(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
銀ナノワイヤの分散液と、遷移金属の金属イオンとの混合液を加熱し、金属イオンを還元させることによって銀ナノワイヤの表面に遷移金属の塊を飛び飛びに析出させる工程を備えた、長さ方向に飛び飛びに金属塊を有している銀ナノワイヤの製造方法について説明する。
【0018】
出発物質である銀ナノワイヤの分散液は、銀ナノワイヤを有している分散液であれば、どのように製造されたものであってもよい。銀ナノワイヤは、例えば、ポリオール法を用いて製造されたものであってもよく、ハロゲン化合物や還元剤を含む水溶媒中に銀錯体溶液を添加して加熱する方法によって製造されたものであってもよく、その他の方法によって製造されたものであってもよい。出発物質の銀ナノワイヤは、長さ方向について、ワイヤ径が一定であること、すなわち、ワイヤ径が長さ方向に関して変化しないものであることが好適である(例えば、
図2(a)、
図3(a)参照)。長さ方向についてワイヤ径が一定であるとは、例えば、1本の銀ナノワイヤについて、ワイヤ径を一定の長さごと(例えば、50nmごとなど)に複数計測し、その計測結果を用いて標準偏差を算出し、その算出した1本の銀ナノワイヤの標準偏差を複数の銀ナノワイヤについて平均した平均の標準偏差が、5nm以下であることであってもよい。また、長さ方向についてワイヤ径が一定である銀ナノワイヤは、メタノール分散液におけるプラズモン吸収帯において、例えば、347nmと371nmのように2つのピークトップを有している。したがって、プラズモン吸収帯において、そのような2つのピークトップを有する銀ナノワイヤが、長さ方向についてワイヤ径が一定である銀ナノワイヤであると考えてもよい。透明導電膜の製造過程などにおける銀ナノワイヤの断線を防止する観点からは、その銀ナノワイヤの平均径は大きい方が好適である。出発物質である銀ナノワイヤの平均径は、20nm以上であってもよく、25nm以上であってもよく、30nm以上であってもよい。一方、透明度を向上させ、また、プラズモン吸収帯の吸光極大の波長を長波長側にさせない観点からは、その銀ナノワイヤの平均径は小さい方が好適である。その銀ナノワイヤの平均径は、50nm以下であってもよく、45nm以下であってもよく、40nm以下であってもよい。出発物質である銀ナノワイヤの平均径は、例えば、20nm以上、50nm以下であってもよい。また、出発物質である銀ナノワイヤの平均径は、例えば、1本の銀ナノワイヤについて1箇所で計測したワイヤ径を、複数の銀ナノワイヤについて平均したものであってもよく、1本の銀ナノワイヤについて複数箇所で計測したワイヤ径の平均を、複数の銀ナノワイヤについてさらに平均したものであってもよい。
【0019】
出発物質である銀ナノワイヤの分散液は、銀ナノワイヤの精製前のものであってもよく、精製後のものであってもよい。その分散液の分散溶媒は、例えば、ポリオールであってもよく、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン等のアミド類、ジメチルスルホキシド等の有機硫黄化合物類、テルピネオール等のモノテルペンアルコールなどであってもよい。ポリオールの例示は、後記のとおりである。なお、その分散溶媒は、単独で用いてもよく、または複数を混合して用いてもよい。また、その分散液に、PVP等の樹脂などが含まれていてもよく、または、そうでなくてもよい。
【0020】
金属イオンは、銀とは異なる遷移金属のイオンである。遷移金属は、特に限定されないが、例えば、第4周期の遷移金属であってもよく、第4周期以外の遷移金属であってもよい。第4周期の遷移金属は、特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、鉄、コバルト、チタンから選ばれる少なくとも1種であってもよく、その他の第4周期の遷移金属であってもよい。また、第4周期以外の遷移金属は、特に限定されないが、例えば、モリブデン、またはタングステンであってもよい。金属イオンは、例えば、配位子を有していてもよく、または、配位子を有していなくてもよい。例えば、金属イオンにアンモニアや有機配位子が配位結合することによって、金属錯体を形成していてもよい。金属イオンは、例えば、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオンであってもよい。金属イオンが金属錯体を形成している場合に、その金属錯体は、例えば、有機金属錯体であってもよく、アンミン錯体であってもよい。有機金属錯体は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸イオン、アセチルアセトナートなどのβ−ジケトナト配位子、トリフェニルホスフィン、アミン化合物から選ばれる1種以上の配位子を有していてもよい。カルボン酸イオンは、特に限定されないが、例えば、酢酸イオン、蟻酸イオン、飽和脂肪酸イオン、不飽和脂肪酸イオン、ヒドロキシ酸イオン、ジカルボン酸イオン、胆汁酸イオンなどを挙げることができる。飽和脂肪酸イオンは、例えば、ミリスチン酸イオン、ステアリン酸イオン等であってもよい。不飽和脂肪酸イオンは、例えば、オレイン酸イオン、リノール酸イオン等であってもよい。ヒドロキシ酸イオンは、例えば、クエン酸イオン、リンゴ酸イオン等であってもよい。ジカルボン酸イオンは、例えば、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン等であってもよい。胆汁酸イオンは、例えば、コール酸イオン等であってもよい。金属錯体は、特に限定されないが、例えば、一般式[M
n+(L)
m]Xで示されるものであってもよい。なお、式中、Mは、遷移金属の原子であり、nは、その遷移金属の価数であり、Lは、NH
3、またはアミンであり、mは、原子Mの配位数である。Xは、ハロゲンイオン、NO
3-、SO
42-、PF
6-、BF
4-等であってもよい。アミンは、例えば、R−NH
2、RR'−NH、NH
2−R−NH
2、ピリジン、ビピリジンなどの複素環化合物等であってもよい。R及びR'は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基である。アンミン錯体は、アンミン(アンモニア)を配位子として有する錯体である。アンミン錯体としては、例えば、テトラアンミン銅錯体、ヘキサアンミンニッケル錯体、ヘキサアンミンコバルト錯体、ヘキサアンミン鉄錯体などを挙げることができる。金属錯体は、例えば、水分子である配位子を有していてもよい。金属の還元温度が低くなる観点から、カウンターアニオンが有機配位子である金属錯体、または、アンモニアが配位子であるアンミン錯体が好適である。また、ハロゲンイオン、NO
3-、SO
42-などの無機化合物からなるカウンターアニオンは系中に残存し、ナノワイヤに取り込まれる可能性がある観点からも、カウンターアニオンが有機配位子である金属錯体やアンミン錯体が好適である。したがって、カルボン酸イオンを配位子とする金属錯体が好ましく、例えば、比較的安価な蟻酸銅、酢酸銅、蟻酸ニッケル、酢酸ニッケルなどを好適に使用することができる。金属イオンや金属錯体は、単独で用いられてもよく、または、複数が混合して用いられてもよい。
【0021】
銀ナノワイヤの分散液と、金属イオンとの混合液は、両者を混合することによって調製される。その混合は、例えば、銀ナノワイヤの分散液と金属塩や金属錯体との混合によって行われてもよく、銀ナノワイヤの分散液と金属イオン溶液との混合によって行われてもよい。また、金属イオン溶液は、例えば、銀ナノワイヤの分散液に滴下されてもよい。金属塩としては、例えば、遷移金属のハロゲン化塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等を挙げることができる。ハロゲン化塩は、例えば、塩化銅、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化コバルト等であってもよい。金属イオン溶液の溶媒としては、例えば、水、一価のアルコール、ポリオール等を挙げることができる。一価のアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール等であってもよい。ポリオールの例示は、後記のとおりである。なお、その溶媒に、遷移金属イオンを分散させるための粘度調整剤である樹脂が含まれてもよく、または、含まれなくてもよい。その樹脂は、例えば、PVPであってもよい。金属イオン溶液にPVPが含まれる場合に、そのPVPの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、3万から120万の範囲内であってもよい。