(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6138979
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20170522BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20170522BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20170522BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20170522BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20170522BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20170522BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16C19/26
F16C33/58
F16C33/64
F16C33/78 Z
B23B19/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-10562(P2016-10562)
(22)【出願日】2016年1月22日
(62)【分割の表示】特願2011-146142(P2011-146142)の分割
【原出願日】2011年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-65642(P2016-65642A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】小杉 太
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−068231(JP,A)
【文献】
特開昭61−109914(JP,A)
【文献】
特開2011−106493(JP,A)
【文献】
特開2006−242293(JP,A)
【文献】
特開2005−180669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
B23B 19/02
F16C 19/16
F16C 19/26
F16C 33/58
F16C 33/64
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪の転走面間に転動体が介在し、複数組み合わせて用いられる転がり軸受において、
前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔が設けられ、前記外輪の幅面のうち、隣りの転がり軸受と接する幅面となる、いずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部が、内径面から外径面にわたって設けられ、かつ前記切欠き凹部が設けられる幅面として、前記転動体に対して前記給油孔が設けられた側方と反対側の側方の幅面を少なくとも含み、前記外輪の外径面に、前記給油孔に連通する円周溝が設けられ、前記給油孔が、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあり、前記切欠き凹部が、前記給油孔からずれた位相で、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記外輪の外径面における、前記円周溝の両側位置に、それぞれ環状溝が設けられ、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材が設けられた転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、複数の転がり軸受の組合せ状態で、各軸受の切欠き凹部の円周方向の位相が同位相に配置された転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記外輪の内径面が、転走面側から幅面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成された転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記外輪の切欠き凹部と給油孔との円周方向の位相が同位相に配置された転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記外輪の切欠き凹部と、この外輪の外径面との角部に、面取りが設けられた転がり軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記転がり軸受がアンギュラ玉軸受である転がり軸受。
【請求項8】
請求項7において、複数の転動体を円周方向一定間隔おきに保持する保持器を有し、この保持器が外輪案内形式または転動体案内形式である転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記転がり軸受が内輪つば付の円筒ころ軸受である転がり軸受。
【請求項10】
