【文献】
XiO Inside 内部動作の詳細理解のために,日本,シー・エム・エス・ジャパン株式会社 カスタマーサポート 物理部,2009年 3月 2日,PH_INSIDE_002,URL,http//www.elekta.co.jp/software/download/pdf/03_43pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記身体内の異なる種類の物質間の前記界面は、骨、組織、内臓、空気、水、及び人工インプラントのうちの少なくとも2つの間の界面を含む請求項2に記載の放射線療法システム。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを計算することを更に含む請求項1に記載の放射線療法システム。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを計算することを更に含む請求項4に記載の放射線療法システム。
単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーは、TERMA、KERMA、又はSCERMAのうちの少なくとも1つである請求項1から8のいずれかに記載の放射線療法システム。
前記身体内の異なる種類の物質間の前記界面は、骨、組織、内臓、空気、水、及び人工インプラントのうちの少なくとも2つの間の界面を含む請求項11に記載の放射線療法パラメータをコンピュータが決定する方法。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを、前記コンピュータが計算することを更に含む請求項10に記載の放射線療法パラメータをコンピュータが決定する方法。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを、前記コンピュータが計算することを更に含む請求項13に記載の放射線療法パラメータをコンピュータが決定する方法。
単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーは、TERMA、KERMA、又はSCERMAのうちの少なくとも1つである請求項10から17のいずれかに記載の放射線療法パラメータをコンピュータが決定する方法。
前記身体内の異なる種類の物質間の前記界面は、骨、組織、内臓、空気、水、及び人工インプラントのうちの少なくとも2つの間の界面を含む請求項20に記載のコンピュータ可読媒体。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを計算することを更に含む請求項19に記載のコンピュータ可読媒体。
前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、当該受け取りで与えられる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを計算することを更に含む請求項22に記載のコンピュータ可読媒体。
単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーは、TERMA、KERMA、又はSCERMAのうちの少なくとも1つである請求項19から26のいずれかに記載のコンピュータ可読媒体。
【背景技術】
【0003】
放射線療法は、ガン細胞などの悪性細胞を治療する放射線の医学的利用である。この放射線は、高エネルギー光子などの電磁形式、又は、電子、陽子、中性子、若しくはアルファ粒子などの粒子形式を取り得る。
【0004】
今日、実際に使用されている最も一般的な放射線の形式は、高エネルギー光子である。ヒト組織における光子吸収は、当の組織の原子構造のみならず、放射線のエネルギーによって決定される。放射線腫瘍学で用いられるエネルギーの基本単位は、電子ボルト(eV)であり、10
3eV=1keV、10
6eV=1MeVである。治療用エネルギーにおける光子と組織の間の3つの主要な相互作用は、光電効果、コンプトン効果、及び電子対生成である。
【0005】
光電効果では、入射する光子が、強く束縛された電子にエネルギーを伝達する。光子は、実質的にその全てのエネルギーを電子に伝達し、消滅する。電子は、光子からのエネルギーを持って離れ、周囲の分子をイオン化し始める。この相互作用は、組織の原子番号のみならず、入射する光子のエネルギーに依存する。エネルギーが低く、原子番号が高いほど、光電効果は起こりやすくなる。組織の中で光電効果が支配的となるエネルギー範囲は、約10〜25keVである。
【0006】
コンプトン効果は、ガンの治療に関しては、最も重要な光子−組織相互作用である。この場合、光子は、原子に強く束縛されていない「自由電子」に衝突する。光電効果とは異なり、コンプトン相互作用では光子と電子の両者が散乱される。そして、光子は、より低いエネルギーにあるにもかかわらず、更なる相互作用を受け続ける。電子は、光子から与えられたエネルギーでイオン化し始める。コンプトン相互作用の確率は、入射する光子のエネルギーに反比例し、物質の原子番号には依存しない。コンプトン効果は、約25keV〜25MeVの範囲で支配的であり、それゆえに臨床的に発生する最も一般的な相互作用である。これは、多くの放射線治療が約6〜20MeVのエネルギーで実行されるためである。
【0007】
電子対生成では、光子は原子核と相互作用する。光子は、原子核にエネルギーを与え、その過程で電子−陽電子対の粒子を生成する。正の電子(陽電子)は、電子−陽電子消滅で自由電子と結合するまでイオン化している。電子−陽電子消滅は、反対方向に進む2つの光子を生成する。電子対生成の確率は、入射する光子のエネルギーの対数に比例し、物質の原子番号に依存する。電子対生成が支配的なエネルギー範囲は≧25MeVである。この相互作用は、高エネルギー光子ビームを用いる通常の放射線治療において、ある程度発生する。
【0008】
高エネルギー線形加速器の出現により、電子は、約5cmの深さまでの表在性腫瘍の治療における実行可能な選択肢となった。電子線深部線量特性は、高い皮膚線量を生じさせるが、僅か数センチメートルで減少を示すという点でユニークである。
【0009】
ヒト組織における電子吸収は、気腔及び骨の存在に大きく影響される。電子ビームの最も一般的な臨床的使用には、基底細胞ガンのような皮膚病変の治療と、頭頚部において選択された節部のみならず、乳ガン患者の乳腺腫瘤摘出術、又は、乳房切除術の手術後の傷跡のような以前に光子照射を受けた領域の追加免疫と、が含まれる。
【0010】
高速で正確な線量計算アルゴリズムは、特定の患者に対し所望の放射線量が供給されることを保証するための利用可能な唯一の方法であるため、放射線療法計画にとって重要である。線量計算は、線源モデルと輸送モデルの2つの部分を含む。線源モデルは、入射フルエンスを与える。輸送モデルは、入射フルエンスに起因する線量を計算し、現在のところ性能ボトルネックになっている。3つの主要な輸送アルゴリズムは、精度向上/性能低下の順に、ペンシルビーム法、重ね合わせ/畳み込み法、及びモンテカルロ法である。重ね合わせ/畳み込み法は、体外照射療法での放射線量を計算するための現在の臨床標準方法である。
【0011】
近年、強度変調の使用により、治療の品質が向上した。この技術は、マルチリーフ・コリメータを使用して、単一ビーム方向から複数の開口を定義し、ビームを横切る方向に放射線の強度を可変する能力を提供する。この技術は、ビーム・パラメータの数を大幅に増加させて、放射線治療を標的の形状に適合させるとともに、重要構造物を避けることを可能にする。マルチリーフ・コリメータ設定の最適な組を決定するためには、治療計画システムは、大幅に数が増加されたビーム・パラメータを有する目的関数を、線量計算の複数の繰り返しによって最適化する必要がある。実際に、治療計画者は、患者にとって可能な限り最善な結果を達成するために、最適化を複数回繰り返す。したがって、5本のビームの組に対する1回の最適化が5分掛かる場合には、臨床的に許容できる計画を作り上げるためには、全プロセスは数時間掛かることになる。このことは、臨床作業フローにおける強度変調計画の量及び質の両者を制限する。
【0012】
