のプロトコールに準拠した。
【0081】
<ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)>
PCRにはKOD FX neo(TOYOBO社製)を使用した。なお、反応溶液の組成はKOD FX neo(1U/μl)0.75μl、2×PCR Buffer forKOD FX neo12.5μl、2mM dNTP5μl、10μMのプライマーセット1.5μl、滅菌蒸留水3.25μl、鋳型(ゲノム)0.5μlの合計25μlとした。なお、これらプライマーセットは、23S rRNAをコードするDNAにおいて、1〜411位の塩基からなる部位、351〜738位の塩基からなる部位、699〜1148位の塩基からなる部位、1084〜1522位の塩基からなる部位、1501〜1856位の塩基からなる部位、1836〜2152位の塩基からなる部位、2133〜2530位の塩基からなる部位及び2511〜2909位の塩基からなる部位を各々増幅できるよう設計して合成したものである。
【0082】
これらプライマーセットを用いたPCR反応は、94℃で2分間の初期変性後、98℃で10秒間の熱変性、52℃で30秒間のアニーリング反応、68℃で20秒間の伸長反応を30サイクル行い、72℃で3分間の最終伸長反応を行った後、増幅産物を4℃に冷却した。そして、反応終了後、0.01%の臭化エチジウム入りの1.0%アガロースゲル(TAEバッファー)にて電気泳動を行い、目的のPCR産物の増幅を分子量から確認した。得られたPCR産物はQIAquick Gel Extraction kit(Qiagen)を用いてアガロースゲルから回収、精製し、下記ライゲーションに供した。
【0083】
<PCR産物からのクローニング及びプラスミド抽出>
前記にて精製したPCR産物(DNA)をpCR−BluntII−TOPOに組み込んだ。かかるライゲーションの反応液の組成は、pCR−BluntII−TOPO1μl、Salt Solution1μl、滅菌蒸留水1.5μl、PCR産物2.5μlとし、反応液を室温で5分間インキュベートした。その後、大腸菌(NEB Turbo Competent E.coli(BioLabs社製))にヒートショック法にてライゲーション産物を導入し、形質転換を行った。次いで、このようにして得られた大腸菌を含カナマイシン50μg/mlLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。なお、以下の実験は50μg/mlカナマイシンを添加した培地にて行った。
【0084】
また、陽性クローンの選抜はコロニーPCRによるインサートチェックにて行った。すなわち、2×GoTaq(R)Green Master Mix10μl、10μMプライマー各1μl、滅菌蒸留水8μlにて全量20μlに調製したPCR反応溶液に、滅菌済イエローチップで採取したコロニーの一部を懸濁し、増幅反応を行った。また、プライマーとしては、T7プロモーター配列をセンスプライマー(M13Forward)とし、各々の領域を増幅する際に用いたリバースプライマーをアンチセンスプライマーとして用いた。反応は、94℃で3分間の初期変性後、94℃で30秒間の熱変性、53℃で30秒間のアニーリング反応、72℃で30秒間の伸長反応を25サイクル行い、72℃で3分間の最終伸長反応を行った後、増幅産物を4℃に冷却した。そして、このようにして得られた増幅産物を1.0%アガロースゲル(TAEバッファー)にて電気泳動を行い、陽性クローンを選抜した。得られた陽性クローンを、含カナマイシンLB液体培地5mlに植菌し、37℃で8時間培養した。そして、増菌した陽性クローンからミニプラスプラスミド抽出システム(Mini Plus(TM)PlasmidDNA Extraction System、VIOGENE社製)を用いてプラスミドDNAの抽出を行った。なお、抽出の手順はキット添付のプロトコールに準拠した。
【0085】
<制限酵素処理>
制限酵素salI、SpeI、BamHI(TOYOBO社製)を用いて、前記にて抽出したプラスミドDNAの制限酵素処理を行った。反応溶液の組成は各制限酵素2μl、10×Hバッファー又は10×Mバッファー2μl、プラスミドDNA16μlの合計20μlとし、反応を37℃にて2時間から一晩行った。
【0086】
<プロテナーゼK処理及び精製>
反応終了後の制限酵素反応液に、プロテナーゼKを最終濃度100μg/ml、SDSを最終濃度0.5%となるように添加し、反応を37℃にて30分間行った。次いで、等量のフェノール/クロロホルムを加え1分間ボルテックスした後、室温にて、15,000rpmで5分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を1.5ml微量遠心チューブに回収し、1/10量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールとを加えてエタノール沈殿を行った。軽く攪拌した後に、4℃、15,000rpmで5分間遠心分離後、上清を除去し、2.5倍量の80%エタノールを加えて洗浄した。次いで、軽く攪拌した後に、4℃、15,000rpmで5分間遠心分離後、上清を除去し、回収したDNAをRNaseフリーの水50μlに溶解した。
【0087】
<インビトロ転写>
前記にてプロテナーゼK処理及び精製したDNAを鋳型として、インビトロ転写(in vitro Transcription)T7キット(Takara社製)を用いてRNAを合成した。反応溶液の組成は10×転写バッファー(Transcription Buffer)2μl、ATP溶液2μl、GTP溶液2μl、CTP溶液2μl、UTP溶液2μl、RNase阻害剤0.5μl、T7RNAポリメラーゼ2μl及びDNA 100ngに、RNaseフリーdHOを加え、全量20μlとした。そして、反応を42℃にて120分間行った。
【0088】
<DNase処理及び精製>
RNaseフリーDNaseI(Takara社製)を用いて、前記にて合成したRNAのDNase処理を行った。15U/20μl反応液となるようにRNaseフリーDNaseIを混和し、37℃にて30分間インキュベートを行った。DNase処理後、MEGAclear(TM)Kitを用いて精製した。なお、精製の手順はキット添付のプロトコールに準拠した。
【0089】
