【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
[リチウム含有遷移金属酸化物(正極活物質)の作製]
硫酸ニッケル(NiSO
4)、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.13:0.13:0.74の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.85:0.74:0.15の化学量論比となるように混合し、この混合物を900℃で10時間保持することによって、主成分が空間群P6
3/mmcに属するP2構造のナトリウム含有遷移金属酸化物を合成した。
【0041】
さらに硝酸リチウム(LiNO
3)と塩化リチウム(LiCl)をモル比が0.88:0.12となるように混合した溶融塩床を、合成物5gに対し5倍当量(25g)加えた。その後、当該混合物を280℃で2時間保持させることによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物のナトリウムの一部をリチウムにイオン交換した。さらに、イオン交換後の物質を水洗して、目的のリチウム含有遷移金属酸化物を得た。
【0042】
得られたリチウム含有遷移金属酸化物を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、iCAP6300、以下同様である)を用いて組成分析を行った。分析結果より、Li:Mn:Co:Ni=0.889:0.625:0.115:0.115であり、ナトリウムの検出量は定量下限値以下であることから、ナトリウムがほぼリチウムにイオン交換されていることが分かった。
【0043】
さらに、リチウム含有遷移金属酸化物の結晶構造の分析を行った。分析のための測定には、粉末X線回折装置(リガク社製、粉末XRD測定装置RINT2200、線源Cu−Kα、以下同様である。)を用い、得られた回折パターンのリートベルト解析を行った。解析の結果、結晶構造は、空間群P6
3mcに属するO2構造のLi
0.744[Li
0.145Mn
0.625Co
0.115Ni
0.115]O
2であった。
【0044】
[非水電解液の調整]
4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、フルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)とを体積比が1:3となるように混合して非水溶媒を得た。当該非水溶媒に、電解質塩としてLiPF
6を1.0mol/Lの濃度になるように溶解させて非水電解液を作製した。
【0045】
[コイン型非水電解質二次電池の作製]
以下の手順により、評価のためのコイン型非水電解質二次電池(以下、コイン型電池)を作製した。
図1は、評価に用いたコイン型電池10の模式図である。まず初めに、リチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質、アセチレンブラックを導電剤、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として、正極活物質、導電剤、結着剤の質量比が80:10:10となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化した。次に、このスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔集電体上に塗布し、110℃で真空乾燥して正極11を作製した。
【0046】
次に、評価のために封口板12、及びケース13を有するコイン形の電池外装体を用意し、露点−50℃以下のドライエアー下で、封口板12の内側に厚さ0.3mmのリチウム金属箔を負極14として貼り付けた。その上にセパレータ15を対置した。セパレータ15の上に正極活物質層がセパレータ15と対向するように正極11を配置した。正極集電体の上には、ステンレス製の当て板16と皿バネ17を配置した。非水電解液を封口板12が満たされるまで注液した後、ガスケット18を介して、ケース13を封口板12にはめ込み、コイン型電池10を作製した。
【0047】
<
比較例4>
実施例1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、硫酸ニッケル(NiSO
4)、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.16:0.16:0.68の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.89:0.74:0.11の化学量論比となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてリチウム含有遷移金属酸化物を得て、コイン型電池10を作製した。
【0048】
<実施例
2>
実施例1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、硫酸ニッケル(NiSO
4)、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.05:0.19:0.76の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.85:0.80:0.15の化学量論比となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてリチウム含有遷移金属酸化物を得て、コイン型電池10を作製した。
【0049】
<実施例
3>
実施例1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.20:0.80の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)、酸化チタン(TiO
2)を0.78:0.83:0.17:0.05の化学量論比となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてリチウム含有遷移金属酸化物を得て、コイン型電池10を作製した。
【0050】
<比較例1>
実施例1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.35:0.65の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.89:0.70:0.11の化学量論比となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてリチウム含有遷移金属酸化物を得て、コイン型電池10を作製した。
【0051】
<比較例2>
実施例1のリチウム含有遷移金属酸化物の作製において、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.20:0.80の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.92:0.65:0.08の化学量論比となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてリチウム含有遷移金属酸化物を得て、コイン型電池10を作製した。
【0052】
<比較例3>
実施例1のコイン型電池の作製において、硫酸ニッケル(NiSO
4)、硫酸コバルト(CoSO
4)、硫酸マンガン(MnSO
4)を0.16:0.16:0.68の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni,Co,Mn)(OH)
2を得た。その後、この前駆体物質と水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を0.8:1.2の化学量論比となるように混合し、この混合物を900℃で10時間保持することによって空間群R−3mに属しO3構造を持つLi[Li
0.200Mn
0.533Co
0.133Ni
0.133]O
2を作製し、正極活物質として用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池10を作製した。
【0053】
なお、ICP発光分光分析により、実施例1と同様に
、比較例1
,4について得られたリチウム含有遷移金属酸化物の組成分析、及び、結晶構造の解析を行った。その結果を実施例1と合わせて表1に示す。
【0054】
[a軸長の確認]
実施例
1、及び比較例1
,4について、リチウム含有遷移金属酸化物内に元素MとしてNiを含むことによってa軸長が広がることを確認する目的で、粉末X線回折測定を行った。得られた回折パターンから格子定数を算出し、a軸長を求めた。
【0055】
[活物質容量の評価]
実施例
1、及び比較例1
,4について、0.05Cの定電流で、正極電位がリチウム金属基準で4.6V(vs. Li/Li
+)に達するまで充電後、さらに電流値が0.02Cに達するまで定電圧で充電を行った。その後、0.05Cの定電流で正極電位が3.0V(vs. Li/Li
+)に達するまで放電を行った。この時の放電容量を正極に含まれる正極活物質の総質量で除した値を活物質容量として求めた。
【0056】
表1に、実施例
1、及び比較例1
,4について、組成、a軸長、及び活物質容量についてまとめたものを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、実施例
1は、比較例1と比べて、a軸長が広く、活物質容量は220mAh/gを超える高容量が得られた。すなわち、リチウム含有遷移金属酸化物は、金属元素MとしてNiを含有することによって、a軸長を広げ、活物質容量を向上させる効果があることが確認された。このような本発明における正極活物質の高容量化は、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物にNiを含有させることで放電時のリチウムの移動パスとなるa軸長を広げ、リチウム層とリチウム含有遷移金属層との層間におけるLi移動を促進したことによると考えられる。このような効果は、添加によりa軸長が広がる他の元素でも得られるものと推察される。かかる他の元素としては、Mnよりイオン半径の大きい元素であり、例えば、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W、及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1以上の元素である。
【0059】
また、O3構造において、Niを添加した場合(比較例3)と比較しても、活物質容量は大きく、O2構造のa軸を広げることによる活物質容量の向上効果は、従来のNi添加を超えるものであることが分かる。
【0060】
上記のことから、O2構造を有し、層状構造におけるリチウム含有遷移金属層にLi、Mn、Co、及びa軸長を広げる効果のある元素Mを有し、一般組成式Li
x[Li
α(Mn
aCo
bM
c)
1-α]O
2で表され、式中0.5<x<1.1、0.1<α<0.33、0.17<a<0.93、0.03<b<0.50、0.04<c<0.33であり、Mは、Ni、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W、及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1以上の元素であるリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質に適用することで、高電位での充放電が可能であり、さらにLi移動が促進され容量が増加するという効果を得ることができる。