(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138899
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】自動巻き時計の香箱
(51)【国際特許分類】
G04B 5/24 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
G04B5/24
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-248238(P2015-248238)
(22)【出願日】2015年12月21日
(62)【分割の表示】特願2011-177395(P2011-177395)の分割
【原出願日】2011年8月15日
(65)【公開番号】特開2016-75701(P2016-75701A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】10173354.1
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505072926
【氏名又は名称】イーティーエー エスエー マニュファクチュア ホルロゲア スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100081053
【弁理士】
【氏名又は名称】三俣 弘文
(72)【発明者】
【氏名】サージ ニコールド
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−182878(JP,A)
【文献】
特公昭49−008358(JP,B1)
【文献】
国際公開第2010/061251(WO,A1)
【文献】
実開昭54−048798(JP,U)
【文献】
実開昭48−104363(JP,U)
【文献】
実開昭49−010574(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/20,5/24
A63H 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動巻き時計の香箱において、
ドラム(10)と、メイン・スプリング(20)とを有し、
前記ドラム(10)は、ロッキング構造(13,16)と摩擦表面(12)とを有する内側壁(11)を具備し、前記ロッキング構造(13,16)は、前記摩擦表面(12)との境界に端部(15a,15b)を有し、前記摩擦表面(12)とロッキング構造(13,16)は、交互に配置され、
前記メイン・スプリング(20)は、最外巻回(21)を有する卷回を形成し、
前記最外巻回(21)は、前記内側壁(11)に摩擦結合され、前記メイン・スプリング(20)の巻き過ぎが起こった場合には、前記内側壁(11)に対し滑り、
前記ロッキング構造(13,16)は、側面(17)を有するステップ(16)を形成し、
前記摩擦表面(12)は、前記ドラム(10)の軸AAに対しラセン状に伸び、
前記側面(17)は、前記最外巻回(21)が滑る方向に対し下流側で前記摩擦表面(12)と交差し、内側に湾曲した内側窪み(18b)を形成し、
前記側面(17)は、前記最外巻回(21)が滑る方向に対し上流側で前記摩擦表面(12)と交差し、突起部(18a)を形成し、
前記側面(17)は、前記内側窪み(18b)と前記突起部(18a)との間で直線部分を有し、前記直線部分は前記内側壁(11)の半径方向に伸びる
ことを特徴とする自動巻き時計の香箱。
【請求項2】
請求項1に記載の香箱を有する自動巻き時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計の製造分野に関し、特に自動巻き時計の香箱に関する。更に本発明はこの種の香箱を具備する時計に関する。
【背景技術】
【0002】
