(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
針を有するシリンジを用いて、前記針により刺通可能な蓋部を有する薬剤容器内に気密に収容された薬剤の吸引を行う際に、前記薬剤が外部空間に漏洩するのを防止するための薬剤容器の蓋カバーであって、
前記蓋部において前記針が刺し込まれる刺込み面を囲むように前記蓋部に対して取り付け可能な周壁部と、
前記周壁部の上部に連続し、前記針により刺通可能な天面部と
を備え、
前記周壁部及び前記天面部は、弾性材料により形成され、前記周壁部が前記蓋部に対して取り付けられた状態で、前記刺込み面と前記天面部との間に閉鎖空間を形成しつつ、前記刺込み面が外部空間に曝されることのないように前記刺込み面を気密に収容するように構成され、
前記天面部は、前記刺し込み面と対向し前記針が刺し込まれる中央部と、前記中央部の周囲に形成され、当該中央部よりも肉厚の薄い外周部と、を備えている、
薬剤容器の蓋カバー。
前記蓋部と前記天面部との間に前記閉鎖空間を形成するために、前記蓋部が前記天面部へ接触するのを規制する規制部材をさらに備えている、請求項1に記載の薬剤容器の蓋カバー。
前記閉鎖空間が、前記周壁部が薬剤容器の蓋部に対して取り付けられた状態において、−5KPa以上の陰圧となる、請求項1から10のいずれかに記載の薬剤容器の蓋カバー。
前記上部には、前記蓋部と前記天面部との間に前記閉鎖空間を形成するために、前記蓋部が前記天面部へ接触するのを規制する規制部材をさらに備えている、請求項12に記載の蓋カバー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の蓋カバーを使用したとしても、薬剤の漏洩は、依然として生じ得る。すなわち、特許文献1の蓋カバーによれば、上記閉鎖空間内に漏れ出した薬剤を収容することが可能であるが、このとき、漏れ出した薬剤のために、上記閉鎖空間内は陽圧となる。従って、蓋カバーに形成された針穴を介して、閉鎖空間内に収容されている薬剤が、当該閉鎖空間内からさらに外部空間へと漏れ出すことが多々起きている。なお、上記では、細胞毒性を有する薬剤を取り扱う場合について述べたが、これに限らず、臭気性や刺激性を有する薬剤など、外部に曝露することが問題となり得る他の薬剤を取り扱う場合にも、同様の問題が生じ得る。
【0007】
一方、特許文献2の蓋カバーにも次のような問題がある。例えば、薬剤が揮発性の高いものである場合には、上述したフィルタを通して気化した薬剤が外部に漏洩するおそれがある。また、ハウジングが硬質プラスチックから形成されているため、薬剤容器の口部の寸法によっては蓋カバーとの間に隙間が開くおそれがある。
【0008】
本発明は、シリンジの針の刺し込みにより薬剤容器の蓋部に形成された針穴を介して、薬剤容器内から薬剤が漏れ出た場合でも、外部空間にまで曝露が及ばなくすることが可能な薬剤容器の蓋カバーの収容体、蓋カバーの収容具、及び蓋カバーの装着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1の薬剤容器の蓋カバーは、針を有するシリンジを用いて、前記針により刺通可能な蓋部を有する薬剤容器内に気密に収容された薬剤の吸引を行う際に、前記薬剤が外部空間に漏洩するのを防止するための薬剤容器の蓋カバーであって、前記蓋部において前記針が刺し込まれる刺込み面を囲むように前記蓋部に対して取り付け可能な周壁部と、前記周壁部の上部に連続し、前記針により刺通可能な天面部と、を備え、前記周壁部及び前記天面部は、弾性材料により形成され、前記周壁部が前記蓋部に対して取り付けられた状態で、前記刺込み面と前記天面部との間に閉鎖空間を形成しつつ、前記刺込み面が外部空間に曝されることのないように前記刺込み面を気密に収容するように構成され、前記天面部は、前記刺し込み面と対向し前記針が刺し込まれる中央部と、前記中央部の周囲に形成され、当該中央部よりも肉厚の薄い外周部と、を備えている。
【0010】
この構成によれば、シリンジを用いて薬剤容器内の薬剤を吸引する際に、薬剤容器の蓋部においてシリンジの針が刺し込まれる刺込み面が、蓋カバーにより、外部空間に曝されることがないように気密に収容される。さらに、当該刺込み面は、蓋カバーの天面部との間に閉鎖空間を形成しつつ、蓋カバー内に気密に収容される。そのため、薬剤の吸引が終わり、シリンジの針を薬剤容器の蓋部から抜き出した後、薬剤容器の蓋部に形成された針穴を介して薬剤容器内から薬剤が漏れ出た場合でも、漏れ出た薬剤は閉鎖空間内に収容される。
【0011】
また、この蓋カバーの天面部は、前記刺し込み面と対向し前記針が刺し込まれる中央部と、前記中央部の周囲に形成され、当該中央部よりも肉厚の薄い外周部と、を備えているため、シリンジの針によって中央部に形成される針穴の密閉度を高く保つことができる。その理由として以下のように考えられる。すなわち、薬剤容器の蓋部に蓋カバーを取り付けると、蓋部によって周壁部が押し広げられるため、これに伴って、蓋カバーの天面部には径方向外方に広がる力が作用する。これにより、針と、これが刺し込まれた天面部との隙間である針穴、あるいは針が引き抜かれた後の針穴が広がるように、天面部には力が作用する。これに対して、本発明においては、針が刺し込まれる中央部の周囲に、肉厚の薄い外周部が形成されているため、径方向外方に作用する力は、主として、薄肉で弾性変形しやすい外周部に作用し、中央部には及ばなくなる。その結果、上述した針穴が広がるのが防止され、天面部の針穴の密閉度を高く保つことができる。したがって、シリンジの針の刺し込みにより薬剤容器の蓋部に形成された針穴を介して、薬剤容器内から閉鎖空間へ薬剤が漏れ出た場合でも、外部空間にまで曝露が及ぶのを防止することができる。さらに、針穴の密閉度が高いため、針を抜く際に針先に付着した薬剤がほぼ完全に拭われる。したがって、この点においても曝露防止効果を高めることができる。
