【実施例】
【0012】
実施例に係る錠装置につき、
図1から
図7を参照して説明する。以下、
図4及び
図7の紙面左側を錠装置の正面側とし、
図5の紙面下側を錠装置の正面側として説明する。
【0013】
図1の符号1は、オフィス等に設置される什器(デスクサイドワゴン)である。この什器1は、上下三段の引出し2を備えている。また、これらの引出し2は、利用者が引出し2を開閉するための取手部(図示略)をそれぞれ有する。なお、取手部は、ラッチ機構(図示略)と連係されており、引出し2が不用意に開放されることがラッチ機構によって防止される。また、取手部が利用者に把持されることで、ラッチ機構が解除されて、引出し2が開放可能になるようになっている。また、什器1の底面には、四隅にキャスタ(図示略)が設けられており、利用者が什器1を任意に移動させ、例えば机の下方や横脇等に配置できるようになっている。なお、什器1は、机と一体に形成されていてもよく、机として利用される天板を備えていてもよい。
【0014】
本実施例に係る錠装置は、
図2に示すように、オフィス等の窓から入射される太陽光や屋内の天井照明、机上のデスクライト等の光源を利用して電力を発電する太陽電池3と、施解錠を認証する認証装置4と、認証装置4での認証結果に従って作動する電気回路5と、引出し2を施解錠する施解錠駆動部6と、利用者が施解錠駆動部6を操作するための摘み部7(操作部材)とから構成されており、この錠装置8は什器1の最上段の引出し2に備えられている。
【0015】
まず、太陽電池3は、その受光面が什器1の前方に向けられた状態で、引出し2の前面に配置されている。そして、この太陽電池3は、天井照明等を光源として、後述する認証装置4を作動させるために十分な電力が発電されるだけの受光面の面積を有している。なお、太陽電池3は、認証装置4の作動に要する電力が発電される限り、例えば什器1の側面や天板上に配置されていても構わない。
【0016】
次に、認証装置4は、利用者が暗証番号を入力するためのテンキー9と、認証が許可されたか否かを利用者に報知するLED表示灯10と、テンキー9入力に基づく制御信号に応じて電気回路5の導通状態および非導通状態を切り換えるスイッチ部33と、これらが接続され認証判断等を行う制御部35とを有している。なお、テンキー9およびLED表示灯10は、引出し2の前面板11の前面に配設されている。
【0017】
また、認証装置4は、太陽電池3から供給される電力によって作動する。この認証装置4は、電気回路による電気的な処理のみを行い、物理的な機械等の動作を行わないようにされているため、オフィス等の天井側に設置された室内灯などの微弱な光源を用いて太陽電池3により発電される微量な電力でも充分に作動するようになっている。なお、この認証装置4の電源として、後述する施解錠駆動部6のように、摘みやボタン等の操作部材を利用者が操作することによって発電が行われる機構を利用することにより、天井照明等が点灯できない停電時などであっても認証装置4が作動できるようにしてもよい。
【0018】
そして、認証装置4の制御部35は、テンキー9で利用者により入力された暗証番号が、予め登録されている認証番号と一致するか否かを判断して、暗証番号と認証番号が一致して認証を許可した場合には、後述する施解錠駆動部6の電気回路5におけるスイッチ部33をON状態(通電可能状態)に制御するとともに、LED表示灯10を点灯させる。また、暗証番号と認証番号が一致せず認証を拒否した場合には、スイッチ部33をOFF状態(通電不可能状態)に制御するとともに、LED表示灯10を点滅させる。
【0019】
また、認証装置4の制御部35には、太陽電池3で発電された電力を蓄えるバッテリ(図示略)が設けられている。なお、LED表示灯10の代わりにインジケータなどの表示器を用いて、利用者に認証の可否を報知するようにしてもよい。
【0020】
次に、施解錠駆動部6について詳述する。施解錠駆動部6は、前述した摘み部7によって利用者に操作される。また、施解錠駆動部6は、前述の認証装置4と連動されており、認証装置4により認証が許可された利用者のみが解錠できるようになっている。
【0021】
図3に示すように、施解錠駆動部6は、最上段の引出し2に内蔵されており、引出し2の前面板11の裏側に固定された取付金具63をベースとしている。この取付金具63には、後述する動作部材13を直線状に案内するために、凸状に形成された案内部14が設けられている。この案内部14に沿って動作部材13が左右方向(係合方向および非係合方向)に移動可能となっている。