請求項9において、複数の転動体を円周方向一定間隔おきに保持する保持器を有し、この保持器が外輪案内形式または転動体案内形式である転がり軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項の転がり軸受が用いられた工作機械用主軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸等の支持に用いられる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図16は、従来のノズル間座付きの転がり軸受の断面図である。この転がり軸受では、間座70に排気用切欠き71,71を設けて、軸受の潤滑に供された潤滑剤が排気用切欠き71,71から排出される。
転がり軸受において、外輪に外径部から内径部に連通する給油孔を設けて、この給油孔から給油する方式がある(特許文献1)。この方式では、軸受を背面組み合せで使用する場合に、エアオイル排気のための排気口(切欠き)を形成した間座を、軸受間に設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−180726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図17に示す外輪72に給油孔73を設けた軸受を、
図18に示すように、背面組合せで間座無しで用いると、軸受間にエアオイル排出のための排気口が無いため、運転中に軸受内部で潤滑油の滞留や捲き込みを生じ、温度の不安定化や最悪の場合には過度の昇温に至る可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、外輪に給油孔を設けた軸受を間座無しで組合わせて用いる場合に、軸受空間内に供給したエアオイルを、軸受外部にスムーズに排出することができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させ、複数組み合わせて用いられる転がり軸受において、
前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔が設けられ、前記外輪の幅面のうち、隣りの転がり軸受と接する幅面となる、いずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部が、内径面から外径面にわたって設けられ、かつ前記切欠き凹部が設けられる幅面として、前記転動体に対して前記給油孔が設けられた側方と反対側の側方の幅面を少なくとも含み、前記外輪の外径面に、前記給油孔に連通する円周溝が設けられ
、前記給油孔が、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあり、前記切欠き凹部が、前記給油孔からずれた位相で、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあることを特徴とする。
【0007】
この構成によると、エアオイルが、軸受外部から外輪の給油孔を通して軸受空間内に供給され、軸受の潤滑に供される。その後、エアオイルは外輪の切欠き用凹部からスムーズに排気される。このように軸受空間内に供給したエアオイルを、軸受空間内に滞留させることなく、軸受外部にスムーズに排出することができる。このため、運転中、軸受温度が不安定に変位したり過度に昇温することを未然に防止することができる。したがって、排気用の切欠きを設けた間座が不要となり、軸受同士を隣接して組合わせて用いることが可能となる。この場合、例えば、主軸前方に軸受を集中して配置できるため、従来のように間座を軸受間に設けた場合に比べて、主軸剛性が高くなるという利点がある。
【0008】
前記外輪の外径面における、前記円周溝の両側位置に、それぞれ環状溝が設けられ、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材が設けられていても良い。これら環状のシール部材により、外輪の外径面からエアオイルが不所望に漏れることを防止することができる。
【0009】
複数の転がり軸受の組合せ状態で、各軸受の切欠き凹部の円周方向の位相が同位相に配置されていても良い。この場合、切欠き凹部の排出面積つまり断面積を大きく確保することができる。これにより、各軸受において潤滑に供されたエアオイルは、隣接する軸受の軸受空間内に殆んど移動することなく切欠き凹部から速やかに排出される。このようにエアオイルについて効果的な排気および排油流れを実現することができる。したがって、軸受温度の不安定な変位を確実に解消することができる。
【0010】
前記外輪の内径面が、転走面側から幅面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成されていても良い。軸受運転中、軸受空間内で潤滑に供されたエアオイルは、内輪回転による遠心力、この遠心力に伴う排気および排油流れにより、内輪側から外輪側に向かう。エアオイルの一部は、外輪の内径面にて滞留する場合があるが、外輪の内径面を前記のように傾斜させたため、エアオイルは外輪の内径面に滞留することがなく、傾斜面に沿ってスムーズに排出される。
【0011】
