(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138810
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】温度低下中の最後の窒化工程を備える浸炭窒化方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/34 20060101AFI20170522BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
C23C8/34
C21D1/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-539275(P2014-539275)
(86)(22)【出願日】2012年10月8日
(65)【公表番号】特表2014-532810(P2014-532810A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2012069890
(87)【国際公開番号】WO2013064337
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】1159878
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514072621
【氏名又は名称】イーシーエム テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ラピエレ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ランディノワ,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ジラール,イブ
(72)【発明者】
【氏名】ラロ,アルフレッド
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−028541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C8/00−12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部品の浸炭窒化方法において、
温度上昇の工程の後であって焼入れ工程の前に、一定温度で交互に行う浸炭工程及び窒化工程と、
前記焼入れ工程直前に行われ、温度低下を伴う最後の窒化工程と
を備えることを特徴とする浸炭窒化方法。
【請求項2】
前記温度低下は、900℃から800℃までの範囲内の温度に低下するまで実行されること
を特徴とする請求項1に記載の浸炭窒化方法。
【請求項3】
前記温度低下は、10℃/分から1℃/分までの範囲内の温度勾配で実行されること
を特徴とする請求項1に記載の浸炭窒化方法。
【請求項4】
前記温度上昇の工程は、温度上昇のみの段階を有し、
該温度上昇のみの段階の後に、温度上昇が継続される初期窒化段階が続くこと
を特徴とする請求項1に記載の浸炭窒化方法。
【請求項5】
前記初期窒化段階は、700℃から750℃までの範囲内の温度から、860℃から1,000℃までの範囲内の温度まで実行されること
を特徴とする請求項4に記載の浸炭窒化方法。
【請求項6】
前記初期窒化段階の間、温度上昇が、前記温度上昇のみの段階に比べて小さい温度勾配で行われること
を特徴とする請求項4に記載の浸炭窒化方法。
【請求項7】
前記初期窒化段階はある温度ステージを有すること
を特徴とする請求項6に記載の浸炭窒化方法。
【請求項8】
前記初期窒化段階の直後に最初の浸炭工程が続くこと
を特徴とする請求項6に記載の浸炭窒化方法。
【請求項9】
前記初期窒化段階は、3.5℃/分から16℃/分までの範囲内の温度勾配で実行されること
を特徴とする請求項4に記載の浸炭窒化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製部品、特に、限定はされないが、自動車の製造で用いられる部品の浸炭窒化方法に関する。具体的には、本発明は、農業機械、工作機械、又は、航空分野の部品の製造で用いられる部品にも適用される。
【背景技術】
【0002】
一定温度で交互に行う浸炭工程及び窒化工程を備える鋼製部品の浸炭窒化方法は欧州特許第1885904号明細書から知られている。交互に行う浸炭工程及び窒化工程は、加熱工程及び温度均等化工程の後であって、焼入れ工程の前に行われる。変形例として、加熱工程の間、及び/又は、温度均等化工程の間に、温度800℃から窒化ガスを注入することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1885904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述の欧州特許第1885904号明細書の方法を改善すること、即ち、好ましくは、処置時間の短縮と共に、取得する部品の品質を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため、本発明は、鋼製部品、特に、自動車の製造に用いられる部品の浸炭窒化方法を提供する。該浸炭窒化方法は、加熱工程の後であって焼入れ工程の前に、一定温度で交互に行う浸炭工程及び窒化工程を備える。焼入れ直前の最後の窒化工程は冷却を伴う。
【0006】
実際には、既に本発明の一部である観察によれば、浸炭温度よりも低い温度から焼入れを開始することが可能であることがわかる。従って、最後の窒化工程の間の冷却によって、良好な窒化に、より有利な状態で、その後を実行することが可能である。
【0007】
本発明の有利なバージョンによれば、最後の窒化段階は、ある温度のステージを有する。従って、最後の窒化工程は最適な条件で行われる。
【0008】
本発明の他の有益な態様によれば、加熱工程は
、温度上昇のみの段階を有し、
温度上昇のみの段階の後に、加熱が継続される初期窒化段階が続く。好ましくは、初期窒化段階の間、加熱は、
温度上昇のみの段階と比べて小さい温度勾配で実行される。従って、処置時間を増加させることなく、良好な窒化を推進する状態で行われる窒素濃縮が高まる。これにより、後続の窒化工程の1つを短くするか又は取り除くことが可能となり、総処置時間を減らすことが可能となる。