【0022】
そして、動作部材13は、什器1の左右方向に長辺部が伸ばされた長方形の板状に形成された胴体部15を有しており、この胴体部15には、什器1の側板16に形成された受け座17(被係合部)に係合される矩形状の係合部18が胴体部15の左方向に突出して形成されているとともに、後述する回転体19に接触される台形状の接触部20が胴体部15の右方向に突出して形成されている。
【0023】
また、動作部材13は、後述する操作ギア21の操作ピン22が係合されて、利用者が動作部材13を左右方向に操作するための操作孔23を備えている。この操作孔23は、略90度の円弧状に形成された弧状部24と、この弧状部24の一端から連続して円弧の中心方向に向けて直線状に形成された線状部25とを有している。そして、操作ピン22が操作孔23の線状部25に係合されている状態で、利用者が摘み部7を反時計回りに回転させることで、操作ギア21の回転に伴って動作部材13が左方向に移動される一方で、利用者が摘み部7を時計回りに回転させることで、動作部材13が右方向に移動されるようになっている。
【0024】
また、摘み部7は、
図3に示すように、正面視で略円形状をなし、前方に突出し左右方向に延設され利用者に把持される把持部26が形成されている。また、摘み部7の後面の中心部分には、摘み部7の後方側に棒状に突出された回転軸部27が延設されている。そして、この回転軸部27には、回転軸部27と相対的に固定されて、摘み部7の回転と同時に回転される操作ギア21が設けられている。この操作ギア21は、正面視で円形状をなしており、その円周上の全周に歯部28が形成されている。また、操作ギア21の後面側の周縁近傍には、操作ギア21の後方側に棒状に突出された操作ピン22が設けられている。
【0025】
また、操作ギア21の左方側には油圧式のロータリーダンパ29が設けられている。このロータリーダンパ29は、回転軸に接続されたローター(図示略)がオイル中で回転されることにより、オイルの粘性抵抗で回転軸の回転運動に制動力を作用させる。そして、このロータリーダンパ29の回転軸には、正面視で円形状をなしその全円周上に歯部31が形成されたダンパーギア30が設けられている。ダンパーギア30の歯部31は、操作ギア21の歯部28と噛合されており、操作ギア21の回転に対する抵抗となって、操作ギア21の回転速度を制限するようになっている。
【0026】
また、操作ギア21は、操作ギア21に隣接して設置される被係合ギア32の被係合片34に係合される係合片36を有している。この係合片36は、操作ギア21の中心から操作ギア21の外周側に向けて延設されているとともに、外周側の先端部に近づくにつれて幅が徐々に狭まる板状に形成されている。また、係合片36と操作ギア21とは、回転軸部27を介し互いに固定されている。
【0027】
そして、係合片36は、摘み部7が所定の角度の間を回転されているときに、係合片36の先端部が被係合ギア32の被係合片34に係合されるようになっている。すなわち、操作ギア21の係合片36は、操作ギア21が所定の角度回転されている間は、係合片36が被係合片34に係合されて係合状態となり、この係合状態のままさらに操作ギア21が所定の角度を超えて回転されると、係合片36と被係合片34との係合が解除されるようになっている。
【0028】
また、被係合ギア32は、正面視で円形状をなしており、その円周上の全周に歯部38が形成されている。また、被係合ギア32は被係合片34を有しており、被係合片34は被係合ギア32の中心から被係合ギア32の外周側に向けて延設された略長方形の板状に形成されているとともに、被係合片34の先端部が操作ギア21の係合片36に係合されるようになっている。さらに、被係合片34と被係合ギア32とは、連動軸37を介し互いに固定されている。
【0029】
また、施解錠駆動部6の取付金具63の後部には、回転軸が回転されることで発電がなされる本発明の発電手段としての発電機40が取り付けられている。この発電機40の回転軸41には、全周に歯部42が形成されたピニオンギア44が固定されている。また、このピニオンギア44は、被係合ギア32の動力を伝達する伝達ギア45が噛合されており、伝達ギア45を介して被係合ギア32と機械的に接続されている。そして、発電機40は、ピニオンギア44の回転により駆動されて発電するようになっている。
【0030】