参考提案例における第2の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔を設け、前記外輪の幅面のうちいずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部を、内径面から外径面にわたって設け、前記内輪の外径面に、カウンタボア部が形成され、このカウンタボア部における軸方向端部に、外径側に突出する突出部を設けた。軸受運転中、突出部付近に存するエアオイルは、突出部の内径側部分から外径側部分に沿って流れ、切欠き凹部に向かっていく。したがって効果的な排気および排油流れを実現することができる。
【0012】
参考提案例における第2の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔を設け、前記外輪の幅面のうちいずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部を、内径面から外径面にわたって設け、前記内輪の外径面のうちいずれか一方にカウンタボア部が形成され、他方に、カウンタボア部の無い反カウンタボア部が形成され、この反カウンタボア部を、前記内輪の転走面側から幅面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成した。軸受運転中、反カウンタボア部に存するエアオイルは、この反カウンタボア部の傾斜面における転走面側から幅面側に沿って流れ、切欠き凹部に向かっていく。したがって効果的な排気および排油流れを実現することができる。
【0013】
参考提案例における第4の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔を設け、前記外輪の幅面のうちいずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部を、内径面から外径面にわたって設け、前記内輪の外径面に、カウンタボア部が形成され、複数の転がり軸受の組合せ時に、カウンタボア部の内輪カウンタ径よりも大径となる環状部材を軸受間に挟み込んだものとした。前記環状部材の厚みは、例えば数1mm以下程度の薄板状であっても良い。内輪カウンタ径よりも大径となる環状部材を軸受間に挟み込むことで、各軸受において潤滑に供されたエアオイルは、環状部材に遮られて、隣接する軸受の軸受空間内に殆んど移動することなく切欠き凹部から速やかに排出される。
【0014】
前記転がり軸受がアンギュラ玉軸受であっても良い。
複数の転動体を円周方向一定間隔おきに保持する保持器を有し、この保持器を外輪案内形式または転動体案内形式としても良い。例えば、高速回転で使用されるアンギュラ玉軸受では、保持器を外輪案内形式にすることで、高速回転時の保持器の振れ回りをより抑えることができる。
前記保持器が外輪案内形式であって、この保持器の内径面を、転動体を保持するポケット側から保持器端面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成しても良い。
参考提案例における第5の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に複数の転動体を介在させ、これら転動体を円周方向一定間隔おきに保持する保持器を有する転がり軸受において、前記転がり軸受がアンギュラ玉軸受であり、前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔を設け、前記外輪の幅面のうちいずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部を、内径面から外径面にわたって設け、前記保持器が転動体案内形式であって、この保持器の外径面を、転動体を保持するポケット側から保持器端面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成した。軸受運転時、保持器の外径面付近に存するエアオイルは、傾斜面の小径側から大径側に沿って流れ、切欠き凹部にスムーズに向かっていく。
【0015】
前記転がり軸受が内輪つば付の円筒ころ軸受であっても良い。
複数の転動体を円周方向一定間隔おきに保持する保持器を有し、この保持器を外輪案内形式または転動体案内形式としても良い。
この発明の工作機械用主軸は、前記いずれかの転がり軸受を用いたものである。この場合、主軸の高速化および温度上昇低減が可能である。
【発明の効果】
【0016】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体が介在し、複数組み合わせて用いられる転がり軸受において、
前記外輪に、軸受空間内に貫通するエアオイル潤滑用の給油孔が設けられ、前記外輪の幅面のうち、隣りの転がり軸受と接する幅面となる、いずれか一方または両方に、軸受の軸方向内方に凹むエアオイル排気用の切欠き凹部が、内径面から外径面にわたって設けられ、かつ前記切欠き凹部が設けられる幅面として、前記転動体に対して前記給油孔が設けられた側方と反対側の側方の幅面を少なくとも含み、前記外輪の外径面に、前記給油孔に連通する円周溝が設けら
れ、前記給油孔が、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあり、前記切欠き凹部が、前記給油孔からずれた位相で、前記外輪の互いに180°離れた2箇所にあるため、外輪に給油孔を設けた軸受を間座無しで組合わせて用いる場合に、軸受空間内に供給したエアオイルを、軸受外部にスムーズに排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、
