【実施例1】
【0011】
以下、本発明の第1の実施の形態を、
図1から
図5を用いて詳細に説明する。まず、
図1、
図2にて密閉型圧縮機の全体構成を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る密閉型圧縮機の縦断面図、
図2は、
図1の密閉型圧縮機の蓋を外し、上方から見た上面図である。
【0012】
本実施形態の密閉型圧縮機50は、密閉容器1内にステータ2aとロータ2bからなる電動要素2と、圧縮要素3を収納している。圧縮要素3は、ラジアル軸受5cとフレーム部5bが一体のシリンダブロック5に形成されたシリンダ5内を、コンロッド6によりクランク軸8の偏心軸8bに連結されたピストン7が往復運動する、いわゆるレシプロ式である。シリンダブロック5のラジアル軸受5cには、クランク軸8下部が回転自在に嵌められており、クランク軸8はクランク軸8下部でロータ2bに固定されている。圧縮要素3はフレーム部5bの下部に固定したステータ2aを介して、コイルスプリングにより密閉容器1の底部に弾性的に支持されている。ロータ2bが回転することによってクランク軸8が回転し、偏心軸8bが偏心回転することで、ピストン7がシリンダ5a内の空洞部を往復運動するようになっている。
【0013】
シリンダ5a内の空洞部は、吸入弁及び吐出弁(図示せず)が組み込まれたシリンダヘッド10によって閉塞され、ピストン7との間に圧縮作動室12を構成している。シリンダヘッド10には、内部に吐出室11aが形成されたヘッドカバー11が、4箇所の締付ボルト13によってシリンダブロック5に固定されている。吸入サイレンサ15は、吸込経路における作動流体の圧力脈動を減衰させて騒音を低減するもので、シリンダブロック5のフレーム部5bの上部に位置している。
【0014】
次に圧縮機内部の冷媒経路について説明する。
【0015】
密閉容器1に接続された吸込パイプ14を通って流入した冷媒は、プラスチック製の吸入サイレンサ15内を通過し、シリンダヘッド10の吸込弁からシリンダ5aの圧縮作動室12内に入る。圧縮作動室12内ではピストン7の往復運動によって冷媒が吸入、圧縮され、吐出弁から吐き出される構造になっている。圧縮された冷媒は、シリンダヘッド10の吐出弁からヘッドカバー11内の吐出室(図示せず)に入り、ここからシリンダブロック5に一体で成形された吐出サイレンサ16を通り、吐出管17を介して吐出パイプ18より外部の冷凍サイクルに流出するようになっている。
【0016】
次に、本実施形態の特徴である給油機構を、
図2から
図5を用いて詳細に説明する。
図2は本実施形態に係る、給油機構を模式的に示す要部拡大図を示し、
図3は本実施形態に係る、クランク軸およびクランク軸下部の給油機構の断面図を示し、
図4は本実施形態に係る、クランク軸下部の断面構造を模式的に示す要部拡大断面図である。
【0017】
本実施形態によれば、圧縮要素は、回転運動するクランク軸8と、シャフト8の下部に形成された下部円筒形状部8gの内側に圧入された円筒部材19を有している。円筒部材19の内側には挿入部材20が挿入してある。
【0018】
挿入部材20は、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などの樹脂で構成している。挿入部材20の外表面は、潤滑油が通過するための螺旋溝20bを有している。螺旋溝20bの断面積は、加工のしやすさを考慮し、台形になっている。また、挿入部材20は、その底面に孔の開いた凸部20aを有しており、その孔に針金21を通し、ステータ2aに配置されている。これにより、挿入部材20は、クランク軸8の回転時にもクランク軸8と一体となって回転することはない。
【0019】
圧縮機が稼働すると、ロータ(図示せず)の回転に伴い、クランク軸8が回転する。クランク軸8の回転によって、クランク軸8の下方に圧入された円筒部材19と、挿入部材20とに生じる速度差により、円筒部材19と挿入部材20の間隙にある潤滑油には粘性力が働き、潤滑油は挿入部材20外表面の螺旋溝20bに沿って、挿入部材20と円筒部材19との間隙を通過し、クランク軸8の内部を上昇する。