また、ピニオンギア44には、正面視で円形状をなしてその全円周上に歯部46が形成された発電ギア47が噛合されている。そして、この発電ギア47の外縁付近には、発電用のコイルバネ48を係止する係止孔49が設けられている。このコイルバネ48は、伸長バネであり、一端が発電ギア47の係止孔49に係止材50を介して係止されるとともに、他端が固定ピン12を介して引出し2の底部に係止される。
【0031】
図5(b)に示すように、取付金具63の案内部14の右端側近傍には、回転軸51により回転自在となっている略円形状をなす回転体19(規制部材)が設けられている。この回転体19は、その一部が直線状に切り欠かれた切欠部52が形成されている。
図7に示すように、回転体19が回転され、その切欠部52が下方位置にあるときには、動作部材13は、その係止部が什器1の受け座17から脱離される位置まで、その動作経路中を移動できる。一方で、回転体19の切欠部52が上方位置にあるときには、回転体19の一部が動作部材13の移動経路中に配置されて、動作部材13の接触部20が回転体19に接触して動作部材13の移動動作が規制される。
【0032】
また、
図7に示すように、回転体19の内部には、磁性を有する永久磁石が固定に設けられている。この永久磁石53に外部から磁力が加わることで、回転体19が回転されるようになっている。そして、永久磁石53の磁極の向きは、回転体19の切欠部52が下方位置にあるときに、回転体19の下方側がN極で上方側がS極となっている。さらに、回転体19の右方位置には、鉄心の周りに銅線がコイル状に巻かれて形成された電磁石54が固定配置されている。この電磁石54に所定のタイミングで電流が通電されることで、回転体19に磁力が加えられる。
【0033】
上述の認証装置4のスイッチ部33および施解錠駆動部6の発電機40、電磁石54により、
図2に示すような電気回路5が形成される。この電気回路5では、発電機40の2つの電極55、56にそれぞれ電線57、58が繋がれており、発電機40は、2本の電線57、58を介して電磁石54のコイルに接続されている。そして、この2本の電線57、58のうち一方の電線57は、その途中で分岐され、かつ分岐後に再び合流されるように分岐された分岐線59,60を有している。この2つの分岐線59,60には、それぞれの分岐線59,60を流れる電流の方向を一方向に制限する整流器61,62が設けられており、各分岐線59,60を流れる電流は、正方向または逆方向の異なる方向に流れるようになっている。また、分岐線59には、上述のスイッチ部33が設けられており、スイッチ部33がON状態の場合のみ電流が流れる。
【0034】
このように電気回路5を構成することで、利用者が解錠を行う際には、認証装置4で認証を行うことが必要になる一方で、利用者が施錠操作を行う際には、特に認証装置4にて認証を行う必要はない。
【0035】
次に、
図4及び
図5を参照しながら、本実施例の錠装置8において什器1を利用者が解錠操作する際の手順について説明する。
【0036】
先ず、
図4(a)に示すように、動作部材13は、その係合部18が什器1の受け座17に挿入されて係止されている施錠位置に位置されているとともに、操作ギア21の操作ピン22が動作部材13の操作孔23の弧状部24の左端に位置されており、回転体19は、その切欠部52が上方位置にあって動作部材13の移動動作を規制している状態(規制状態)である場合を、初期状態として、利用者により解錠操作がなされる際の手順を説明する。
【0037】
利用者が解錠を行う際には、先ず利用者は認証装置4で認証を行う。そして、利用者が暗証番号をテンキー9で入力して認証が許可された場合には、制御部35により電気回路5のスイッチ部33がON状態(通電可能状態)に制御される。その後、利用者は、摘み部7を時計回りに回転させる。
【0038】
次に、
図4(b)に示すように、利用者によって摘み部7(操作部材)が時計回りに所定の角度回転されると、操作ギア21の係合片36が被係合ギア32の被係合片34の上方側に係合される。その後、摘み部7が更に所定の角度まで回転される間、係合片36が被係合片34を押し下げられて、操作ギア21の回転力が被係合ギア32および伝達ギア45、ピニオンギア44を介して発電ギア47に伝達される。すると、発電ギア47は操作ギア21の回転に伴って時計回りに回転される。そして、発電ギア47の回転に応じて発電用のコイルバネ48が引き伸ばされて、利用者が摘み部7を回転させるエネルギーがコイルバネ48により一時的に機械的エネルギーとして蓄えられる。
【0039】