【0012】
上記蓋カバーにおいては、前記蓋部と前記天面部との間に前記閉鎖空間を形成するために、前記蓋部が前記天面部へ接触するのを規制する規制部材をさらに備えることができる。
【0013】
この構成によれば、蓋カバーの薬剤容器への装着方法にかかわらず、規制部材によって、薬剤容器の蓋部が天面部に接触しないように構成されているため、蓋部と天面部との間に閉鎖空間を確実に形成することができる。このような規制部材の構成は、特には限定されないが、例えば、天面部の下面や周壁部の内周面から突出する複数のリブによって形成することができる。このようなリブの形状としては、柱形状や平板形状など特に限定されないが、閉鎖空間を安定的に形成させるために周壁部内面と連続した平板形状とするのが好適である。また、装着状態を安定にするために、3〜8個を周壁部の周方向に沿って所定間隔(例えば、ほぼ等間隔)に設けることが好ましい。
【0014】
上記蓋カバーにおいて、前記天面部の上面は平坦面状または曲面状に形成することができる。そして、前記中央部は、前記天面部の下面から突出するように形成することができる。この場合、天面部の下面において、刺し込み面に向かって突出していない部分が、肉厚の薄い外周部となる。これにより、天面部の上面に突起を設けることなく、肉厚の大きい中央部を形成することができる。
【0015】
また、上記いずれかの蓋カバーにおいて、天面部に作用する径方向外方の力を、外周部により集中させるためには、例えば、前記中央部の肉厚の、前記外周部の肉厚に対する比を、2〜10とすることができる。
【0016】
外周部の具体的な厚さとしては、蓋カバーの大きさや素材にもよるが、例えば、0.5〜3mmとすることができる。外周部の厚さが薄すぎると、成形上問題が生じたり強度低下をきたしたりするおそれがある。一方、厚すぎると、径方向外方に作用する力が外周部に集中しにくくなるおそれがある。また、外周部の幅は、0.3〜3mmであることが好ましい。これは、幅が狭すぎると、径方向外方に作用する力が外周部に集中しにくくなったり成形が困難になったりするおそれがあることによる。一方、幅が広すぎると、シリンジの針を、誤って外周部に刺したり、あるいは天面部の強度低下をきたすおそれがある。
【0017】
上記いずれかの蓋カバーは、ショアーA硬度が15〜50である弾性材料で形成されることが好ましい。ショアーA硬度は、例えばタイプAデュロメータを用いて測定することができる。ショアーA硬度が高すぎたり、あるいは低すぎたりすると、薬剤容器の蓋部と蓋カバーとの密閉度や、上述した針穴の密閉度が低下するおそれがある。なお、蓋カバーを構成する具体的な弾性材料としては、例えば、イソプレンゴム、シリコンゴム、熱可塑性エラストマー等の特に医療分野で汎用されている軟質の弾性材料を用いることができる。これにより、針による刺通が可能であり、また、その弾性により、薬剤容器の蓋部に対して周壁部がより密着するように装着可能である。
【0018】
上記いずれかの蓋カバーにおいては、前記天面部の上面に、凹部を形成することができる。これにより、次の効果を得ることができる。すなわち、蓋カバー装着時に、蓋カバーに対し、薬剤容器の蓋部を押し込むと、蓋カバーの周壁部と薬剤容器の蓋部の隙間から空気が追い出され、閉鎖空間が過度な陰圧になるおそれがある。閉鎖空間は、陰圧であっても万一多少陽圧となっても、本発明に係る蓋カバーの薬剤漏洩防止効果は殆ど影響を受けないが、過度な陰圧になると、圧力差によって薬剤容器内の薬剤が多量に閉鎖空間に噴出し、却って漏洩の発生のおそれが出てくる。そこで、上記のように、天面部の上面に凹部が形成されていると、薬剤容器の蓋部の押し込み時に、天面部の凹部が上方へ膨出するため、これによって、空気の漏れが抑制され、閉鎖空間内が陰圧になるのを緩和することができる。凹部の形状は特には限定されず、天面部の一部が凹んだ形状にすることもできるし、天面の大部分が曲面状(例えば、球面状)に凹んだ形状にすることもできる。なお、蓋カバーの装着による閉鎖空間の圧力は、例えば、−5KPa以上の陰圧となることが好ましい。なお、ここでいう−5KPa以上の陰圧とは、−5〜0KPaの陰圧のことを示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シリンジの針の刺し込みにより薬剤容器の蓋部に形成された針穴を介して、薬剤容器内から薬剤が漏れ出た場合でも、外部空間にまで曝露が及ばなくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る蓋カバーの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
<1.蓋カバーの構成>
図1は、本実施形態に係る蓋カバー1を薬剤容器2に固定した様子を示す斜視図である。蓋カバー1は、シリンジ3(
図2参照)を用いて薬剤容器2内に気密に収容された薬剤の吸引を行う際に、薬剤が外部空間に漏洩するのを防止するための器具である。蓋カバー1は、この吸引の作業時に、
図1に示すように、薬剤容器2のボトル栓22(蓋部)を覆うように取り付けられる。そして、シリンジ3にセットされた針33は、薬剤容器2のボトル栓22を覆う蓋カバー1の天面部50を刺通した後に、続けて薬剤容器2のボトル栓22を刺通する(
