特許第6138946号(P6138946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6138946液圧式の車両ブレーキ装置用の内接型ギヤポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138946
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】液圧式の車両ブレーキ装置用の内接型ギヤポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20170522BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20170522BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F04C2/10 311B
   F04C15/00 A
   F04C15/00 K
   B60T8/40 C
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-532343(P2015-532343)
(86)(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公表番号】特表2015-530515(P2015-530515A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013065867
(87)【国際公開番号】WO2014048612
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】102012217225.4
(32)【優先日】2012年9月25日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】シェップ,レーネ
(72)【発明者】
【氏名】クルツ,エドガー
(72)【発明者】
【氏名】アラーゼ,ノルベルト
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/103923(WO,A1)
【文献】 特開昭56−064186(JP,A)
【文献】 国際公開第99/022142(WO,A1)
【文献】 実開昭49−068003(JP,U)
【文献】 特開昭54−030506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
B60T 8/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧式の車両ブレーキ装置のための内接型ギヤポンプであって、内歯を備えたリングギヤ(3)と、外歯を備えたピニオン(2)とを有しており、該ピニオン(2)は、前記リングギヤ(3)内に偏心的に配置されていて、周方向の一区分で前記リングギヤ(3)と噛み合っており、前記ピニオン(2)が前記リングギヤ(3)と噛み合う前記周方向の一区分に向き合う位置で前記ピニオン(2)と前記リングギヤ(3)との間に、三日月形のポンプ室(6)が形成されており、該ポンプ室(6)内に分離部材(7)が配置されていて、この分離部材(7)は前記ポンプ室(6)を、吸入領域(8)と吐出領域(9)とに分割しており、前記分離部材(7)が内側部分(12)と外側部分(13)とを有しており、前記内側部分(12)が前記ピニオン(2)の歯列の歯先に当接し、かつ前記外側部分(13)が前記リングギヤ(3)の歯列の歯先に当接する形式のものにおいて、
前記内側部分(12)と前記外側部分(13)とが、互いに半径方向で可動に接続されており、
前記内側部分(12)と前記外側部分(13)とが、半径方向で互いに遊びを保ってスナップ係合し合うことを特徴とする、液圧式の車両ブレーキ装置用の内接型ギヤポンプ。
【請求項2】
前記外側部分(13)が前記内側部分(12)を、または前記内側部分(12)が前記外側部分(13)を、周方向側の端部において把持することを特徴とする、請求項1に記載の内接型ギヤポンプ。
【請求項3】
前記内側部分(12)が前記外側部分(13)を周方向で支持するか、または前記外側部分(13)が前記内側部分(12)を周方向で支持することを特徴とする、請求項1に記載の内接型ギヤポンプ。
【請求項4】
前記内側部分(12)と前記外側部分(13)との間に、周方向に延在する板ばね(14)が配置されており、該板ばね(14)が、前記内側部分(12)と前記外側部分(13)とを互いに離れる方向に、かつ前記ピニオン(2)および前記リングギヤ(3)の歯列の歯先に向かって押圧することを特徴とする、請求項1に記載の内接型ギヤポンプ。