<ルシフェラーゼアッセイ>
先ず、ルシフェラーゼアッセイ用ベクターを導入したHEK293細胞を前記同様に調製した。また、前述のインビトロ転写にて調製した1本鎖RNA5μgをOPTI−MEM100μLに添加し、更にFuGENE HD6μLを添加して、混合した後、10分間室温にて静置した。そして、このようにして調製したRNAとトランスフェクション試薬との混合液を、前記HEK293細胞に、各穴10μLずつ添加し、COインキュベーター内で15時間静置した。さらに、コントロール(陰性対照)として、前記ルシフェラーゼアッセイ用ベクターは導入されているが、RNAは導入されていないHEK293細胞も調製した。
【0090】
その後、96穴プレートを1時間室温にて静置し、細胞を室温に戻した。次いで、ルシフェラーゼ発光基質を添加した後、AROVO X3にて各ウェルの発光値を測定した。TLR7の活性化能の有無を調べた結果を図4に、TLR8の活性化能の有無を調べた結果を図5に示す。
【0091】
図4及び5に示す通り、EC−12由来の23S rRNAにおいて、1〜411位の塩基からなる1本鎖RNAと、1836〜2152位の塩基からなる1本鎖RNAとが、ヒトTLR7及びヒトTLR8の活性化能を有していることが明らかになった。
【0092】
(実施例2)
<ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来23S rRNAの特定2>
実施例1において、ヒトTLR7及びヒトTLR8の活性化能を有していることが明らかになった、前記1836〜2152位の塩基からなる1本鎖RNAを、更に2分割し、これら1本鎖RNAについてヒトTLR7及びヒトTLR8の活性化能を評価した。
【0093】
なお、本評価は、前記実施例2同様に、インビトロ転写にて調製したRNAを、ルシフェラーゼアッセイ用ベクターを導入したHEK293細胞に導入し、発光値を測定することにより行った。得られた結果を図6に示す。
【0094】
図6に示した結果から明らかなように、EC−12由来の23S rRNAにおいて、1947〜2152位の塩基からなる1本鎖RNAが、ヒトTLR7及びヒトTLR8の高い活性化能を有していることが明らかになった。また、該1本鎖RNAよりは劣るものの、EC−12由来の23S rRNAにおいて、1836〜1994位の塩基からなる1本鎖RNAもかかる活性化能を有していることが明らかになった。
【0095】
(実施例3)
<ヒトの免疫機能を調節する作用を有する、EC−12由来23S rRNAの特定3>
実施例2において、ヒトTLR7及びヒトTLR8の活性化能を有していることが明らかになった、前記1947〜2152位の塩基からなる1本鎖RNAを、更に13分割し、これら1本鎖RNAについて、ヒトIL−12産生の促進能を、以下に示す方法にて評価した。
【0096】
先ず、表2に示す通り、EC−12由来23S rRNAの1965〜2164位の塩基配列を、互いに5塩基ずつ重なり合うようにして13個に分けた。そして、これら塩基配列に基づき、20塩基からなる1本鎖RNAを株式会社ジーンデザインに委託して化学合成した。
【0097】
【表2】
【0098】
次に、前記20塩基からなる各1本鎖RNA500pmolを50μLのOPTI−MEM培地に添加した。そして、別チューブ内にてsiRNA用トランスフェクション試薬(Invitrogen社製、製品名:RNAiMAX)3μLと50μLのOPTI−MEM培地とを混合したものに、添加し、混合して、室温にて15分間静置した。
【0099】
そして、このように調製した1本鎖RNAとトランスフェクション試薬との混合液を、前記同様に調製したヒトPBMCを播種したプレートに各穴20μLずつ添加した後、COインキュベーター内で48時間静置した。次いで、培養上清を回収し、IL−12p40 ELISAキットを用いてIL−12p40タンパク質の濃度を測定した。得られた結果を図7に示す。
【0100】
図7に示す通り、EC−12由来23S rRNAの1965〜2164位の塩基配列において、IL−12促進能を有している1本鎖RNAは、該23S rRNAの2085〜2104位の塩基配列からなるものであることが明らかになった(図中、23S(19) 参照)。また、この評価においても、マウスの免疫機能を調節する作用を有する2055〜2074位の塩基配列からなる1本鎖RNAは、ヒトにおいては免疫機能を調節できないことが確認された(図中、23S(17) 参照)。さらに、図には示さないが、前記同様にルシフェラーゼアッセイにて、該23S rRNAの2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNAのヒトTLR8の活性化能を評価したところ、コントロール(RNA非導入細胞)と比較して、約3倍(2.68〜3.45倍)であることが明らかになった。
【0101】
従って、以上の結果から、EC−12由来の23S rRNA(配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNA)において、ヒトの免疫機能を調節する作用を有するのは、1〜411位の塩基配列からなる1本鎖RNA、1836〜1994位の塩基配列からなる1本鎖RNA及び2085〜2104位の塩基配列からなる1本鎖RNAであることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、ヒトIL−12の産生促進等を可能とする特定の塩基配列からなる1本鎖RNAを提供することが可能となる。
【0103】
したがって、本発明の特定の塩基配列からなる1本鎖RNAは、TLR7及びTLR8の活性化、それによって促進されるIL−12の産生等を介し、ヒトの免疫機能を調節することができるため、ウィルスや細菌等による感染症、がん、アレルギー性疾患、免疫不全状態、自己免疫疾患、創傷・褥瘡等の治療、改善又は予防において有用である。また、本発明の1本鎖RNAは、各種抗原(細菌抗原、ウィルス抗原、がん抗原)を含有するワクチンのアジュバントとしても有効に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号:17及び18
<223> 免疫調節能を有するDNAの配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]