(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138731
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】カーテンエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2346 20110101AFI20170522BHJP
【FI】
B60R21/2346
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-138579(P2014-138579)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-16685(P2016-16685A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンフン
(72)【発明者】
【氏名】伊東 聡
【審査官】
岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−080169(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/054730(WO,A1)
【文献】
特表2010−527830(JP,A)
【文献】
特開2014−091452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータと、
このインフレータの挿し込み部と、インフレータから噴射するガスにより展開する複数のチャンバーと、これらチャンバーと前記挿し込み部とを繋ぐダクトを有し、紡織のみで袋状に形成し、OPW(One-piece Woven)による糸の織り方によって形成した閉じた部分であるシームによって外周が閉じられて袋を形成したエアバッグと、
このエアバッグに挿し込んだ前記インフレータから噴射するガスを、前記ダクト内で車両の前後方向に導出するインナーバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、前記挿し込み部の開口部近傍の下縁と前記ダクトの上縁に前記シームを形成しない部分を設けると共に、これら前記シームを形成しない部分の前記開口部及び前記ダクトと反対側の端部間に前記糸の織り方によって形成した閉じた部分であるシームを前記シームから独立して形成し、前記シームを形成しない部分で、前記インナーバッグを前記エアバッグと一緒に縫製したことを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
前記独立して形成した前記シームの位置は、前記エアバッグの、前記挿し込み部の前記開口部近傍の前記下縁と前記ダクトの前記上縁を繋ぐ円弧状部分であることを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
前記インナーバッグは、
筒状と成した前記エアバッグの前記挿し込み部に位置させるインフレータの挿入部と、この挿入部から前記エアバッグの前記ダクトに至る間に位置させるガス流路部を形成したもので、
前記挿入部の下縁と、前記ガス流路部の上縁と、前記下縁から前記上縁にかけての円弧状部分を縫製によって形成し、
前記挿入部のインフレータの入り口側の端部が前記エアバッグの前記開口部から露出するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項4】
前記縫製は、前記シームと前記シームを形成しない部分とを連続して形成したものであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のカーテンエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両が側方から衝突された時、乗員の頭部を保護するために、ドアウインドウに沿ってエアバッグをカーテン状に展開させるカーテンエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーテンエアバッグ装置は、車体に側部方向から高荷重が作用した時に、インフレータで発生させたガスにより、エアバッグをドアウインドウに沿ってカーテン状に鉛直下向きに展開させるものである。
【0003】
このカーテン状のエアバッグは、例えばロール状に折り畳まれた状態で自動車のルーフサイドレールに取付けられ、ルーフヘッドライニングに覆われて反車室側に格納される。
【0004】
そして、展開時には、展開するエアバッグによりルーフヘッドライニングが車室内側に押されてその先端とピラートリムとの係合が外れ、先端側が車室内側に押し広げられてできた開口部から、エアバッグが車室内にカーテン状に展開する。
【0005】
図4に示すように、前記エアバッグ1はOPW(One-piece Woven:紡織のみ)によって袋状に形成され、挿し込み部1aの内部にインナーバッグ2を配置した状態で、インフレータ3を前記挿し込み部1aの開口部1aaから挿入して取付けている(例えば特許文献1)。このOPWによるエアバッグは、外周がシーム4によって閉じられて袋を形成している。また、バッグの内部では、チャンバを区画するために外周と同様にシーム4bが形成されている。
【0006】
図5に示す縫製仕様の場合、
図2(b)に示すインナーバッグ2のインフレータを挿入する端部2dの下側部分に相当するエアバッグ1の部分、即ち前記挿し込み部1aの開口部1aa付近の下縁1f、チャンバー1bと前記挿し込み部1aを繋ぐダクト1cの上縁1gと、これら下縁1fから上縁1gにかけての円弧状部分1dにはシーム4を形成せず、大きく開口させている。そして、エアバッグ1とインナーバッグ2を一緒にシーム4から連続して縫製5している(
図5(b)(c)参照)。なお、本願発明におけるシームとは、OPW(One-piece Woven)によってエアバッグ1を袋状に形成する時に、糸の織り方によって形成した閉じた部分(特許文献2の
