特許第6138617号(P6138617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138617
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】回転機械のシール構造および回転機械
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/447 20060101AFI20170522BHJP
   F01D 11/04 20060101ALI20170522BHJP
   F01D 11/10 20060101ALI20170522BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16J15/447
   F01D11/04
   F01D11/10
   F01D25/00 L
   F01D25/00 M
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-154118(P2013-154118)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-25478(P2015-25478A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】成田 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 晴幸
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 清
(72)【発明者】
【氏名】村田 健一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−195707(JP,A)
【文献】 特開2000−154877(JP,A)
【文献】 特開2010−001777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00− 3/28
F16J 1/00− 1/24
F16J 7/00−10/04
F01D 11/04
F01D 11/10
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の回転部とその周囲に位置する固定部との間に設けられた回転機械のシール構造であって、
周方向に分割されて設けられ、シールフィン又はシールフィン対向部が設けられたシール基板と、
前記シール基板のそれぞれを前記固定部に対して半径方向に移動可能に支持し、回転機械の作動流体を内部に導入し、作動流体圧力により前記シール基板を前記回転部側へ動作させるホルダと、
前記分割されたシール基板に対して半径方向外向きの力を付与する弾性体と、
前記シール基板の周方向分割面に固定されたシール部材であって、漏れ蒸気流入側に開口部を持ち、漏れ蒸気流入圧により前記開口部が広がり、隣接する前記シール基板間に形成される隙間を塞ぐように弾性変形するシール部材を有することを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記分割されたシール基板に対して半径方向外向きの力を付与する弾性体は、前記シール基板の周方向分割面に設けられたバネであることを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転機械のシール構造において、
前記シール基板は、前記シール基板が前記回転部に最も近接した位置で、前記シール基板の周方向分割面に隙間が設定されるように構成されていることを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項4】
請求項3に記載の回転機械のシール構造において、
前記シール基板の周方向分割面に、前記シール部材が固定される溝を設けたことを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項5】
請求項3に記載の回転機械のシール構造において、
前記シール部材が固定された前記シール基板の周方向分割面と対向する、前記隣接するシール基板の周方向分割面に、前記シール部材の他端を収容する溝を設けたことを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項6】
請求項1に記載の回転機械のシール構造において、
前記シール部材を、前記シール基板の周方向分割面に複数設置したことを特徴とする回転機械のシール構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の回転機械のシール構造を有する回転機械であって、
前記回転機械は蒸気タービンであり、
前記回転部はロータであり、
前記固定部は前記回転部を内包するケーシングに固定される静翼又は前記静翼と一体の部材であり、