図7参照)。なお、
図1に示すように、本実施形態に係る蓋カバー1は、薬剤容器2のボトル栓22を覆った状態でボトル栓22が外部から視認可能なように透明に形成されている。しかしながら、これに限定されず、半透明、不透明に形成することも可能である。
【0023】
ここで対象とする薬剤は、特には限定されないが、例えば、外部に曝露することが問題となり得る薬剤である。そのような薬剤としては、例えば、細胞毒性を有する薬剤であり、曝露すると、これを取り扱う者(主として、医療従事者。以下、ユーザーと言う。)に重篤な副作用を及ぼしたり、細胞毒性に由来する健康被害を及ぼしたり等する可能性のある薬剤である。このような薬剤の例としては、抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、抗ウィルス剤、抗生物質、放射性医薬品等が挙げられる。また、外部に曝露することが問題となり得る薬剤の別の例としては、臭気性や刺激性を有する薬剤などが挙げられる。なお、薬剤としては、液体のほか、粉末状のもの等があるが、粉末状の薬剤を吸引する際には、吸引に先立ち、シリンジ3を用いて薬剤容器2内に混合液を注入し、薬剤容器2内で薬剤を混合液により溶解させる。
【0024】
以下、本実施形態の説明において、上下方向(縦方向)及び横方向は、蓋カバー1を薬剤容器2に取り付けた状態であって、蓋カバー1が上側、薬剤容器2が下側にくるような状態を基準に定義され、特に断らない限り、蓋カバー1及び薬剤容器2の使用状態における鉛直方向とは無関係である。
【0025】
まず、本実施形態で用いられる薬剤容器2について説明する。
図1に示すように、薬剤容器2は、一般にバイアル瓶と呼ばれるものであり、ガラス製のボトル本体21と、このボトル本体21の上部に形成された開口を閉鎖するボトル栓22とを有する。ボトル本体21は、典型的には、透明又は半透明である。ボトル本体21は、全体として略円柱形状に形成されているが、その上部には肩部211を介して径が小さいネック部212が形成されている。さらに、ネック部212の上方には、フランジ部213(
図3参照)が形成されており、このフランジ部213にボトル栓22が取り付けられる。なお、
図3に示すとおり、ボトル栓22の外周部及びフランジ部213は、全体としてネック部212から径方向外方向へ突出するフランジを形成しているとも言える。従って、以下では、ボトル栓22の外周部及びフランジ部213を併せて、フランジ部214と呼ぶ。
【0026】
ボトル栓22において、ボトル本体21の上部開口を塞ぐ部分は、ゴム、エラストマー等の弾性変形可能な材料により形成されており、シリンジ3の針33により刺通可能である。逆に、この部分からシリンジ3の針33を引き抜くと、針33の刺し込みにより形成された針穴は、その弾性により、完全ではないものの殆ど瞬時に閉じられる。また、この弾性変形可能な部分は、フランジ部213に対しアルミキャップ23で巻き閉め固定されており、このアルミキャップ23は、ボトル栓22の上面22a(刺込み面)の中央部分を除いて、この弾性変形可能な部分全体を覆っている。従って、シリンジ3を用いて薬剤容器2内にアクセスする場合には、針33をボトル栓22に対しその上面22aの円形状の中央部分から刺し込む必要がある。
【0027】
また、
図2に示すとおり、本実施形態で用いられるシリンジ3は、公知の一般的な形状のものであり、円筒状のシリンダ31と、このシリンダ31内で可動するピストン32とを有する。シリンダ31の先端には、液体の吸引及び排出がなされる開口部が設けられており、この開口部に針33が装着される。
【0028】
続いて、蓋カバー1について説明する。本実施形態における蓋カバー1全体は、イソプレンゴム、シリコンゴム、熱可塑性のエラストマー等の特に医療分野で汎用されている軟質の弾性材料から形成されており、シリンジ3の針33による刺通が可能である。また、蓋カバー1は、その弾性により、薬剤容器2のボトル栓22に対し着脱自在である。用いる材料としては、ショアーA硬度(ASTM D2240)が15〜50のものが好ましく、20〜40のものがさらに好ましい。このショアーA硬度は、例えば、タイプAデュロメータを用いて測定することができる。なお、本実施形態における蓋カバー1全体は、一体成型されたものであるが、他の実施形態では、別々に成形された部品が各部品の成形後に結合されたものであってもよい。また、その成形方法も、射出成形等、蓋カバー1の形状等に応じて、当業者により適宜選択される。
【0029】
図3は、蓋カバー1の側方断面図であり、
図4は、説明のため上下方向に半分に分割された蓋カバー1の斜視図である。
図3及び
図4においては、参考のため、蓋カバー1が装着された状態の薬剤容器2の上部が示されている。後述される
図5、
図7、
図9〜11,
図20、
図22〜
図23についても同様である。蓋カバー1は、
図3及び
図4に示すように、全体的には底面側が開口した円形のカップ状であり、円筒状の周壁部10と、周壁部10の上部に連続する天面部50とを有する。周壁部10の下端には、薬剤容器2のフランジ部214に引っ掛けられる環状の留め部12が連続している。留め部12の縦断面視形状は、
図3に示すように、頂点が径方向内側を向いた丸みを帯びた三角形状である。留め部12は、周壁部10の内周面から径方向内側に突出している。また、周壁部10は、上下方向に連結された上部10Aと下部10Bとで構成されており、上部10Aの外径が大きく、下部10Bの外径が小さくなっている。そして、上部10Aには、後述するリブ16が設けられている。
