(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138601
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】真空遮断器用電極及びそれを用いた真空バルブ
(51)【国際特許分類】
H01H 33/664 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
H01H33/664 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-124290(P2013-124290)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2015-1999(P2015-1999A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年11月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】富安 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】白井 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 将人
【審査官】
澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公開第02002177(GB,A)
【文献】
特開2000−208009(JP,A)
【文献】
特開2003−086067(JP,A)
【文献】
特開2003−100184(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/052992(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/664
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形導体の軸方向に対して異なる角度で傾斜する第1スリットおよび第2スリットを前記円筒形導体の側面に複数個備え、
前記第1スリットと前記第2スリットのうち、それぞれの先端が最も近接する関係にある第1スリットと第2スリットは、軸方向にオーバーラップするように不連続であり、
それぞれのスリットと前記円筒系導体の軸方向との角度は、前記第1スリットよりも接点電極から遠い前記第2スリットの方が小さいことを特徴とする真空遮断器用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の真空遮断器用電極を搭載することを特徴とした真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空バルブに係わり,特に,磁場発生用コイルを有する真空遮断器用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
真空遮断器は受配電系統に配置される機器であり,必要に応じて特定箇所を電力系統から切り離す役割を果たすものである。特に,事故時には数千から数万アンペアの電流を遮断する責務を負う。
【0003】
真空遮断器は,真空容器内部に配置された一対の接点電極を接離することにより,電流を投入または遮断するものであり,接点電極端面に垂直な磁場(以下,縦磁場という)を印加することによって,電流遮断性能が向上することが広く知られている。
【0004】
このような縦磁場型の真空バルブ用電極として,接点電極背部に磁場発生用のコイル部を備えた構造が広く採用されている。電流遮断時に発生するアークを磁場に拘束することで,アークによる電極表面の局所的な加熱を抑制し,アークによる熱負荷を電極表面全体に分散させることで電流遮断性能が向上する。
【0005】
磁場発生用コイル電極を備えた真空バルブとして、特許文献1がある。円筒形導体の軸方向に対して傾斜するスリットを円筒形導体の側面に設けることで、縦磁場発生用のコイル部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−135338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した磁場発生用コイル電極を備えた真空バルブにおいては、 コイル部に形成した縦磁場発生用の傾斜スリットについて、円筒形導体の軸方向に対する傾斜角度を大きくすることで、縦磁場の強度を増加させることができる。しかしながら、傾斜角度の増大にともない、コイル部の通電抵抗が増加するという問題点がある。
【0008】
そこで本発明では、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させる縦磁場型の真空遮断器用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、円筒形導体の側面に形成された傾斜スリットを有する電極対を備え、前記円筒形導体の軸方向と前記傾斜スリットとの角度が、接点電極から遠いほど小さくする真空遮断器用電極としたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は円筒形導体の軸方向に対して傾斜するスリットを前記円筒形導体の側面に複数個備え、前記スリットと前記円筒形導体の軸方向との角度が異なる2種類の直線スリットにより、前記円筒形導体の一方の端面と他方の端面を貫通することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は円筒形導体の軸方向に対して異なる角度で傾斜する2種類の直線スリットが、不連続であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させる縦磁場型の電極を搭載した真空バルブを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図示した実施例に基づき、本発明の真空バルブを説明する。
【実施例1】
【0015】
図1に,本発明の実施例1を示す。
図1は本発明に係わる真空バルブに搭載される電極側面図である。
【0016】