この臨床作業フローの制限は、体積変調アーク療法(volumetric modulated arc therapy)(K. Otto,Med. Phys. 35,P310-317,2008年)、強度変調アーク療法(intensity modulated arc therapy)(C. X. Yu,Phys. Med. Biol. 40,P1435-1449,1995年)、及び適応放射線療法(adaptive radiation therapy)(D. Yan,F. Vicini,J. Wong,A. Martinez,Phys. Med. Biol. 42,P123-132,1997年)のような、より複雑な技術にまで及ぶ。さらに、この臨床作業フローの制限は、毎日の各患者の走査、再計画、及び治療をする能力である、リアルタイムの放射線療法を妨げる。放射線療法における線量計算の詳細な報告は、Ahnesjo共著(A. Ahnesjo,M. Aspradakis,Phys. Med. Biol. 44,R99-R155,1999年)から入手できる。
【0013】
よって、線量計算の計算性能は、放射線療法計画の品質における制限要因である。従来、治療品質の改善は、より高速なハードウェアにより実現されてきた。しかしながら、ムーアの法則は変わった。18か月ごとに速度が倍になる代わりに、コンピュータはプロセッシングコアの数を2倍にしている。そして、プロセッサがマルチコアになることにより、多数コアアーキテクチャ(many-core architectures)のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPUs)が汎用アルゴリズムを実行する柔軟性を得ている。コンピュータハードウェアの最近の傾向から約束された性能の向上を実現するためには、放射線量計算に用いられる直列アルゴリズムは、並列アルゴリズムに置き換えられるべきである。最近、Nucletron社(Nucletron corporation)が彼らの治療計画システムにおけるGPU加速について発表を行ったが、発表された詳細はまだ利用可能ではない。マルチプロセッシングコア用のマルチスレッドを生成するための現存の直列アルゴリズムの単純な分割は、正常に機能しない。これは、スレッドが、同じ入力データに基づいて同じ放射線量を計算するように作られており、リード/ライト競合(read/write conflict)が容易に発生するためである。例えば、ライト/ライト(write-on-write)(WOW)競合が起こると、最後の書き込みのみが記憶され、不正確な線量計算をもたらす。加えて、リアルタイムの放射線治療計画を実行する従来の方法は、照射物における不連続性に関して良い結果を与えない。よって、照射を受けた人体の不均質な密度分布を考慮に入れるために、向上した放射線量計画方法及びシステムの必要性が残っている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本明細書の記述、図面、及び実施例を考慮することにより、本発明の更なる目的や利点が明らかとなる。
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るシステムの概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、従来の順方向レイ・トレーシングを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る逆射影レイ・トレーシングを示す図である。
【
図4】
図4は、業務用のPinnacleシステム(Philips Radiation Oncology Systems社、米国ウィスコンシン州マディスン市)と本発明の実施の形態とを用いて解析的に計算された、中心軸に沿って単位質量当たりに放出される総エネルギー(TERMA)を示すグラフであり、それぞれ深さ10cmで正規化されている。
【
図5】
図5Aは、順方向トレーシングを用いて計算された、離散化アーチファクト(artifacts)を含むTERMAの半影部(penumbra)スライスを示す図である。
図5Bは、本発明の実施の形態を用いて計算された、離散化アーチファクトを含まないTERMAの同一の半影部スライスを示す図である。
【
図6】
図6A及び6Bは、それぞれ固定ステップサイズと本発明の実施の形態に係る正確な放射線距離とを用いて計算されたTERMAのスライスを示す図である。
【
図7】
図7A及び7Bは、重ね合わせ動作中の傾斜カーネル(kernel)及び非傾斜カーネルを示す図である。
【
図8】
図8A及び8Bは、それぞれ従来の均一サンプリングによるメモリアクセスパターン、及び、計算された狭視野(small field)(5mm)の線量投与スライスを示す図である。
【
図9】
図9A及び9Bは、それぞれ本発明の実施の形態によるメモリアクセスパターン、及び、計算された狭視野(5mm)の線量投与スライスを示す図である。
【
図10】
図10は、業務用のPinnacleシステム(Philips Radiation Oncology Systems社、米国ウィスコンシン州マディスン市)と本発明の実施の形態とにより計算された、中心軸に沿った吸収線量パターンを示すグラフであり、それぞれ深さ10cmで正規化されている。
【
図11】
図11は、業務用のPinnacleシステム(Philips Radiation Oncology Systems社、米国ウィスコンシン州マディスン市)と本発明の実施の形態とにより計算された深さ10cmにおける吸収線量プロファイルを示すグラフであり、それぞれ中間点で正規化されている。
【
図12】
図12は、本発明の別の実施の形態に係る方法を示す機能フロー図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図17】
図17は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図18】
図18は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図19】
図19は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図20】
図20は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図21】
図21は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図22】
図22は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図23】
図23は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図24】
図24は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図25】
図25は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図26】
図26は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図27】
図27は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図28】
図28は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図29】
図29は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図30】
図30は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図31】
図31は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図32】
図32は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図33】