【0030】
図3及び
図4に示すように、周壁部10の内径は、薬剤容器2のボトル栓22の外径よりもやや小さく、また、留め部12の内径は、ボトル栓22の外径よりもやや小さい。そのため、ボトル栓22に対して蓋カバー1を取り付けるに当たっては、周壁部10の下部及び留め部12を中心として蓋カバー1が弾性変形することにより、ボトル栓22を留め部12側から蓋カバー1内へ挿入する。このとき、周壁部10の内径が薬剤容器2のボトル栓22の外径よりもやや小さいため、周壁部10は径方向外方へ押し広げられ、これによって、ボトル栓22と周壁部10とは密着状態となる。
【0031】
なお、
図3及び
図4においては、蓋カバー1とフランジ部214とが重なるように図示されているが、実際には、蓋カバー1がフランジ部214に装着された状態では、上記のように周壁部10及び留め部12は、フランジ部214の外形に合わせて弾性変形する。従って、周壁部10及び留め部12は、周方向に沿って隙間なく、フランジ部214に密着する。また、このとき、留め部12は、フランジ部214とネック部212との間の段差D1に引っ掛かり、フランジ部214を下方から支持する。従って、蓋カバー1が薬剤容器2に対して取り付けられた後、意図せず薬剤容器2が蓋カバー1から脱落することが防止される。
【0032】
そして、その結果、ボトル栓22全体が、蓋カバー1内に気密に収容される。このことは、蓋カバー1が薬剤容器2に対して取り付けられた状態では、ボトル栓22においてシリンジ3の針33を刺し込み可能な上面22a(刺込み面)が、外部空間に曝されることのないように蓋カバー1内に気密に収容されることを意味する。また、
図3に示すように、留め部12の上端から天面部50の下面(より正確には、後述する中央部51の下面)51bまでの距離L1は、フランジ部214の上下方向の厚みよりも、十分に長い。その結果、蓋カバー1が薬剤容器2に対して取り付けられた状態では、ボトル栓22の上面22aが天面部50の下面51bに接することはなく、ボトル栓22の上面22aと天面部50との間に閉鎖空間S1が形成される。そのため、シリンジ3の針33がボトル栓22から抜き取られた後に、ボトル栓22に形成された針穴を介して薬剤容器2内から多少の薬剤が漏れ出たとしても、漏れ出た薬剤は閉鎖空間S1内に閉じ込められる。従って、外部空間への薬剤の漏洩が抑制される。
【0033】
なお、蓋カバー1は、上記のとおり軟質の弾性材料から構成されているため、形状及びサイズが多少異なるボトル栓を有する薬剤容器を対象とする場合にも、ボトル栓を蓋カバー1内に気密に収容することができる。
【0034】
また、周壁部10の内周面には、周方向に等間隔で配置される複数本(本実施形態では、4本)のリブ16(規制部材)が一体的に形成されている。各リブ16は、上下方向に延びる板状に形成され、周壁部10の内周面から径方向内方向へ突出している。これらのリブ16の下端の位置は上下方向に揃えられており、リブ16の下端から留め部12の上端までの距離L2は、概ねフランジ部214の上下方向の厚みに等しい。従って、リブ16の下端から天面部50の下面51bまでの距離L3としては、十分な長さが確保されている。
【0035】
そして、以上述べたことから明らかであるが、周壁部10の下方から周壁部10内へと挿入されたボトル栓22は、リブ16に妨げられて、リブ16の下端位置よりも上方へは進入することができない。すなわち、リブ16は、周壁部10の下方から周壁部10内へと挿入されたボトル栓22が、天面部50の下面51bまで達するのを規制し、閉鎖空間S1を確保する役割を果たす。また、距離L2が上記のとおり構成されているため、リブ16は、当該役割以外にも、フランジ部214が閉鎖空間S1内で上下方向に動くことができないように規制し、ひいては、蓋カバー1を薬剤容器2に対し固定する役割を担っている。また、フランジ部214の左右方向の動きも、周壁部10により規制されている。その結果、蓋カバー1を薬剤容器2に装着した後、誤って蓋カバー1が脱落してしまい、閉鎖空間S1内に閉じ込められていた薬剤が外部空間に漏洩することが防止される。
【0036】
また、本実施形態では、周壁部10の外周面は、上下方向に段差D2を有するが、他の実施形態では、段差がなくてもよい。
【0037】
図3及び
図4に示すように、天面部50は、円板状の中央部51と、当該中央部51を囲む環状の外周部52とを有する。外周部52は、周壁部10の上部及び中央部51の外周縁に連続している。また、外周部52は、中央部51に向けて傾斜しており、中央部51の上面51aは、周壁部10の上部よりも下方に位置する。すなわち、天面部50は、その中央部51が下側に窪んだような形状を有する。なお、本実施形態における外周部52の傾斜の態様は、縦断面視において直線状である。外周部52を傾斜させると、径方向外方に作用する力を中央部に及ぼさなくできるので、好都合である。また、中央部51は、刺通した針33をしっかりと保持することができ且つ液漏れが生じないようにするために、ある程度の厚みをもたせるのがよく、一般に3〜10mm程度が好ましく、3〜6mm程度であることがより好ましい。
【0038】