また、銀ナノワイヤの分散液と金属イオンとが最終的に混合されるのであれば、その過程は問わない。例えば、金属イオンが金属錯体を形成している場合に、銀ナノワイヤの分散液と、金属錯体を調製するための物質とを混合することによって、結果として、銀ナノワイヤの分散液と金属錯体とが混合されてもよい。金属錯体を調製するための物質は特に限定されないが、例えば、遷移金属の無機塩とアニオンとを挙げることができる。無機塩は、例えば、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等であってもよい。また、アニオンは、例えば、カルボン酸ナトリウムやカルボン酸カリウム等のカルボン酸塩などであってもよい。カルボン酸ナトリウムとしては、例えば、酢酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム等を挙げることができ、カルボン酸カリウムとしては、例えば、酢酸カリウム、蟻酸カリウム等を挙げることができる。金属錯体を調製するための物質として、例えば、塩化銅と酢酸ナトリウムとを用いた場合には、両者を混合することによって、酢酸銅を調製することができる。なお、金属錯体を調製するための物質と銀ナノワイヤの分散液とを混合しても、金属錯体を調製するための物質の一部が金属錯体にならないこともあり、その場合には、金属塊を有する銀ナノワイヤを製造するために、より多くの物質が必要になる。したがって、収率の観点からは、金属錯体と、銀ナノワイヤの分散液とを混合する方が好適である。
【0022】
製造対象の銀ナノワイヤは、長さ方向に飛び飛びに金属塊を有している。銀ナノワイヤの長さ方向は、長軸方向(長手方向)のことである。なお、飛び飛びに金属塊を有しているとは、銀ナノワイヤが長さ方向にわたって複数の金属塊を有していることである。その金属塊の間隔は、一定または不定である。その金属塊は、金属イオンと同じ金属から構成されてもよく、または、異なる金属から構成されてもよい。後述するように、例えば、金属イオンの金属が銅であり、析出した銅を銀ナノワイヤの表面から除去する場合には、製造対象の銀ナノワイヤが有する飛び飛びの金属塊は銀の金属塊であり、金属イオンの金属が銅以外の遷移金属、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、チタンから選ばれる少なくとも1種、または、モリブデンもしくはタングステンである場合には、製造対象の銀ナノワイヤが有する飛び飛びの金属塊は、その金属イオンと同じ金属の金属塊である。また、例えば、金属イオンの金属が銅であり、その銅を除去しない場合には、製造対象の銀ナノワイヤが有する飛び飛びの金属塊は銀及び銅の金属塊である。そのように、銀ナノワイヤの表面に存在する飛び飛びの金属塊は、単独の金属の金属塊であってもよく、複数の金属の金属塊であってもよい。また、製造対象の銀ナノワイヤのメタノール分散液におけるプラズモン吸収帯の吸光極大の波長は、例えば、367nm以下であってもよく、365nm以下であってもよく、363nm以下であってもよく、360nm以下であってもよい。より大きいブルーシフトを実現する観点からは、その吸光極大の波長が短い方が好適である。また、その吸光極大の波長は、例えば、300nm以上であってもよい。また、飛び飛びの金属塊を有する銀ナノワイヤの平均径は、例えば、23nm以上であってもよく、27nm以上であってもよく、30nm以上であってもよく、35nmを超えてもよい。また、その銀ナノワイヤの平均径は、例えば、54nm以下であってもよく、47nm以下であってもよく、40nm以下であってもよい。プラズモン吸収帯の吸光極大の波長が短くなる観点からは、平均径が小さい方が好適であり、断線を防止する観点からは、平均径が大きい方が好適である。製造対象の銀ナノワイヤの平均径は、例えば、23nm以上、54nm以下であってもよい。なお、製造対象の銀ナノワイヤの平均径は、ワイヤ1本について、一端から50nmの間隔ごとに太さを計測した平均を、複数本のワイヤについてさらに平均したものであってもよい。また、製造対象の銀ナノワイヤにおける最も細い箇所における直径は、15nm以上であってもよい。また、製造対象の銀ナノワイヤにおける最も太い箇所における直径は、100nm以下であってもよい。また、その製造対象の銀ナノワイヤのCV値(変動係数:標準偏差を平均径で割ったもの)の平均は、10%以上であってもよく、15%以上であってもよく、20%以上であってもよい。また、CV値の平均は、60%以下であってもよく、50%以下であってもよい。そのCV値の平均は、ワイヤ1本について、一端から50nmの間隔ごとに計測した太さに関する標準偏差を、その太さの平均で割って1本あたりのCV値を算出し、その1本あたりのCV値を複数本のワイヤについて平均したものであってもよい。また、製造対象の銀ナノワイヤに存在する長さ方向の飛び飛びの金属塊の間隔は、長さ方向に対して、例えば、20nm以上、10μm以下であってもよい。また、その金属塊は、例えば、銀ナノワイヤの長さ方向の10μmあたりに1個以上存在してもよい。また、1個の金属塊の太さ(銀ナノワイヤの短軸方向における金属塊の直径)は、例えば、その金属塊の近傍における銀ナノワイヤの幹部分の直径の1.1倍以上、5倍以下であってもよい。金属塊の太さ(すなわち、金属塊の位置におけるワイヤ径)は、電子顕微鏡写真において、銀ナノワイヤの長さ方向に直交する方向における幅を測定したものであってもよい。また、銀ナノワイヤの幹部分の直径とは、銀ナノワイヤにおいて金属塊のない部分の直径である。その金属塊は、例えば、銀の金属塊であってもよく、銀及び銅の金属塊であってもよく、または、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれる少なくとも1種の金属塊であってもよい。その金属塊の金属が銀である場合または銀及び銅である場合には、金属塊は、通常、球形状またはワイヤの長さ方向に延びる紡錘形状であり、銀ナノワイヤの幹となるワイヤの全周にわたって存在する(例えば、
図2(c)参照)。すなわち、銀の金属塊や、銀及び銅の金属塊の中心付近に、幹となる銀のワイヤが存在することになる。一方、その金属塊の金属がニッケル、鉄、コバルト等のように、金属イオンと同じ金属である場合には、金属塊は、通常、銀ナノワイヤの幹となるワイヤの周方向の一部に存在する(例えば、
図5(b)参照)。すなわち、金属塊の端部に、幹となる銀ナノワイヤが存在することになる。金属塊の金属がニッケル、鉄、コバルト等のように、金属イオンと同じ金属である場合には、例えば、
図5(d)で示されるように、出発物質の銀ナノワイヤの断面である五角形状の一辺において、金属が析出するからである。また、金属塊を有しない銀ナノワイヤから、表面に飛び飛びの金属塊を有する銀ナノワイヤを製造することは、銀ナノワイヤの表面のみを変化させていると考えることもできるため、以下、その銀ナノワイヤの製造を銀ナノワイヤの表面改質と呼ぶこともある。表面改質された銀ナノワイヤに飛び飛びに存在する金属塊は、上述のように、銀や、銅、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、モリブデン、タングステンなど金属塊であるが、その金属塊の少なくとも一部は、金属の酸化物であってもよい。例えば、金属塊の金属が銀、ニッケル、コバルト、チタン、モリブデン、タングステンである場合には、容易には酸化しないが、その金属塊の表面の少なくとも一部が酸化物になることがある。また、例えば、金属塊の金属が銅、鉄である場合には、その金属塊の一部または全部が酸化物になることがある。したがって、金属塊が、ある金属の塊であるとは、その金属塊が、その金属そのものの塊である場合や、その金属と、その金属の酸化物との塊である場
合のいずれかであると考えてもよい。すなわち、ある金属の金属塊とは、その少なくとも一部が酸化されていてもよい金属塊である、と考えてもよい。
また、銀ナノワイヤの表面には、金属塊に代えて、金属酸化物の塊が存在してもよい。このことは、銀ナノワイヤの表面に遷移金属の塊を析出させる工程において析出される銅についても同様である。
【0023】
次に、析出した金属を除去する工程を有する銀ナノワイヤの製造方法に関し、金属イオンが銅イオンである場合について説明し、また、析出した金属を除去する工程を有しない銀ナノワイヤの製造方法に関し、金属イオンがニッケルイオンである場合について説明する。
[析出した金属を除去する工程を有する銀ナノワイヤの製造方法]