図1(A)のA−A線端面図である。
【
図2】(A)は同転がり軸受の外輪の一側面図、(B)は同外輪の他側面図である。
【
図3】同転がり軸受を背面組合わせとした例を示す断面図である。
【
図4】外輪の切欠き凹部の有無の比較試験データを示す図である。
【
図5】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図6】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図10】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図12】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の外輪の一側面図、(B)は同転がり軸受の外輪の他側面図である。
【
図13】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図14】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、
図14(A)のA−A線端面図である。
【
図15】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受を用いた工作機械用主軸の断面図である。
【
図16】従来例のノズル間座付きの転がり軸受の断面図である。
【
図18】同転がり軸受を背面組合わせとした例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図4と共に説明する。
この実施形態に係る転がり軸受は、例えば、工作機械主軸の支持に用いられ、エアオイル潤滑で使用される。但し、工作機械主軸用途に限定されるものではない。
図1(A)に示すように、この転がり軸受は、内輪1と、外輪2と、これら内外輪1,2の転走面1a,2a間に介在する複数の転動体3とを備える。この例の転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、前記転動体3はボールからなる。各転動体3は、リング状の保持器4のポケット4a内に円周方向一定間隔おきにそれぞれ保持される。保持器4は、例えば、外輪2の内径面2bに案内される外輪案内形式のものが適用されている。
【0019】
図1(B)は、
図1(A)のA−A線端面図である。
図1(B)に示すように、外輪2には、エアオイル潤滑用の給油孔5および円周溝6が設けられている。前記給油孔5は、外輪2の外径面2cと、外輪内径面2bにおける転走面近傍位置とを径方向に連通する貫通孔であり、軸受空間内にエアオイルを供給する孔である。前記転走面近傍位置とは、外輪内径面2bのうち、転動体中心よりも転動体3と外輪2との反接触側で、給油孔5から吐出されるエアオイルが転動体3にかかるまでの位置をいう。なお前記「反接触側」とは、外輪2のうち、転走面2aに対して接触角を成す作用線L1の偏り側と反対側をいう。
図2(A)に示すように、給油孔5は、外輪2における180°対角位置に2箇所設けている。
【0020】
図1(B)に示すように、外輪2の外径面2cに円周溝6が設けられ、この円周溝6は、前記2箇所の給油孔5,5にそれぞれ連通している。換言すれば、外輪2の外径面2cのうち、2箇所の給油孔5,5の開口先端のある箇所を、円周溝6が通るように設けられている。
図1(A)に示すように、この円周溝6は、円弧形状の断面に形成され、例えば、円周溝6の溝底位置が給油孔5,5の中心軸線に合致するように配設されている。またこの例では、円周溝6内に、給油孔5,5の各開口先端が収まるように設けられている。
【0021】
図1(A)に示すように、外輪2の外径面2cにおける、円周溝6の両側位置に、それぞれ環状溝7,7を設けている。各環状溝7,7にそれぞれOリングからなる環状のシール部材8,8を設けている。すなわちハウジングHsの内周面と、外輪2の外径面2cとの間における、円周溝6および給油孔5,5の両側位置に、それぞれ環状のシール部材8,8を設けることで、エアオイルの漏れ防止を図っている。
【0022】
外輪2の両幅面に、エアオイル排気用の切欠き凹部9,9をそれぞれ設けている。
図2(A)および(B)に示すように、外輪2の両幅面における切欠き凹部9,9は、互いに同一位相で同一形状であるから、一方の幅面の切欠き凹部9,9についてのみ説明し、他方の幅面の切欠き凹部9,9については同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、前記「幅面」を「端面」という場合がある。
図1(A)に示すように、前記一方の幅面の切欠き凹部9,9は、それぞれ軸受の軸方向内方に凹み、且つ、外輪2の内径面2bから外径面2cにわたって設けられている。
図2(A)に示すように、前記切欠き凹部9,9は、外輪2の180°対角位置に配設されると共に、これら切欠き凹部9,9の幅寸法H1,H1が同一寸法となるように設けられている。切欠き凹部9,9は、それぞれ底面の深さD1,D1(