一方、外周部52の厚さは、中央部51よりも薄肉であり、外周部52よりも容易に変形可能となっている。具体的には、蓋カバー1を構成する素材にもよるが、外周部52の厚さは0.5〜3mm程度とするのが好ましく、1〜3mm程度とするのがより好ましい。これは、外周部52の厚さが薄すぎると、成形上の問題が生じたり、天面部50の強度が低下するおそれがあることによる。また、外周部52が厚すぎると、後述する径方向外方に作用する力が外周部52に集中しにくくなる。さらに、外周部52の変形をより容易にするため、外周部52の幅(径方向の長さ)は、0.3〜3mm程度であることが好ましい。これは、外周部52の幅が狭すぎると、後述する径方向外方に作用する力が外周部に集中しにくくなったり、成形が困難になったりするおそれがあることによる。また、外周部52の幅が広すぎると、誤って外周部52に針を刺したり、あるいは強度が低下するおそれがある。外周部52の幅は0.3〜2mm程度がより好適である。そして、外周部52に後述する径方向外方の力をより集中させるために、外周部52の厚みに対する中央部51の厚みの比は、2〜10であることが好ましく、2〜7とするのがより好ましい。
【0039】
また、
図3及び
図4に示すように、天面部50上には、中央部51の上面51aから突出する環状突出部60が形成されている。これにより、天面部50の上端には、中央部51と環状突出部60とで囲まれる窪み部53が形成されている。そして、この環状突出部60と、中央部51と、薬剤容器2のボトル栓22とは、蓋カバー1が薬剤容器2に取り付けられた状態で概ね同軸となる。従って、ユーザーは、環状突出部60を参考にすることで、シリンジ3の針33を容易に中央部51の略中心に、ひいては、薬剤容器2のボトル栓22の略中心に刺し込むことができる。すなわち、ユーザーは、シリンジ3の針33を蓋カバー1及びボトル栓22に対し容易に位置合わせをすることができる。なお、
図3及び
図4に示すように、本実施形態における環状突出部60の上端は、第1状態において、周壁部10の上端と上下方向の高さ位置が揃えられている。しかしながら、他の実施形態では、環状突出部60が、第1状態において、周壁部10の上端よりも高い位置まで延びていても、低い位置までしか伸びていなくてもよい。
【0040】
<2.蓋カバーの使用方法>
次に、蓋カバー1を用いた薬剤の吸引方法について説明する。ここでは、シリンジ3を用いて薬剤を吸引した後、これを混合液が収容された混合液容器4内に注入することで、患者に投与するための混合薬液を調製する場面を例に説明する。まず、ここで用いられる混合液容器4について説明する。
【0041】
図6に示すように、混合液容器4は、プラスチック製のボトル本体41と、このボトル本体41の上部に形成された開口を閉鎖するボトル栓42とを有する。ボトル本体41は、全体として略楕円柱形状に形成されているが、薬剤容器2と同様に、その上部には肩部411を介して径が小さいネック部412が形成されている。さらに、ネック部412の上方には、フランジ部(図示されない)が形成されており、このフランジ部に対しボトル栓42が取り付けられている。なお、ボトル栓42は、ボトル本体41の開口を塞ぐように、フランジ部に溶着により取り付けられる。そして、ボトル栓42において、ボトル本体41の開口を塞ぐ部分は、薬剤容器2と同様に、ゴム、エラストマー等の弾性材料により形成され、シリンジ3の針33により刺通可能である。なお、混合液容器4は、ボトル形態である必要はなく、バッグタイプのものも当然利用可能である。この混合液容器4に収容される混合液は、生理食塩水やリンゲル液、蒸留水等であり、薬剤を希釈したり、溶解させたりするための溶液である。
【0042】
ユーザーは、混合薬液を調製するに当たり、シリンジ3、混合液容器4、適当な個数の薬剤容器2、及び薬剤容器2と同数の蓋カバー1を準備する。続いて、ユーザーは、
図1に示すように、各薬剤容器2に蓋カバー1を取り付ける。このとき、ボトル栓22が蓋カバー1内に気密に閉じ込められるように、留め部12をフランジ部214にしっかりと接触させる。これにより、ボトル栓22は蓋カバー1内でしっかりと固定される。このとき、蓋カバー1に対し、薬剤容器2のボトル栓22を押し込むと、蓋カバー1の周壁部10とボトル栓22の隙間から空気が追い出され、更にボトル栓22の押し込み時にリブ16が押圧されるため、その後のリブ16の復元により閉鎖空間S1が拡張し、閉鎖空間S1が過度な陰圧になるおそれがある。閉鎖空間S1は、陰圧であっても万一多少陽圧となっても、薬剤漏洩防止効果は殆ど影響を受けないが、過度な陰圧になると、圧力差によって薬剤容器2内の薬剤が多量に閉鎖空間に噴出し、却って漏洩の発生のおそれが出てくる。そのため、閉鎖空間S1の圧力は、例えば、−5kPa以上の陰圧であることが好ましい。なお、−5KPa以上の陰圧とは、前述したとおり、−5〜0KPaの陰圧のことである。
【0043】
各薬剤容器2のボトル栓22を蓋カバー1で覆った後、シリンジ3を用いて、各薬剤容器2から薬剤を吸引してゆく。具体的には、薬剤容器2及び蓋カバー1の各セットに対し、以下の操作を行う。すなわち、環状突出部60を参考にして、蓋カバー1の天面部50の中央部51の中心を狙って、針33を中央部51に突き刺す。そして、針33をさらに刺し込むと、針33は薬剤容器2のボトル栓22の概ね中心軸に沿って刺し込まれる(
図7参照)。このとき、薬剤全量をシリンジ3で吸引しやすいように、ボトル栓22側に薬剤が溜まるよう、蓋カバー1が薬剤容器2の鉛直方向下側にくるように両者の向きを調整する。こうして、針33がボトル栓22から薬剤容器2内に入り込み、薬剤に接触すると、ピストン32を引き、薬剤を吸引する。吸引により薬剤容器2内が減圧状態になり操作が困難となる場合は、薬剤吸引前に薬剤吸引量と略同量の空気をシリンジ3内に吸引しておき、この空気を薬剤容器2内の薬剤と置き換えながらピストン運動により薬剤を吸引すればよい。