自動巻き時計の香箱はドラムを有する。このドラムはその中に卷回されたメイン・スプリングを有する。メイン・スプリングの巻き過ぎを防止するために、メイン・スプリングはドラムの側壁には固定されず、最後のコイル或いはスリップ・スプリングと称する弾性片を用いて、側壁に摩擦結合している。メイン・スプリングの巻き過ぎにより自動巻き時計の輪列が損傷する。メイン・スプリングとドラムの側壁との間の摩擦結合は、最大許容トルクを超えると、メイン・スプリングの最後の卷回が側壁に沿って滑り、メイン・スプリングの引っ張り力を軽減する。ドラムの内側壁の表面状態とそのすべりは、この種の摩擦結合の動作に大きく影響を及ぼす因子である。別の決定的な因子は、ドラムの内側壁の形状である。
【0003】
従来技術によれば、ドラムの内側壁は、摩擦表面を有する。この摩擦表面はメイン・スプリングの端部が当たるノッチの形態の切り欠き部分を交互に有する。最後の卷回の側壁への摩擦と当接の結合効果により、最大の駆動トルクが得られ、かくして大きなパワーリザーブが得られる。
【0004】
他方でドラムの内側壁内のノッチの存在に関連する問題点は摩耗である。摩耗の問題は、特に不都合である。その理由は、摩耗は自己増殖をし、大きな損傷につながり、誤動作につながり、更には部品の破損さえ起こる。メイン・スプリングの最後のコイルの摩擦は、壁から粒子を剥ぎ取り、摩擦表面をより粗くし、粒子を生成し摩耗を加速させてしまう。時間が経つと、メイン・スプリングと香箱の側壁の間の摩擦結合は、深刻な影響を受ける。
【0005】
ドラムの内側側壁内にノッチが存在することにより、香箱の摩耗が進む。ノッチは摩擦表面の上流側境界と下流側境界に四角の突起エッジを形成する。この上流側境界と下流側境界は、最後のコイルのスリップする方向に対し即ちノッチの出口と入口を基準に定義する。メイン・スプリングの圧力は、この四角の突起エッジで極めて高い。そのためそれらはすぐに丸みを帯びる。
【0006】
従来技術における広く信じられてきたところによれば、四角の突起エッジは、摩耗の進行により加速される粒子を生成する主な原因と考えられている。この四角の突起エッジは、最後の巻回の方向に対し上流方向にある摩擦表面を規定する。これ等の四角の突起エッジは、摩擦結合に対し主要な機能を提供するが、その理由は最後のコイルの端部はノッチの出口の突起エッジにあたるからである。これはノッチの入口にある四角の突起エッジとは異なる。これ等は実際に摩擦結合において受動的である。
【0007】
本発明によれば、従来受け入れられてきた考えとは対照的に、四角の突起エッジは摩耗プロセスを加速させるような粒子の生成の摩耗のプリカーサとして重要な役目を果たす。この四角の突起エッジは、最終巻回の滑り方向に対し下流側にある摩擦表面を規定する。この理由は次の通りである。最終巻回の摩擦表面に対するスリップ運動は小さいが、その理由は、駆動トルクと摩擦トルクの間の永久的な疑似平衡が原因である。メイン・スプリングの最終巻回の端部はノッチの入口にゆっくりと到着し、下流側の摩擦表面を形成する四角の突起エッジに対し低速でこする。この低速時においては、すべりの効率はあまり良くなく、そのため大きな摩擦力が存在することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それ故にノッチの入口にある四角の突起エッジに大きな摩耗が生ずる。この状況は、最終巻回のスリップ方向に対し上流側にある摩擦表面を規定する四角の突起エッジに関しては若干異なる。メイン・スプリングの最終巻回の端部はノッチの出口にある四角の突起エッジに当たる。これはメイン・スプリングの引っ張り力を所定の最大駆動トルクまで増加させることになる。メイン・スプリングの巻き上げが最大駆動トルクの値を超えると、メイン・スプリングの端部はノッチから離れ、突如駆動トルクと摩擦トルクの間の疑似平衡状態を破ることになる。そしてノッチの出口は急速に摩耗する。高速時ではすべりの効率は良好で、摩擦を大幅に減らす。最終的にノッチの入口と出口にある四角の突起エッジの摩耗は、摩耗による表面の劣化に対し重要な役目をし、更に入口エッジが、メイン・スプリングの最終巻回とドラムの内側側壁の間の摩擦結合における停止部材として機能しない場合でも、そうである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ノッチの入口における摩耗の問題点を示し、この発明は、このような現象を説明する。本発明の目的は、摩耗の問題を解決することである。これは受動的な四角の突起エッジを有さないドラムの内側側壁の形状を提供することにより行われる。