前記回転機械のシール構造は、前記ロータと前記静翼又は前記静翼と一体の先端部との間に設けられていることを特徴とする回転機械。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の回転機械のシール構造を有する回転機械であって、
前記回転機械は蒸気タービンであり、
前記回転部はロータに備わる動翼又は前記動翼と一体の部材であり、
前記固定部は前記回転部を内包するケーシング又は前記ケーシングに固定される部材であり、
前記回転機械のシール構造は、前記動翼又は前記動翼と一体の部材の先端と前記ケーシング又は前記ケーシングに固定される部材との間に設けられていることを特徴とする回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械のシール構造及び回転機械に係り、特に、蒸気タービンなどの回転機械において、漏れ防止のため回転部と静止部の間に設置されるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、蒸気を効率よく使用するために、回転部と固定部との間(例えばロータと静翼との間)に設けられるクリアランスからの蒸気の漏れをできるだけ少なくするように、回転部と固定部との間に設けられるシール装置の性能を向上することが要求されている。漏れ低減の要求に対応するため、従来、ロータなどの回転部と静翼などの固定部との間に、シールフィン(ラビリンスシール)を有するラビリンスシール装置を備えることが広く用いられている。
【0003】
このようなラビリンスシール装置では、例えば特許文献1に記載のように、ラビリンスシールを半径方向に移動可能として、回転体との接触を起こしやすい起動時には、ラビリンスシールを回転体から遠ざけてラビリンスシール先端の隙間を大きくし、定常運転状態ではラビリンスシールを回転体に近づけてラビリンスシール先端の隙間をできるだけ小さくなるようにして、定常運転状態における漏洩損失の防止を図り、かつ起動時におけるラビリンスシール自体の摩耗も防止する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、ラビリンスシールを半径方向に移動可能とするため、ラビリンスシールは複数の円弧状シールセグメントで構成されている。そして、これらのシールセグメントは、隣接するシールセグメント間に配置された弾性無孔部材によりラビリンスシールを回転体から遠ざける方向(半径方向外方)に付勢されている。また、シールセグメントの外周面側に加圧室が形成され、加圧室には上流側の蒸気が供給されるように構成されている。起動時には、加圧室に供給される蒸気が高圧となっていないため、弾性無孔部材の力によりラビリンスシールが回転体から間隔を置いた状態に保たれる。定常運転時には、蒸気は起動時と比べ高圧となるため、加圧室内部は高圧状態となり、シールセグメントに加えられる回転体方向への力が弾性無孔部材の付勢力に打ち勝ち、シールセグメントは回転体へ近づく方向に移動し、回転体とラビリンスシールとの間に小さいクリアランスが確立する。
【0005】
また、特許文献1における、円周方向に隣接するシールセグメント間に配置された弾性無孔部材は、隣接するシールセグメントを円周方向に押し離す力を発生させるのに加えて、円周方向に隣接するシールセグメント間のシールを提供し、それらの間の漏洩を最小限に抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−154877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
隣接するシールセグメント(シール片)はそれぞれ半径方向に移動することが可能であるが、シールセグメントが半径方向に移動する時、同時にシールセグメント間の円周方向隙間が変化することとなる。通常はシールフィンすなわちシールセグメントが最も回転体に近づいた時にはシールセグメント間の円周方向隙間を無くし、円周方向隙間からの漏れを防止し、シールセグメントが回転体から遠ざかる時にシールセグメント間の隙間が大きくなるように構成する。これにより、シールセグメントが最も回転体に近づいた定常運転状態時において十分な漏れ防止機能が得られるようになる。
【0008】
しかし、シールセグメントが回転体から遠ざかる時にはシールセグメント間の隙間が開くため、円周方向隙間からの漏れ量が大きくなる。漏れ量が大きくなると円周方向隙間からの漏れ蒸気がシールフィン先端と回転体の間に入り込み、シールフィン先端面の圧力が高まる。シールフィン先端面の圧力は加圧室の内部の圧力と抗する方向に働くため、加圧室の内部が高圧状態になっても、シールセグメントの押し力が小さくなり、シールセグメントの半径方向に移動するタイミングが設定と異なり不安定な動作となる。
【0009】