【0044】
そして、適当な量の薬剤がシリンダ31内に吸引されると、針33をボトル栓22及び蓋カバー1から引き抜く。このとき、ボトル栓22は、蓋カバー1に覆われた状態のままにしておく。よって、このとき、針33の引き抜きとともに薬剤が薬剤容器2から漏れ出たとしても、この薬剤は、蓋カバー1により囲まれた閉鎖空間S1に閉じ込められる。また、針33を蓋カバー1から引き抜くときに、針33は蓋カバー1に擦られながら引き抜かれるため、針33に付着した薬剤は閉鎖空間S1内に留まり易い。
【0045】
また、蓋カバー1の天面部50の中央部51から上方へ突出する環状突出部60により、ユーザーが、針33の刺し込みが行われた中央部51に触れてしまうことがない。従って、この観点からも、ユーザーが薬剤に曝露する可能性が低減されている。
【0046】
こうして、薬剤容器2から薬剤を次々に吸引した後、ユーザーは、シリンジ3の針33を混合液容器4のボトル栓42に刺し込み、ピストン32を押し込む。これにより、シリンジ3内の薬剤がすべて混合液容器4内に注入され、薬剤と混合液とが混合される。こうして、混合薬液が調製される。なお、複数の薬剤容器2に対して以上の薬剤の吸引の操作を行う場合、シリンジ3は、同じものを用いてもよいし、途中で変更してもよい。
【0047】
その後、ユーザーは、混合薬液入りの混合液容器4を患者のところへ運び、混合液容器4内の混合薬液を点滴等の方法で患者へ投与する。また、薬剤の吸引/混合の作業後、ユーザーは、シリンジ3、薬剤容器2及び蓋カバー1を廃棄する。このとき、薬剤容器2は蓋カバー1から取り外されることなく、ボトル栓22が蓋カバー1内の閉鎖空間S1内に収容されたままの状態で、蓋カバー1とともに破棄される。従って、薬剤により汚染された可能性のある蓋カバー1及び薬剤容器2を安全に廃棄することができる。
【0048】
以上の説明では、薬剤が液状である場合について説明したが、薬剤が粉末である場合には、次のように行う。まず、シリンジ3の針33を混合液容器4に刺し込み、混合液をシリンジ3内に吸引する。そして、シリンジ3の針33を混合液容器4から引き抜いた後、今度は、針33を蓋カバー1内に刺し込み、さらに薬剤容器2内に刺し込む。この状態で、ピストン32を押し込み、シリンジ3内の混合液を薬剤容器2内に注入する。これにより、粉末の薬剤と混合液とが混合され、液状の薬剤が調製される。その後、この液状薬剤を吸引し、シリンジ3内に薬剤を保持する。続いて、シリンジ3の針33を混合液容器4のボトル栓42に刺し込み、シリンジ3内の薬剤を混合液容器4内に注入する。他の薬剤容器についても同様に混合液を注入して液状薬剤を調製した後、シリンジ3で吸引して混合液と混合すると、上述したように混合薬液が調製される。なお、薬剤容器2内に注入する混合液は、混合薬液を調製するための混合液容器4から吸引したものでなくてもよく、溶解乃至希釈用の他の混合液を用いることもできる。
【0049】
<3.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、天面部50が、シリンジ3の針33が刺し込まれる中央部51と、この中央部51の周囲に形成され、肉厚の薄い外周部52と、を備えているため、シリンジ3の針33によって中央部51に形成される針穴の密閉度を高く保つことができる。その理由として以下のように考えられる。すなわち、薬剤容器2のボトル栓22に蓋カバー1を取り付けると、ボトル栓22によって周壁部10が径方向外方へ押し広げられるため、これに伴って、蓋カバー1の天面部50にも径方向外方に広がる力(例えば、
図7の矢印F)が作用する。これにより、針33と、これが刺し込まれた天面部50との隙間である針穴、及び針が引き抜かれた後の針穴が広がるように、天面部50には力が作用する。これに対して、本実施形態においては、針が刺し込まれる中央部51の周囲に、肉厚の薄い外周部52が形成されているため、径方向外方に作用する力Fは、主として弾性変形しやすい外周部52に集中し、中央部51には及ばなくなる。その結果、針穴が広がるのが防止され、天面部50の針穴の密閉度を高く保つことができる。したがって、シリンジ3の針33の刺し込みにより薬剤容器2のボトル栓22に形成された針穴を介して、薬剤容器2内から閉鎖空間S1へ薬剤が漏れ出た場合でも、外部空間にまで曝露が及ぶのを防止することができる。この点は、針が刺し込まれているとき、及び針が引き抜かれた後の両方において奏する効果である。さらに、針穴の密閉度が高いため、針33を抜く際に針先に付着した薬剤がほぼ完全に拭われる。よって、この点においても曝露防止効果を高めることができる。
【0050】
<4.変形例>
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。また、後述する変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0051】
<1>
上記リブ16に代えて、周壁部10の内周面に、例えば、
図8に示すような凸部17(規制部材)を形成してもよい。この凸部17は、リブ16の寸法を周方向に沿って幅広としたものであり、上下方向の寸法については、リブ16と同様とすることができる。また、このような凸部を、周方向に不連続な構成ではなく、周方向全体に広がるように連続して形成してもよい。さらに、凸部は、上下方向に天面部50の下面51bまで延びている必要はなく、例えば、点状の凸部であってもよい。また、周壁部10の内周面に、周壁部10内への薬剤容器2のボトル栓22の進入を規制するこのような凸部(リブ16を含む)を設けない構成とすることもできる。なお、リブ16や凸部17は必ずしも必要ではない。この点は、後述する変形例においても同様である。