なお、この間、回転体19の切欠部52は
図5(a)に示すように上方位置にあり、動作部材13の移動動作が規制されている。すなわち、回転体19は規制状態が維持されているとともに、動作部材13は施錠位置に位置されている。
【0040】
また、操作ギア21の歯部28がダンパーギア30の歯部31に噛合されているので、ロータリーダンパ29により、操作ギア21の回転が所定速度以下となるように制動がかけられる。
【0041】
そして、
図4(c)に示すように、摘み部7が時計回りに更に所定の角度回転されると、操作ギア21の係合片36と被係合ギア32の被係合片34との係合状態が解除される。すると、発電ギア47による発電用のコイルバネ48の引き伸ばしが終わり、コイルバネ48に蓄えられていた機械的エネルギーが瞬間的に解放されて、コイルバネ48が復元力により縮み始めて、発電ギア47が反時計回りに回転し、発電機40での発電が始まる。そして、コイルバネ48の復元力により付勢された発電ギア47の回転速度が最も早くなる時点において、
図6(a)に示すようなピークを有する誘導電流が発生する。このコイルバネ48により本発明のエネルギー蓄積手段が構成される。なお、この間、動作部材13は施錠位置にある。
【0042】
そして、発電機40が発電した電力は、分岐線59のスイッチ部33および整流器61を介して回転体19の右方に配置された電磁石54に供給されるとともに、電磁石54は一時的に磁化されて、
図7に示すように電磁石54の上端部がN極、下端部がS極となる磁場64を発生させる。
【0043】
また、回転体19の内部の永久磁石53が磁力の影響を受けて、回転体19が回転され、回転体19の向きが切り換わる。すなわち、
図5(b)に示すように、回転体19の切欠部52が下方位置に移動して、動作部材13の移動動作の規制が解除された状態(規制解除状態)となる。このように、回転体19が電磁石54の磁極により制御され、利用者が摘み部7を手動操作することにより回転体19の向きが制御されることで、回転体19により、本発明の規制部材が構成される。
【0044】
また、本実施例では、施解錠操作において、摘み部7が所定の角度の間を回転操作されることにより、コイルバネ48が一定の長さ伸びるようになっているので、利用者による摘み部7の操作具合(摘み部7に加えられる力や回転速度)によらず、コイルバネ48には一定のエネルギーが蓄えられる。そして、コイルバネ48の復元力のみを利用して発電機40により発電させているので、利用者による摘み部7の操作具合によらず、ほぼ一定のピークを有する誘導電流が生じる。したがって、電磁石54で生じる磁場の強さもほぼ一定となり、回転体19は、利用者による摘み部7の操作具合によらず、毎回一定の速度で回転される。
【0045】
また、本発明における規制状態とは動作部材13が所定の動作経路中を通過できない状態のことであり、規制解除状態とは動作部材13が所定の動作経路中を通過できる状態のことであって、例えば規制解除状態とは、動作経路中に規制部材があっても、動作部材13に接触することで該規制部材が押し出され、動作部材13が動作経路中を通過できる状態であってもよい。
【0046】
次に、
図4(d)に示すように、摘み部7が時計回りに更に所定の角度回転されると、操作ギア21の操作ピン22が、動作部材13の操作孔23の線状部25に沿いながら移動しつつ、動作部材13を右方向に押して移動させる。このとき、動作部材13は、利用者による摘み部7の操作に応じた速度で移動される。
【0047】
また、このとき、操作ギア21の歯部28がダンパーギア30の歯部31に噛合されており、操作ギア21の回転速度が一定程度減速するように制動がかけられるので、係合片36と被係合片34との係合状態が解除された直後において、操作ギア21を回転させる際の抵抗が急激に減少されることはない。このロータリーダンパ29により本発明の制限手段が構成され、利用者が摘み部7を過剰な力や速さで回し続けてしまい、回転体19の切り換わりが完了する前に、動作部材13が回転体19と接触してしまうことが回避される。
【0048】
そして、動作部材13が解錠位置に達すると、動作部材13の係合部18が什器1の受け座17から脱せられると、引出し2が開放可能になる。
【0049】
さらに、
図4(e)に示すように、操作ピン22が操作孔の端部に接触するまで、摘み部7が時計回りに更に所定の角度回転されると、摘み部7の操作に応じた速度で、動作部材13が更に移動されて、本実施例で動作部材13が移動される範囲の最右端に到る。これにより、解錠操作が終了する。なお、この間、動作部材13は解錠位置に位置しており、動作部材13が最右端に到る前であっても、引出し2は開放可能である。