析出した金属を除去する工程を有する銀ナノワイヤの製造方法に関し、遷移金属が銅である場合について説明する。遷移金属が銅である場合には、金属イオンは銅イオンとなる。銅イオンは、例えば、配位子を有しない銅イオンであってもよく、配位子を有する銅イオンであってもよい。後者の場合には、銅錯体が形成されることになる。その銅錯体は、例えば、有機銅錯体であってもよく、アンミン銅錯体であってもよい。有機銅錯体は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸銅、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅などのβ−ジケトナト配位子を含む銅錯体、トリフェニルホスフィン銅、アミン化合物である配位子を含む銅錯体などを挙げることができる。カルボン酸銅は、特に限定されないが、例えば、酢酸銅、蟻酸銅、飽和脂肪酸銅、不飽和脂肪酸銅、ヒドロキシ酸銅、ジカルボン酸銅、胆汁酸銅などを挙げることができる。脂肪酸銅は、例えば、長鎖アルキルカルボン酸銅であってもよい。飽和脂肪酸銅は、例えば、ミリスチン酸銅、ステアリン酸銅等であってもよい。不飽和脂肪酸銅は、例えば、オレイン酸銅、リノール酸銅等であってもよい。ヒドロキシ酸銅は、例えば、クエン酸銅、リンゴ酸銅等であってもよい。ジカルボン酸銅は、例えば、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅等であってもよい。胆汁酸銅は、例えば、コール酸銅等であってもよい。なお、銀ナノワイヤの表面に銅の塊を飛び飛びに析出させる工程において、銀ナノワイヤの分散液と銅イオンとの混合液中の銀原子に対する銅原子の比率(原子比率)は、0.01以上、0.9以下であることが好適である。銀ナノワイヤの分散液と銅イオンとの混合液を加熱することによって、銅イオンが還元され、銀ナノワイヤの表面に銅の塊が飛び飛びに析出することになる。その銅を析出させる工程において、銅の各塊の両側に銀の塊も析出する。両側とは、銀ナノワイヤの長さ方向の両側である。通常、析出した銀の塊は、銅の塊よりも小さいものである。その銀の析出は、例えば、銀ナノワイヤにおける銀原子のマイグレーションや、分散液中の銀イオンの還元によって起こるのではないかと推察できる。分散液中の銀イオンは、分散液にはじめから存在していてもよく、または、銀ナノワイヤの表面の銀がイオン化したものであってもよい。銀ナノワイヤの表面に銅は飛び飛びに析出するため、結果として、銀の塊も飛び飛びに析出することになる。銀ナノワイヤの分散液と銅イオンとの混合液の温度が300℃を超えると、銀ナノワイヤの表面に存在する表面修飾樹脂(例えば、PVPなどである)が分解され、銀ナノワイヤが凝集するため、好ましくない。そのため、混合液の加熱温度は300℃以下であることが好適である。また、混合液の温度が高い場合には、銀ナノワイヤに断線等の劣化が生じやすくなる。その観点から、混合液の加熱温度は、250℃以下であることがより好適である。なお、例えば、塩化銅を溶媒に溶解させると、配位子を有しない銅イオン溶液になるが、その銅イオンは、250℃程度で単体でも還元される。したがって、そのような配位子を有しない銅イオンを有する混合液の温度は、250℃程度であることが好適である。また、混合液の加熱温度は200℃以下であることがさらに好適である。また、銀ナノワイヤの分散液と銅錯体との混合液の加熱温度は、銅錯体単体での還元温度よりも低い温度であることが好適である。銀は銅イオンの還元触媒として作用するため、銀の存在下では、銅錯体単体での還元温度より低温で還元できる。そのため、混合液を還元温度より低い温度に加熱すると、銀ナノワイヤの表面で選択的に銅イオンの還元反応が進み、銀ナノワイヤ表面において銅ナノ粒子の析出が優先的に起こることになる。その結果、銀ナノワイヤの表面以外における銅の還元を抑制することができ、銅錯体を、銀ナノワイヤ表面における析出に効率的に用いることができるようになるからである。その観点から、混合液の加熱温度は、160℃以下であることがよりさらに好適である。また、混合液の温度は、60℃以上であってもよく、100℃以上であってもよく、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよく、140℃以上であってもよい。例えば、銅錯体が酢酸銅である場合には、混合液の温度が140℃以上となるように加熱してもよい。また、銅錯体がテトラアンミン銅錯体である場合には、混合液の温度が100℃以上となるように加熱してもよい。また、例えば、銅イオンが錯体を形成していない場合には、混合液の温度が200℃以上となるように加熱してもよい。また、その加熱還元処理では、銀ナノワイヤの劣化を防止する観点から、不活性雰囲気下で加熱することが好適である。不活性雰囲気下は、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気下であってもよい。なお、不活性雰囲気下で加熱することにより、銅の酸化も防止することができる。また、銀ナノワイヤの分散液及び銅イオンの混合と、加熱との順序は問わない。例えば、両者を混合してから加熱してもよく、銀ナノワイヤの分散液を目的の温度に加熱した後に、その分散液に銅イオンを滴下してもよい。また、銀ナノワイヤの分散液と銅イオンとを混合する際や、銀ナノワイヤの表面に銅を析出させる際に、撹拌を行ってもよい。その撹拌は、例えば、回転撹拌や、揺動撹拌などであってもよい。また、混合液の加熱は、例えば、マイクロ波の照射によって行われてもよく、または、オイルバスなどのその他の加熱手段によって行われてもよい。マイクロ波加熱に関するマイクロ波の周波数や、マイクロ波の照射方法については、後記のとおりである。
【0024】
この銀ナノワイヤの製造方法においては、銅を析出させる工程の後に、銀ナノワイヤの表面に析出させた銅の塊を除去する工程をさらに備えている。粒子サイズが100nm以下である銅ナノ粒子は、室温、大気暴露により直ちに酸化銅に酸化される。そのように、酸化銅が銀ナノワイヤ表面に存在すると、耐久性、導電性の劣化を示す観点から、その銅の塊を除去してもよい。銅の塊を除去する工程では、例えば、アンモニア水溶液、またはアンモニウム塩の水溶液と、銀ナノワイヤの分散液とを混合し、銅の塊を銅イオンとして溶解させて除去することが好適である。なお、アンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、臭化アンモニウム(NH
4Br)などを挙げることができる。銀ナノワイヤの表面に析出した銅ナノ粒子は、大気雰囲気、ハロゲンイオンの存在下では直ちにテトラアンミン銅(II)錯体として極性溶媒中に溶出するため、銀ナノワイヤから容易に取り除くことができる。最終的に、銀ナノワイヤの表面には、銅を析出させる工程において銅の塊の両側に析出した銀の塊である金属塊のみが残ることになる。銀である金属塊は、容易に酸化しないものである。その銀の金属塊が銀ナノワイヤの表面に存在することにより、銀ナノワイヤのメタノール分散液におけるプラズモン吸収帯の吸光極大の波長が短波長側にシフトすることになる。この工程では、分散液(混合液)の温度は、例えば、室温であってもよく、100℃以下に加熱されてもよい。
【0025】
なお、銀ナノワイヤの表面に銅を析出させる工程、及び銀ナノワイヤの表面の銅の塊を除去する工程における圧力は問わない。すなわち、常圧であってもよく、加圧下または減圧下であってもよい。また、銀ナノワイヤの表面に銅を析出させる工程の加熱時間は、例えば、銀ナノワイヤの分散液と銅イオンとの混合が終了した時点から、1分以上、2時間以下であってもよい。混合が終了した時点とは、例えば、銀ナノワイヤの分散液に銅イオン溶液を滴下する場合には、すべての銅イオン溶液の滴下が終了した時点のことである。また、銀ナノワイヤの表面の銅の塊を除去する工程の時間は、例えば、10分以上、20時間以下であってもよい。
【0026】
[析出した金属を除去する工程を有しない銀ナノワイヤの製造方法]