特許文献2では、隣接するシールセグメント間に設置する弾性部材を無孔の部材とすることによって、シールセグメントを円周方向に押し離す力を発生させるとともに、シールセグメント間の円周方向隙間からの漏れを防止している。これにより、シールセグメントが回転体から遠ざかりシールセグメント間の円周方向隙間が開く場合においても安定な動作が可能となる。
【0010】
しかしながら、弾性部材として、特許文献1に記載の弾性無孔部材を用いる場合、通常の板バネやコイルバネと比べ、弾性部材の伸びストロークが小さいため、シールセグメントの移動が小さく制限される。このため、円周方向隙間を大きくすることは難しい。
【0011】
通常、蒸気タービン起動においては、ロータ、ケーシングなどの熱膨張差による接触を防止するため、比較的低い温度の蒸気を最初に導入し、その後、蒸気温度、圧力を徐々に増加させ、なるべく均一な熱変形が得られるよう配慮されている。しかしながら、徐々に蒸気温度、圧力を増加させても、ロータやシールフィン、シールセグメント(シール片)やケーシングは均一温度には保てず、不均一温度分布を生じ、各部に不均一な熱膨張を生じる。
【0012】
シールセグメントはケーシングより熱容量が小さいため、ケーシング温度より高温となり易く、ケーシングに対し熱膨張によりシールセグメントの円周方向長さが増加することとなる。この時、円周方向隙間が小さく設定されている場合、シールセグメントおよびシールフィンを回転体に近づけようとしても、シールセグメントの円周方向長さが増加しているため、設定の半径方向位置に達する前にシールセグメントの円周方端部が接触して半径方向の移動を止めることになる。このため、シールフィン先端の隙間を設定の値まで小さくできない。シールフィン先端の隙間が大きいままで固定され、十分な漏れ防止機能が得られず、蒸気タービン効率が低下してしまうことになる。
【0013】
さらに、シールセグメントは円周方向長さが増加したため、設定した半径方向位置の位置決めフランジに押し付けることができない。このため、接触してリング状となったシールセグメントの集合体は固定されず不安定な状態となる。シールセグメントの集合体が激しく動く場合には加圧室とシールセグメントの間の摺動部が損耗し、損耗がひどくなり摺動部からの漏れが大きくなると、シールセグメントの半径方向に移動する動作が不安定となり、場合によっては動作不能となり得る。
【0014】
また、各々のシールセグメントが少し異なる別々のタイミングで動作する場合には、先に動作した隣のシールセグメントが熱膨張して円周方向のスペースが狭くなっているため、後に動作するシールセグメントは、隣のシールセグメントが邪魔になり、半径方向に移動できなくなる。シールセグメントが回転体から遠ざかったままで、シールフィン先端の隙間が開いたままの大きい部分が生じるため、十分な漏れ防止機能が得られず、蒸気タービン効率が低下してしまうことになる。
【0015】
本発明は、回転機械の作動流体圧力とバネ力を利用して回転機械の運転状態に応じてシールフィン又はシールフィン対向部を半径方向に移動可能にした回転機械のシール構造において、シール片(シール基板)が熱膨張してもシールフィン又はシールフィン対向部の半径方向移動を安定して行わせることが可能であり、且つ、シール片の円周方向端部の隙間から漏れを少なくすることが可能な回転機械のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題を解決するため、周方向に分割されシールフィン又はシールフィン対向部を備えるシール片を、回転機械の作動流体圧力とバネ力を利用して、回転機械の運転状態に応じて半径方向に移動可能にした回転機械のシール構造において、隣接するシール片との間に形成される隙間に、漏れ蒸気流入側に開口部を持ち、漏れ蒸気流入圧により開口部が広がり隣接するシール片間の隙間を塞ぐように弾性変形するシール部材を設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シール片が熱膨張してもシールフィン又はシールフィン対向部の半径方向移動を安定して行わせることができ、且つ、シール片の円周方向端部の隙間から漏れを少なくすることができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る蒸気タービンの構成図である。
図2A図1のX部拡大図で、本発明の実施形態を説明する図である。
図2B】本発明の実施形態に係るラビリンスシール装置に用いられ、シール片間に設置されるシール部材を説明する図である。
図3図2Aのロータ軸方向から見たラビリンスシール装置の概略図であり、シール片がロータから離れた状態を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るラビリンスシール装置においてシール片がロータに近接した状態を説明する図である。