【0050】
なお、利用者により解錠操作が行われる際には、先ず認証装置4で認証が行われるが、利用者によりテンキー9で暗証番号が入力されて認証が拒否された場合には、電気回路5における発電機40と電磁石54との間のスイッチ部33がOFF状態(通電不能状態)となる。この状態で利用者により摘み部7が回転されると、操作ギア21および発電ギア47は回転されるが、OFF状態のスイッチ部33と分岐線60の整流器62により電磁石54に電流が流れることが妨げられて磁力が生じないため、回転体19は回転されず、規制状態が維持される。したがって、動作部材13が右方向へ移動されるとその接触部20が回転体19に接触するので、動作部材13の移動が規制される。すなわち、動作部材13が施錠位置に位置されたままの状態が維持されて、動作部材13の係合部18が、什器1の側板16の受け座17に係止された状態となっており、利用者は引出し2を開放できない。
【0051】
次に、錠装置8により什器1を施錠する際の手順について説明する。利用者が施錠操作を行う際には、認証装置4の操作は不要である。先ず、解錠操作が終了された状態にある摘み部7が、利用者により反時計回りに回転されると、解錠位置にある動作部材13が操作ギア21の操作ピン22によって左方向に押され、動作部材13の係合部18が什器1の受け座17に係止される。すなわち、動作部材13が施錠位置に移る。
【0052】
そして、摘み部7が反時計回りに更に回転されると、操作ギア21の係合片36が被係合ギア32の被係合片の下方側に係合される。そして、係合片36が被係合片34を押し上げて、操作ギア21の回転力が発電ギア47に伝達されるとともに、発電ギア47が回転されてコイルバネ48を引き伸ばし、コイルバネ48により機械的エネルギーが一時的に蓄えられる。なお、このとき、操作ギア21や発電ギア47の回転方向は、上述した解錠操作時とは逆方向になっている。
【0053】
その後、係合片36と被係合片との係合状態が解除され、コイルバネ48に蓄えられた機械的エネルギーが瞬間的に解放されて、コイルバネ48が復元力により縮み、発電ギア47が時計回りに回転されて、電気回路5では、
図6(b)に示すようなピークを有して、上述した解錠時とは逆方向の誘導電流が分岐線60の整流器62を介して流れる。そして、その電流が電磁石54に供給され、電磁石54が一時的に磁化されて、電磁石54の上端部がS極、下端部がN極となる磁場が発生する。この磁場により、回転体19が回転されて、回転体19の向きが切り換わる。すなわち、回転体19の切欠部52が上方位置に移動して、動作部材13の移動動作が規制される状態(規制状態)となることで、施錠位置にある動作部材13の移動が規制されて、引出し2が開放不能になる。
【0054】
以上、本実施例における什器1では、摘み部7(操作部材)の操作に起因して動作部材13と回転体19(規制部材)とが各々所定タイミングで動作をなす場合であっても、ロータリーダンパ29(制限手段)により、解錠操作時において動作部材13が回転体19に規制されることなく解錠位置に達するように動作部材13の移動速度を制限することで、回転体19の所定動作が先に完了された後に、動作部材13の所定動作が遂行されるように、動作部材13の動作のタイミングが調整されるので、利用者よって想定以上の力や速さで摘み部7が操作された場合であっても、確実に解錠を行うことができる。
【0055】
また、電力を利用して、回転体19(規制部材)の規制状態と規制解除状態とを切り換えることで、回転体19が切り換えられるタイミングを、摘み部7の機械的な動きから容易に分離して、回転体19の状態を切り換える制御の自由度を向上できる。なおかつ、回転体19の切り換えに、摘み部7の操作によって発電がなされる発電機40(発電手段)から供給される電力が利用されることで、外部からの電力供給を必要とせずに、利用者による摘み部7の操作のみで、施解錠を行うことができる。
【0056】
また、コイルバネ48(エネルギー蓄積手段)によって、摘み部7の操作によるエネルギーが一時的に蓄えられて、そのエネルギーが瞬間的に放出されることで、利用者による摘み部7の操作具合によらず、回転体19の状態を切り換えるために必要な電力が所定のタイミングで安定的に供給されて、確実に施解錠を行うことができる。
【0057】