図1の符号2で示した部分、つまり積層された布同士が接合されている部分)を言う。
【0007】
一方、
図6に示すシーム仕様の場合は、エアバッグ1の前記縫製仕様でシーム4を形成しない部分(
図2(b)に示すインナーバッグ2のインフレータを挿入する端部2dの下側部分に相当するエアバッグの部位)もシーム4を形成しているが、インナーバッグ2は、エアバッグ1の挿し込み部1aに挿入するだけで、エアバッグ1に固定していない(
図6(b)(c)参照)。
【0008】
しかしながら、前記
図5に示す縫製仕様、及び
図6に示すシーム仕様の場合、エアバッグ1の展開時に以下のような問題がある。
【0009】
図5に示す縫製仕様の場合は、インナーバッグ2をエアバッグ1に取付ける部分の特に円弧状部分1dを縫製5している箇所からエアバッグ1に供給されたガスが漏れるために、エアバッグ1の内圧保持性能が良くない。
【0010】
一方、
図6に示すシーム仕様の場合は、
図5に示す縫製仕様のようなガス漏れはないが、インナーバッグ2はエアバッグ1に固定されていないので、エアバッグ1の展開時にインナーバッグ2がばたついてエアバッグ1が破裂する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2014−104879号公報
【特許文献2】WO/2013/077798号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、従来のカーテンエアバッグ装置は、縫製仕様の場合、インナーバッグのエアバッグへの取付け部の特に円弧状部分の縫製箇所からガスが漏れ、エアバッグの内圧保持性能が良くないという点である。また、シーム仕様の場合は、エアバッグの展開時にインナーバッグがばたついてエアバッグが破裂する可能性があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような観点に基づき、エアバッグの展開時に、エアバッグからのガス漏れと、インナーバッグのばたつきを効果的に抑制することを目的とするものである。
【0014】
すなわち、本発明のカーテンエアバッグ装置は、
インフレータと、
このインフレータの挿し込み部と、インフレータから噴射するガスにより展開する複数のチャンバーと、これらチャンバーと前記挿し込み部とを繋ぐダクトを有し、紡織のみで袋状に形成し
、OPW(One-piece Woven)による糸の織り方によって形成した閉じた部分であるシームによって外周が閉じられて袋を形成したエアバッグと、
このエアバッグに挿し込んだ前記インフレータから噴射するガスを、前記ダクト内で車両の前後方向に導出するインナーバッグと、
を備え、
前記エアバッグは
、前記挿し込み部の開口
部近傍の下縁と前記ダクトの上縁
に前記シームを形成しない部分を設け
ると共に、これら前記シームを形成しない部分の前記開口部及び前記ダクトと反対側の端部間に前記糸の織り方によって形成した閉じた部分であるシームを前記シームから独立して形成し、前記シームを形成しない部分で
、前記インナーバッグ
を前記エアバッグと一緒に縫製したことを特徴としている。
【0015】
本発明は、紡織のみで袋状に形成したエアバッグのインフレータの挿し込み部の開口部近傍の下縁とダクトの上縁にシームを形成しない部分を設け、このシームを形成しない部分でインナーバッグを一緒に縫製している。従って、エアバッグの展開時に、特にシームを形成した挿し込み部の下縁とダクトの上縁を繋ぐ円弧状部分からガスが漏れず、また、インナーバッグがばたつくこともない。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、エアバッグの展開時にガスの漏れやすい、インフレータの挿し込み部の下縁とダクトの上縁を繋ぐ円弧状部分にシームを形成したので、エアバッグ展開時のガス漏れを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明は、インフレータの挿し込み部の下縁とダクトの上縁のシームを形成しない部分でエアバッグとインナーバッグを一緒に縫製しているので、エアバッグの展開時にインナーバッグがばたつくことがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】カーテンエアバッグ装置の本発明の要部を示した図で、(a)はインナーバッグの挿し込み部分の拡大図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
【
図2】(a)はインナーバッグを挿入しない状態のカーテンエアバッグ装置の本発明の要部を示した図、(b)はインナーバッグを示した図である。
【
図3】エアバッグの内圧の時間変化を示した図で、(a)
図1に示したカーテンエアバッグ装置の場合、(b)は従来の縫製仕様のカーテンエアバッグ装置の場合、(c)は従来のシーム仕様のカーテンエアバッグ装置である。
【
図4】展開状態のカーテンエアバッグ装置を示した図である。
【
図5】従来の縫製仕様のカーテンエアバッグ装置の
図1と同様の図である。
【
図6】従来のシーム仕様のカーテンエアバッグ装置の
図1と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、エアバッグの、インフレータの挿し込み部の開口部近傍の下縁とダクトの上縁を繋ぐ円弧状部分の縫製をなくして、縫製仕様の課題であるガス漏れを抑制することを目的とするものである。加えて、シーム仕様の課題である、エアバッグ展開時のインナーバッグのばたつきを抑制することを目的とするものである。
【0020】