図5図4のロータ軸方向から見たラビリンスシール装置の概略図であり、シール片がロータに近接した状態を示す図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置の概略図であって、シール片間に設置されるシール部材を保持する溝を設置した実施形態を示す図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置の概略図であって、シール片間に設置されるシール部材を複数設置した実施形態を示す図である。
図8】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置の概略図であって、シールフィンをシール片のシール基板上へ複数配した実施形態を示す図である。
図9】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置の概略図であって、スタッガードタイプのラビリンスシール装置へ本発明を適用した実施形態を示す図である。
図10】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置の概略図であって、動翼の先端部のシール構造へ本発明を適用した実施形態を示す図である。
図11】本発明の他の実施形態に係るラビリンスシール装置を示す図であって、シール基板とロータの両方に快削性スペーサを配置したラビリンスシール装置に本発明を適用した実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例について、適宜図を用いて詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明が適用される回転機械の一例である蒸気タービンについて図1を用いて説明する。尚、蒸気タービンは基本的には上下対称の構造であり、図1においては上半分の概略を図示している。図1に示すように、蒸気タービン2は、複数の動翼2bが周方向に固定されるロータ2aと、ロータ2a及び動翼2bを内包するケーシング2dと、ケーシング2dにノズルダイヤフラム外輪3bを介して設けられる静翼2cを備えている。静翼2cの内側にはノズルダイヤフラム内輪3aが設けられている。動翼2bと静翼2cは、ロータ2aの軸方向に対して交互に配置され、タービン段落を形成する。蒸気タービン2においては、ロータ2a及び動翼2bなどは回転部であり、ケーシング2d,静翼2c,ノズルダイヤフラム内輪3a及びノズルダイヤフラム外輪3bなどは固定部である。
【0022】
ボイラで発生した蒸気Stはケーシング2dに流入すると、静翼2cと動翼2bの間を交互に通りながら膨張し、ロータ2aを回転させる。そして、ロータ2aの最も下流に備わる動翼2b、すなわち最終段の動翼2bを通過した蒸気はケーシング2dの外部に排気される。
【0023】
このように構成される蒸気タービン2においては、ケーシング2dの内部を流れる蒸気Stで効率よく動翼2bに駆動力を伝えるため、回転部であるロータ2a及び動翼2bなどと、固定部であるケーシング2d及び静翼2cなどの間のシール性能を向上し、回転部と固定部の間に形成されるクリアランスから漏れる蒸気(漏れ蒸気)の量を抑制することが要求される。
【0024】
例えば、ロータ2aと静翼2cの内側先端に備わるノズルダイヤフラム内輪3aの間には、ロータ2aの回転運動を許容するためのクリアランスが設けられている。このクリアランスは静翼2cに流入する蒸気Stの漏れ蒸気の原因ともなる。この漏れ蒸気の量を抑制するため、ノズルダイヤフラム内輪3aのロータ2a近傍には、一般にラビリンスシール装置3cなどのシール装置を備え、ロータ2aと静翼2cの間のクリアランスを小さくしてシール性能を向上し、漏れ蒸気の量を抑制している。
【0025】
このようなシール装置は、蒸気タービン2では、この他に、動翼2bの先端とケーシング2dとの間や、ロータ2aとグランド部80との間に設けられており、本発明はこれらのシール装置に適用できる。
【0026】
本実施例のラビリンスシール装置は、シールフィンとシールフィン対向部の隙間を変えることができるように構成している。即ち、本実施例では、蒸気圧を受ける受圧部と蒸気圧力に対抗するバネ部を備え、蒸気圧が低い場合には、シールフィンとシールフィン対向部との間の隙間が開き、蒸気圧が高い場合には、シールフィンとシールフィン対向部との間の隙間が閉じるように構成して、接触が生じ易い起動時には、シールフィンとシールフィン対向部を遠ざけて、定常運転状態では、シールフィンとシールフィン対向部を近づけ、起動時におけるシールフィンの摩耗を防止し、定常運転状態における漏れ損失を低減するようにしている。
【0027】
次に、図2A図5を用いて本実施例のラビリンスシール装置を詳細に説明する。図2A図1におけるX部拡大図であって、ラビリンスシール装置の一例を示す。なお、図2Aにおいても、図1と同様に上半分の概略を図示している。図2Aはハイロー型のラビリンスシール装置であって、本発明の実施形態の一例を示す図である。
【0028】