析出した金属を除去する工程を有しない銀ナノワイヤの製造方法に関し、遷移金属がニッケルである場合について説明する。遷移金属がニッケルである場合には、金属イオンはニッケルイオンとなる。ニッケルイオンは、例えば、配位子を有しないニッケルイオンであってもよく、配位子を有するニッケルイオンであってもよい。後者の場合には、ニッケル錯体が形成されることになる。そのニッケル錯体は、例えば、有機ニッケル錯体であってもよく、アンミンニッケル錯体であってもよい。有機ニッケル錯体は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどのβ−ジケトナト配位子を含むニッケル錯体、トリフェニルホスフィンニッケル、アミン化合物である配位子を含むニッケル錯体などを挙げることができる。カルボン酸ニッケルは、特に限定されないが、例えば、酢酸ニッケル、蟻酸ニッケル、飽和脂肪酸ニッケル、不飽和脂肪酸ニッケル、ヒドロキシ酸ニッケル、ジカルボン酸ニッケル、胆汁酸ニッケルなどを挙げることができる。脂肪酸ニッケルは、例えば、長鎖アルキルカルボン酸ニッケルであってもよい。飽和脂肪酸ニッケルは、例えば、ミリスチン酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル等であってもよい。不飽和脂肪酸ニッケルは、例えば、オレイン酸ニッケル、リノール酸ニッケル等であってもよい。ヒドロキシ酸ニッケルは、例えば、クエン酸ニッケル、リンゴ酸ニッケル等であってもよい。ジカルボン酸ニッケルは、例えば、シュウ酸ニッケル、マロン酸ニッケル、コハク酸ニッケル等であってもよい。胆汁酸ニッケルは、例えば、コール酸ニッケル等であってもよい。なお、ニッケル錯体は、熱分解しやすい有機配位子を含む錯体であることが好適である。また、銀ナノワイヤの表面にニッケルの金属塊を飛び飛びに析出させる工程において、銀ナノワイヤの分散液とニッケルイオンとの混合液中の銀原子に対するニッケル原子の比率(原子比率)は、0.03以上であることが好適である。また、その原子比率は、1.0以下であることが好適である。銀ナノワイヤの分散液とニッケルイオンとの混合液を加熱することによって、ニッケルイオンが還元され、銀ナノワイヤの表面にニッケルの塊が飛び飛びに析出することになる。銀ナノワイヤの分散液とニッケルイオンとの混合液の温度が300℃を超えると、銀ナノワイヤの表面に存在する表面修飾樹脂が分解され、銀ナノワイヤが凝集するため、好ましくない。そのため、混合液の温度は300℃以下であることが好適である。また、混合液の温度が高い場合には、銀ナノワイヤに断線等の損傷が生じやすくなる。その観点から、混合液の温度は、250℃以下であることがより好適である。なお、例えば、塩化ニッケルを溶媒に溶解させると、配位子を有しないニッケルイオン溶液になるが、そのニッケルイオンは、250℃程度で単体でも還元される。したがって、そのような配位子を有しない銅イオンを有する混合液を加熱する場合には、その混合液の温度は、250℃程度であることが好適である。また、混合液の温度は200℃以下であることがさらに好適である。また、銀ナノワイヤの分散液とニッケル錯体との混合液の加熱の温度は、ニッケル錯体単体での還元温度よりも低い温度であることが好適である。ニッケルの場合にも、銀はニッケルイオンの還元触媒として作用するため、銀の存在下では、ニッケル錯体単体での還元温度より低温で還元できるからである。その観点から、混合液の加熱の温度は、160℃以下であることがよりさらに好適である。また、混合液の温度は、60℃以上であってもよく、100℃以上であってもよく、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよく、140℃以上であってもよい。例えば、ニッケル錯体が酢酸ニッケルである場合には、混合液の温度が140℃以上となるように加熱してもよい。また、例えば、ニッケルイオンが錯体を形成していない場合には、混合液の温度が200℃以上となるように加熱してもよい。また、その加熱還元処理では、銀ナノワイヤの劣化を防止する観点から、不活性雰囲気下で加熱することが好適である。なお、銀ナノワイヤの分散液及びニッケルイオンの混合と、加熱との順序は問わない。例えば、両者を混合してから加熱してもよく、銀ナノワイヤの分散液を目的の温度に加熱した後に、その分散液にニッケルイオンを滴下してもよい。また、銀ナノワイヤの分散液とニッケルイオンとを混合する際や、銀ナノワイヤの表面にニッケルを析出させる際に、撹拌を行ってもよい。その撹拌は、例えば、回転撹拌や、揺動撹拌などであってもよい。また、混合液の加熱は、例えば、マイクロ波の照射によって行われてもよく、または、オイルバスなどのその他の加熱手段によって行われてもよい。マイクロ波加熱に関するマイクロ波の周波数や、マイクロ波の照射方法については、後記のとおりである。また、銀ナノワイヤの表面に析出したニッケルは酸化しにくいため、銅のように除去しなくてもよい。すなわち、遷移金属がニッケルである場合には、銀ナノワイヤの表面からニッケルを除去する工程は不要である。この場合には、金属塊は、ニッケルを析出させる好適において析出したニッケルの塊である。ニッケルである金属塊は、容易に酸化しないものである。
【0027】
なお、銀ナノワイヤの表面にニッケルを析出させる工程における圧力は問わない。すなわち、常圧であってもよく、加圧下または減圧下であってもよい。また、銀ナノワイヤの表面にニッケルを析出させる工程の加熱時間は、例えば、銀ナノワイヤの分散液とニッケルイオンとの混合が終了した時点から、1分以上、2時間以下であってもよい。
【0028】
なお、金属イオンの金属がコバルトや鉄、チタン、モリブデン、タングステン等である場合にも、ニッケルイオンを用いた銀ナノワイヤの製造方法と同様に、銀ナノワイヤを製造することができる。その製造方法における原子比率や温度、圧力、時間等は、ニッケルイオンを用いた銀ナノワイヤの製造方法と同様であってもよい。遷移金属がコバルトである場合には、金属錯体は、例えば、酢酸コバルト、蟻酸コバルト、シュウ酸コバルト、クエン酸コバルト、オレイン酸コバルト、トリフェニルホスフィンコバルト、またはアンミンコバルト錯体などであってもよい。コバルトである金属塊は、容易に酸化しないものである。遷移金属が鉄である場合には、金属錯体は、例えば、酢酸鉄、蟻酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、オレイン酸鉄、トリフェニルホスフィン鉄、またはアンミン鉄錯体などであってもよい。この場合には、金属塊は、遷移金属を析出させる工程において析出した、その遷移金属の塊(例えば、コバルトや鉄の塊)となる。なお、不活性雰囲気下で加熱することにより、例えば、鉄の酸化を防止することができる。また、金属イオンの金属が銅である場合にも、ニッケルイオンを用いた銀ナノワイヤの製造方法と同様に、銀ナノワイヤの表面に析出した銅を除去しなくてもよい。その場合には、遷移金属を析出させる工程において析出した遷移金属である銀と銅との塊が金属塊となり、その金属塊が表面に飛び飛びに存在する銀ナノワイヤが製造されることになる。
【0029】
このようにしてプラズモン吸収帯の吸光極大の波長が短波長側にシフトされた銀ナノワイヤは、公知の方法によって精製されてもよい。銀ナノワイヤの分散液にPVPなどの樹脂等が含まれる場合には、精製によってその樹脂等を除去することが好適である。例えば、水、アルコール等の分散溶媒によって希釈した後に、遠心分離、クロスフローろ過、その他のろ過等によって、銀ナノワイヤの分散液に含まれる樹脂(例えば、PVPや、その他の表面修飾剤等)を減少させてもよい。また、そのような希釈とろ過等の処理とを繰り返してもよい。この精製によって、適宜、金属イオン等も除去できることになる。また、そのようにして精製された銀ナノワイヤは、例えば、透明導電膜の製造に用いられてもよく、その他の用途に用いられてもよい。透明導電膜の製造に銀ナノワイヤを用いる際に、銀ナノワイヤの液状分散液を調製し、その分散液を基板上に堆積させ、乾燥や硬化させるようにしてもよい。そのように、製造された銀ナノワイヤは、その液状分散液の調製に用いられてもよい。その分散液は、例えば、インク組成物や導電性インクと呼ばれることもある。その分散液を基板上に堆積させる方法や、堆積させた分散液を乾燥させたり硬化させたりする方法については、公知の方法を用いることができる。
【0030】
[銀ナノワイヤの分散液の製造方法]
前述のように、銀ナノワイヤの分散液の製造方法は特に問わないが、例えば、次のようなポリオール法によって製造してもよい。ここでは、ポリオールと銀化合物とポリビニルピロリドンとを100℃以下で混合する第一の工程と、ハロゲン化合物を含むポリオールを110℃から沸点未満の範囲に加熱した反応溶液中に、第1の工程で混合した混合液を滴下する第二の工程と、を備えた銀ナノワイヤの製造方法について説明する。
【0031】
第一の工程で用いられるポリオールは、2以上のアルコール性ヒドロキシル基を有するアルコールである。ポリオールは特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、またはグリセリンなどを挙げることができる。そのポリオールとしては、反応性及び粘度の観点から、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、またはトリメチレングリコールが好適である。ポリオールは、単独で用いられてもよく、または複数が混合されて用いられてもよい。
【0032】
銀化合物は、ポリオールに可溶であることが好適である。銀化合物は特に限定されないが、例えば、硝酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、臭素酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、亜硝酸銀、過塩素酸銀、リン酸銀、硫酸銀、トリフルオロ酢酸銀、チオシアネート化銀、シアン化銀、シアネート化銀、四フッ素ボレート化銀、またはアセチルアセトネート化銀であってもよい。銀化合物としては、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀が好適であり、硝酸銀、酢酸銀がより好適である。