図33は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図34】
図34は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図35】
図35は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図36】
図36は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図37】
図37は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図38】
図38は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図39】
図39は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図40】
図40は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図41】
図41は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【
図42】
図42は、本発明の実施の形態に係る不均質性を補償した重ね合わせ(HCS)を含む結果の幾つかの例を与える。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における実施の形態について、以下に詳しく述べる。実施の形態の記述においては、明瞭化のために特定の専門用語が採用されている。しかしながら、本発明は、そのように選択された特定の専門用語に限定されることを意図するものではない。当業者においては、本発明の広い範囲から逸脱することなく、他の同等の構成要素が採用できること、そして他の方法が開発できることを認識するであろう。本明細書における参考文献の全ては、それぞれの参考文献が個別に組み込まれたかのように参照により組み込まれる。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態における放射線療法システム100の概略ブロック図である。放射線療法システム100は、放射線計画システム101を含み、放射線計画システム101は、更にデータプロセッサ102を含んでいる。データプロセッサ102は、ネットワーク上で配布されるシングルプロセッサ、マルチプロセッサ、分散プロセッサ、及び/又は、それだけに限定されないが、1以上のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPUs)のような並列プロセッサであり得る。データプロセッサ102は、放射線治療対象部位を有する身体105に関わる入力情報を受け取るようになっている。また、データプロセッサ102は、身体105の放射線治療対象部位への放射線治療を施すための出力情報を生成するようになっている。データプロセッサ102は、受け取った入力情報に基づいて、放射線治療を施すための出力情報を決定する際に複数の逆方向レイ・トレーシングの計算を実行できるようになっている。それぞれの逆方向レイ・トレーシングは、線源位置から放射線治療対象部位を通ってトレースする線(ray)が交差する身体の放射線治療対象部位の第1の小部位に対応する第1の物理的特性を計算すること、及び、第1の計算に続いて、第1の小部位よりも線源位置に近い位置で線が交差する放射線治療対象部位の第2の小部位に対応する第2の物理的特性を計算することを含んでいる。放射線計画システム101は、更に、記憶装置107、表示装置108、及びI/O装置109を含んでもよい。記憶装置107は、例えば、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVDドライブ、フラッシュドライブなどがある。表示装置108は、例えば、液晶表示装置(LCD)、ブラウン管(CRT)モニタ、プラズマディスプレイなどである。I/O装置109は、例えば、マウス、キーボード、及びネットワークやデータバス上でのデータ転送用インタフェースなどを含む。
【0021】
放射線療法システム100は、更に、放射線計画システム101と通信する放射線治療システム103を含んでもよい。放射線治療システム103は、更に、放射線源106を含んでいる。放射線源106は、治療のために身体105上に方向付けされる放射線ビームを放射する線源である。放射線源の例としては、X線源、ガンマ線源、電子ビーム源などがある。放射線源106は、更に、ビームを平行にするためのマルチリーフ・コリメータ(MLC)を含んでもよい。MLCのリーフの位置を調節することにより、線量測定士は放射線照射野を身体105の治療部位の形状に一致させることができる。幾つかの実施の形態においては、他のビーム成形及び/又はコンタリングが含まれていてもよい。放射線源106は、対応する線源モデルを有することができる。放射線治療システム103は、放射線計画システム101によって、例えば、身体105の放射線治療対象部位の形状に放射線治療を適合させるように強度変調された放射線エネルギーを供給するように制御されてもよい。
【0022】
放射線療法システム100は、更に、放射線計画システム101と通信し、身体105の経験的データを生成する診断システムを含んでもよい。経験的データは、放射線計画システム101及びデータプロセッサ102への入力情報として使用されてもよく、逆方向レイ・トレーシング計算に使用されてもよい。診断システム104は、身体105の経験的データを得るためのセンサを含む。診断システムの例としては、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴映像(MRI)スキャナ、陽電子放出断層撮影(PET)スキャナなどがある。身体105は、例えば、人間又は動物とすることができる。
【0023】
本発明の実施の形態に係る放射線療法システム100は、データプロセッサ102を含む放射線計画システムを含み、データプロセッサ102は、身体の放射線治療対象部位に関する情報を受け取り、前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される初期エネルギーの計算値を受け取り、単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値に基づいて、前記身体内の他の位置からの散乱による放射線量寄与を含む前記放射線治療対象部位内の複数の位置における放射線量を計算し、前記放射線治療対象部位内の前記複数の位置において計算された前記放射線量に基づいて、前記放射線治療対象部位に放射線治療を施すための放射線療法パラメータを決定するようになっている。前記身体内の他の位置からの散乱による放射線量寄与は、当該身体の密度不連続を考慮したものである。前記計算において考慮される前記身体の前記密度不連続は、当該身体内の異なる種類の物質間の界面を含むことができる。前記身体内の異なる種類の物質間の前記界面は、例えば、骨、組織、内臓、空気、水、及び人工インプラントのうちの少なくとも2つの間の界面を含むことができる。しかしながら、異なる密度の物質間のあらゆる界面は、本発明の全体的な概念の中に含まれる。
【0024】
幾つかの実施の形態では、前記放射線治療対象部位内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記放射線量の前記計算は、カーネル関数で重み付けされた前記身体内の前記複数の位置にわたる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの積分を含むことができる。これは、例えばコンボリューション積分であり得る。幾つかの実施の形態では、前記カーネル関数は、前記身体における密度変化を考慮するための経験的に決定された有効密度関数を含むことができる。
【0025】
