特許第6138971号(P6138971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138971
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ポールスリップの識別方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/00 20060101AFI20170522BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   H02P9/00 B
   H02P9/04 J
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-559391(P2015-559391)
(86)(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公表番号】特表2016-508708(P2016-508708A)
(43)【公表日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】AT2014000023
(87)【国際公開番号】WO2014138757
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】A156/2013
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】504344576
【氏名又は名称】ゲーエー ジェンバッハー ゲーエムベーハー アンド コー オーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】ファリンガー,アルバート
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−303800(JP,A)
【文献】 特開昭63−069498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00−9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力供給ネットワーク(1)に電気的に接続されている発電機(2)、特に同期発電機のポールスリップを特定する方法であって、
前記発電機(2)のロータ(3)は、内燃機関(5)、特にガスエンジンのエンジンシャフト(4)に機械的に接続されており、
前記内燃機関(5)は、実質的に一定である機械的回転周波数(n)の安定した稼動モードで稼動しており、
前記エンジンシャフト(4)の機械的回転周波数(n)および前記電力供給ネットワーク(1)の電気的回転周波数(f)が検出または確認され、
予め設定可能な閾値(7)よりも大きな電気的回転周波数(f)からの機械的回転周波数(n)の偏差(6)が、発生した期間には、信号(11)が出力され、該信号(11)が検出されたポールスリップとしてみなされ
前記信号(11)が出力されている間、前記発電機(2)と前記電力供給ネットワーク(1)との間の電気的接続は分離されることを特徴とする方法。
【請求項2】
予め設定可能な期間中に予め設定可能な閾値よりも大きな前記偏差(6)が発生した場合には、前記信号(11)が出力されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記エンジンシャフト(4)の前記機械的回転周波数(n)が、前記ロータ(3)に設置され、歯車の歯面を感知し、歯面の感知間で検出された時間差から機械的回転周波数nを確認する回転速度センサーにより検出されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記エンジンシャフト(4)の回転エンジン速度またはエンジン周波数、あるいは前記ロータ(3)の回転ロータ速度またはロータ周波数は、前記機械的回転周波数(n)として検出または確認され、
前記電力供給ネットワーク(1)のネットワーク周波数は前記電気的回転周波数(f)として検出または確認され、
前記機械的回転周波数(n)と前記電気的回転周波数(f)は計算によって同一の単位に変換されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記エンジンシャフト(4)の回転エンジン速度が、機械的回転周波数(n)として検出され、
前記電力供給ネットワーク(1)のネットワーク周波数が検出され、
該ネットワーク周波数は電気的回転周波数(f)としての予め設定可能な乗数で乗算され、