また、摘み部7(操作部材)が回転軸を中心に回転操作されるので、ロータリーダンパを摘み部7の回転軸等に係合させることで、容易に、摘み部7の回転を制限し、摘み部7の操作に依って動作する動作部材13の移動速度を制限できる。また、認証装置4は、認証動作とスイッチ部33に供給される電力のON/OFF状態の切り換えのみを行うため、認証装置4を微少な電力で動作させられるようになり、かつ物理的な動作を行う施解錠駆動部6に供給される電力は、認証装置4に供給される電力と別電源とすることができ、施解錠駆動部6は別電源により充分な電力量を確保できるようになる。
【0058】
また、施解錠駆動部6の電磁石54は、手動操作によって発電を行う発電機40から電力の供給を受けることで、手動発電により施解錠駆動部6の動作に必要な電力量を確保することができる。なおかつ、認証装置4は太陽電池3から電力の供給を受けられるようになるので、省電力化を図ることができ、環境保護に配慮した什器1とすることができる。
【0059】
また、認証装置4は、スイッチ部33のON/OFFの制御を行い、回転体19による動作部材13の動作の規制または非規制の少なくとも一方が許容されることで、動作部材13の動作の規制または非規制を選択的に行うことができるとともに、動作部材13の動作は、摘み部7の操作に応じて決定されるため、記憶装置等を別途設けて、動作部材13の動作態様を記憶しておく必要がなく、什器1の省電力化を図ることができる。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0061】
例えば、前記実施例では、操作ギア21の円周状の全周に歯部28が設けられているが、摘み部7により動作部材13が操作されて移動するときのみ操作ギア21の歯部28がロータリーダンパ29のダンパーギア30に係合するように円周上の一部に歯部を設けてもよい。これにより、係合片36と被係合片34との係合状態が解除されるのとほぼ同時に、操作ギア21の歯部28がダンパーギア30の歯部31に係合され、操作ギア21の回転が所定速度以下となるように制動がかけられる。そして、係合片36と被係合片34との係合状態が解除されても、操作ギア21を回転させる際の抵抗が急激に減少されることがなく、利用者が摘み部7を過剰な速さで回し続けてしまい、後述する回転体の切り替わりが完了する前に、動作部材13が回転体19と接触してしまうことが回避される。
【0062】
また、前記実施例では、制限手段としてロータリーダンパ29を用いているが、制限手段は、規制部材が規制解除状態を取ると同時または取った後に、動作部材13が規制部材に達するように、少なくとも動作部材13の移動速度を制限するようになっていればよく、例えば、動作部材13が動作する際に所定の抵抗を与えるように、動作部材13と接触する所定部材の表面にゴム等の高摩擦抵抗体を設けることで構成してもよいし、動作部材13にエアダンパを取り付けることで構成してもよい。
【0063】
また、前記実施例では、制限手段としてロータリーダンパ29を摘み部7の操作ギア21に係合させているが、摘み部7の操作により動作部材13を動作させるためにギア等で構成される駆動機構内であれば、ロータリーダンパ29を他のギア等に係合させてもよい。さらに、オフィス等に設置される什器1の引出し2に対して本発明が適用された施解錠駆動部6が設けられているが、施解錠駆動部6は、什器1の引出し2のみならず、観音扉式の開閉部を有する什器や蓋体により収納部を開閉する什器に本発明が適用された施解錠駆動部6を設けるようにしてもよい。さらに、什器のみならず、家屋の玄関のドアや窓等を施錠する施解錠装置や機械器具などの幅広い用途に適用できる。
【0064】
また、前記実施例では、認証装置4の電源として太陽電池3を用いているが、太陽電池3に替えて小型乾電池等を用いてもよい。この場合、長期間電池等を交換しないで使用できるようになる。
【0065】
また、前記実施例では、電線57の分岐線59にスイッチ部33が設けられ、利用者が解錠操作を行う際に、認証装置4による認証が必要であるが、電線57の分岐線59にスイッチ部33を設けずに、電線58の分岐線60にスイッチ部を設けて、利用者が施錠操作を行う際に、認証装置4による認証が必要となるように構成してもよい。
【0066】
また、前記実施例では、電線57が2本の分岐線59、60により2系統設けられているが、認証装置4にて認証を行う操作の態様に応じて、分岐線を3本や4本やそれ以上設けて、3系統や4系統やそれ以上設けるようにしてもよい。