幾つかの実施の形態では、前記積分は、第1の放射線ビームエネルギーに関するものであり得る。また、幾つかの実施の形態では、前記放射線治療対象部位内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記放射線量の前記計算は、第2の放射線ビームエネルギーに関し、カーネル関数で重み付けされた前記身体内の前記複数の位置にわたる単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの第2の積分を更に含むことができ、前記放射線治療対象部位内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記放射線量の前記計算は、前記第1及び第2の積分の加算を更に含む。これは、幾つかの実施の形態では、2以上のエネルギーに拡張することができる。例えば、本発明の幾つかの実施の形態において、4以上の異なるエネルギーにおける4以上の積分が実行される。
【0026】
幾つかの実施の形態では、放射線療法システムは、前記身体内の複数の位置に関して単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの計算値の前記受け取りの前に、単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーを計算することを更に含むことができる。以下に詳しく記載するように、この計算はTERMA計算であってもよいが、これに限定されない。しかしながら、他の実施の形態では、この計算は、単位質量当たりに放出される運動エネルギー(KERMA)計算、及び/又は、単位質量当たりに放出される散乱エネルギー(SCERMA)計算であるか、あるいは、それらを含むことができる。幾つかの実施の形態では、単位質量当たりに放出される前記初期エネルギーの前記計算は、逆射影レイ・トレーシング計算を含むことができる。
【0027】
幾つかの実施の形態では、前記放射線治療対象部位に放射線治療を施すための前記放射線療法パラメータの前記決定は、放射線治療手順の間にリアルタイムで実行される程に十分に高速にできる。
【0028】
重ね合わせ/畳み込みアルゴリズムが、線量分布の正確な計算を行うことが明らかになっている(T.R. Mackie,J. W. Scrimger,J.J. Battista,Med. Phys. 12,P188-196,1985年、T.R. Mackie,A. Ahnesjo,P. Dickof,A. Snider,Use of Comp. In Rad. Ther.,P107-110 1987年、T.R. Mackie,P.J. Reckwerdt,T.R. McNutt,M. Gehring,C. Sanders,Proceedings of the 1996 AAPM Summer School,1996年)。これは2つの段階を含んでいる。まず、入射フルエンスは、各位置における単位質量当たりに放出される総エネルギー(TERMA)を算出するために、患者の密度表現を介して移送される。次式(1)に示すように、点r'における特定のエネルギーEのTERMA、T
E(r')は、水と比較した質量密度ρ
md(r')及び点r'における線減衰μE(r')で重み付けされたエネルギーEのフルエンスΨ
E(r')として定義される。
【数1】
【0029】
線減衰係数μ
E(r')も、原子物質に依存する。コンプトン散乱は、放射線療法に関連するメガボルトのエネルギー範囲で支配的であり、また、物質ではなく電子密度に依存するので、臨床的には、標準的なCT値と正常なヒト組織の密度との間に区分的線形関係がある。一般に、このエネルギー範囲においては、非コンプトン相互作用は無視できると考えられる。点r'におけるエネルギーEのフルエンスΨ
E(r')は、次式(2)により、線源の焦点sとr'方向におけるエネルギーEの入射フルエンスΨ
E,0(r')とで決定される。
【数2】
【0030】
その後、重ね合わせ/畳み込みアルゴリズムが、各位置における最終線量を決定するため、線量投与カーネル(dose deposition kernel)により、このエネルギーを拡散する。線量投与カーネルが組織の不均質性に現実的にスケールすることができるように、次式(3)に基づいた(重み付けされた電子密度ρ
edとして知られる)2点間の放射線距離d
ρ(r,r')が用いられ、それが重ね合わせと畳み込みとを区別する。
【数3】
【0031】
点rにおける線量D(r)は、次式(4)により、エネルギー依存性の線量投与カーネルK
Eにより重み付けされた、TERMAボリュームにわたる積分から算出される。標準的な崩壊円錐カーネル(collapsed cone kernel)は、点とカーネル軸との間の放射線距離と相対角度ωによりインデックスされ、幾何学的距離の二乗効果を欠くことになる。
【数4】
【0032】
一般に、式(4)のように、各ボクセルの単一エネルギーの寄与は計算されない。その代り、式(5)及び式(6)に基づく式(7)のように、1つの多エネルギーカーネルを用いて、線角度ωと方向νの離散集合が選ばれ積分される。これは、距離の二乗効果による、カーネルのほぼ指数関数的な減少、及び、大幅に抑制されたあらゆる1つの遠位のボクセルの寄与により正当化される。距離の二乗効果は、線が表す立体角のボリュームの増加により打ち消される。線方向は、幾何学的及びカーネルエネルギー要因がバランスするように選ばれる。
【数5】
【数6】
【数7】
【0033】
従来、TERMAは、入射フルエンスを投与する1組の線をボリュームに投射することで、式(1)及び式(2)により計算される。数値的な正確さのためには、各TERMAボクセルをおよそ4本の線が通過し、減衰が患者の表面から始まり、各ボクセルへのフルエンスがそのボクセルに寄与した線の全長で正規化されるべきである。この正規化は、発散線源(diverging source)による通常の逆二乗のフルエンスの減少を除去する。したがって、正規化は、通常、TERMAグリッドに再度適用されなければならない。臨床的に許容できる速度増加では、各ボクセルにおいて、線軸に合わせて線量投与カーネルを傾斜させないことになっている。この場合、発散補正を線量グリッドに適用するとより正確になる(N. Papanikolaou,T.R. Mackie,C. Meger-Wells,M. Gehring,P. Reckwerdt,Med. Phys. 20,P1327-1336,1993年)。
【0034】
TERMAは、ビームスペクトルに強く依存している。スペクトルは、ビーム軸に対して回転対称で、物質の深さによって硬くなる。硬くなったスペクトルとは、スペクトルが高エネルギー成分により多く支配され、低エネルギー成分がビーム外により優先的に散乱及び吸収されることを意味する。従来、減衰は、参照テーブルを用いてモデル化され、参照テーブルは、線減衰参照テーブルと組み合わされると、深さ、密度、及び軸外し角の軸を有する。また、このテーブルは、固定ステップ・レイ・キャスティング(ray-casting、線投射)アルゴリズムの使用を必要とし、それにより、伝統的にコストがかかる指数関数を評価することを各ステップで回避している。パフォーマンス上の理由によって臨床的に許容されてはいるものの、この参照テーブルは、均質な媒体を仮定している。不均質な組織は優先的に異なるスペクトルを減衰させるので、これは正しくない。さらに、固定ステップサイズと離散化された線は、数値的なアーチファクト(artifact)を生じさせる。
【0035】
線量投与カーネルもまた、各ボクセルにおいて、エネルギースペクトルへの依存性を持っている。しかしながら、1つの多エネルギーカーネルは、非物理ビームスペクトル(non-physical beam spectrum)とともに用いられたときに、臨床的利用において十分に正確であることが示されており、現在の標準治療となっている。複数の多エネルギーカーネルは、複数の単一エネルギー光子を水球体の中心において相互作用させるモンテカルロ・シミュレーションを用いて生成される複数の単一エネルギーカーネルのスペクトルを組み合わせるとともに、その球体全域に投与された線量を集計することにより生成される(A. Ahnesjo,P. Andreo,A. Brahme,Acta. Oncol. 26,P49-56,1987年,T. R. Mackie,A. F.Bielajew,D.W.O. Rogers,J. J. Battista,Phys. Med. Biol. 33,P1-20,1988年)。