好適には該乗数は、前記ネットワーク周波数で除算された前記内燃機関(5)の安定稼動モードにおける、前記回転エンジン速度の除算値に対応することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記予め設定可能な閾値(7)は10/分を超え、好適には50/分を超え、特に好適には100/分を超えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記信号(11)がポールスリップカウンター(18)に伝達され、該ポールスリップカウンター(18)が増分され、好適には、該ポールスリップカウンター(18)が予め設定可能な維持閾値を超えると、維持信号(20)が出力されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記予め設定可能な維持閾値は2と10の間の範囲、好適には3と5の間の範囲であることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
ポールスリップ識別装置であって、
特に、電力供給ネットワーク(1)に電気的に接続されている発電機(2)、特には同期発電機のポールスリップの識別のために請求項1から請求項8に記載の方法を実行するための装置であって、
前記発電機(2)のロータ(3)が内燃機関(5)、特にガスエンジンのエンジンシャフト(4)に機械的に接続されており、
前記エンジンシャフト(4)の機械的回転周波数(n)を検出するための回転速度センサー(14)と、前記電力供給ネットワーク(1)の電気的回転周波数(f)を検出するためのネットワーク周波数センサー(15)が使用されており、
評価装置(10)がさらに使用されており、検出された前記機械的回転周波数(n)と検出された前記電気的回転周波数(f)は信号ライン(16)を介して前記評価装置(10)に伝達可能であり、
前記電気的回転周波数(f)からの前記機械的回転周波数(n)の偏差(6)は前記評価装置(10)で確認可能であり、
予め設定可能な閾値(7)よりも大きな偏差(6)が発生した期間に、検出されたポールスリップとしてみなされる信号(11)が前記評価装置(10)によって出力可能であり、
前記発電機(2)は接続装置(8)、ネットワークスイッチを介して前記電力供給ネットワーク(1)に電気的に接続されており、
前記みなされる信号(11)が出力されている間、スイッチ信号(13)がスイッチライン(17)を介して評価装置(10)によって前記接続装置(8)に伝達可能であり、
前記みなされる信号(11)が出力されている間、前記接続装置(8)が開放されることを特徴とする装置。
【請求項10】
前記ロータ(3)に設置され、歯車の歯面を感知し、歯面の感知間で検出された時間差から前記機械的回転周波数(n)を確認する回転速度センサーを備える、
請求項9記載の装置。
【請求項11】
好適には増分が可能なポールスリップカウンター(18)が使用され、前記信号(11)はカウントライン(19)を介して該ポールスリップカウンター(18)に伝達可能であり、
好適には、該ポールスリップカウンター(18)が予め設定可能な維持閾値を超えると維持信号(20)が出力可能であることを特徴とする請求項9または10記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給ネットワークに電気的に接続されている発電機、特に同期発電機のポールスリップの識別方法に関し、発電機のロータ(回転子)は内燃機関、特にガスエンジンのエンジンシャフトに機械的に接続されており、内燃機関は、実質的に一定である機械的回転周波数での安定した稼動モードで、対応する形態のポールスリップ識別装置を備えて稼動する。
【背景技術】
【0002】
電力供給ネットワーク(例えば、公共電力供給ネットワークまたは孤立モードで稼動する地方の電力供給ネットワーク)に接続されている同期発電機の場合には、ロータ偏位角または負荷角は発電機のステータ(固定子)上の磁極(ポール)からの発電機のロータの磁極の偏差を表すことは知られている。この場合、ロータ上の磁極は、大抵はロータ上のDC供給励磁機(DCエキサイタ)の巻線によって発生し、発電機のステータ上の磁極は、典型的には3相形態である電力供給ネットワークの(対応するステータ上の巻線に印加される)電圧によって発生する。従って、ベクトルモデルにおいては、ロータ偏位角はステータ電圧とロータ電圧またはポールホイール電圧の間の角度を表わし、同期発電機の発電機モードでの稼動におけるロータ電圧はステータ電圧に先行する。電力供給ネットワークによる上昇負荷によって、すなわち、発電機による増加電力提供の場合には、そのロータ偏位角は増加する。もし、ロータ偏位角が大きくなり過ぎると発電機の不安定化を招き、ロータに接続されているエンジンシャフトを介して内燃機関により導入される機械的動力は望み通りには電力に変換できなくなり、内燃機関は速度を速め始める。不安定な稼動モードへのこの移行(tipping)がポールスリップ(pole slip)と称されることは知られている。