【請求項5】
前記内側部分(12)と前記外側部分(13)との間にシール部材(15)が配置されており、該シール部材が、前記内側部分(12)および/または前記外側部分(13)に気密に当接し、かつ/または軸方向でシールしていることを特徴とする、請求項1に記載の内接型ギヤポンプ。
【請求項6】
前記分離部材(7)の前記構成部分(12,13,14,15)が予め組立可能な構造群を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の内接型ギヤポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文の特徴を有する内接型ギヤポンプに関する。このような内接型ギヤポンプは、一般的に使用されるピストンポンプの代わりに、スキッドコントロール式および/または動力式の車両ブレーキ装置に使用され、必ずしも適切ではないが、しばしばリターンポンプとも称呼されている。
【背景技術】
【0002】
内接型ギヤポンプは公知である。公知の内接型ギヤポンプは、ピニオン、つまり外歯を備えた歯車を有しており、このピニオンは、内歯を備えたリングギヤ内に偏心的に配置されていて、周方向の1個所で若しくは周方向の一区分でリングギヤと噛み合っている。ピニオンおよびリングギヤは、内接型ギヤポンプの歯車であると解釈されてもよい。2つの歯車のうちの一方、一般的にはピニオンが回転駆動されることによって、他方の歯車、一般的にはリングギヤが連動式に回転駆動され、内接型ギヤポンプは公知の形式で、流体つまり液圧式の車両ブレーキ装置においてはブレーキ液を圧送する。
【0003】
ピニオンがリングギヤと噛み合う周方向区分に向き合う位置において、内接型ギヤポンプは、ピニオンとリングギヤとの間に三日月形のフリースペースを有しており、このフリースペースはここではポンプスペースと称呼される。ポンプスペース内には分離部材が配置されており、この分離部材はポンプ室を吐出領域と吸入領域とに分割している。分離部材はその典型的な形状に基づいて、三日月または三日月形部材とも称呼され、また別の呼び名として充てん部材とも称呼される。分離部材の、典型的には中空円形の内側は、ピニオンの歯列の歯先に当接していて、分離部材の、典型的には外方に向かって湾曲された外側は、リングギヤの歯列の歯先に当接しているので、分離部材は、内接型ギヤポンプの歯車の歯列間の歯間スペース内に流体体積を閉じ込める。歯車は回転駆動されることによって、歯間スペース内の流体を吸入側から吐出側へ圧送する。
【0004】
特許文献1によれば、このような形式の内接型ギヤポンプが開示されており、この内接型ギヤポンプの分離部材は、複数部分より成っていて、内側部分と外側部分とを有しており、内側部分の内側がピニオンの歯列の歯先に当接し、外側部分の外側がリングギヤの歯列の歯先に当接するようになっている。吐出領域内の圧力に抗して、公知の内接型ギヤポンプの分離部材の内側部分と外側部分とは、周方向でピンに支えられていて、このピンは支持部を形成している。支持部を形成するピンは、分離部材の吸入側に配置されていて、ポンプスペースを横方向に若しくは軸平行に貫通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許公開第102009047643号明細書
【発明の概要】
【0006】
請求項1の特徴を有する本発明による内接型ギヤポンプは、ピニオンの歯列の歯先に当接する内側部分とリングギヤの歯列の歯先に当接する外側部分とを有する、複数部分より成る分離部材を有している。本発明によれば、分離部材の内側部分と外側部分とが、互いに半径方向で可動に接続されている。「半径方向」とは、以下で用いられた名称「周方向側」、「周方向」および「軸方向」と同様に、内接型ギヤポンプに関するものであり、また前記構成部分の予定された組み込み位置に関するものである。内側部分および外側部分の、半径方向とは異なる可動性も排除されない。内接型ギヤポンプの半径方向における、内側部分および外側部分の可動性によって、内側部分および外側部分を、内接側ギヤポンプの歯車の歯列の歯先に当接させることができる。内側部分を外側部分に接続したことによって、複数部分より成る分離部材を構成部分として取り扱うことができ、内接型ギヤポンプの組立が簡略化される。
【0007】
従属請求項には、請求項1に記載した本発明の好適な実施態様および変化実施例が記載されている。
【0008】