【0036】
画像処理のアルゴリズムは、明らかに並列又はグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)アーキテクチャに適合されている。例えば、従来のグラフィックスシステムに適合された様々なレイ・キャスティング、レイ・トレーシング、及びボリューム視覚化アルゴリズムがある。しかしながら、放射線療法の線量計算は、根本的に線とボリュームとの相互作用に関係するものであり、視覚化アルゴリズムは、その積分や最大値などの線の特性に関心があるものである。この特徴が、視覚化用に開発された多くの並列レイ・トレーシングアルゴリズムを放射線療法に適用できないようにしている。従来のTERMAアルゴリズムの一部は、表面的にはボリューム・レイ・キャスティングに類似しており、以前(J. Kruger、R. Westermann、2003年)において行われたようなGPU実装を愚直に適合させてはいるものの、実用的ではなく、正確な結果を生成することができない。線量投与は、主に電子の相互作用を扱うので、視覚化アルゴリズムとは根本的に異なる。
【0037】
本発明の実施の形態によれば、NVIDA社のCompute Unified Device Architecture(CUDA)ソフトウェア開発環境とDigital Mars社のDプログラム言語の組み合わせを用いて、重ね合わせ/畳み込みアルゴリズムをGPUに適合させることができる。以下に、その適合の詳細を述べる。
【0038】
上述のように、重ね合わせ/畳み込みは2段階のアルゴリズムであり、最初にTERMAが計算され、それから線量投与カーネルが重ね合わされる。
【0039】
TERMA計算の間には、標準的な順方向TERMAアルゴリズムが実行されてもよい。この方法は、それを並列稼働させた場合にリード/ライト競合をもたらす重複分散累積(overlapping scattered accumulation)を必要とする。リード/ライト競合は、複数のスレッドが同時に読み出し、処理し、そして同じメモリに書き込みをしようとするときに起こり、最後の更新のみが記録されることになる。これは、各ボクセルに寄与する線の有効な数を、数値的精度に必要な限度未満まで激減させてしまう。しかしながら、線源の発散の性質は、常に1ボクセル分離れたことが保証された線の組を生成するために利用されてもよい。個々の組は十分大きいためGPUで効率良く実行されるものの、このシリアライゼーションは過剰なGPUのコール・オーバーヘッドを引き起こす。従来の3次元スペクトル減衰参照テーブルは、テクスチャ・キャッシュの大きさを超えてしまい、パフォーマンスが低下する。共有メモリを用いてレジスタの使用を低減し、個々のスペクトル・ビンを個別に減衰させることにより、パフォーマンスの改善ができる。このことは、参照を、エネルギーと密度でパラメータ化された線減衰係数の小さな2次元テクスチャに減少させた。これは、GPUにおいて、ハードウェア加速された指数関数で可能にできる。不均質な媒体においてスペクトルが正確に減衰されるので、精度も改善される。しかしながら、数値的精度に必要とされる線の数は解像度との間に不明確な関係を示し、後述するように、離散化効果は確かであるが、演算は線量計算総時間のかなりの割合を占める。
【0040】
これらの課題は、本発明の実施の形態による逆射影TERMAアルゴリズムにより回避することができる。式(1)、式(2)、式(5)を再整理して、入射フルエンスΨ
E,0(r')をスペクトル重み(spectral weight)w
Eと正味のフルエンスファクタΨ
0(r')とに分離し、減衰ファクタを定義することにより、次式(8)が得られる。
【数8】
【0041】
図2は、従来の順方向レイ・トレーシングを示している。
図3は本発明の実施の形態に係る逆射影レイ・トレーシングを示している。各TERMAボクセルから線を線源側に投射し、その方向に沿って正味の減衰を収集することにより、患者との境界に達したときの早期線停止(early ray termination)を達成でき、パフォーマンスと精度の両者を増強することができる。上記で定義された減衰ファクタの計算においては、量μ
E/ρ
mdに関して、あらかじめ編集された参照テーブルが用いられてもよい。例えば、この量を、放射線治療部位のハウンズフィールド単位(Hounsfield unit)でのCT画像に基づいて、この参照テーブルから検索してもよい。スペクトル重みw
Eは、例えば、放射線治療用の放射線源のモデルに含まれてもよく、各スペクトル・ビンは、与えられた線に対し個別に減衰されてもよい。
【0042】
そして、次式(9)により、各ボクセルの正味の減衰に、線源からそのボクセルへの正味の入射フルエンスを掛けることにより、TERMAが計算される。
【数9】
【0043】
図4は、業務用Pinnacle
3システム(Philips Radiation Oncology Systems社、米国ウィスコンシン州マディスン市)を用いて、本発明の実施の形態に従って解析的に計算された、中心軸に沿ったTERMAエネルギーを示しており、それぞれ深さ10cmで正規化されている。
【0044】
式(9)は、標準の順方向方法のO(n
〜3)アルゴリズムではなく、O(n
4)アルゴリズムであるが、各スレッドはそれぞれ独自のボクセルにのみ書き込みし、それにより、リード/ライト競合を回避している。このアルゴリズムは、テクスチャメモリに対し合体したリードアクセス(coalesced read access)を許容し、これによりメモリのパフォーマンスが大幅に強化される。標準の順方向及び逆射影レイ・トレーシングアルゴリズムの両者は、様々な臨床解像度にわたって使用されてもよく、フルエンス照射野(fluence field)のみが変更された場合は、計算上のコストの高い減衰ボリュームを対話的利用(interactive use)中、又は強度変調最適化中に一度、計算してもよい。本発明の実施の形態によれば、この事前計算は、多次数の大きさのパフォーマンス改善を提供することができる。
【表1】
表1:標準の順方向、逆射影、近似TERMA計算方法でのパフォーマンス。強度変調中に有用な入射フルエンス照射野の更新のみのパフォーマンスも含む。
【0045】
表1において、従来のレイ・キャスティングアルゴリズムに対する減衰ボリュームベースのTERMAアルゴリズムの相対的なパフォーマンスを、様々な解像度で比較した。両者の方法は、物理的に正確なマルチスペクトル減衰を組み入れており、GPU用に最適化されている。順方向レイ・トレーシングに用いられたレイ・キャスティングは、リード/ライト競合を起こし得る。レイ・キャスティングのスケーラビリティは、スイートスポット(sweet spot)と、各ボクセルを横切る線の必要数を維持するために必要とされるパラメータの微調整と、を示す。微調整は面倒であり、非常に分かりにくい。逆射影レイ・トレーシング計算による減衰ボリュームベースのTERMA演算は、理論的なO(n
4)より僅かに改善されたO(n
3.76)の実験的なパフォーマンスを示している。本発明の実施の形態によれば、逆射影レイ・トレーシングの計算は、リード/ライト競合の影響を受けない。標準の均質物質の近似をする高速な近似放射線深度ベースの減衰アルゴリズムは、約8倍のスピードアップをもたらした。治療計画における強度変調に一般に使用される入射フルエンスの更新のみのパフォーマンスは、強度変調の欄に表されている。
【0046】
逆射影レイ・トレーシング計算の長所の1つは、線の離散化によるアーチファクトの排除である。これは、ラスタ化の方法(J. Amanatides,A. Woo,Eurographics'87,Conference Proceedings,1987年)と同様に、逆射影レイ・トレーシング方法においては正確な放射線経路を用いることができるからで、それにより、線当たりのボクセル当たりのメモリアクセスを1つに削減し、関係する離散化アーチファクトを排除している。
図5A及び5Bは、固定ステップサイズと、本発明の実施の形態に係る正確な放射線距離とをそれぞれ用いて計算されたTERMAのスライスを示している。