図2Aに示すように、ハイロー型のラビリンスシール装置3cは、ロータ(回転部)2aの外周部に形成された複数のシールフィン2a1と、複数のハイ部3c3とその間に形成されるロー部3c4とから構成されるシールフィン対向部が設けられ、ノズルダイヤフラム内輪(固定部)3aに形成されたホルダ4に半径方向へ移動可能に嵌合されたシール基板(シール片)3c1とにより構成されている。シール基板3c1のハイ部3c3とロー部3c4は、シールフィン2a1に対向して配置されている。本実施例では、シール基板3c1を介して固定部にシールフィン対向部が設けられ、回転部にシールフィンが設けられている。
【0029】
ホルダ4には、シール基板(シール片)3c−1の外周側(保持体3c2)を収容し、蒸気通路口5より蒸気Stが導入される空間部(上流側蒸気の蒸気圧を受ける受圧部)が設けられている。ホルダ4に設けられたフランジ44と保持体3c2の突出部により、シール基板の半径方向の押し込み停止位置が決められる。
【0030】
図3図2Aのロータ軸方向から見た概略図を示す。図3に示すように、円弧状のシール基板3c1は周方向に複数個(本実施例では6個)分割されている。各シール基板3c1の周方向分割面には、図2Aに示すように、隣接するシール基板を周方向に押し開くような力を付与するバネ(弾性体)6を設置している。バネ6は、一方のシール基板3c1の周方向分割面に固定して設けられており、対向する他方のシール基板3c1の周方向分割面に接するように設けられている。本実施例では周方向分割面にバネ6を1個設けているが、複数設けても良い。また、一つの周方向分割面間に複数のバネを設ける場合、固定側を変えて設けるようにしても良い。また、バネ6は交換可能なように周方向分割面に埋め込まれている。バネ6を適切に選択し、蒸気Stの圧力に対抗するように設置することにより、蒸気Stの圧力が低い場合、シールフィン2a1と、シール基板3c1のハイ部3c3,ロー部3c4との間の隙間が開き、蒸気Stの圧力が高い場合、シールフィン2a1と、ハイ部3c3,ロー部3c4との間の隙間が小さくなり、蒸気Stの圧力の程度により隙間の開度を調整することが可能となる。
【0031】
また、図2A及び図3に示すように、シール基板3c1の周方向分割面には、バネ6とは別にシール部材7が設けられている。シール部材7は、漏れ蒸気流入側に開口部を持ち、漏れ蒸気流入圧により開口部が広がり隣接するシール基板(シール片)間の隙間を塞ぐように弾性変形する。
【0032】
図2Bにシール部材7の構成例を示す。図2Bに示す構成例ではシール部材7は二つ折りの薄板にて構成され、開口部側から漏れ蒸気が流入した場合には、シール部材7は蒸気圧により開口部の幅が広がる(図面の右側から左側のように変形)。これにより隣接するシール基板の円周方向端面間の隙間を塞ぐことが可能となる。シール部材7は、弾性変形による開口部へのなじみ性と蒸気流入圧により塑性変形しない強度を有する。例えば、SUS403鋼などのステンレス鋼で形成され、0.1〜0.3mm程度の厚みを有する。シール部材7はシール基板3c1の周方向分割面にろう付けまたは溶接により固定される。または、シール部材の端部を周方向分割面に形成した溝に嵌入することにより固定しても良い。
【0033】
次に、図2Aおよび図3図5を用いて、本実施例のラビリンスシール装置の動作を説明する。
【0034】
図2Aおよび図3は、蒸気通路口5より導入された蒸気Stの圧力が低く、可動部3c2およびシール基板3c1がロータ2aから遠ざかる場合を示している。例えば、蒸気タービンの起動段階の状態である。
【0035】
バネ6は、シール基板(シール片)3c1を周方向に押し開くような力を付与すべく分割面に設置されている。このため、シール基板3c1は、分割面のバネ6取り付け位置の周方向隙間長さが増えるように、半径方向外向きに力を受ける。そして、半径方向移動可能に構成されたシール基板3c1はロータ2a側から遠ざかる方向へ移動する。
【0036】
蒸気通路口5より導入された蒸気Stの圧力が低い場合には、蒸気Stの圧力によるシール基板3c1をロータ2a側へ近接させようとする力より、分割面に設置されたバネ6によるシール基板3c1を半径方向外向きに押す力の方が大きく、半径方向移動可能に構成されたシール基板3c1はロータ2a側から遠い位置に保持される。
【0037】
この時、シール基板3c1の周方向分割面は周方向隙間が広がるようになっている。周方向分割面には、バネ6とは別に、漏れ蒸気流入側に開口部を持ち、隙間を塞ぐシール部材7が設置されている。シール部材7は、漏れ蒸気が流入した場合には、蒸気圧により開口部の幅が広がり、シール基板(シール片)3c1の円周方向端面の隙間を塞ぎ、ロータ2aの軸方向の蒸気漏れを止めることが可能となる。
【0038】
図4及び図5は、蒸気通路口5より導入された蒸気Stの圧力が高く、可動部3c2およびシール基板3c1がロータ2aに最も近づいた場合を示している。例えば、蒸気タービンの定格運転の状態を示す。
【0039】