請求項2によれば、半径方向で可動な接続を得るために、内側部分と外側部分とが半径方向で互いに遊びを保ってスナップ係合し合っている。請求項3による変化実施例では、外側部分が内側部分を、または内側部分が外側部分を、周方向側の端部において把持している。本発明のこのような構成によって、追加的な構成部分を必要とすることなしに、分離部材の内側部分と外側部分とを、簡単に半径方向で可動に接続することができる。
【0009】
請求項4によれば、内側部分は周方向で外側部分に支持されている。これはつまり、内側部分が外側部分に当接していて、これによって内側部分と外側部分との間のシールが簡略化されている、ということである。請求項4は、逆の構成、つまり外側部分が周方向で内側部分に支持される構成も有している。好適には、分離部材の2つの部分のうちの一方だけが、周方向で内接型ギヤポンプの支持部に直に支えられており、他方の部分は前記一方の部分を介して間接的に支持部に支えられている。
【0010】
請求項7によれば、分離部材の構成部分が予め組立可能な構造群として構成されており、これらの構造群は、仮組立後に、1つの構成部分のように、内接型ギヤの歯車間のポンプ室内に組み込むことができる。
【0011】
本発明による内接型ギヤポンプは、特に、液圧式の、スキッドコントロール式および/または動力式車両ブレーキ装置のための液圧ポンプとして設けられている。スキッドコントロール式の車両ブレーキ装置における液圧ポンプは、リターンポンプとも称呼されていて、今日ではもっぱらピストンポンプとして構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による内接型ギヤポンプの端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を以下に図面に示した実施例を用いて詳しく説明する。
【0014】
図面に示した本発明による内接型ギヤポンプ1は、ここではピニオン2と称呼される、外歯を備えた歯車と、ここではリングギヤ3と称呼される内歯を備えた歯車とを有している。ピニオン2は、このピニオン2がリングギヤ3と噛み合うように、軸平行にかつ偏心的にリングギヤ3内に配置されている。ピニオン2はポンプ軸4に相対回動不能に取り付けられていて、該ポンプ軸4と共にピニオン2が、および該ピニオン2を介して、該ピニオンと噛み合うリングギヤ3が回転駆動可能である。回転方向は矢印Pで示されている。リングギヤ3は回転可能に軸受リング5内に滑り軸受けされている。
【0015】
ピニオン2がリングギヤ3と噛み合っている周方向区分に向き合う位置に、内接型ギヤポンプ1は三日月形のフリースペースを有しており、この三日月形のフリースペースは、ここではポンプ室6と称呼される。ポンプ室6内に、同様に三日月形または半三日月形の、複数の部分より成る分離部材7が配置されており、この分離部材7は、ポンプ室6を吸入領域8と吐出領域9とに分離している。吸入領域8はポンプ入口10に連通しており、このポンプ入口10は孔として構成されていて、横方向に、つまり内接型ギヤポンプ1に対して軸平行に、一方側からポンプ室6の吸入領域8内に開口している。吐出領域9は、ポンプ出口11に連通していて、このポンプ出口11は、図示の実施例ではアーチ形のスリットとして構成されていて、一方側からポンプ室6の吐出領域9内に開口している。アーチ形のポンプ出口11は部分的に分離部材7によって覆われていて、周方向で少しだけ、分離部材7の吐出側の端部を越えてポンプ室6の吐出領域9内へ移行している。
【0016】
複数の部分より成る分離部材7は、アーチ形の内側部分12と、同様にアーチ形でブラケット状の外側部分13とを有している。内側部分12の凹状の円筒形の内側はピニオン2の歯列の歯先に当接していて、外側部分13の凸状の円筒形の外側はリングギヤ3の歯列の歯先に当接している。分離部材7の内側部分12および外側部分13が、ピニオン2の歯先およびリングギヤ3の歯先に当接することによって、流体がピニオン2の歯列とリングギヤ3の歯列との間の中間室内に流入し、それによって、ピニオン2およびリングギヤ3の回転駆動時に、流体が吸入領域8から吐出領域9へ圧送される。内接型ギヤポンプ1が液圧式の車両ブレーキ装置の液圧ポンプとして使用される場合、圧送される流体はブレーキ液である。
【0017】
周方向側の両端部において、外側部分13は、内側部分12を半径方向で遊びを保って外側部分13に接続するスナップ係合部が形成されるように、内側部分12を把持している。スナップ係合部によって接続された、若しくは両端部が外側部分13によって把持されている内側部分12と、外側部分13とは、半径方向で互いに可動である。
【0018】