【0047】
さらに、物理的に正確なマルチスペクトル減衰(H. H. Liu,T. R. Mackie,E. C. McCullough,Med. Phys. 24,P1729-1741,1997年)を、逆射影レイ・トレーシングの計算に適用することができる。相互作用的なビーム角の変化に関しては、物理的に正確なマルチスペクトル減衰のない単純な変形を実装することができ、これは現行の臨床システムで一般に使用され、顕著なパフォーマンスの改善をもたらすことができる。TERMA計算の間には、物理的に正確なマルチスペクトル減衰(H. H. Liu,T. R. Mackie,E. C. McCullough,Med. Phys. 24,P1729-1741,1997年)を、逆射影レイの計算に用いることができる。現行の臨床標準は、物理的に正確なマルチスペクトル減衰のない固定ステップ、高速、近似の順方向方法である。キャッシュされた減衰ボリュームの使用は、本発明の一部の実施の形態で特定されるように、TERMA計算を加速するために用いることができる。
図6Aは、マルチスペクトル減衰なしの標準的な順方向レイ・トレーシングを用いて計算された、離散化アーチファクトを含むTERMAの半影部スライスを示している。
図6Bは、マルチスペクトル減衰を伴う本発明の実施の形態で計算された、離散化アーチファクトを含まないTERMAの同一の半影部スライスを示している。
【0048】
一旦TERMAが計算されると、吸収放射線エネルギー量を算出するために、線量投与カーネルの重ね合わせを用いることができる。重ね合わせには2つの標準的な形式がある。順方向形式は、TERMAボクセルからの線量を周囲の線量ボクセルに拡散する。複数のTERMAボクセルが各線量ボクセルに寄与するので、この順方向形式は、それぞれの患者ボクセルへの線量を計算する必要があり、リード/ライト競合の影響を受けてしまう。逆カーネル形式は、周囲のTERMAボクセルから線量ボクセルへの寄与を収集する。これは、関心ボリュームへの線量のみが計算されるので演算効率が良い。これは線量投与カーネルが可逆なためである。
【0049】
図7A及び7Bは、重ね合わせ動作中の傾斜カーネル及び非傾斜カーネルを示している。厳密には、標準的な重ね合わせにおけるカーネル傾斜の使用は、カーネルが可逆的であるという前提を崩すことになる。しかしながら、線源が離れていることとカーネルの急速な減少を仮定すると、可逆性は、まだ妥当な仮定であり、臨床的に使用される。とはいえ、カーネルの急速な減少は、一般的な臨床解像度での数値的なサンプリングの課題も引き起こしている。2つの標準的な選択肢がある。累積カーネル(cumulative kernel、CK)(A. Ahnesjo、Med. Phys. 16、P577-592、1989年)は、次式(10)により、線セグメント(ray segment)から点への線量投与を表している。
【数10】
【0050】
累積・累積カーネル(cumulative-cumulative kernel、CCK)(W. Lu,G. H. Olivera,M. Chen,P. J. Reckwerdt,T. R. Mackie,Phys. Med. Biol. 50,P655-680,2005年)は、線セグメントから線セグメントへの線量投与を表している。
【数11】
【0051】
両者は、特定の放射線深度をd
r、角度をωとして、標準的な点から点へのカーネルK(d
r,ω)の積分によって導かれる。
【数12】
【数13】
【数14】
【0052】
特に粗い解像度では、より正確ではあるが、従来、CCK形式がCK形式より50パーセント遅い。しかしながら、メモリアクセスをキャッシュして専用の線形補間ハードウェアを提供するGPUのテクスチャユニットは、無視できるほどのパフォーマンスの低下で、CCK形式を使用することが可能になる。したがって、累積・累積カーネルにより、重ね合わせ計算を強化することができる(W. Lu,G. H. Olivera,M. Chen,P. J. Reckwerdt,T. R. Mackie,Phys. Med. Biol. 50,P655-680,2005年)。
【0053】
シリアルCPU実装は、全ての指数を1ボクセルずらすことで、レイ・キャスティング指数計算を再使用することを可能にする。しかしながら、このことは、カーネル傾斜を妨げ、表2で説明するように、軸外し角の大きいところでエラーが生じる。それに対し、本発明の一部の実施の形態を実行したGPUでは、傾斜カーネル及び非傾斜カーネルの両者を計算することが可能である。カーネル傾斜は、従来、300パーセントのパフォーマンス・ロスをもたらしていたが(H. H. Liu,T. R. Mackie,E. C. McCullough,Med. Phys. 24,P1729-1741,1997年)、本発明の実施の形態を実行したGPUでは、19パーセントのみのパフォーマンス・ロスとなっている。
【0054】
重ね合わせ動作が粗い解像度での精度を維持し、カーネルが端部で急速な減少を示すので、本発明の実施の形態によれば、各線を真の立体角として近似する多解像度(multi-resolution)重ね合わせアルゴリズムを採用することができる。線とは異なって、立体角の幅は幾何学的距離によって増大する。離散化ボリュームでは、線の幅はボクセルの幅に比例する。したがって、幾何学的距離でボクセル幅を増大することにより、線は立体角を近似することができる。また、この近似は、対数的にステップサイズを増大し、計算複雑度をO(ωDT
1/3)からO(ωDlog(T
1/3))に縮小することにより、パフォーマンスを向上させる。ここで、ωは角数、Dは線量ボクセル数、TはTERMAボクセル数である。
【0055】
標準的な方法に比べ、本発明の実施の形態に係る多解像度重ね合わせは、興味深い精度のトレードオフを示す。表2は、本発明の実施の形態に係る多解像度重ね合わせアルゴリズムの精度を、複数の照射野サイズとカーネル線サンプリングにわたって標準的方法と比較している。本発明の実施の形態に係る多解像度重ね合わせアルゴリズムは、幾何学的に線が当たらないTERMAがより少ないので、半影部及び低線量部位においては、狭視野サイズに関しては通常良い性能を発揮することができる。しかしながら、高線量部位における精度は、より大きいステップではビームの境界がぼやけてしまうので、僅かに低下している。本発明の実施の形態の変形として、同一ステップサイズを使用するけれども多解像度のデータ構造を使用しない多解像度重ね合わせアルゴリズムの変形は、キャッシュパフォーマンスの低下を示し、平均誤差を平均して60パーセント増大させる。
【表2】
表2:照射野サイズ1cmから23cmでの最大投与線量D
maxに対する平均投与線量エラーの平均。エラーは、0.3D
maxより大きい線量勾配を有するとして定義された半影部位と、0.2D
max未満の低線量部位とを含む部位で分類されている。照射野は矩形で、サイズは深さ10cmで定義された。基準線量投与は、4608本の線でサンプリングされ、傾斜カーネルを用いて計算された。ペンシルビームの精度は、重ね合わせカーネルを半径3cmで切り捨てることにより近似された。絶対値2〜5%の線量測定エラーは、臨床的に許容される(A. Ahnesjo,M. Aspradakis,Phys. Med. Biol. 44,R99-R155,1999年)。
【0056】
まばらな線サンプリングによりビーム全体が全く当たらない場合に起こる狭視野のアーチファクトは、本発明の実施の形態によれば、多解像度グリッドを用いて低減させることができる。
図8A及び8Bは、それぞれ従来の均一サンプリングによるメモリアクセスパターン、及び、計算された狭視野(5mm)の線量投与スライスを示している。
図9A及び9Bは、それぞれ本発明の実施の形態による多解像度グリッドを用いたメモリアクセスパターン、及び、計算された狭視野(5mm)の線量投与スライスを示している。
【0057】
しかしながら、より大きいステップサイズは、線量投与カーネルの精度を低下させる。隣接ボクセルが粗い解像度の異なるボクセルを横切っている場合、アーチファクトがもたらされる。なお、本実装は、本質的に等方的であり、非均一角サンプリングの利益を低下させる傾向があることが分かっている。