【0052】
<2>
外周部52の構成は、上述したものに限られず、少なくとも外周部52の厚みが、中央部51の厚みよりも小さければよい。例えば、初期状態において、周壁部10の上部から上記実施形態よりもさらに下方まで延びていてもよい。また、このとき、外周部52は、例えば、
図9に示すように、天面部50の中央部51の下面51bとボトル栓22の上面22aとが、初期状態において接触するように構成してもよい。この場合においても、シリンジ3の針33の抜き取り時には、中央部51が上方へ持ち上げられるため、当該接触状態が解除され、閉鎖空間S1内に薬剤を閉じ込めることができる。
【0053】
蓋カバー1の、天面部50は、刺込み面との間の距離が変化するように弾性変形可能に構成されていればよく、その態様は特には限定されない。例えば、
図10に示すように、初期状態において、外周部52が横方向に延びており、中央部51が周壁部10に対し窪んでいない構成とすることもできる。
【0054】
また、
図11に示すように、天面部50を平坦にすることもできる。この場合、中央部51と外周部52の上面は面一であり、外周部52の肉厚が薄いため、中央部51は薬剤容器2のボトル栓22側に突出したような形態となる。ここで、シリンジ3の針33を確実に中央部51に差し込むことができるように、中央部51を外部から容易に視認できるようにすることが好ましい。そのため、例えば、
図12に示すように、中央部51の上面に、その周縁に沿って環状の凸部501を形成することができる。また、
図13に示すように、天面部50から中央部51のみが上方に突出したような形態にすることもできる。あるいは、
図14に示すように、天面部から中央部が下方に窪むように、天面部の外周縁よりも下方に中央部及び外周部を形成することもできる。なお、以上の例では、外周部は、中央部から径方向外方に水平に延びるように形成されているが、例えば、
図15に示すように、中央部の周縁から上方に向かって延びるように外周部を形成し、外周部の端部を天面部の外周縁に連結するようにすることもできる。
【0055】
<3>
また、
図16に示すように、天面部50の上面に凹部502を形成することもできる。この凹部502は、断面視において湾曲した形状となっており、これによって天面部50が上方に膨出しやすくなっている。そのため、以下の効果を得ることができる。すなわち、上記のように、蓋カバーに対し、薬剤容器のボトル栓22を押し込むと、蓋カバー1の周壁部10とボトル栓22の隙間から空気が追い出され、閉鎖空間S1が過度な陰圧になるおそれがある。そこで、上記のように、天面部50の上面に凹部502が形成されていると、ボトル栓22の押し込み時に、凹部502が上方へ膨出するため、これによって、空気の漏れが抑制され、閉鎖空間S1内が陰圧になるのを緩和することができる。
【0056】
また、蓋カバー1にリブ16が形成されていると、ボトル栓22の押し込み時にリブ16が押圧されるため、その後のリブ16の復元により閉鎖空間S1が拡張する。しかしながら、上記のように凹部502を形成していると、凹部502の膨出からの復元により、このような閉鎖空間S1の拡張が緩和される。その結果、閉鎖空間S1が過度な陰圧になることを防止できる。以上のように、閉鎖空間S1の圧力は過度な陰圧にならないように、例えば、上述したように、−5KPa以上の陰圧となることが好ましい。
【0057】
<4>
図17及び
図18に示すように、外周部52が、縦断面視においてジグザグ形状を有するものとしてもよい。
図17では、外周部52が階段状に形成される例を示している。
図18では、外周部52が蛇腹状に形成される例を示しており、この場合、天面部50が上方へ撓むように変形し易くなっている。このような形態であっても、外周部52が中央部51に比べて薄肉である以上、上述した効果を得ることができる。
【0058】
<5>
上記実施形態において、リブ16に代えて、天面部50の下面51bに、例えば、
図19に示すような凸部18(規制部材)を形成してもよい。この場合、この凸部18の存在により、天面部50の下面51bとボトル栓22の上面22aとの間に、凸部18の高さに対応する一定の距離が確実に保たれ、薬剤を閉じ込めるための閉鎖空間S1が確保される。なお、リブ16の下端と凸部18の下端との上下方向の高さ位置が概ね等しくなるように構成しつつ、リブ16及び凸部18を同時に設けてもよい。
【0059】
<6>
上記実施形態では、蓋カバー1は、薬剤容器2のフランジ部214全体を気密に覆うように構成されていた。しかしながら、ボトル栓22において、針33により刺通される部分(上面22aの中央部分)が気密に覆われる限り、必ずしもフランジ部214全体が気密に覆われる必要はなく、蓋カバーを例えば
図20に示すような構成とすることもできる。蓋カバー1から留め部12を省略したようなこの例では、周壁部10の内周面がフランジ部214の外周面にしっかりと密着することで、蓋カバー1が薬剤容器2に対し固定されるようになっている。
【0060】
<8>
本発明の蓋カバー1は、例えば上部開口のフランジに剥離フィルム501が取り付けられたブリスターパック(収容具)500にて無菌的に包装することができる。その際、例えば、