図4および図5に示すように、蒸気通路口5より導入された蒸気Stの圧力が高い場合、蒸気Stの圧力によるシール基板3c1をロータ2a側へ近接させようとする力の方が、分割面に設置されたバネ6によるシール基板3c1を半径方向外向きに押す力よりも大きくなる。そして、半径方向移動可能に構成されたシール基板3c1はロータ側に近接するように移動する。この時、シール基板3c1は、保持体3c2の突出部が位置決めフランジ44に接触するまでロータ側に近接するように移動する。
【0040】
図5に示すように、シール基板3c1が規定の位置まで移動した状態においても、シール基板3c1の円周方向端面には微小の隙間が設けられており、熱膨張によりシール基板3c1が円周方向に伸びても接触しないため、半径方向の動作不良の回避が可能となる。さらにシール基板3c1の周方向分割面に、漏れ蒸気流入側に開口部を持ち、隙間を塞ぐ変形材7が設置されているため、変形材7は漏れ蒸気が流入した場合には、変形材7は蒸気圧により開口部の幅が広がり、シール基板3c1の円周方向端面の隙間を塞ぎロータ2aの軸方向の蒸気漏れを止めることが可能となる。本実施例のシール部材7は、対応可能な隙間が大きいので、熱膨張によるシール基板の半径方向移動が不良とならない隙間を容易に設定することができる。また、シール部材7は、バネ6とは別に設けられており、バネ6による周方向分割面を押す力に比べて小さい弾性力で良いので、バネ6によるシール基板3c1の移動に実質的に影響を与えない。
【0041】
そして、ロータ2aの外周部に形成された複数のシールフィン2a1と、シール基板3c1に備えられたハイ部3c3,ロー部3c4との隙間は小さくなる。すなわち、シール基板3c1は設定の位置までスムーズに移動できるので、シールフィン2a1と、シール基板3c1に備えられたハイ部3c3とロー部3c4は設定した隙間となる。これにより、蒸気の漏れ量は小さくなり、高い蒸気タービン効率を得ることが可能となる。
【0042】
本実施例のシール構造の構成を用いることにより、蒸気タービン立上げ初期の比較的低い蒸気圧で隙間を開いて蒸気タービンの安定した起動を可能とし、負荷蒸気圧が高い定常運転時には隙間を小さくして、漏れ蒸気の量を最小にでき、高い蒸気タービン効率を得ることが可能となる。
【0043】
また、本実施例のシール構造の構成を用いることにより、回転体との接触を生じ易い起動時には、シールフィンを回転体から遠ざけて、定常運転状態ではシールフィンを回転体に近づけ、起動時におけるシールフィンの摩耗が防止でき、定常運転状態における漏れ損失を最小にでき、高い蒸気タービン効率を得ることが可能となる。
【0044】
さらに、本実施例によれば、シール片の円周方向端部の隙間を大きくしてシール片の熱膨張による半径方向の動作不良防止を可能とし、且つシール片の円周方向端部の隙間からの漏れを少なくし、安定な動作と安定したシール性能の確保が可能となる。
【0045】
本発明の他の実施例を説明する。図6は本発明の別の実施形態の例を示すもので、図2A図5の実施形態と異なり、シール部材7と、シール部材7を設置する溝9をシール基板3c1上へ配した例である。溝9はシール部材7の一部を格納する場所として機能する。本実施例によれば、上述の実施例の効果に加えて次の効果が得られる。すなわち、シール部材7を設置する溝9を設け、溝の深さを選択することによりシール基板3c1の円周方向端面には微小の隙間を極めて小さい値から大きな値まで広い範囲で調節可能となる。
【0046】
本実施例では、シール部材7を設置する溝9を、シール部材7を取り付けたシール基板3c1上へ配した例について説明したが、シール部材7の他端と係合する(収容する)溝9をシール部材7と対向するシール基板3c1上の面に配しても良い。
【0047】
本発明の他の実施例を説明する。図7は本発明の別の実施形態の例を示すもので、隙間を塞ぐシール部材7をシール基板3c1上に複数配した例である。本実施例によれば、上述の図2A図5に示した実施例の効果に加えて次の効果が得られる。すなわち、本実施例では、シール基板の周方向分割面にシール部材7が複数設置されているので、ロータ2aの軸方向の蒸気漏れをより完全に止めることが可能となる。
【0048】
本発明の他の実施例を説明する。図8は本発明の別の実施形態の例を示すもので、シール基板3c1上へ複数のシールフィン3c5を複数配した例である。本実施例によれば、上述の図2A図5に示した実施例と同様の効果が得られる。
【0049】
上述の実施例では、ハイロータイプのラビリンスシール装置に適用した場合ついて説明したが、それ以外にもスタッガード型のラビリンスシール装置にも同様に適用できる。
3cがある。かかるスタッガード型のラビリンスシール装置にも本発明を適用できる。スタッガード型のラビリンスシール装置に本発明を適用した場合について、図9を用いて説明する。
【0050】
図9に示すように、ノズルダイヤフラム内輪側3aには複数のシールフィン3c5を備えたシール基板3c1が半径方向へ移動可能に嵌合される。シール基板3c1には、所定間隔で溝3c6を設け、この溝3c6にシールフィン3c5をコーキングして固定する。
【0051】