内側部分12と外側部分13との間のギャップ内に板ばね14が配置されている。この板ばね14は、内側部分12と外側部分13とを互いに離れる方向に押圧し、それによって予定通りに、ピニオン2およびリングギヤ3の歯列の歯先に当接するようになっている。ばね力を作用させるために、板ばね14は、変形されていない状態で、内側部分12および外側部分13とは異なる曲率半径を有していて、湾曲されているかまたは波形であってよいが、板ばねの形状は、これに限定されるものではない。
【0019】
吐出領域側の端部において、内側部分12と外側部分13との間のギャップ内に板ばね14が配置されていて、このギャプは、吐出領域9に連通しており、従って、内側部分12と外側部分13との間のギャップ内には、吐出領域9内と同じ圧力が形成されている。この圧力は、分離部材7の内側部分12および外側部分13を、やはり互いに離れる方向に、かつピニオン2およびリングギヤ3の歯列の歯先に向かって押圧する。
【0020】
吸入領域側の端部で、分離部材7の内側部分12と外側部分13との間にシール部材15が配置されており、このシール部材は、内側部分12と外側部分13との間をシールし、軸方向でポンプハウジングの図示していない端壁または側壁、若しくはポンプ室6の側方を仕切っている内接型ギヤポンプ1のいわゆるアキシャルディスクをシールする。図示の実施例では、シール部材15は、変形されていない状態で円柱形である。シール部材のその他の形状も可能である。
【0021】
吐出領域9内に形成された圧力に対して、分離部材7の外側部分13は、周方向で支持部16に支えられており、この支持部16は、その、分離部材7の、吸入領域側の端部に配置されている。図示の実施例では、支持部16は、偏平部17を備えたシリンダピンであって、この偏平部17に、分離部材7の外側部分13の吸入領域側の端部が当接する。支持部16を形成するピンは、吸入領域6内で内接型ギヤポンプ1のポンプ室6を、横方向に、つまり軸平行に貫通している。
【0022】
分離部材7の内側部分12は、支持部16に直に支えられているのではなく、外側部分13を介して間接的に支えられている。内側部分12の吸入領域側の端部は、この端部を把持する、外側部分13の吸入領域側の端部に当接している。内側部分12と外側部分13とが当接していることによって、内側部分12と外側部分13との間のシールは簡略化され、このために、円柱形のシール部材15等の簡単なシールで十分である。複雑なまたは複数の部分より成る高価なシールは必要ない。
【0023】
内側部分12の両端部を把持する、外側部分13の両端部は、前述のように、内側部分12を、内接型ギヤポンプ1の半径方向で可動に遊びを保って外側部分13に接続するスナップ係合部として作用する。内側部分12と外側部分13との間に配置された、内側部分12および外側部分13を互いに離れる方向に押圧する板ばね14は、内側部分12を外側部分13内で軸方向若しくは側方に保持する摩擦を生ぜしめる。分離部材7の複数の部分、つまり内側部分12、外側部分13、板ばね14およびシール部材15は、内接型ギヤポンプ1の外部で予め組立可能な1つの構造群を形成している。内接型ギヤポンプ1の組立時に、構造群として構成された分離部材7は、1つの構成部分として、ピニオン2とリングギヤ3との間のポンプ室6内に組み込まれ、このためには、内側部分12および外側部分13を半径方向で圧縮するだけでよいので、ポンプ室6の間隔は、ピニオン2およびリングギヤ3の歯列の歯先間の中間室よりも大きくない。従って、内接型ギヤポンプ1内への分離部材7の組立は簡略化され、このことは、液圧式の車両ブレーキ装置の液圧ポンプとして使用される内接型ギヤポンプ1等の小型の構成部分において多大な利点をもたらす。
【0024】
本発明による内接型ギヤポンプ1は、図示していない液圧式の、スキッドコントロール式および/または動力式車両ブレーキ装置の液圧ポンプとして設けられ、この場合、この内接型ギヤポンプ1は、アンチロック制御装置、トラクションコントロールおよび/若しくはビーグルダイナミックコントロール等のスキッドコントロールのために用いられ、ならびに/または液圧式の動力式車両ブレーキ装置におけるブレーキ圧形成のために用いられる。このような液圧ポンプは、必ずしも適切ではないが、リターンポンプとも称呼される。前記スキッドコントロールのために、略語ABS,ASR,FDRおよびESPが一般的に用いられている。ビーグルダイナミックコントロールは、俗語的に超過速度制御装置とも称呼される。
【符号の説明】
【0025】
1 内接型ギヤポンプ
2 ピニオン
3 リングギヤ
4 ポンプ軸
5 軸受リング
6 ポンプ室
7 分離部材
8 吸入領域
9 吐出領域
10 ポンプ入口
11 ポンプ出口
12 内側部分
13 外側部分
14 板ばね
15 シール部材
16 支持部
17 偏平部
図1