【0003】
内燃機関のポールスリップおよびそれにリンクした加速は内燃機関および発電機に損傷を引き起こす虞があるので、ポールスリップを回避するか、ポールスリップが検出されたときに好適に反応でき、内燃機関の加速に対処できるようにポールスリップを検出することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的はポールスリップを識別する簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、その目的は請求項1の特徴を備えた方法と、請求項9の特徴を備えたポールスリップ識別装置によって達成される。本発明の有利な形態は従属請求項において記載されている。
【0006】
本発明によれば、エンジンシャフトの機械的回転周波数および電力供給ネットワークの電気的回転周波数が検出または確認され、予め設定可能な閾値よりも大きな、その電気的回転周波数からの機械的回転周波数の偏差(ずれ)が生じた場合には信号が出力され、その信号は検出されたポールスリップとして認識される(みなされる)。
【0007】
ポールスリップが発生すると、内燃機関は、安定した不変稼動モード中に実質的に一定である回転速度からスタートして加速を開始する。この加速は、ステータ電圧の電気的回転周波数からのエンジンシャフトの機械的回転周波数の偏差として認識でき、ポールスリップとして検出できる。
【0008】
本発明の方法の利点は特にその単純性である。エンジン速度およびネットワーク周波数が大抵の場合にエンジンまたは発電機のモニターシステムの形態でモニターされるため、機械的および電気的な回転周波数を検出または確認させるのに必要なセンサーシステムは、通常は商業的に入手できる内燃機関や発電機に設置される。従って、本発明の方法は追加的なセンサーを一切必要としない。
【0009】
誤アラーム(警告)を回避するため、好適には、予設定可能な時間(期限)中に予設定可能な閾値よりも大きな偏差が発生した場合に、その信号が出力されるようにできる。このようにして、特に電力供給ネットワークとの発電機の同期のためのプロセス中に発動されるポールスリップのアラームを回避することができる。
【0010】
特に好適な実施形態では、ポールスリップが検出された場合には、発電機と電力供給ネットワークとの間の電気接続が分離できる。しかし、ポールスリップが発生すると、それがポールスリップカウンターに信号されるように出力信号が利用でき、ポールスリップカウンターは増分され、好適には、ポールスリップカウンターが予設定可能な維持閾値を超えると維持信号が出力される。この点で、予設定可能な維持閾値は2と10の間であり、好適には3と5の間である。ポールスリップが発生したとき、頑強な発電機であれば電力供給ネットワークに接続された状態を維持することができる。従って、ポールスリップの調節可能な周波数が発生した後にのみ、維持信号を発電機と電力供給ネットワークとの間の電気接続を分離するのに利用することができる。一般的に、それぞれのポールスリップの発生はログ処理することもできる。
【0011】
本発明の1好適実施形態においては、ロータリエンジン速度またはエンジンシャフトのエンジン周波数またはロータ回転速度またはロータの回転周波数を機械的回転周波数として検出または確認し、電力供給ネットワークのネットワーク周波数を電気的回転周波数として検出または確認し、それら機械的回転周波数および電気的回転周波数を計算によって同一単位に変換することができる。この点において、好適にはエンジンシャフトのエンジン回転速度を機械的回転周波数として検出し、電力供給ネットワークのネットワーク周波数を検出し、そのネットワーク周波数を電気的回転周波数として予設定可能な乗数で乗算することができ、好適にはその乗数は、内燃機関の不変稼動モードでのエンジン回転速度をネットワーク周波数で除算した割り算の値に対応する。よって、例えば、検出されたエンジン回転速度は3000回転/分(1分間あたりの回転数が3000回転)であり得、検出されたネットワーク周波数は50Hzであり得る。これら2つの検出された値を同一単位に変換できるように、例えば、検出されたネットワーク周波数が、ネットワーク周波数で除算された検出されたエンジン速度の割り算の値に対応する乗数で乗算でき、従ってこの例では、3000回転/分を50Hzで除算することになる。よって、機械的回転周波数(3000回転/分)および電気的回転周波数(3000回転/分)の両方は同一単位(same unite)を使用する。
【0012】
1好適実施形態では、予め設定可能な閾値は10回転/分(1分間あたり10回転)を超え、好適には50回転/分を超え、特に好適には100回転/分を超える。