【0058】
多解像度アルゴリズムは、計算の効率が良く、キャッシュパフォーマンスが良いことから、ボリュームミップマップ(volumetric mip-map)(L. Williams,SIGGRAPH Comput. Graph. 17,3,P1-11,1983年)を使って実行することができる。解像度の変更は、ステップ当たり最大1回に制限され、より粗い解像度のボクセルの境界での発生のみが許容される。これにより、TERMAボクセルが、複数回同じ線量ボクセルに寄与することを回避できる。
【0059】
Compute Unified Device Architecture(CUDA)のパフォーマンスを最適化するためには、幾つかの戦略を用いることができる。CUDAの実行モデルは、ファンクション(カーネルと呼ぶ)を実行するスレッドの3次元ブロックの2次元グリッドである。各ブロックは、1つの並列ワークユニットを表し、したがって、大きさが制限されている。ブロックスレッド数は、NVIDIA社のCUDAオキュパンシ・カルキュレータ(CUDA occupancy calculator)を用いて最適化されている。ボリューム処理については、スレッドとx及びy方向のボクセルとの1:1のマッピングが用いられる。z方向は、z指数を増やしたボクセル当たりのファンクションのループ処理を行うことで取り扱える。ストライドはzブロックの大きさでよく、それはスレッドの空間結束性(spatial cohesion)を維持するものである。CUDAは現在は3次元ブロックの3次元グリッドにも対応している。立方体状のブロックの大きさによって強化されるスレッドの空間結束性の増大は、キャッシュミスを低減し、パフォーマンスを改善することができる。全ての入力アレイデータは、通常はテクスチャでキャッシュされ、重ね合わせの場合には、およそ2倍のパフォーマンスの改善をもたらす。共有メモリは、多解像度ボリューム構造アレイ(array multi-resolution volume structures)をキャッシュするために用いられる。また、共有メモリは、マルチスペクトルTERMA計算用のレジスタのパフォーマンスの改善をもたらす。高エネルギービームに十分であり、バンク競合(bank conflict)を起こさないことを満足する最大21個のエネルギー・ビンが選ばれる。
【0060】
本発明の実施の形態に係るTERMA演算と重ね合わせの両段階では、標準の固定ステップサイズのレイ・キャスティングアルゴリズムは、線のラスタ化(J. Amanatides,A. Woo,Eurographics'87,Conference Proceedings,1987年)と同様に、正確な放射線経路方法に置き換えられてもよい。
【0061】
図10は、業務用のPinnacleシステム(Philips Radiation Oncology Systems社、米国ウィスコンシン州マディスン市)と本発明の実施の形態とにより計算された、中心軸に沿った吸収線量パターンを示すグラフであり、それぞれ深さ10cmで正規化されている。
図11は、業務用のPinnacleシステムと本発明の実施の形態とにより計算された深さ10cmにおける吸収線量のプロファイルを示すグラフで、それぞれ中間点で正規化されている。
【0062】
重ね合わせ/畳み込みのような輸送アルゴリズムの定量分析は、放射線治療用の放射線源の線源モデルからの入射フルエンスへの強い依存性によって複雑になる(R. Mohan,C. Chui,L. Lidofsky,Med. Phys. 12,592-597,1985年,T. R. McNutt,Dose Calculations,Philips白書)。線源モデルは、同様に、測定線量と計算された線量との誤差を最小にするために最適化される必要がある。よって、線源モデルは、しばしば輸送アルゴリズムにおけるエラーをマスクすることがある。さらに、業務用システムは、別個の電子汚染モデル(electron contamination model)を含んでいることがある。本発明の実施の形態を用いて行われた予備実験では、単純な線源モデルのみが検討された。予備実験は、業務用の治療計画システムのモデリングパラメータを用いたものと同様の結果をもたらし、表3に示すように、1桁分の速度改善がもたらされた。
【表3】
表3:立方体水ファントムでの線量エンジンのパフォーマンスの比較。比率はボリューム/秒(VPS)で表す。32線の傾斜カーネルは、80線の非傾斜カーネルよりもより正確である(表2参照)。適応型マルチグリッド法(非実装)は、臨床データでおよそ2倍のスピードアップ係数を呈する。
【0063】
実験では、Varian 6EX線形加速器からの臨床データに対して、Pinnacle
3(Philips社、ウィスコンシン州マディスン市)治療計画システムを用いて臨床参照が生成され、線量投与、TERMA、送信アレイ、スペクトル、質量減衰テーブル、及び単一エネルギー線量投与カーネルがもたらされた。全ての実験は、AMD Opteron 254(2コア、2.8GHz)上で実行された。タイミング実験は、標準の重ね合わせ/畳み込みエンジンを用い、他のプログラムがアクティブになっていない状態で、少なくとも10回繰り返された。
【0064】
本発明の実施の形態に係るタイミングの結果は、CPUのハイパフォーマンスハードウェアカウンタを用いて、複数回繰り返された。実験は、NVIDIA社のGeForce GTX 280を1個搭載した3GHzのPentium(登録商標) 4上で実行された。80線カーネルは、10頂点×8方位の方向角を用いた。32線カーネルは、4頂点×8方位の方向角を用いた。72線カーネルは、6頂点×12方位の方向角を用いており、80線カーネルよりも高い精度をもたらした(表3参照)。線量エンジンの総合パフォーマンスは、フィルタテクスチャの平坦化(flattening filter texture)やTERMA減衰ボリュームのような再使用可能な計算を除き、線源モデル、TERMA、及び重ね合わせパフォーマンスの合計から決定された。
【0065】
全ての検証は、1辺の長さが25.6cmの立方体水ファントム上で行われた。検証は、標準的な臨床作業負荷を表す64
3ボクセルのボリュームと、付加的な128
3ボクセルの高解像度ボリュームとに対して行われた。本発明の実施の形態としての多解像度重ね合わせ手法は、ボリュームミップマップを利用し、従来の重ね合わせに比べて2〜3倍速く行うことができ、パフォーマンスは、高解像度でより良く拡張されることが示された。
【0066】
図12は、本発明の別の実施の形態に係る方法を示している。この方法は、放射線治療対象部位を有する身体に関する入力情報1201を求めること、ボックス1202において、入力情報1201に基づき、身体から線源位置への方向で、線源位置から身体を通って身体の放射線治療対象部位を交差してトレースする線に沿って、第2の小部位が第1の小部位より線源位置に近い第1と第2の小部位における物理特性を計算すること、ボックス1203において、放射線治療対象部位への放射線治療を施すための出力情報1204を決定することを含む。
【0067】
ボックス1202において、第2の小部位の物理特性が、計算された第1の小部位の物理特性に基づいて計算される。物理特性は、入射放射線ビームから抽出されるエネルギーの相対量を表す減衰ファクタに関する。その一例は、上述の減衰ファクタである。また、入力情報1201は、身体からの経験的データを含んでいてもよい。測定データは、身体の治療対象部位のコンピュータ断層撮影(CT)画像の少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに、ボックス1202において、少なくとも1つのあらかじめ編集された参照テーブルが使用されてもよい。
【0068】
ボックス1203は、更に、放射線治療対象部位に吸収される放射線エネルギーの量を計算するステップ1205を含む。吸収放射線エネルギーは、放射線治療対象部位に及ぶ均一サンプリング、可変サンプリング、多解像度グリッド、又はそれらの変形の少なくとも1つを用いて計算されてもよい。さらに、多解像度グリッドは、線源位置から身体を通ってトレースする線が立体角を近似するように割り当てられる。