【0033】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、1万から150万の範囲内であることが好適であり、3万から90万の範囲内であることがより好適である。また、そのモル比において、PVPのモル数は、繰り返しの1単位(分子量:111.14)を1モルとして計算している。以下の説明における、銀に対するPVPのモル比においても同様である。また、混合液においてPVPと銀との前駆体が適切に形成され、より均一なサイズの銀ナノワイヤが合成されるようにするため、混合液におけるPVP濃度(wt%)は、3wt%以上であることが好適である。
また、ポリオールに銀化合物やPVPが可溶となるように、ポリオールや銀化合物が選択されることが好適である。
【0034】
第一の工程において、ポリオールと銀化合物とPVPとを混合する順序は問わないが、例えば、ポリオールにPVPを混合し、そこに銀化合物またはポリオールに溶解させた銀化合物を加えて混合するようにしてもよい。ポリオールに銀化合物やPVPを溶解させるため、十分な撹拌を行うことが好適である。第一の工程は、銀種を生成するための工程ではないため、その撹拌時の温度、すなわち混合時の温度は、銀ナノ粒子が生成され難い温度であることが好適である。例えば、特表2014−507562号公報には、エチレングリコールとPVPと硝酸銀との混合物を115℃に加熱することによって銀種溶液を生成することが記載されているため、第一の工程における温度は、それよりも低いことが好適である。したがって、混合時の温度は、例えば、100℃以下であってもよい。なお、銀イオンの還元や銀ナノ粒子の生成において、ポリオールは、溶媒兼還元剤として作用し、またPVPの還元能は非常に低いが還元補助剤として作用することが知られている。したがって、温度が高くなるほど、順次還元が進行し、銀粒子が生成される可能性が高くなる。そのため、混合時の温度は、80℃以下であることが好適である。また、混合時の温度は、10℃以上であることが好適である。混合は、例えば、回転撹拌や、揺動撹拌などによって行われてもよい。第一の工程は、通常、常圧において行われるが、必要に応じて加圧下または減圧下において行われてもよい。取り扱いの観点からは、常圧が望ましい。また、第一の工程は、通常、大気雰囲気中で行われるが、不活性雰囲気中で行ってもよい。
【0035】
第二の工程において用いるポリオールは、第一の工程で用いたポリオールと同じであってもよく、または、そうでなくてもよい。このポリオールの例示は、上述のとおりである。このポリオールは、溶媒兼還元剤である。このポリオールとしては、反応性及び粘度の観点から、例えば、エチレングリコール、PG、またはトリメチレングリコールが好適である。ポリオールは、単独で用いられてもよく、または複数が混合されて用いられてもよい。
【0036】
第二の工程におけるポリオールに含まれるハロゲン化合物は、ポリオール中においてハロゲン化物イオン、例えば、塩化物イオンや臭化物イオン等を提供する。ポリオールに含まれるハロゲン化合物は、特に限定されないが、塩素化合物を含んでいてもよい。その塩素化合物は、例えば、無機塩化物、及び有機塩化物から選ばれる少なくとも一つであってもよい。無機塩化物は、例えば、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、土類金属塩化物、亜鉛属金属塩化物、炭素属金属塩化物、及び遷移金属塩化物から選ばれる少なくとも一つであってもよい。アルカリ金属塩化物は、例えば、NaCl、KCl、またはLiClであってもよい。アルカリ土類金属塩化物は、例えば、塩化マグネシウム、または塩化カルシウムであってもよい。土類金属塩化物は、例えば、塩化アルミニウムであってもよい。亜鉛属金属塩化物は、例えば、塩化亜鉛であってもよい。炭素属金属塩化物は、例えば、塩化スズであってもよい。遷移金属塩化物は、例えば、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、または塩化ニッケルであってもよい。有機塩化物は、例えば、テトラアルキルアンモニウムクロリドであってもよい。テトラアルキルアンモニウムクロリドは、一般式R
1R
2R
3R
4NClで示されるものである。その式中、R
1〜R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8の直鎖または分岐のアルキル基であってもよい。すなわち、テトラアルキルアンモニウムクロリドは、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトライソプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラペンチルアンモニウムクロリド、テトラヘキシルアンモニウムクロリド、テトラヘプチルアンモニウムクロリド、テトラオクチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、またはメチルトリオクチルアンモニウムクロリドであってもよい。その塩素化合物は、単独で用いられてもよく、または複数が混合されて用いられてもよい。また、ハロゲン化合物が塩素化合物を含んでいる場合に、そのハロゲン化合物は、臭素化合物をも含んでいてもよい。その臭素化合物は、例えば、無機臭化物であってもよく、有機臭化物であってもよい。無機臭化物は、例えば、アルカリ金属臭化物、アルカリ土類金属臭化物、土類金属臭化物、亜鉛属金属臭化物、炭素属金属臭化物、及び遷移金属臭化物から選ばれる少なくとも一つであってもよい。アルカリ金属臭化物は、例えば、NaBr、KBr、またはLiBrであってもよい。アルカリ土類金属臭化物は、例えば、臭化マグネシウム、または臭化カルシウムであってもよい。土類金属臭化物は、例えば、臭化アルミニウムであってもよい。亜鉛属金属臭化物は、例えば、臭化亜鉛であってもよい。炭素属金属臭化物は、例えば、臭化スズであってもよい。遷移金属臭化物は、例えば、臭化マンガン、臭化鉄、臭化コバルト、または臭化ニッケルであってもよい。有機臭化物は、例えば、テトラアルキルアンモニウムブロミドであってもよい。テトラアルキルアンモニウムブロミドは、一般式R
5R
6R
7R
8NBrで示されるものである。その式中、R
5〜R
8は、それぞれ独立して、炭素数1〜8の直鎖または分岐のアルキル基であってもよい。すなわち、テトラアルキルアンモニウムブロミドは、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトライソプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、またはメチルトリオクチルアンモニウムブロミドであってもよい。その臭素化合物は、単独で用いられてもよく、または複数が混合されて用いられてもよい。なお、ハロゲン化合物がテトラアルキルアンモニウムクロリド及びテトラアルキルアンモニウムブロミドを含んでおり、ハロゲン化合物におけるテトラアルキルアンモニウムクロリド及びテトラアルキルアンモニウムブロミドの割合(mol%)をそれぞれ[R
1R
2R
3R
4NCl]、[R
5R
6R
7R
8NBr]とした場合に、
[R
1R
2R
3R
4NCl]+[R
5R
6R
7R
8NBr]=100、
80≦[R
1R
2R
3R
4NCl]≦97、
となることが好適である。ハロゲン化合物に含まれる塩素化合物を80モル%以上とすることによって、高収率で銀ナノワイヤを合成できるからである。また、ハロゲン化合物に含まれる塩素化合物を100%とするのではなく、少量の臭素化合物を含むようにすることによって、生成される銀ナノワイヤが太くならないようにすることができる。ハロゲン化合物に塩素化合物と臭素化合物とが含まれる場合に、その塩素化合物と臭素化合物との両方は、第二の工程において混合液の滴下を行う前に、ポリオールの反応溶液中に存在していることが好適である。なお、滴下対象である第一の工程の混合液に含まれる銀に対する、反応溶液に含まれるハロゲン化合物のモル比は、0.005以上であり、0.06以下であることが好適である。そのモル比は、0.05以下であることがより好適であり、0.04以下であることがさらに好適である。そのようにすることで、生成されるワイヤの太さのばらつきがより少ない均一な銀ナノワイヤを合成することができるからである。なお、滴下対象の混合液に含まれる銀とは、混合液の滴下後の反応溶液に含まれる銀であると考えてもよい。また、ポリオールにハロゲン化合物が可溶となるように、ポリオールやハロゲン化合物が選択されることが好適である。