【0013】
本発明のさらなる詳細と利点は以下の図面と共に以下において説明する
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電気的に電力供給ネットワークに接続されており、内燃機関によって駆動される発電機の概略ブロック回路図である。
図2】機械的回転周波数の電気的回転周波数に対する偏差の時間的な変動を例示する。
図3図2の偏差の詳細およびポールスリップ識別を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1はネットワークスイッチの形態の電気的接続装置8により電力供給ネットワーク1に接続された同期発電機2を概略的に図示する。同期発電機2のロータ3はカップリング(結合器)9を介して内燃機関5のエンジンシャフト4に実質的に非回転式に接続されている。内燃機関5は、例えば、スパーク点火型4気筒レシプロピストンエンジンの形態である定置ガスエンジンであり得る。電力供給ネットワーク1は三相ネットワークの形態の3相を有することができ、電力供給ネットワーク1のそれら3相は従来式に発電機2のステータ12上の巻線に接続できる。電力供給ネットワーク1はネットワーク周波数を予設定する公共電力供給ネットワークか、あるいは、例えば、隔離稼動が関与する地方電力供給ネットワークであり、そのネットワーク周波数は発電機によって予め設定される。
【0016】
本発明の方法においては、機械的回転周波数nと電力供給ネットワーク1の電気的回転周波数fは、従来センサー14と15で検出され、信号ライン16を介して評価装置10に送られる。機械的回転周波数nを検出するセンサー14は、例えば、内燃機関5、カップリング9、またはロータ10に設置され、歯車の歯面を感知し、歯面の感知間で検出された時間差から機械的回転周波数nを確認する回転速度センサーであり得る。電力供給ネットワーク1の電気的回転周波数fの検出のためのセンサー15は、例えば、ネットワーク電圧のゼロ交差を検出し、そのゼロ交差間で検出された時間差から電力供給ネットワーク1の電気的回転周波数fを確認するネットワーク周波数センサーでよい。
【0017】
機械的回転周波数nは、例えば、内燃機関5の回転速度であり得、電気的回転周波数fは、例えば、電力供給ネットワーク1のネットワーク周波数であり得る。この場合、機械的回転周波数nの検出は、カップリングにおいて内燃機関5のエンジンシャフト4で直接的に、あるいは、例えば、発電機2の回転するロータでも回転速度センサー4によって実行できる。電気的回転周波数fの検出は発電機2のステータ12でネットワーク周波数センサー15によって実行できる。
【0018】
機械的回転周波数nと電気的回転周波数fの間の偏差を確認できるよう、オプションで機械的回転周波数n及び/又は電気的回転周波数fを変換し、機械的回転周波数n、および加えて電気的回転周波数fの両方に同一単位が関与するようにすることができる。
【0019】
評価装置10は継続して電気的回転周波数fからの機械的回転周波数nの偏差を確認し、予設定可能な閾値7よりも大きな偏差6が発生した場合には、検出されたポールスリップとして考察される信号11が出力される(図2参照)。本実施例では、信号11はカウントライン19を介して、検出されたポールスリップの発生をカウントし、予設定可能な維持閾値(maintenance threshold )が超えられたときに維持信号20を出力するポールスリップカウンター18に送られる。
【0020】
信号11は発電機2のモニター装置、あるいは内燃機関5に送ることも可能である。
【0021】
好適には、発電機2と電力供給ネットワーク1の間の電気的接続装置8を、ポールスリップが検出されると分離することができる。その目的のため、例えば、評価装置10は、スイッチライン17を介して対応するスイッチ信号13を電気的接続装置8に送ることができ、電気的接続の分離は電気的接続装置8を開くことでスイッチ信号13によって実行できる。
【0022】
図2は例示として図1に図示する構成の機械的回転周波数nと電力供給ネットワーク1の電気的回転周波数fの時間に対する変動を示す。この場合には、標的の回転速度は1500回転/分である。図は機械的回転周波数nが電気的回転周波数fとは時間によっては異なることを示している。
【0023】
図3は、図2で示すごとく、評価装置10によって検出された電気的回転周波数fからの機械的回転周波数nの偏差6の時間に対する変動を示す。この実施例には100回転/分の閾値7が関与する。言い換えると、100回転/分を超える偏差6の場合には、検出されたポールスリップとして考察される信号11が出力される。図から理解できるように、閾値7は時間tの期間中に超えられており、対応する信号11が時間tの期間中に出力されている。
図1
図2
図3