【0069】
本発明の更に別の実施の形態は、コンピュータで実行されると、そのコンピュータに上記の方法を実装するソフトウェアを含むコンピュータ可読媒体を含んでいてもよい。
【0070】
重ね合わせ
畳み込み線量輸送アルゴリズム(convolution dose transport algorithm)は、単純な近似に基づいている。線量D
Cは、エネルギー点応答関数(energy point response function)(カーネル)を、患者固有のエネルギー(TERMA)分布(patient specific energy distribution)で畳み込むことによって計算できる。
【数15】
【0071】
しかしながら、この近似は、非写実的な平行ビーム(non-realistic parallel beam)による均質ボリュームにおいてのみ有効である。重ね合わせアルゴリズムは、幾何学的距離の代わりに放射線距離を用いてカーネルをインデックスすることによって、畳み込みに改善を加える。この改善は、放射対称性を用いて極座標で畳み込みを計算することによってなされた。極座標変換はカーネル傾斜を許容し、これにより、実機の射影形状(projection geometry)をより良くモデル化し、距離の二乗の項を不要とする。座標変換の解像度は、サンプリング線の数νによって制御される。本発明の実施の形態によって、逆カーネル形式を実行し、これにより、傾斜及び非傾斜カーネルの両者、並びに、カーネルを積分して線セグメントから点への線量をモデル化する累積カーネル(CK)、及び、カーネルを二重積分して線セグメントから線セグメントへの線量をモデル化する累積・累積カーネル(CCK)の両者で、作業及びキャッシュが効率的になる。
【数16】
【0072】
多重エネルギーの重ね合わせ
式(15)及び(16)の両者は多エネルギー近似を含む。多重エネルギーの特定のTERMAボリュームを計算して、個々の単一エネルギーカーネルを重ね合わせる代わりに、従来の実装は、1つの多エネルギーTERMAボリュームを計算して、1つの多エネルギー重ね合わせを適用していた。この近似は、モンテカルロで導かれたものより厳しくバイアスされた、手動で特定されたスペクトルで良く機能する。モンテカルロで導かれたスペクトルで重ね合わせを実行することは、浅い深さでの線量の過大見積りをもたらす。これは、低エネルギーの光子が高エネルギーのカーネルによって重ね合わせられるためである。さらに、カーネル及びTERMAスペクトルは、深さ又はウェッジによるビーム硬化のために自然に発散する。カーネルハードニングとして知られる技術は、あらかじめ硬化された多エネルギーカーネル間で線形補間することによって、深さに依存するスペクトル変化を補正するように試みるものである。
【0073】
これらの課題に取り組むために、我々は重ね合わせアルゴリズムをベクトル化した。我々は、単調なスプライン補間を用いて、各スペクトルを、等しく重み付けされたN
T及びN
S/Cのエネルギー・ビンに離散化された累積関数として表す。TERMAは、1回のレイ・トレーシングを用いて、N
Tのエネルギー・ビンを効率的に計算することができるため、我々はTERMAに関してはN
T、重ね合わせに関してはN
S/Cのように別々の離散化を用いるが、本発明の実施の形態によれば、我々は重ね合わせをレイ・トレーシングごとに4つのエネルギー・ビンに制限する。これはGPUのビルトイン・テクスチャの制限である。4より大きいN
S/Cに関しては、多重フルエンス輸送(multiple fluence transports)を実行する。
【数17】
我々は、例としてN
T={16,32,64}、及び、N
S/C={1,2,4,N
T}で実験した。
【0074】
不均質性を補償した重ね合わせ
重ね合わせの精度は、TERMA分布の電子平衡に大きく依存する。電子平衡は、密度とTERMAにおける同時勾配により乱される。このことは、界面付近や、低又は高変調照射野に関して重大なエラーを引き起こす。経験的にこれらのエラーは、高密度から低密度への転移後の線量の過大見積り、及び、低密度から高密度への転移後の線量の過小見積りとして現れる。理論的な見地からすれば、これらのエラーが起こるのは、重ね合わせは、1次の電子散乱現象をモデル化しているが、全ての2次の散乱衝突をモデル化している訳ではないためである。
【0075】
本発明の実施の形態による新しいアルゴリズムである、不均質性を補償した重ね合わせは、重ね合わせアルゴリズムに2次の散乱衝突のモデルを導入する。与えられたボクセルの密度を直接サンプリングして放射線距離を計算する代わりに、我々は、それをランダムウォークの近似でフィルタリングする。
【数18】
【0076】
我々は、ランダムウォークを近似するために、指数関数を用いることを選択した。指数関数は、指向性線源(我々のケースでは1次の散乱現象)からの電子線量投与の近似を提供することができる。
【数19】
【0077】
指数関数は、線形再帰型フィルタを用いて非常に効率的に実行することもできる。従来から、線形再帰型フィルタは、既知の固定ステップサイズのデジタルシステム用に設計されている。正確な放射線経路レイ・トレーシングはサンプル間で可変ステップサイズdtを生成するため、われわれは再帰型指数関数フィルタの固定減衰定数をdtの関数に修正した。
【数20】
【数21】
【0078】
dtは幾何学的距離に関し、電子のランダムウォークは放射線距離に依存するため、我々のフィルタを投与ボクセルの密度を用いてパラメータ化する。投与点を直ちに囲むボクセルからの線量は、電子平衡には余り依存せず、生の密度により依存するため、周囲のボクセル密度の影響を強化する項βを追加した。さらに、周囲近傍の効果を適切に考慮に入れるために、第2の再帰型フィルタとτ
αの値を用いて、レイ・トレーシングの間中αが更新される。我々は、フィルタの可能なあらゆる方向感受性を説明するための角度パラメータF
0を追加した。不平衡の量は密度差に依存するため、我々は密度差の項を追加した。
【数22】
【0079】
このパラメータ空間を研究するために、我々は自動最適化と手動グラフ観察の組み合わせを用いた。我々は、±1/πに限定されたF
0を除く、全てのパラメータを負ではない小さな数に限定した。我々は様々な最適化手法及び目標を利用した。大半の最適化に対して、我々は、深部線量曲線の実施例の組に関する二乗平均二乗誤差(squared average squared-error)を合計した。これらの実施例は、ICCR 2000、24MVの水−肺−水、及び、24MVの水−低密度−水ファントムの研究である。これらのファントムは、同時に適合することが最も難しいために選択された。用いられた誤差は、絶対線量測定エラー(absolute dosimetric error)の代わりにパーセントを用いるという点で従来のガンマメトリックとは異なっている。我々は、深部又は低密度物質における誤差の重みを低減することのないパーセント誤差を用いた。我々は、大きな誤差の重みを増加させる二乗誤差を用いた。我々は、エラーの平均を、実施例のファントムにおける厄介な物質転移(material transitions)を含む3cmから17cmの関心部位に限定した。我々は、再起動のある多解像度の貪欲歩行者(multi-resolution greedy-walker with restarts)を最終的にオプティマイザとして決定した。これは、このオプティマイザが、非常に作業効率が良く、手動のパラメータ空間の探索をガイドするために用いられる極小値のリストを提供するためである。しかしながら、本発明の広範な概念はこの実施例に限定されない。
【数23】
【0080】
本発明の実施の形態の記述においては、明瞭化のために特定の専門用語が採用されている。しかしながら、本発明は、そのように選択された特定の専門用語に限定されることを意図するものではない。当業者においては上記の教示を踏まえて認識されるように、上述の本発明の実施の形態は、本発明から逸脱することなく修正又は変更することが可能である。よって、本発明が、請求項及びその等価物の範囲において、具体的に記述された以外でも実現されることが理解される。