図1(B))が同一深さとなる断面凹形状に形成されている。
図2(A)に示すように、外輪2の切欠き凹部9,9は、給油孔5,5の位相に対して、定められた角度α1位相をもって設けられている。
【0023】
図3は、2個の転がり軸受を、間座無しで背面組合わせ(DB組合わせ)とした例を示す断面図である。この例では、各軸受の切欠き凹部9,9の円周方向の位相を同位相に配置している。ここで2個の転がり軸受を間座無しで背面組合わせとした場合の、切欠き凹部9の有無の比較試験を行った。本実施品である切欠き凹部9有りの組合わせ軸受と、比較品である切欠き凹部無しの組合わせ軸受のそれぞれについて、定められた運転時間の経過と共に軸受回転数を段階的に上げていき、軸受温度と運転時間との関係を比較した。
【0024】
図4(a)は、実施品である切欠き凹部有りの組合わせ軸受の試験データであり、
図4(b)は、比較品である切欠き凹部無しの組合わせ軸受の試験データである。試験に用いた実施品の切欠き凹部9は、外輪2の両幅面に設けた。また各幅面につき180°対角位置に2箇所切欠き凹部9,9を設けている。前記切欠き凹部9のサイズは、軸受内径φ100mmのもので幅30mm、深さ2mmである。
試験によると、
図4(b)に示す切欠き凹部無しの比較品では、軸受温度tが不安定に変位するいわゆる温度ふらつきが解消されていないが、
図4(a)に示す切欠き凹部9を設けた実施品では、軸受温度tの温度ふらつきが解消されている。また実施品では、軸受温度tの過度の昇温もない。なお、幅30mm、深さ1mmの切欠き凹部のサイズでは、温度ふらつきが残っており、ある程度の排出面積を確保する必要がある。今回の試験では、2箇所の給油孔5,5を設け、各給油孔5の直径をφ1.5mmとした。この給油孔5からの給油に対し、実施品の切欠き凹部9は、深さ2mm×幅30mmの4箇所である。
【0025】
以上説明した転がり軸受によると、エアオイルが、軸受外部から外輪2の給油孔5を通して軸受空間内に供給され、軸受の潤滑に供される。その後、エアオイルは外輪2の切欠き用凹部9からスムーズに排気される。このように軸受空間内に供給したエアオイルを、軸受空間内に滞留させることなく、軸受外部にスムーズに排出することができる。このため、運転中、軸受温度が不安定に変位したり過度に昇温することを未然に防止することができる。したがって、排気用の切欠きを設けた間座が不要となり、軸受同士を隣接して組合わせて用いることが可能となる。
【0026】
複数の転がり軸受の組合せ時に、各軸受の切欠き凹部9,9の円周方向の位相を同位相に配置した場合、切欠き凹部9の排出面積つまり断面積を大きく確保することができる。これにより、各軸受において潤滑に供されたエアオイルは、隣接する軸受の軸受空間内に殆んど移動することなく切欠き凹部9から速やかに排出される。このようにエアオイルについて効果的な排気および排油流れを実現することができる。したがって、軸受温度の不安定な変位を確実に解消することができる。また保持器4を外輪案内形式にすることで、高速回転時の保持器4の振れ回りをより抑えることができる。
【0027】
他の実施形態として、
図5に示すように、転がり軸受を背面組合わせとし、外輪2の内径面2bを、転走面側から幅面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成しても良い。この例では、軸受運転中、軸受空間内で潤滑に供されたエアオイルは、内輪回転による遠心力、この遠心力に伴う排気および排油流れにより、内輪1側から外輪2側に向かう。エアオイルの一部は、外輪2の内径面2bにて滞留する場合があるが、外輪2の内径面2bを前記のように傾斜させたため、エアオイルは外輪2の内径面2bに滞留することがなく、傾斜面2bに沿ってスムーズに排出される。
【0028】
図6に示すように、内輪1の外径面にカウンタボア部10が形成された転がり軸受を背面組合わせとし、前記カウンタボア部10における軸方向端部に、外径側に突出する突出部11を設けても良い。この例では、軸受運転中、突出部11付近に存するエアオイルは、突出部11の内径側部分から外径側部分に沿って流れ、切欠き凹部9に向かっていく。したがって効果的な排気および排油流れを実現することができる。
【0029】
図7に示すように、内輪1の外径面のうち、背面側にカウンタボア部10が形成され、正面側に反カウンタボア部12が形成された転がり軸受を背面組合わせとし、反カウンタボア部12を、内輪1の転走面1a側から幅面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成しても良い。この例では、軸受運転中、反カウンタボア部12に存するエアオイルは、この反カウンタボア部12の傾斜面における転走面1a側から幅面側に沿って流れ、切欠き凹部9に向かっていく。したがって効果的な排気および排油流れを実現することができる。
【0030】
図8に示すように、2個の転がり軸受を背面組合わせとし、内輪端面間に、内輪カウンタボア部10の内輪カウンタ径D2よりも大径となる環状部材13を挟み込んだものとしても良い。この環状部材13は薄板状の鋼板等からなり、環状部材13の内径は内輪内径と略同一寸法で、環状部材13の外径は内輪カウンタ径D2よりも大径でかつ外輪内径よりも小径に定められている。また外輪端面間にも、薄板状の鋼板等からなる環状部材14を挟み込んでいる。この環状部材14は、内輪端面間の環状部材13と厚みが同一で、外輪内径よりも大径でかつ外輪外径と略同一寸法に定められている。