【0020】
クランク軸8内部を上昇した潤滑油は、クランク軸8の中央部に設けてある、クランク軸外表面との連通孔8cへ運ばれる。
【0021】
連通孔8cを介して、クランク軸外表面とラジアル軸受5cの間隙に到達した潤滑油は、クランク軸外表面と、ラジアル軸受5cとに生じる速度差により、粘性力が働く。粘性力により、潤滑油は、クランク軸外表面のらせん溝8eに沿って、クランク軸の上方へ導かれる。その後、潤滑油は、クランク軸外表面にある連通穴8fを通過し、再びクランク軸8内部に入る。クランク軸8内部に入った潤滑油は、クランク軸8外周に形成された螺旋溝8cを介して上方に導かれ、偏心軸8bに回転自在に嵌合されたコンロッド6とピストン7とを連結している、ボールジョイント部の潤滑を行う。さらに、偏心軸8bの上端に取り付けられたバランスウエイト(図示せず)を一部貫通する形で設けられた孔(図示せず)から噴射され、最後に偏心軸8bの上端部から周囲に噴射される。主にこの噴射された潤滑油4により、ピストン7とシリンダ5aとの間の潤滑及びシールが行われる。
【0022】
潤滑油が通過する、円筒部材19と挿入部材20との水平方向の間隙が小さすぎると、挿入部材20の僅かな偏心により、円筒部材19と片当たりが起こり、摺動損失が大きくなる可能性がある。逆に円筒部材19と挿入部材20との間隙が大きすぎると、円筒部材19と挿入部材20の隙間を通して軸方向に逆流する漏れ量が増加する。漏れ量が増加すると、クランク軸8の上部への潤滑油の供給量が減少してしまい、圧縮機内の摺動部への十分な給油ができない可能性がある。
【0023】
しかし本実施形態によれば、片当たりを防ぎながらも、油漏れを少なくするために、クランク軸8下端部の下部円筒形状部8gと挿入部材20との直径方向の隙間は、円筒部材19と挿入部材29との直径方向の隙間よりも大きくなるように設定されている。
【0024】
図7は、円筒部材19と挿入部材20との直径隙間を変えたときの、給油量の計算結果である。円筒部材19と挿入部材20との直径隙間は、
図7及び密閉型圧縮機における実験の結果を基に、0.1mm〜0.5mmに設定されている。
【0025】
また、挿入部材20が長いと、クランク軸8の内壁と摺動面積が増える。さらに、挿入部材外表面の螺旋溝20bの凸部が連通穴8cを塞いでいる間は、挿入部材20により連通孔8cへの経路を狭めてしまうため、潤滑油が通過しづらい。
【0026】
しかし本実施形態によれば、挿入部材20の上端は、潤滑油が通過する連通孔8cと同じ高さか、連通孔8cより下方に位置するような長さとしている。これにより、クランク軸8の内壁と挿入部材20との摺動面積が、必要以上に大きくならないようにしている。さらに挿入部材20の螺旋溝20bに沿って上昇した潤滑油は、挿入部材20に潤滑油経路を塞がれることなく、連通穴8cへ容易に達することができる。
【0027】
以上説明したように、第1実施形態に係る密閉型圧縮機によれば、密閉容器1内の圧縮要素3及び電動要素2と、電動要素2により回転運動するクランク軸8と、密閉容器1内の下部に貯留した潤滑油4と、を備え、クランク軸8の下部円筒形状部8gと、下部円筒形状部8gに圧入された円筒部材19と、下部円筒形状部8gの内壁と円筒部材19の外壁との間の挿入部材20と、を備え、下部円筒形状部8gと挿入部材20との直径方向の隙間と、円筒部材19と挿入部材20との直径方向の隙間は異なる大きさである。
【0028】
これにより、安価でかつ簡便な構造で、低速運転時にも摺動部に十分な給油が可能であり、摺動損失を軽減することで圧縮機の効率と信頼性をともに向上できる。
【実施例2】
【0029】
次に、第2実施形態に係る密閉型圧縮機の構造について
図5を用いて説明する。
【0030】