電極は,接点導体1と円筒形導体2とアダプタ3とリード4とから概略構成される。接点導体1は,円板形状をなし,その一方の端面には,円筒形導体2の端面2aが接している。アダプタ3は、円板形状をなし、その一方の端面には、円筒形導体2の端面2bが接している。前期アダプタ3の他方の端面は、リード4の一方の端面と接している。接点導体1は,導電率が高く耐電圧性能に優れた材料,例えば銅を主成分とした合金により製作される。円筒形導体2は,中空円筒形状をなし,側面には円筒形導体の軸方向に対して角度αを有し、側面を内側から外側に貫通するスリット5が複数設けられている。スリット5の傾斜角度αは、接点電極1から離れるほど小さくなることを特徴とする。
【0017】
真空バルブは,同一形状の電極2つを対向させるように配置し,互いの接点導体1を接離することにより投入動作と遮断動作を行う。
【0018】
接点導体1を介して円筒形導体2に流入した電流は、スリット5の間に形成されるらせん状の電流経路6を通りアダプタ3に到達する。その結果、円筒形導体2の軸方向に磁場が発生する。磁場強度は、電流経路6に流れる電流の大きさと電流経路6の周方向ループの長さとの積に比例する。よって、スリット5の傾斜角度αを大きくすると、周方向ループが延長し、磁場強度が増加する。
【0019】
しかしながら、傾斜角度αを大きくすると、電流経路6の通電方向に垂直な断面積が小さくなり、通電抵抗が増加する。
【0020】
ところで、電流経路6によって発生した磁場は、円筒形導体の軸方向へ離れるに従い小さくなる。よって、電極間に発生する磁場において、電流経路6のうち接点電極1に近い方が電極間に発生する磁場は、電流経路6のうちアダプタ3に近い方が電極間に発生する磁場よりも大きい。
【0021】
一方、通電抵抗は電極間からの距離によらず、導体の導電率と長さと断面積で決定される。よって、電極間への発生磁場の影響が大きい接点電極1側の電流経路6では、傾斜角度αを大きくし、電極間への発生磁場の影響が小さいアダプタ3側の電流経路6では、傾斜角度αを小さくすることで、通電抵抗の増加を抑制することができる。
【0022】
以上により,本実施例では磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させる縦磁場型の真空バルブ用電極を提供することができる。
【実施例2】
【0023】
図2に,本発明の実施例2を示す。
図2は、実施例1の傾斜スリット5を2つの直線スリット5aおよび5bで置き換えた構造である。
図1に示した連続的に傾斜角度が変化するスリットを設けることは、加工技術の上で困難を要するとともにコストが増大する。コスト増大を防ぐには、
図2に示すように接点電極側の直線スリット5aとアダプタ側の直線スリット5bをそれぞれ設ける方法がある。このとき、円筒形導体の軸方向に対する直線スリット5aの角度α’は、円筒形導体の軸方向に対する直線スリット5bの角度α’’よりも大きい。
【0024】
このような構成により、磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させるとともに、製作コストを低減した縦磁場型の真空バルブ用電極を提供することができる。
【実施例3】
【0025】
図3に、本発明の実施例3を示す。
図3は、実施例2の接点側の直線スリット5aとアダプタ側の直線スリット5bを不連続にした構造である。実施例1や実施例2では、傾斜スリット5または直線スリット5aおよび直線スリット5bが、円筒形導体の一方の端面から他方の端面まで貫通するため、円筒形導体2が傾斜スリットと同数の部分に分割される。よって、組み立ての上で困難を要するとともに、組み立てコストが増大する。そこで、
図3のように、直線スリット5aと直線スリット5bを不連続にすることで、円筒形導体を分割せずに加工することができる。
【0026】
このような構成により、磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させるとともに、製作コストを低減した縦磁場型の真空バルブ用電極を提供することができる。
【実施例4】
【0027】
図4に、本発明の実施例4を示す。
図4は、円盤状カッターにより、連続的に変化する傾斜スリットを形成した電極である。
図5に示すように、円筒形導体2の軸方向に対して角度βだけ傾斜させた円盤状カッター7を円筒形導体の端面と平行に挿入する。カッター7の先端が円筒形導体の側面に形成される傾斜スリット5の接点側端部と一致するようにカッター7を挿入する。
【0028】
このような加工方法により、少なくとも2回必要であった切削工程を1回に短縮することができ、磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させるとともに、製作コストを低減した縦磁場型の真空バルブ用電極を提供することができる。
【実施例5】
【0029】
図6に、本発明の実施例5を示す。
図6は本発明による真空遮断器用電極を用いた真空バルブの概略図である。本実施例に係わる真空バルブは、絶縁筒8と、端板9a及び9bと、固定リード10aと、可動リード10bと、固定電極11aと、可動電極11bと、ベローズ12と、シールド13とから構成される。
【0030】
絶縁筒8は円筒形状をなし、その両端面は円盤形状の金属からなる端板9a及び9bで塞がれる。端板9aを通して固定された固定リード10aの先端に固定電極11aが固定される。一方、端板9bを通して移動可能な可動リード10bが、ベローズ12を介して取り付けられる。可動リード10bの先端に可動電極11bが固定される。固定電極11a及び可動電極11bの周囲には、絶縁筒8を保護するためのシールド13が設けられる。固定電極11aおよび可動電極11bは,実施例1又は実施例2又は実施例3又は実施例4に示した電極構造を有する。
【0031】
電流を遮断するときの動作について、
図6を用いて説明する。図示しない操作器によって可動電極11bを固定電極11aと反対の方向に駆動することにより、固定電極11aと可動電極11bが開極し、両電極間にアーク14が発生する。アーク14を通して電流が接点電極1に流れ込み,円筒形導体2を介して固定リード10aまたは可動リード10bに流れる。
【0032】
このような構成により、磁場強度の増加と通電抵抗の低減を両立させるとともに、製作コストを低減した縦磁場型の真空バルブを提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 接点電極
2 円筒形導体
2a 円筒形導体の接点側端面
2a 円筒形導体のアダプタ側端面
3 アダプタ
4 リード
5 傾斜スリット
5a 接点側の直線スリット
5a アダプタ側の直線スリット
6 電流経路
7 円盤状カッター
8 絶縁筒
9a 端板
9b 端板
10a 固定リード
10b 可動リード
11a 固定電極
11b 可動電極
12 ベローズ
13 シールド
14 アーク