【0037】
また、第二の工程において、ポリオールには、ハロゲン化合物以外に表面修飾剤も含まれていてもよい。表面修飾剤は、キャッピング剤と呼ばれることもあり、成長する銀ナノワイヤの側面に優先的に付着することによって、銀ナノワイヤの1次元方向への成長を促進するものである。表面修飾剤は特に限定されないが、例えば、PVP、またはポリビニルアセトアミドなどであってもよい。それらは単独で用いられてもよく、または混合されて用いられてもよい。その表面修飾剤の量は特に限定されないが、第二の工程で滴下される混合液に含まれる銀に対する表面修飾剤のモル比は、0から20であってもよい。なお、そのモル比は、0から10であることが好適である。使用する表面修飾剤の量が多いほど、銀ナノワイヤの生成後に表面修飾剤を除去したり低減したりする処理がより多く必要になるため、より少ない量の表面修飾剤を用いることが好適だからである。また、混合液の滴下終了後の反応溶液に含まれる銀に対する表面修飾剤(その表面修飾剤は、混合液に含まれていたPVPを含む)のモル比は、0.5以上が好適であり、1以上がより好適である。表面修飾剤が少ないと、球状粒子が生成される可能性が高くなるからである。また、合成される銀ナノワイヤを太くしない観点からは、混合液の滴下終了後の反応溶液に含まれる銀に対する表面修飾剤(その表面修飾剤は、混合液に含まれていたPVPを含む)のモル比は、2以上が好適であり、2.5以上がより好適であり、3以上がさらに好適である。また、そのモル比は、20以下であることが好適であり、15以下であることがより好適であり、10以下であることがさらに好適である。表面修飾剤が多すぎる場合にも、粒子状の銀が生成されるからである。そのモル比は、表面修飾剤の繰り返しの1単位を1モルとしたモル比であるとする。
【0038】
第二の工程において、第一の工程で混合した混合液を、ハロゲン化合物を含むポリオールの反応溶液中に滴下する。その際に、110℃から、その反応溶液の沸点未満の範囲に反応溶液を加熱する。また、反応溶液は、110℃から200℃の範囲に加熱されてもよく、120℃から180℃の範囲に加熱されてもよい。その加熱は、マイクロ波の照射によって行われてもよく、または、オイルバスなどのその他の加熱手段によって行われてもよい。その加熱において、反応溶液の温度をできるだけ一定に保持することが好適である。反応溶液に第一の工程で混合した混合液を滴下した時に、反応溶液の温度が少し低下する。したがって、その際に温度低下を引き起こさないようにするためには、マイクロ波加熱を行うことが好適である。マイクロ波加熱は、内部加熱であって、急速加熱が可能だからである。マイクロ波の周波数は特に限定されないが、例えば、2.45GHzであってもよく、5.8GHzであってもよく、24GHzであってもよく、915MHzであってもよく、その他の300MHzから300GHzの範囲内の周波数であってもよい。また、単一の周波数のマイクロ波が照射されてもよく、複数の周波数のマイクロ波が照射されてもよい。複数の周波数のマイクロ波は、例えば、同じ位置で照射されてもよく、または異なる位置で照射されてもよい。また、マイクロ波の照射は、連続で行ってもよく、または照射と休止を繰り返す間欠で行ってもよい。マイクロ波を照射すると、照射対象の温度が上昇するが、その温度が一定になるようにマイクロ波照射の強度を調整してもよい。マイクロ波の照射対象である反応溶液の温度は、例えば、熱電対方式の温度計や、光ファイバー方式の温度計などの既知の温度計を用いて測定されてもよい。その測定された温度は、マイクロ波の出力(強度)の制御に用いられてもよい。マイクロ波の照射は、シングルモードで行われてもよく、またはマルチモードで行われてもよい。
【0039】
第二の工程において、混合液の滴下終了後の反応溶液に含まれる銀の濃度が、1wt%以下となる量の混合液が滴下されることが好適である。反応溶液中の銀の濃度が高くなると、得られる銀ナノワイヤが太くなるからである。反応溶液に含まれる銀の濃度とは、銀イオン、銀元素、銀化合物のすべてを含む銀の濃度である。反応溶液に混合液を滴下するスピードは、銀ナノワイヤが適切に合成できる範囲内において任意であるが、より長い平均長の銀ナノワイヤを得る観点からは、より遅いことが好適である。例えば、反応溶液における銀濃度の平均増加スピードが0.6wt%/h以下となるように滴下することが好適であり、0.1wt%/h以下となるように滴下することがより好適であり、0.04wt%/h以下となるように滴下することがさらに好適である。なお、その平均増加スピードは、滴下終了後の銀濃度(wt%)を、滴下時間(h)で割ったものである。したがって、混合液の滴下スピードが一定である場合には、滴下開始時には、その平均増加スピードより大きな値で銀濃度が増加し、滴下終了間際には、その平均増加スピードより小さな値で銀濃度が増加することになる。
【0040】
また、その混合液の滴下が終了した後に、滴下時の温度を維持してもよく、またはそうでなくてもよい。混合液の滴下の終了後に滴下の温度を維持する時間を保持時間と呼ぶとすると、その保持時間は、0から12時間の範囲であってもよい。また、その保持時間は、30分から2時間の範囲内であることが好適である。混合液の滴下直後に、滴下された液滴に含まれる銀を用いた銀ナノワイヤの成長が行われると考えられるため、通常、保持時間を設けなくても問題ないと考えられるが、その保持時間を設けることによって、より完全に銀ナノワイヤの成長が完了すると考えられる。したがって、保持時間は長時間でなくても問題ない。なお、滴下された液滴に含まれる銀とは、銀化合物であってもよく、銀イオンであってもよい。その銀化合物は、混合時に用いられた銀化合物であってもよく、または、そうでなくてもよい。
【0041】
第二の工程は、通常、常圧において行われるが、必要に応じて加圧下または減圧下において行われてもよい。取り扱いの観点からは、常圧が望ましい。また、圧力が常圧でない場合には、反応溶媒の沸点は、その圧力における沸点となる。
【0042】
第二の工程は、不活性雰囲気中で行われることが好適である。その不活性雰囲気とするために用いられる不活性気体は、窒素、ヘリウム、ネオン、及びアルゴンから選ばれる少なくとも一つを含有していてもよい。なお、不活性雰囲気中で第二の工程の反応を行うとは、反応容器に存在する空気を不活性気体で置き換えることであると考えてもよい。
【0043】
第二の工程において、反応溶液に混合液を滴下することによって、反応溶液中で銀イオンが還元され、銀ナノワイヤを得ることができる。第二の工程によって生成される銀ナノワイヤは、平均径が20〜50nmであり、アスペクト比が200〜10000の範囲内のものとなる。そのアスペクト比は、200〜5000の範囲内であってもよい。アスペクト比は、ナノワイヤの直径に対する長さの比である。すなわち、アスペクト比=ナノワイヤの長さ/ナノワイヤの直径となる。第二の工程によって製造された銀ナノワイヤは、公知の方法によって精製することができる。上記金属イオンと混合される銀ナノワイヤの分散液は、精製後のものであってもよく、または、精製前のものであってもよい。
【0044】
なお、ここでは、吸光極大をシフトさせる対象となる出発物質としての銀ナノワイヤを製造する一例として、ポリオール法について説明したが、上記以外のポリオール法によって銀ナノワイヤを製造してもよく、ポリオール法以外の製造方法によって、吸光極大をシフトさせる対象となる出発物質としての銀ナノワイヤを製造してもよいことは言うまでもない。
【0045】
また、銀ナノワイヤのメタノール分散液について、プラズモン吸収帯の吸光極大の波長がブルーシフトすることについて説明したが、他の溶媒を用いた銀ナノワイヤの分散液についても、同様にプラズモン吸収帯の吸光極大の波長のブルーシフトを確認できると考えられる。
【0046】
以上のように、本発明による銀ナノワイヤの製造方法によれば、メタノール分散液におけるプラズモン吸収帯の吸光極大の波長を短波長側にシフトさせた銀ナノワイヤを製造することができる。また、銀ナノワイヤのワイヤ径を細くすることなく、吸光極大をブルーシフトさせることができるため、耐久性や導電性を低下させることなく、ブルーシフトを実現できることになる。なお、その銀ナノワイヤの製造で用いる金属イオンは、還元温度を低くできる観点から、アンミン錯体や、有機配位子をカウンターアニオンとして有する金属錯体を形成していることが好適である。また、その銀ナノワイヤの製造で用いる金属錯体として、銅錯体やニッケル錯体等を用いることができるが、吸光極大以外の波長帯域における吸光度を低くすることができる観点からは、銅錯体を用いることが好適である。