本実施形態は、第1実施形態と異なる点は、挿入部材20の外表面ではなく、クランク軸8の内表面に螺旋溝8f、円筒部材内表面に螺旋溝19aを有している点である。また、実施例1と同様、クランク軸8下端には円筒部材19が装着されている。
【0031】
クランク軸8の回転とともに、挿入部材20の外表面と、クランク軸8の内表面の、速度差により粘性力が発生する。発生した粘性力により、挿入部材20とクランク軸8との間隙にある潤滑油は、クランク軸8の内表面にあるらせん溝8fを介して、上昇する。
【0032】
本実施形態においても、クランク軸8(下部円筒形状部8g)と挿入部材20との隙間と、円筒部材19と挿入部材20との隙間は異なっている。これにより、第1の実施形態と同様に、円筒部材19及びクランク軸8と、挿入部材20との片当たりを防ぎながらも、クランク軸8(下部円筒形状部8g)と挿入部材20との隙間及び円筒部材19と挿入部材20との隙間からの油漏れを防ぐことができる。
【0033】
これにより、安価でかつ簡便な構造で、低速運転時にも摺動部に十分な給油が可能であり、摺動損失を軽減することで圧縮機の効率と信頼性をともに向上できる。
【実施例3】
【0034】
次に、第3実施形態に係る密閉型圧縮機の構造について
図6を用いて説明する。
【0035】
本実施形態は、第1実施形態と異なる点は、クランク軸8下端の内部ではなく、外表面に円筒部材19が圧入してある点である。
【0036】
クランク軸8下端の挿入部材20は、円筒部材19が圧入してある箇所の径を拡大しており、これにより挿入部材20と円筒部材19との間隙の大きさを調整している。
【0037】
クランク軸8の回転とともに、挿入部材20の外表面と、クランク軸8(下部円筒形状部8g)の内表面の、速度差により粘性力が発生する。発生した粘性力により、挿入部材20とクランク軸8との間隙にある潤滑油は、クランク軸8の外表面にある螺旋溝を介して、上昇する。
【0038】
本実施形態においても、クランク軸8(下部円筒形状部8g)と挿入部材20との隙間と円筒部材19と挿入部材20との隙間は異なっており、円筒部材19およびクランク軸8と、挿入部材20との片当たりを防ぎながらも、クランク軸8と挿入部材20との隙間および円筒部材19と挿入部材20との隙間からの油漏れを防ぐことができる。
【0039】
さらに本実施形態においては、挿入部材20下部の潤滑油経路の径が拡大しているため、潤滑油に遠心力が働きやすくなっている。
【0040】
これにより、潤滑油が効果的にクランク軸内部を上昇する。これにより安価でかつ簡便な構造で、低速運転時にも摺動部に十分な給油が可能であり、摺動損失を軽減することで圧縮機の効率と信頼性をともに向上できる。
【0041】
図8は、第1〜第3の実施形態に係る密閉型圧縮機の搭載された冷蔵庫の縦断面図である。
【0042】
図8において、本実施形態の密閉型圧縮機50は、冷却器66を備え、温暖化係数の小さい自然冷媒R600aを用いた冷蔵庫60に搭載され、冷蔵室62、上段冷凍室63、下段冷凍室64、野菜室65からなる庫内空間は密閉型圧縮機50の駆動により冷凍サイクル(図示せず)を動作させることにより冷却される。
【0043】
近年、インバータ制御の搭載や冷蔵庫の断熱性能向上により、圧縮機回転速度の低速化が進んでいる。しかし圧縮機回転速度の低速化は、給油能力の低下に繋がる恐れがある。
【0044】
以上詳細に説明した実施形態では、回転数制御圧縮機における低速運転時および高速運転時の両方において、潤滑油を効率よく安定して汲み上げ、摺動部に十分な給油を行い、圧縮機効率を向上することができるとともに圧縮機の信頼性も向上した密閉型圧縮機を提供することができる。
【0045】
また、密閉型圧縮機を適用するシステムとしては、冷蔵庫に限らず冷凍空調用途ではルームエアコンや冷凍機等のシステムに適用することも可能であり、これらの機器のシステム効率を大幅に改善することができる。
【0046】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。