この構成によると、内輪カウンタ径D2よりも大径となる環状部材13を、内輪端面間に挟み込むことで、各軸受において潤滑に供されたエアオイルは、前記環状部材13に遮られて、隣接する軸受の軸受空間内に殆んど移動することなく切欠き凹部9から速やかに排出される。
【0031】
図9では、2個の転がり軸受を背面組合わせとし、各軸受の保持器4Aが外輪案内形式であって、この保持器4Aの内径面4Aaを、ポケット4a側から保持器端面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成している。この例では、軸受運転時、保持器4Aの内径面付近に存するエアオイルは、保持器傾斜面の小径側から大径側に沿って流れ、切欠き凹部9にスムーズに向かっていく。
【0032】
図10では、2個の転がり軸受を背面組合わせとし、各軸受の保持器4Bが転動体案内形式であって、この保持器4Bの外径面4Bbを、ポケット4a側から保持器端面側に向かうに従って径寸法が大きくなるように傾斜する断面形状に形成している。保持器4Bの内径面4Baも、前記外径面4Bbと平行な傾斜面としている。軸受運転時、保持器4Bの外径面付近、内径面付近に存するエアオイルは、各傾斜面の小径側から大径側に沿って流れ、切欠き凹部9にスムーズに向かっていく。
【0033】
図11では、2個の転がり軸受を背面組合わせとし、各外輪2の切欠き凹部9とこの外輪2の外径面2cとの角部に、面取り15を設けている。この場合、排気出口の断面積を排気入口の断面積よりも大きくすることができ、より効果的な排気および排油流れとすることができる。
図12(A)に示すように、外輪2の切欠き凹部9と給油孔5との円周方向の位相を、同位相に配置しても良い。この場合、切欠き凹部9と給油孔5との円周方向の位相を90度異ならせた
図12(B)の形態よりも、軸受における給排油間の距離を小さくすることができ、より効果的な排気および排油流れとすることができる。
【0034】
図13(A)に示すように、外輪2の外径面2cにおいて、円周溝を無くし、
図13(B)に示すように、この外径面2cにおける給油孔5の排気出口の外周部分に環状溝16を設けても良い。この環状溝16に、エアオイルの漏れ防止用のOリングからなる環状のシール部材8Aを設けている。この場合、2列の円周溝7,7を形成する場合より加工工数の低減を図れるうえ、部品点数の低減を図れる。
図14に示すように、転がり軸受が内輪つば付の円筒ころ軸受であっても良い。この場合、外輪2における給油孔5の軸方向位置が、転動体3の一端面3aに合致するように設けられる。これにより、エアオイルを、保持器ポケット4aおよび内輪1のつば面1cに確実に導くことができ、潤滑効果を高めることができる。その他前記各実施形態と同様の作用効果を奏する。
アンギュラ玉軸受の組合せの例として、背面組合わせとした例を示しているが、正面組合わせや並列組合わせとしても良い。
外輪案内形式の保持器を転動体案内形式の保持器に変更しても良いし、逆に転動体案内形式の保持器を外輪案内形式に変更しても良い。
【0035】
図15は、前記いずれかの実施形態に係る転がり軸受を用いた工作機械用主軸の断面図である。この
図15の例は、モータをハウジング内に内蔵した、いわゆるビルトインモータ駆動式の工作機械用主軸である。主軸17に、モータ18のロータ19が取付けられ、ハウジングHsに、このモータ18のステータ20が取付けられている。ロータ19は永久磁石等からなり、ステータ20はコイルおよびコア等からなる。主軸17の前端側に、実施形態に係る円筒ころ軸受BR1および背面組合せしたアンギュラ玉軸受BR2が配置され、主軸17の後端側にも実施形態に係る円筒ころ軸受BR1が配置されている。
【0036】
各軸受BR1,BR2の内輪1は主軸17の外周面に嵌合し、外輪2はハウジングHsの内周面に嵌合している。これら内外輪1,2は内輪押え21および外輪押え22等により主軸17およびハウジングHsにそれぞれ固定されている。ハウジングHsにはエアオイル供給路23が設けられ、このエアオイル供給路23は図示外のエアオイル供給源に接続されている。前記エアオイル供給路23は、各外輪2の給油孔5に連通している。またハウジングHsには、各外輪2の切欠き凹部9に連通するエアオイル排気溝24がそれぞれ設けられると共に、各エアオイル排気溝24に繋がるエアオイル排気路25が設けられている。このエアオイル排気路25からエアオイルが排気されるようになっている。
この場合、主軸17の前端側に、軸受を集中して配置できるため、従来のように間座を軸受間に設けた場合に比べて、主軸17の短縮化を図り主軸剛性を高めることができる。これと共に、軸受温度が不安定に変位したり過度に昇温することを未然に防止できるため、主軸17の高速化および高精度化を図ることができる。
【符号の説明】
【0037】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…転走面
2b…内径面
2c…外径面
3…転動体
5…給油孔
6…円周溝
7…環状溝
8,8A…シール部材
10…カウンタボア部
11…突出部
12…反カウンタボア部
13…環状部材
15…面取り