【0009】
本発明の更に他の有益な態様によれば、初期窒化段階は、700℃から750℃までの範囲内の温度から、860℃から1,000℃までの範囲内の温度まで実行される。
【0010】
前述した目的、特徴及び利点と、他の目的、特徴及び利点とは、本発明に係る低圧浸炭窒化方法の種々の具体的な限定されない実施の形態についての下記説明を読むことで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る本発明の浸炭窒化方法の様々な工程を示す簡略図である。
【
図2】他の実施の形態に係る本発明の浸炭窒化方法の様々な工程を示す簡略図である。
【
図3】更に他の実施の形態に係る本発明の浸炭窒化方法の様々な工程を示す簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、本発明に係る浸炭窒化方法は、周囲温度から、図中Ni1で示される温度700℃の点までの連続した直線によって示される最初の
温度上昇のみの段階Mを有する最初の加熱工程を備える。処置されるべき鋼鉄の組成によれば、
温度上昇のみの段階を、700℃から750℃までの範囲内の温度に到達するまで実行してもよい。
温度上昇のみの段階は、10分から90分までの範囲内の継続時間を有する。即ち、単純な加熱は8℃/分から75℃/分までの範囲内の温度勾配で実行される。
【0013】
そして、本方法は初期窒化段階
N1を備え、初期窒化段階
N1の間、加熱工程が、図示された例では、温度940℃まで継続される。実際には、温度940℃は、より良質の処置を達成することが可能な温度860℃から、より速い処置を行うことが可能な温度1,000℃の間の妥協点に相当する。
【0014】
初期窒化段階の第1実施の形態に対応する
図1の実施の形態では、加熱は、規則的にではあるが、単純な加熱の間の温度勾配よりも小さい3.5℃/分から16℃/分までの範囲内の温度勾配で継続する。初期窒化段階は、この初期工程で固着することが望まれる窒素の量と、処置されるべき鋼鉄の組成とに応じて、15分から45分の間続けられる。
【0015】
周知であるように、初期窒化段階は、拡散段階と交互に行われる窒化ガス、例えばアンモニアの注入段階を有する。
【0016】
図2に示される初期窒化段階の第2実施の形態によれば、単純な温度上昇の間と同じ温度勾配で、加熱が、750℃から850℃までの範囲内の温度の点まで継続する。ここで、750℃から850℃までの範囲内の温度の点は、800℃であり、
図2中でNi2と示されている。そして、温度は
図2中でNi3と示される時間まで、ある温度のステージに維持される。この温度から浸炭温度への到達が、強い加熱によって実現される。
【0017】
ステージの温度は、処置されるべき部品の組成を考慮した最適状態で初期窒化段階を行うために、周知の方法で選択される。なお、この点では、このステージを考慮して、部品に、受け入れることができない圧力を与えることがないように、最後の加熱を非常に速く、例えば、80℃/分から100℃/分で実行してもよい。
【0018】
図3によって示される初期窒化段階の第3実施の形態によれば、加熱は、点Ni1から、第1実施の形態での温度勾配よりも小さい温度勾配、好ましくは、2℃/分から8℃/分までの範囲内の温度勾配で、Ni4で示される時間まで継続する。ここで、Ni4で示される時間は温度850℃に対応する。強い加熱によって、温度850℃から浸炭温度への到達が、第2実施の形態の温度勾配と同様の温度勾配に従って実現される。
【0019】
初期窒化段階に関して用いられる如何なる実施の形態でも、本方法は、窒化段階と交互に行うn回の浸炭段階を備える。周知のように、浸炭工程及び窒化工程は、拡散段階と交互に行う図示しない処置ガスの注入段階を有する。図中には、線図が窒化工程N1と最後の浸炭工程Cnとの間に挿入されている。この最後の浸炭工程Cnの終わりに、本方法は、焼入れTの直前に行われて冷却を伴う最後の窒化工程Nnを備える。
【0020】
図中の破線によって示される最後の窒化工程Nnの第1実施の形態によれば、冷却によって、窒化に最適な温度範囲内にある温度への連続的な低下が実現される。一方で、この温度は、効果的な焼入れが可能である程、十分に高い。図示された例では、焼入れ前の最後の温度は840℃である。実際には、900℃から800℃までの範囲内における焼入れ前の最後の温度で、申し分のない結果が得られる。このように制限された温度の低下によって、焼入れの間の部品への圧力が下がることが観測されている。
【0021】
最後の窒化工程は、好ましくは15分から60分の間の継続時間を有する。これは、10℃/分から1℃/分までの範囲内の温度勾配に対応する。初期窒化段階と同様に、最後の窒化工程は、好ましくは、拡散段階と交互に行う窒化ガスの注入段階を有する。
【0022】
図2に示される最後の窒化工程Nnの第2実施の形態によれば、冷却は、最初、強く、鋼鉄に過度な圧力を引き起こさない、可能な限り大きな温度勾配で、処理されている鋼鉄に最適な窒化温度まで下げる。処理されている鋼鉄に最適な窒化温度は、図中Nn1で示され、ここでは840℃である。冷却の後、温度は焼入れの開始まで、ある温度のステージに維持される。
【0023】
実際には、初期窒化段階の任意の実施の形態を、最後の窒化段階の任意の実施の形態と組み合わせることで本発明に係る浸炭窒化方法を実施してもよい。
【0024】
なお、本発明に係る窒化段階の増加された効率に起因して、2つの浸炭工程間に含まれる少なくとも1つの窒化工程を、単純な拡散工程に置き換えることが可能となる。この工程は、窒化工程よりも短いので、総処置時間は短くなる。
【0025】
当然のことながら、本発明は前述した実施の形態に限定されず、例えば、特許請求の範囲で定義される本発明の枠組みから逸脱しない別の実施の形態に本発明を適用してもよい。具体的には、図中の点線によって示されているように、一定の勾配に従って、初期加熱を実行してもよい。
【0026】
本発明は、2011年10月31日に出願されて、その内容(本文、図面及び特許請求の範囲)が参照によって本明細書に組み込まれる仏国特許出願第11/59878号明細書の優先権を主張する。