【0047】
[実施例、比較例]
以下、本発明を実施例に基づいて詳しく説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
銀ナノワイヤの分散液の評価として、以下の手順にしたがい、各調製条件の差異を確認した。
【0048】
[可視吸収スペクトル]
分散液0.1gを採取し、メタノール溶媒にて50倍(w/w)に希釈した希釈分散液を、以下の測定装置、装置条件で分析した。
測定装置:U−3300形分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製)
装置条件
開始:660.00nm
終了:300.00nm
スキャンスピード:60nm/min
サンプリング間隔:2.00nm
スリット:2nm
セル長:10.0mm
【0049】
[ワイヤ径、ワイヤ長の計測]
銀ナノワイヤのサイズ計測は、以下の手順に従い平均値を算出した。
分散液10gをメタノールにて200gになるように希釈した希釈分散液をテフロン(登録商標)製遠沈容器に充填し、遠心分離機(TOMY社製、CAX−371)にて、回転数2,300rpm(1,000G相当)、60分の回転条件で遠心分離した後、上澄みを除去した。その後、得られたスラリーを同量のメタノールで再分散させ、遠心分離する操作をさらに3回繰り返すことによって洗浄操作を行い、過剰に存在していたPG溶媒、樹脂(PVP)を除去した。得られた銀ナノワイヤ分散液をSiO
2基板に液滴し、100℃にて乾燥した。以下の条件にて分析を行い、200本のワイヤのサイズを計測することで平均径、平均長を算出した。
測定装置:電界放射型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製,FE−SEM,S4800)
平均径測定条件:加速電圧10kV、WD8mm、倍率100,000倍
平均長測定条件:加速電圧10kV、WD8mm、倍率1,000倍
【0050】
[実施例1]
(銀ナノワイヤ分散液の調製)
室温下、2.25gの硝酸銀(和光純薬社製)、7.2gのPVP(重量平均分子量50,000、和光純薬社製)粉末を、210gのPG溶媒中に激しく撹拌しながら少量ずつ加えて溶解させ、深緑色の混合液を調製した。
【0051】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シール栓付き撹拌機(東京理理化機器社製,マゼラZ2310)、窒素導入管、熱電対挿入口、混合液滴下口を有する容積1,000mLのガラス製丸底フラスコと、撹拌翼であるPTFE製三日月型羽根とを備えた反応装置を用いて銀ナノワイヤを合成した。なお、上記反応装置をマルチモード型マイクロ波照射装置(四国計測工業社製,μ−Reactor Ex;最大出力1,000W,発信周波数2.45GHz)内に組み込み、マイクロ波照射により溶液全体を加熱した。温度制御は、溶液内の温度を熱電対にて計測し、その計測温度が設定された温度となるようにマイクロ波の出力をプログラム制御することによって行った。
【0052】
上記1,000mLガラス容器内に200gのPG溶媒と0.055gのテトラブチルアンモニウム塩を投入し、室温にて撹拌することで全て溶解させ、反応溶液を調製した。そのテトラブチルアンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムクロリドとテトラブチルアンモニウムブロミドとのモル比が86:14の混合物を使用した。容器内を窒素ガスにて置換した後、100ml/minの窒素ガス流量にて絶えず不活性雰囲気下に保持した。まず、ガラス容器内の反応溶液をマイクロ波照射により室温から150℃まで昇温速度10℃/minにて昇温し、溶液の温度を保持した。また、30℃の硝酸銀の混合液を、定量ポンプ(KNF社製,SIMDOS02)を用いて、4時間かけて滴下した後、温度をさらに60分保持することで銀ナノワイヤを合成し、得られた灰緑色溶液を室温まで冷却することで銀ナノワイヤの分散液(分散液Aとする)を得た。
【0053】
(銀ナノワイヤの表面改質)
28.920gのPG溶媒に、1.080gのPVP(重量平均分子量50,000、 和光純薬社製)を溶解させた後、0.370gの酢酸銅1水和物粉末(和光純薬製)を混合し、50℃にて加熱撹拌することで銅錯体を溶解させた。この銅錯体溶液を上記銀ナノワイヤ分散液(分散液A)200.0gと混合することによって混合液を調製した。ここで、銀原子に対する銅原子の比率は0.50(原子比率)であった。
【0054】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シール栓付き撹拌機(東京理理化機器社製,マゼラZ2310)、窒素導入管、熱電対挿入口を有する容積500mLのガラス製丸底フラスコと、撹拌翼であるPTFE製三日月型羽根とを備えた反応装置を用いた。なお、上記反応装置をマルチモード型マイクロ波照射装置(四国計測工業社製,μ−Reactor Ex;最大出力1,000W,発信周波数2.45GHz)内に組み込み、マイクロ波照射によって混合液全体を加熱した。温度制御は、液中の温度を熱電対にて計測し、その計測温度が設定された温度となるようにマイクロ波の出力をプログラム制御することによって行った。
【0055】
上記のように調製した混合液を丸底フラスコに移し、容器内を窒素ガスにて置換した後、100ml/minの窒素ガス流量にて絶えず不活性雰囲気下に保持し、まず、ガラス容器内の混合液をマイクロ波照射により室温から昇温速度10℃/minにて150℃まで昇温した。150℃到達10分後に混合液の色が灰緑色から赤褐色に変化したことから、銅イオンが還元され銅ナノ粒子が生成したことが確認された。なお、150℃に到達後、その温度にて60分保持して反応を完結させ、得られた赤褐色溶液を室温まで冷却した(分散液Bとする)。
【0056】
この反応溶液を室温、大気雰囲気にて撹拌しながら、60gの28%アンモニア水溶液を5分かけて滴下した。滴下した後さらに1時間撹拌することで反応溶液が灰緑色溶液(分散液Cとする)に戻るのを確認した後、240gの酢酸エチルを5分かけて滴下する貧溶媒晶析手法によりナノワイヤ沈殿物を得た。ここで、上澄み溶液は酢酸エチルとPG溶媒の混合液であり、さらに薄い青色を呈しており、銅イオンが上澄みに抽出されていた。
【0057】
上記晶析溶液の上澄みをデカンテーションにより除いた後、ナノワイヤ、PVP樹脂を多く含む沈殿物をメタノールにて200gになるように希釈し、この分散液をテフロン(登録商標)製遠沈容器に充填し、遠心分離機(TOMY社製、CAX−371)にて、回転数2,300rpm(1,000G相当)、60分の回転条件にて遠心分離した後、上澄みを除去した。その後、得られたスラリーを同量のメタノールで再分散させ、遠心分離する操作をさらに3回繰り返すことによって洗浄操作を行い、過剰に存在していたPG溶媒、樹脂(PVP)を除去することで目的とする銀ナノワイヤの分散液を得た。
【0058】
(得られた反応液の吸収スペクトル変化)
各反応段階における銀ナノワイヤ分散液のプラズモン吸収帯の変化を調べると以下のような経時変化が観察された。上記過程の分散液A,B,Cを0.1g採取し、メタノール溶媒にて100倍(w/w)に希釈した希釈分散液の吸収スペクトルを
図1に示す。なお、
図1における四角枠内は、325〜415nm付近の拡大図である。
【0059】
銀ナノワイヤの合成直後(分散液A)は、347nmと371nmの2つのピークトップを有するプラズモン吸収帯を示していたが、酢酸銅を加え加熱したもの(分散液B)は、360nmのみにピークトップを有する銀ナノワイヤ特有のプラズモン吸収を示した。さらに600nm付近に銅ナノ粒子特有のプラズモン吸収を示すことが確認された。一方、大気暴露した後、アンモニア処理した分散液Cは、600nmの銅ナノ粒子プラズモン吸収帯が消失し、360nmのみにピークトップを有する銀ナノワイヤ特有のプラズモン吸収帯のみが確認された。また、分散液Cでは、550〜650nmの吸光度が分散液Bと比べ、相対的に減少していることが確認された。この結果から、分散液B,Cは可視光領域の吸収帯が全体的にブルーシフト(すなわち、短波長にシフト)した銀ナノワイヤとなったことが分かる。また、銅ナノ粒子プラズモン吸収帯を消失させ、550〜650nmの吸光度を減少させる観点からは、銀ナノワイヤの表面に析出した銅を除去させる方が好適であることが分かる。
【0060】
(得られた反応液に含まれる銀ナノワイヤの形状)
各反応段階における銀ナノワイヤの形状を透過型電子顕微鏡(TEM:日立ハイテクノロジーズ社製,H800EDX,加速電圧200kV)にて観察した。精製したメタノール希釈分散液をエラスティックカーボン支持膜Moグリッド(応研商事社製、ELS−M10)に液滴し、40℃、真空乾燥させることで溶媒を除去したものを使用した。