そして、上記目的を、紡織のみで袋状に形成したエアバッグのインフレータの挿し込み部の下縁とダクトの上縁にシームを形成しない部分を設け、このシームを形成しない部分でインナーバッグを一緒に縫製することで実現した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明のカーテンエアバッグ装置の実施例を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1はカーテンエアバッグ装置の本発明の要部を示した図、
図2はインナーバッグを挿入しない状態のカーテンエアバッグ装置の本発明の要部とインナーバッグを示した図である。
【0022】
本発明のカーテンエアバッグ装置は、インフレータ3と、インフレータ3から噴射するガスによりドアウインドウに沿って車室内にカーテン状に展開する、OPWによって袋状に形成したエアバッグ1と、インナーバッグ2とから構成している。
【0023】
このうち、エアバッグ1は、インフレータ3の挿し込み部1aと、車両の前後方向に配置した複数のチャンバー1bと、これらチャンバー1bと挿し込み部1aを繋ぐダクト1cを有している。
【0024】
本発明では、エアバッグ1は、挿し込み部1aにインフレータ3を挿し込む開口部1aa以外に、当該開口部1aaの下縁1fとダクト1cの上縁1gのインナーバッグ2のガス流路部2bと相対する部分にシーム4を形成しない部分1eを設けている。そして、このシーム4を形成しない部分1eでインナーバッグ2をエアバッグ1に縫製5して取付けている。
【0025】
すなわち、本発明は、
図5に示す縫製仕様とは異なり、ガス漏れの発生しやすい、エアバッグ1の、挿し込み部1aの開口部1aa付近の下縁1fとダクト1cの上縁1gにかけての円弧状部分1dに、エアバッグ1の外周を取り囲むシーム4から独立し
たシーム4aを形成しているのである。
【0026】
図3はエアバッグ展開時における内圧の時間変化の一例を示した図であり、(a)は
図1及び
図2に示した本発明、(b)は
図5に示す縫製仕様、(c)は
図6に示すシーム仕様の場合であり、実線は車両前側のチャンバー、破線は車両後側のチャンバーを示す。
【0027】
図3より明らかなように、本発明は、ガス漏れの発生しやすいエアバッグ1の円弧状部分1dに独立したシーム4aを形成しているので、ガス漏れを効果的に抑制することができ、
図6に示すシーム仕様と略同等の内圧を維持できている。
【0028】
一方、
図5に示す縫製仕様は、ガス漏れの発生しやすいエアバッグ1の円弧状部分1dにシーム4を形成しておらず、インナーバッグ2と一緒に縫製5しているので、この縫製5した箇所よりガス漏れが発生して、内圧が低下している。
【0029】
加えて、本発明では、インナーバッグ2をエアバッグ1と共に、外周のシーム4からダクト1cの上縁1gのシームを形成しない部分1eおよび独立
したシーム4aを経由し、挿し込み部1aの開口部1aa付近の下縁1fに至るまで連続して縫製5して取付けているので、ガス漏れを防ぎながらエアバッグ1の展開時におけるインナーバッグ2のばたつきを効果的に抑制することができる。
【0030】
ところで、インナーバッグ2の構成は特に限定しないが、インフレータ3から噴射するガスをエアバッグ1のダクト1cと平行に車両の前後方向に導出するために、
図1及び
図2に示した実施例では、以下のような構成としている。
【0031】
インナーバッグ2は、エアバッグ1の挿し込み部1aに位置させるインフレータ3の挿入部2aと、この挿入部2aからエアバッグ1のダクト1cに至る間に位置させるガス流路部2bを有している。
【0032】
図1及び
図2の実施例では、上記構成を、前記挿入部2aのインフレータ3の入り口付近の下縁から前記ガス流路部2bの上縁にかけての円弧状部分2cを縫製5によって形成している。
【0033】
そして、インナーバッグ2をエアバッグ1の挿し込み部1aからダクト1cに至る部分に位置させたときに、前記挿入部2aのインフレータ3の入り口側(開口部2aa側)の端部2dがエアバッグ1の前記開口部1aaから露出するように形成している。このようにすることで、インフレータ3を確実にインナーバッグ2の挿入部2aに挿し込むことができる。
【0034】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇に含まれるものであれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0035】
すなわち、
図1及び
図2で説明した実施例は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に、本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0036】
例えば、上記の実施例では、エアバッグ1の挿し込み部1aの開口部1aa付近の下縁1fとダクト1cの上縁1gのインナーバッグ2のガス流路部2bと相対する部分にシーム4を形成しない部分1eを設けたが、シーム4を形成しない部分1eは前記部分の一部のみとしてもよい。また、上記実施例では、インナーバッグ2をエアバッグ1に取り付ける縫製5を外周のシーム4から挿し込み部1aにおける開口部1aaの下縁1fにかけて連続して設けているが、シーム4とシームを形成しない部分1eの縫製部の間に隙間が出来ない限り、連続した縫製でなくても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のカーテンエアバッグ装置は、自動車だけでなく航空機や船舶等のサイドウィンドウ部に設置することも可能であり、同様な効果が発揮される。
【符号の説明】
【0038】
1 エアバッグ
1a 挿し込み部
1aa 開口部
1b チャンバー
1c ダクト
1d 円弧状部分
1e シームを形成しない部分
1f 挿し込み部の開口部付近の下縁
1g ガス流路部に相対するダクトの上縁
2 インナーバッグ
2a 挿入部
2b ガス流路部
2c 円弧状部分
2d 端部
3 インフレータ
4 シーム
4a 独立したシーム
5 縫製