本発明の自動巻き時計の香箱は、ドラムとメイン・スプリングとを有する。前記ドラムは、ロッキング構造と摩擦表面とを有する内側壁を具備する。前記ロッキング構造は、前記摩擦表面との境界に端部を有する。前記摩擦表面とロッキング構造は、交互に配置される。前記メイン・スプリングは、最外巻回を有する卷回を形成する。前記最外巻回は、前記内側壁に摩擦結合され、前記メイン・スプリングの巻き過ぎが起こった場合には、前記内側壁に対し滑る。
本発明によれば摩擦表面は、外側コイルのスリップ方向に対し下流側に形成され、それは丸められた内を向いた或いは丸められたエッジにより規定される。
【0010】
本発明の香箱の特徴により、直接使用されない即ち受動型の四角の突起エッジに関するドラムの摩耗構成要素を取り除き、摩耗は能動的な四角の突起エッジに限られる。自己の永続的な摩耗現象は、本発明の構成により低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】香箱のスプリングが巻き上げ位置にある第1実施例の横方向断面図。
【
図2】香箱のスプリングが巻き上げ位置にある第2実施例の横方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、本発明の自動巻き時計の時計香箱1を示す。時計香箱1は、従来と同様に、円形のドラム10を有する。このドラム10は、軸A−Aを有し、内側壁11を具備する。ドラム10はメイン・スプリング20を収納する。メイン・スプリング20は香箱軸心30の周りに螺旋状の卷回を形成する。メイン・スプリング20は、その内側端部でコア31に固定される。コア31は香箱軸心30に対し回転可能に固定される。コア31はフック32を具備する。
【0013】
自動巻きによるメイン・スプリング20の巻き過ぎを防止するために、メイン・スプリング20の外側端部は、ドラム10の内側壁11には固定されていない。メイン・スプリング20は外側コイル(巻回)21を有し、この最外巻回21が、内側壁11に摩擦結合される。弾性片40は、スリップ・リングとも称し、メイン・スプリング20の外側端部に、溶接、リベット、或いは他の公知の方法で、取り付けられる。弾性片40は、メイン・スプリング20の最外巻回21と外側から2番目のコイルの間に挿入され、力を最外巻回21にかける。その結果、最外巻回21はドラム10の内側壁11に押しつけられる。一変形例においては、弾性片40が、内側壁11と最外巻回21との間に挿入され、内側壁11に押し付けられる。これにより摩擦結合が、メイン・スプリング20とドラム10との間に達成され、メイン・スプリング20は、所定の最大限界値まで巻き上げが可能となる。この最大限界値を超えると、最外巻回21は、内側壁11に対し滑って、引っ張り力を低減し、メイン・スプリング20の破損のリスクを減らす。
【0014】
内側壁11は摩擦表面12を有する。この摩擦表面12は、ノッチ13の形態の係合構造が交互に形成される。摩擦表面12は、ドラム10の軸A−Aを中心に円形状に伸びる。ノッチ13は、ノッチの入口と出口に、それぞれ入側面14aと出側面14bを有する。これ等は摩擦表面12と交差する。ノッチ13の入口と出口は、メイン・スプリング20の最外巻回21が内側壁11に対する滑る方向(
図1、2で矢印で示す)に対し定義される。即ち、最外巻回21が内側壁11に対し滑ると、最外巻回21の端部は、ノッチ13に、入側面14aから入り出側面14bから出る。
【0015】
出側面14bは、メイン・スプリング20とドラム10との間で摩擦結合を活性化させる。摩擦結合は、メイン・スプリング20が内側壁11に沿った滑り動作を停止するが、これは、出側面14bがロッキング表面を形成し、そこにメイン・スプリング20の端部が当たるからである。出側面14bの傾斜は、この目的のために最適となっている。即ち、出側面14bは鋭角端部15bを形成し、メイン・スプリング20の滑りを阻止する。出側面14bは、最外巻回21のスリップ方向に対し上流側にある摩擦表面12と交差する。鋭角端部15bは突起エッジの形態をとる。その理由は、突起エッジは、メイン・スプリング20の滑りに対し抵抗摩擦として機能するからである、又は抵抗摩擦は「四角なエッジ」よりも大きいからである。「四角なエッジ」とは、湾曲度がゼロ或いは極めて小さいエッジを意味する。一例として、この種のエッジの湾曲の半径は、0.002mmと0.1mmの間である。鋭角端部15bは、摩擦表面12を形成する。一変形例においては、若干角が丸くなっている。この為摩擦力が減り、メイン・スプリング20の滑り動作を停止する効果は若干減る。