図21に示すように、蓋カバー1を天面部50が下向きになるように収容しておけば、使用時にブリスターパック500の剥離フィルム501を剥がすと、蓋カバー1の留め部12側が上方を向いた状態で、蓋カバー1が露出する。これに対して、薬剤容器2のボトル栓22を挿入することにより、蓋カバー1を手で直接触れることなく装着することができる。
【0061】
<9>
本発明の蓋カバーは、必要に応じて内面を撥水加工することもできる。その手段は、採取する薬剤に影響を及ぼしたり、蓋カバーの密閉性を低下させたりしない限り、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。以下では、実施例及び比較例に係る蓋カバーを作製し、3つの試験を行った。
【0063】
1.実施例 実施例に係る蓋カバーとして、上述した
図11に示す蓋カバー1と同じ構成を有し、
図22に示す寸法を有するものを用いた。各寸法の具体的な数値は、以下の通りである。
・中央部の外径A: 9mm
・中央部の厚みB: 5mm
・外周部の幅C: 0.5mm
・外周部の厚みD: 2mm
・リブの幅E: 3.5mm
・リブの高さF: 8.5mm
・リブの厚みG: 5mm
・周壁部の内径H(初期状態): 19mm
・ボトル栓の外径I: 21mm
【0064】
この蓋カバーは、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)を主成分とする熱可塑性エラストマー(ショアーA硬度:35)を用い、射出成形により製造した。そして、この蓋カバーを、
図21に示すように収容具に収容し、開口を剥離フィルムで密封した。
【0065】
2.比較例 外周部を設けない以外は、実施例と同じ形態の比較例を射出成形により製造した。すなわち、比較例は、外周部を設けないため、中央部の側面全体が天面部の外周縁に連結されている。そして、実施例と同様に、
図21に示すように収容具に収容し、開口を剥離フィルムで密封した。
【0066】
3.試験1 図21の状態にある実施例に対し、剥離フィルムを剥がし、薬剤容器の蓋部(外径21mm)を押し込んだ。これにより、実施例に係る蓋カバーに薬剤容器のボトル栓が装着された。このときの閉鎖空間の圧力は、約−1KPaであった。次に、装着した蓋カバーの中央部に、18ゲージの注射針(針先:ショートベベル)を貫通した後、引き抜き、針刺し跡の耐圧力を、次のようにして測定した。即ち、
図23に示すように、蓋カバーの下部を結束バンドで締め付け、空気を入れた注射器の針と圧力計の針を周壁部に刺通した状態で、薬剤容器と蓋カバーを水中に沈めた。そして、閉鎖空間に注射器から空気を送り込んで加圧し、針が刺された跡(針穴)から気泡が出始める際の圧力を圧力計にて測定した。その結果、圧力計の測定上限である100KPaまで加圧しても、気泡は出なかった。
【0067】
一方、比較例についても、同様の試験を行ったところ、21.7KPa(平均;n=3)まで加圧した状態で気泡が外に漏れ始めた。
【0068】
4.試験2 上記実施例に係る蓋カバーに対し、以下の実験を行った。すなわち、まず、赤色水5mlが入った容積10mlの薬剤容器を用意し、そのボトル栓に蓋カバーを装着した。次に、10mlのシリンジに18ゲージ(針先:ショートベベル)の注射針をセットし、エアを3ml入れた。続いて、薬剤容器を正立させた状態でシリンジの針を蓋カバー及びボトル栓にこの順で穿刺した。そして、この状態で薬剤容器を倒立させ、ポンピング作業にてシリンジ内のエア3mlを薬剤容器内へ移すとともに、薬剤容器内の赤色水をシリンジ内へ3ml抜き取った。その後、シリンジのプランジャを1ml分押し込み、圧力差でプランジャが戻ってくるまで約10秒待った。プランジャは摩擦のため完全には戻りきらず、薬剤容器内は、若干陽圧状態であり、かつ、残液がある状態となった。そして、その状態で、薬剤容器を倒立させたまま針を抜き取り、その際の蓋カバー外への液滴落下の有無を目視観察した。また、蓋カバー表面の液の付着の有無を濾紙を当て、その濡れの有無にて判別した。この実験を30回行ったところ、液滴落下の発生はみられず(発生率:0%)、蓋カバー表面への液付着は2例のみ(発生率7%)見られた。
【0069】
一方、比較例に対しても、同様の試験を行った結果、液滴落下が40例中1例(発生率:2.5%)、蓋カバー表面への液付着が40例中26例(発生率65%)見られた。
【0070】
5.試験3 ゴム栓を取り外した容量が10mlの薬剤容器に3mLの赤色水を入れ、上記実施例の蓋カバーを装着した。次に、針穴の無い18ゲージ(針先:ショートベベル)の注射針を蓋カバーに対して刺通し、さらに蓋カバーの周壁部から注射器より閉鎖空間に空気を送り込んで、30KPaまで加圧した。その後、薬剤容器を倒立状態にした上で、注射針を引き抜き、蓋カバーの表面に付着した液をマイクロシリンジで吸引し、測定した(n=3)。なお、注射針を引き抜く際に、蓋カバーの下方にトレイを置いておき、トレイ上に液滴が落下した場合はそれも合わせて吸引、測定した。その結果、実施例の蓋カバーを装着したものは、液の付着量はいずれも1μL以下であった。一方、比較例の蓋カバーを用いて同様の試験を行ったところ、3回中2回が121μLと190μLで、残りの1回は針穴から液が1.5mLほど噴出した。
【0071】
6.まとめ 以上の試験の結果から、本発明の実施例に係る蓋カバーは、針穴の密閉率が高いことが分かった。すなわち、シリンジの針を蓋カバーに刺し込んでいるとき、及び針を引き抜いた後の両方において、針穴の密閉率が高く、比較例に比べ、針穴からの液の漏れがほとんどないことが分かった。