さらに、ロータ2aにも所定間隔で溝2a2を設け、この溝2a2にシールフィン2a1をコーキングして固定する。
【0052】
そして、シールフィン3c5とシールフィン2a1が、ロータ2aの軸方向に交互に重なり合うように配置する。
【0053】
シール基板3c1がロータ2a側に近接するように移動したとき、シールフィン3c5とロータ2aとの間の隙間は小さくなり、シールフィン2a1の先端とシール基板3c1との間の隙間は小さくなり、蒸気の漏れ量は小さくなり、高い蒸気タービン効率を得ることが可能となる。
【0054】
本実施例によれば、上述の図2A図5に示した実施例と同様の効果が得られる。
【0055】
上述の各実施例では、静翼2cのダイヤフラム内輪3aとロータ2aとの間に備わるラビリンスシール装置3cに本発明を適用した場合について説明したが、図1に示すように、動翼2bの先端や、グランド部80に設けられるラビリンスシール装置にも本発明を適用できる。動翼(回転部)の先端に設けられるラビリンスシール装置に本発明を適用した実施例を図10に示す。
【0056】
図10に示すように、動翼(回転部)2bの先端にシールフィン3b1、対向する側(固定部)に複数分割されたシールフィン対向部(シール基板3c1)を備えている。動翼2bの先端には、ノズルダイヤフラム外輪3b(若しくはケーシング2d)とのクリアランスを小さくするためのカバー2gが備わり、カバー2gにはシールフィン3b1が設置される。そして、ノズルダイヤフラム外輪3bには、カバー2gのシールフィン3b1に対向するようにハイ部とロー部が形成された半径方向へ移動可能なシール基板3c1が設置される。そして、シール基板3c1を周方向に押し開くような力を付与すべく周方向分割面にバネ6が設置される。また、シール基板3c1の周方向分割面間の隙間を塞ぐシール部材7が設けられている。その他は、上述の実施例と同様であり、詳細な説明を省略する。本実施例でも上述の図2A図5に示した実施例と同様の効果が得られる。
【0057】
その他、本発明は、ロータ上にアブレイダブル材などの快削性スペーサを配置するラビリンスシール構造や、シール基板にアブレイダブル材などの快削性スペーサを配置するラビリンスシール構造などに適用可能である。このような快削性スペーサを配置するラビリンスシール構造としては、特開2002-228013号公報や特開2003-65076号公報に記載されている。そして、このような構成ではシールフィン接触時にフィンが保護されるため、シールフィンの損傷が少なくなる。
【0058】
図11にシール基板とロータの両方に快削性スペーサを配置したラビリンスシール装置に本発明を適用した実施例を示す。シール基板3c1に形成したシールフィン3c5に対向し、ロータ2a上に快削性スペーサ8が配置されている。また、ロータ2a上に形成したシールフィン2a1に対向し、シール基板3c1に快削性スペーサ8が配置されている。そして、周方向に複数に分割されたシール基板3c1を周方向に押し開くような力を付与すべく周方向分割面にバネ6が設置されている。また、シール基板3c1の周方向分割面間の隙間を塞ぐシール部材7が設けられている。その他は、上述の実施例と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0059】
本実施例でも上述の図2A図5に示した実施例と同様の効果が得られる。なお、本実施例は、上述のその他の実施例にも適用することができる。例えば、図10に示す動翼2bの先端などに設けられるラビリンスシール装置におけるシール基板3c1のシールフィンの対向面に快削性スペーサを設置する。
【0060】
また快削性スペーサの代わりに通気性スペーサを用いることが可能である。通気性スペーサを用いたシール装置としては、例えば、特開2009-138566号公報や特開2010-261351号公報に記載されている。このような構成では、シールフィン接触時に生じる発熱が冷却されるため、熱変形やロータの熱曲がりによる振動の発生が抑制できる。このような構成に本発明を適用することにより同様な効果を得ることができる。
【0061】
また、上述の各実施例では、回転機械としては蒸気タービンを例にして説明したが、ガスタービンなどにも同様に適用することができる。
【0062】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
2…蒸気タービン、2a…ロータ(回転部)、2a1,3c5…シールフィン、2b…動翼(回転部)、2c…静翼(固定部)、2d…ケーシング(固定部)、2g…カバー、3a…ノズルダイヤフラム内輪、3b…ノズルダイヤフラム外輪、3c…ラビリンスシール装置、3c1…シール基板(シール片)、4…ホルダ、44…位置決めフランジ、St…蒸気、5…蒸気通路口、6…バネ、7…シール部材、8…快削性スペーサ(通気性を有する快削性スペーサ)、9…溝、80…グランド部。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11