【0016】
入側面14aは、出側面14bとは異なり、メイン・スプリング20とドラム10との間で摩擦結合に対し受動的である。入側面14aは、最外巻回21の滑り方向に対し下流側にある摩擦表面12と交差し、鈍角端部15aを形成する。鈍角端部15aは丸くなっている即ち角が取れている。「丸くなったエッジ」は、「四角なエッジ」より高い湾曲度を有する。一例として、鈍角端部15aは0.15mmより大きい湾曲度を有する。他方で、「四角なエッジ」の湾曲度は0.02mmと0.1mmの間である。本発明による時計香箱1の特徴により、内側壁11の摩耗とメイン・スプリング20の摩耗を減らすことができる。メイン・スプリング20の摩擦特にその端部における摩擦は、鈍角端部15aは、鋭角端部15bと比較すると、極めて小さい。その理由は接触圧が小さいからである。その結果、鈍角端部15aの摩耗と永続的自己摩耗を減らすことができる。エッジの湾曲度の増加により、良好なすべりの分布が可能となる。これは、入側面14aとノッチ13の底部により形成されるコーナー内に、機能しない堆積品が形成されるのを阻止するからである。メイン・スプリング20と内側壁11の摩擦結合は、鈍角端部15aの丸みを帯びた形状には、影響されない。その理由は、鈍角端部15aは摩擦結合に対し受動的だからである。長期にわたると、この効果は更に顕著となる。その理由は、メイン・スプリング20と内側壁11の摩耗の低減が、摩擦結合の劣化を遅らせるからである。時計香箱1の寿命は、その結果伸びる。
【0017】
次に
図2を参照すると、
図2の香箱と
図1の香箱の違いは、ドラム10の内側壁11の形状にある。
【0018】
図2において、内側壁11は、ロッキング構造を交互に有する摩擦表面12を有する。このロッキング構造は、側面17を有するステップ16を形成するが、ノッチ(窪み)13を形成しない。摩擦表面12は、ドラム10の軸A−Aに対し螺旋状に伸びる。側面17は、摩擦表面12に交差し、突起部18aと内側窪み18bを形成する。突起部18aは最外巻回21のスリップ方向に対し上流側にある摩擦表面を形成する。内側窪み18bは、内側に湾曲したエッジで下流側に形成される。側面17と突起部18aは、メイン・スプリング20とドラム10との間の摩擦結合に対し、活性状態にある。この為、突起部18aは、四角のエッジ或いは鋭角であるが、一変形例においては丸くてもよい。
【0019】
この実施例(
図2)においては、メイン・スプリング20と内側壁11との間の摩擦結合に関しては受動的であると見なされる突起エッジは、全く存在しない。摩擦表面12は、内側壁11のスリップ方向に対し下流側に内側窪み18bで形成される。内側窪み18bは四角或いは丸みを帯びており、摩擦結合に対しては何ら機能しない。この実施例は、
図1の実施例の極端な場合であり、ノッチ13の入口にある鈍角端部15aは無限大の半径を有し、その結果ノッチ13の入口が完全に無くなった状態である。かくして、時計香箱1は、摩耗の低減の利点があり、更に寿命が長くなる。
【0020】
本発明の自動巻き時計の香箱は、メイン・スプリングと香箱の摩耗を減らす効果を有する。
【0021】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。用語「又は」に関して、例えば「A又はB」は、「Aのみ」、「Bのみ」ならず、「AとBの両方」を選択することも含む。特に記載のない限り、装置又は手段の数は、単数か複数かを問わない。
【符号の説明】
【0022】
1 時計香箱
10 ドラム
11 内側壁
12 摩擦表面
13 ノッチ
13,16 ロッキング構造
14a 入側面
14b 出側面
15a 鈍角端部
15b 鋭角端部
16 ステップ
17 側面
18a 突起部
18b 内側エッジ
20 メイン・スプリング
21 最外巻回
30 香箱軸心
31 コア
32 フック
40 弾性片