図2は、分散液A、B、Cを遠心分離にて精製した後の分散液から得られたTEM画像を示す図である。
図2(a)は、分散液AのTEM画像であり、
図2(b)は、分散液BのTEM画像であり、
図2(c)及び
図2(d)は、分散液Cを精製した分散液のTEM画像である。分散液Aの銀ナノワイヤはまっすぐなワイヤであったのに対し、分散液Bの銀ナノワイヤは、部分的にバルーンのように膨らんだ塊の箇所と、その両端に少し膨らんだ箇所とが存在するワイヤ形状となっていることが確認された。また
図2(b)の四角で囲った領域をEDX(エネルギー分散型X線分析)により元素分析したところ、銅と銀の原子が確認され、銅と銀で構成されていることが確認された。一方、分散液Cの銀ナノワイヤについては、バルーンのような膨らみが消失し、その両端の膨らみのみが残ったワイヤ形状として確認された。
図2(c)の四角で囲った領域をEDXにより元素分析したところ、銀原子のみが確認され、銀で構成される凹凸状のワイヤであることが確認された。したがって、分散液Bの銀ナノワイヤにおけるバルーンのような塊は銅の塊であり、その両側に存在する膨らみは銀の塊であると考えられる。
【0061】
(得られた銀ナノワイヤのサイズ変化)
図3は、分散液A,Cを遠心分離洗浄することで得られたメタノール分散液のFE−SEM画像を示す図である。
図3(a)は、分散液AのFE−SEM画像であり、
図3(b)は、分散液CのFE−SEM画像である。分散液Aの銀ナノワイヤは断面が五角形状のエッジを有するものから形成されているのに対して、分散液Cの銀ナノワイヤは部分的に金属塊を有していることが分かる。ここで、分散液Aの銀ナノワイヤ200本からワイヤ径、ワイヤ長を計測したところ、平均径33.4nm(標準偏差3.0nm)、平均長9.8μm(標準偏差4.9μm)であった。この平均径の算出においては、ワイヤ1本に対して、無作為に1箇所の太さを計測することを200本のワイヤについて行った。
【0062】
(銀ナノワイヤ1本あたりの太さの変化)
分散液A,CのFE−SEM画像において、ワイヤ1本におけるワイヤ径変化(太さ変化)を以下の条件にて計測した。ワイヤ1本においてワイヤの端から50nmの間隔ごとに太さを計測し、ワイヤ1本におけるワイヤ径の平均値と標準偏差を算出した。これを10本のワイヤにて計測した結果を次表に示す。
【0063】
分散液Aの銀ナノワイヤは1本あたりの太さのばらつきはほとんどなく、同じ太さで伸びていることが分かる。一方、表面処理を施した分散液Cにおいては、部分的に金属塊を有する箇所が形成されており、その太さは35〜80nmであり、1本中の太さのばらつきを示すCV値は、分散液Aの平均5.3%から、約5倍の平均26.8%に上昇している。また、分散液Cにおいては、各銀ナノワイヤの平均径が35nmを超えているため、1本の平均径を10本のワイヤについて平均した結果も35nmを超えることになる。したがって、そのような平均径が35nmを超える銀ナノワイヤについて、プラズモン吸収帯の吸光極大を短波長にシフトさせることができたことになる。
【0064】
分散液Aに関する計測結果は、次のとおりである。
【表1】
【0065】
分散液Cに関する計測結果は、次のとおりである。
【表2】
【0066】
[実施例2]
酢酸銅1水和物の量を0.074g、0.222g、及び0.74gとした以外は、実施例1と同様の条件にて銀ナノワイヤの表面改質を行った。なお、それらの酢酸銅1水和物の量に対応する原子比率(銀原子に対する銅原子の比率)はそれぞれ、0.10、0.30、及び1.0となる。
【0067】
図4は、実施例1,2に関する分散液Cを精製した後のメタノール分散液の吸収スペクトルを示す図である。
図4(a)において、実線は、銀原子に対する銅原子の比率が0.1である分散液Cの精製後の分散液の吸収スペクトルであり、点線は、表面処理前の分散液Aの吸収スペクトルである。
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)はそれぞれ、銀原子に対する銅原子の比率が0.3、0.5、1.0である分散液Cの精製後の分散液の吸収スペクトルである。
図4から、表面改質を行うことによって銀のプラズモン吸収のピークトップを371nmから360nmへブルーシフトするためには、銀原子に対する銅原子の比率が0.10程度の少量の添加でも十分効果があることが分かる。一方、銀原子に対する銅原子の比率を1.0にした場合は、銀のプラズモン吸収のピークトップが同様のブルーシフトをしているが、320〜450nmにわたってブロードな吸収となっている。したがって、銀ナノワイヤの分散液と混合する銅錯体は、銀原子に対する銅原子の比率が0.9以下となるように混合することが好適である。
【0068】
[実施例3]
酢酸銅1水和物の代わりに、酢酸ニッケル4水和物を用いる以外は、実施例1と同様の条件にて銀ナノワイヤの表面改質を行った。ただし、実施例1とは異なり、アンモニア水溶液の滴下は行わなかった。ニッケルの場合には、銀ナノワイヤの表面に析出したニッケルを除去する必要がないからである。また、使用した酢酸ニッケル4水和物の量、混合液中の原子比率、吸収最大波長は、次表のとおりである。得られた分散液を遠心分離操作で洗浄することによって目的とする銀ナノワイヤの分散液を得た。
【表3】
【0069】
(TEM画像)
図5は、得られた銀ナノワイヤの分散液のTEM画像を示す図である。
図5(a)〜
図5(c)はそれぞれ、上記No.1,No.3,No.4に対応する表面改質後の銀ナノワイヤの分散液のTEM画像であり、
図5(d)は、銀ナノワイヤ表面におけるニッケルの析出について説明するための図である。
図5(d)で示されるように、酢酸ニッケルを用いて反応させる場合には、銀ナノワイヤの表面にプレート状にニッケルが析出する。
図5(a)〜
図5(c)から分かるように、銀ナノワイヤの表面に析出するニッケル結晶のサイズは、ニッケルイオンの添加量に依存していた。すなわち、銀ナノワイヤの表面に析出したニッケル結晶のサイズは、No.1のサンプルでは40nm程度であり、No.4のサンプルでは10〜20nm程度であった。
【0070】
(吸収スペクトルの変化)
図6は、得られた分散液をメタノール希釈した分散液の吸収スペクトルそれぞれ示す図である。吸収の最大波長を上記表に記載しているが、ニッケルの添加量を増やすことで銀ナノワイヤのプラズモン吸収体の最大波長がブルーシシフトしていることが分かる。ただし、No.5の混合液中の原子比率[Ni
2+]/[Ag]=0.02の場合には、表面改質前の銀ナノワイヤの吸収スペクトルからの変化が微小であるため、銀原子に対するニッケル原子の比率は、0.02を超えていることが好適である。
【0071】
[試験例1]
0.370gの酢酸銅1水和物、1.080gのPVP(重量平均分子量50,000)を28.92gのPG溶媒に混合し、50℃にて加熱撹拌することで銅錯体を溶解させた。この銅錯体を実施例1と同様の反応装置にて窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて150℃まで昇温し、2時間保持した。なお、2時間経っても溶液の色の変化はなかった。
【0072】
[試験例2]
昇温後の温度を165℃に変更した以外は、試験例1と同様にして実験を行った。165℃に保持してから1時間程度の経過後から溶液の色が緑色から赤褐色に変化し、銅イオンの還元及び銅ナノ粒子の生成が確認された。
【0073】
試験例1,2の結果と実施例1の結果から、銀ナノワイヤが存在する場合には、銀が触媒となることによって、150℃という低温下においても銅イオンの還元が促進されることが分かる。また、銀ナノワイヤの表面に銅イオンの還元及び銅(0)の析出が発生することによって、効率よく銀の表面を銅で覆うことができる。一方、165℃以上の温度で反応させる場合には、PG溶媒中で銅の還元、銅ナノ粒子の析出が独立して発生することによって、銀ナノワイヤの表面改質に使われる銅の量が減少し、銀ナノワイヤの表面改質の効果が低減するため好ましくないと考えられる。したがって、銀ナノワイヤの分散液と銅錯体とを混合させる場合には、165℃より低い温度に加熱することが好適である。
【0074】
なお、本発明は、以上の実施例に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【解決手段】銀ナノワイヤの製造方法は、銀ナノワイヤの分散液と、銀とは異なる遷移金属の金属イオンとの混合液を加熱し、金属イオンを還元させることによって銀ナノワイヤの表面に遷移金属の塊を飛び飛びに析出させる工程を備えている。そのようにして製造された銀ナノワイヤは、長さ方向に飛び飛びに金属塊を有しており、プラズモン吸収帯の吸光極大を短波長側にシフトされている。